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ザ・ワールド

1Sa:2004/04/22(木) 14:59
またまた、お邪魔しに来てしまいました

自分でもどう転ぶのか、わかっていない作品なのですが
書きたい気持ちに負けて、スレ立てしてしまいました

よろしければお付き合い下さい

363水のブレス:2005/03/03(木) 15:05:53

子供たちのキャッキャと笑う声の後
…そう言えば、あの女の子が行方不明になる事件
ふいにそう、聞えてきた言葉に、ひとみはギクリと固まった

「子供じゃなくて良かったわね?」
「夏休みに入ってからでしょう?何人…?三人だっけ?
 旅行者ばかりだって言うじゃない?
 …だけど、あの話、ちょっとおかしいわよね?
 だから新聞にも載らなかったじゃない…きっと……」

ひとみは我慢出来なくなって、立ち上がった
気が焦ったせいで、椅子がガタンッと大きな音を立てる

二人の女性と目が合い、ひとみは、すみません、と頭を下げた後
その席に近づいて行った

「…あの、その話、詳しく聞かせて貰ってもいいですか?」

二人の主婦は顔を見合わせた後、曖昧に微笑んだ

364水のブレス:2005/03/03(木) 15:06:28

「…あなたも旅行者?」

そう聞かれて、ひとみは小さく頷いた

「じゃあ、気を付けた方がいいかも知れないわね?
 と、言っても何に気をつけてって言ってあげたらいいのか、私達にも
 よくわからないんだけど」

困ったように、軽く目で合図を交わして、一人の女性は話し出した

彼女の友人宅はペンションなのだと言う
そこに来た泊まり客のグループの一人が夜になっても帰って
来なかった

相手は女子高生で、気まぐれにどこかに遊びに出たのかと
友人達も最初は思ったらしかった
それでも、携帯を持って出ていなく連絡手段がないこと
日付が変わっても戻ってこないこと
などから、事件に巻き込まれた可能性も否定出来ず
ペンション側に相談された

かと言って、開放的な気分になり易い夏休み、それも旅行先でのこと
過去にも、宿泊客が門限を過ぎても戻らないことはあったし
それが事件に繋がることはなかったのだ、だからとりあえず
今晩一晩は様子を見ようと言う話になったそうだ

365水のブレス:2005/03/03(木) 15:07:04

そして次の日の昼間
問題の女子高生は、自分でペンションに戻ってきたのだと言う

どこに行っていたのか、と聞くと、…わからないと答える
何をしていたのか、と聞いても、…憶えていないと答える
話をしてみると、何故だか昨夜の一晩だけの記憶がすっぽりと抜け
落ちているようだった

そんなバカな話が…と、周りは、女子高生が何かを隠す為、嘘を
ついている、と、そう思った

ところが……
また、まったく同じことが起こったのだと言う
行方不明になるのは、旅行者の女の子
それもたった一晩、そしてその夜のことは覚えていない、と

「…おかしな話でしょ?ちょっと気味悪いわよね」

女性は眉を顰めてそう言った
もう一人の女性が大きく頷いて、…そう言えばと口を開いた

366水のブレス:2005/03/03(木) 15:07:32

「…一人の子は、水面に映る自分を見てた気がするって言ってた
 らしいわ。
 確かにここには湖はあるけど、だからって一晩中……」

そこでひとみは、自分の迂闊さに歯軋りした
そうだ、自分たちは何故ここに来たのだ?
そうたぶん、水の意志に導かれたのではないか?
だとしたら……

「ありがとうございましたっ!」

ひとみが叫ぶように言うと、突然の大声で話を遮られた女性は、ギョッと
驚いた顔をして、口を半開きにしてる
ひとみは小さく目礼しながら、その場から走り出した

367Sa:2005/03/03(木) 15:09:41

更新しました

読者@219様
 またまたとんでもなくお待たせしてしまって……
 申し訳ないとしか言い様がありません(汗
 どうしようもない程、マイペースな更新状況ですが
 多分あと一回か二回で、この章もどうにか終われそうです
 ですので、次回は早目に!と思っております

368スライム:2005/03/04(金) 00:19:02
初めまして!! そして、更新お疲れ様です。

前作やseekの作品などSaさんの作品はたくさん読ませていただいておりますが、
話がおもしろい上に文章がとてもキレイでいつも引き込まれています。
(作家としてもかなり尊敬しています!!)

続きも期待していますが、あまり無理せずマイペースに頑張ってくださいね(^▽^ )

369JUNIOR:2005/03/04(金) 00:26:36
更新お疲れまです。
しばらく行けなかった間にたくさん更新されてる(;´Д⊂)
やっぱりSaさんの作品は読みやすくて好きです。
まったりとマイペースで、Saさんらしく頑張ってくださいね。

370水のブレス:2005/03/04(金) 17:54:29

窓から、夕陽がまん丸に見えた
完璧な円球、優しくて懐古的な形

昼間、あんなに熱く燃えてたのに、沈もうとする今は、穏やかささえ
漂わせて、眩しすぎることはなく、見続けていると、美しすぎて
哀しくなる、と梨華は思った

371水のブレス:2005/03/04(金) 17:54:56

目の前にいる真希も哀しい人
自分との、かつて過ごしたとっておきのひと夏の思い出を
目を輝かして、語ってる
…あんなことをしたね?…こんなこともあったね?

真希が、美しい連作の詩集を諳んじるように語る数々の場面は
確かに梨華の記憶の中に、曖昧に残っている…けれど

夢の中でアナザのリカに会ってから、梨華は知らずに回された
目隠しが外れたように、目の前の真実の風景と、刷り込まれた
偽の光景がはっきりと見極められた

372水のブレス:2005/03/04(金) 17:55:54

梨華が目覚めてから、真希は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた
どこか夢見るような顔つきで、焼き立てのマフィンにたっぷりの
バターと蜂蜜を塗ったものや、目の前で、器用に一房づつ薄皮まで
とって、口許に運んでくれるグレープフルーツ

そして目の前にあるのは、真希の甘酸っぱいように微笑む眼差し

真希がかつてその傍にいた、大切な誰かの代わりを自分にさせようと
していることは、間違いない
だけど、その人はどうしたのだろう?
そして真希はなぜそこまで、哀しみの鎖で自らを思い出の檻に
沈めようとするのだろう?

それともう一つ、気になるのは……
ひとみのことを頭に浮かべようとすると、感情の波がとたんに
大きく揺れた
…いけない、心が揺れるとそれを見計らうように、大きな波が
遠くから押し寄せて、全てを浚っていこうとする
忘れてしまえばいいのだ…と
何も気にすることはない、なにもかもを忘れて楽になれ、と
…違うの、わたしは忘れたくなんかない

373水のブレス:2005/03/04(金) 17:56:23

梨華はギュッと瞼を閉じて、気持ちを落ち着かせてから
静かに、開いていく

ひとみちゃんはいま、ここにはいない
それだけが本当のこと

不安な気持ちを誘ってくるのは、影だけしかない憶測みたいなもの
大丈夫、きっとすぐに会える…また、会える

…一人きりでどこまで出来るかわからない


だけど、大きな哀しみも忘れることだけが癒しの術じゃないはず…
自分は試されているのだろうか?
梨華はコクリと小さく、喉を鳴らした

374水のブレス:2005/03/04(金) 17:56:53

細く弓状の月が青白く浮かび上がった
澄んだ夜気に信じられない程の星が瞬いている

夕食の途中から、心ここにあらずという顔つきだった真希が
思いつめた声を出す

「…これ、食べ終わったら、散歩に行こうよ?」
「……いいよ?」

梨華は承諾したのに、真希はなぜか哀しげな眼差しになる
まるで断って欲しかったとでも言うように

……外、暗いから
真希がおずおずと差し出してきた手を、梨華が握ると、その指先が
怯えるように小刻みに震えだしたのを感じて、梨華は繋がれた手に
そっと力を入れた

「…梨華ちゃん、ごとーは……ほんとは…」

何故だか泣き出しそうな声に、梨華は隣りを歩く真希を見た

「………なんでもない。
 …湖を見せたいんだ……梨華ちゃんに
 梨華ちゃんは綺麗だから、湖も喜ぶよ?…梨華ちゃんみたいな
 子がきてくれたら…」

それから真希は黙りこくって、ゆっくりと歩き出した

375水のブレス:2005/03/04(金) 17:59:41

湖が見えてくると、真希は何かに急かされるように足早になって
梨華を湖面の際まで連れて行く

「…ねぇ?梨華ちゃん、覗いてみて
 この湖はね?鏡の水面って呼ばれてるくらい、水が澄んでるんだ
 こんなに星が明るい夜は、きっと綺麗に映るから…」

言われた通りに梨華は湖面に映る人影を見た
けれど、いくらいくつもの星明かりが瞬いていたとしても
ここまでの漆黒の闇を払うほどには、その光は届かない

「…ね、見えるでしょ?
 いつもと違う梨華ちゃんの顔が……だけど、梨華ちゃん?
 怖がることなんてないんだよ?
 …だってそこに映ってるのが、梨華ちゃんの本当の姿なんだから
 早く、元に戻りたいよね?…ごとーが今、戻してあげるから」

…え?
そう思った時には、真希の片手は梨華の肩を掴み、もう片方の手で
腕を引っ張ると、もの凄い力で湖の中へと入って行こうとする

376水のブレス:2005/03/04(金) 18:00:09

「……やっ…やだ!…ま、真希ちゃんっ離して!」
「…大丈夫、怖くないよ?…ごとーも一緒だから」
「や、止めて……」
「…駄目だよ?梨華ちゃん、ほら…いちーちゃんが待ってる…」

真希の目は澄んでいた、哀しいくらい澄んでいた
だけどそこには、梨華は映っていない
何も映すものがない、凍えた水面のように、ただ冷たく澄んでいた

ズルズルと腕を引っ張られて、梨華はよろめくように前へと足を
進ませた、その時

背後から、低く怒気を含んだ声がした

「……人殺し」

377Sa:2005/03/04(金) 18:01:15

更新しました

スライム様
 おぉ!お読み頂けてるとは驚き、そして喜び!ありがとうです
 けれど尊敬などどはとんでもないっ(汗
 作者もスライム様のスレを拝見させて頂いてますが、テンポのよい会話の進め方
 お上手だと思います、何より、行間から書くことを楽しんでいらっしゃるのが
 伝わってきて、読ませて貰うことを楽しく感じます
 お互い頑張りましょーね〜♪

JUNIOR様
 お忙しかったのですか?
 それでもこうしてまた覗きにきて下さって嬉しいです
 この章はあと僅かなので、頭に浮かぶ映像を早く文章化しないと
 消えちゃったら、困るんでw
 まったりしすぎて、真冬に真夏の描写を書く羽目に、何やらツケを
 払っているような…(汗

378JUNIOR:2005/03/04(金) 21:43:15
2日連続の更新お疲れ様です。
よっすぃ〜早く梨華ちゃんをたすけて〜。間に合って〜!

テスト週間とかで覗けませんでした(^^;)
Saさんの作品大好きなのにヽ(`Д´)丿ウガーーーーー
Saさん焦らずに頑張ってください!

379スライム:2005/03/05(土) 00:07:41
更新お疲れ様です。

うわ〜なんて気になる展開!!
読みながら思わず「よっちゃ〜ん早く〜」とドキドキしてしまいました。

それから私の小説もお読みいただいているようで…そっちもドキドキですw
私もSaさんのように素敵なお話を書けるよう精進しますね(^▽^ )♪

380水のブレス:2005/03/07(月) 18:25:29


────── 人殺しっ!


アァッ…ダレカガサケンデル……
ダレニムカッテ…?……エ、ゴトー?ゴトーナノ?
アンタハダァレェ……

真希は振り返り、目を細めた
自分を睨んでるのは、荒ぶる激情を押さえ込んだ二つの眼
ビリビリと見えない敵意を、発するように暗闇から浮き出て見える
人影が立っていた

真希は自然と肩に力が入って、自分の手が誰かと繋がれてることに
改めて気づいて、その先を見た
そして、眉を寄せる

コノコ…ダレダッケ?
……アァ、イチーチャンノタメニツレテキタコ

アレ?ダケドソノコハミズニシズメヨウトシテ……


 ────── 人殺しぃーーーっ! ……

381水のブレス:2005/03/07(月) 18:26:00

尾を引くように、水中から上がってくる気泡
ボコボコと上がり続ける、脆い水球

自分をこのまま見殺しにするつもりか?
お前を許さない、絶対忘れない、そう訴えてくる広がっていく暗い穴
のような黒目

あの時……
その目に晒されることに堪らず、引き上げた
水中に押さえ込んでいた、腕を緩めて

…ごとーはちゃんと助けてあげたよ?
間に合ったよね?いちーちゃん?
ごとーは人殺しなんかじゃないよね?…ね?そうでしょう?

………違う、
そうじゃない、ごとーは間に合わなかったんだ

助けられたのは、名前も憶えていない女の子
だからごとーは、冷たく濡れた身体を引き寄せて、耳元で囁いたんだ

……ごめん、人違いをしたみたい
だから忘れて?…このことは、全部忘れて?

382水のブレス:2005/03/07(月) 18:26:27

ふいに、真希の頬の上を滑るように、滴りが落ちた
真夏だというのに、湖面からさわさわと吹く風に冷えた頬が
熱く濡れゆくように感じて、真希は掌で頬を擦った

「……真希ちゃん?…どうしたの?大丈夫?」

心に染み入ってくる声がした、その声の温もりは、真希の鼓膜を震わせて
益々、熱い雫を溢れ出させるから、瞬きを繰り返しても、その声を出す
人の顔が滲んでしまって、真希にはよく見えない

誰?…ごとーのこと心配してくれるの?
……いちーちゃん?

…違う、
いちーちゃんは真希ちゃんなんて、ごとーのこと呼ばない
それに…いちーちゃんは水の中だ
一年中、冷たく澄んだ湖の底

…ごとーの、ごとーのせいで……だけど、もう…
……もう、嫌だよ…ほんとは、ごとーが…

一瞬、日が差したように辺りが明るくなった
ハッとして真希が首を廻らすと、さっき見えた人影が白光する長剣を
両手に携えいる、それは真希と同年代の少女で、固く唇を引き結んで
少しずつ、こっちに向かってくる所だった

383水のブレス:2005/03/07(月) 18:26:55

「…こないでよっ!」

真希が大声で叫ぶと、その腕の上でいちーちゃんのブレスが
共鳴するように、小さく震えた
すると、こっちに向かってきていた少女が、急に重しをつけられて
身体のバランスを欠いたように、足取りがおぼつかなくなった

「……り、梨華ちゃん…」

少女が切なく、喉を振り絞るような声を上げると、真希の片腕が
強い力で、大きく振り払われた

「…ひとみちゃんっ!」

高く響く悲鳴のような声を聞きながら、真希は自分の振り上げられた
片腕から、ブレスがするりと抜けるのを見た
真希は、まるでスローモーション画面を見ているようだ、と感じたけれど
それはほんのつかの間のことで、緊張で強張った身体は咄嗟に動かなかった

ポチャン…ブレスが水面に落ちて……波紋が広がっていく
すると、どうしたことだろう?湖が…白く光りだした

真希は、膝下まで浸かった湖面が眩しいくらい輝きを増していくのを
呆然と見下ろしていた
水面の波紋は幾重にも、幾重にも広がりつづけ、次には寄せて波立ち
最後に、真希の目の前で高波のように、大きく持ち上がると、一人の
少女の姿を象った
真希は驚きで大きく両目を見開いて、息を呑んだ

384水のブレス:2005/03/07(月) 18:27:38

・・・よぉ、ごとー


頭の中に直接響いてくる、だけど懐かしく感じる響きに、一度は
止まったはずの熱い雫が、温度を上げて真希の頬を伝っていく

…いちーちゃん、真希も名前を呼び返したけれど、それは音には
ならず、ヒューと息の洩れる音になった
それでも、いちーがニヤリと笑ったような気配がした


・・・ずっといちーのこと、忘れないでいてくれようとしたんだな?


真希が頷くと、・・・ありがとな、そう、記憶の中より、ずっと大人びてて
穏やかに響くいちーの声が伝わってきた、胸の、奥底にまで


・・・だけどお前、一番肝心なこと、忘れてる


え?…真希は、痺れて感じる程、重さを増した瞼をゆっくり動かした


・・・いちーはな、あの日、あのごとーと最後に会った日
・・・あいつを、あのブレスをお前にやるって言ったんだ

385水のブレス:2005/03/07(月) 18:28:10

…嘘、真希は眉を寄せて、記憶を手繰るように思考を廻らす
嘘だっ!だって、あのブレスはいちーちゃんの宝物だって…だから…
その先を先回りするように、いちーは続ける


・・・だから、だよ…ごとー?お前はもう知っているんだろう?
・・・いちーには親がいないってこと
・・・あのブレスは、家族三人で最後に出かけた夜に買ったものなんだ
・・・だからいちーは、あれをずっと身につけてなきゃいけない気がしてた
・・・ブレスを外したら、いつか思い出の全部を失くしそうで怖かったんだよ
・・・優しかった父さん、温かかった母さんが、いちーにも確かにいたってことを
・・・だけど、どんなにずっと忘れないでいたって、二人はもう戻ってはこないんだ

386水のブレス:2005/03/07(月) 18:29:01

・・・父さんの大きな掌に触れることも、母さんの笑顔をみることも出来やしない
・・・もうそれは無理なことなんだって、いちーはわかったんだ
・・・それに気づけたのは、ごとー、お前のおかげだよ
・・・ごとーがあの夏、いちーに笑いかけて、毎日、隣りにいてくれた
・・・そこに確かにいて、微笑み合うってことは、一方通行じゃなくって
・・・向き合う二人の間で温もりが通うもんなんだって、思い出したんだよ
・・・だからもう、ここにいない家族の思い出に縛られることは止めて
・・・それより、今そばにいるごとーとの思い出を作って行こうって
・・・無くした過去じゃなく、目の前の今を生きようって、そう思った
・・・だからあの日、ブレスはもういらない、いちーはそう決めたんだ


真希はぶるぶると大きく震える唇を大きく開いた
身体の奥から、どうしようもないほど強く競りあがってくる思いを乗せて
腰を折るようにして、闇雲に叫んだ

「じ、じゃっ…なんで、なんでいちーちゃんはいないのっ?!
 そう思ってくれたならっ…なんで今、ごとーの傍にいないのっ?!」

真希の声の残響に、水面が哀しげに小さく波打った


・・・皮肉だよな?
・・・なんであの雨の中を出かけたかなんて、正直自分でもわからないんだ
・・・ただ、父さんと母さんの乗った車が事故にあったのが、ちょうどあんな雨の日で
・・・だから、決別したかったのかもな?…あの、雨の日に孤独になった自分自身と…

哀しげに震えるような漣が、真希を労わるように、穏やかに波打った

387水のブレス:2005/03/07(月) 18:29:34

・・・なぁ?ごとー… いちーは気づくのがほんの少し遅かったんだ
・・・人の記憶は曖昧で、そんなもんに縛られるのはバカバカしいのさ
・・・お前は、思い出の中に生きてるんじゃない、そうだろう?
・・・だからいちーのことは、もう…忘れていいんだよ
・・・いちーはもう、お前の隣りにいてやれないから
・・・ごとーが哀しい顔してても、慰めてやれないから…だけどいちーは…
・・・お前の笑顔に救われたから、やっぱりごとーには笑ってて欲しいんだ
・・・そして、ちゃんとその目を開いて、いまを生きて欲しい


………うっう、うぅ…
真希は震えが止まらない唇を両手で押さえた

ほんとは……ほんとはずっと、ごとーが誰かに言って欲しかった
…もう、忘れてもいいんだ、と
けして、あの夏のいちーの全てを忘れたい訳ではない、だけど、失ったものが
大き過ぎると、たった一人で抱えつづけることは、時には重た過ぎるから
だけど、真希はこう答えた、その気持ちもけして嘘ではないから

「…忘れないよ……ごとーは、ごとーはいちーちゃんのこと…絶対に
 忘れたりなんかしないっ!」

水面が小さく、小さく揺れた
くすぐったそうに、かすかに微笑むように

388水のブレス:2005/03/07(月) 18:31:09


───

─── ───

─── ─── ───

389水のブレス:2005/03/07(月) 18:36:51

 ────── …… 自由にしてよ?
   ごとーを … いちーを ………


ひとみは、穏やかな笑いを含んだ声が、確かに聞えた気がした
だから大きく頷くと、一つ息をして呼吸を整えると剣を振り翳し湖に向かって
駆け出した、そして水面にそのまま、勢いをつけて振り下ろした

パァァァンッ……

まるで繊細なガラス細工が弾けるような音が辺りに響いた
湖全体が、真昼の太陽のように白く強い輝きを放つと、水が象る少女の姿が
支えをなくしたように、ユラユラと揺れた

「…い、いちーちゃぁぁぁんっ!?」

ひとみはその切ない叫びを抱え込むように、剣を押し刺し、その眩しさから
目を離さずに、梨華の名を叫んだ

「梨華ちゃんっ!」

そして、梨華を振り向き、月のリングを投げた
自分をどこか切なげに見つめ返してくる梨華に、しっかり頷き返した

390水のブレス:2005/03/07(月) 18:37:23

梨華は指輪を両手で、包み込むように指を組むと、そっと瞼を閉じ
ぎこちなく唇を動かしだした

梨華が何を口ずさんでいるのかは、ひとみには聞きとれない
けれど、何かに祈りを捧げるようなその響きは、切なく、美しいと思った
組んでいる指先から、温かな色の光が溢れ出すと、梨華はゆっくりと目を
開けた、そして天を仰ぐと、掌に包まれた光を捧げるように指を開いた

無数の光の粒が静かに空へと舞い上がると、それは蛍のように、夜の闇の
中で、瞬いた
その瞬きに誘われるように、湖面がさわさわと揺れ、水飛沫がやさしい春の
雨が大地を濡らすように、宙へと降り注がれる

天と地が逆転したような、真夜中の湖は、なのに穏やかな光に溢れ、どこか
幻想的でありながら、新たな夜明けを示すような明るさに満ちていた

自分や梨華の存在はおろか、溢れる涙にさえ、気づいていないように、一心に
空を見上げたままの少女を、ひとみは気遣うように、盗み見た

391水のブレス:2005/03/07(月) 18:37:49

その時、天空に一つ、星が現れた
まだほの白い明さが残ってる中、一際眩しいほどに輝いてから、流れゆく瞬き

その刹那、ひとみにも、その声が聞えた気がする…


────── さよなら 


こんな風に、優しく別れを告げる声は聞いたことがない
ひとみはそう思った


バシャンッ…


何かが、水に倒れ込む音がして、その後、梨華が半泣きになりながら
自分の名を呼ぶ声がした

392水のブレス:2005/03/07(月) 18:39:24

 −− −− −− −− −−

393水のブレス:2005/03/07(月) 18:39:53

夏休みの真っ只中だと言うのに、都会へ向かう電車は意外なことに、そこそこ
混んでいた
ひと夏の旅人は、僅かな非日常を謳歌すると、また日常へと還るのだ

ひとみはキョロキョロと、座席を見渡しつつ、向かい合わせの四人掛けの
席に、一人座り、窓辺を見てる少女に声をかけた

「…すんません、ココ、いいっすか?」

少女は、ひとみの声に振り返ると、人懐こそうな笑みを浮かべる

「あはっ…いいよぉ〜 ご、あたし、一人だし」
「…助かったぁ〜」

ひとみが微笑み返した時、電車がガタンと揺れて動き出した
片手に持っていたピンクのキャリーバックをひとみが乱暴に置くと、中から
まるで抗議するように、細く高い声が、ニァャンと一声鳴いた

少女は目を見開くと、ひとみの顔を見た

「…ね?もしかして、ネコいるの?」
「……ん、そう…ひょっとして、駄目な人?」

394水のブレス:2005/03/07(月) 18:40:20

ううんっ!…少女は勢いよく首を横に振って、キャリーのドアの隙間から
中を覗き込むと目を細めた

「…うわっ、このコすっごい美形じゃない?…かっわいぃ〜〜〜!」

ひとみはキャリーの横に、少女を向かい合うように座りながら、照れたような
笑みを広げる

「…格好つけて、一人旅っての?しようかと思ったんだけどさ〜
 なーんか、それもなぁ一人は寂しいか〜って、コイツ道連れ
 …そっちは?一人なの?」

少女はキャリーから、目線を上げると、少し哀しげにまた目を伏せた

「……友達…友達にね、会いに来たんだけど…」
「ふぅ〜ん…で、会えたの?」

少女は首を横に振った後、フッと小さな笑みを漏らした

395水のブレス:2005/03/07(月) 18:40:48

「いなかった……会えなかったんだよね、だけど……
 その友達とはあたし、楽しかった思い出が、いっぱいあるから…」
 
…それだけを憶えていればいいのかなって、そう呟くような声になった後
少女はハッとしたように、ひとみを見た

「あの…ごめん、訳わかんないこと言って」

ひとみは静かに首を横に振ると、目を微笑ませた

「もし良かったら、だけど、終点まであたしと話しながら行かない?
 …こっちも一人だし、なんつーの?あたしも…ちょっと誰かとヒサブリに
 話したいって気分なんだ」

少女は、ひとみを目を合わせると、ゆっくりと顔中に笑みを広げていく

「…あはっいいねぇ〜?…旅は道連れってゆ〜の?
 んじゃ自己紹介しちゃおうかな〜 あたしの名前は……」

小首を傾げた少女の髪が、窓から差し込む光を受けてキラキラ光った
ちょうど電車が通過していく、外の景色の中で、明るい日差しを反射して
美しい湖もキラリと、輝いていた

396Sa:2005/03/07(月) 18:41:27

更新しました
やぁーっと水のブレスの章が終わりました
この一章にどんだけかかったんだ…作者(汗


JUNIOR様
おぉ!連チャンでおこし頂けて嬉しいっす♪
テスト…汗、その響きに現実逃避してたあの頃は遠い昔…
ずっと好きといい続けて下さって、喜びの極みw
次の更新はかなりお待たせしそうです、申し訳ありません(ペコリ)


スライム様
こちらも連チャンでレス下さって嬉しいでっす♪
ヤ〜〜〜作者も自分の書く物をこんなんで読んでくれる人がいるのかと
いつもドッキドッキしとります!スライム様の今のお話みたいに登場人物に
苦悩(?)はあれどアップテンポの楽しいお話はやっぱりいいな、とw

397スライム:2005/03/08(火) 02:29:57
更新&「水のブレスの章」の完結お疲れ様です!

最後はもう「いち〜ちゃ〜ん」と涙々で読ませていただきました・゚・(ノД`)・゚・。
これだけのお話をこんなにも素晴らしいラストで締められるってすごいです!
前章もそうですが今回も圧巻でした!
次の章も期待しつつまったりお待ちしておりますので、無理はしないでくださいね。

P.S
 私は背景描写が苦手な分を会話で補って(ごまかして?)いるだけなんでw
 褒められるとドキドキしてしまいます(^▽^;)

398JUNIOR:2005/03/11(金) 19:21:34
ぎゃ〜更新されてるっ!あ、取り乱してスイマセン(汗)
気を取り直して、更新&「水のブレス」完結お疲れさまです
もう、感動です。ごっちん、良かったね。といろんな意味で言いたいです。

はい、どんなに遅くても待ちますよ!でも、今ほど頻度にこれなくなると思います。
ウチのコメントがなくても、『もう、好きじゃないのかな。』なんて思わないで下さいよ!


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