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ザ・ワールド
1
:
Sa
:2004/04/22(木) 14:59
またまた、お邪魔しに来てしまいました
自分でもどう転ぶのか、わかっていない作品なのですが
書きたい気持ちに負けて、スレ立てしてしまいました
よろしければお付き合い下さい
262
:
風のピアス
:2004/07/16(金) 22:33
亜衣は傍らを、ゆっくりと歩くのの、の歩調に合わせて、その先を見た
そこには、自分達より、わずかに年が上であろう女の子の二人連れが
立っている
二人からはピリピリとした緊張感が、離れて立つ、亜衣のところにまで
共用する、この場の空気を伝って流れてきた
だれやろ?
ののとなんかあったんやろか?
二人は目立つ容姿をしているから、会ったことがあれば覚えているはずだ
亜衣は自分の記憶を辿った
うちは、知らん人達や
亜衣がそう確信した時
二人に近づく、のの、の中から風のうねりが上げる産声が亜衣には聞えた
大きい・・・
亜衣は叫んだ・・・心の中で
亜衣の言葉を聞く、心の耳を持たないであろう二人に、それでも
声の限り叫んでいた
逃げて、と
263
:
Sa
:2004/07/16(金) 22:38
更新しました
54@約束様
情景が浮かぶと言って頂けるのは嬉しゅうございます♪
ヒトミ、というか、アナザの人々には性別って意識は無いので硬いとゆーか
人間味カケるイメージなんです、それでもヒトミは・・・(ry
JUNIOR様
今は書き溜め出来てないんで、書いてて、おりゃ?コレはモソッと…みたいなノリになり
つい二回更新とかに・・・(ニガワラ
意志は一つにして、無限ってトコですかね、作者ん中では(w
なにやら途中で、題名が名前に変わっておりました(汗
お見苦しくて、すみませんっ
ところで今回、一回の更新で登場人物の視点が変わってますが、読み辛くなかろーかと
気になってみたり…
この後、視点がコロコロ変わる書き方になってしまいそーなんですが、ヨイでしょーか???
ひとみは・・・から始まったら、よしざーサンなのね?等々
生あたたか〜く見守って頂けたら幸い、と…(発汗中
264
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:00
逃げてっ
声にならない風の叫びを、ひとみは聞いた気がした
一歩一歩と自分に近づいてくる、ののという少女
僅か一週間で、その眼を占める影が驚く程、濃くなってることに
ひとみは、少なからず衝撃を受けた
のの、の傍らにいた少女
この間も一緒にいた子だ・・・ひとみは確信する
あれが、片割だ・・・分かれてしまった風の意志を秘めた存在
ビリビリと張り巡らされた、大声で破りたくなるような緊張の輪
そんな中で、背後にある梨華の少し荒い呼吸音だけが、ひとみに
冷静さを保たせる
ひとみちゃんの言葉で・・・
梨華から聞いた、自分の成すべきこと
意志の強さ、心の真ん中に宿る強い想い、ひとみは軽く目を閉じて
一心に集中した
見えない風が今、目の前の少女の魂を食い荒らし、無数の刃に変わろうと
しているのがわかる
265
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:01
あたしは願おう
大切な者を守るだけの強さを、何があっても負けない力を・・・
この手に・・・下さい、と
266
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:02
ひとみは左手の指輪を、唇に持っていくと、想いを込めてくちづけた
そのまま指輪を、右手で抜き取る
指輪が強く白光しだす
眩い閃光を放出させて、その姿を・・・今、変えようとしている
主の意志に添う為に・・・主の願いを叶え、その大切な者を守る為に、と
そして
ひとみの右手には、煌々と白い光を放つ剣が握られていた
267
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:03
ズドォォオンッッ
漂う空気を、大地を、立ち並ぶ木々達を、そして、遠い空までを、揺るがす
激しい振動
ひとみはとっさに、両手で支えるように剣をかざした
そのまま、荒れ狂う風に押されて、ひとみの身体がズズズッと、後ろへ
押されていく
ビリビリと、その余波で刀身が受けた力の大きさを、ひとみに伝えた
猛る風は、その力の手を緩めない
強烈にかかる圧力に、ひとみの両腕が悲鳴を上げる
梨華が背後から、吹き荒ぶ風に抗うように細い腕を伸ばし、ひとみの
肘を支える
ひとみちゃんひとみちゃんひとみちゃん・・・
梨華に、自分の名を呼び続けられてる気がして、ひとみは気力を
振り絞ると、剣を前へと押し出した
268
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:03
なんやの?
亜衣は一人、凪いだ空間の中にいた
目の前で起こってることは、いったいなんなのだ?
のの、の中から、次々生まれ出ては、二人連れの女の子達に向かって行く風
容赦なく、執拗に、送られ続ける悪意にみちた風流
亜衣の、喉の奥がキリキリと絞られて、目に映る信じられない光景が
次第に霞んでいく
・・・止めてーーーーーっ!!!
亜衣は身体中で叫んでいた
悲しい悲しい悲しい、のの、の、そんな姿
亜衣の瞳の上に、透明な膜が幾重にも張っては流れていく
・・・止めて止めて止めて・・・お願い、お願いや、のの・・・
・・・そんなことせんといて・・・
・・・うち・・・うちの、声が聞えるなら
・・・止めてぇや
・・・止めてーーーーーっ!!!
269
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:04
ふいに、風が唸り声を潜め、哀しげに鳴いた
「・・・なんで・・・止めんだよー
あいぼんの為だよ?・・・あいぼんの為じゃん?
・・・なんでぇわかってくんないのぉ?」
のの、が、その身体の回りに風を侍らせながら、ポツリ、ポツリと言う
帰る場所を見失ってしまった、どこか幼子のような、のの、の姿
それは亜衣に、また新たな悲しみを抱かせる
・・・違う、違うんや
・・・のの、間違うとるで?
・・・うちな?・・・そんなん望んでないんよ
「・・・なんでだよっっっ
いーじゃんっ!・・・邪魔なヤツらは全部やっつけるんだ
ののには、力がある・・・それは・・・それは・・・いつも、いっつも
イヤな目にあっても何も言えないから、言葉を返せないからって
我慢ばっかしてた、あいぼんを守る為に、誰かが、ののにくれたんだっ!
・・・だからっ・・・だから、ののはやっつける
みんな、みんなっ!あいぼんの声が聞えないヤツらはっ!」
のの、の周りを囲む風が、その激情に煽られて、天へと吹き上がる
のの、の髪を、制服の袖を、スカートの裾を巻き上げながら
亜衣は、違う、と、もう一度強く思いながら、ゆっくりと瞬きをした
270
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:05
・・・うち・・・うち、な?
・・・ののから、どう見えてたんか知らへんけど
・・・幸せもんやと思うてた、自分のこと
・・・のの、なんでか、わかる?
「・・・幸せ?
・・・わかんないよぉ?
わかんねーーーよっ・・・なんでなんだよー?
誰も・・・誰も、あいぼんの声を聞こうとしてないのにっ・・・」
・・・あのな?
・・・うちが幸せやったんは、ののがいたからや
・・・そりゃ、うちは話せへんから、たいがいの人はうちの言葉なんて
・・・わざわざ聞こう、思わないやろな
・・・そやけど、ののは違ごた
・・・いつでも、言葉の表側だけじゃなくて、その裏側にある、うちの気持ちを
・・・心の声を、ちゃんと聞こう、聞き取ろうって、してくれてたんがわかるから
・・・うち、思うんよ
・・・世の中の大多数の人達は毎日、言葉を口にしとる
・・・会話してる、思うてはるのや
・・・そやけど、うちには、それが耳の上を素通りしてるだけに見えるんよ
・・・相手の言葉を、何を伝えようとしてるんか聞こう、て、そう思う心がなければ
・・・どんなに言葉をやりとりしたって、そこにはなんもないんや
・・・そんなん、ほんまに言葉を交わしてるって言えるんやろか?
271
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:05
今や、シン、と静まった境内の中、一筋の風が吹く
穏やかな風が、そっと、そっと、のの、の頬を撫でて行く
擦り切れた心を労わり、全てを、その内に包み込む風が・・・
亜衣の本当の言葉、心の声を、のの、の心の耳まで届ける為だけに・・・
・・・うちな、今のが辛いんや
・・・うちの声が聞えるようになったら、ののが変わってしまったから
・・・いくら話が出来てもそれは違うんや
・・・そこに、あったはずの、のの、の・・・のの、の心が無うなってしまった
・・・それが辛いんや・・・そやから、うち
・・・戻って欲しいんよ・・・うちがよう知ってる、ののに
・・・ののを違ごう人にしてしまう力なら・・・そんな、力、いらないねん
・・・うち、ほんまに、いらないねんよ
272
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:06
亜衣の耳元でピシッと何かにひびが入る音がした
ポトリと足元に何かが落ちて、それがののと二人で分け合ったピアスだと
気がついた
亜衣は、ただ、ののを真っ直ぐに見つめていた
ののは魂を抜かれ、捨てられた人形のように、立ち尽くしている
大きく目を見開いて亜衣を見ていた目が、微笑むように揺れた刹那
のの、の耳朶からもピアスが滑り落ち、そして、その場に崩れるように
ののは倒れた
273
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:06
梨華の耳にも亜衣の言葉は届いていた
それは梨華の心に直接響いて、どこまでも温かな色の音を残す
ようように姿を変える、捉えどころのない風
吹く場所で、色も音も変わる風
けれど、互いを想いあう二人な間を流れる風の音は、心に染み入る音をしている
今、自分の中に流れ込む旋律、これがきっと・・・風の音
ジンとした想いが梨華の中で大きく膨らんでいく
梨華は、胸の前でそっと指を組んだ
そしてその、心を満たす慈愛の音は、自然に梨華の唇を開かせた
274
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:07
お願い、お願いします
風の意志よ
二つに分かれることは、もう止めて・・・
在るべき姿に戻って下さい
そして・・・あなたの還る場所に・・・どうか
どうか・・・戻って下さい
275
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:07
その時
梨華の指に嵌められた指輪から、楕円の温かい色を灯した光が
溢れ出て、広がっていった
上空に立ち上るその光に向かって、辺りを漂っていた風の流れが
次々と注ぎ込んでくる
木々の緑を揺らし、空の青を駆け抜け、流れる雲の白を映して
全ての景色を、その内に透かしながら流れ込む、それはうっすらと
七色に輝きながら・・・
276
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:08
七色の風の息吹を吸い込んだ指輪は、最後に一際眩い光をキラリと放つと
満たされた赤子のように、梨華の指先で静かな眠りについた
・・・綺麗やったなぁ・・・
・・・あかん・・・うち、めっちゃ眠いわ
・・・のの?・・・の・・・の・・・
梨華の頭の中に流れこんできていた、あいぼんの意識が、遠のいていく
のの、の名前を尾を引くように呼びながら
そして、あいぼんはズルズルとその場に座り込み、パタリと倒れた
梨華は、二人のことが僅かに、心配になりながら、ひとみの顔を
背中から覗き込む
「・・・ねぇ?ねぇ、ひとみちゃん・・・ひとみちゃんっ?!」
目の前で、今度はひとみまでもがストンッと大地に腰をついた
そしてそのまま、ひとみは大の字にひっくり返る
「・・・もうダメだーーーっ!つ、疲れた・・・」
277
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:09
日曜日―
駅前の雑居ビルの中から、本を読みながら出てくる女の子と、ひとみが
ぶつかった
女の子が手に持っていた本が、梨華の足元に飛んで来て、梨華はその本を
拾うと、軽く埃を落とすように叩いた
手話入門編
梨華は、そのタイトルを口の中で呟き、そっと笑みを零す
「あ〜〜ゴメンナサイッ!よそ見しててぇー」
ひとみに頭を下げている女の子の肩先で、細い三つ編みが
一緒になってペコンとおじぎをしている
「・・・いいよ 平気、平気!」
ひとみは朗らかに言いながら、チラリと梨華に目配せをする
その目に浮かぶ、安堵の色
梨華も目許を優しく和ませ、小さく頷いた
そして、密かに微笑み合う
278
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:09
すまなそうに顔を上げた女の子は、そう簡単に忘れられないくらい
ピカピカに輝く目をしている
「・・・はい、落し物」
「あっ!すいませぇ〜んっ」
本を手渡す梨華の顔を見て、女の子は無邪気に笑う
その笑顔が、夏の日差しの中、咲き誇る向日葵のように輝きを増した
視線の先を辿ると、そこに柔和な微笑みを称えた女の子がこちらを
見ていた
「あ・・・あいぼんっ!」
女の子は、弾む声でそう言って、ひとみと梨華にちょこんと頭を下げると
駆け出して行く
二人の触れ合う肩が楽しげに揺れた
女の子が上げる笑い声を風が運んでくる・・・幸せな音色を
そして、風は流れていく・・・
また今日も、新たな想いを乗せて・・・
279
:
Sa
:2004/07/17(土) 12:14
え〜〜風のピアスの章、更新終了しました
勢いのみの更新です(ニガワラ
これからまた、違う章になるのですが・・・実は作者は
少々、スランプ気味でして(w
思うように、文章が書けないのです
今までも、たいしたモン書けてナイと言えば、そうな・・・(ry
なので思い切って、長めの夏休みを頂こうかと思っております
どれくらいになるかは未定ですが、夏休みと言うからには、夏が終わる頃には
書けるようになり、戻って来たいと思っております
放置は絶対にしないつもりなので、暫くの間、長い目で見てやって下されば、と
図々しくも、思っております
今年の夏は、エラく暑いですが、皆様、お元気で!
280
:
JUNIOR
:2004/07/18(日) 01:13
更新お疲れ様です。
やっぱりSaさんの作品はいいです。
心がじ〜んときます。あったかいです。
スランプ気味ですか……。
それでもこれだけ書ければすごいです。
Saさんにも夏休みは必要ですよね。(w
おもいっきり夏休みをenjoyしてください!
首を長くして待ってます。
Saさんこそお元気で!
281
:
名無し(0´〜`0)
:2004/09/04(土) 22:13
そろそろ、Saさん帰ってくる頃かな?
282
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:47
・・・・・流れ星だ
彼女は白い瞬きが、湖面に描く半円の姿を目で追った
よく、その星に願い事を三回唱えると叶うって言うけど
・・・けどさ?流れ星は流れてるから、流れ星であって
そのスピードの速さに、今まで三回も願い事を言えた試しが
自分には無い
例え心の中だけででも、それがどんなに願ってやまない事でも
また、星が瞬いた
今日は流れ星の当たり日だよ・・・
何回流れてくれたって、願いが叶わないなら、それに何の意味もない
彼女は白けた気持ちになりながら、アハッと口許を歪めた
283
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:47
けれど・・・
その星は天空の頂上で弧を描く事をプツリと止めた
そして、彼女を誘うようにまた瞬いた
願い事があるなら言ってみろと、今がチャンスだと
・・・ありえない
そう思いながら、それでも彼女は念じてみた
その輝きに魅入られたように
あの子に会いたい、あの子に会いたい、あの子に会いたい
彼女が唱え終わると星はまた滑り始めた
漆黒の空の上で白い光の尾を引いて、丸形の続きを描くように
まるで、彼女にゆっくりと頷いて見せるように・・・
284
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:48
夏休みになっていた
285
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:49
ひとみはパソコンの画面を次々変えながら、小さい溜息を
一つついた
「・・・梨華ちゃぁ〜ん 遊び行こ〜よっ!」
返事はない
その代わり、ジトーーーッと背中に睨むような視線を感じた
「梨華ちゃんの言いたい事、わかるさ?・・・わかるけど
うちらってなんなワケ?
あたしにとってもこの夏休みは大事なのよ?
セブンティーンのサマーバケーションは一回きりなんだぜ
もっと・・・もっとこうさ?有意義に過ごしたいと思わねー?」
「有意義?・・・ひとみちゃん、意味分かって言ってる?」
背後からそっけなく返ってくる声
取り付く暇もありゃしない
ひとみは頬杖を付いてた腕を、ズルズルと滑らせながら
横目でパソコンを操作し続けた
286
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:50
夏休みは学校へ通わなくてはいけないという、学生の本業が
免除される
制約なく行動出来る時間が増える事に、ひとみと梨華は喜んだ
ひとみは単純に、梨華と初めて共に過ごす長い休みを喜んでいた
のだが、梨華はひとみほど単純ではなかったらしい
梨華は燃えていたのだ
この長い休みの間に、一つでも多くのストーンを見つけ出すという
使命感、みたいなものに
そもそもさ、暑くて勉強さえも手につかない、だからこその夏休みな
訳じゃん?・・・なのになんでそーややこしい事したがるかね?
宿題じゃあるまいし・・・ま、宿題なんてやんねーけど
ひとみは、かなりうんざりしていた
だから、夏休みが始まると意気揚々と(これからの課題)を
話し出す梨華に、ひとみは意地悪く聞いたのだ
287
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:50
「そう言うけどさ〜 具体的にどーすんの?
なんのあても無いじゃん?・・・うちら」
「・・・そ、それは」
口ごもって、目線を泳がせていた梨華だったが、ひとみの机の上に
乗っていた、ノート型パソコンを見つけると、その目を輝かせた
「インターネットで調べようよ!」
「・・・えぇ〜〜〜っ」
そしてかれこれ三時間
ひとみはネットの情報社会を彷徨っていたのだった
こんなキーワードで何が引っかかるって言うんだよ?
ひとみは半ばヤケクソになりながら、キーボードに置いた指を
乱暴に動かした
「・・・流れ星」
「え?」
梨華の呟く声に、ひとみは動かしていた指を止めて、振り返った
「・・・願い事が叶うって言うじゃない?
あ、わたし達の場合は願い事っていうより探し物なんだけど」
288
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:51
ひとみは、ハイハイ仰せの通りに、と投げやり言って、また
パソコンに向かうと絞込み検索を続けていった
− 流れ星がたくさん映る湖 −
ふいに、その文字がひとみの目に飛び込んできた
この夏の私のお勧め!そんな口コミのページ
どこか幻想的な雰囲気が素敵で、運がよければ降るように星が落ちて
くるのが見れるられるという湖
夏の夜を過ごすのに、とてもロマンチックな場所
その湖は鏡のように澄んでいて・・・
その書き込みの最後に、湖の所在地が記されていた
それを読み上げ、ひとみは、・・・やっぱりそういうことですか?と
諦めに似た気持ちになった
289
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:52
記された場所は、祖父が持つ別荘の近くだった
小さい頃、何回か連れられて行った場所
そう、確かにかなり大きな湖があった気がする・・・湖・・・水・・・偶然?
・・・違うだろ?やっぱり自分と梨華は招かれてしまうのだ
ストーンのある場所へ・・・
「梨華ちゃん・・・避暑しに行きますか?」
ひとみは苦笑いしながら言った
この夏の自分と梨華に、素敵なひと夏の想い出なんてロマンチックな
ことは、きっと一番縁遠いに違いない、と、思いながら
290
:
Sa
:2004/09/13(月) 20:54
更新しました
お待たせしてしまって申し訳ないです
見限られまくってて・・・なんてのが怖いっす
JUNIOR様
イヤ・・・実はまだ書けないんですけどね(ニガワラ
そんなコト、グチグチ言っててもしゃーないので地道にがんがりマス
作者の個人的なコトで、ご心配かけるようなことを書いてしまい
申し訳ナイです(ペコリ)
281名無し様
気にして下さってた方がいらっしゃるとは嬉しい限りです
ハナシを大きくしすぎたかなぁと、今さら反省・・・遅いっつーの
けど、書上げる気持ちはありますんで、これからもよろしく
お願いします(ペコリ)
291
:
名無し(0´〜`0)
:2004/09/13(月) 23:17
Saさん、お帰りなさい!お待ちしてました。
Saさんのペースでこれからも頑張って下さい!
292
:
読者@219
:2004/09/14(火) 00:49
Saさんお帰りなさい。リフレッシュできました?
あんまりカキコしないタイプなんですけど、
またSaさんの作品読めるの嬉しくてカキコしてみました。
Saさんの表現力と話の展開の仕方、本当に大好きです。
焦らずノンビリとSaさんのペースで書いていって下さい。
293
:
JUNIOR
:2004/09/18(土) 01:36
お帰りなさいませ。毎日enjoyしてますか〜?
そんなに悩まずに焦らずゆっくりと自分自身の
ペースでやっていってください。
自分は逃げも隠れもしませんよ(爆)
294
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:36
もぉっ!信じられない・・・ひとみちゃんったらっ
ここで待っててって言ったのに!
梨華は見知らぬ駅前で、一人大きな溜息をついた
避暑地として、わりあいと名前が知れてるらしいこの場所は
夏休みが始まったこともあって、そこそこの人出だ
あたりをキョロキョロ見回した梨華は、自分の置いておいた鞄が
ないことに気がついた
ひとみが持っていってくれたのだろうけど、いったいどこに行って
しまったのか?
確かにトイレは混んでいて、ひとみが待つことを嫌うのは知っている
けど、二十分は待たせてないと梨華は思う
そう言えば、別荘がある湖の方角と反対側には、ソフトクリームで
有名な牧場があり、少し先にそこのショップが出てるから、後で
食べようと、ひとみが言っていたのを思い出す
・・・買いに行ってくれてるとか?
295
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:37
梨華は、小首を傾げて考えながら歩き出した
取りあえず行ってみようかな?すぐ近くって言ってたし
いなかったら戻ってくればいいよね?
周りのショップをキョロキョロと見回しながら、梨華が歩いて
いると・・・ドンッと身体がはね返されて、梨華は危うく尻餅を
つきそうになった
目の前には、大きな茶色い紙袋を抱えた人が立っている
「ご、ごめんなさい!
わたしったら余所見してて・・・」
「あはっ!い〜よぉ こっちこそごめん
この袋って前が見えないんだよねぇ〜 観光地のスーパー
だから気取ってんのか知らないけど・・・
持ちづらくって困ってんだ」
茶色い紙袋の横から、どこか気の抜けたような笑顔が覗く
梨華はクスリと笑った
なんだか可愛い子・・・同じ年くらいかな?
その子は、あはっと小首を傾げて笑いながら、梨華の顔を
マジマジと見つめた
296
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:37
「・・・君、かーわいぃねぇ〜
観光客?・・・ねっねぇ、ごとーとお茶しない?」
梨華はギョッとして、目を見開いた
わ、わたしナンパされてるのぉ〜〜〜
それも女の子に?
「少し先にさ、雑誌とかによく載ってる、ソフトクリームが
あるんだー
店の前に席があって食べれるんだよ?
試してみない?結構イケるし、思い出になるよー」
あ!そこって・・・
「わたしっ、そこに行く途中だったんです!」
梨華は言ってしまってから、ハッとして口を押さえた
やだ!これじゃまるで連れてってって強請ってるみたい・・・
その子は、梨華の言葉を聞くと、すっかり打ち解けたように
微笑んだ
「うんうん、行こっ行こっ!」
297
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:38
そしてなんと、重そうな紙袋を片手で抱えて、開いた方の手を
梨華に差し出した
・・・え?
どうしよう〜〜〜 これって、これって手を繋ごうってこと?
えぇーーーっ・・・そんなぁ〜会ったばかりの人なのに?
梨華が上目遣いで顔を見ると、その子はふにゃりんとした
無邪気な表情で見返してくる
女の子だし・・・いいよね?
だって、断るのもヘンって言うか・・・
梨華はおずおずと片手を、中途半端に前へ出した
その子は、躊躇うことなく梨華の手をギュッと握る
その時・・・・・
とても不思議な感覚が梨華の身体の中に注がれてきた
298
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:38
他愛も無いことで、例えばひとみが自分を置いていってしまった
こととか、トイレが混んでて、汚かったとか、見知らぬ町で一人で
不安を感じていたとか・・・そんな自分ではそうと意識してないのに
僅かに不機嫌に粟立ちそうになっていた感情の波が、静々と引いて
いくような・・・
「名前なんて言うの?・・・ご、あたしはねぇ〜
後藤真希ってゆーんだ」
「・・・石川梨華です」
「梨華ちゃん?名前もかーいーねぇ?」
繋がれた手の平から、ゆるゆると流れてくる水音のような調べ
は小さな波になる、穏やかで慈しみ深い細波
それが梨華をひたひたと満たしていく
心地いい・・・それにわたし・・・この感じを知っている気がする
なんだか懐かしいよ
あれ?わたし・・・何をしてたんだっけ?
あぁ・・・あ、そうそう真希ちゃんと、ソフトクリームを食べに
行くんだ・・・え、違うよ?わたしは誰かを探してて・・・でも、でも
真希ちゃんはここにいるし・・・
299
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:39
梨華は混乱してきた頭を必死で整理しようと考える
と、真希が突然足を止めた
「ねー梨華ちゃん?
ソフトクリームは明日にしない?
今日はお店、メッチャ混んでるよ。せっかく梨華ちゃんが
ごとーに会いに来てくれたのに、もったいないっしょ?」
そう・・・そうだよね?
わたしは真希ちゃんに会いに来たの・・・
やっと会えた、ずっと会いたかったんだよ?
「真希ちゃん・・・・・」
「・・・ずっと待ってた、やっと戻ってきてくれたんだね?
ごとーのとこに」
「梨華ちゃんっ!!!」
300
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:39
誰かに大きな声で名前を呼ばれて、梨華の身体がビクッと
反応する・・・声のした方を見ると
スラリと背の高い、色白の整った顔をしたボーイッシュな
女の子が自分に向かって手を振ってるのが見えた
あれ?・・・あの人・・・あぁダメッ・・・
・・・頭が割れそう・・・痛いよっ・・・ダメ、考えられない・・・
「ま、真希ちゃん・・・頭が、頭が痛いよぉ・・・」
「可愛そうに・・・梨華ちゃん、ちょっと待ってて」
頭の血管が切れてしまいそうな激痛に、梨華は目を開けている
ことさえ辛くなってくる
もう・・・もうほんとに・・・・・ダ、メ
梨華の意識があまりの痛みの高波に飲まれそうになった刹那
紙袋を足元に置いた、真希の腕の上を滑り落ちるブレスが
ギラリと光を放つのが、・・・見えた、気がした
301
:
Sa
:2004/10/07(木) 22:40
更新しました
夏休みどころか秋休みまで取ってしまいました
すっかりお待たせしてお詫びのしようもありません
ほんとに申し訳ないです!ごめんなさいっっっ
219名無し様
折角迎えて頂いて、また家出しちまいましたが、まだ待って
下さっているのでしょうか?(汗
作者のペース・・・カメよりのろくてすいませんっ(ペコリ)
読者@219様
いや〜リフレッシュのハズが遠出しすぎて、行方不明に
なるとこでした(汗
喜んで頂けてたのにすいませんっ(ペコリ)
JUNIOR様
作者が逃げ隠れしちまいましたね、もう夜逃げ同然(汗
色々考えてはみたのですが、なかなか書けなくて・・・
ほんと、すいませんっ(ペコリ)
302
:
JUNIOR
:2004/10/11(月) 01:38
更新お疲れさんです。
吉澤さんが待つのを嫌うのは分かりますね。(汗
うちの場合トイレだとかなり嫌ですからね。
異性に間違えらr(ry事が多々あるんで・・・(泣
次の更新も首を長〜くして待っております。
303
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:56
真希は、湖のほとりに足を投げ出して腰を下ろした
「ねー
今日さ、やっと見つけたよ?
今度は間違いないって・・・そりゃぁ瓜二つってわけじゃないよ?
けど似てる、似てるんだ」
湖面に映る少女の影が、からかうように揺れる
「・・・え?
いちーはここにいるだろ?って?
・・・わかってるよ・・・だけど、いちーちゃんは・・・
いちーちゃんは、そこから出てこれないじゃん?」
真希は湖面から目を背けた
そして、思い直したように笑顔を向ける
「今日会った子ね?スゲー女の子っぽいんだぁ〜だからパッと見は
似てないって思うかもしんない、けど・・・なんつーの?
ごとーには分かるんだ・・・魂とか?大袈裟なこと言っちゃうけど
そういうのが似てる感じ
だからきっと・・・いちーちゃんも気に入るよ?」
304
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:57
湖面に映る少女の影が、喜ぶように波立つ
「・・・待ってて
今度はきっと上手く行く・・・あの子が器なら、いちーちゃんきっと
きっと戻って来れるからね?
・・・昔、よくごとーを抱っこしてくれたよね?
これからはごとーがしてあげるから・・・」
真希は湖面に手を伸ばすと、そっと水面に指を滑らせる
そこに映っていた少女の影は、つかの間消えてはまた現れた
妖しい微笑みを称えた表情で、湖面を覗き込む真希を見つめる
− ほんとかな?
− またお前はいちーを置いてくんじゃねーの
305
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:57
真希は頭の裏側から響いてくる声に、必死で首を横に振る
「ごめんっごめん!・・・マジでごとー、知らなかったんだ・・・
許して?・・・ねぇ許してよ?いちーちゃん・・・
今度は離れたりしないよ?何があっても絶対、傍にいるから!
だからもう・・・ごとーを責めないでよぉ・・・」
青白い月の光が反射して、怯えるように頭を抱えた真希の腕を滑り
落ちるブレスを銀色に輝かせていた
306
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:58
ひとみは深く溜息をついた
ベッドサイドに引っ張ってきた椅子に腰掛けて、梨華の寝顔を
見つめ続けて、いったいどれくらいたっただろう?
あいつ・・・梨華ちゃんにいったい何をしやがった?
307
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:59
梨華と親しげに微笑みを交わしていた少女
二人は、ひとみのいるソフトクリームショップに向かっている
ようだった
あれ?梨華ちゃんだ・・・隣りのヤツ誰だよ?
友達?偶然?・・・あんなヤツ学校では見たことねーぞ?
ひとみが、二人の姿に目を凝らした時
あの少女がこっちを見たのだ 離れているのに、真っ直ぐに自分へと
注がれる視線をひとみは感じた
少女は足を止めると、梨華に何かを話かけている
今にも来た道を引き返しそうな素振りに、ひとみは慌てて梨華の
名を呼んだのだ
声に反応するように、ひとみを見た梨華の表情
あの顔は・・・
308
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:59
なんて言えばいいんだろう?
・・・そう
記憶を手繰るような眼差し
梨華の眼はひとみに聞いていたのだ
あなたは誰?と
ありえねーーー
一瞬、ひとみの頭は目の前で起こった事柄が受け付けられないと
言うように、真っ白になりかけた
梨華が見ている自分のことを・・・なのにこっちに来ようとしない
何故か見知らぬ他人を見るような警戒心を露にした眼の色で
ただ、ひとみを見ているのだ
けれど、その直後、梨華が頭を抱え出した
ひとみは我に返って、並んで待っていた列から飛び出すと二人のもとへ
駆け出したのだ・・・その時
ひとみの身体に異変が起こった
309
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 21:00
身体中を流れる血液が、まるで鉛に変わったように、重力を増した
自分の身体が、自分のものと思えない程、重くなり、ズブズブと
沈んでいくような錯覚
前へ出そうとした足が縺れて、ひとみはそのままつんのめると
方膝を地面につけた
頭で脈打つ血の流れも、ドロリと濃度を濃くしてそのまま止まって
しまいそうな気がする
ひとみは意識が遠のくのを感じた
・・・しっかりしろっ!
・・・アイツにリカを渡してはいけない
ひとみの体内の奥深いところから、響いてくる声
その声に反応するように、左手の指輪が淡く輝き出した
すると
310
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 21:00
ひとみの指輪から、形のない風のうねりが噴出し、一直線に
少女へと向かい、その身体を吹き飛ばしたのだ
少し遠い位置からでも、凍えた水膜が張っているような、少女の
冷徹さを感じさせる目線が自分から外れると、ひとみの身体の異変は
何事もなかったかのように収まっていた
自由に動けるようになったひとみは、梨華に向かって駆け出した
少女はスッと立ち上がると、横に置いてあった荷物を手に
梨華から離れて行こうとしてる
少女の横顔が立ち去る間際に、何事かを梨華に囁いているのが
見えた けれど落ちてくる髪の流れでその表情は見えない
ひとみは、倒れた梨華を抱き起こしながら、大きな声を出した
「待てよっ!」
少女は、一瞬足を止めたけれど・・・振り返ることはしなかった
311
:
Sa
:2004/10/28(木) 21:01
更新しました
JUNIOR様
ボーイッシュ(?)なのですねぇ〜
貴方様がキリンさんになってないとよいのですが(ニガワラ
作者の中で、話が今だまとまってくれないので、暫くの間
この様な状態が続くかと思われますが、変わらず読みに来て
下さるのなら、こんなに嬉しいことはないです(ペコリ)
312
:
JUNIOR
:2004/10/29(金) 00:23
更新お疲れ様です。
うむむ・・・ごと−さんきになりますね。
キリンにはなってませんよ、まだ・・・・。(笑い)
え!?読みますよ、絶対読みますよ。
人間簡単に変われるものではないですよ!
安心してください。ウチ言われても説得力ないっすよね(ニガワラ
313
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:34
風が吹いている・・・
さわさわと
ひとみの額に流れ落ちた、一筋の髪で遊ぶように
ひとみは薄く目を開ける
レースのカーテンが夏の湿った夜気を払って、揺れている
うたた寝をしてしまったらしい
ぼんやりとした頭で、そう思ってから、ひとみはハッとしてベットを見た
そこには、薄い夏掛けの布団が抜け出した主を、待ちわびる忠実な僕の
ように丸まっている
そして枕元には、ほの白く揺らめきながら淡い光を放つ指輪が、ひっそりと
息づくように転がっていた
314
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:35
足を一歩、一歩と前へ出しながら
梨華は自分の前を、誘導するように進んで行く、影を見ていた
ふいに、闇が濃くなる
振り返ると、さっきまで静々と後ろから付いてきていた、プラチナの
細い月明かりが、流れる雲にかき消されていた
− 待ってるから −
誰かが、囁いた
あれはだあれ・・・?
知ってる、知ってる、あれは真希ちゃん
真希ちゃん?・・・って?
ふいに、梨華の記憶が、受信し損ねた映像のように大きく揺らいだ
すると体中の血液が、思い出せと言いたいみたいに、脳へとドクドク
その名を刻みながら、注ぎ込んでくる
真希ちゃん、真希ちゃん、そう、あの子は真希ちゃん
子供の頃、夏の避暑でここに来ていた真希ちゃん
人懐こい笑顔で、話しかけてきて、友達になった子
大きな湖のほとりで、毎日のように話をして、笑い合った相手
315
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:35
明日、会ったら返すから・・・だから今日だけ、これ貸して
真希ちゃんは、わたしの手からブレスレットを抜き取ると、夏の突き抜ける
ような青い空の下で、そう言って手を振っていた
ブレスは真希ちゃんの手元で揺れていた、空の青に輝きながら
夏祭りで買ったブレス、わたしの宝物
ちっちゃいガラス玉が、まるで本物の宝石のように
透明な日の光や、深い水底の藍色や、生い茂る濃い緑を映して色を
変える美しいおもちゃ
あの日、真希ちゃんは明日も会おうって、そう言っていたのに
なのに…どうして会わなくなったんだっけ?
梨華は頭の中で、読み聞かされる絵本のように、次々浮かんでくる
真希との思い出の先を、辿ろうとする
違うよ、それはわたしじゃない…
自分の鼓膜のずっと奥から、悲しげな呟きが震えるように伝わってきた
気がして、梨華はつかの間、足を止める
316
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:35
美しい夏の記憶、いまより幼い子供の真希
その姿は写真のように鮮明に思い出せるのに、その横にいるはずの自分は
切り取られてしまったように、姿が映らない
真夏の強い太陽の日差しが作り出す、大きな影に呑みこまれてしまった
みたいに、そこには、ただ黒いだけの人影がいて、それが自分らしいと
思えるだけだ
その自分へと目を凝らし出すと、急に全ての光景が色褪せて、薄ぼんやりと
してくる
まるで、誰かの幻想を盗み見しているようで、遠い記憶を手繰り寄せようと
顔をしかめて、梨華がまた歩きだした時
疎らだった木立が抜け、目の前に大きな湖が現れた
大きく傾いだ木の影から、のそりと誰かが寄り添っていた体を起す
「やぁ、待ってたよ・・・」
「・・・真希ちゃん?」
梨華の声に、真希は満足そうに目を細めると、そっと顎を引いた
「ここ・・・いつでも、待ち合わせしてた場所
憶えてるよね?・・・だからこうして来てくれた」
317
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:36
真希は、歌うように言いながら、梨華に近づいてくる
その足元で水辺の湿気を含んだ夏草が、キュッキュッと小さな音をたてた
真希は大きく片手を広げて、梨華の手を取ると湖のほとりに連れていく
「・・・ずっと変わらない、毎日ここで会ってたあの日から・・・
ごとーは・・・何も変わってないんだ」
ほら
真希は、梨華を促すようにそう言いながら、漂う影のような水面を
覗き込む
そこには、何かを堪えるように口許を歪めた真希の顔が映っていた
わたしは・・・知ってる・・・
ふいに梨華は強くそう思った
こんな風に自分だけ置き去りにされたみたいに、昔のことを話す人を
横にいる真希の顔を、梨華が覗きこむと、大きな喪失がそこで再現
されているかのように、哀しい眼の色で湖を見ていた
318
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:36
前にも何度か同じことがあった気がする
わたしは昔のことを覚えていなくて・・・そう、何故か、忘れていて
だから、とても哀しい眼をさせてしまった誰かを見ていた
あれは・・・真希ちゃんだったの?
だとしたらわたしは、その時なんで言ってあげれなかったんだろう?
わたしは目の前にいるのにって
真希は、まるで湖岸に秘めやかに咲く花のようだ、と梨華は思った
世の中には、まるで他の誰も存在していないと言うように
水面に映る姿だけが、いまここにいる自分との繋がりだと言うように
湖面を見つめ、一人で立ちつくし続ける姿
そんな真希を見てると、梨華は耐え難い切なさに襲われる
自分のことを想ってくれる誰かが、まるでその体の一部を切り取られた
ように、顔を歪め何かに耐える顔など、もう二度と見たくはないと強く
思ってしまう
「・・・真希ちゃん」
梨華の呼びかけに、真希が顔を向ける
319
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:37
「わたし・・・ここにいるよ?
ほら、真希ちゃんと並んで映ってる
ね?真希ちゃんは一人ぼっちじゃないでしょう?」
真希はハッとして、目を見開いた後
水面に少女が二人映っているのを見て、大きく息を吐く
見る間に、目許に透明な雫が湧き上がってきて、泣き笑いのように
その表情は崩れていく
「・・・やっぱり、やっぱりそうだった」
真希は感に堪えかねたように、言葉を漏らすと、振り返り両腕を広げて
梨華を思い切り抱きしめた
「・・・よかった
ごとーの前から、いなくなったりしてなかったんだね?
ずっとここで待っててくれてたんだ・・・昔みたいに
見た目は変わってしまったけど、こんなに待たせちゃったごとーが
悪いんだ
ごめんね?一人にして・・・ごとーは・・・ごとーは・・・ずっと、ずっと
探してたんだ、諦め切れなかった、諦めなくてよかった」
真希がずっと自分を探して、こんなに求めてくれていたことを
なぜ忘れていたのだろう?
320
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:38
梨華は自分自身に疑問を感じながら、夜気に湿る真希の体に、躊躇いがちに
腕を回した
トクトクと真希の体から、その存在の源のような水音が伝わってくると
梨華は、全てのことが、思い出す必要も、考える意味もないような気持ち
へと、流されていく自分を感じた
それはまるで、忘れることでしか得られない癒しのようだった
「・・・やっと・・・会えたね」
吐息のような声が耳にかかった時
真希とは違う、他の誰かのシルエットが、頭の片隅に浮かんだ
・・・やっと・・・会えたね
鼓膜からではなく、頭のずっと奥から、その誰かの声が、リフレインして
自分に語りかけてくる
けれど、真希の涙で濡れ頬が、愛おしそうに、自分の頬へと頬づりされると
もう、その声さえも、忘れてしまえばよいことのように思えるのだった
321
:
Sa
:2004/11/18(木) 20:38
更新しました
JUNIOR様
もしや?!キリンさんに・・・ry
書きたいテーマも流れも頭にはあるのですが、それを文章にする力量が
ないのだと、この話で煮詰まって、つくづく実感している作者です
人は簡単には変われない、まったくもってその通り・・・ですが
そこには価値という付随項目があるのでは?と初冬なのにヤ〜な汗が・・・あはっ
322
:
読者@219
:2004/11/19(金) 01:38
お疲れ様です。
いつ読んでも良いですねー。
無理しないで、気長に書いて下さい。
しかし、これからどうなっていくのか興味津々です。
323
:
JUNIOR
:2004/11/22(月) 23:59
更新お疲れ様ですぅ〜。
気になるところで切るなんて・・・あなたも悪ですねw
あと、キリンにはなってないです。缶詰にはなってますが(笑)
お風邪に気をつけて。無理しないでください・・・ね。
324
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:09
梨華は真希の家につくと、疲れ果てたように眠りに落ちた
真希は、開け放った窓から入り込む夜の風に、さらりと揺れて
額へと落ちた、梨華の前髪をそっと梳いた
ふいに、梨華の口許が微笑むように、可憐に綻んで
つられて微笑みそうになった真希は、その後、梨華の唇が象った
自分以外の名に凍りついた
「……ひ、とみちゃん…」
夢見るように、優しく歌うように、真希の鼓膜の奥へと、運ばれた名前
…誰?
瞬きするような、ほんの僅かな間
真希の脳裏に、一人の少女の姿が浮かんで、消えた
昼間、見た…あいつ?
…待てよ!って、ごとーにそう言ってたっけ
威嚇するような口調、好戦的に放たれる眼の強い光
325
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:10
あいつはごとーと同類だ、なんとなくわかる
…渡さない、梨華ちゃんは渡さない
もう、ごとーのだもん、そうだよね?
真希は梨華の寝顔に、優しく微笑みながら語りかけた
「…忘れて?
全部忘れて…梨華ちゃん以外、ごとーはいらないから
だから梨華ちゃん?…みんな、みーんな忘れちゃってよ、ね?」
326
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:10
真希は子供の頃、軽い喘息だった
幸い、季節の変わり目や、梅雨の時期がくるたびに発作に怯えるほど
重症ではなかったけれど
治ったかと思いきや、秋になると過敏な粘膜は、真希の呼吸を
妨げようとするように、咳を繰り返させた
夏休みの間だけでも、空気のきれいな所で過ごした方がいいんじゃないかしら?
前年は秋口から、二ヶ月あまり、酷い咳に学校も休みがちになってしまった
真希に、母親はそう言った
幸い、空気の澄んだこの土地に、母方の祖母が一人で住んでいた
仕事を持っていた母親は、その年、真希が夏休みになると
祖母の家へ連れてきて、真希を一人残すと、家へと帰って行った
今から五年前、真希が小学校六年生の時だった
327
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:10
祖母は真希にとても優しかったけれど、真希はやはり寂しかったし
つまらなかった
ある日、散策に出た湖のほとりで出会った一人の少女
どこか少年のような佇まいと、か細い体の線、そして妙に大人びた瞳の色
いくつか年上だったのかも知れない
けれど、同年代の子供を見つけた真希は、嬉しくて、なんの躊躇もなく
近づいて行き、二人が親しくなるのにそう時間はかからなかった
その子は、自分のことを、いちーと呼んでいた
だから真希は、いちーちゃんと呼ぶことにした
「いちーちゃんのうちってどこ?」
真希が聞くと、いちーちゃんは笑って、適当な方向を指差すだけだった
二人でいると、話すのはいつも真希ばかりで、真希はいちーちゃんの
ことを何も知ることが出来なかった
だからこそ……知らなかったのだ、真希は…
いちーちゃんが、もう……
今も真希の腕のブレスだけが、いちーちゃんが真希と過ごした、あの夏の
日々を幻ではないのだと、真希を繋いで離さない
328
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:11
ごとーのせいだ、ごとーがあの日、約束どおり行きさえすれば…
…何度、思ったことだろう
いちーちゃんのブレスを、真希が付けて帰った翌日は、酷いどしゃぶりの
雨だった
それでも真希は、出かけようとした、約束通りこのブレスを返す為に
けれど、それを祖母に止められたのだ
お友達もこんな雨の日に、出かけやしないさ
そう、だよね…いちーちゃんもこんな雨だもん、来るわけないよね?
これのこと、いちーの宝もんだって言ってたけど
明日返すって言っちゃったけど、もう一日くらい、いいよね?
真希はバケツをひっくり返したように、ずぶ濡れの窓の先を見ながら
緩いブレスを、腕の上であやすように擦った
ところが雨は、次の日も、その次の日も止まず
雨脚は途絶えがちになっても、避暑地の清らかな空気は、一足早く
秋が訪れたように冷たいままで、真希の咳を誘発した
真希が一日中咳き込み、外出禁止となったのは、約束の日から五日たった後
で、あった。
329
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:11
次の日の夕方には母親が自分を迎えにきて驚いた
夏休みは、まだ十日ほど残っていたから
まだここにいたいと言う真希に、母親は今日以外、仕事で迎えに
来れる日はないから、明日帰るのだと言う
真希は、自分がいる祖母の家の話をいちーちゃんにしていた
遊びにおいでよ?と何回か誘ったこともある
そのうち、訪ねてきてくれるかも知れない、そう思った真希は
ブレスと手紙を祖母にたくして、この地を後にしたのだ
手紙には、自宅の電話番号もかいたから、暫くの間
家の電話が鳴るたびに、真希は期待したり、失望したりを
繰り返していた
夏休み明けまで待っても、いちーちゃんからは連絡がこなかった
何度か、祖母に電話をしてみたりもしたけれど、いちーちゃんは
ブレスを取りに来てはいないようだった
そして翌年、祖母は体調を悪くして入院してしまい、さらに次の年
に亡くなってしまった
その次の年は、真希は高校受験の為の夏期講習に追われて過ごした
そして
去年の夏前に、この土地は避暑地としてなかなか人気があるところ
だから、今は住む人のいなくなった祖母の家を売りに出そうかと
言う話が出て、真希は思い立って、四年ぶりに訪れてみたのだった
330
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:12
ついでに、少し荷物の整理をしてきて、と母親に頼まれて
真希は見つけたのだ、このブレスを
懐かしい記憶が、過ぎ去った時間に追いつくまでに少し時間が
かかった
その女の子の、あの子の名前を思い出した時
真希は懐かしさに、唇が綻んだ
…そうそう、いちーちゃん
ショートカットの黒髪が、湖面を渡る夏の風にそよいでた
真っ直ぐ前を、少し睨むように見つめてる涼やかな瞳の光
キュッと結ばれた、あまりしゃべらない口許
いちーちゃんは女の子だったけど、あの頃の、甘えを含んだ
あの子を慕う自分の気持ちは、少し恋に似ていたと、真希は
懐かしく思い出していた
真希はいちーちゃんが、この土地に住んでいるのか、自分と
同じように避暑にきていたのかさえ知らなかった
四年の歳月は、あの子を変えただろうか?
そして自分も変わってしまっただろうか?
331
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:13
いま、もし偶然、道端で会ったりしたら、お互いわかるかな?
そんな想像をしながら、駅前を歩くのは、真希にとって心弾む
楽しい一時だった
332
:
Sa
:2005/01/19(水) 15:13
更新しました
またもやエラく時が経ってしまいましたが…cy
しかし今日は、石川さんの記念すべき二十歳のバースディですねっ!
おめでとう!心から、おめでとうっ!
今日は寒いから、貴女が温かさに包まれた一日を過ごせるよう
祈っております
読者@219様
不実なこの連載を待って頂いて、ほんとうに幸せに思います
興味を持って下さり、とても嬉しいです
時間がかかりそうですが、前進させて参りますので、これからも
お付き合い頂けたら、と思っております
JUNIOR様
変わらずに、お付き合いして下さること、ほんとうに幸せに
思っています
確かに、ある意味、悪ですよ?作者はw
いまはさぞかし、お忙しいことでしょう、あなた様こそ無理を
なさらないで下さいましね。
333
:
名無し
:2005/01/22(土) 03:26
すごくいいなあ・・・
続きも期待してます
334
:
JUNIOR
:2005/01/22(土) 14:45
お久しぶりです。
また、いいところで切られますねw
ちなみにまだ、受験生ではないので好きなだけSaさんの小説が読めますw
335
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:28:56
その日…
昼前から降り出した雨は、夕方にはあたりを白くけぶらせるほど、
激しいものに変わっていた
玄関のチャイムが鳴って、ドアを開けた真希が見たのは、体中から
水滴を滴らせ、蒼白の顔をした中年の女性が立ちつくす姿だった
「こ…子供が来ませんでしたか?」
「…うちに、ですか?…いいえ」
真希は、困惑して眉を寄せた後、只ならぬ様子に言葉を続けた
「…何か、あったんですか?」
実は……その女性は、玄関先で、足元に小さな水溜りを作りながら
戦慄かせた唇を開いた
336
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:29:31
その女性は、この家から湖の反対側に位置する孤児院から来たのだと言う
子供が一人、戻ってこないので探してる、という話だった
自然に囲まれた土地柄だし、子供たちが敷地の外に遊びに出てしまうことにも
普段なら、そう慌てたりしないことらしい
けれどこんな天気の日に、たった一人で、と言うのが気になり、手分けをして
この辺りの家を、回っていると言うことだった
「…湖の傍は、雨が降るとぬかるんで危ないでしょう?
万が一、足を滑らせていたりしたら…
あの事件の後は、私どもも子供たちに再三注意はしているんですが…」
女性の表情が一層曇り、それを見た真希の目の前に、急に、言いようの
ない影が、ストンと落ちてきた気がした
「…あの、事件って?」
「あ…お嬢さんは、この土地の方ではないのかしら?
新聞にも載ったんですよ?…うちの子が、あの湖で亡くなったんです
もう、四年も前ことです……その子はとてもしっかりしていたし、もう
中学生でしたから…お友達の家にでもいってるんだとばかり思っていて
探しに出たのが遅かったのが、いまでも悔やまれて……」
337
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:29:59
真希に目隠しでもしてみるかと企みごとを謀ったような、影が…
広がって行く…淑やかな淑女のように、そっと、その腕の中に
足音一つ立てぬ間に、全てを抱え込んでしまおう、と
それは、あっと言う間に暗幕の中に、真希を閉じ込めた
その後女性と、どのような会話を交わしたか、憶えていないくらいには
一人になった真希の頭の中に、ぽっかりと浮かんでくる
あやふやな雲のような姿、見方によって、姿を変えるそれは、
次第に、いちーちゃんの顔を作り出して、真希を慄かせる
ち、違う…違うって!バカバカしい…
笑い飛ばそうとしたけど、顔が引きつって、上手く出来ない
名前……その子の、名前を聞けばよかった
真っ暗な洞穴の中に閉じ込められた、一匹の動物のように
落ち着きなく、リビングを彷徨い歩き出した真希は、震えだす唇に、
親指をあてがうと、爪をギリリと噛んだ
338
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:31:04
そして次の日
真希は図書館で、当時の新聞を探しあて、見つけたのだ
詳しい状況がわからないので、ぬかるみに足をとられて、湖に
滑り落ちてしまったのだろうと、事故死扱いで書かれていた文面と
イチイサヤカ……と言う名前を
…ごとーのせいだ
真希の頭に浮かんだのは、この言葉だけ、だった
339
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:31:36
真希はそれから暫くの間、毎夜、いちーちゃんの夢を見た
湖に沈んでいく姿を
助けようと差し出した真希の手はけっして、届かない
繰り返し、繰り返し…空を滑り落ちるだけ
水底から、自分を見据える二つの眼光、訴えてくる暗い影
…もうこれからは、ずぅーっと忘れさせないよ…一時もね
…いちーはさ?許せないから、約束を破って、平気で忘れてた
…ごとー、を、ね
おそらく、事件直後に知っていれば、真希はここまで囚われることは
なかったのかも知れない
大声で泣き、悼み、忘れてしまうことは叶わなかったとしても
時とともにその存在を、小さくしていく道はあったのかも知れない
けれど、真実を知らずに過ごした年月が、二重の責めとなり、余計に
真希を縛り、責め続けた
全ては…お前が悪いのだ、と
そして、日を重ねるごとに、その罪の意識は、どうにもならない
大きさに育ち、真希を雁字搦めにしていったのだ
340
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:32:06
夏休みが終わって、家に帰っても、真希はそのことにとりつかれ
他のことは、ほとんど、考えられなくなっていった
…ごとーは人殺し、だ
病的に思いつめ出した真希は、表情を失くし、ほとんどしゃべらなくなり
時折、狂ったように暴れたり、叫んだりを繰り返した
学校が冬休みに入る頃には、日常生活にも支障をきたし、見かねた
母親に病院に引きずって行かれた
医師の問いかけの全てに、ただ薄ら笑いを浮かべ、自分が悪いから、
と、繰り返す真希に
何らかの強迫神経症の疑いあり、と、診断を下された
現代社会は、ストレスの坩堝です
お嬢さんは繊細なのでしょう、幸い、学校もお休みに入る時期ですし
暫く静かな所で、ゆっくりと過ごされてはいかがでしょうか?
そして真希は、冬休みを、また祖母の家で過ごすことになった
341
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:32:43
毎日、湖を見て過ごした
磨き上げられた鏡のように、冴え冴えと凍った湖を見ていると、
真希の心は、シンと落ち着いていくのだった
真希が普段通りに戻ったので、家に帰ろうと母親が言うと
真希はパニックを起した
急に心臓が鷲掴みにされたように、苦しくなるのだ
そんな姿を見た母親は、真希をこのような状態にする要因が
学校にあると、解釈して、落ち着くまで休学させ、真希をこの地に
残して行くことを決めたのだった
真希は安堵した
もう学校など、どうでもいいのだ
すべてがどうでもよかった
342
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:33:12
けれど死のうとは、不思議と思わなかった
真希にはしなくてはいけないことが、唯一つあったから
それは、いちーちゃんを思って、この地で過ごすこと
だからこの場所から、離れてはいけないんだ、もう二度と…
それに、ひょとしたら、たまたま苗字が同じだけで、湖に沈んだ
女の子と、あの、いちーちゃんは別人かも知れないから…
捜さなくちゃ、捜さなくちゃ、いちーちゃん、きっと待ってる
ごとーを待ってるんだよ…
強迫的な恐怖は、仄かな希望を真希に示した、けれどそれは虚構の淵へと
誘い込み、真希をこの地に縛り続ける楔になったのだった
343
:
Sa
:2005/01/26(水) 22:33:48
更新しました
名無し様
ほんとですか?嬉しいです
ご期待に添えるかはわかりませんが、突き進みますw
JUNIOR
ほんとにおヒサっすね〜…およ、イイトコでしたかw
そして作者は、一年勘違いしてるんですかね?
344
:
Sa
:2005/01/26(水) 22:37:17
わわっゴメンなさいっ!
↑呼び捨てかましてしまいましたっ
JUNIOR様ですっ!
毎回のレス、感謝してますよぉ〜JUNIOR様!!!
345
:
JUNIOR
:2005/01/27(木) 22:35:26
ごっちん(;´Д⊂)
とっても健気でこっちの心境が複雑・・・。
ぶっちゃけ呼び捨てでいいですよ(笑)
一年勘違いしてましたか。(笑)
いやぁ、Saさんは小説もレス返しも面白くて好きです。
346
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:14:00
わたしは知ってる…この景色、この感じ
微かな風に髪がなびいて、梨華の頬をそっと撫でる
しっとりと水分を含んだ風は、懐かしさと呼べるような淡く、甘やかな
気持ちを呼び起こしはしない
それは、湖面から流れてくる風が深く哀しみに濡れているようで
梨華の眼に映る、湖の姿さえもどこか痛々しい
美しいのに、幻のように美しいのに、ただ静かで、そして…孤独
真冬に吐かれた、生き物の吐息のように、あやふやな靄が、湖を包んでる
だけど、そこにはほんのささやかな温もりすら、感じられない
だから覗いてみなくても、梨華には、はっきりと見える気がした
冷たく凍えて、吸い込まれそうに透き通った水面が…
347
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:15:00
ふいに、人の動く気配がして、梨華は目を凝らした
薄く漂う靄の先に、温かな気配を感じて、梨華は近づいていく
なぜかはわからないけれど
ここに一人でいることは、とても危険なことのように思えた
あまりに寂しくて、だけどその寂しさは逃れることを許さないと
いいたいみたいに、自分を捕らえてしまいそうだったから
湖面を見ていた人が、ゆっくりと振り返った
……あ
・・・お久しぶり…で、いいのかしら?
振り返った人は、鏡で映したように、梨華と同じ顔で微笑んだ
348
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:15:30
茫然と立ち尽くす梨華に、彼女の唇が微笑みを広げていく
・・・忘れちゃったかしら?私とお話したこと
忘れるわけなんかない、梨華は唇を軽く噛んだ
忘れたくても忘れられない…だって、あなたはわたしだもの
ふっと頭にかかってたフィルターが外れたように、梨華の頭の中に
ヒトミの姿が浮かんだ
あなたのこと…ずっと忘れられない人がいるの
たったひとりで、、孤独な眼の色をして、あなたの存在をわたしの
中に見出そうとしてる人
とても哀しい空気を纏っているのよ?
それをあなたに教えたい
まるで、この湖の景色のようだから…
・・・貴女、大切なものを忘れてる
349
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:15:59
自分に向けられた言葉を、それはあなたの方なんじゃないの?
そう、梨華は言いかけたけれど、彼女のどこまでも優しく、包みこむ
ような眼差しとぶつかって、結局、黙ってしまった
彼女の目線が、梨華の顔から、流れるように落ちて、自分の指先の
上で止まった
梨華もなんとなく、その視線の後を追うように自分の手をみて
目を見開いた…指輪がない
外した覚えなんて、まったくないのに…
・・・違うわ、指輪のことなんかじゃないのよ?
・・・貴女が一番、大事だと想ってるものは、なに?
彼女の問いかけが、梨華の頭の中に響くと、ふいに目の前の靄が
少しずつ、晴れていくような気がした
天空から、温かい木漏れ日が、きらきらと、自分の上に落ちてきて
湖を囲む木立の輪郭に光があたって、影をつくる
その、頭に浮かんでくる姿に、自然と、梨華の顔が綻んでいく
そっと、その姿に呼びかけるように、名前を唇に乗せた
「……ひ、とみちゃん…」
350
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:16:25
梨華が、ひとみの名を呼んだ瞬間
梨華の頭の中で、歪な響きが大きな音をたてる
それは、キンキンと高い音を発して、何も考えられなくなるほど、梨華の
頭の中を占めて、エコーし続けた
─── 忘れて、忘れて、忘れて、全部忘れて、忘れて、忘れて
や、ぁぁぁ……
猛烈な頭痛に、梨華は声を上げることも出きずに、その場に蹲った
…大丈夫、労わるような、深く染み入るような声が、梨華の耳元で
囁いた
・・・身体の力を抜いて、構えてはいけないの
・・・その声に、抵抗しようとしないで受け止めるのよ?
・・・だけど、流されては駄目
・・・声に反応しないで、心を静かにして、ただ受け入れてあげる、それだけでいいの
そ、そんなことっ簡単にいわないで!
351
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:16:50
梨華の気持ちが、苛立ちに泡立つと、その声もその感情の波を
感知したように、浚う波を高くして、梨華を飲み込もうとする
…いけない
落ち着いて、落ち着くの
梨華は自分に言い聞かせながら、深い呼吸を繰り返した
すると、その声がとても悲しんでいるように梨華には感じられた
底のない暗い穴から吹き上がってくる、細い悲鳴のような嘆き
けれど同情を感じるには、梨華はその声が、なぜそこまで絶望している
のかがわからない
だから梨華は静かに受け止め続けた、その哀しい叫びを
352
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:17:17
梨華を浚おうとした波は、静々と引いていった
いつの間にか、瞑っていた瞼をゆっくりと上げていくと
目の前に、穏やかに微笑する、自分と同じ顔
・・・合格、彼女の声が梨華の身体に、張っていた緊張の糸を解いて
梨華は、顎を上げて、大きく息を吐いた
・・・人の身体は、そのほとんどが水分でしょう?
・・・水の意志は癒しと、同調だから、流れ込んだ先の感情の波と同調して
・・・それを繰り返して感じさせたり、体内を流れる水の気を狂わせたリするの
梨華は彼女の顔を覗き込むようにして見た
彼女は微笑んでいたけれど、なぜだか梨華の胸の中に響いてくる
声は泣いているように震えていたから
・・・貴女が、現世のひとみのことを忘れたがっていたとは言わないけれど
・・・思ってもいなかった数々の出来事に晒されて、少し疲れていたのでしょう
・・・どこかで、何も知らなかった頃に戻って、楽になりたいと
・・・そう、貴女が思ってしまても仕方のないことだと思うの
・・・だけれど、貴女が忘れてしまったら、ひとみは一人きりで戦うの?
・・・それは…それは、あまりに辛いわ
353
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:17:44
なぜか彼女も、深い哀しみを抱いている、と梨華は思った
ヒトミの前には、けして現れようとしない彼女
いつもひっそりと、自分を守ろうとしてくれる彼女
彼女は、わたしに何を託し、ヒトミに何を望んでいるのだろう?
・・・人は…忘れてしまう生き物なの、それが自然な姿だから
・・・だからこそ、忘れたくないと、想いを強く心に刻むのでしょう
・・・だけれど、記憶はあやふやなもので、長い年月の間に姿を変えてしまうから
・・・一人きりでいれば、いるほど、書き換えてしまうの
・・・失った哀しみや、寂しさに耐える自分の理由を見つける為に
やっぱり彼女は泣いている
ひとりきりで、涙を流すことさえも忘れてしまったように
梨華の頬に涙が流れた
ただ、哀しかった…そんな彼女の姿が、美し過ぎる湖の景色が
堪らなく哀しかった
354
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:20:07
- - - - -
355
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:22:01
真希はふっと、目の前で眠る梨華の頬に、音もなく静かに流れていく涙に
気がついて、胸が…微かに痛んだ
ねぇ、梨華ちゃん?
あなたは忘れたくないの?…あのひとみって、子のこと…
……ほんとは、ごとーが…
真希は、そこで思考を止めた
梨華の頬を伝う涙に、指を伸ばしかけて、それがあまりに澄んでいて
美しかったから、真希の手は宙を彷徨って、結局、ぎゅっと握られた
356
:
Sa
:2005/02/03(木) 14:22:37
更新しました
JUNIOR様
健気…と言うか、器用に折り合いが付けられないのでしょう、現実と
作者の書く登場人物、お約束パターンっすね(ニガワラ
スッゲー計算ずく、冷徹なキャラとか書いてみたいと思うんですけど…
つい内面の脆さとか葛藤めいたコト書いちゃうんで、ワンパなのは諦めましたw
そんな作者の書くモノを面白いと言って下さる方がいるのはホント救いです
357
:
読者@219
:2005/02/07(月) 01:49:46
お疲れさまですー。
梨華ちゃんの中の人(←表現変ですね・・・)が出るのは久々ですねー。
これからが益々楽しみです。
マイペースで進めて下さいね。
358
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:03:12
ひとみは昨夜、僅かなまどろみから覚めた後、一睡も出来なかった
夢の中にいるように現実感の乏しい思考の中
追い立てられ続けているように、五感の感覚だけがピリピリしている
梨華が故意なのか、偶然なのか置いていった指輪を握り締めて
濃紺から蒼へ、そして白々と明けていく空を見ていた
BGMにさえ今はならないラジオを流し、…十時です。その声と共に
立ち上がると、キッチンで一杯の牛乳を喉に流し込み、町に出た
359
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:03:42
駅前を回り、土産物屋や、飲食店で声をかける
「こんな感じの女の子を見ませんでしたか?」
自分と同じ年くらいで、艶やかな黒髪は肩の下、背の高さはこの位
華奢な身体つきで・・・
何軒もで首を横に振られ、ひとみは梨華が帰ってきたら、絶対に
プリクラを一緒に撮ろう、そしてそれを、ダサかろうと携帯に貼って
肌身離さず、持ち歩くんだ
そう、心に誓った
午後になって、避暑地と言われるこの場所でも、歩き回ったひとみの
額にじんわりと汗が滲んでくる
都会で見かけるような、洒落た大型スーパーを通りかかった
ひとみは、隔てたガラスのドア越しの冷気に誘われるように
中に入って行った
360
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:04:23
自動販売機で炭酸の缶を取り出して、簡単な休憩コーナーのように
配置された椅子の一つに浅く腰掛けた
缶を両手で挟みながら、俯いて、頭を一つ大きく振る
自然に口からは大きな溜息が漏れた
梨華は土地勘がない…だけど、高校生だ
迷ったんだとして、人に聞くなりして、戻って来れるだろう
そう思ってみても、ひとみは落ち着かない
誘拐されたなどとは思わない
かと言って、あんな時間から自分になんの断りもなく、梨華が
一人で出て行くなどとも思えなかった
少なくとも梨華の意志じゃない…そんな気がした
361
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:04:50
こんな風に捜し回ることに意味があるんだろうか?
そうかと言って、一人あの広すぎる別荘で、ただ梨華が戻るのを
待っていられるほど、ひとみは辛抱強くない
あの、少女の面影が浮かんだ
自分と同じ年くらいの凍った水面のような目をした…
ふいに賑やかに誰かが近づいてくる声がして、ひとみはハッとして
顔を上げた
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