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風のままに、君のままに

1匿名匿名希望:2003/08/02(土) 16:39
見切り発車で多分赤信号だらけだと思いますが、よろしくお願いします。
更新はかなり不定期で、長さ的には中編?もしくは・・・
本当に自分でもよく分からない状態ですがスタートです。

371名無し(0´〜`0):2004/03/14(日) 12:13
更新キタ─wwヘ√レvv〜(0^〜^0)─wwヘ√レvv〜─ !!
もう、この作品めちゃめちゃ楽しみにしています。

ジェットコースターがんばってください!!

372308:2004/03/14(日) 22:35
時間が迫ってくる感じが怖いくらい伝わります。
続き期待して待ってます。
がんばってください。

373JUNIOR:2004/03/14(日) 22:47
ジェットコースター以上に早いですね。
とまり方を忘れた?とまらなくていいです。
故障しててもいいです。そのまま突っ走ってください。

374D:2004/03/18(木) 20:30


     *     *     *     *


結局、あたしは梨華ちゃんを抱かなかった。
・・・抱けなかった。

唇を重ねようとしたらあたしは動けなくなった。
シャツに手をかけようとしていた腕も動かなくなった。

抱きたい。
でも、出来なかった。
抱いちゃいけない気がした。

下からあたしを見上げていた梨華ちゃんの目とあたしの目が重なり、
見られているじゃなくて、見つめあったら体が動かなくなった。
好きだけど、こんな愛し方をしたいんじゃない。
愛とも呼べないようなことをしたいんじゃない。

375D:2004/03/18(木) 20:31
表情を見せない瞳に、あたしは自分の想いを込めた。
もう、伝えることもないし、伝わることもない。
お別れの出来ない想いにお別れの意味を込めて梨華ちゃんと見つめあった。

たった一言。
だけど言ってはいけなかった一言。
今までの日々を簡単に崩してしまった言葉。
裏切った。
きっとあたしは梨華ちゃんの裏切った。

言葉すら遊ばせないで、冗談も含めないで放った言葉は回収出来ない。
誤魔化すことだってできない。
一瞬でも手を出そうとした自分がいたんだ。
あたしがいたんだ。
こんなはずじゃなかった。
もっと、違う道で回収出来ない言葉にしたかった。

376D:2004/03/18(木) 20:32
ぐちゃぐちゃの頭で、整理出来ていない自分が言う言葉じゃなくて、もっと、もっと真直ぐに伝えたかった。
欲しいのは体じゃない。
触れたいのは肉体だけじゃない。
それを一番伝えたかったのに。
あたしは全部それを吹っ飛ばした。
温めていた気持ちを最低最悪のタイミングと言葉で踏みつぶした。

自己嫌悪。
バカみたい。
昨日のあたしは梨華ちゃんの弟と同じだよ。
触れたい、欲しい、壊したい。
違うのに、こんなあたしの思いは梨華ちゃんには伝わらない。
言葉にしないから。
出来なかったから。

泥のついた靴で踏み付けた。
水であらっても落ちない泥をあたしは投げたんだ。

さよならは出来ない。
一生、もう短いかもしれないけど、あたしが生きている間ずっとこの気持ちはあたしの中だけに封印する。
だって傷つけたくないから。
今さらだけど、あたしが原因でこれ以上梨華ちゃんを傷つけたくないから。

377D:2004/03/18(木) 20:33
勝手すぎる気持ちはどこにもいけなくなっていた。
考えることも、考えていたことも、考えなきゃいけないことも、あたしはコントロールが出来ていない。
数日前に考えていたこと、思っていたことだって忘れてる。
あたしは後ろに線なんて何もなくて、今立っている所だけに点がある。
その場なんだ。
その場だけなんだ。

いつだって分からないことだらけだった。
それは今も同じだ。
点の上に立ち、点の上に自分を置く。
進めば点はあたしの足元に移動をし、戻れば点はあたしの足元に移動をする。
戻れない。
戻ることなんて出来やしないんだ。

378D:2004/03/18(木) 20:34
同じ体勢でいた梨華ちゃんをそのままベッドに残し、あたしはソファーに横になった。
泣くのは違うと思ったけど、涙は勝手に流れてきた。
まとまらない思い、まとまらない気持ち。
あたしがどんどんとバラバラになっていく。

分からない。
あたしは自分が何をしたいのか。
何を思っていて、何を考えていて、何を考えていたのか。
全部、分からなくなっていた。

数時間前の記憶だって、あたしには全部思い出すことなんて出来なかった。
宙に漂っていた言葉を掴んで繋げて変わった考え。
何処までがあってて、何処までが間違いなのかわからない。
正解も不正解も存在しなくても、あたしはあたしがもうよくわからなくなっていた。
嘘の気持ち、本当の気持ち。
考えていたこと、考えていなかったこと。
正解はあたしの中にあるはずなのに、あたしにはあたしの正解が分からなかった。

379D:2004/03/18(木) 20:35
刻む時計の音。
時間は止まることがない。
迫る日を目の前にしているのに、あたしは笑った。
涙を流しながら笑った。

体が揺れればソファーが揺れ、体を震わせれば声が震えた。
このまま眠ろう。
そうすれば朝はまたやってくる。
いつもと同じように6日目の朝を迎え、7日目の朝を迎える。
8日目の朝を見ることなく沈む月を見るのだっていいだろう。

消えそうなのはあたしの方で、消えそうじゃないのはあたしの体。
明るくなりはじめる空を見つめながら短い夜を感じようと目を閉じた。
瞼はわずかな光を通し、あたしの目を刺激し続けた。

380D:2004/03/18(木) 20:36


     *     *     *     *


6日目の昼。
梨華ちゃんがウチに来て5日目の昼。
いつものように簡単な食事を作って食べていた。
そしていつものようにあたしが『何処か行きたい所ある?』と聞くと、梨華ちゃんは動かしていた手を止めて
少し考えるように視線を動かしてから言った。

「…明日、行きたい所があるの」
「今日じゃなくていいの?」
「今日は、ここにいたい」

らしくない言葉を聞いた。
この言葉を発しているのは梨華ちゃんなんだろうか。
今までのように手と口を動かし、モノを噛んで喉の奥へと流し込む。
変わらない動作をして、変わらない姿をしているけど、梨華ちゃんは何か違っていた。

「…そう」

381D:2004/03/18(木) 20:37
一定のリズムで動いていた時計の音が少し遅くなった。
電池が切れそうになっていた時計。
あたしは時計をそのままにしておいた。

針は止まる。
もうすぐ、止まる。
誰も動かさなければこの部屋で永遠にその時間を刺し続ける。
刻む時が無くなり、その時間を閉じ込めた時だけがそこに残る。

「いいの?」
「いいんだ」

朝が知りたければ朝日を見ればいい。
夜を知りたければ月を見ればいい。
目に見える刻まれる時間はもういらない。
空間と時間を切り取り、一枚の写真に残すように針は止まればいい。
シャッターが押されるのはいつかわからない。
針が止まったと同時にシャッターは押される。
その時間と空間を永遠に収めて、時を止める。

一度変わってしまったモノを無理に戻そうなんて思わない。
だけどあたしは今までと同じようにしてようと思った。
多くは望まない。
せめて今までと同じようにいさせて。
変わってしまったあたしと梨華ちゃん。
それでもいい、それでも少しの間は今までと同じようにして過ごしたかった。

382D:2004/03/18(木) 20:38


     *     *     *     *


その日の月は目が痛い程輝いていたのに、最後の日、目が覚めたら雲と雨が太陽の光りを遮っていた。
あたしは昨日の朝日なんて覚えてなかった。

383匿名匿名希望:2004/03/18(木) 20:39
更新しました。
次回からもっともっとジェットなコースター。
あんまし更新スピード落ちないようにがんがります(多分)

>371 名無し(0´〜`0) 様
妙な不定期更新で申し訳ないです。
そしてジェットコースターになりすぎて
私が微妙に焦っているのは内緒です(・∀・)
手をつけれないでいるのはもっと内緒です。

> 308 様
無くなり過ぎた時間に焦りを感じているのは
中の二人だけじゃないようです(w
私も同じように焦ってみたり、だけど直せないでいたり。
んあー頑張るっす。

> JUNIOR 様
すでに故障してしまったジェットコースター。
突っ走りすぎて脱線しないかが問題ですね(w
いやでももう止まれないです。
私の力じゃブレーキかけれないみたいです(苦笑)

384337:2004/03/18(木) 22:32
>そういえば昔、吉田栄作が出ていたドラマ
>「ジェットコースター悲劇」って呼ばれてましたね(遠い目
どんなドラマだったんでしょうか(汗)
いやー覚えてたりちゃんと見てたのはロン○バケーションくらいなもんで(爆

あんまり覚えてないんですが(^^;)
ジェットコースターのように浮き沈みがあり展開が早い
というような意味だったと思います。
例えるなら、
最近主婦に人気の「牡丹と薔薇」のような感じでしょうかw

385337:2004/03/18(木) 22:36
げっ!感想書くの忘れてた…すみません。

梨華ちゃんが何を考えてるが分かんないから
展開がまったく読めないよぉ。
うーー 続き楽しみです。

386D:2004/03/21(日) 09:23
「雨、強いね」

体が寝過ぎた後のようにダルイかった。
まだ固まっている腕でシャツのボタンをとめながら見た外。
この日降っていた雨は、ここ数カ月のうちで一番強い雨だった。
雨が地面や屋根を叩く音が音楽のないこの部屋にはうるさいぐらいに響いている。
きっとテレビでも付けたら大雨洪水警報なんてのが流れているんだろう。
バカみたいに降り続く雨に思わず笑いがこぼれた。

とっくに止まってしまった時計の針。
その針は深夜で動きを止めていた。
あたしが寝ている間だった。
まぁそれもいいだろう。
その時のことを、あたしは知らない。
だからこそ、それがよかった。

387D:2004/03/21(日) 09:25
「支度出来た?」

振り返ったらシャツのボタンに手をかけている梨華ちゃんが視界に入った。
何か、焦るとかそんなのを感じるんじゃなくて、ただ普通に黒の下着なんだって思った。
妙に冷静な自分がいた。
おかしいな、最後の日のはずなのに、驚く程に心が穏やかだよ。
信じられない感じもするし、何か、現実感がない。
ボタンをとめる梨華ちゃんの手を見つめながらそんなことを思った。

小さい手。
自分よりもずっと小さい手をしている。
その手を綺麗だと思った。
その動き方も、一つ一つの仕種も綺麗だって思った。
目があって、あたしが笑うと梨華ちゃんは何も言わずに視線を外した。
それでいいと思った。
変わる必要なんて何もない。

「トイレ借りるね」

そう言って梨華ちゃんはいつもと同じように洗面所へと消えていった。

388D:2004/03/21(日) 09:25
全ての準備は整った。
あたしも、梨華ちゃんも。
いつものように鏡で服装のチェックをする。
まがっているネクタイを直して、全身に触れて何処に何があるかを確認する。
全てのチェックだ終わった後、あたしは鏡に向かってその辺にあったリモコンを投げ付けた。
音が鳴り、ヒビが入っる。

梨華ちゃんと入れ代わるように洗面所に入り顔を洗った後、そこの鏡にもモノを投げ付けた。
多分、ドライア−だと思う。
まぁ投げるモノなんて何でもよかったんだ。
とりあえず割れてくれれば良かったから。

部屋に戻ると、梨華ちゃんがあたしのことを待っていた。
いつものように背筋を伸ばし、いつもとは違うように髪を下ろして。
数秒間、あたし達は無言で見つめあい、そして先に動き出した梨華ちゃんが玄関の扉を開けた。

雨は、さっきよりも強くなっているようだった。

389D:2004/03/21(日) 09:26
     *     *     *     *


いつどんなスイッチが入っちゃったんだろう。
あたしにはそのスイッチが何処にあったかも、
そのスイッチがいつ入ったかも分からない。

    
     *     *     *     *

390D:2004/03/21(日) 09:27
梨華ちゃんが行きたいと言った場所は、十数年前に起きたテロのせいで廃虚のようになった場所だった。
迷路のように組まれたパイプ、途中で打ち切られた工事の跡、壁の落書きに崩れ落ちそうなビル。

ここは、世間から見放された場所だ。
住めないことはない。
だが、一般人が住み続けられるような所でもない。
奪いあうことで生活をする人々。
死にたくないならここには近付くな。
小さい頃から聞いていて、教えられたことだった。

電車がホームに滑り込む。
この駅に止まる電車は一日に数本しかない。
そのうちの一本に乗ってあたし達はこの場所にやってきた。
時間の感覚はわからなかったけど、数時間は電車に揺られていたと思う。
遠い所に来たんだっていう感覚はなかった。

生まれて初めて来た場所。
幼い頃から聞かされていた言葉や噂。
想像していたよりもそこは暗く、静かな所だった。
聞こえるのは雨と風の音。
わずかな街灯が雨の粒を暗闇から照らしている。

今日は、よく冷える日だ。

391D:2004/03/21(日) 09:28






「…小さい頃に一度だけ来たことがあったんだ」

無人の改札を抜け、突然喋り出した梨華ちゃんの背中を追う。
雨と風ですでに壊された傘は今頃電車の中でまだ旅を続けているはずだ。
ウチらの頭上を守るものはない。
二人して雨と風に打たれながら暗い道を歩いた。

「見ておけって、そう言われて連れてこられた」

鉄の階段に足を置けば音が鳴る。
続く螺旋階段をひたすら昇った。

「何を見せたかったのかは今でも分からない」

壁のなくなったビル。
むき出しの鉄骨が雨風にやられて錆びている。
梨華ちゃんはその壁のない穴まで近付くと立ち止まった。
天井からは雨が降り続いていた。

「それでも、その時、お父様は私の手を握っていてくれた。
 だからこの場所は忘れないでおこうと思った」

392D:2004/03/21(日) 09:28
数メートル離れた所から見る背中。
いつもと変わらない背中。
梨華ちゃんの話しを聞くのは初めてだった。
過去のことも、家庭のことも、梨華ちゃんは何も喋ろうとしない。
それなのに、今あたしは梨華ちゃんの思い出の場所にいて、梨華ちゃんの言葉を聞いている。

いつもは全然話さないくせに。
いつもは単語でしか言葉を返してくれることなんてないくせに。
何で今日に限ってそんな饒舌なのさ。
いつもはあたしが手を引いてるんだよ。
なのにどうしてあたしが背中を追い掛けなきゃいけないのさ。

393D:2004/03/21(日) 09:29
雨の音が聞こえた。
濡れた制服も、濡れた髪も、全部この雨のせいなのに、全部雨のせいじゃないような気がした。
雨が鳴らす音があたしの中に雨を降らせる。
全てを濡らし、全てから温度を奪っていくように。

「今が何時か知ってる?」

雨にかき消されそうな声。
言葉の向く先は外の雨に向かっていたけど、向けられていた先はあたしだ。

「いや、時計とか持ってきてないから分からないよ」

真っ暗だし、起きた時には時計止まってたから。
昼過ぎくらいじゃなかな。
そんな風に思ってたんだけど。

さっきっから話すタイミングをあたしに与えない状態だった梨華ちゃんが、
はじめてあたしにくれた時間。
質問の答えを言うだけに与えてくれた時間。
こんな短い時間じゃ何を考えたって分かりっこない。
というか、考えたって分かるようなことでもない。
時間も、分かりッこない。

394D:2004/03/21(日) 09:30
「もうね、夜なんだよ」
「…まだ起きてから数時間しかたってないのに?」
「ひとみちゃんは、沢山寝てたんだよ」

395D:2004/03/21(日) 09:30
途端、ドクンと心臓が大きく鳴った。
前と同じような白い糸が私の頭の中で動きはじめる。
一本が二本に増え、四方からのびる糸が私の頭の中であたしの足を絡めていく。

改札を抜けた頃から、突然変わったように喋り出した梨華ちゃん。
それは人が変わったみたいで、梨華ちゃんが梨華ちゃんじゃなくなったみたいで。
あたしは、梨華ちゃんを見ているはずのに、そのはずなのに…。

糸が縛る。
あたしの頭の中でもがく。
見えていないはずなのにはっきりと見える糸。
動きが、止まっていくような感覚。

痺れる頭で考えた。
今朝はいつもと同じだった。
今朝?…今朝?

396D:2004/03/21(日) 09:31
起きて体がだるかった理由は?
こんなにも暗い理由は?
今朝ってどうして思ったんだろう。
そうだ、普通に起きたからだ。
だから起きた時間が朝だと思ったんだ。

…電車の時間。
調べたのは梨華ちゃんだ。
知っていたのは梨華ちゃんだ。
あたしはついてきただけ。
時計なんて今日一度も見ていない。

ドクドクと心臓の音が鳴る。
その動きがはっきりと分かる。
いつもよりも強い。
いつもよりも音がデカイ。

「私が、眠らせておいたから」

397D:2004/03/21(日) 09:32
今、あたしの目の前にはあたしの梨華ちゃんがいる。
いつもと同じような表情をしているのに、なのに、突然変わってしまったように
言葉を声に出し続ける梨華ちゃんがいる。


何だろう、この感情。
恐怖?これは恐怖?

さっきよりも大きく音が鳴った。
突然失われた時間に対する恐怖なんかじゃない。
じゃぁこれは梨華ちゃんに対する恐怖なの?
あたしが?梨華ちゃんに?

「ひとみちゃん、出しなよ」

いつの間にか握りしめていた手は、汗をかいていた。
突然現れた梨華ちゃんを梨華ちゃんと認識出来ていなあたしは、
目の前にいるこの華奢な体を持つ梨華ちゃんを怖いと感じている。

『何でだろう』
『どうしてだろう』
この答えは簡単に出てきた。

「銃、私に向けなよ」

振り向いた梨華ちゃんの手にはあたしのとは違う銃が握られていた。




糸が、あたしの体の半分を縛り上げた。

398匿名匿名希望:2004/03/21(日) 09:36
更新しました。
書けば書く程手がかじかんでいくなぁ…

> 337 様
おぉ、そうでしたか。
わざわざすんません。ありがとうございます。
最近は前よりももっとドラマ見なくなってまして、
唯一見てたのも終わっちゃった_| ̄|〇
狂ってきたのは石川さんも私も同じな感じです。
分身みたいに同じな感じですね。

399JUNIOR:2004/03/21(日) 21:10
更新お疲れ様です。
面白いことになってきましたね。
ジェットコースターは止まらずに頑張ってますね!
これからも頑張ってください。

400名無し(0´〜`0):2004/03/23(火) 23:19
梨華ちゃんは何を思ってるだろう…

401D:2004/03/26(金) 20:14
「…なん、で」

流れた時間はどれくらいだろう。
自分に向けられた銃口と、あたしを見る梨華ちゃんが視界に入っている。
やっと絞り出された声は掠れていて、自分でも聞き取りにくいくらいだった。

「私だけがひとみちゃんに銃を向けてるの、イヤなんだよね」

答えになっていない答え。
働かない頭で色々考えようとした。

全部、駄目だった。

402D:2004/03/26(金) 20:15
徐々にあたしを奪っていく糸が思考能力を一気に低下させる。
いや、そんなことがなくても分からなかったかもしれない。
…分からないだろう。
梨華ちゃんがあたしに銃を向けている理由。
梨華ちゃんがあたしの銃の存在に気付いてる理由。
今、ここにいる意味。
梨華ちゃんがあたしをここに連れてきた意味。
何で雨が降っているのかも、どうしてあたしの手が銃を掴んでいるのかも、
全部が全部、分からない。
それはこの糸のせいじゃない。
知らないから分からないんだ。

「安全装置外して」

動く指、見つめる先、向けられる先、意思とは関係なく動く体。
震えていた。
銃に対する恐怖心。
そして梨華ちゃんに対する恐怖心。

403D:2004/03/26(金) 20:16
「まだね、時間は残ってるんだ」

分からないよ。
梨華ちゃん、分からないよ。
時間って何のこと?
あたしの時間のこと?
それとも梨華ちゃんの時間のこと?
何を知っているの?
あたしの、何を知っているの?
怖いよ、どうしたのさ突然。

「だから、教えてあげる」

一体いつ何処でスイッチが変わってしまったんだろう。
数十分前まで知っていた梨華ちゃんは突然姿を消してしまっていた。
だってあたしはこんなに喋る梨華ちゃんなんて知らない。
ただ怖いという感情があたしの体全部を縛りあげている。
言葉が出てこなくて、呼吸すら忘れそうだ。
恐怖で歯がガチガチ鳴る。
寒さも加わって手も震える。

突然の梨華ちゃんの変化についていけなくて、突然のこの出来事にあたしは対応出来てない。
そしてあたしの自由を奪おうとする白い糸があたしを暗闇の中へと引きずり込もうとする。

404D:2004/03/26(金) 20:17
真っ暗な世界を雷が一瞬照らした。
照らされた世界で、濡れた梨華ちゃんがハッキリ見えた。
そして一瞬消える白い糸。

「お互いにね、残された時間は同じなんだよ」

何処かに雷が落ちた。
遠くで、雷が落ちた。

「与えられた時間もね」

空の引き出しは何を記憶していたんだろう。
止まった時計は何を記憶していたんだろう。
ひび割れた鏡は何を映していたんだろう。

「お父様がね、ひとみちゃんに私を殺すように頼んだこと、知ってたんだ」

右手から汗と雨で銃が落ちそうになった。
重い、すごく重い。
腕が痛い。
濡れた所から熱が奪われていく。
背中を流れたのは雨じゃない。
痺れているのは頭だけじゃなかった。

「教えてあげる。知らないままでいたくないだろうから」

405D:2004/03/26(金) 20:18
はじまりを告げる鐘が一つ鳴った。
その鐘に反応した糸が姿を消す。
暗闇に溶け込み、一つあたしを自由にする。
でも、真上に伸ばされた梨華ちゃんの手がもう一度こっちを向き、あたしは泣きそうになった。
痺れているのも自由になれないのも白い糸だけじゃない。
恐怖心は銃と梨華ちゃんだけに向けられているワケじゃないんだ。

怖かった。いや、今も怖い。
結局、あたしは決断なんて出来ていなかったのだ。
心なんて決まっていなかったのだ。
ギリギリまで一緒にいて、真実を告げて自分は死のうと思ってた。
思ってただけだった。
覚悟が出来ていなかった。
だから泣きそうなんだ。
だから、銃口を自分の方に向けることが出来ないんだ。
怖かったんだ。
だから、ずっと逃げていたんだ。

406D:2004/03/26(金) 20:19
「ひとみちゃんが私を殺さないと、ひとみちゃんはお父様達の手によって殺されてしまう。
 ひとみちゃんが私を殺さなければ、ひとみちゃんと私はお父様達の手によって殺されてしまう。
 期限は一週間。その間の一週間はひとみちゃんのこと守ってあげる。そう言われたんでしょ?」

頷くことなんて出来ない。
目の前が歪んでて全身に力が入らない。
頷けば流れそうになる涙が目の中で泳いでいる。

「ひとみちゃんは、お父様に呼ばれる前の日に見たよね。
 数人の人と、人として生きていた人。
 あれね、私が少しだけお世話になったことのある人達なんだ」

静かだった一週間。
その静けさの理由が目の前に見えた。
梨華ちゃんの言葉だけが綺麗に通って頭に響く。
通り抜けることなくあたしに理解しろと言ってる風に響いてくる。

407D:2004/03/26(金) 20:19
「私は言われたの。
 一週間以内にひとみちゃんを殺せ。
 私が殺さなきゃひとみちゃんは私以外の人に殺される。
 そして私も殺される」
 
残されたのは同じ時間。
与えられたのも同じ時間。
ただ与えられた条件が梨華ちゃんの方が一つ少なかっただけ。
辿り着く先に未来なんて開かれていなかった。
一人でも、二人でも、どっちも未来の保証なんてされてなかった。
甘く見ていた未来はあっという間に打ち壊された。

「私がひとみちゃんの話しを聞いたのは、ひとみちゃんがお父様に呼出された次の日だった。
 小さい頃から私の世話をしてくれてる人が教えてくれたの」

408D:2004/03/26(金) 20:20
壊れた鏡。
あれはあたしだ。
いや、あたし達なのかもしれない。
真正面を向いても道はなく、いつでも途切れてる点の上に立っている。
それは、あたし達だったんだ。

「偶然だよね、すごい偶然。 
 お父様達も、私のお世話になった人達も、私達がお互いにお互いの命の選択を
 しなきゃいけないことなんて知らないんだよ」

突然、梨華ちゃんが小さく笑い声を漏らした。
梨華ちゃんの笑い声なんて聞いたことがない。
だからそれを発しているのが梨華ちゃんだって気付くのに少し時間がかかった。

「どうせお互いに後1年ももたない命なのにね」

409D:2004/03/26(金) 20:20
もう一度雷が鳴った。
今度雷が落ちた場所はここから近いみたいだった。
響いた振動で屋根から砂のコンクリートが雨に混じって降ってきた。

「混乱してるよね?当たり前だよ。分かるはずがないもん。
 私だってひとみちゃんと同じ立場だったらきっと何も分からない」

もう一度鐘が鳴った。
梨華ちゃんは腕をもう一度上から私の方に向けた。

「でもね、聞かせてあげる。教えてあげる。
 それから、選ばせてあげる」

一つ鐘が鳴るごとに痺れていた頭が正常に機能する。
鳴らされた鐘はこの意味があるんだろうか。
それとも、鐘を鳴らしたいだけなのだろうか。
まだ歪んだままの視界。
頬を濡らすのは雨だけじゃなかった。
冷えていく体で心臓の音だけが力強く熱を持っていた。

考えることも、理解することも、考えをまとめることも、あたしはもう出来ていなかった。

410匿名匿名希望:2004/03/26(金) 20:29
更新しました。
ageちゃった…orz

> JUNIOR 様
私はすでに混乱状態です(苦笑)
なんか一緒になってきました。
沢山、一緒になってきました。
止めれないっすね、とめる気もないですが(w

>400 名無し(0´〜`0) 様
どっちも、きっと沢山思ってたり、思おうとしてるんだと思います。

411名無し(0´〜`0):2004/03/26(金) 22:47
うわぁ…
梨華ちゃんと家族の関係とか
これから「ドーナルンデスカー」。
救いはあるんでしょうか。

412D:2004/03/30(火) 18:24
「ひとみちゃん、手の甲にあるチップの意味って知ってる?」

チップの意味…。
この、チップの意味。

「…身分証明書。生きる為に必要なモノ」

それがどうしたの?
こんなの誰だって知ってるじゃん。
子供だって知ってるよ。
何で、そんなこと聞くのさ…。

自分の声が震えている。
掠れるような声は、まるで自分声じゃないようだ。

「まぁ、当たりじゃないけど、外れでもない答えだね」

腕が痺れてきた。
カタカタと銃が震え、腕は下へ下へと落ちていく。
あたしの動きを見ていた梨華ちゃんも一度銃をあたしからずらし、
地面の方へと銃口を向けた。

413D:2004/03/30(火) 18:26
「この子達には名前があるんだよ」

梨華ちゃんは銃を持っていない方の手で銃を持っている方の手の甲を触れた。
最初は優しく。
まるで赤ちゃんに語りかける母親のように。

「名前はね、『D』って言うの。
 生まれながらにして運命を決められた子、運命を選べない子。
 私の中にいるこの子は一つの母親から生まれた大量の子供のうちの一人。
 そして、Dはひとみちゃんの中にもいるの」

梨華ちゃんの言葉、何一つ理解できなかった。
『D』?
一つの母親から生まれた大量の子供?
言ってることを理解できなかった。

「Dの母親はDの父親を必要としない。
 だってDは作られた子供達だから。
 Dは母親から出てくると父親の中に埋め込まれたんだよ。
 だから、父親はDを持つ私達。
 私も、ひとみちゃんもDの父親」

414D:2004/03/30(火) 18:27
梨華ちゃんの右手の甲に震えている手が一瞬、動きを止めた。
あたしに視線を投げ、理解しているかどうかを確認する。
できるはずがない。
理解なんて。
すぐに信じろなんていう方が無理なんだ。
そう思うあたしがいるのに、あたしの右手の甲は梨華ちゃんの言葉に反応するように動いた気がした。
思うことなんて関係ない。
聞け、そして理解しろ。
何処からかそう言われてるみたいだった。

「Dが開発される数年前から、日本の全国民に対してチップの埋め込み作業が行われたの。
 老若男女問わず、全国民に対して。
 身分証明書と同じ扱いになる為、このチップの埋め込みを拒否したモノは、
 自らの身分を全て失うことになる。
 それは存在しないということ。
 一人では生きてはいけないということ。
 最初から選択肢なんて誰にも与えられてなかった。
 それでも埋め込まれることを拒否する人達だっていた。
 自分の存在を証明出来ないその人達は働けず住む場所も与えられない。
 だから埋め込み作業が始められた当初、街には人が溢れたんだって。
 ホームレスって言われてる人達は、その時街に溢れた人の生き残りなんだってさ」

Dが開発される前?
チップは全部Dじゃないの?
考えだそうとしたらまた白い糸が視界に入ってきた。

415D:2004/03/30(火) 18:27
「Dはね、日本にしか存在しないの。
 この国だけで作られて、この国だけで埋め込まれたの。
 チップをわざわざかざす理由。
 それは人の識別っていう理由もあるけど、Dを持っている人達にはそれ以外の理由もあるんだよ。
 母親であるメインコンピューターはね、全ての子供の監視をしているの。
 学校とかでチップをかざすのは、個人の証明ではなくDにエネルギーを与えるため。
 母親が子供であるDに必要な栄養を届ける為なんだよ」

雨の音が聞こえなくなってきた。
感じるのは雨の落ちてくる感触なのに、音だけが急激に遠ざかっていく。
梨華ちゃんと捕らえていたはずの視界が白く埋まっていく。
急激に体の力が抜けて、暗闇に引きずり込まれそうになった時、また鐘の音が聞こえた。
鐘が鳴る度びあたしは暗闇から抜け出ることができる。
梨華ちゃんは、そういうことも知ってるんだろうか。
倒れそうになる体を、少し力の戻った足で支えた。
それを確認した梨華ちゃんはまた喋りはじめた。

…知ってるんだ。
そう、思った。

416D:2004/03/30(火) 18:28
「私達の病気に対す免疫抵抗力は全てDがあるからあるものなんだよ。
 つまりDがなくなると免疫に対する抵抗力が一気に低下する。
 だから私達はDがなくては生きていくことが出来ない。
 そして子供であるDは父親からエネルギーをもらい成長していくの。
 母親からもらう栄養は病気に対する免疫抵抗力だけだから。
 だからDは私達がいないと生きていけないの。
 じゃぁDが生まれた理由は?
 何でDが生まれて、私達はDを育てているんだろう。
 そんなのは、考えることじゃなくて、知ることだった」

梨華ちゃんは動きを止めていた左手の爪を右手の甲に突き立てた。
破れた皮と肉から流れ出した血が、雨で薄められて梨華ちゃんの足元へと流れていった。
あたしは梨華ちゃんの話しを聞きながら、流れる梨華ちゃんの血を見ながら、
同じように右手の甲に爪を立ててみた。
痛かった。

「Dは父親の経験を記録するの。
 そしてDは父親の中で大人へと成長していく。
 その成長スピードは父親と全く同じ。
 私達が年をとれば、同じ分だけDが年をとる。
 20歳くらいまで成長して大人になったDは徐々に脳を支配していくの。
 もちろん、それは父親の脳。
 生まれてDを埋め込まれた次点で、Dの支配は始まるはもう始まっていたんだ。
 Dは取り込もうとするの。人や、自分の欲望の対象となるモノを。
 自分っていうのは、自分であってDであるんだって」

417D:2004/03/30(火) 18:29
思考の遅れ、自由のきかない体。
考えることが散らばり、回収することも出来ない。
遠ざかる意識も、見える糸も、それはあたし達の中にDがいるから。
そう言う梨華ちゃんの言葉が、突然重くなった気がした。
今までとは違った重みが突然出てきた気がした。

「Dを開発した理由。
 それは人が人を生み出す為の技術。
 つくり出すことなく新しい人を作りだす為の実験。
 簡単に言うと人体実験。
 実験の対象となったのは2185年生まれの子供達。 
 私達が生まれた年の子供達だった」

最近、あたしがよく見る夢。
そしておかしくなっていったあたしの体とあたしの思考。
それは全部こいつのせい?
痛んだ右手にもっと爪を食い込ませた。
 
「ひとみちゃん、最近白い糸がよく見えるでしょ?
 これってね個人差があるんだけど、時期が皆のよりも早く来たのはひとみちゃんが混乱してたから。
 色々なことがありすぎてそれについていけなくなって、脳が混乱してたからだよ。
 Dは手を伸ばしやすかったんだよ、ひとみちゃんに。
 だから私よりも先に強く症状が出てきたんだと思うよ」

418D:2004/03/30(火) 18:29
彼女の爪が右手の皮を少し剥いだ。
痛みや大きな音はDを遠ざける力があるんだそうだ。
弟との関係を持った日、一度白い糸を見た梨華ちゃんが、怖くなって自分の腕を
傷つけた時に発見した方法らしい。

「Dが父親である私達を支配するのももうあとすぐ。
 だから私達は生きているけどもうすぐ死ぬの。
 でもね、Dももうすぐ死んじゃうんだよ」

さっきよりも多くの血が流れていた。
いつも無表情に近い梨華ちゃんの顔が、歪んでいた。
それは痛みからくるのもなのか、それとももっと違うことなのか。
梨華ちゃんじゃないあたしには分からない。

「Dの母親であるメインコンピューターが死を迎えようとしているんだって。
 突然現れたウィルス。
 それによって母親は病気にかかっちゃったんだってさ。
 ウィルスが現れたのはつい1年前。
 急激にバグが増え、その活動を一時停止することが多くなったらしいよ。
 化学者達の技術で延命処置が行われたが、もう限界地点。
 1年前にわかった人体実験の失敗。
 そして私がそれを知ったのは2週間前だった」

419D:2004/03/30(火) 18:30
2週間前。
あたし、そん時どうしたんだっけ。
何してたんだっけ。
…覚えてないや。

「母親から与えら続けていたエネルギーの供給が出来なくなるとDは活動が出来なくなるの。
 だから母親を失えばDは死ぬ。
 そしてDを失うこの世代の人ももう生きれない。
 Dに体と脳を支配されても、Dは平均で言うと数カ月しか生きれないんだって。
 そしてDに体と脳を支配されなかった人も、Dを失うと1年くらいしか生きることが出来ないだってさ。
 体の免疫力が極端に低下するから、もって1年なんだって」

…さっき梨華ちゃんが言っていた後1年ももたない理由の説明。

「失敗とわかれば手放すことなんて簡単だよね。
 だってどんな手を使っても母親を治すことなんて出来なかったんだもん。
 バカだよね、自分の力以上のことをしようとするからこんなことになるんだよ。
 今政府はこの失敗をメディアにばらされないように、そこだけに必死になっている。
 無理に決まってるじゃん。
 そんなの、分かってるはずのに必死になってるんだよ。
 バカだよ、本当にバカ」

420D:2004/03/30(火) 18:30
雨の音が聞こえてきた。
その雨の音に消されるような声で、梨華ちゃんは『でも、どうでもいいんだけどね』そう言った。

「他のチップと同じように、チップのベースは全て同じ。
 違うのはそれがDなのか、Dじゃないのかだけ。
 違っているようで、実は全て同じなんだよ。
 Dは父親がいても母親がいないと生きていけない。
 他の人達はDににせたただのチップを埋め込んでいるだけ。
 それはDを埋め込まれた人が不審がらずに普通に生活をする為。
 手首を切り落としてDを取り出しても何の意味もないんだって。
 殺されたDはそこで死ぬから。
 二度と生き返らないから。
 D意外のチップは書き換え可能だから犯罪は減らないでしょ?
 でもDだけは死ぬと書き換えは出来ないんだってさ」

梨華ちゃんが大きく息を吸った。
そして白い息を吐き出してあたしを見た。

「母親はもうすぐ死ぬ。
 そして子供ももうすぐ消滅する」

421匿名匿名希望:2004/03/30(火) 18:34
更新しました。
混乱しました。
ストックきれました。
頑張ります。
そして改行とか少なくて読みにくかったらごめんなさい。

>411 名無し(0´〜`0) 様
一応、脳内では出来てきてるんですがついていかないんですorz
それも書いてるうちに舵がきかなくなって暴走とか。
私にもどうなるかは分かりません(苦笑)
救い、そうですね…あることを願っています。

422D:2004/04/02(金) 21:38
あたしがジッと梨華ちゃんを見ていると、梨華ちゃんはうっすらと笑顔を浮かべた。

「私がこんなに話すとおかしい?私だって話すことがあれば話すわよ」

少し興奮気味なんだろうか、梨華ちゃんはこんな寒い日なのにも関わらず
頬が少し赤くなっていた。
赤い頬とは違い紫色に変わっている唇。
震えすら隠して、梨華ちゃんは今、あたしを見ている。

「理解する方が無理だろうけど、何も知らずに死んじゃうのはイヤでしょ?
 だから聞かせてあげたの。だから教えてあげたの」

あたしは今さらながら、梨華ちゃんってこんな声してるんだよなって思った。
ちょっと高くて、あたしよりもずっと高くて、普通の女の子よりも高いんだなって。
梨華ちゃんがあたしに聞かせてくれたこと。
全然分かんないし、今だってはぁ?って感じだけど、梨華ちゃんは、きっと嘘なんてついてない。
嘘をつく理由がないから。
こんなことを考えられるあたしの頭はやっぱり単純でアホな作りをしているんだろうか。
分からない、考えられない。
だけど、無性に笑いたくなってきた。
お腹から声を出して、雨に混じって大泣きして、叫びたい気分だった。

423D:2004/04/02(金) 21:39
「知りたい?私のこと。もっと知りたい?」

知れば近付けると思ってたのに、知れば知る程遠くなっていく。
笑えばどうにかなっただろうか。
大声で叫んで、大声で泣けばどうにかなったんだろうか。

「ひとみちゃんの知らない私のこと。もっと、もっと知りたかった?」

あたしは分からない。
その時どうしたら今はこうなってたかも。
そんなこと全然分からない。
今のあたしは泣くのを我慢して、叫べなくて、笑えなくて、泣けなくて、
梨華ちゃんから言われる言葉も理解できてなくて、質問にも答えられてない。
その時どうしたらの、どうしたらの部分なんて何も出来ていない。

「私にひとみちゃんを殺せって教えてくれた人達が私に薬をくれたこととか、
 私がこんなにも色々な情報を知ってる理由とか、もっともっと、もっと知りたかった?」

424D:2004/04/02(金) 21:40
分かること。
分かること。
分かること。

「買えない情報はないの。調べられないことなんてないの。
 侵入することだってできるの。私はできるの、色々なこと。
 私は知ってるの、色々なこと」

今のあたしに分かること…

「殺したいくらい憎いヤツがいて、吐き気がする程気持ち悪い思いして体を抱かせて、
 何となく入り込んだ所で知らないこと知って、自分の命の残りを知って、
 抱かせた体に爪を立てたの。バカな自分。ほっとけば消えるのにわざわざ受け入れたんだよ
 洗っても消えない感触とか、眠れば夢に出る息の熱さとか、全部、バカみたい」

感情。
そう呼ばれるものがやっと見えてきた梨華ちゃん。
分かること、分かること…

「知りたい?私に。触れたい?私の体に。 
 汚いよ、すごく。ひとみちゃんが思ってる程私は綺麗じゃないの。
 私は綺麗なんかじゃないの!」

425D:2004/04/02(金) 21:41
雨は相変わらず強く降り続いている。
吐く息は白く、冷えた体は背筋から全身に震えを送っている。
数メートルの距離で吐き出される白い息。
初めて聞いた大きな声。
泣きたいのに泣けない梨華ちゃんの声。

「何も知らないくせに!私のこと何も知らないくせに!!
 両親に愛情なんて注がれた記憶なんて残ってない!いつも主人の娘だからっていうことだけで
 お嬢様よばわりされて、弟には性の対象でしか見られたことなかった!!
 ひとみちゃんみたく家族に愛されて育ったワケじゃない!!!
 何で私に近付いていたのよ!何で私にかまったのよ!!
 何で私の手をとったの!!何で私のこと好きになるのよ!!!」

肩を震わせ、頬を雨が伝い、全身がずぶ濡れになっている。
それはあたしも梨華ちゃんも一緒。
分からないことだらけじゃない。
もう、分からないことだらけじゃない。
分かること。
それは…今、目の前にいあるのが、梨華ちゃんの心の奥にいた梨華ちゃんだってこと。

426D:2004/04/02(金) 21:41
息をしているのも梨華ちゃん。
叫び声のように言葉を吐き出すのも梨華ちゃん。
本当は、怯えているのも、梨華ちゃん。
涙が止まらないのに、怖いのも止まらないのに、震えだって、全部、全部止まらないのに、
なのに、なのに…あたしは梨華ちゃんを欲している。
これはあたしなんだろうか。
これはDなんだろうか。
DはDに惹かれ、あたしは梨華ちゃんに惹かれているのだろうか。
あたしの小さな考えは、答えを出す前に雨に流されていったようだった。

「私は…私は愛される人間じゃないの。
 でも、愛されたいの…愛されたかったの…。
 ずっと、ずっとずっとずっと…触れたかったのに、触れたくなかった。
 怖くて、ずっとずっと怖くて…」

怯えていたあたしと、ずっと怯え続けていた梨華ちゃん。
溢れていた涙はやがて止まり、乾いていた唇は雨で濡れて水分を含んでいった。
数メートルの距離は腕を伸ばしても届かない距離。
雨が流したあたしの考え、そして流れたあたしの怯え。
流れた?
…流れた。
分からないけど、あたしは、今のあたしは…怯えてるんじゃなくて、欲してる。
体全体で梨華ちゃんを欲しがり、持ち上げた両腕で梨華ちゃんを掴みたいと思ってる。
あの細い体に、あの細い首に手を回したいと思っている。
必要なのはこんな黒くて重いものじゃない。
本当に必要なものはあたし自身と、目の前にいる梨華ちゃんだ。

427D:2004/04/02(金) 21:42
「ひとみちゃんは…熱すぎたの。私には大きすぎたの。
 欲しかった。欲しくなったの、私はひとみちゃんを。
 でも…でも熱すぎた。私には熱くて、大きすぎて、掴めないって分かった。
 掴んじゃいけないんだって、分かった」 

静かに吐き出された白い空気。
それは言葉というよりも、空気だった。
放てば溶けてしまう。
放たれた言葉には言葉というモノが残されたワケじゃない。
ただ、発して、溶かしてしまう。

奪い合うはずの立場にいるあたし達。
この状況を見たら人はどう思うのだろう。
雨も雷も風も止まることなく降り続けている。
背中の先に見えるはずの世界は雨によって見えなくなっている。
後ろに見えない世界。
もう、見えない世界。

428D:2004/04/02(金) 21:43
なら欲しい。
ただ、欲しい。
お互いに欲しがっている。
あたしと梨華ちゃん。
DとD
全てが欲しがっているんじゃないかと思う。

狂ってる?
違う、そんなはずない。
狂ってなんかない。
あたしはただ、欲してるんだ。
ただ、欲しいだけだ。
子供のように、我がままを言う子供のように梨華ちゃんを欲しいと思ってるだけだ。
全てを手に入れられるなら…そう、全部を手に入れられるなら…。

429D:2004/04/02(金) 21:45
雷が鳴った。
照らし出された梨華ちゃんの顔には、血管のように浮かび上がった筋のようなモノがいくつも走っていた。
もう一度雷が鳴った。
伸ばした両腕に、筋が浮かび上がっていた。
近くに落ちた雷の音で、あたしの腕からも、梨華ちゃんの顔からも細い筋は消えた。

目の前で、梨華ちゃんは泣いていた。

430匿名匿名希望:2004/04/02(金) 21:45
更新しました。
もうすぐなのに手が届かないなぁ…

431名無し(0´〜`0):2004/04/02(金) 23:26
私の頭の中には糸はないと思うのですが
難しくてあんまり理解できてません(^_^;)

2人とも、欲しいなら手に入れろ〜

432JUNIOR:2004/04/03(土) 00:59
更新お疲れ様です。
私も吉澤さんと同じで頭が単純でアホのつくりをしてるので、
難しい事は理解できません。

この際、2人とも欲望に任せて突っ走ってしまえ。

433D:2004/04/04(日) 21:47
小さいと思った。
あたしが思っていたよりも、ずっと、ずっと目の前にいる彼女が小さいと思った。
震えている肩も、掴みたいモノを掴めない手も。
涙を流しているのは梨華ちゃんなのかな。
それとも、Dなのかな。

欲しいと思っていたあたし。
梨華ちゃんが怖いと思っていたあたし。
それはあたしで、それはD
ずっと一緒だった。
何処までも一緒にいなければいけない。
あたしはDで、Dはあたし。
ならばDで欲しいと思った心はあたしの心。
伸ばした手も、かけた手も、欲したモノも、全部、全部あたしが望んだもの。

434D:2004/04/04(日) 21:48
突然世界が広がった。
脳味噌を打ち抜かれたような衝撃が走り、空が大きく開けた。
同化していくような感じがした。
糸と、あたしが。
溶け込んでいくような気がした。
消えていくように、溶けていくように。

Dをあたしと考えたあたしに訪れたこのどうしようもない興奮感。
並べられた言葉と、はがれ落ちていく梨華ちゃん。
向けられている銃から弾が飛び出せばあたしは死ぬ。
死ぬ…死ぬ。
あたしはあたしのままで死ぬ。

導き出される矛盾。
支配されていく体。
怖いのに、震えているのに笑みが浮かぶのは何でだろう。
こんなにも興奮するのは何故だろう。

435D:2004/04/04(日) 21:48
「…時間、もうないね」

さっきまであんなに怯えていたのに。
感情の起伏が激しい。
抑えられない涙。
震える熱い体。
怖いはずなのに、あたしは笑っている。

「ひとみちゃん」

言葉を発しない代わりに頭の中で飛び交う言葉。
温い川に足を入れているような感覚。
心地よい。
何処までも、流れていけそうだ。
笑える。
今は、笑える。
目を閉じたら広がる青くて、薄い雲が伸びてる空。
両手を天に伸ばせばあたしは空へと飛んでいける。

瞼を閉じて冷たい雨を受けた。
落ちてくる雨が瞼や肌を刺激する。
震えた。
でも、もう少しこのままでいたい。

音が流れ、体が流れ、あたしはこの川の流れと一緒に溶けていける。
両足だけではなく腰まで川に浸かろう。
きっと、もっと気持ち良いはずだから。

436D:2004/04/04(日) 21:49
全てを委ねようとしたら、もう一度落雷があった。
消えたビジョン。
遠ざかる興奮。
目を開けて、天から視線を戻したら、梨華ちゃんがこっちを向いてニコリと笑った。

「選ばせてあげる、最後の運命」

覚醒。
そう言うべきなのか。
犯されていたDからの覚醒。
抜かれた直後のような感覚が脳に走り、体はあたしが支配をする。
見えたつながり。
見えた境目。
あたしはDで、Dはあたし。
一体となればそのまま沈み、あたしはあたしにさよならを告げる。
単純なことだった。
簡単なことだった。

437D:2004/04/04(日) 21:50
「後一年生きたい?それとも今すぐに死にたい?」

これはDがあたしに教えてくれたことなんだろうか。
それともあたしが気付いたことなんだろうか。
考えれば考える程あたしとDは一緒になろうとする。
興奮の波が体を襲い、全てを委ねたくなる。

…駄目だ。
今は、まだ駄目だ。
こんな笑顔をする子をおいてあたしは消えていいはずない。
そんなのあたしがあたしを許せない。
気付いた時間。
残りの時間。
切るな、自分で。
終わらせるな、この波で。

口の中を噛んだ。
広がった血の味。
遠ざかる興奮。
目の前に見える子を見つめ、あたしは震えた。
あたしは心の底から震えた。

438D:2004/04/04(日) 21:50
いつも見たいと思っていた笑顔。
泣きながら笑った顔。
どうしただろう、どうしてこの子はこんなにも頑張るんだろう。
泣きたいなら笑わなければいいのに。
笑いたければ笑えばいいのに。

悲しい子。
そして優しい子。
何でもっと早く気付かなかったんだろう。
こんなに、ずっと一人で怯えていた子のことを。
どうして怖いと感じていたんだろう。

震える瞼を一度閉じた。
時間は、もうあまりない。
この言葉がぐるぐる回るあたしの頭。
理解している。
きっと、理解しようとしている。
感じることを理解しようとしている。
本能が気付いたことを脳が理解をしようとしてる。

439D:2004/04/04(日) 21:51
あたしはまだ何も言ってない。
あたしはまだ何も答えてない。
独りぼっちを抱えたままでずっとうずくまっていたこの子に何も伝えてない。
掴んでない。
触れてない。
このままでいいはずがない。

「どっちにせよ、あなたは私を忘れ、私もいつかあなたを忘れる」

カチリと何かが鳴った。
雨音が突然大きくなった。
体を叩くように降る大粒の重たい雨。
感覚を無くすには丁度いい温度。
声が遠くなる。
距離は変わっていないのに、声が遠くに聞こえるようになった。

「生きるのと死ぬのってさ、どっちが苦しいんだろうね」

440D:2004/04/04(日) 21:52
泣いて、泣いて。
本当の笑顔も見せない。
微かに聞こえる声。
呟き。
生きていると死ぬの?
そんなの分かるはずないじゃん。
だってあたしは今生きてるんだもん。
死んだ後のことなんて分かるはずがない。
言いたいのに、何で声が出ないんだろう。
どうして、涙は溢れてくるんだろう。

「0時を回らなけばまだひとみちゃんはお父様に守ってもらえる。
 私が死んだのが分かれば私の上にいる人達がひとみちゃんを殺しにくる。
 簡単だよね、撃ち合いが始まるんだもん。
 ひとみちゃんはその間にここから逃げればいい。
 抜けれる道があるの。
 それを教えてあげる。だから逃げることはできるよ」

441D:2004/04/04(日) 21:52
機械的な言葉。
いつから考えられていたんだろうか。
こんな文章を作り上げ、読み上げる。
いつから、こんな風に思ってたのか。
どうして、こんなことをあたしに言うんだろうか。

…違うでしょ。
こんなの違うでしょ。
何で笑うの?何で泣くの?
どうしてそんなに震えないの?

声を出そうとしてるのに喉の奥で全てが消える。
あたしの出ない声。
この雨の音と風の音じゃ、この声が出たとしても聞こえるはずない。
それなのに、どうして梨華ちゃんの声はこんなにも真直ぐあたしの耳に届くんだろう。
梨華は銃を構えたまま、小さく呟くように漏らした声なのに。

「途中まで、計画通りだったんだけどな」

442D:2004/04/04(日) 21:53
吐き捨てるように呟く言葉が雨の間を縫っていく。
捨てられた言葉を拾ってあたしは耳からその言葉を聞く。
跳ね返り、壁で溶け、雨に流され、風に飛ばされる。
想いや気持ちはそうして言葉から逃げていった。

「最後の最後でひとみちゃんのこと…」

だからそういう言葉は届かないんだ。
雨音に負け、風の叫び声にひれ伏すから。

「選んで、早く」

笑う、泣く、叫ぶ、怒る。
全てを押し込めて今まで生きてきた梨華ちゃん。
あたしに答えを見せてくれた。
あたしに教えてくれた。
沢山のことを。
なのに、あたしが選ぶの?

強い風が吹いて壁からコンクリートが飛んできた。
痛み。
あたしは、まだ痛みを知っている。
痛いということを知っている。

443D:2004/04/04(日) 21:54
覚悟しよう。
そう思ったワケじゃない。
でも、自然と決まったあたしの心。
落ち着いている。
心臓の音はいつもと同じリズムで血液を送りだしている。

散らばった言葉。
繋がらない文章。
まとめられない言葉と気持ち。
繋がるはずない。
言いたいことも、聞きたいことも沢山あるんだから。
そうだよね?…そうだよね
求められているのはこんな答えじゃない。
きっと、こんな答えじゃない。

「…どうして、人は生きているんだろうね」

444D:2004/04/04(日) 21:54
求められているモノに答えていないあたし。
ずっと、ずっと逃げていたあたし。
伝えなきゃ。
言葉にしなきゃ。
これは独り言じゃない。
これを独り言にしちゃいけない。
今ぐらい、いつもの吉澤ひとみと石川梨華に戻ろう。
背中を追って。
手を引くから。
いつもみたく、前みたく。
出来るよな、あたし。
出来なきゃ、あたしはあたしでいる意味がない。
ここに立っているのがあたしでいる意味なんてない。
伝えるんだ。
あたしが、梨華ちゃんに。

「…に、なるためだと思うよ」

本当のところなんて分からない。
あたしもまだ知りたい途中だから。
でも、今思ったこと、言葉にするから。
一人じゃないよ。
あたしがいるよ。
だから聞いて。
だから、聞いて。

あたしはあなたのことが欲しい。
Dも、あたしも、吉澤ひとみはあなたの全てが欲しい。
この数メートルの距離を縮め、その体も心も全てが欲しい。

「×××、×××××××××」

梨華ちゃんが笑った。
梨華ちゃんが泣いた。
だからあたしは笑って引き金を引いた。

445匿名匿名希望:2004/04/04(日) 21:58
更新しました。
後戻り出来ないくらいに自分を追い込みたくなりました。
だから生まれたてのDを更新しました。
勢いがないとこの先ずっと更新しない気がしたので。
そして突然ですが、次回からside Rです。

>431 名無し(0´〜`0) 様
私も書いてる途中からすでに混乱していました。
だからこそDになったのかなぁとも思いますね(苦笑)
人間くさいようで人間くさくなくなってしまいましたが、
分からないことがあってもいいんじゃないかと思ったのもあります。
自由です。
きっと、考えるのも、理解するのも。
だから混乱しちゃって下さい(w

> JUNIOR 様
私も単純でアホ野郎なので難しいことは全然分かりません。
でも、だから悩んで生まれてこんな風になってきたのかなぁと思います。
欲望。
突っ走ったら何に辿りつくんですかね(w
踏み出したらいつも道が消えるのは、Dを生んでる最中の私も同じでした。
ついでに今だってそんな感じです(苦笑)

446JUNIOR:2004/04/05(月) 21:38
んん!?なんて言ったんだー!!想像すればいいんですか?(想像中)
引き金引いちゃだめだYO。早まっちゃだめだー!!
きっと欲望も踏み出す道も駆け出すためにもあって通りすぎたら、
消えるものなのかもしれません。(えらそうな事言うガキですいません)

447D-R:2004/04/23(金) 20:47
***


最初は、キライだった。


***


幼い頃、私は独りじゃなかった。
お父様もお母様も周りの皆も私を見てくれて、私を愛してくれてた。
記憶に残っていないそんな思い出は数少ない写真が教えてくれた。

物心つく頃から、私の記憶にいる親はカタチだけの親だった。
お父様の跡を継げない私。
お父様の跡を継げる弟。
簡単な未来地図を目の前に広げられ、私は独りになったのだ。
訊いたのではなく、そう、理解していた。

育ててくれたのは小さな頃からずっと私の身の回りの世話をしてくれてた人だと思う。
叱ってくれた。
褒めてくれた。
私が家の中にいる時間だけは私を人として扱ってくれた。
都合のいいように組み替えてるかもしれないけど、私の記憶にはそう残っている。
いや、そう残そうとしているのかもしれない。

448D-R:2004/04/23(金) 20:48
一歩家の外に出れば、私は名前だけのお嬢様から解放される。
でも、解放されたって何が変わるワケでもなかった。
皆私を見ようとしない。
表にだけ目を向けてはすぐにそらす。
その行為は『見る』ではない。
そう、感じていた。
だから私は常に独りだった。
どこにいたって独りだった。

良い子になれば振り向いてもらえるのだろうか、悪い子になれば振り向いてもらえるのだろうか。
そんな風に思ったことなんていうのはなかった。
無理って感じてたから。
無駄って感じてたから。
繋ぎたかった手はそんなことしてもやってこないって、そう、わかってたから。
掴んだスカートの裾はいつしか薄くなり、ほつれ、そして穴があいていた。
そのスカートは、やがて消えてなくなっていた。
捨てた記憶はない。
だから、きっと捨てられたんんだと思う。

昔から人と上手く付き合うことが出来なかった私は話すことも、遊ぶことも、
どんな風にしたらいいのか分からなくて、いつも二重の窓から同年代の子達が遊ぶのを眺めていた。
春も、夏も、秋も、冬も。
ずっと、眺めていた。
一人で、眺めていた。

449D-R:2004/04/23(金) 20:49
この頃からすでに私は人に触れられることが好きじゃなかった。
多分、知ってたであろう手の温もりを再び知ることが怖かったんだと思う。
その温もりを知り、抜け出せなくなるのが怖かったんだろう。
繋ぎたいのに差し出された手を握れない。
矛盾してると気づいてたけど、私はどっちにも倒れることが出来ないでいた。

450D-R:2004/04/23(金) 20:50
右足を出して進む道も、左足を出して進む道も、足を置いた瞬間に他の道が透明になって
見えなくなっていった。
迷子とは違うのに、立っている所はいつも迷い道だった。
正解なんて、いつだって分からない。
決まってない。
そう思うことも出来ず、しようともせず、私は足を踏み出していた。

寂しくて、寂しくて、どうしようもない時もあった。
それでも、いつしか独りでいることを好むようになっていた。
傷の痛みも優しさの温もりも知らないままで。
無知なままで、その時以上のモノを望まないようにしていた。
私がどこで何してたって人は歩み、そして止まり朽ち果てていく。
それだけなんだ。
そう、割り切ってる。
そんな風に、思ってたんだけどな。
寂しさに負けて泣くことも、何かの理由で涙を流すことも、理由もなく涙を流すこと。
自分の中でのタブーになっていたのにな…。

流してしまえば私はきっと独りでいることに耐えられなくなってしまうから。
弱さを認めれば強がることが出来なくなる。
そう、思っていたから。
下唇を噛んで、鉄の味を感じれば逃げ去っていく私。
私は私を逃がし、そして何処までも、何処までも、ずっと、ずっと逃げていく。
無理に決まってるのに、そんな風に、してたんだ。

451D-R:2004/04/23(金) 20:50
***

毎日は淡々と過ぎていった。
寝て起きての繰り返し。
その間に何が入ったって何も変わりはしなかった。
話す相手もいない。
言葉を忘れてしまうんじゃないかと思う程、私は私だけとずっと一緒にいた。
本や勉強にも飽きると、私の向かい合う相手はモニターに変わった。
情報の渦巻く世界。
時間とお金を持て余していた私がその世界に溺れていくのにそんな時間はかからなかった。

交わされる陳腐な言葉を横に退け、私は狂ったようモニターに向かい、溢れ出る情報に目を向けた。
流れる時間の早さは、時折激しく感じる孤独を遠ざけてくれたから。
癒しとは違う感覚。
全てを麻痺させたように、何も感じさせることなく刻まれるリズムは深い深い闇への入り口だった。
一歩でも踏み込めば戻ってなんかこれない。
約束されることのない契約書に判を押し、私はその紙の上に血を垂らした。
そして知る。
私達の中にいるモノのこと。
そして私は過ちを犯す。

***

452D-R:2004/04/23(金) 20:51
成長すればする程、独りでいることが苦しく感じるようになってしまった。
それは成長してくにしたがってリアルになっていく痛覚によく似ていた。
見るモノ、聞く音、触れる痛み。
痛みを知れば、次からそれは感じる痛みに変わった。
その痛みは心の痛みにも繋がり、私の寂しさは他から入り込んでくる情報でも感じるようになっていった。
どんどん、弱くなっている気がした。

見て欲しい。
そう思ったワケじゃない。
でも、必要とされたかった。
重なる年齢、変わっていった身体。
鏡を見れば映る姿。
人の目に、この身体はどう映ったんだろうか。
求められたのはこの身体。
心なんてモノは必要ない。
私は必要とされたんじゃなくて欲しがられた。

初めてを差し出すことに、抵抗はなかった。
興味がなかったワケじゃないし、痛みの波は時間が経てば消える。
感触もきっとすぐに消えるだろう。
そう、思ってたから。

453D-R:2004/04/23(金) 20:51
求められたのは私じゃなかった。
分かってた。
私の身体だってこと。
だからどんなに痛みを訴えようとそんなことは関係ない。
そんな訴えは必要なモノじゃないから。
だから下唇を噛み続けた。
鉄の味がしようと、痛みの声は喉の奥へ、私自身は全部奥へと抑えこんだ。
耐えれば過ぎていく不快感や痛みはそんなに苦痛でもなかった。
足の間から血が流れた日の記憶なんて、あんまり残っていない。
痛いと感じたことも感触も、全てかすれていった。
わずかに残っている記憶なんて、その部屋が血のように濃い赤一色で埋め尽くされていたという記憶だけだ。

孤独感を拭う為に重ねたはずなのに、身体を重ねるごとに私の孤独は大きくなっていた。
痛みも感触もなかなか消えなくなった。
積み重なるように残り続けた。
それなのに求め続ける私がいて、泣けない私もいて、独りになるとただ空に目を向けていた。
何かを見てるワケでもない、見ようとしているワケでもない。
もう、下を俯き続けることが怖かったんだ。
もう、イヤだったんだ。

454匿名匿名希望:2004/04/23(金) 20:57
更新しました。
突然ですが、Dはあと2回か3回で終わる予定です。
ひっそりこっそりsage進行で行こうと思っております。

>JUNIOR 様

>んん!?なんて言ったんだー!!想像すればいいんですか?(想像中)
最後に言った言葉は明らかになる予定ですが、予定です(w
想像して下さい。
人それぞっす。
明らかになるかもしれない言葉は吉澤さんの言葉ですから。
行き着いてみないと分からないことって、すげー沢山あるんですよね。
行き着くまでが大切だったり、行き着いた先も大切だったり。
分からないことだらけっす(苦笑)

455JUNIOR:2004/04/24(土) 19:11
更新お疲れ様です。
私はいまだに想像してるの〜てんきな人です。
梨華ちゃん・・・。相当難しい過去を持ってるんだ・・・。
あと2,3回ですか・・・・。どんな結末になるか楽しみにしてます。
これからも頑張ってください。

456D-R:2004/05/02(日) 00:16
一度、入ってすぐに大学を辞めたことがあった。
理由は…なんだっけな。
多分たいした理由じゃなかったと思う。
近寄ってくる人がイヤだったのかな。
いや、どうだろ。
覚えてないや。
ともかく私は寂しいくせに、人が苦手だった。
だから最初はキライだった。

ほっといて欲しいのにつきまとってくる、本を読んでいたいのにかまってくる。
痛いくらいの笑顔を向けて、何度も何度も私のことを捕まえようとしてきた。
何がしたいのか、どうしたいのか、そんなの分からないけど、ただ、あの人は私につきまとってきた。

私なんかにつきまとう理由がさっぱり分からなかった人。
目的も見えない。
考えてるこても読めない。
何がしたくて、私に何を求められてるのかも分からなかった。

457D-R:2004/05/02(日) 00:17
不快だった。
私は人に触られるのが好きじゃない。
誰かに心の中に触れられるのも好きじゃない。
どこまでいっても他人は他人で私は私だ。
絡まることも、交わることも、全て表の薄皮一枚で起こること。
奥の奥の最後の一枚までは合わさるこてなんてなく、破られることもない。
きっと、この先どこまでもこんな風に進んでゆくのだろうと思っていた。

何度も無視した。
距離をできるだけとろうとした。
なのに、距離は開かず、逆に近づいていった。
近づいてくるくせに、深いところには入り込んでこようともしない。
興味がないのか、それともどうでもいいのか。
ともかく私にはさっぱり分からなかった。
でも、触れて欲しくて、触れて欲しくないところに無理に入りこもうとしてこない彼女は
イヤでもなく、キライだった。

…なのに私は、彼女に近づこうとしていた。
理解出来ない。
私のことなのに私は私を理解出来なかった。
寂しかったのか、それとも彼女の側の温度が、近づいてきた時の温度を少しでも心地よい、
そう感じてしまったのかもしれない。

458D-R:2004/05/02(日) 00:17

***

私は強くなろう。
そう思っていた。
思うとしていた。

***

459D-R:2004/05/02(日) 00:18
彼女と同じ時間を過ごすことが増えた。
彼女と一緒にいると今まで隠れていた自分が溢れてきた。
それは私の知らない自分で、知られることも、知ることも、全てが新鮮で、全てが恐怖と隣り合わせだった。
知られることで去られること。
私自身が気付かないうちに現れている違う私。
はたしてそれは私なのか。
本当に、私なのか。
同じなのに、違う自分がいて、違うのに、それは私。
そんな恐怖があったのに、私はずっと私でいられたのは、どんな私も彼女が受け入れてくれたから。
隠す必要もなく、抑える必要もなく、ただ、私は私でいればよかった。


一度手放してしまった孤独。
彼女の背中を追わない時間、その孤独を感じる量が増えた。
自ら壊してしまった壁。
それは時を過ごせば過ごす程細かくなり、かき集めることも、もう一度作ることも出来なくなった。
私は自分を知られることで彼女が私から放れていってしまうことに恐怖を感じるようになった。
…なのに、知って欲しかった。
もっと、私を知って欲しかった。
私の、全てを知って欲しいと感じてしまった。

460D-R:2004/05/02(日) 00:20
だからだと思う。
彼女を部屋に招き入れたのは。
私がどんな家の子で、私の周りにはどんな人がいるのか。
知られて消えてしまう恐怖よりも、知って欲しいという欲望の方が勝ったのだ。
そして彼女の人生を狂わせてしまった。
なのに、私には悲しみだけが訪れるのではなく、むしろ一つの輪の中に彼女が一緒に入ってくれた。
こんな気持ちも訪れていた。
最低だと思う。
自分で、自分を最低だと、強く思った。
それなのに、この、胸の奥から出て来る気持ちを抑えることは出来なかった。

あの日の夜だって、そのまま彼女を車で家まで送ることだって出来たのに、
そうしなかったのはこの輪から彼女がまた出て行ってしまうのがイヤだったから。
自己中、私の我がまま。
あの日、私は彼女にもっと知って欲しかった。
もっと私のこと、私の周りのことを知って欲しかった。
結果、彼女をこんなにも追い詰めることになるのに。

引きつった笑顔で泣き、笑い、そして震える彼女を抱きしめた時、私はどうしようもない罪悪感に包まれた。
彼女に何も罪はない。
私の我がままで彼女を振り回し、ここまで追い詰めた。
壊した。
彼女を。
彼女から平凡な日常、こんな言葉を奪い去った。

461D-R:2004/05/02(日) 00:21
何日も彼女に会わないかった日。
満たされていないと気付いた。
私にとって必要な人、そしてもっとも恐るべき人。
それが彼女だ。
彼女と一緒にいつことが私の生活の一部になりはじめていた。
言葉が欲しくなった。
存在が欲しくなった。
あの、隣で感じられる温かさが欲しくなった。
変わってしまった私達の間。
変わってしまった彼女。
だけど、彼女は、彼女だった。
どんな風になっても、どんな風に泣いても、笑っても、震えてても、彼女は彼女。
そして、私は私。
怖がられて離れられてくと思ってたのに、彼女は私の腕の中の強さを求めてくれた。

だからだと思う。
きっと、生まれた初めてこの言葉を言ったんだと思う。
そんな言葉だけで許されるものならば、私は何度でも叫ぼう。
そして、彼女に何度でも言おう、そう、思った。
子供のように泣きじゃくる彼女を抱きしめながら、私は何度も、何度も、心の中で謝罪の言葉をくり返した。

462D-R:2004/05/02(日) 00:22

全ては私からだ。
溢れる情報の中から見つけた薬。
受け取ったのも私。
使ったのも私。
そしてそれで全ての人の人生を狂わせたのも私。
彼女の心に、深い傷を作ったのも私。
私はいつも自分ジブンだった。
傷つくことを恐れ、そして人を傷つけ、私は私を守り続けていた。
我がまま。
そして最低なのが私。
これが、私。
こんな私があの熱い手を握ることなんて出来ない。
同じ世界に生きることなんて出来ない。

463D-R:2004/05/02(日) 00:23
彼女の歯車を狂わせてしまった直後、私は私達の運命を知る。
一つの芽から下へと伸びる線を辿り、知ったこと。
『D』のこと。
私は自分の中にあるDのことを知った時、泣き崩れることもなく、ただ、その文面に目を向けていた。
そして運命という言葉があるのなら、こんな私にも運命というのはあるんだと、そう、思った。

抜けだせない横の繋がり。
知られている私のこと。
そして、彼女のこと。
『殺せ』
こう言われた時、冷静な自分がいた。
どっちにせよ、私と彼女は消えてしまうんだ。
そう、もうすぐ消えてしまうんだ。
彼女が消えれば私も消えよう。
何かに取られて奪われてしまう前に私が消してしまおう。
そうすれば彼女は何処にも行かない。
彼女に抱いている気持ちは恋愛感情とは全く別のモノ。
欲しい。
この独占欲。
だから、彼女も消して、私も消えようと思ってた。

464D-R:2004/05/02(日) 00:24
なのに、私は彼女との生活が心地よいと感じ、何度も眠る彼女に向けた引き金を引くことが出来なかった。
まだ時間はある、まだ、時間はある。
日は一日一日と経っていき、その毎日の中で、彼女の眼差しは私だけに向けられていた。
それが私の引き金の引けない理由の一つ。
向けれられたことのない私だけへの眼差し。
彼女は気付いていなかったけど、私は、それが心地良かった。
そして引き金を引けない毎日は続き、彼女の中からはDが強く出始めた。

465D-R:2004/05/02(日) 00:25
『何がしたいの?』

この言葉を使った私は卑怯だ。
私が欲しかった回答を私は彼女に求めた。

私はしたいの。
私は欲しいの。
私はあなたに全てを見て欲しいの。

彼女が言った『抱きたい』という言葉。
それは私の願望。
欲望。
全部、彼女に向けられているモノ。

言葉以上に瞳は饒舌だ。
私は、彼女の瞳の中に言葉を見た。
あんなにも優しく、あんなにも悲しそうな目で見つめられたのは初めてだった。
流すことも出来なくて、受け止めることも出来なくて、ただ、その目を見つめた。
だから私達は見つめあった。

466D-R:2004/05/02(日) 00:27

私は生まれて初めての恋に落ちた。

初めてだった。
人に愛されていると感じたのは。
初めてだった。
ベッドの上で何もされずに大事にされたのは。
重ならない唇と、動かない腕。
体の動きを止めた彼女から伝わった痛いくらいの気持ち。
私が彼女に対して抱いていなかった想い。
そう、その瞬間までは抱いていなかった想い。

467D-R:2004/05/02(日) 00:27
すぐに視線を逸らして、すぐにソファーに横になった彼女は気付いていなかったが、
私はあの後、一瞬で自分の中で生まれてしまった感情をどうすることも出来なくて、
自分で自分の首にずっと手をかけていた。

胸の痛みは治まらない。
欲する欲望も治まらない。
首に手をかけたままベッドの上で天井を見つめていた。
この手の下には彼女の手があった。
その上に自分の手を重ねている。
取り込もうとしていた。
彼女は、私を。
そう思うと、どうしようもなく濡れてきた。

欲していいるのは体だけじゃない。
欲しいのは私の中で動く指や舌じゃない。
見て欲しかった。
私を。
眠っている彼女に、見て欲しかった。
彼女に、全てを知ってもらいたい…

私は、朝日を背中に受けながら、裸のままで彼女の寝顔を見つめ続けた。

468匿名匿名希望:2004/05/02(日) 00:33
更新しました。
あとちょっと。

>JUNIOR 様
>私はいまだに想像してるの〜てんきな人です。
私もきっと探してる途中です(苦笑)
吉澤さんの答え、私の答え、はたして同じなのかどうかは疑問です(爆

石川さん、書けば書く程私が罠にハマっていくんです。
そして、終わりが見えてるはずなのにどうしてか遠い。
ゴールテープをきるまで後わずか。
あれっす、最後の直線に入ったってところですかね。
いつもレスありがとうございます。
頑張るっす。

469JUNIOR:2004/05/02(日) 10:26
更新お疲れ様です。
あと少しですね・・・。
梨華ちゃんは胸のうちはこんな事思っていたんですね、ずっと・・・。
自分は寂しいのに人が苦手。なんとなくわかります。

最後の直線・・・・・・。
もうすぐ終わると思うと悲しい・・.゜.(ノД`).゜.
頑張って、最後まで全力で走り抜けてください。

470D-R:2004/05/06(木) 18:18
彼女を消すことにためらいを覚えた。
残りの日を、彼女と一緒に過ごしたいと思ってしまった。
この小さな空間から彼女を解き放つことなく、私だけを見て欲しい。
もう一日、彼女と同じ空間で、この心地よい温度を感じていたかった。

大切だと思ってしまった彼女。
だから彼女には私の一番大切にしていた思い出の場所を見てもらいたかった。
全てを知ってもらいたかったから。
思い出も、私のことも、彼女のことも。
そして、そこで全てを終わらせようと思った。
私は最後の最後まで我がままで、最後の最後まで彼女の運命を弄ぶ。
だって、彼女の体も手に入れようとしてしまったから。


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