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風のままに、君のままに

1匿名匿名希望:2003/08/02(土) 16:39
見切り発車で多分赤信号だらけだと思いますが、よろしくお願いします。
更新はかなり不定期で、長さ的には中編?もしくは・・・
本当に自分でもよく分からない状態ですがスタートです。

2私と君の姿のあり方:2003/08/02(土) 16:41
いつものように訪れた場所。
小さい頃からずっとずっと訪れている場所。
夏になれば心地よい日陰を作ってくれて、秋になれば綺麗な音を奏でてくれて、
冬になればカラカラと風を受けながら鳴り響くような音をたててくれて、春になれば綺麗な花を咲かせてくれる。

「今日も来ちゃった」

座り込んで、背中をつけて。
目を閉じるのが気持ち良くて。
だってさ、目を閉じると君に会えるんだもん。

開けると消えてしまう幻。
小さい頃からずっと一緒にいる幻。




私の夢はね、君と一緒に歩くこと。

3私と君の姿のあり方:2003/08/02(土) 16:42

















========風のままに、君のままに=============

4私と君の姿のあり方:2003/08/02(土) 16:44

「今日はさ、私が始めてここに来た日から数えて調度18年目になるんだよ」

いつもみたく地面に腰を下ろして目を閉じる。
夏の陽射しを程よく遮り、過ごしやすい木陰を作ってくれてる君に感謝をしながら風の音に耳を澄ませた。
ほら、すぐに聞こえてくる。
風の音に混じって聞こえる少し高めの君の声。

『もう18年になるんだ。何か月日が流れるのも早いよねぇ』
「本当だよ。もう私20歳だよ」
『ここに始めて来た時なんてすっごく小さかったのに』

風と葉の音に交じってクスクスと笑う声。
瞼に写る君は、昔から変わらない姿で私の前で笑っている。
何で目を閉じてる時にしか会えないのかなぁ・・・。
触れることも出来ないし、君の体温を感じることも出来ないんだよ。

『どうしたの?今日は元気ないね』

私の前髪に触れていてくれてすはずなのに、感じられない君の体温。
風だけが優しく吹いて、私の前髪を揺らしてくれる。

5私と君の姿のあり方:2003/08/02(土) 16:46
「・・・梨華ちゃん」
『ん?』
「私もさ、梨華ちゃんと同じみたいになることできるの?」
『・・・それは』

風が動揺したようにユラユラと少し激しく揺れた。
・・・ごめんね。
何度も何度も同じ質問をして、君を悩まして。

「へへっ、言ってみたかっただけ。だからそんな困った顔しないで」

だからさ、そんな悲しそうな顔しないで。
ほら、風まで寂しそうに吹いてるから。
そんなじゃ他の草だって悲しくなっちゃうよ。

『ひとみちゃん・・・』

いつだって私の頬に触れてくれているはずの唇の温もりを感じるのは幻覚の中のだけで、
感触のように感じるのは風が私の頬を吹いているから。
私は手を伸ばしたって君に触れることが出来ない。
ただ目を閉じて君を見つめて、ただ目を閉じて君の声を聞くだけ。

6私と君の姿のあり方:2003/08/02(土) 16:47




いつかさ、私も君の唇に触れてみたい。



人の形をした私と、木だけど人の姿をした君。
だけど私達は愛しあっている。
君を感じられるのはこの木の元で目を閉じた時だけ。

君を愛した私と私を愛してくれた君。
永遠なる愛をここに感じて、私はここでいつも誓う。
交われなくてもいい。
ただ君を愛していく、と。

7匿名匿名希望:2003/08/02(土) 16:49
こんな感じでいきますです。
ちょっと設定分かりにくいかな(汗)
えっと・・・分からなかったら言って下さい(精進します)
どうぞよろしくお願いします。

8名無し(0´〜`0):2003/08/03(日) 09:52
発見!!やたーやったー!!
こっちでも、読めるようになるなんて嬉しいです。
わかりにくい設定だとは、私は思いませんよ。
続き楽しみに待っています。がんばってください

9名無し(0´〜`0):2003/08/06(水) 15:51
おぉ〜期待期待期待しています!!
がんがってください!

10出会いから----:2003/08/08(金) 18:40
倒れこんだ布団。
すぐ下の床が硬くて、背中が少し痛くなった。

18年。
長い長い私の恋愛。
初恋も梨華ちゃんで、本当に心から愛するのも梨華ちゃん。
人には言えない私の愛。

私はこの街で産まれて、この街で育った。
父と毋は1年前から別の街で暮らしいる。
理由は父親の転勤。
私も付いて来いと言われていたけど、高校卒業後に就職した私はこのままこの地に留まることにした。
仕事も理由の一つだけど、本当の理由は梨華ちゃんと離れたくないから。

私が初めて梨華ちゃんに会ったのは私が2歳の時。
母に連れられてきてもらった街全体が見渡せる丘。
その丘に立った木。
毋の膝の上で目を閉じたら、梨華ちゃんが表れて私の頬をつっついたんだ。
2歳の時の記憶だけど今でも思い出せるよ。
梨華ちゃんとの初めての出会い。

11 出会いから----:2003/08/08(金) 18:41
最初はね、ずっと夢を見ているんだと思ってた。
私にしか見えてないみたいだし、私にしか聞こえてないみたいだったから。
でもね、何度も何度も決まった場所で同じように私の前に出てきてくれて、
そのうちやっとこれが夢じゃないってことに気が付いたんだ。

そして私は触れることの出来ない梨華ちゃんに恋をして、そして愛を知った。

私の周りの数少ない友人は、どうして私がずっと恋人とかを作らないのか不思議がっていた。
こう見えてもさ、私って以外にモテるんだよ。
だけどさ、梨華ちゃん以外に興味のわく人なんていなくてさ。
梨華ちゃん以外にこんなに心を掴まれることもないんだ。

自分の中の恋心に気が付いたのは中学生くらいの時かな。
もうあんまり覚えてないんだけど、多分中学生の時だよ。
毎日毎日、雨の日でも雪の日でも晴れた日でも梨華ちゃんに会ってて。
ある日さ、梨華ちゃんがすっごく寂しそうに笑った時があったんだ。

12 出会いから----:2003/08/08(金) 18:43
もうね、私それで恋に落ちた。
梨華ちゃんの笑顔を全力で守りたくなった。

きっとさ、もっともっと前から好きだったんだと思う。
梨華ちゃんのこと。
ただそれがきっかけだったんだ。

でさ、私が中学校を卒業した日。
渡せないけど自分の第2ボタンあげたくて、そのこと、梨華ちゃんに言ったんだよね。
そしたらさ、涙ボロボロこぼして泣くんだもん。
焦ったよ。
だけどすっごく愛しく思った。

触れられないのがもどかしくて、本当はぎゅっと抱きしめたいのにね。
いつも触れてきてくれるのは梨華ちゃんだけ。
目では見えてるのに感じるのは風だけ。
こんなに胸が苦しくなったのは人生で初めてだったよ。
もうね、抱きしめられないのに宙を掴むように君を抱きしめたもん。

13出会いから----:2003/08/08(金) 18:44
風がすごく熱くなったのを感じたよ。
それで私も梨華ちゃんの気持ちを感じた。
あぁ、一緒なんだなぁって思った。
嬉しいのに余計に苦しくなった。

想いを打ち明けあって、気持ちが通じ合って。
余計に梨華ちゃんを感じたくて。
分かっているのにそれがダメでさ。
気持ちっていうのは上手いことコントロール出来ないもんだね。
もう嬉しいはずなのに私は何度も泣いたよ。
今はその回数は減ったけどね。
うん、大人になるにつれてね。

会えば会う程惹かれていって。
それは今でも変わらない。

ごめんね、今日もまた困らせちゃッたね。
だけどさ、今日泣いたらまた明日からは元気な顔で君に会いにいくからね。

一人暮らしの部屋の中、一枚だけ貼ってある写真。
小さい頃に撮ってもらった写真。
幼い私と一緒に写ってるのは私よりもずっと大きな綺麗な木。

はじまりの写真。








私の大切な大切な彼女の写真。








その写真を見て、今日私はまた少しだけ枕を濡らした。

14匿名匿名希望:2003/08/08(金) 18:53
更新しました。
基本的によし子視点になると思われ←今頃発表(汗)
しかし今年の夏は変な感じ・・・夏生まれとしてはちょっと悲しいですね(苦笑)

>8 名無し(0´〜`0) 様
ついに二重生活のスタートです(w
設定、自分ではわかりにくいかなぁと思ってて・・・
よかったです。そう言っていただけると嬉しいですYO!
がんばりますです☆

>9 名無し(0´〜`0) 様
ありがとうございます。
期待を裏切らないように頑張っていきます。
ので、よろしくお願いしますです(ぺこり)

*今発見。

 ☆   ☆
(0´〜`0)

何かこのひーちゃん可愛いかも(w
って『☆』ってMac以外でも表示されるのかな・・・

15名無し(0´〜`0):2003/08/11(月) 04:20
朝から、いいものをよまさせていただきました。
今日も、一日がんばってくるぞー!!
続き楽しみにしています。がんばってください元気が出ました。

16ささやかな約束:2003/08/13(水) 01:14
『ひとみちゃん、髪、伸びたよね』

ある日突然、梨華ちゃんはこんなことを言った。
私の髪を触って、風が私の髪を撫でて。
私が小さい頃から見てきた梨華ちゃんはずっとずっと同じ姿だ。
つまり髪の長さも変わってないってこと。

私よりもお姉さんに見えてた梨華ちゃん。
気が付いたら私は同じくらいに成長していた。
背は多分私の方がもう大きい。

「うん、最近切ってないから」
『昔はショートカットだったんだよねぇ』
「バレーとかやってる時でしょ?」
『そうそう、普通に可愛い男の子みたいな時』
「あ、梨華ちゃんまでそんなこと言うんだ」

ふわっと笑って私から距離をとって。
風のように漂いながら私の髪を弄ぶ。
そして風が私の髪をフワフワと楽しげに吹いていく。

17ささやかな約束:2003/08/13(水) 01:15
梨華ちゃんと風はつにに一緒にある。
と言ってもこの木のすぐ近くにある風だけだけど、梨華ちゃんの気持ちは風で表現されたりする。
音も熱も柔らかさも激しさも。
私に梨華ちゃんが触れると風が私に触れてくる。
つまり風は梨華ちゃんの感触なんだ。
『木』だけど感じる時は『風』なんだよね。

「もうそろそろ切るかなぁ」
『え〜切っちゃうのぉ!』
「だって邪魔じゃん。シャンプーも沢山使わなきゃいけないし」

抗議だと言わんばかりに風が強くなる。
私の周りだけ軽い竜巻き警報出てるんじゃない?
そんあ感じに思わせる程だ。

「はいはい、ごめんね。やっぱり切らないよ」

だから風ストーップ。
お願いしやす。
これじゃ髪の毛が鳥の巣みたくごちゃごちゃになっちゃうよ。

18ささやかな約束:2003/08/13(水) 01:16
梨華ちゃんは『じゃあもう少し伸ばしておいてね』という言葉を残した後、風はゆっくりと勢いを止めた。
葉と芝が服のいたるところにくっついている。
頭もついでにフルフルと振ってみたらまた葉が落ちてきた。

『まだ髪についてるよ』

クスクスと笑いながら梨華ちゃんは私の目の前に来ると、そっと葉を取ってくれた。
風が通り過ぎたと思ったら葉が2枚、私の頭上から降ってきた。

緑色の葉。
夏の太陽を沢山受けて輝く美しい葉。
これも梨華ちゃんの一部なのかなぁと思ったら何だか不思議な気分になった。

「ねぇ、この葉持って帰ってもいい?」
『え?あ、うん。それは全然いいけど』
「そ、サンキューね」

瞼に写る梨華ちゃんは、私が葉をしまう仕種をちょっと寂しそうに見つめていた。

・・・そっか、ちょっと待っててね。

19ささやかな約束:2003/08/13(水) 01:18
目を開けると梨華ちゃんは消えてしまう。
こうして一緒にいる時はその一瞬すらも貴重な時間。
だけどさ、そんな寂しそうな顔はずっと見てられないよ。
だから少しの間、一人にさせるね。

目を開くと、外はもうすっかり夕暮れ色に染まっていた。
こうしてい梨華ちゃんと一緒にいる時は、本当に時間が流れるのが早い。
少し街並を見渡してから、木にそっと触れて『失礼しま〜す』と声をかけた。
一瞬目を閉じたら、梨華ちゃんが訳わかんないといった感じで『へ?』と言った。

木登りなんて久しぶり。
その上登る木は大切な梨華ちゃん。
傷なんてつけるわけにはいかない。
慎重に、だけど早く梨華ちゃんの顔が見たいから急いで登る。
適当な太さの枝を探して、そこに自分のつけていたネックレスを丁寧にかけ、
せかせかと木から降りて、また定位置の草むらに腰を下ろして瞼を閉じた。

「これで梨華ちゃんも私といれるでしょ」

20ささやかな約束:2003/08/13(水) 01:19
私だけが梨華ちゃんの一部持ってるなんてそりゃ反則。
レッドカードで一発退場。
そんなことやっちゃいけません。

『これ・・・いいの?』
「うん」
『・・・ありがとう』

そう、君のそういう笑顔が見れればいいんだ。
笑ってる顔、すっごい好きなんだ。

「もうそろそろ行くね」
『うん。じゃぁまたね』
「うん。また明日」

梨華ちゃんが近付いてきて私の唇に柔らかいキスをくれた。
風が少し熱を帯びて私を取り巻く。
そのお替えしに私は背中をつけていた木に唇を落とした。

さっきよりも熱い風が少し強めに吹いた。

21匿名匿名希望:2003/08/13(水) 01:24
更新しました。
予想です。
何か中編だけど短編みたいな感じになりそうです(汗)

>15 名無し(0´〜`0)様
ありがとうございます。
こんな駄文でも活力になれるのなら幸いです(w
今日(?)も一日頑張って下さい(w

22名無し(0´〜`0):2003/08/15(金) 10:33
なんか、切なさの中の甘さみたいなのがたまりません。
短編といわずに、長く続けてほしいです。
がんばってください。

23名無し(0´〜`0):2003/08/15(金) 12:17
今日も、一日がんばろう!!(w
作者さんの作品本当に大好きです。
↑の方と同じく長編キボン!!とかいってみる。

24名無し(0´〜`0):2003/08/17(日) 16:30
今日初めて読みました。スイマセン
続きが気になりますね。がんばってください!!

25子猫と君と:2003/08/18(月) 21:45
「ねぇねぇ、今日皆で飲みに行くんだけどよし子行かない?」

帰ろうとした私に声をかけてきたのは、私の数少ない友人の一人のごっちんだ。
私同様、高校卒業後に会社に入社。
同い年で似た様なところが結構ある私達は、同期ということも背中を押して、けっこう早く打ち解けた。
本当、数少ない大切な友達だ。

「ごめん。あんましお金ないし、そういうの苦手だから」

いつもこう言って断ることを知っててごっちんは声をかけてくれる。
わりとさっぱりしてる正確だし、私の引くラインの内側に無理に入ってこようともしない。
ちゃんと見極めて程よい距離を取合っている関係が私達の関係。

外はもう暗くなっていた。
最近、日が落ちるの早くなったんだなぁなんて思いながら足を動かした。
暗くなりはじめた道を急いで歩いて、街灯もない所に住むあの娘のところへ。
独りで星を眺めているあの娘のところへ。

26子猫と君と:2003/08/18(月) 21:47
梨華ちゃんの所へ着く頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
光りが届かない所。
当たり前だけど暗い。

「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
『そ?そんな遅くもなかったと思うよ』

ふわっとジャンプをして私の膝に乗っかって、細い腕を私の首に巻き付けて。
仕事の疲れが吹っ飛ぶ瞬間。
幸せになれる瞬間。

『今日ね、ここに子猫が来たんだ』
「子猫?」
『うん、子猫。今日その娘と一緒にお昼ねしたんだ』

楽しそうに話す梨華ちゃん。
こういったささやかなことでも梨華ちゃんにとったら大切なこと。
ずっとずっと永い時間独りきりで過ごしてきたから。
前に聞いたら『友達はいるよ』と言っていた。
姿とかは見えないけど風も草も話し掛けてくれると言っていた。
風と遊び、草と遊ぶ。
私が梨華ちゃんに会わなかったらきっと信じることなんて出来なかったこと。

27子猫と君と:2003/08/18(月) 21:48
「そっか、今日みたいに天気の良い日だと気持ち良かったでしょ」
『へへっ、何かひとみちゃんに抱っこされてるみたいだった。
 温かくて、気持ちよくて』

じゃあきっと良い夢見れたでしょ?
なんてちょっと言ってみたり。
梨華ちゃんは大きく頷いていた。
きっと本当に良い夢が見れたんだね。

それからその夜、一緒に星を眺めた。
遠く輝く星さえも、梨華ちゃんにとったら大切な友達なんだろう。
私には手の届かないモノ。
だけど君なら届くモノ。
星を見ている間、開けていた目に君は写らなかったけど、確かに一緒に星を眺めた。
とりまく風がそれを教えてくれた。

28匿名匿名希望:2003/08/18(月) 21:58
更新しました。
めちゃめちゃ短くて申し訳ないです(反省)
しかし夏は何処に行っちゃったんでしょうか・・・

>22 名無し(0´〜`0)様
何か本当切ないですよね・・・上のひーちゃんの顔みたい(苦笑)
実は書いているうちに短編になってしまったんです。
でも皆様からのレスでもちょこい頑張ってみようかなぁなんて←単純なもので(w
きっと短いけど長くなると思います(イ ミ シ ン)

>23 名無し(0´〜`0)様
では明日も一日頑張ろう!!
って感じで(w
レスのおかげで頑張れてます。
短編な長編。
きっとこんな感じで頑張ります♪

>24 名無し(0´〜`0)様
こんな駄文を見つけてしまったんですね(だったらageるなってツッコミはナシでお願いします(w))
なるべく早い更新を目指してはいるんですが(汗)
まったりで申し訳ないです。

29:2003/08/19(火) 15:23
============================



『別れ』


それは突然訪れる。
甘い時間の中に潜む透明で見えない侵食者。
私の力じゃどうにも出来なくて、本当に何も出来なくて。
無力という言葉を思い知らされた。



============================

30:2003/08/19(火) 15:24
雨が強く降っていた。
梨華ちゃんといつものように分かれて、雨が傘を打ち付ける中、私は明かりのついていない部屋に入った。
何処かで雷が鳴っていて、私はそれを他人事のように聞いていた。

『20年の間で雷なんて何回も聞いていたから』
『そんな特別なことじゃないから』

こんな単純な理由。
他に考えるようなことはない。
その時はそう思っていた。

しばらく雷の音を聞きながら、私は布団に横になった。
明日も仕事だ。
特にやることもないのに起きていることもない。
シンプルな生活。
それをずっと続けて来たから。


その日もそうやって眠りにおちた。

31:2003/08/19(火) 15:25



私の眠りを覚ます程の爆音が聞こえたのは多分深夜2時を回ってからだ。
『近くで落雷があった』
そう直感的に思った。

開き切らない瞼を擦り開け、閉めていたカーテンを開いた。

外は相変わらず大雨。
雨音が聞こえ、濡れた窓には水滴や葉など色々なモノがくっついていた。
窓越しに見た外。



煙りが上がっていた。



考えるよりも先にジャージにTシャツという姿のままで家を飛び出した。
サイレンが聞こえる。
傘をさしていない私に雨は容赦なく降り注ぐ。

32:2003/08/19(火) 15:26
大粒の雨はジャージにもTシャツにも吸い取られ、身体にくっつき、走るという行為の邪魔をする。
伸びた髪を乱暴にかき分けて走り続ける。
スニーカーに溜まった水が音をたて溢れ出てくる。

遠い。
なんでこんなにも遠く感じる。
何でなかなか辿り着かない。
早く行かなきゃ。
早く行きたい。









彼女はあそこから動けないんだ。









息を切らして辿り着いた場所。
そこにはすでに何人かの野次馬がいて、消防士の人もいた。

33:2003/08/19(火) 15:27
ここからじゃ目を閉じても彼女の姿は見えないんだ。
声も聞こえないんだ。
だから近くに行かせて。
お願いだから邪魔をしないで。
私を押さえ付けないで。
彼女の元へ行かせてよ。
退いてよ・・・退いてよ!!!














「梨華ちゃーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!」
















強い雨、強い水、激しい風。
かき消される声に、近くにいた人の驚くような声。
そして眼差し。

34:2003/08/19(火) 15:28
来るな!
ここは私と梨華ちゃんの神聖な場所。
見るな。
興味本位で見るなよ。

伸ばした手じゃ何も掴めない。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。

この風は梨華ちゃんじゃない。

何で彼女に合わせてくれない。
何で彼女を感じさせてくれない。

この雨は梨華ちゃんじゃない。

何で彼女を見せてくれない。
何で彼女を抱きしめさせてくれない。

掴めない。
嫌だ。
そんなの嫌だ。

35:2003/08/19(火) 15:29
風は友達なんじゃなかったの?
何で届けてくれない。
彼女のことを。
私のことを。

苦しんでるんじゃないの?
辛いんじゃないの?
泣いてるんじゃないの?
寂しがってるんじゃないの?

何で私が側にいっちゃ行けないんだよ。
近くに行かせてよ。

今まで多く望まないように我慢してた。
梨華ちゃんがここにいればそれだけでいいと思ってたから。
100なんて望まなかった。

なの何で奪っていくの?
梨華ちゃんが何をした?
どうしてこんな辛い目にあわせるの?











どうして私は何も出来ないの










近くに行くことすら出来ないで、彼女を感じることすら出来なくて。

36:2003/08/19(火) 15:30



強い雨に打たれ、激しい水を浴び、燃え盛る炎は静かに鎮火しようとしていた。
どれくらいの時間がかかったかなんて分からない。

帰っていく野次馬。
弱まっていく雨。
弱まっていく風。

豊かだった緑の葉は統べて無くなった。
中心から裂かれた幹。
鮮やかだった色も黒くなった。







目の前にあるのは現実だった。

37:2003/08/19(火) 15:31
-------------
---------
----
朝日が昇った。
分厚い雲は何処かへ消え、濡れた私の髪も少しずつ乾きはじめた。

もう私しかいない。
ここには私しかいない。

皆がいなくなった後、黒く湿る幹に手を置いて目を閉じてた。
わずかな期待を込めて。

もう私しかいない。
ここには私しかいない。

草むらに落ちていた黒くなったネックレス。
掴んでみたら、もう冷えていた。

38:2003/08/19(火) 15:32








出会いは突然。
そして別れも突然。

流れる時間。
進む日付け。
めくれるカレンダー。

あの日以来行けない場所。
見れない場所。

机の上に置かれた緑の葉。
そしてネックレス。

最後に交わした会話なんて覚えてないよ。
夢にだって一度も現れない彼女。
触れられないことよりも会えないことの方がきつすぎる。

明らかにやつれ衰えていく私をごっちんは相当心配している。
そんな風に見られる私自身、衰えていく姿は自覚している。
だから余計にタチが悪い。

39:2003/08/19(火) 15:33

荒れた部屋。
以前なら考えられない程散らかっている。

弱い。
私は弱い。

一度も流せない涙。
直視できない写真。

髪、切ってないんだよ。
切ろうとしたら梨華ちゃんが怒ったから。
もう長くなったよ。

流せない涙も見れない写真も全て消そうとして失敗して。
梨華ちゃんから離れようとしても出来なくて、気付いたら年明けてたんだよ。
もう笑っちゃうしかないじゃん。
自分笑うしか出来ないじゃん。







逢いたいよ。







ねぇ、梨華ちゃん。

40匿名匿名希望:2003/08/19(火) 15:34
更新しました。
痛いです。
次回更新も早いの目指します。

41名無し(0´〜`0):2003/08/19(火) 20:15
・゜・(ノД‘)・゜・。 痛いよう
でも、明日もがんばります!!

42名無し(0´〜`0):2003/08/25(月) 09:17
毎朝見ています。続きまだかなあ…。
楽しみにしています。

43:2003/08/25(月) 17:45
===========================


奇跡。
運命。

並べられる言葉をどれだけ並べればいいんだろうか。



===========================


髪、切る前にケジメつけたくて。


裏返して封印していた写真。
黒いネックレスに緑の葉。

全部、そう、思い出も全部今日解禁。
あれからさ、何ヶ月も経ってやっと少し落ち着いたんだ。
でね、今日解禁。
やっと梨華ちゃんのこと、見れるよ。

44:2003/08/25(月) 17:46



裏返してた写真も、緑の乾いた葉も、黒く変わったネックレスも。



今日はさ、休みなんだ。
ついでに明日も休みなんだ。
多分ね、今日泣くと思う。
だから明日が休みで安心なんだ。
絶対目腫れるもん。

外はね、あの日と違ってすっごいいい天気なんだ。
晴れてるよ。
太陽も眩しいくらいで、クーラーのない私の部屋は暑いくらい。
夏なのかな。
もう、夏が来るんだよね。

毎年さ、ずっと一緒にたじゃん。
春も夏も秋も冬も。

45:2003/08/25(月) 17:47
春にはさ、一緒に沢山お昼寝したんだよね。
ずっと優しい風を吹かしてくれてた。
夏にはさ、ずっと一緒にいる時、私が日焼けしないように気を使ってくれてたよね。
木陰が出来るように一生懸命腕、伸ばしてくれてた。
秋にはさ、一緒に落ち葉拾いしたよね。
風で葉を集めて、たまにいたずらしてまき散らしたりしてた。
冬にはさ、肩寄せあって雪降るなか下に広がる景色を見てたよね。
暖かい風で私達の周りだけ雪を溶かしたりして。

今年の夏、私日焼けするかもよ。
すぐに色落ちちゃうかもしれないけど。

梨華ちゃんとずっとずっと一緒にいたかった。
ずっとずっと同じ時を過ごして、ずっとずっと同じ光を浴びて。
日焼けしたらきっと頬を膨らませて怒るんでしょ?
髪も切ったって怒るんでしょ?
たまにね、怒らせてみたくて虐めてたりしてた。
先に謝るね、ごめんね。

ジャージにTシャツ。
どっちもよれよれだよ。
だらしない服装。
梨華ちゃん見たら怒るかな?

そんなことを思いながら手を伸ばしてみた。

46:2003/08/25(月) 17:49

写真の中では、何も変わっていなかった。

当たり前かもしれないけど、その事実が悲しくて、嬉しくて、寂しかった。
『別れ』
そんな言葉を知らなかった時。
永遠に続くと思っていた頃。
変わらない写真、変われない写真。
変わっていく世界で無理矢理変わろうともがく私。

流れる時間は梨華ちゃんへの思いを強くしていっていた。
『忘れられるはずなんてないから』
だから忘れる努力もしなかった。
無理に決まってるから。

写真の下に置かれた乾いた葉、その上に置かれた黒いネックレス。
触れられずにいたからホコリが積もっていた。
『ごめんね』
この言葉を色んな意味を込めて呟いた。

『後悔』
本当に後から悔やむことばかり。
いつだって失ってから大切なものに気付くんだからたちが悪い。
後悔しないことなんて今までに一度だって無い。
いつだって何をしたってつきまとっていた言葉。
梨華ちゃんと話し終わって帰る途中、言い忘れたことがあった。
ささいなことでも後悔した。
その時間はその時にしかないから。

47:2003/08/25(月) 17:50
あんまりさ、私泣いたことないんだ。
だから上手な泣き方とかよく分からない。
でもさ、どうしてだろうね、勝手に零れてくるんだ。
口に入るとちょっと塩っぱくて、冷たいはずなのに熱く感じる。
結んだ口は歪んでくるし、押し殺そうとした声だって何でか出てきちゃう。
息が上手く出来なくって、立っていることだって出来なくなる。
やっぱり下手っぴな泣き方なのかな?

ねぇ、教えてよ。
私には分からないよ。
梨華ちゃん、教えてよ。
どうしたらこんなに苦しくなくなるの?
どうしたらこんなに辛くなくなるの?
どうしたらこんな弱い自分から脱出することが出来るの?
お願いだから、教えてよ。













どうしたら戻ってきてくれるの?












梨華ちゃん、逢いたいよ。

48:2003/08/25(月) 17:52
この気持ち、どうしたら届くの?










零れた涙が落ちていく。
ぽたっぽたっと音を立てて、落ちていく。







奇跡。
運命。

並べられる言葉をどれだけ並べればいいんだろうか。
私には分からない。

零れた涙は偶然黒くなったネックレスにひと粒落ちた。
黒かった所が少し取れ、懐かしい輝きが少しだけ見えた。
ネックレスから伝わった涙は緑の乾いた葉にこぼれ落ちた。
たまっていたホコリが流されて、涙は葉に吸収された。

49:2003/08/25(月) 17:53
窓は開いていないはずなのに、懐かしい優しい風が吹いてきた。
暖かくて、優しくて、悪戯するように私の髪を弄んで。

崩れ落ちた私に『立ちなさい』って言ってるみたいに。
だからよろよろ立ち上がった。
風はいつだって嘘をつかないから。

私の回りにいた風は、やがて目の前にある葉の方へと移動していった。
葉もネックレスも写真も持ち上げて、風はくるくる舞い踊る。
淡い緑の光りを放ち、透明な空気をつくり出す。

目の前で起こること、きっと普通の人なら信じられないんだろう。
私も梨華ちゃんに出会って、一緒に時を過ごしていなかったら信じられなかったと思う。

神秘的なんて言葉で済むかといったらそれはまた違う。
神々しさというよりも、優しさで溢れていたから。

緑の光り広がって行き、やがて辺を真っ白へと変えた。
きっと一瞬。
だけど永遠。
私が感じることが出来ない永遠を、風は一瞬だけ見せてくれた。
『永遠の一瞬の狭間』
人の踏み込めない領域。
それを見せてくれたんだと思う。

50:2003/08/25(月) 17:53
永遠の世界へと連れていかれたのは少し黒の落ちたネックレスに、涙を吸い取った緑の葉。
そして私と梨華ちゃんの写った古びた写真。
代わりに永遠の世界から呼び戻されたのは------

真っ白な永遠の世界が見えなくなり、部屋はいつものように静まりかえった。
風も何処かへと消えてしまっている。
きっと普通の人なら信じられないだろう。
梨華ちゃんに出会った私だって信じられないくらいだから。

産まれたままの姿で横になっているのは、いつも瞼の裏に見えていた彼女。
触れられなかった彼女。
感じられなかった彼女。

寝起きみたいに目を擦って、のんきに『おはよう』

きっと普通の人なら信じられないだろう。
私も梨華ちゃんを抱き締めるまで信じられなかったから。

51:2003/08/25(月) 17:54
奇跡。
運命。

並べられる言葉をどれだけ並べればいいんだろうか。

彼女を抱きしめて泣きじゃくる私。
感じられる温もりも、感じられる彼女の手も、全部全部本当のこと。

奇跡。
運命。

並べられる言葉をどれだけ並べればいいんだろうか。
きっとどれだけ並べても足りないような気がした。

52匿名匿名希望:2003/08/25(月) 18:02
41 名前: 名無し(0´〜`0) 投稿日: 2003/08/19(火) 20:15
更新しました。
何だか時間があいてしまって申し訳ないです。
色々やってたら筆が止まってました(汗)

短編のような長編の短編第1部は終了なんです。
ので、一応『完』という字をつけても良いんですが、何かこれじゃあ後味が悪い
気がしてならないんです(苦笑)
ので、ひょっとしたら続くかもしれません。

>41 名無し(0´〜`0)様
ちょっとは回復していただけたでしょうか(w
これでまた明日も頑張っていただけたら幸いです。
明日も頑張って下さ〜い♪

>42 名無し(0´〜`0)様
更新遅くてすみません。
出来上がりほやほやうpしました。
毎朝チェックしていただいたのに・・・申し訳ないでつ(泣)

53クロイツ:2003/08/26(火) 23:12
うえあぁぁあう…(号泣)
すみません、こっちには初レスなのに大号泣してて…。
 ずっとROMってたんですけど、耐え切れなくなって…レス致します。
 あああああ、涙が止まりません…。
 こう言う切ない雰囲気で…しかも大好きな匿名匿名希望様特有の空気の中で…
 ああ。

 ハ マ ッ て ま す 。

 続いてほしい、と、切に願います。
 この物語も大好きです!!!

54Silence:2003/08/27(水) 12:54
( T▽T)<うえええええん。涙が止まらないよ〜。

どうして匿名さんの作品はこんなにも感情こもっちゃうん
だろ?わかんない。わかんないけどとにかく涙。
クロイツさん同様・・・・

ハマリまくってます。

ヽ(^〜^0≡^〜^)ノ <どうなるのか気になるよ♪

55これからも:2003/09/07(日) 23:23
今、彼女はここに住んでいる。
着るモノなんて何も持ってないから私の服を着ながら。
服、早いうちに買いに行こうねって言ったら『ひとみちゃんの匂いがするからこれがいい』
そう言ってずっと私の服を着ている。
服ごと抱きしめたら梨華ちゃんと、風が嬉しそうに笑った。

私が仕事に行ってる間は頑張って部屋の掃除をしてくれてるんだけど・・・
ちょっと、いや、あんまり上手じゃないんだよね。

あ、そうそう。
樹の精(って自分で言ってた)だけど風だけ使えるんだってさ。
だけど前よりも上手く操れないらしくて、あんまり使わないみたい。
でも、たまに風と戯れてる姿を見ることが出来る。
瞼で見ていた時と同じ表情で楽しそうに風と喋って。

56これからも:2003/09/07(日) 23:24
聞きたいことは沢山あった。
だけど彼女自身、覚えていることが少ないんだそうだ。
多分、あの『永遠の一瞬の狭間』に落としてしまったんじゃないだろうか。
そう言っていた。
私と出会った時のこととかは覚えてるみたいで、それよりも前のことがあんまり覚えてないんだそうだ。
落雷の時のことは聞くに聞けなかった。
私自身、彼女自身、飛び越えるハードルは高いから。

あの落雷の後、彼女は『永遠の一瞬の狭間』で時たま私のことを見ていたらしい。
恥ずかしい話しだが、あの荒れた生活を見られていた。
彼女はそれが自分のせいだと思って心を痛めていたんだそうだ。
余計に自分の行動を恥ずかしく思った。
一瞬でも彼女にそう思わせてしまった自分の行動を取り消したかった。
まぁ、無理なことなんだけどね。

57これからも:2003/09/07(日) 23:25
私達は触れ合える喜びを感じあった。
と、言っても抱きしめたりキスしたり。
それ以上のことが出来ないのは・・・きっとそうじゃなくても満足してるから。
触れ合えるだけで十分だって思える。

近くで感じる君の吐息。
近くで感じる君の鼓動。
髪を撫でてくれる手、一緒に漂う気持ちの良い風。
きっと今の私は世界一の幸せもの。
そう自惚れたっていいんじゃないかって思う。

夜、梨華ちゃんを抱きしめて眠る時には私と同じシャンプーの匂いがして、
柔らかくて温かい温度が同じように私を包んでくれて。
仕事から帰ってくれば一生懸命つくってくれた料理を食べさせてくれて。
手を伸ばせば捕まえられる幸せ。
こんなにも満たされたことはなかった。
こんなにも、いつも泣きそうになることはなかった。

58これからも:2003/09/07(日) 23:26
「梨華ちゃん」
「ん?どうしたの?」

なんて言えば君は喜んでくれるかな。
どうすれば君はもっと満たされるかな。

「ひとみちゃん?」

私ばかり満たされている気がして、もっとこの気持ちを梨華ちゃんに届けてあげたくて。
知ってもらいたくて。
私は君の細い肩を抱き締める。

「とりあえずは一緒にお風呂でも入りますか」

笑って言ったらちょっと頬を赤らめて、小さく一言『夜になったらね』
求めるものはきっと同じで、多少違かったとしても、多少は同じで。
言葉じゃ伝え切れない想い、今夜君に届けるからね。
伝えたくて、とても君が欲しいから。

59これからも:2003/09/07(日) 23:27
一度だってしたことがないこと、少しずつ体験していこう。
そしていつかあの場所を訪れよう。
私と梨華ちゃんが出会った場所に。
全部を飛び越えれる強さを持ったら。

『ずっと私といて下さい』

そう伝えよう。


沈んでいく夕日を狭い部屋で一緒に眺めて、触れるだけのキスをして。
もっともっと一緒にいよう。
溶け合ってしまう程、深く何処まで一緒にいようね。

60匿名匿名希望:2003/09/07(日) 23:39
更新しました。
=完=をつけれそうでつけれない感じなので、しばらくは自分の中で保留です。
ちなみにストックすっからかん。
空箱に蓋を閉じないようにしてみるかな・・・

>クロイツ様
な、泣かないで下さい(おろおろ)
今回は雰囲気が135度くらい違う感じかも(w
そして続けてみちゃいました。
本当は終わらせるつもり80%くらいだったんですが、続けてみちゃいました(w
大好きだなんて(照)
ありがとうございます♪

>Silence様
(;0^〜^)<泣かないでYO!
続投してしまいました。
世○遺産とか見ながら更新しちゃいました(w
気になるっているのなら続きを書かねば!!!みたいな意気込みで(w
毎回毎回が短編って感じです。
どうなるかが全然予想ちきましぇん(w

61名無し(0´〜`0):2003/09/08(月) 13:06
一気読みさせていただきました



涙が止まらない・・・

62token:2003/09/09(火) 21:31
更新お疲れ様です。
実はHPからLinkでこっちに来て、ロムってました。
レスするためにもう一度読み直しました。余韻に浸っています。
この先も読みたいような、読みたくないような妙な気分です。
ただ一つ言えるのは、お二人ともお幸せにね、の一言です。では。

63匿名匿名希望:2003/09/17(水) 23:42
お返事遅くなってしまって申し訳ないです。

>61名無し(0´〜`0)様
涙・・・いや、こんな作品に流して下さった涙。
大事にします。そして大事にして下さい。
御愛読、ありがとうございました。

>token様
わざわざもう一度読んで下さったようで・・・
ありがとうございます。
早く足を動かして書き上げた感があります。
余韻、もうそろそろひいた頃でしょうか?(w
御愛読、ありがとうございました。


ここの話しは、『END』という言葉をつけさせていただこうと思います。
管理人様、読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。
残った分は、また何か書かせていただこうと思っております。
その時はまたよろしくお願いします。

64匿名匿名希望:2003/11/30(日) 13:38
えぇっと、またしても中編になる予定です。
よろしくお願いします。
でもって、僕君。にもちろっと出て来たタイトルですが、それとは別物
(多少被りあり)になります。
さらに、暗いです。

65Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:39

チカチカと光る街灯。
その下をゆっくりと歩く二つの影。
影の一つは少し大きく、影の一つはもう一つの影よりも少し小さい。
二つの影は顔を見合わせると、そっと手を繋ぎあった。

66Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:40

乾いた電子音が部屋の中に鳴り響いていた。
一定のリズムで一定の音で。
この音で目が覚めると、何故か機嫌が悪くなる。

ひとみはうっすらと目を開け、目覚ましの音を聞きながら天井を見つめた。
夢を見た後はその夢と現実の違いに軽く目眩を覚える。

・・・自分で見たくせに。

67Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:41
****************************************

『たとえば、あなたがもし辛い現実から逃れる為に
 あなたが望んだ世界に行けるとしたらあなたは行きますか?
 
 たとえその世界が現実とは違う世界だとしても。
 
 あなたが望む世界なら・・・
 そう、あなた自身が望む世界だとしたら行きますか?
 

   =夢=


 という世界に・・・』

****************************************

68Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:42
気温はもうずいぶんと下がっていた。
朝一番というワケでもないのに風は冷たくて、あまり優しい感じがしない。
息を吐いたら、その息は白くなって空中の中に溶けていった。
季節は、もう秋というよりも冬なんだろう。
ひとみは片手をポケットにつっこんだまま、家の扉の鍵をかけ、その鍵がかかっているかどうか
もう一度確認してから落ち葉の舞う道路に足を踏み出した。

両方の手をポケットにつっこんで、視線を足元に落として歩くという歩き方はいつからやっているだろう。
小学生の頃だったっけ?
あれ?もう覚えてないや。
まぁ別に覚えてなくたって問題はない。
そう、問題なんて何もないんだ。

足元で広がる落ち葉を踏んで、ひとみはいつものようにアルバイト先に向かった。
何も変わらない一日の流れ。
変わらせようとしない一日の流れ。

次に踏んだ落ち葉は音をたてなかった。
少しだけ不機嫌になった。

69Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:43

小学校の頃、あたしはずっと自分を正義のヒーローみたく思っていた。
誰にも負けなくて、誰かを守ってあげれるような存在。
背中に丸めた新聞紙で作った刀をくっつけて、自転車乗って地元を走り回ってた。
ずっと、ずっと正義のヒーローだって思ってたから。

それが変わったのは小学校の高学年の時。
昔よりももっとやんちゃになってて、背だってバレーボールやってたから大分伸びてて、
だから前よりももっともっと自分は強いんだって思ってたんだ。

でも、違った。
強いと思ってたのはただの思い込み。
そうだったんだ。

クラスの中でイジメられてる子がいた。
だから正義のヒーローのあたしは『自分が助ける!』そんな意気込みでイジメてるヤツラと喧嘩をした。
それがもう当たり前のようになっていた。
何だろう。
うん、そう。
当たり前ように思ってたんだ。

70Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:44
次の日からイジメの鉾先はあたしへと変わった。
小学生ながら、結構キツイと感じた。
下駄箱から消える上履き。
校庭の隅から出て来た泥だらけになった上履きをその日、お母さんに見つからないように
お風呂場で必死になって洗った。
何度も、何度も。

泣かないぞ。
絶対に泣かないぞ。

そう自分に言い聞かせて。
呆れるくらい呟いた。

自分では仲がいいって思ってた子が、突然次の日から態度が変わる。
そんなこともあった。
一番こたえた言葉が

『何で一緒にいるの?』

これだった。
何か、あぁもう違うんだ。
全部違うんだ。
そう思って、ずっと呟いてきた『絶対に泣かないぞ』って言う言葉をまた呟いた。

71Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:44
今だたらわかる気がする。
多分、独りでいることが恐かったんだよね。
同じようにイジメられるのが恐かったんだよね。
でも、それは今だから言えること。

昔は、正義のヒーローは泣かない。
たとえ自分が正義のヒーローなんかじゃなくなったって泣かない。
自分の為に泣いちゃ駄目なんだ。
そうやって言い聞かせてた。
言い聞かせることが会話になってた。

そうそう、今までイジメられてた子は、いつもと同じように誰と話すワケでもなく席に座っていた。
何か、もう何が何だかわからなかった。
ただ、もうその子がイジメられてる様子もなかったのを覚えている。

その頃、あたしはひたすらバレーボールに夢中になっていた。
将来はオリンピックに行くんだ。
あたしにはコレしかない。
そう思ってひたすら走り続けてきた。

そして地元の中学には通わずに、あたしは推薦で私立の中学へと入学した。
変わろうと思った。
正義のヒーローは変わろうと思った。

72Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:45
いつもニコニコして人当たりよくして、誰ともぶつかりあいなんて起こさなくて。
ヘラヘラ笑って過ごしていた。
誰とも本音なんてぶつけあわない。

本当のあたしは自分の心の奥底にしまいこんでしまえ。

自分を守る最高の手段だった。
光りが当たらなければ影も出来ないから。
あたしは人に影を見られることもなかった。

きつかった。

自分が自分でなくて、本当の自分を見失いそうになった。
出口の無い迷路みたいにぐるぐる回り繰り替えされる日常。
何がおもしろくて笑ってるのか。
何かおもしろくて笑顔でいるのかがわからなくなってた。

それでも全く救いがなかったワケでもない。
小学生の頃、ひたすらイジメにあっていたことを隠していたのに、気付いて声をかけてくれた子がいた。
幼馴染みの子。
ずっとずっと一緒に育ってきた1つ年上の幼馴染み。

73Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:46
あたしが小学校の時、向こうはもう中学生だったから、今までよりも一緒にいる時間は少なくなってた。
部活で忙しそうにしてたのも知ってたし。
それでも、たまに地元で偶然会った時とかは公園のベンチに座りながらよく話した。

あたしは隠した。
イジメられてるなんて言えなくて。

梨華ちゃんには知られたくなくて。

昔から言ってたんだ『梨華ちゃんのことはあたしが守ってあげる』って。
だから知られたくなかった。

それでも梨華ちゃんは気付いてたみたい。
でも同情するとかそんなじゃなくて、いつもみたく普通に接してくれて、今まで通り一緒になって遊んでくれた。
それが嬉しかった。
それだけが嬉しかった。
あたしの中で、梨華ちゃんの存在だけが大きく大きくなっていっていた。

でも大きくなりすぎた風船はいつか破裂する。
突然、無数の針で破られる。

74Dream in Dream...:2003/11/30(日) 13:46
中学校から部活を終えて帰っている時だった。
いつも通る公園をつっきろうとしたら、前に梨華ちゃんと同じ背中が見えた。
間違えるはずもない背中。
その背中に知らない人の手が回された。

公園にあるかすかな光りの元、2つの影が重なりあった。


取られた。
捕られた。
梨華ちゃんをトラレタ。

あたしのたった一つの救い。
あたしのたった一つの光り。
あたしのたった一つの存在。

それが...

トラレタ

あたしは走った。
息が切れても走り続けた。
額に張り付く髪が気持ち悪くて、息切れしている自分も気持ちが悪くて。
それでも走り続けた。

現実から逃れる為に。
逃げれるはずもないの走り続けた。

その日、あたしは制服姿のまま、まっ暗な部屋の隅で一日中うずくまっていた。

75匿名匿名希望:2003/11/30(日) 13:47
更新しました。
えぇっと暗くて重い見切り発車。

76名無し(0´〜`0):2003/11/30(日) 17:12
新作開始おめでとうございます。
『僕君。』が終わって寂しいなんて思いに浸る間もなく
こうして新作が読めるなんて嬉しい限りです。
暗い話好きなんで、楽しみに待ってます。

77Dream in Dream...:2003/12/02(火) 13:42
弱い。
あたしは弱い。
そんな現実、認めたくなかった。

あたしは段々と荒れていった。
イライラが続いて、ささないなことでも気になってしかたなかった。
そのせいでバーレ−ボールも止めてしまった。
キッカケはささいな言い争いから。
いつでもヘラヘラ笑ってればいいと思ってたはずなのに、久しぶりに人を睨みつけた。
仲間同士だったはずが、いつの間にかバラバラになっていった。
だからあたしは足を引いた。
円の外側え。
四角いコートの外側へ。

引き金。
そんなモノを簡単に引けてしまう自分が恐かった。
諦めることに慣れてしまっていたのかもしれない。
自分に向けて放った弾は、あたしの心をずたずたに切り裂いて空中へ溶けた。

78Dream in Dream...:2003/12/02(火) 13:43
弱いあたし。
それを認めたくないあたし。

泣かないぞ。

こんな言葉、捨ててしまいたくなった。
それでも捨てれなかったのはあたしを支えてくれた言葉だから。
唯一のプライド。
それが『流さない涙』だった。

授業が終わるとそのまま家に帰る日が続いた。
両親には一言『部活は辞めた』それしか言わなかった。
追求させないような雰囲気をあたしが出していたのかもしれなけど、両親は無理に理由を問いただそうとはしなかった。

ある日。
そう、雨の降っていた日だ。
いつもみたく学校から帰ってきたあたしは、部屋着に着替えて勉強をしていた。
それしかすることがなかったから。

そんな日に、びしょ濡れになった梨華ちゃんが家にやってきた。
母さんが買い物に行ってる時だった。
玄関で雨に打たれて制服をびしょ濡れにして、髪もびしょ濡れにした梨華ちゃんが立っていた。

79Dream in Dream...:2003/12/02(火) 13:43
風邪をひくといけないからと思ってバスタオルを取りに行こうとしたら、後ろから梨華ちゃんに抱きつかれたんだ。
『ちょっとだけ・・・お願い』
この一言で大体察しはついた。

あたしは正義のヒーロー。
梨華ちゃんを笑わせてあげるのが役目。
泣かせてなんかいけない。
守ってあげるんだ。

幼い頃の記憶が蘇ってきた。
あたしは、背中で震えている梨華ちゃんを感じていた。
声を押し殺して泣いているのに気付かないフリをした。

少し落ち着いた梨華ちゃんを風呂場に連れて行き、あたしは部屋に戻って自分の着替えを持って下りた。
扉の奥から聞こえるシャワーの音と、水が床に落ちていく音。
扉の奥で泣いているであろう彼女を思って、あたしは口をぐっと結んだ。

あたしの部屋にやってきた梨華ちゃんは、紅茶を飲みながら何度も『ごめんね』そう謝った。
別に謝ることなんて何もないのに。

80Dream in Dream...:2003/12/02(火) 13:44
梨華ちゃんは恋人と喧嘩をしたらしい。
そしてそれが原因で別れてしまった。
雨の中、梨華ちゃんは泣きながら走ったんだって。
そして気付いたらあたしの家の前にいた。

あたしの大事な幼馴染みは『ひとみちゃんみたいな人が恋人だったらよかったな』
なんて言いながらもうひと粒だけ涙を流した。

複雑な気持ちだった。
梨華ちゃんを泣かせたヤツが憎い気持ち。
それでもまた梨華ちゃんの一番になれるんじゃないかっていう気持ち。
そんな気持ちを持った自分が一番嫌いだった。

どんなに優しく抱きしめたって、それは幼馴染みの抱き締める。
どんなに優しく髪に唇を落としたって、それは幼馴染みのキス。

涙目で笑いながら『ありがとう』と言ってくれる梨華ちゃんを見て、あたしは自分が卑怯だって思った。

正義のヒーローの恋は終わりのない駅へ向かって走りだしていた。
止まらない電車。
停車することの出来ない電車。

81Dream in Dream...:2003/12/02(火) 13:44
幼馴染みに恋をしていた正義のヒーローは卑怯者。
告白もしないまま諦めて、いつだって都合のいいように振る舞まっていた。
何かある度に自分を訪れてくれるのが嬉しくて、優しい王子様になった気分で抱きしめていた。

傷つくのが恐くて、独りになるのが恐くて。
梨華ちゃんを失うのが恐くて。
気持ちは心の奥へ封印した。

あたし達は弱い。
お互い、傷に触れないように語り合い、都合のいいように振る舞う。
中学生の頃、そんなゲームじみた会話をしていたんだと思う。

何だか、大きな穴を感じた。
このままだったら梨華ちゃんがいなくなってしまう。
あたしの梨華ちゃんがいなくなってしまう。

歪んだ愛情はカタチを変えていった。

あたしを置いて、どんどんと強くなっていく梨華ちゃん。
昔みたいに接してくれる。
それが恐かった。
梨華ちゃんは強くなっていくのに、正義のヒーローは弱いまま。
必要とされなくなるんじゃないかという恐怖が襲いはじめた。

あたしは強くなろうとはせずに、そんな現実か逃げるようになった。

82Dream in Dream...:2003/12/02(火) 13:45
学校で笑っている自分。
梨華ちゃんの前で正義のヒーローぶる自分。

何か、疲れてしまったんだ。
演じていることに。
光りの当たる舞台になんて立ちたくない。
でも独りになるのはすごく恐くて寂しくて。

笑い続けた。
演じ続けた。

そして部屋で膝を抱えることが多くなった。

そんな日が続いた頃。
多分自分で限界を感じていた頃。

不思議な事が起きた。
部屋で寝ていたはずなのに、目を覚ますとあたしは教室にいた。
意識がきちんとある。
正直、ワケがわからなかった。
教室にはいつも一緒にいる子が集まっていて、あたしはその輪の中にいた。
何故か素直に笑えて、すごく久しぶりに心から笑えて。
小学校ぶりにきっと笑ったんだと思う。

83Dream in Dream...:2003/12/02(火) 13:45
目を覚ましたら梨華ちゃんと一緒に笑いながら話していることもあった。
昔みたいに。
一緒になって公園で遊んで、一緒になって笑っていた。

あたしはいつも乾いた音で目を覚ます。
現実と結んでいる機会の発する音で目を覚ます。

似たような夢を何度も見るようになって、あたしは気付いた。
『あぁ、この世界はあたしが心の中で望んでいた世界なんだ』と。

中学生。
そんな時に、あたしは=夢=という世界を手にいれた。
そんな世界へと逃げる術を手にれた。

そう、弱いから。
あたしはすごく弱いから。

汚れた上履きも、中傷的な言葉の書かれた手紙も、全て、そう、全て奥の奥に隠せる。
正義のヒーローは分厚い仮面を被っていつだって立ってるんだ。
重くて、重くて取ってしまいたいのに取れない仮面。

あたしは正義のヒーロー。
そう、正義のヒーローなんだ。










冷えた梨華ちゃんの身体の温もりは、今でも忘れられない。

84匿名匿名希望:2003/12/02(火) 13:48
更新しました。
早速ですが更新スピードダウン予告。
マターリで申し訳ないです。

76の名無し(0´〜`0)様
レスありがとうございます。
期待を裏切らないように怯えながら頑張っていきます(w
ただただ暗くならないように。
そんな風になればいいなぁと思っている13:50

85匿名匿名希望:2003/12/02(火) 13:49
まだ13:50じゃなかった・・・_| ̄|〇

86名無し(0´〜`0):2003/12/02(火) 19:55
マターリとお待ちしますよ。
作者様のペースでがんがって下さい。

87Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:17

「ありがとうございました。また、御利用下さいませ」

機械的にくり返される言葉。
いつからか自分なりに言い方の法則が出来た。
だからペースを崩されると少しイライラする。
土日は忙しいからなおさらだ。
カウンターで忙しそうに動き回るスタッフも、フロアで忙しそうに動き回るスタッフも、
何処かちょっとピリピリしている。

高校を卒業してから、あたしは進学をせずにこのレンタルビデオ屋でバイトをしている。
最初はおぼつかない手つきだったのも、春から冬に変わるのと同じように変わっていった。

「マスターバック行ってきます」

返却のスピードだって上がった。
質問された時の対応だってちゃんと出来るようになった。
きっと良い笑顔でいれてるはずだ。

88Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:18
必要以上の演技者の仮面はいらない。

生きていくうえで、絶対に仮面というのは必要なモノだと私は思う。
それが重かったり軽かったり重さを感じずにつけている仮面だとしてもだ。
私の場合は重くてしょうがないはずなのに、付けている時はそれが酷く自然なのだ。

「すみませぇん」
「あ、はい」

ニッコリと笑えば、ほら、この人も笑顔になった。
色が白いだの、顔が綺麗だの、髪が綺麗だの梨華ちゃんは言ってくれる。
だからあたしはそれを守っていこうと思う。
『笑顔が好き』と言ってくれる梨華ちゃんの為に笑顔の練習だってしてる。
でも...

心から笑える笑顔なんてもうとっくに忘れてしまった。

疲れるな。
そう思うようになりはじめた。
仕事でつける仮面の重さが一番始めよりも重くなり始めた。
常連さんと交わす笑顔もしんどい。

89Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:18
「こちらの商品でよろしかったですか?」

交わされる言葉も、ありふれた会話も、重さが感じられない。
両足が地面につかず、宙に浮いている感じ。

あれだ、現実感がないんだ。

全ての言葉に意味を持たせようなんて思っていなかった過去。
交わされる言葉だけでも嬉しかった過去。
ありふれた毎日を何も感じることなく過ごせていた過去。

いつから何処かに置き忘れた。
取り戻し方も忘れた。

違う世界の甘美をしってしまったあたしは簡単に現実という世界から片手を離した。
繋いでいてくれる一つの音だけを残して。

「ありがとうございました」

普通の会話をするのもしんどくなっていた。

90Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:19
甘い媚薬。
一度手にしてしまうと逃れられない世界。
誘惑の香りを放つ世界で、あたしはまた踊りだそう。

「いえ、また何かありましたらお声おかけ下さい」

へたくそな日本語を並べて交わす会話よりも気持ちの良い世界。
堕ちていく自分に気付いてるくせに止めようとしない自分。

「あ、ひとみちゃん」



それはその世界がこの現実よりも居心地がいいから。

「梨華ちゃん」



それはその世界がこの現実よりも傷つかなくていいから。

「今日はもうおしまい?」

91Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:19



その世界は温くて気持ちがいい。

「うん、もうすぐあがりだよ」



その世界でならあたしは・・・

「じゃぁ一緒に帰ろう」






もっと梨華ちゃんと一緒にいれるから。

92Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:20
▼◆
その時、あたしは自分の席で目が覚めた。
部屋の隅で眠っていたはずなのに、目が覚めたら自分の席にいた。
見なれた教室に、見なれた机。
でもそこにいたのはあたしと梨華ちゃんだけ。
目が覚めてボーッと梨華ちゃんを見つめていたら、梨華ちゃんもあたしの方を優しい顔で見つめていてくれた。

ただ、それだけ。
でも、十分だって思った。

93Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:20

「珍しいね」
「何が?」
「ここんとこ、梨華ちゃんがあたしのバイト先に顔出すことなんてなかったから」

すっかり寒くなった空。
あっという間に暗くなる世界。
冷たい風があたし達の間をすり抜けていく。

「あぁ、ちょっと最近忙しかったから」

梨華ちゃんは最近黒くした髪に手をかけて笑った。
黒い世界に溶けてしまいそうな黒い髪。
あたしの知らない間に変わっていく梨華ちゃん。

「・・・しらなぃ」

「ん?何か言った?」
「あ、いや別に・・・うん、何でもない」

醜いな、あたし。
こうして梨華ちゃんと一緒にいるとそう思うことが多い。

94Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:21
自分の中の声と、自分の発する声。
それが違うから時たまこぼれる内なる声。
聞かれたらいけない声。
聞いて欲しい声。

「最近どう?」
「う〜ん、得に変わったこともないかな。ひとみちゃんは?」
「あたしも得には無いかな。変わるような生活してないし」

一杯練習した笑顔。
梨華ちゃんの前で上手く出来てるかどうかは分からないけど、多分、笑えてる。

「・・・そっか」
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」

サッと表情を隠されたのがショックだった。
たったそれだけだけどショックだった。

あたしに見せれない表情。
そんなの嫌だ。
あたしに見せてくれない表情。
そんなの嫌だ。

95Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:22
「今日はこの後何か予定あるの?」
「あ、うん。ちょっと明日までやらなきゃいけないレポートがあるんだ」
「そっか」
「うん、ごめんね」

梨華ちゃんが謝るようなことは何もない。
でも、梨華ちゃんはよく謝る。
あたしに、よく謝る。

「いいよ、謝るようなこと何もないんだし。
 予定あるのにわざわざ来てくれてありがとね」
「私がひとみちゃんに会いたかっただけだから」

交わされる言葉にこもった気持ち。
それがすっと暗い世界に吸い込まれていく気がしていた。
そしてそのままあたしもその世界に吸い込まれて、いつかは溶けてしまう。
そんな気がしてならないかった。

「ねぇ、ひとみちゃん」
「ん?」
「何かさ、相談事とかあったら言ってね。
 出来るかぎり力になりたいって思ってるから」
「・・・じゃぁさ」

96Dream in Dream...:2003/12/07(日) 11:22
溶けてしまいそうなあたしの身体。
鳴り止まない警告音が響いてる。

「あたしが梨華ちゃんのこと好きだって言ったらどうする?」



「・・・え?」

ほら、警告音が大きくなった。
溶けてしまえ。
傷ついてしまう前に。
溶けて消えてしまえ。
震えているあたしなんて。

「なぁんてね。驚いた?」
「・・・もぉ、ひとみちゃんったら」

駆け出した。
ふざけたフリをして、駆け出した。

夜に溶けることの出来ないあたし。
ギリギリのラインを渡り続ける言葉のゲーム。

遊べないゲームに涙なんて必要なかった。

97匿名匿名希望:2003/12/07(日) 11:24
更新しました。
>86 名無し(0´〜`0)様
マターリしすぎてごめんなさい。
えぇっと、でもマターリいかせていただくと思っております。
げふんげふん

98Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:08
「ただいまぁ」

閉まった鍵を開け、冷たい空気が充満する室内へと足を踏み入れる。
真っ暗なリビングに明かりをつけて、テーブルの上にあった紙を拾った。
そこにはあたしがバイトに出た後帰ってきて、そしてまた出かけ行った母からの言葉が書かれている。

「今日も遅くなるから、か」

何度も書かれた言葉。
そしてあたしは何度も書いた言葉をその隣に書く。
『おつかれさま。ひとみ』
ペンを机に置いたら、乾いた音がしてペンが転がった。
あたしはそのペンを紙の横に置き、電気を消して自分の部屋へと上がって行った。

肩に担いでた鞄を床に投げ、いつもよりも疲れを感じている身体をベッドに投げ出した。
天井は高く、低く、あたしを押しつぶしているようだ。

梨華ちゃんがあたしのことを心配してくれているのは前から気付いてた。
今日みたに時間を見つけてはあたしの所に来てくれる。
そう、『来てくれる』

99Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:09
何かぐだぐだ。
上手いこと世界が回っていない。
と、いうよりもあたしが上手く立ち回れてない。
これの方が正解なのかも。

日に日に綺麗になっていく梨華ちゃん。
あたしの知らないところで大人になっていく。

置いていかれる。

そう思う。
そうしか思えてこない。

正義のヒーローぶっていたあたしは何処へ行く?
あんな心配そうな笑顔をさせて、あんなに泣きそうな笑顔をさせて、
あたしは本当に正義のヒーローなのか?

嘘でも冗談でもない『好き』の言葉。
多分、あんなに真面目な顔をして言ったのは初めてだろう。
いつも交わしていたのは笑いながら『好きだよぉ』何て交わしていた言葉だから。

100Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:10
時間が止まった。
風が止まった。
闇が襲った。

はぐらかす自分が大嫌いだ。
でも、あんなに驚いて、泣きそうな顔をされたら冗談にしか出来ないよ。
この状態を壊すことなんて出来ないよ。
壊したくない。
傷つきたくない。

弱い心が悲鳴をあげてた。
警告音を鳴らしてた。

それ以上行くな。
また独りになりたいのか。
石川梨華を失いたいのか。

闇はスピードを上げてあたしに被いかぶさってきた。
包まれた真っ暗な世界。
ああやって笑顔でごまかさないと、倒れてしまいそうだった。

101Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:10

・・・恐かった。

あたしのことを押しつぶそうとしているこの天井よりも恐かった。


いつもよりも高ぶった感情のまま、あたしは目を閉じた。
こんな恐怖と、一緒にいることが出来なかったから。

・・・弱いあたしは自分が恐い。

102Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:11

握った手が暖かくて、離したくない。
こんなドラマであるような気持ち、本当にあるんだ。

あたしよりも小さい梨華ちゃんの手。
その手を引いて、家の前の道路に座った。

寒い季節、アスファルトはぐっと冷えてて地面についたお尻が冷たい。
それでももっと暖かい手が気持ちがいい。
冷たさと暖かさを感じながら肩を寄せあって吐き出す白い息を見つめてみた。

「何かさ、ひとみちゃんのお家っていつも人の気配っていうのが無いよね」
「・・・うん。全然親とも顔合わせてないしさ、何か一緒に住んでるって感覚
 そんなにないんだよね。
 あ、でも、こういう生活にも慣れちゃったから、うん。
 ・・・平気だよ・・・・そう、平気」

流れ出る言葉。
自然に流れそうになる涙。
素直になることが出来るのは、わかっているから。

103Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:11
ここじゃ誰もあたしを裏切らない

そう、わかっているから。

「ひとみちゃん・・・」

ぐいっと肩を抱かれて、あたしと梨華ちゃんの間を流れていた冷たい空気がいなくなる。
感じる暖かさ、梨華ちゃんの匂い。

「私の前で、無理なんかしないで」

『無理はしなくても、隠さなければいけない想いはどうすればいい?』
ここではそんなこと考えなくていい。
だって...

全て統べて、あたしのもの。
今は全てあたしのもの。
この言葉も、この温もりも、この香りも。
今は全てあたしだけのもの。

104Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:12
ギュッて梨華ちゃんにしがみついたら、梨華ちゃんは抱きしめてくれる。
包まれる優しさ。
包まれている安心感。
ほら、さっきよりも泣きたくなってる。

「・・・梨華ちゃん」

そう呟いたら、あたしのポケットで携帯が震えた。
ブーッブーッと激しく揺れた。

夢から覚めろという合図のように。
これ以上あたしをここにとどめないようにするかのように。

105Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:13

震える携帯をポケットから取り出した。
浅い眠りはすぐに覚める。
現実世界へ呼び戻す、小さな存在が少し、ほんの一瞬疎ましく思えた。
目を開けることがしんどくて、ディスプレイも見ずに携帯を耳にあてた。

「・・・もしもし」
『あ、もしもし?私、だけど・・・』

電話越しから聞こえてきたのは間違えるはずもない彼女の声。
今さっき別れたばかりの梨華ちゃんの声。

ベッドのスプリングが鳴り、あたしの身体は柔らかい布団から離れて
冷たい空気の中に治まった。
靴下越しに感じるフローロングの床は、あたしの脳味噌を覚醒させるには十分な刺激だ。

『ひょっとして寝てた?』
「あぁ、うん。でも大丈夫だよ」
『ごめんね、起こしちゃって』

106Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:13
やっぱり梨華ちゃんはよく謝る。
あたしに気を使いすぎてるんじゃないかって思うくらい。

「別に、気にしないで。で、どうしたの?」
『あ、うん、何かちょっと聞きたいことがあって・・・』

小さくなっていく声。
そんなに気まずさを感じることないのに。
梨華ちゃんは、何をそんなに遠慮しているんだろう。

あたしは気付かない。
それが自分の張っている壁のせいだって。
あたしは、気付いていない。
それは自分が作り上げた溝だっていうことを。

『・・・ひとみちゃんはさ、好きな人が出来たら素直に好きって言える?』

小さくなっていく声。
そんな時は大抵良い電話ではない。
あたしにとって、良い電話ではない。

107Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:14
「どうしたのさ突然。梨華ちゃんがそんなこと聞くなんて珍しいね」

すぐにつけれる仮面は重たく、内側が濡れている。
できるだけ上手に優しく声を出す。
隠す気持ちはお得意様だ。
笑おうと思えば笑えるから。

『うん、ちょっと聞いてみたくてさ』

言葉のゲームは見えない駆け引き。
踏み込みすぎないで、踏み込ませすぎないで。

「そうだなぁ、本当に好きだったら言うかもね」

本当は言えないくせに。
嘘つきの仮面にかかる罪の量は増えていくばかりだ。
もう、はがせなくなってしまいそうな程くっついてしまった仮面。
つく嘘が辛いのに。

「梨華ちゃん、好きな人でも出来たの?」
『いや、あの聞いてみたかっただけだから。うん、まだ自分の気持ち、わかんないし』

108Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:14
動揺してるのくらい分かるよ。
何年一緒にいると思ってるの?
隠さないでいいよ。

まぁ、あたしが一番悪い程に隠し事をしているけどね。

調子のいい思考や思いはいくらだって産まれてくる。
うわべだけの言葉に含まれる重みなんてないことを知っているくせに。

置いていかれるのが恐くて、必死にしがみついてる。
必死にしがみついてるくせに、強がってかっこいいフリをしようとしている。
・・・それが一番かっこ悪いことを知ってるくせに。

「そっか、うん。でも梨華ちゃんだったらきっと大丈夫だよ」

根拠がないワケじゃない。
でも、本当は応援なんてしてくない。
一番でいたい。
梨華ちゃんの一番でいたい。
でも、一番になれなかった時、失うのが一番恐い。

109Dream in Dream...:2003/12/10(水) 11:15
『何それ、大丈夫の意味がわかんないよ』

梨華ちゃんが笑う。
それだけであたしは嬉しくなる。
正義のヒーローは泣かせない。
石川梨華を泣かせない。
笑わせるのはあたしの役目だから。

「梨華ちゃんだから、大丈夫なんだよ」

そう、あたしじゃなくて、梨華ちゃんだから。


その後、少し話して電話を切った。
あたしは携帯を投げ出すとそのまま布団の中へ潜り込んだ。

今日は疲れる1日だ。

110名無し(0´〜`0):2003/12/12(金) 00:48
レスつけていいのかしら。。。
よっちぃ、もうちょっと強くなれ〜

111Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:10

優しく背中を撫でてくれている梨華ちゃんの手が、ここへ戻ってきたことを教えてくれる。
傷つかない世界。
傷つく必要のない世界。

「落ち着いた?」

優しい声に、優しい笑顔。
向けられる視線の柔らかさが心地よい安堵感をくれる。

「ん?どうしたの?」

からみ合う視線を切らないように、そっと梨華ちゃんの頬に両手を当てて、
紡ごうとする言葉を唇で塞いだ。

「・・・ひとみちゃん」

驚いている表情を隠せない梨華ちゃんの頬を優しく包んだまま、
あたしはさっき梨華ちゃんに対して言った言葉を、想いを言葉で包んで声にした。

112Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:11
「・・・あたしは、あなたのことが好きです」

本当に好きだったら言えるんだ。
嘘じゃないよ。

ここだったら言えるんだ。
裏切られることがないから。
失う心配もないから。

梨華ちゃんみたいに強くないあたしは、ここでなら言えるんだ。

夢の中でなら掴める幸せ。
今まで、現実世界に戻った時のことを考えると恐くて言えなかった言葉。
でも、今日はそんな恐怖、捨ててしまおう。

せめて、ここの世界ではあたしを見て。
あたしだけを見て。

想いを込めて、もう一度唇を重ねた。
さっきの口付けとは違って、今度は背中に回された腕の優しさを感じた。

113Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:11
梨華ちゃんの優しい腕の温もりを感じながら、あたしの頭の中には今さっきの
梨華ちゃんとの会話が溢れてくる。

『・・・ひとみちゃんはさ、好きな人が出来たら素直に好きって言える?』
『いや、あの聞いてみたかっただけだから。うん、まだ自分の気持ち、わかんないし』

偽りと分かっている世界。
感じる腕の温もりも統べて嘘だってわかってる。

この世界での言葉より、現実で言った梨華ちゃんの言葉の方があたしを縛って離さない。
抜けられない呪縛。
足につけられた重い鎖があたしの気持ちを荒していく。

「・・・どうしたの?」

あたしは、心配そうに声をかけてくれる梨華ちゃんのことを押し退けて家へと駆け込んだ。
わかってる。
偽りの幸せだって。
ここなら梨華ちゃんはあたしだけを見てくれてる。
そう、分かってる。

114Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:12
でも、浅はかな夢の終わりが見えてしまいそうで、現実の世界とのギャップのありすぎに
心が悲鳴をあげてしまいそうだ。

偽りの世界。
夢の世界。
手に入らないものは無いと信じていた世界。
その世界が崩壊していく。
現実のあたしが崩壊しそうだ。

震える身体を抱きしめながら、ベッドに倒れ込んで目を閉じた。

梨華ちゃん...梨華ちゃん..............梨華ちゃん。

もっともっと堕ちていけるように。
こんな邪魔なだけの思考を捨ててしまうように。
もっと、深い闇に堕ちていけるように。

115Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:12

統べてが欲しい。
全てが知りたい。

その思いがベッドの上であたしの身体を熱くする。
色のない世界。
全てがセピアの世界。
その世界であたしは梨華ちゃんの身体を全て知る。

熱い吐息、乱れる髪。
絡み付いてくる指先を口に含んで、柔らかな身体を愛していく。

あたしを呼ぶ声、しがみつく場所を探して彷徨う手。
汗ばんだ背中を伝う汗が、梨華ちゃんの指先に絡まり、あたしの身体に絡まる。
熱い唇を重ねあい、熱い舌を絡めあう。
あたしの下で、胸を大きく上下させているその身体を、きつくきつく抱きしめて、
あたしは梨華ちゃんの中へと指を押し入れていった。

116Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:13
押し殺した声が部屋に響き、あたしの首元に埋められた梨華ちゃんの口からは
一番熱い息が吐き出された。

柔らかな肉壁の感触を知り、溢れ出る蜜の甘さを知った。

重ねられる言葉とは裏腹に、あたしの心は乾いていった。
こんな姿の梨華ちゃんを知ったヤツが、あたしの他にもいる。
そう考えるだけで気が狂いそうになった。

そんなヤツいらない。
梨華ちゃんを知るのはあたしだけでいい。
あたしを知るのは梨華ちゃんだけでいい。
あたしと梨華ちゃんだけでいい。

愛した。
あたし以外の誰も触れられないように。

流した。
心の中で、止まらない涙を。

梨華ちゃんが高い声を上げ、あたし達はベッドの奥へと倒れこんでいった。

117Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:13
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-------
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あたしの隣で梨華ちゃんは、幸せそうな顔をして眠っている。

相変わらずこの世界には色がなく、どんなに自分の手を見つめても、周りの世界を見渡しても
そこはセピア色でしかなかった。

あたしは梨華ちゃんを起こさないようにベッドを抜け出すと、下に投げ捨てられていた服に
手を伸ばした。



この部屋にある時計の針は、止まっていた。


リビングに入ると、そこの時計も止まっていた。
いや、時計だけではなく、窓から覗いた世界も全てが止まっていた。

118Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:14
飛び立とうとしていた鳥。
道を走っていたであろう車。
買い物袋をぶら下げたおばさん。
全ての時間が止まっていた。

まるで一枚の絵画のような世界から目を離し、リビングにあるテーブルに目を移すと、
そこには見なれた字で、文字が書かれていた。

『もう、帰らないから』

震えた。
指が震えた。
身体が震えた。
だらしなく閉めたボタンの隙間から冷たい空気が流れ込んできたようだった。

「今さら何驚いてるのよ」

そしていつの間にか後ろにきていた梨華ちゃんに抱き締められて、首筋にキスをされた。
まだ熱の残る梨華ちゃんの唇。
まだ熱の残る梨華ちゃんの指先。

119Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:14
「・・・お母さんが・・・・もう、戻らないって」

開けたシャツの隙間から梨華ちゃんの指が入り込んできて、あたしの身体を優しく撫で回す。
壊してしまうように、あたしを、突き放すように。

「そんなの、知ってたはずでしょ?」
「・・・へ?」

シャツのボタンがゆっくりと外され、梨華ちゃんの指があたしの身体を行き来する。
行動と言葉があっていないような状態。
動く指と反比例するように梨華ちゃんの声は震えていた。

「・・・ひとみちゃんは知ってたはずだよ」

何を?
何を知ってたの?

「・・・知らないよ」
「嘘」

120Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:15
知らないもん。
知らないもん、こんな世界。
あたしは、こんな世界を知らない。

「あたしは・・・」
「何?」
「あたしは、こんな世界望んでない」

何で?
おかしいよ。
こんなの。
望んでないよ、あたし望んでない。

「嘘」
「嘘じゃない!!」

あたしは望んでない。
こんな世界。
こんな風な状態。

「ひとみちゃんは私だけを選んだんだよ?それのどこが嘘だっていうの?」
「・・・。」
「そしてひとみちゃんは私と結ばれることを望んだ」

121Dream in Dream...:2003/12/13(土) 01:15
あたしの身体から、音もなくシャツが床へと落ちていった。
背中に感じる梨華ちゃんの体温。
それは、ずっと前に感じた温もりとは全然違くて、ただ、冷たくて。

「私とひとみちゃんだけの世界。
 それがひとみちゃんの望んだ世界」

目眩がした。
あたしの身体を撫でる梨華ちゃんの指が感じられなくなっていった。

「・・・そうだけど・・・・でも、違うよ」
「何が違うっていうの?望み通りじゃない。
 今までも、これからも、ずっと前からひとみちゃんの望む通りに進んでいった世界じゃない。
 この世界も、この時間も、この空間も、全部ひとみちゃんが望んだ世界」

首筋に唇を当てられ、身体を包まれた。
震えているのは、梨華ちゃんなのか、あたしなのか。
分からない程に震えているのは確かな身体。

「・・・イヤ・・・・・・・こんなの嫌!!」

梨華ちゃんを恐く感じた。
あたしの知ってる梨華ちゃんじゃないような気がした。

震える身体から逃れる為に、あたしはきつく目を閉じた。
この世界から逃れる為に、あたしはきつくきつく目を閉じた。

122匿名匿名希望:2003/12/13(土) 01:18
更新しました。

>110 名無し(0´〜`0)様
暗くてごめんなさい。
そいでもって何か書き急いでる感じもしてしまっていてゴメンなさい。
レスありがとうございます。
私も書いてて暗くなってきてしまいました(苦笑)
吉がんばれ〜

123名無し(0´〜`0):2003/12/13(土) 18:54
匿名匿名希望さんまで暗くなるなんてw

たとえ夢といえども
自分の都合のいい事ばかり見れないですもんね…

124Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:27

そこは、ただ真っ白な世界だった。
目を開くと、あたしは産まれたままの姿で膝を抱えて座っていた。

眩しいような真っ白な世界。
影も何も見えない明るい世界。

あたしは立ち上がって、足元や目の前の真っ白な世界へと手を伸ばしてみた。
壁すらあるのかわからない世界。
影がないから見えない壁。

「・・・何もない」

触れることの出来ない世界。
自分しかいない世界。

絶望感のようなモノがあたしを襲った。

寂しい?
それとも恐い?

125Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:28
寒さではない震え。
音がない。
自分のはく息の音がこんなに聞こえることなんて今までなかった。

ここはあたしが恐れる『独り』の世界。
見渡しても誰もいない。
触れようとしても壁すらない。

無限に広がるような世界を全体に感じ、あたしの身体は震えを増した。
唇が震えて、喉が乾く。
声にしないと気が狂ってしまうんじゃないかと思った。

恐い。
ここは恐い。
独りは恐い。
独りは・・・

「イヤー!!!!」

唯一床を感じられる足元を拳で思いきり叩いた。
何度も、何度も。
拳が潰れてしまいそうなくらい叩き続けた。

126Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:28
「出して!!!!ここから出して!!!!!!」

痛みを感じない拳。
寒さを感じない身体。
なのに寂しさや恐怖感は感じるこの心。

ここが何処かなんて分からない。
ここが夢の世界かどうかもわからない。

ただ、分かっているのは独りだってことだ。


「嫌だよ!!独りは嫌なんだよ!!!出してよ、ここから出してよ!!!!」


空間に溶けていくあたしの声は、何処か知らない所へ消えていき、
後にはあたしの乱れた息遣いだけがここに残った。

『呆然』
こんな言葉は今使うものなんだろう。
目を閉じても、もう夢に落ちることも出来ない。
身体全体を脱力感が襲い、あたしは膝を抱えていた腕をだらしなく床へ落とした。

127Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:29



それからどのくらいの時間が経ったんだろうか。
時計や太陽の光りもないあたしには『時間』というモノが全くわからない。
只呆然とするしか出来ないあたしの耳に、聞き慣れた声が聞こえてきた。

『あたしは、この世界を望んだ』

この声は、あたしの声だ。

『何もない世界。誰もいない世界』

大嫌いな自分の声。
嘘を言える大嫌いな自分の声。

「・・・望んだけど、望んだけど」

違うんだ。
こんなじゃないんだ。

『あなたが・・・あたしが望んだ通りの世界じゃない。
 ここなら誰もあなたを傷つけない。
 ここなら誰もあたしを傷つけない』

そうだけど・・・そうだけど。

128Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:29
『ね?あなたが望んだ世界でしょ?あたしが望んだ世界でしょ?
 辛いことも、苦しいことも何もない。そうでしょ?』

あたしの声はあたしの中に入り込んでくる。
望んだ世界。
あたしが溺れることの出来る世界。
甘い媚薬が沢山埋まったこの世界じゃ傷つかないはずだった。
大嫌いな独りぼっちにならないはずだった。
なのに・・・

「辛いよ・・・苦しいよ・・・・寂しいよ」

矛盾した思考は矛盾を簡単に生む。
引きはがされた心がバラバラになって声をあげる。
『助けて』と。

「・・・・何もない。確かにあたしの望んだ世界だけど、
 でもこんな苦しくなるはずなんかじゃなかった。
 こんなに寂しくなるはずじゃなかった。
 あたしはお母さんに会いたい、皆に会いたい。
 ・・・・梨華ちゃんに会いたいんだ」

独りぼっちが一番嫌。
何よりも嫌。
何よりも恐い。

129Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:30
『また、悩むとしても?』


こんな風に辛くなるよりもそっちの方がいい。

『また、苦しむとしても?』


こんな風に苦しむよりもそっちの方がいい。

『もう、2度とこの世界に来ることが出来なくなるとしても?』


我がままで作り上げたこの世界、我がままを許してくれたあたし。
矛盾生み出した世界に、あたしは浸り、逃げ出した世界で霞む幸せを手に入れた。
ほんの、一瞬だけ。
いつまでも逃げて、いつまでも怯えて。
そしてあたしは独りになった。
大嫌いだった独りぼっちに。

何が何だか分からないこの世界で、あたしは独りぼっちになる。
それは、つまり誰ともずっと会えなくなるということ。

130Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:30
あたしは大嫌いなあたしにしか会えない。
ここでは、あたししかいない。

こんな所で、独りぼっちで生きていくことなんて嫌。
これが生きている状態だなんて言いたくない。
ここで生きるよりも、あたしは・・・あたしは元いた世界で独りになりたい。
ここにいる恐怖よりも、あたしは逃げないで与えられる恐怖の方がいい。



ずっと、ずっと被っていた仮面が、音もたてずに落ちていった。



逃げればまた同じことが待っている。
あたしはあたしに勝てない。
正義のヒーローは正義のヒーローと言えないくなる。
このまま生きていくなんて嫌。
このまま梨華ちゃんとの関係も全て消えていくなんてもっと嫌。

独りになるかもしれない。
でも、そこには絶対に他の人がいてくれる。

どんなに疲れていても、必ずメモを残していってくれるお母さん。
沢山謝るくせに、あたしの側に残ってくれている梨華ちゃん。

131Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:31
思い込みの『独り』
我がままで、弱虫で、いつも怯えて。

あたしは、あたしに生まれ変わりたい。
本当はもうこんなの嫌なんだ。
逃げて、逃げて、ただ逃げて。
一瞬の幸せしか握れないなんて。

逃げ込んだ世界で見つけた闇。
鳴り続けていた警告音の意味。
それがやっと分かった。

あたしはこえ以上逃げたら自分で自分を守れない。
崩壊しかしていかない。
再構築できないくらいに壊れていくことしか出来ない。

警告音が鳴り止んだ時、あたしはきっとあたしを破壊する。
世界に溺れ、窒息死してしまう。
狭い空間。
だけど今までずっとあたしを守っていてくれた空間。

もう、守ってもらうような年じゃないよね。
今よりももっともっと弱かった時。
あたしはここで守ってもらえた。
だから頑張れた。
そうじゃないかもしれないけど、今はそう思っている。

132Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:32
もう、夢を見るには大きくなりすぎたんだね。
ここからは自分自身がもっと頑張るところなんだね。

限界を迎えていた空間。
この狭い空間に治まるには、あたしは大きくなりすぎていた。

最後の最後。
きっとここがあたしの心の一番奥。

ここのあたしはきっと一番傷ついていたあたし。
ずっと封じ込めていたあたし。

・・・ごめんね。
ずっと、独りにさせて。

あたしは、あたしと一緒になりたい。
辛いかもしれないし、痛いかもしれないし、泣いてしまうかもしれないけど。

ここにいるあたしを独りぼっちにしちゃいけない。
今まで、ずっとあたしを守ってくれていたあたしを、ここに独り残しちゃいけない。

「一緒に、行こう?」

133Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:32
あたしは、あたしに少し怯えているようだった。
そうだよね、ここを出ればまた人がいるからね。
また傷つけられちゃうかもしれないからね。
でもね、大丈夫。
だってあたしにはあたしがいるから。

しばらくして、目の前の空間が少し動いた。
見えたのは影。
ここから外へ通じる影。

『この扉を出れば、前の夢に戻れるの。でも、そしたらもう二度と
 ここに戻ってくることは出来ないよ。
 もう、戻れないよ?
 それでもいいの?それでもあたしはいいの?』

きっとあたしがここを出たら、奥の奥にしまい込んでたあたしが出てくるんだと思う。
痛みや、苦しみ、寂しさや辛さ。
そういうのを頑張って独りでしょって生きてきてくれたあたしが出てくるんだと思う。

「うん、大丈夫。だから、ありがとう。一緒に、行こう」

134Dream in Dream...:2003/12/16(火) 12:33
今までごめんね。
本当にごめんね。
独りぼっちにさせてて。
ずっと独りで辛い思いをさせてて。

今までありがとね。
本当にありがとね。
ずっとあたしの奥であたしを守ってくれていて。


ゆっくりと立ち上がって、扉に向かった。

『・・・寂しかったよ』

あたしはそう言って、あたしの中へと戻ってきた。
ずっと、ずっと我慢していた涙が目の奥へとたまっていくのに気付いた。

扉はゆっくりと開き、あたしのことを、光りが包んだ。

135匿名匿名希望:2003/12/16(火) 12:36
更新しました。
何か書き急いでるなぁ...。

123 名無し(0´〜`0) 様
これ書いている間は、とある曲を永遠リピートで書いているもので
曲調で暗くなってる罠(苦笑)
こう何か自分を同じように追い込んでいかないと書けなかったりしたもんで。
ラストまで後2回くらい。
これ以上暗くならないように頑張ります(w

136名無し(0´〜`0):2003/12/17(水) 00:26
『僕君。』とはまた違った味わいで,話に引き込まれました.
なんか,エヴァを思い出してしまいました.
ラストがどんな風になるのか,楽しみに待ってます.

137名無し(0´〜`0):2003/12/18(木) 11:43
よっちぃがんばれ〜もうちょっと!
この後、梨華ちゃんとどう絡むのかが気になります。

138Dream in Dream...:2003/12/19(金) 19:35

リビングで首に唇の柔らかさを感じ、背中に梨華ちゃんを感じている。
目を開いたら、そこはセピアの世界だった。

ここにもいてくれたあたし。
時間を止めて、独りになることを恐れていたあたしが傷つかないように
守ってくれていた。
望んだ世界を作りあげ、砦になって、守ってくれてた。

あたしの前で組まれている梨華ちゃんの手を、そっと握って身体を離した。

もう、大丈夫だから。
甘い夢を見させてくれてありがとう。

「ひとみちゃんがこうなりたいと思ったんでしょ?
 ひとみちゃんが私と二人っきりの世界を望んだんでしょ?」

139Dream in Dream...:2003/12/19(金) 19:36
そうだよ。
だって独りは嫌だったから。
大好きな梨華ちゃんと一緒にいたかったから。

幼いあたしと、今のあたしの望みの夢。
独りぼっちじゃ抱えきれなかった思いや気持ちを、ここは受け止めていてくれた。
あたしは受け止めていてくれた。

「・・・そうだよ。でも、もう大丈夫。大丈夫なの」

梨華ちゃんの方へ振り返って、正面から優しく抱きしめた。
抱きしめられるのと違った感覚。
ここの梨華ちゃん、ありがとう。
ここのあたし、ありがとう。

一瞬でも幸せのカタチをつくってくれてありがとう。

でも、もう一瞬の幸せに甘えないよ。
だって、あたしは今のあたしだから。

独りじゃない。
あたしとあたしは一緒にいる。

140Dream in Dream...:2003/12/19(金) 19:37
「もう、行くね」

ここでの体温は忘れない。
ここでの優しさは忘れない。
あたしは、ここでずっと夢をみていたあたしを忘れない。

幸せを感じ、孤独を分けられ、それでも拭いきれない喪失感を感じたままでいたあたしを忘れないよ。

だから、ほら、一緒に行こう。
一緒に来て。

崩れてしまったパズルを組み合わせるように、あたしは心の中でさっきとは違う影と出会う。
これがあたし。
これもあたし。

「もう、戻れないよ」

優しさ、それ以外のこと、教えてくれたのはここの梨華ちゃん。
一瞬の幸せで拭ってくれた悲しみや、苦しみ。
そして寂しさ。

意味がないモノなんてない。
全て、こんなにも弱かったあたしを守ってくれていたあたし。
そんな、少しでも強いあたしとあたしは一緒になる。
だから

「・・・大丈夫、きっと、大丈夫だよ」

141Dream in Dream...:2003/12/19(金) 19:38
閉じられた扉と繋がっていたあたしというあたし。
強くなる為にはキッカケが必要だった。
認める必要もあった。
あたし自身が見つめなきゃいけないあたしがいた。

ばらばらに散らばっていたあたし。
夢を見ることで支えてくれて、夢を見ることで寂しさや弱い心を覆い隠してくれていた。
きっと、あたしが成長するまでそうやって支えてくれてたんだと思う。

一つ認めてしまえば認めていけるモノがあって、
一番弱いと思う自分を見れば少しずつ変わっていくものがあった。

独りで膝を抱えて、独りになっていたのがあたし。
壁を作って怯えて過ごして。
どうしようもないくらいに孤独な嫌いなくせに孤独を作っていた。

それでも、こうやって周りにいてくれる人はいた。
ずっと、いた。

だから、大丈夫。
きっと、大丈夫。

現れた扉に手をかけて、一歩足を踏み出した。



『ありがとう。そしてごめんね』

142Dream in Dream...:2003/12/19(金) 19:38
光りがあたしを被って、心にあたしが入ってきた。
足元から消えていく世界は、ただ真っ白で、感じる光は暖かかった。
きっと、世界は眩しいんだと思った。

143Dream in Dream...:2003/12/19(金) 19:39

目を開いたら、あたしはベッドの上にいた。
天井の木目が霞んで見えて、自分が泣き出す一歩手前にいたことに気付く。

まだ、あたしは泣いちゃいけない。
そんな意識があったあら、あたしは涙が流れそうな目元をぐしぐし服で拭いて、
ベッドから立ち上がった。
窓を空けたら冷たい風が入り込んできて、その冷たい風の中、梨華ちゃんが家の前に座り込んでいた。
あたしは部屋の窓を閉め、さっきまで眠っていたベッドに目を向けてその部屋を後にした。

あたしが玄関の扉を空けた音に気付いているはずなのに、梨華ちゃんはこっちを振り向かなかった。
多分、振り向く必要もないから。
多分、振り向けないから。

「もう、言われなくてもわかってるよね?」

震える声の理由はあたしにはわからない。
あたし自身の心の震えなのか、それともあたしの中の梨華ちゃんの声の震えなのか。

「うん。この夢の世界を出れば二度とここに来ることが出来ないってことでしょ?」

この夢の中であたしは梨華ちゃんへ想いをつげ、ここの梨華ちゃんの唇に触れた。
甘い香りを知り、映ることのない瞳に自分を映した。

144Dream in Dream...:2003/12/19(金) 19:40
「...もう、逃げることが出来ないってことだよ?」

その一時の幸せを今からあたしは失う。
梨華ちゃんの言葉に混じる震えはそんなあたしの心を写したモノなんだろう。
...でも

「あたしは、もう逃げない」

ずっと独りぼっちだったあたしを集め、あたしはあたし達と一緒にいる。
あたしはあたしを守り続けてきてくれたこの世界と一緒に新しい自分になる。
たとえその先にまた色々な影がうごめいていたって、あたしはあたしとなら乗り越えてみせる。

「ずっと、ずっとずっとずっと、あたしを守ってくれてありがとう」

今度はあたしが守ってみせる。
本当に、ずっと、永遠に。

「別にひとみちゃんの為じゃないよ。私は、私を守りたかったの」

梨華ちゃんの口から流れる言葉はあたしのモノ。
そう思う。
だってここはあたしの見た夢の世界。
代弁する梨華ちゃんがそんな泣きそうな顔しないで。
泣かないで。
夢の世界でも梨華ちゃんの泣き顔なんてみたくないんだ。

145Dream in Dream...:2003/12/19(金) 19:41
「でも、ありがとうね」

ギュッて抱きしめた。
梨華ちゃんの身体をきつく抱きしめた。
泣かないで。
笑っていて。
沢山の気持ちを込めて抱きしめた。

「...そろそろ、行く?」
「...そうだね」

最後にもう一度、唇を重ねた。
この世界とのお別れ。
そしてここの梨華ちゃんとのお別れに。

「あのさ、最後にもう一度だけ、聞くね」
「うん」
「もうこの世界には戻ってこれない。次に見る夢は本当の夢だけど...」
「うん」

146Dream in Dream...:2003/12/19(金) 19:41
そう、本当の夢。
夢のみる夢じゃなくて、きっとあたしが昔みていたような本当の眠りの中でみる夢。
でも、全然平気だよ。
だってあたしにはこんなにもずっと独りで頑張ってきたあたしがいる。
あたしにはこんなにも辛い思いを引き受けてくれていたあたしがいる。
ここで、色々なことを見せてくれたあたしや、梨華ちゃんがいる。
だから







「「あたしはもう...逃げない」」

147匿名匿名希望:2003/12/19(金) 19:51
更新しました。
1階から36階までノンストップのエレベーターに乗った感じです。
書き急ぎすぎた・・・_| ̄|〇
ってな感じで次回最終回。

>136 名無し(0´〜`0) 様
実はこうんな感じの方が書きやすい所もあるんです(w
良い意味で期待を裏切れるようなラストに出来たらいいなぁと思っています。
・・・多分、裏切れないかも(w


>137 名無し(0´〜`0) 様
よっちぃちょっと頑張ってみますた。
ラストの絡み、そうですねぇ、えぇっと、きっと普通です(w
でも、地べたに足をつけたいですねぇ。

148名無し(0´〜`0):2003/12/21(日) 09:44
Σ!次回最終回ですか…。
ちょっと泣いてしまいました…。
期待を裏切るようならスト、期待しています!がんばってください!!

149名無し(0´〜`0):2003/12/22(月) 02:46
この作品を読んでると自分の心というものを考えさせられます。
そして、次回最終回ですか・・・
でも、楽しみに待ってます。

150Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:43

窓の外はもう暗くなっていた。
部屋の温度はぐっと下がっていて、布団から出ると全身に鳥肌がたった。
それでも、あたしの身体はその鳥肌よりも内から溢れてくる暖かい心で満たされていた。

勢いがある時に行かないと、きっとあたしはまた折れそうになる。
だから立ち上がって携帯を手に掴んだ。
そして走り出した。

こんな気持ちになるのはいつぶりだろう。
心の奥底から顔を上げて走りたいと思って、心の奥底から会いたい人がいた。

きっと会うのは数年ぶり。
本当に会えるのは数年ぶり。

駆け出した足をもつれさせながらひたすら走った。
息が切れて、冷たい空気が肺に入ってむせてしまっても走り続けた。

早く会いたい。
すぐに会いたい。

151Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:44
溢れてくるこの思いも気持ちも全部あたしのモノ。
ずっと独りぼっちだったあたしもずっと夢を見続けたあたしもあたし全てが
梨華ちゃんに会いたがっていた。

走りながら電話をかけた。
今が何時で、今梨華ちゃんが何をしてるかなんて分からないけど、声が聞きたくて
話しがしたくて、会いたかった。

「あ、もしもし?」
『ひとみちゃん?』
「うん、ごめんね夜に電話なんてしちゃって」
『いいよ、気にしないで。どうしたの?何かあった?』

いつもあたしが言っている言葉をくれたのは梨華ちゃん。
そういえばあたしから電話をするなんて久しぶりだもんね。
何かちょっと新鮮かも。

「あのさ、今から梨華ちゃんちょっと会えない?」

切れる息を落ち着かせながらあたしは一生懸命、だけどすごく自然に言葉を紡げた。
きっとあたし自身の言葉だから溢れてくるんだね。
素直に。
すごく、素直に。

152Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:45
『今から?』
「うん、今から」
『えぇっと大丈夫なんだけど・・・まだ・・・の・・・・が』
「ん?何言ってるのさ?」

小声でぼそぼそ話す梨華ちゃんの声が電話じゃちょっと聞こえなかったけど、
それでも今のあたしはそんな梨華ちゃんの話し方ですら懐かしく感じてしまう。
それが嬉しくて笑ったら、電話越しで梨華ちゃんがおどおどしながらも笑っていた。

『えぇっと、何処で待ち合わせる?』
「もうすぐ梨華ちゃんの家の前に着くから下りてきて」
『へ?』

驚く梨華ちゃんの声を聞きながらあたしは電話を切ってまた走りだした。
心が踊ってしょうがない。
恐いはずなのに、なのに今は梨華ちゃんに会えることが嬉しくてしょうがないんだ。
子供の時のような気持ち。
止められない無邪気な子供のような気持ち。
きっと、これは独りぼっちでずっと過ごしていたあたしと、今の梨華ちゃんのことを知っている
あたしが一緒にいるから。

153Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:46
気付かなかった。
自分のはった壁のせいで。
梨華ちゃんはたとえあたしが『好き』という気持ちを言葉にしても、あたしから離れていったりなんかしない。
気付いてたはずなのに。
恐怖がまさっていて見えなかった。

「梨華ちゃん」

走って走って辿り着いた先には梨華ちゃんがいて、その視線の先にはあたしがいた。
こんな風に走って、こんな表情をしているあたしを梨華ちゃんはきっと驚いたように見ているだろう。
遠慮なんて言葉を外して、ただ、ぎゅって抱きしめたくて。

「...どうしたの?何かあった?」
「梨華ちゃん」

夢じゃないかって思うくらい。
そのくらい現実感がない梨華ちゃんが目の前にいた。

「ひとみちゃん、何か小学生の頃みたいだね」

そう言って笑うと、梨華ちゃんがあたしのことを抱きしめてくれた。
抱きしめたくてうずうずしていたあたしの腕ごと梨華ちゃんはあたしを抱きしめてくれた。

あぁ、そうだ。
昔のあたしも梨華ちゃんを抱きしめたかったくせ、それが何か恥ずかしくて出来なくて、
目の前でうずうずしているあたしを抱きしめてくれたんだった。

154Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:47
独りぼっちだったあたしが喜んでいた。
懐かしい香に、懐かしい柔らかみに。
そして段々と落ち着いていくあたしの心。
心臓の音がトクン、トクンって聞こえてきて、懐かしい気分になる。

あたしの心が落ち着くと、次に出てきたのは照れと、そしてちょっとした怯えだった。
でも、心の奥であたしはあたしを頑張れって言っている。
聞こえるんじゃなくて、感じる。
そんなあたしの鼓動が胸一杯に広がっていった。

「あ、あのさ」

梨華ちゃんの胸から顔を上げて、一歩下がって梨華ちゃんを見つめた。
暗闇の中、梨華ちゃんはただ黙ってあたしを見つめていた。

「えぇっと、あのさ...」

頑張れ。
ここで何も言わなかったら今までと同じだよ。

「まず...ごめん。色々と、ごめんなさい」
「それは、こっちも同じだから」
「いや、梨華ちゃんは何も悪くないよ」

155Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:48
だからさ、泣きそうな顔は止めてね。
お願いだから。
ほら、あたしはさ、昔から言ってたじゃん。
梨華ちゃんを守るって。
笑顔にするのはあたしの役目だって。
やっと、やっと叶えられそうなんだから。

「えぇっとね、話したらすごく長くなるから、まず、言わせて」

そうだ、頑張れ。
あたし頑張れ。
喉の奥で言葉を噛み砕くことなくまず一言言おう。
それが、スタート。

「えぇっとさ、あのね....」

俯くな。
下を向いてばっかじゃだめなんだ。
恐くないはずない。
けど、変わらなきゃ。
あたし、変われない。
さっきのように、昔のように、あたしは胸を張って生きていきたい。
言葉に中々出来ない想いが悔しくて、ギュッて拳を握ったら、すごく優しい声がした。

156Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:49



「もう、逃げないんでしょ?」



梨華ちゃんの声がした。

時間が、一瞬止まったのかと思った。
驚いて顔を上げたら、梨華ちゃんが泣きそうな笑顔をしていた。

「私も、もう逃げないから」

さっきとは違うように身体に腕が回された。
今はあたしの胸に梨華ちゃんを感じていて、小さく震えている梨華ちゃんを、すごく近くに感じた。

沢山頭の中で回る疑問を頭の隅に追いやって、あたしは握りしめていた拳を解いて
恐る恐る梨華ちゃんの背中に手を回した。

あたしが知ってた頃よりも伸びた背。
いつのまにか変わった身体つき。

なのに、酷く懐かしかった。
腕に力を入れて、抱きしめた。

157Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:50
梨華ちゃんがここにいる。
そう、思うことが出来た。
安心感を覚えた。
失うことのない安心感を、この時覚えた。
感じられた。


「...好きなんだ」


だから心で噛み砕かれなかった言葉が産まれた。
小さな声と、涙と一緒に。


「梨華ちゃんが、好きなんだ。ずっと...ずっと」


受け止めてなんて言わないから。
ただ、聞いて欲しい。
これが、あたしが生まれ変わる為の魔法の言葉。
生まれ変わりたいあたしの言葉。
そして、素直なあたしの気持ち。

「答えなくてもいいから。聞いてくれたら、それでいいから」

梨華ちゃんの肩が震えていた。
あたしの腕の中で涙を流している梨華ちゃんが震えていた。

「...ずるいよ。ずる、いよ...ひとみちゃん」

158Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:52
嗚咽をもらしながら必死で喋る梨華ちゃんがこんな時なのに愛おしくてしょうがない。
いつの間にか消えていた失うことへの恐怖心。
流れる涙には色々なモノがつまりすぎててあたしは止める気すら起きない。
もちろん、あたしの涙だけだよ。
どんなことがあっても...

「梨華ちゃんに泣かれるのだけは、あたし弱いんだ」

泣いてる梨華ちゃんの頬を両手で挟んで笑ってみせた。
だからさ、ほら、笑って。
笑顔が一番好きなんだから。

「...あたしが、今度は、あたしから、言いたかったのに」

あたしの両手を梨華ちゃんの涙が濡らしていく。
子供みたく顔をくしゃくしゃにして、一生懸命言葉にして、梨華ちゃんは涙を止めようとしていた。

梨華ちゃん言った言葉。
『・・・ひとみちゃんはさ、好きな人が出来たら素直に好きって言える?』
この質問は、梨華ちゃんの勇気。
今、やっと分かった。
素直に言えるよ。
もう、嘘はないから。
夢の中じゃなくても言えるから。

159Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:52
「ひとみちゃん」
「...ん?」






「おかえりなさい」






涙でぐしょぐしょになった顔で梨華ちゃんが一生懸命笑った。
ダメじゃん、また泣きたくなるじゃん。
あたし泣いたら梨華ちゃん泣いちゃうじゃん。

「ずっと、ずっと、言いたかったの。ずっとずっと、言ってほしかったの」

だから『私にもおかえり』って言って。





また、涙が溢れてきた。
止められないよ。
止めれるはずないよ。

160Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:53
繋がった点と点。
繋がっていた線と線。
パズルのピースは全部当てはまって、やっとカタチを整えた。

涙は止まらなかったけど、あたしは頑張って笑顔をつくった。
だって、言いたいじゃん。
笑顔で、梨華ちゃんがしてくれたみたいに。



「...おかえり、おかえり、梨華ちゃん」



抱きしめてもいい?
今、ここでギュッてもう一度抱きしめてもいい?
そして笑おう。
ね、梨華ちゃん。

頬に伝わる涙を指で拭って、親指で柔らかい頬を撫でた。
そして梨華ちゃんの口から小さく零れた、夢のような言葉。

『...私も、ずっと好きだったの』



えぐえぐ泣いて、びちゃちゃ泣いて、梨華ちゃんは一生懸命言ってくれた。
あたしが中学生だった頃から、あの日、ずぶ濡れになった梨華ちゃんを抱きしめた頃から、
気になってて、でも幼馴染みだったから、言えなくてって。

161Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:54
あたしと同じ気持ちを抱えていて、あたしと同じ悩みを抱えていた梨華ちゃん。
でも、その頃からあたしは自分の感情を抑えるのが得意だったし、真直ぐ梨華ちゃんの方を見る
ことが出来なくなっていたから、全然気付くことが出来なかった。

あたしが夢を見始めた頃から、梨華ちゃんはずっと一緒にいれくれた。

真直ぐに見れなかったお互いの顔。
真直ぐに向けれなかったお互いの心。

やっと、やっと辿り着いた。
溢れる涙を指で何度もすくって、あたし達は見つめあって、それから笑いあった。
そしてお互いに目を閉じた。

162Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:55
********************************************

繋がっていた線と線。
見ていた夢の中に、確かに梨華ちゃんはいてくれた。
ずっと、ずっと前から一緒に。

夢だと思っていた夢の梨華ちゃんは、夢だけど夢じゃなかった。
あたしの作り上げた世界は、梨華ちゃんをも巻き込んでいた世界だった。

震えていた声は、あたしじゃなくて、梨華ちゃんの声。
わざと突き放すような行動をとってくれたのは梨華ちゃんの優しさ。
世界の崩壊に気付いた梨華ちゃんの優しさ。
そして、梨華ちゃん自身の世界から抜け出す勇気だった。
ずっと、一緒にいてくれたから気付いてくれた。
あたしの気付かなかった心の崩壊に。
あたしの気づけなかった、梨華ちゃんの心の崩壊に。

夢の中で素直になれていたあたしは、夢の中で素直な梨華ちゃんと出会っていた。
でも、そこは夢の世界。
いつかは覚めなくてはいけない夢の世界。

臆病だった、あたし達。
そして産まれた新しい世界。
夢の住人になって、あたし達は時を過ごしていた。
すれ違って、目を背けあって、失うことだけを恐れて。

163Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:56
お互いが、お互いを想って、素直に手を繋いで、素直に抱きしめあえいたのは心が素直だったから。
失う恐怖もしらないで、作った壁もなかったから。

夢の中で驚いた顔をしていた梨華ちゃん。
だって、それは本当に驚いていたから。

夢の中で目を閉じてくれた梨華ちゃん。
それは、あたしの気持ちと同じだったから。

感じた肌も、感じた熱も、全部、梨華ちゃんだった。

全部、知ってたんだね。
あたしのこと。
全部、一緒に見ててくれたんだね。

お互い素直になれなかった。
夢では出来たことなのに。

あたし達は夢を見て、夢で踊って、ここに立った。
ただ素直に、ただただ、素直に。

164Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:57


遠回りを沢山して、夢の世界じゃあんなに近くにいた。
おかしな奇妙なはじまり方。
夢の世界で出した初めての勇気は、今、ここでの勇気に変わっている。
笑った時間も、感じあっていた時間も、全部、全部自分達のモノになっている。

感じた心。
感じる気持ち。
嘘なんて何処にもなくて、嘘なんて探す必要もなかった。

今まで、ずっと気付けなかったけどさ、繋がってたんだね。
あたし達。




夢は、繋がってたんだね。

********************************************

165Dream in Dream...:2003/12/22(月) 12:58


チカチカと光る街灯。
その下をゆっくりと歩く二つの影。
影の一つは少し大きく、影の一つはもう一つの影よりも少し小さい。
二つの影は顔を見合わせると、そっと手を繋ぎあった。

その手は暖かくて、2人はそのまま道を歩き続けた。


ずっと、ずっと。

166匿名匿名希望:2003/12/22(月) 13:07
更新しました。
そして完結もしました。
読んで下さった皆様、そして管理人様。
どうもありがとうございました。

多分、きっと今年最後の更新になると思います。
嘘だったらごめんなさい。
でもって来年もよろしくお願いいたしますです。

>148 名無し(0´〜`0) 様
こんな感じの最終回ですた。
自分自身、泣くという行為をほとんどしない人間なもので、何かを書いて、
それで少しでも心に触れるモノが書けてたならすごく嬉しいです。
応援ありがとうございました。

( ^▽^)つ□ <ハンカチどうぞぉ。

これで涙でもふいて下さい(w

>149 名無し(0´〜`0) 様
自分の心ってよく私もわからないんです。
こう、ちょっとしたことなんですけど、体育の時間に準備体操してて気付いたら準備体操終わってて。
でも、何か注意されたワケでもないからきっと普通に身体は動いてたんだなぁって
思うと、『あれ?』みたいな。
不思議なことは沢山です。
このお話しはその中の一つなんだなぁって今思いました。
最終回、ちょっとでも楽しんでもらえたなら幸いです。

167名無し(0´〜`0):2003/12/22(月) 14:43
完結お疲れ様でした。
ホントにいいお話でした。
色々と考えさせられたりもしました。
ありがとうございました。

168名無し(0´〜`0):2004/01/04(日) 22:22
新年明けましておめでとうございます。
完結お疲れ様でした。
このお話の番外編なんかあったら読みたいなぁーとか思っちゃいます
今年もがんばってください!応援しています

169名無し(0´〜`0):2004/01/16(金) 16:43
レスのお礼と簡単な予告。

167 名無し(0´〜`0) 様
どうにもひたすら暗い話になってしまって申し訳ないです。
考えることを止めてしまうと私もそこで立ち止まってしまうのかなぁとか
書きながら思ってみたり。
こちらこそ読んで下さってありがとうございました。

168 名無し(0´〜`0) 様
あけましておめでとうございます(遅
番外編はないんですが(ごめんなさい)脳内でテケテキ歩いている彼女達がいます。
いつかまた何処かで彼女達に出会ったら気楽に挨拶でもしてあげて下さい(笑)
ありがとうございます。
頑張ります。



そして自分のケツを叩く為にも予告を・・・。
次回はアンリアル近未来見切り発車のいしよしをやってみよぉかなぁと。
目標は人間臭く。
長さも全く未定ですが、とりあえず予告を。

さっ

170匿名匿名希望:2004/01/16(金) 16:43
名前入れ忘れた・・・_| ̄|〇
上のは私です。
ごめんさい。

171名無し(0´〜`0):2004/01/19(月) 01:21
おぉ、近未来とは。
楽しみです〜頑張って下さい。
と、私も「ケツ」を叩いて差し上げますw

172匿名匿名希望:2004/01/21(水) 10:33
更新前に

>171 名無し(0´〜`0) 様
ケツ叩かれました(笑)
近未来らしからぬ近未来ですが、どーぞよろしくお願いします(ぺこり)


見切り発車。
長さ未定
不定期更新・゚・(ノД`)・゚・。
そしてアンリアルいしよしです。
よろしくお願いします。
途中、グロい表現が出てくるかもしれません、御注意を。

173D:2004/01/21(水) 10:34
「おはよぉ、ひとみ」
「おう、おはようぉ」

あくびを噛み殺しながら自分手の甲に埋め込まれたのチップをかざす。
ったく面倒臭いね、こういの。
昔はこんなのなくて普通に門通ればよかったんでしょ?

冬なんて寒いじゃん。
ポケットから手、出すの。


中途半端に科学の発達した現在。
便利っつぅか不便っつぅかよくわからない今。
探し出そうとすれば探し出せる情報や、空を飛ばない車。
昔、何処かで読んだ漫画みたいに世界はそこまで進歩していない。
あ、でも昔はダメだったらしい同性同士の結婚は出来るようになっている。
あたしの家のお隣さん両方とも女の人。
結婚していて体外受精で妊娠して子供もいる。
まぁ、別に普通なんだけどね。

174D:2004/01/21(水) 10:35
そして制服着用が義務付けられたあたし達学生。
学生という身分の人は全員が制服を義務付けられている。
学校によって制服は違うけど、朝の通学時間になると、似た様な制服が駅に溢れている。

ちなみにあたしの学校の制服は上下深い緑色。
で、袖とズボンの横には赤い線が入っている。
分かりやすく言うと、自衛隊の音楽隊みたいなみたいなヤツだ。
始業式や終業式とかじゃ帽子まで冠んなきゃいけないっていうんだから、その時は
本当、ここは学校じゃなくて軍隊ですか?って言いたくなる。

何でこんな決まり作ったんだろうね、本当。
ウチらは軍隊予備軍ですかっての。
補足だけど、ズボンでもスカートでもどっちでも好きなのが選べる。
あたしはズボン。
スカートなんて動きにくくてしょうがない。

「梨華ちゃんおはよう」
「ん、おはよう」

175D:2004/01/21(水) 10:36
そだ、あたしの名前は吉澤ひとみ。
19歳。
普通にそこらにいる学生と同じ学生だ。

「早く行かないと遅刻しちゃうよ」

で、このちょっと色黒だけど、可愛い娘は石川梨華ちゃん。
現在19歳。
あたしが片思い中の相手。

「んだね、早めに行こうか」

梨華ちゃんとはこの学校に入って友達になった。
学年的には一つ上になるんだけど、梨華ちゃんは他の大学を1年通ってから、こっちの大学を
また受験し直した。
だから、同じ学年。
でもって同じクラス。
あたしの片思いはまだまだ続きそうな感じだけど、大事な友達。

「梨華ちゃん明日提出のレポートやった?」
「ひとみちゃん、またやってないの?」
「・・・ははっ」

176D:2004/01/21(水) 10:37
何も言わないけど、いつも手助けをしてくれる。
いや、あたし別にこれが目的でギリギリまでやらないってワケじゃないからね。

教室に入室する時もこの手の甲のチップをかざさなければいけない。
別にかざさなくても勝手に認識してくれればいいのにって思うけど、まだこの学校は
そんなの導入されてない。
結構なお金、かかるからね。
別に不精しなきゃいいだけだからって理由で導入もしてないのかもしれない。
ま、そんなのあたしには分からないけどさ。

177D:2004/01/21(水) 10:38
このチップは身分証明書だ。
運転免許証とか保険証とかそんなのは全部この中にデータとして入っている。
便利でもあるけど、何か、いつも監視されているみたいであたしはあんまり好きじゃない。
生まれた時に埋め込まれ、死んだ時に取り外される。
チップがなくなるっていることは、この世から存在しなくなるってこと。
生きていく為には必要不可欠なモノなんだ。
だから、犯罪もある。

チップを他人から奪い、それを高値で売る。
奪うのは簡単。
その人を殺しちゃえばいいんだもん。
チップさえ傷つかなければ書き換えだって出来るらしい。
もちろん、相当な技術はいるらしけど、作る人がいるんだから、書き換える人がいたっておかしくない。
そんなもんだ。

178D:2004/01/21(水) 10:38
この世界は、そんなクリーンな世界じゃない。
銃の所持は禁止されているけど、ニュースでは発砲事件とかよく流れているし、
その映像だって流れている。
何処からか出回っているんだ。
薬とかと同じでね。
そんなに酷いっていうワケじゃないかもしれないけど、おばあちゃんやおじいちゃんは
『昔はこんなに酷くなかったんだよ』と言っている。

「歴史とか文化とか生活とかって変わっていくもんだよね」

あたいしの呟きに隣の梨華ちゃんは何となく頷いてるって感じ。
・・・いいよ、別に独り言だもん。

今の若者の時代は今の若者の時代なんだ。
全く変わらないなんてありえないと思う。

席に座ってウィンドウを開いた。
もう、授業が始まる時間だ。

179匿名匿名希望:2004/01/21(水) 10:43
更新しました。
短い・・・_| ̄|〇
ので、続きはまた明日。

180D:2004/01/22(木) 11:12


     *     *     *     *


「今日梨華ちゃん暇?」

昼休み。
もうすぐ秋になるこの季節。
緑の葉ももうすぐオレンジ色になるような季節。
校内の芝生にはあたし達の以外にも結構人がいた。
まだ、温かいからね。

「明日提出のレポート手伝いでしょ」
「さすが梨華ちゃん。わかってらっしゃる」
「何で夏休みに出された課題を前日までやらないのさ。
 一晩で終わる量じゃないのくらいわかってるでしょ?」

だってさ、時間ありすぎるとまた今度でいいやって思っちゃうもんでしょ。
梨華ちゃんは隣で『いいかげん学習能力つけなよ』とか言いながらサンドウィッチを頬張っている。
・・・毎度毎度、お世話かけます。

「BLUE×BLUEのケーキ1ヶ月ね」
「・・・マジすか」
「2ヶ月でもいいよ」
「・・・了解っす」

181D:2004/01/22(木) 11:13
BLUE×BLUEというのは学校から少し離れた所にある飲食店。
夜は酒と音楽が溢れているような店。
そんなメジャーな場所でもないんだけど、知る人ぞ知るってやつだ。
隠れた名店。
メニューは何でもあるんだけど、材料がいいんだか値段が高い。
昼間あたしみたいな貧乏一人暮らし学生がほいほい行けるような所じゃない。
夜は酒メインだし、そんな高いってワケじゃないけど、ともかくケーキとかは高いのさ。
ちなみに、夜は20歳になってなくても、入り口の人にちょっと多めに渡せば入れさせてくれる。
世の中まだまだお金世界だ。

「今日梨華ちゃん家行っていい?」
「別にひとみちゃんの家だっていいじゃん」
「梨華ちゃんの家、行ってみたいのさ」

梨華ちゃんの家はとんでもなくでかい。
本人は呼ばれるのを嫌っているが、お嬢様ってやつだ。

「手伝わないよ」

そして梨華ちゃんは自分の家があまり好きじゃないらしい。
だからか知らないけど、あたしはまだ一回も家の中に入ったことがない。
梨華ちゃんの家がでかいっていうのも、家が何処にあるのか聞いても全然答えてくれないから、
帰りに強引に梨華ちゃんにくっついていって知ったんだ。

182D:2004/01/22(木) 11:14
「わかったよ、ごめんごめん。でも、ウチ御飯はコンビニ弁当だよ」
「いいよ、別に」

家庭のことに触れられるのが嫌みたい。
以前、少しだけ家族のことに触れるような話題になったら、梨華ちゃんはすごく暗い顔になった。
すごくって言っても表情はかわらないんだけど、目が、すごく暗くなった。
だから無理に聞こうとは思わなかった。
思えなかった。
触れたらいけない部分。
そんな気がしたから。

「じゃぁ行こうか」
「午後の授業どうするのさ」
「だって私達二人で夕方から始めて明日の朝までに終わるはずないじゃない」

そう言うと梨華ちゃんは残りのサンドウィッチを口に押し込んで、それをお茶で流し込んだ。
『梨華ちゃんがいたら出来る気もするんだけどな』
という意見は自分の中に押し込んで、あたしも残りのベーグルを口の中に押し込んだ。

・・・まだまだ秘密ってワケね。

学校を出る時、門ですれ違った友達に『昼間から元気だな』って言われて『バーか』と
返したものの、気になって梨華ちゃんの方を見た。
その表情は特に何の変化もなくて、ただ普通に歩いてるだけだった。

183D:2004/01/22(木) 11:15


     *     *     *     *


部屋に響く音楽。
狭い部屋でノリノリになって文字を打つあたしとひたすらすごいスピードで文字を打っていく梨華ちゃん。
ちなみに無言。
ただひたすら作業してるってヤツ。

ボードとウィンド2枚を開いて作業してるんだけど、あたしの指のスピードの倍以上の速度で
梨華ちゃんの指は動いている。
成績優秀、おまけに美人、ついでに家は超豪邸。
あたしとは正反対で大違い。
価値観も全部違うあたし達が一緒にいることを回りは最初おもしろそうに見ていた。

梨華ちゃんと一番最初に喋ったのは、入学式の日。
格好悪いんだけど、スゲー風邪をひいていたあたしは、式の途中にぶっ倒れた。
それも、床じゃなくて、前に立っていた梨華ちゃんの背中に向かって。
それがキッカケ。
あたしが目覚めるまで、梨華ちゃんが付き添ってくれていたんだ。
『ありがとう』って言ったら『別に』って返されたの、今でもよく覚えている。

それから最初はひたすらあたしが付きまとってたって感じ。
何言っても梨華ちゃんあんまり喋ってくれないし、学校終わればさっさか帰っちゃうし。
友達も、いないみたいだった。
悲しいじゃん、そんなの。
それに、あたしが梨華ちゃんと仲良くなりたいなぁって思ってたから。
多分、相当しつこかったと思うよ、あたし。

184D:2004/01/22(木) 11:17
いつからか、梨華ちゃんはあたしと一緒にいても嫌な顔しなくなった。
あたしの粘り勝ち。
確か昼休みにいつものように一緒に御飯食べようって言った時。
いつもみたくどっかいっちゃうのかなぁって思ってたんだけど、梨華ちゃんは
黙ってその場でコンビニの袋出したんだ。
あたしが『お?』って顔してたら『あまりにもしつこいから』って言われたんだっけかな。
で、思ったんだ。
あぁ、この人は人付き合いが苦手なんだろぉなぁって。

梨華ちゃんに恋をしはじめたのは、多分、仲良くなってちょっと経った頃。
梅雨に入る前。
学校の隅の方に立っている桜の木の下で梨華ちゃんを見た時だと思う。

その桜の木には、一枚だけ花びらが残ってた。
すんごい頑張って、風に吹かれても頑張って残ってたんだ。
その花びらを梨華ちゃんは見上げた。
その時だと思う。
あたしが、梨華ちゃんに恋に落ちたのは。

185D:2004/01/22(木) 11:17
「手、止まってるよ」
「ん?あ、ごめんごめん」

思い出から戻ってきてウィンドウに目を戻した。
やべ、全然進んでねぇや。
これじゃぁ本当終わらなくなっちゃう。

「後半の方のデータちょうだい。私の方はもうすぐ終わるから」

相変わらずすごいスピード。
申し訳ないと思いながらもあたしは素直に後半部分のデータを梨華ちゃんの方に投げた。
だって、あたしがこれやったら絶対朝になったって終わらないもん。

186匿名匿名希望:2004/01/22(木) 11:17
更新しました。
次回更新は近々。

187名無し(0´〜`0):2004/01/22(木) 15:15
新作キタ――♪ o(゚∀゚o) (o゚∀゚o) (o゚∀゚)o キタ――♪
楽しみにしています。がんばってください!!

188silence:2004/01/23(金) 15:15
新作キテタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!
こんな素っ気無い石川さんも(・∀・)イイ!!

189JUNIOR:2004/01/23(金) 23:19
新作!!
匿名匿名希望さんの文章好きです。
楽しみにしています。

190名無し(0´〜`0):2004/01/24(土) 00:32
2人の一般的なイメージとは逆っぽい感じですが
なんかいいっす。
次の更新が楽しみ。

191名無し(0´〜`0):2004/01/24(土) 04:10
設定も、この二人も、何だか斬新な感じで良いですね。
楽しみに待ってますよ。

192D:2004/01/25(日) 13:31
「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「じゃぁコーヒーお願い」

あの後、梨華ちゃんのおかげで3時にはレポートが完成した。
結局2/3くらいやってもらっちゃった。
こりゃBLUE×BLUEのケーキ1ヶ月分でも安いくらいだな。

しかし梨華ちゃんは本当すごい。
この量をこんな短時間で書き上げちゃうんだもん。
あたしには無理。
だって集中力ないもん。
そのうえ打つのだって梨華ちゃんみたいに早くない。

「ミルクとか砂糖いらないんだよね」

3時に飲むコーヒーっていうのもいいもんだね。
適当な音楽をかけてマッタリとする。
同じ作業ばっかしてたら肩こっちゃった。

193D:2004/01/25(日) 13:32
「そうだ、梨華ちゃん。制服のシャツ洗うから貸して」
「いや、別にいいよ。このままで寝れるし」
「ダメ、それはダメ。疲れるでしょ。部屋着かしてあげるから早く脱いで」

・・・ちょっとしたにらみ合い。
いや、にらみ合う理由でもないと思うんだけど、梨華ちゃんってこういうとこ強情なんだよね。
別にいいじゃん、そんなのってあたしは思う。

「・・・後ろ向いてて」

で、いつも折れるのは梨華ちゃん。
そうそう、人の好意は素直に受け取ればいいのさ。
これも最初は嫌がって、制服のまま寝てたんだよねぇ。
次の日制服しわくちゃ。
『直す為にどうせ一度は脱いであたしの服着るんだから同じじゃん』
って言ってからちゃんと着替えるようになったんだ。

「着替え、後ろ置いておくから」

その間に風呂の準備でもしますかね。
たまには豪華に入浴剤なんて入れちゃって。
森の香。
これにしよう。

「梨華ちゃん、先にお風呂入っちゃっていいよ。その間に洗濯しちゃうから」

194D:2004/01/25(日) 13:33
洗濯機に入れて10分。
洗濯終了の合図が鳴って、自分のシャツと一緒に梨華ちゃんのシャツにアイロンをかける。
電化製品とか売ってる所行けば自動でアイロンのかかるヤツとか売ってるけど、高い。
貧乏人は自分でかけるのが一番。
欲しいけどさ、そりゃ欲しいけどね。

「よっしゃ、終了」

もうこんな時間か。
下手に寝るよりも起きてた方が楽かな。

「タオル、洗濯機でいい?」
「あ、そのままあたし使うからいいよ」

毎回思うけど、濡れた髪ってどうしてこんなに色っぽく見えるのかね。
お風呂上がりの梨華ちゃんは、いつもの三割り増しくらいで色っぽくみえる。

「梨華ちゃん、眠かったらあたしのベッド使っていいから」

そんな思いを隠しながら笑ってみた。
慣れたもんだね、あたしも。
ちょっと濡れたタオルを受け取った時、梨華ちゃんは黙って頷いた。

195D:2004/01/25(日) 13:33
ちょっと熱めに設定したシャワーが体を刺激する。
この瞬間、一日が終わったような感じになる。
ガシガシシャンプーをして、ゆっくりと湯舟に浸かる。
いつもよりもちょっと贅沢した森の香のするお風呂は気持ちがいい。

いいねぇ、いいねぇ、気持ちがいいねぇ。
スイッチを入れて風呂場に音楽を追加。
体の力が抜けていく感覚。
水に一緒になっていくような感覚。
やべ、このまま眠りそう。

「ふ〜ふふ〜ん、ふふふふ〜ん」

眠気を飛ばす為でもなく、ただ何となく無意味に鼻歌なんてうたってみる。
音楽が流れてるくせに全く違う曲とか。

レポートが終わったっていうのと、梨華ちゃんが一緒にいるっていうのと、寝不足っていうので、
あたしは微妙にテンションが高いらしい。
そのテンションに自分を乗せて、お湯をばしゃばしゃ蹴ってみたり、お風呂に頭をぐわ−ってつけてみたり
お湯遊びを一通り楽しんだ。

196D:2004/01/25(日) 13:34
お風呂から出たた時にはもう梨華ちゃんは目を瞑っていた。
それもソファーで。
・・・ベッド使っていいって言ったのに。
ま、いつものことか。

目を瞑っている梨華ちゃんをお姫さま抱っこをしてベッドまで連れていく。
本当、この娘は軽い。
ちゃんと食べてるのかね。
そんな風に心配したくなる程だ。

いつも疲れたような顔をしている梨華ちゃん。
瞼を閉じたら、軽い振動じゃ目を開かない。

もう4時か。
・・・やっぱし寝よう。

中途半端な眠りでもいいや。
とりあえず寝とこう。
眠い時に寝れるなんて贅沢出来る時にしとこぉっと。

ソファーに横になったら、そこにはまだ梨華ちゃんの温もりが残っていた。
それだけで、ちょっと幸せな気分になった。

197D:2004/01/25(日) 13:35
「・・・狸寝入りが上手だねぇ」

聞こえたか聞こえてないかはどうでもいい。
寝てても寝てなくても、おやすみの代わりをプレゼントだ。

閉じた瞼を開かせるにはどうしたらいいんだか。
眠りに落ちるまで、頑張ってちょっと考えてみた。

・・・わかんね。

どうしたら彼女を振り向かせることが出来るのか、どうしたら彼女の心を開くことが出来るのか。
あたしのシワの少ない脳味噌じゃ考えつかない。
嫌われてるとは思わないんだけどなぁ。
話せば話してくれるし、何も言わなくたって一緒に行動だってしてくれる。

198D:2004/01/25(日) 13:36
なんでかねぇ、どうしてかねぇ。
こんなに好きなんだけどねぇ。
でも今告白したってフラれるのは目に見えてる。
だったらもっと振り向かせたい。

昔は遊び人だったかもしれないけど、今じゃ梨華ちゃん一筋なんだよ。
分かってくれてるんだかくれてないんだか。

「別にヒーチャンいいもんねぇ」

眠る前に呟いたら『キショッ』って言われた。
・・・セリフ取られた感じ。

スリープモードに失敗したらしく、音楽は朝までかかっていた。

199匿名匿名希望:2004/01/25(日) 13:38
更新しました。
もうちょいマッタリ進みます。

>187 名無し(0´〜`0) 様
見切り発車ですがよろしくよろしくお願いいたします。
ありがとうございます。頑張ります。
きっとめげません(笑)

> silence 様
発見サレタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!
いつもとは違う石川さん、書いててちょっと楽しいのは内緒です(・∀・)

> JUNIOR 様
文章が好きだなんて・・・・゚・(ノД`)・゚・。 嬉しすぎ
ありがとうございます。これからも精進していきます。

>190 名無し(0´〜`0) 様
確かに一般的なイメージとは逆ですねぇ。
でも影のある石川さんってちょっと書きやすかったりすることに気付きました(笑)

>191 名無し(0´〜`0) 様
斬新な感じ・・・(照
ありがとうございます。
楽しみに待っていただけるようにこれからも頑張ります。

200D:2004/01/28(水) 02:44


     *     *     *     *


「おまけで紅茶つけといた」

ここはBLUE×BLUE。
この間のお礼でここのケーキを1ヶ月おごることになったあたしは、バイトがなくて、
梨華ちゃんも他に予定がない日にここへ来ていた。
この日の梨華ちゃんはとんでもなく機嫌が悪い。
態度に出しているつもりはないみたいだけど、それがあたしにはひしひしと伝わってくる。

「他に何か御要望は?お嬢さ・・・」

バシンとなる机。
ギリ紅茶は溢れずにカップの中で揺れている。
全く。
肩をすくめるしかないね。
ジョークだって通じやしない。

201D:2004/01/28(水) 02:45
「悪かった、ごめんね。ったく本当にどうしたのさ」
「・・・ひとみちゃんには関係ないから」
「また、それっすか」

きしむ椅子がギーギー鳴る。
制服姿で椅子を揺らしてタバコをくわえて。
一体何年代の映画なんだか。
自分で自分のこと突っ込んでる自分sage

「火、つけないの?」
「つけていいの?」

梨華ちゃんが黙ってマッチを投げた。
残り一本、軽い箱。

「あんたに愛を届けます...。梨華ちゃんこんな所使ってんだ」
「まさか、ひとみちゃんじゃあるまいし」
「あたしこんなとこ使わないよ。愛のないHしないもん」

「もらったの、知らない人に」

箱を裏がえしたら、書かれた手書きの電話番号。
安い店に汚い字。
梨華ちゃんも大変だね、こんな綺麗だと変はヤツにも声かけられるんだもんね。

202D:2004/01/28(水) 02:46
有り難く最後の一本をもらってくわえてたタバコに火をつけた。
20世紀のあまりモノ。
値段ははるけど悪くない。
ここじゃどうにかすれば何だって手に入る。

「で、どうだった?」
「何が?」
「やった感想」
「・・・タバコ、まだ残ってる?」

残り一本入ったタバコのケースを投げる。
ポケットから梨華ちゃんのとは違う店のマッチを取り出そうとしたら、手で制された。
顔が近付いてきて、あたしから梨華ちゃんへ火が移る。

「残り少ない資源は大切に」
「・・・失礼しました」

梨華ちゃん、タバコ吸うんだね。
知らなかったよ。
ってか今まで見たことなかった。

203D:2004/01/28(水) 02:46
「別に、あんまし吸わないよ。ただなんとなくだよ」

さいですか。
まぁそんな時もあるさ。
何となく、うん、悪くない。

「ヘタだった」
「ん?」
「ヘタだった」
「・・・そっか」

その相手はどんなだったのかな。
顔は?体つきは?
優しさに溢れてた?
梨華ちゃんを目の前にしてどんな顔してた?
そこに愛は?
そこに自分は?

嫌だね、こんなの。
嫉妬?独占欲?
カッコ悪い。
でも、人間らしいか。

滑り込んできた灰皿、ナイスキャッチ。
煙りの先じゃ梨華ちゃんがおいしそうにケーキを食べていた。

204D:2004/01/28(水) 02:47
「聞いたのはひとみちゃんだよ」
「わかってるよ」

拗ねてる顔に紙が飛んできた。

「・・・何これ」
「飢えた狼さんにプレゼント」

そこに書かれた名前と電話番号。
多分、紙の豪華さを見ると高級っていう名前がつくようなお店なんだろう。

「あたし、お金ないし」
「格安で手配してあげるよ」

梨華ちゃんのこれは優しさなのかね。
どうなのかね。
でもさ、ちょっと違ううんだよね。
あたしは渡された名刺に火をつけた。

「言ったでしょ?愛のないHはしないの」

煙りの向こうではまだ梨華ちゃんがケーキを食べている。
あたしが火をつけたことは、予想してたことらしい。
別に驚いた顔もしてないし。

205D:2004/01/28(水) 02:48
「そだ、ごめんね」
「何が?」
「残り少ない資源を無駄にしたから」

ちょっと、梨華ちゃんの回りを包んでいた空気が柔らかくなった気がした。

「ケーキ、ひとみちゃんも一口食べる?」
「一口だけ?」
「じゃぁあげない」

言葉遊びや体遊び。
そこら辺に転がっているゴミがユラユラ揺れている。
風が、少し強くなったからだろう。

「口移しでちょうだい」

体遊びや言葉遊び。
そこら辺に転がっている紙屑が空に舞った。
風が、もっと強くなったみたいだ。

あたしの口に、ケーキは運ばれてこなかった。
かわりに梨華ちゃんが口にくわえていたタバコがあたしの口へ運ばれてきた。

206D:2004/01/28(水) 02:49
「間接ちゅーだ」
「・・・紅茶、おかわり」

もうすぐ秋がやってくる。
からみ合わない言葉を置いて、夏はこのまま過ぎ去っていく。

「今日の夜の御予定は?」
「勉強やって、レポート書いて寝る。それだけだよ」
「ふ〜ん」

金髪グラマーのウェイトレスを呼んで紅茶のおかわりと、ついでにコーヒーをもらう。
多めにテーブルに置いたら、ウェイトレスは意味ありげなウィンクをして
おつりを自分のポケットにしまいこんだ。

「ひとみちゃんの今日の予定は決定?」

あたしはおつりを求めたつもりなの。
あの金髪グラマーお姉ちゃんの激しい勘違い。

「そ?でも何だか熱い視線送ってるみたいだけど」
「・・・タイプじゃない」

お金出してまで自分のタイプじゃない人買わないよ。
それにあんな安いお金でOKするってあきらかに危険な匂いするじゃん。

207D:2004/01/28(水) 02:49
どうなの梨華ちゃん、こういう時助けてくれるのが友達じゃない?
片眉を持ち上げてみた。
手であっち行けみたいにあしらわれた。
だからその手を掴んで、手の甲に口付けをした。

「タバコ、買ってくるよ」

梨華ちゃんは何も言わずに机を指で2回叩いた。
何この合図。
知らないよ、あたし。
わからないけど同じように机を2回指で叩いた。

ウェイトレスのお姉ちゃんはこれを見てもうあたしに興味をなくしたらしい。
なる程ね、ありがと梨華ちゃん。
お礼はあのお姉ちゃんから受け取って。

立とうとした瞬間に手を掴まれて、ゴミを握らされた。
それはぐしゃっと握りつぶされたあたしのタバコの空のゴミ。

はいはい、お嬢様。
ちょっと豪華にいきましょう。
これであのお姉ちゃんの痛い視線から逃れられるなら安いもんさ。

208D:2004/01/28(水) 02:50
あたしは財布の中身を確認して、風の強い外へと飛び出した。
あぁあ、せっかくセットした髪、これじゃぁくずれちゃうや。



タバコを買って戻ったら、もうお店に梨華ちゃんはいなかった。
風で乱れた髪を撫で付けていたら、ふとっちょめのマスターから手紙を渡された。
梨華ちゃんからだった。

『用事が出来たから先に帰るね。ごちそうさま。R』

用事ねぇ、ま、そういうことにしときますわ。
しかし一行で終わる手紙ってどうなのよ。
もうちょっと愛を込めてくれてもいいんじゃないの?

「フラれちゃったのかい?」
「違うよ」

マスターは何を勘違いしたのか、あたしの肩を叩いてコーヒーを一杯おごってくれた。

だからフラれたワケじゃないっつぅの。

いただいたコーヒーをありがたく飲みながらあたしは心の中で呟いた。
もうちょいこんな言葉遊び、したかったんだけどなぁ。

209匿名匿名希望:2004/01/28(水) 02:51
更新しました。
眠れない・・・_| ̄|〇
そんな夜の更新でした。
でもって次回から更新ペースダウン予感。

210JUNIOR:2004/01/30(金) 22:36
更新お疲れ様です。
石川さんがなんか他の作品と違ったかんじでいいです。
マイペース更新で頑張ってください。

211D:2004/02/01(日) 21:09


     *     *     *     *


ボフッ


「・・・マジすか」

いつのもように音楽のりのりでキーボードを叩いてたら突然パソが壊れた。
変な煙りが本体から出ている。
ウィンドウも次々に消えていく。

まじかよ。
こんな時にすか。

このレポートは明日の朝までに絶対出さなきゃいけなヤツだ。
珍しくあたしが提出期限1週間前からやってて、あと残りちょっと。
そんな時に起きたブッ壊れマジモード。

212D:2004/02/01(日) 21:10
「・・・シャレにならないよぉ、これ」

今までの保存しておいた分が入っているディスクを無理矢理取り出して、とりあえず第一段階OK
第二段階はパソを貸してくれる友達探し。
が、見事撃沈。
全員電話の奥で『無理、まじ無理ごめん!』とか。
・・・なんてこったい。
最後の切り札だと思っていた札をいとも簡単に出すことになるなんて。

213D:2004/02/01(日) 21:11
『・・・本当?』
「嘘ついたってしょうがないじゃん」
『他の人は?』
「皆必死に頑張ってるみたい」

電話の奥で、梨華ちゃんがため息ついたのがわかった。
いや、本当に探したんだよ。
必死に。
でもさ、皆も必死なんだよ。
あたしの友達って皆ギリギリにやるやつらばっかなんだよ・・・。

「お願い梨華ちゃん!!このままじゃ留年決定だよ・・・」
『・・・私の家の近くに来たら携帯に電話して』
「梨華ちゃん!!」
『間違っても1人で入ってこないでね』

そう言うと梨華ちゃんは電話を切った。
ありがたい、マジありがたい。

急いで部屋着から制服に着替えて家を出た。
秋、もうちゃんと上着着ないと寒いくらい。
温暖化とか言われてた時代もあったらしいけど、今じゃ冬が長いんだよね。
寒くなるのが早い。
北風がぴゅーぴゅー吹いて、またまたいつかのようにあたしの髪をめちゃめちゃにする。
ったく、これじゃぁいくらセットしても意味ないね。

214D:2004/02/01(日) 21:11
『・・・本当?』
「嘘ついたってしょうがないじゃん」
『他の人は?』
「皆必死に頑張ってるみたい」

電話の奥で、梨華ちゃんがため息ついたのがわかった。
いや、本当に探したんだよ。
必死に。
でもさ、皆も必死なんだよ。
あたしの友達って皆ギリギリにやるやつらばっかなんだよ・・・。

「お願い梨華ちゃん!!このままじゃ留年決定だよ・・・」
『・・・私の家の近くに来たら携帯に電話して』
「梨華ちゃん!!」
『間違っても1人で入ってこないでね』

そう言うと梨華ちゃんは電話を切った。
ありがたい、マジありがたい。

急いで部屋着から制服に着替えて家を出た。
秋、もうちゃんと上着着ないと寒いくらい。
温暖化とか言われてた時代もあったらしいけど、今じゃ冬が長いんだよね。
寒くなるのが早い。
北風がぴゅーぴゅー吹いて、またまたいつかのようにあたしの髪をめちゃめちゃにする。
ったく、これじゃぁいくらセットしても意味ないね。

215D:2004/02/01(日) 21:12
「あ、もしもし梨華ちゃん?うん、そう。もうすぐ着くよ」

途中コンビニで温かいお茶を買って、ついでに夜食もちょっと買った。
梨華ちゃんが食べるかどうかわからないけどおかしのおまけつきだ。

『近くに広場みたいのあるでしょ?そこで待ってて。すぐ行くから』

はて?なんで家の前じゃいけないんだろう。
でもまぁお邪魔する身。
素直に言われた通りにしよう。

広場みたいな所。
それは本当にその名の通りの場所だった。
広い場所。
広場。
むしろ空き地。
何もない。
あるのなんて足元の土くらいだ。

「子供が遊ぶにはいい所だねぇ」

216D:2004/02/01(日) 21:13
まぁ、今どき外で遊ぶ子がいるかどうかは疑問だけど。
こんな広場で制服のポケットに手ツッコンデ立っているあたしを、通り過ぎる人はどう見るのかね。
どうしよ、変質者とか思われたら。

「はぁやく来い来いクリスーマスー」
「待ってもないくせによく言うよ」

冷静のツッコミ。
まぁ放置よりはいいけどさ。

「夜分遅くに申し訳ない」
「だったら来ないでよ」
「嘘、嘘ごめん。ありがとう」

振り返ったら予想範囲内な不機嫌さでダルそうに立っている梨華ちゃん。
不機嫌な顔してても可愛いねぇ、可愛いねぇ梨華ちゃん。
そんな梨華ちゃんが事務的な言葉で喋り出した。

217D:2004/02/01(日) 21:14
「覚えてね」
「何が?」
「私の部屋に入るまで、私から1メートル以上離れないで」
「あたしのこと大好きなんだね」
「じゃないとひとみちゃん、殺されちゃうから」

フリーズ一発風吹く北風。
可愛い顔してサラリと何てこと言うんですか。

「嫌でしょ?レポートのおまけで殺されちゃうの」

悪い冗談っすかね。
だったらあんまし笑えないよ。
軽く笑った方がいい?だったら笑うよ。
どんなに、寒くても。

笑ったあたしを見て、梨華ちゃんはどう思ったんだか。
後ろ姿が『ついてきて』って言ってる。
だから言われた通りに1メートル以内、ぴったりちょっと後ろキープでばっちりマーク。
ちょっとした浮かれ気分でその背中を追った。

218D:2004/02/01(日) 21:15
「おかえりなさいませ、お嬢様」

そんな浮かれた気分が消え去ったのは、広い庭を抜けてデカイ鉄の扉を通った時。
時代遅れのような服装、上下黒のスーツ、白のシャツで黒いネクタイの人が二人、
扉の横で銃を持ちながら梨華ちゃんに向かって頭を下げた時だ。
銃口はこっちに向けられてなかったけど、視線が、痛いくらいに刺さっているのがわかったから。
その視線に込められていたのは、敵意、殺意。
歓迎の眼差しなんかじゃなかった。

「友人よ、よしなさい」
「はっ、失礼しました」

黒服の男が一歩後ろに下がり、梨華ちゃんは真直ぐ前だけを見て歩き始めた。
いつもと違うピリピリした空気に負けないように、あたしは梨華ちゃんの背中を追った。
こんなデカイ家なんだから、ボディーガードかなんかなのかな。
金持ちの家っていうのも色々大変なんだろぉなぁ。
背中にまだ視線を感じながら、そんなことを考えた。

219D:2004/02/01(日) 21:15
1階の中央には螺旋階段があった。
綺麗に磨かれていて、入り口から続く赤いマットがひかれている。
まるで映画みたいだ。
シャンデリアに赤いマットのひかれた螺旋階段。
今すぐに舞踏会が開けるんじゃね?これ。

ついつい物珍しさにキョロキョロしながら階段を昇っていたら、ガツンと肩に衝撃を感じた。
振り返ったら焦ったように小走りで階段を下りていく女の人が視界に入った。
服装は見るからに家政婦。
いや、焦るのもわかるけどさ、ぶつかったら普通謝るでしょ。
きょろきょろしてたあたしも悪いかもしんないけどさぁ。

梨華ちゃんは、その光景を少し冷めた眼差しでいていた。
そして女の人の変わりに『ごめんね』と呟くように言った。

今と昔が複雑にからみ合ったようなこの家は、華やかな照明の影に隠れるように、監視カメラや
小さな筒のようなものが所に取り付けられていた。
あの筒、遠隔操作の出来る銃じゃなかったっけ。
少し前に、テレビで特集組んで放送していたのを見た気がする。
まぁ、でも聞く程のことでもないか。
別にあたし悪いことしに来たワケじゃないし。

220D:2004/02/01(日) 21:16
梨華ちゃんの部屋は、3階だった。
3階中央部。そんな場所。
入り口には今じゃ珍しい木製の扉が取り付けられていた。

「・・・すげーひれー」

何この部屋。
普通に生活出来るんじゃね?
ってか今あたしが住んでる所よりも広いじゃん。

「上着、そこにかけておいていいから」

デカイ本棚にぎっしり詰まった難しそうな本。
キングサイズのウォーターベッド。
デカイテレビにアナログのレコードプレーヤー。
すげーこれ何年前のもんだよ。
絶対高い。
ありえないくらい高いはず。

「レポート、いいの?やらなくて」

入り口に突っ立ってボケ−ッとしているあたしの耳に、パソを起動させる音が響く。
あぁそっか、レポートやりに来たんだっけ。
あまりの凄さにすっかり忘れてたよ。

221D:2004/02/01(日) 21:17
「このハンガー借りるね」
「そこにあるのは適当に使っちゃっていいよ」

隣には梨華ちゃんの制服がかけてあった。
こうして並べてみると、自分のよりも随分小さいのがよくわかる。
ってか、あたしがデカイだけか。

「ねぇ、ねぇ」
「何?」
「トイレって何処にある?」

さっきまで寒い外いたからさ。
ちょっと冷えた。

「ひとみちゃんの右手側。扉あるでしょ、そこ」

すげー、部屋にトイレまで完備っすか。
何でもあんだね、この部屋は。

222D:2004/02/01(日) 21:18
ベルトに手をかけながらトイレを借りようとした時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
梨華ちゃんの返事を待って開けられた扉からは、さっきの家政婦さんらしき人が入ってきた。

「何か用事?」
「あの、お嬢様、ぼっちゃまを見かけませんでしたか?」

梨華ちゃんに兄弟なんていたんだ。
初耳だ。
ずっと一人っ子だと思ってた。
何となくベルトをいじりながら会話を聞いていた。
梨華ちゃんが見ていないと答えると、家政婦さんみたいな人は頭を下げて部屋を後にした。

「兄弟いたんだ」
「一つ違いの弟」

梨華ちゃんはそれだけ言うと、着ていた上着を脱いでベッドに座った。
・・・刺激的な格好してるじゃないの。
キャミソールっすか。

「ズボンぬぐなら向こうでね。私、別にひとみちゃんの下着に興味ないから」

何となくいじっているウチに外してしまった ベルトに視線が向けられていた。
こりゃまた、失礼しました。

223匿名匿名希望:2004/02/01(日) 21:24
更新しました。
そしてふかわった・・・_| ̄|〇
>>214は飛ばして読んで下さい。
ごめんなさいゴメンナサイゴメンナサイ・゚・(ノД`)・゚・。

次回更新は近々目標。

> JUNIOR 様
まったり更新ですみません。
自分でも初めて書いてるかもしれないイシカワさん。
良い意味で違った味が出せればなぁって思ってます。

224名無し(0´〜`0):2004/02/02(月) 01:31
謎な梨華ちゃんに興味津々です。
ご自分のペースでガンガって下さい。
待っておりまする。

225JUNIOR:2004/02/02(月) 21:05
更新お疲れ様です。
謝らないで下さい。(^∀^)
読めば読むほどこの小説に惹かれていく自分。
やっぱり作者様の文章好きです。

226D:2004/02/04(水) 00:42
「この部屋って禁煙?」

レポートをはじめて数時間。
現在1時50分。
うし、これなら3時前には終わるべ。
だからちょっとくらいなら休んだって大丈夫だろう。

「私ももらっていい?」

返事の代わりの答え。
寝ててもいいって言っといたのに、梨華ちゃんはベッドの横になって本を読んでいる。
何が何でもあたしの前で寝るつもりないんだね。
別に寝込みを襲う程あたし腐ってないよ?
眩しいくらいに肌を露出させている梨華ちゃんにタバコを投げたら、指でちょいちょいと呼ばれた。
呼ばれるままに近付いて、唇を近付けるようにタバコを近付け明かりを灯す。
なるほど、残り少ない資源は大切にしないとね。

227D:2004/02/04(水) 00:43
梨華ちゃんが少し横にずれてくれたので、甘えてベッドへ座った。
ほどよく温かいベッドの温度。
こりゃぁ快適な眠りが出来るわ。

しばらくボーッとタバコをふかしていると、梨華ちゃんがチラリと時計を見て、
くわえたタバコの火を消し潰した。
どうしたんだろうと思いっていると、あたしの手からもタバコが奪い取られる。

「3分間、私に頂戴」

頷く前に、ネクタイに手をかけられた。

ん?どうしたんすか??

喋ろうと思った口を手で塞がれた。

・・・こういう時って唇で塞ぐんじゃないの?

小声で『黙ってジッとしてて』って言われたから素直に頷いた。
突然だったけど、こうやってやられるのも悪くない。

228D:2004/02/04(水) 00:44
ゆっくりとネクタイが外されて、同じようにゆっくりと上からボタンが外されていく。
この静寂の中、自分の好きな人が肌を大きく露出させているような服を着て、自分の服に
手をかけていると思ったら、ガラにもなくえらく緊張してきた。
中途半端にボタンを外され、中途半端に肩からシャツが落ちていく。

そういや、何で3分なんだろ。

考えた瞬間に扉から2度ノックの音が聞こえて、この部屋の主人である梨華ちゃんの
返事を待たずに扉が開いた。

「何だ、お楽しみの最中か」

知らない声。
誰これ。

「出て行ってもらえますか」
「・・・そうだな、中途半端じゃ姉さんにも、そっちの子にも悪いしね」

『ごゆっくり』
この言葉を残して影が去って行った。
あっという間。
時間にして数秒。
嵐よりも早く、嵐よりも静かに。

229D:2004/02/04(水) 00:44
逆光で顔は見えなかったけど、多分、梨華ちゃんにタメ口きいてるんだから、
今のが、きっと、梨華ちゃんの、弟。

・・・感じ悪っ。

扉を睨みつけていたら、梨華ちゃんがあたしのシャツから手を離した。

「3分終了。ありがと、助かったわ」

そう言うと梨華ちゃんはシャワールームへすたすたと消えて行った。
で、取り残されたあたし。
中途半端にシャツ脱げてるし、ネクタイもほどけてる。
ちょっとムラムラきてたところのいきなりのお預け。
・・・なんスか、これ。

乱れた服装のまま、しばらくベッドの上に座っているあたしの耳に、シャワーの音だけが
ガンガン響いてきていた。

このシャワーも、別に何かがはじまる合図でもないのね。
さっきの嵐よりもタチが悪い。
3分間で火をつけられて、3秒後には水をぶっかけられた。

変なゲームに巻き込まれて、何もしないうちに最下位になった感じ。

230D:2004/02/04(水) 00:45
何だか面倒だったから、あたしは乱れた服装のまままたレポートを打ちはじめた。
シャツが肩からずれてて少し気持ち悪くたって問題ない。
ネクタイが襟元から落ちそうだって問題ない。

あぁ、なんかガス抜きされた。
成就されない思いがプらプらとそのへんを漂っているみたいだ。
魂抜。
突然火がついた自分もどうかと思うけど、でもさ、あたし梨華ちゃん大好きなワケさ。
そりゃ、盛り上がったりもするよ。
見える肌も、少し触れられた時の指先にだって、どきどきするさ。

あぁため息。
駄目駄目。
そう思ったって、ため息ため息。
ダメだ、落ち着かない。

こんなんでレポートしたって手につかない。
酒なんて買ってないし、ガムだって買ってない。
レッツ喫煙。

231D:2004/02/04(水) 00:46
ベッドに無造作に置かれたタバコ。
その近くに、さっきまで梨華ちゃんが座っていた。
その映像が脳内で再生されて、少し、赤くなった。

触れたベッド。
残る温もりは、梨華ちゃんのモノではないんだろう。
それでも、触れただけで赤くなった。

・・・中学生みたい。

純粋に人を好きになったこと。
そんなの小学生ぶりだった。

『好き』

純粋に好き。
誰かが好き。
一緒にいるのが好き。

単純に人を好きになれなくなったのは、中学生くらいからだっけ。
背伸びしたくて、無理に吸ったことのないタバコ吸ってみた。
全然旨いなんて思えなかった。
でも、タバコを吸っている姿を自分で想像して、何かカッケ−くね?
なんて思ったりしていたから、満足だった。

232D:2004/02/04(水) 00:47
中学って、あたしの中で一番背伸びがしたい時期だった。
タバコ吸うのも、親に隠れて酒を飲むのも、いつの間にか消えた恋愛感情を笑って話すのも。
何だって出来る。
それが、かっこいいと思ってた。

悪ぶってみたり、優等生ぶってみたり。
体育で活躍してみたり。
言い寄ってきてくれる子がいるのは、悪い気がしなかった。
だから、好きでもないのに、カラダを重ねたりもした。

カッコつけたがり。
そんなだったんだっけかな。

それが身について、ここまで来た。
きっと、同じようなことして成長してきた子達が沢山いる。
それが普通で、それが同じくらいの世代じゃ当たり前だ。
出回る名刺や、出回る情報。
飛び交う言葉や、飛び交う物。
皆、まだまだそれがかっこいいと思ってる。

233D:2004/02/04(水) 00:48
あたしもそうだった。
梨華ちゃんに、恋をするまで。

好きな人が出来ると、世界がかわる。
愛のないSEXなんて何がカッコよかったんだろう。
何が気持ち良かったんだろう。
あれ?そういえばあたしそんな感じてたっけ?
いつも攻めてた気がするな。

気取って吸ってたタバコ。
気取って飲んでたお酒。
自分をよく見せようとするアイテムだった。
金髪に染めてみたり、黒く染めてみたり。
色々なこと、した。

でも消えた。
全部、変わった。

234D:2004/02/04(水) 00:49
梨華ちゃんが、変えてくれた。
気取らず吸うようになったタバコ。
旨いと思うお酒。
カッコつけるとかじゃなくて、ただ、何となく染めるようになった髪。

まぁ、もっとカッケくなって梨華ちゃんに振り向いてもらいたいってのもあるけど、
でも、今は違うカタチで側によりたい。
近付いていきたい。

時たまする言葉遊びは楽しかったりするけど、でも、本当はもっと触れたい。

・・・熱っ。

ドキドキする気持ちを抑えようとして、タバコを掴んだ。
カッコつけるんじゃない。
これが、今の、あたしのスタイル。

235匿名匿名希望:2004/02/04(水) 00:55
更新しました。
カッコつけ・・・何かここの吉はカッコつけてる気がするな(苦笑)

>224 名無し(0´〜`0) 様
まだまだ謎多き梨華ちゃん。
徐々に明らかになっていくと思います←オイ。
ノロノロになるかもしれませんが、完結目指して頑張りやす!
ありがとうございます。

> JUNIOR 様
優しいお言葉ありがとうございます。
スルメみたく噛めば噛む程味が出ればいいんですが(苦笑)
こんな駄文を好きだなんて・・・・゚・(ノД`)・゚・。
頑張ります。
スルメになります(違

236名無し(0´〜`0):2004/02/07(土) 00:36
梨華ちゃん自身も謎だけど
弟もなんか…含んでますね。

こういう梨華ちゃん好きかも♪
ご自分のペースで頑張って下さいね〜

237D:2004/02/09(月) 10:51
椅子を少し倒して、テーブルに置いてあった灰皿を近付けた。
灰皿タバコに残り少ないマッチ。
ウィンドウがチカチカ光ってて、何か目が痛かった。

自分の梨華ちゃんに対する感情をまた確認して、ちょっとドキドキもしたけれど、
今はそれよりも頭を離れないことがあった。

ボフーッて吐き出した煙りがモクモクカタチを変えていく。
煙りがカタチをつくり出す。
さっきの、出来事の。

あの弟、何しにここに来たんだろう。
人を見下したような態度とかムカツクからあんまし思い出したくないけど、
気になってしょうがない。

238D:2004/02/09(月) 10:52
さっきの空気からして仲の良い兄弟ってワケでもないみたいだし、弟も姉である梨華ちゃんを
姉として見ているワケでもなさそうだ。
『姉さん』
そんなの言葉だけだ。
そんな感じ。

逆光で見えなかった顔。
でも、部屋から出ていく時に一瞬見えたあの冷たい目。
今、思い出すと吐き気がしてくる。
あんな目を、梨華ちゃんはしょっちゅう向けられているんだろうか。
だったらたまったもんじゃない。

見下されている。
卑猥な目で見られている。
感じ悪い。
気持ち悪い。
出来れば一生会いたくない。

そんな目をしたヤツだった。

239D:2004/02/09(月) 10:53
愛していけるならずっと梨華ちゃんを愛していきたい。
叶えられるなら一緒になりたい。
だからその家族も愛さなきゃいけないのかな。
そんなこと、考えたこともあった。

でも、頑張ったって、そんなこと出来ない気がした。

梨華ちゃんのこと、あんましあたしは知らない。
近くにいれて、今は満足。
きっと、梨華ちゃんの心に触れるにはまだまだ時間がかかると思ったから。
急ぎすぎると、絶対に梨華ちゃんを傷つけるって分かっているから。

ここに来て、分かったこと。
梨華ちゃんは、学校だけじゃなくてここでも独りだ。

隙間をうめる為に、きっとカラダを重ねた時だってあったと思う。
でも、肉体の距離が近付いたって、梨華ちゃんの思いは満たされない。
無理矢理にでも近付いてくるヤツなんてこの世の中、そんなにいない。
いるとしたら下心あり。
純粋なんかじゃないヤツばかりだ。

240D:2004/02/09(月) 10:54
だから、皆が人との関わりなんて極力少なくしようとする。
綺麗な心のヤツの方が、あっという間に死んでしまう。
騙されて、殺されて、売られる。
そんな世界がここにはあるから。

きっとあたしのようなヤツの、かなり珍しい。

『友人』
こう呼べる人がいるのはどのくらいなんだろう。
『仲間』
こう呼べる人がいるのはどれくらいなんだろう。

独りっていうのは、結構寂しい。
こっちが友達と思っていても、相手にとってはただのクラスメイト。
境界線なんて人がそれぞれ引くものだ。

人に惹かれて人に興味を持つ。
だから人は人に近付きたいのかもしれない。

あたしは梨華ちゃんに興味を持った。
そして、恋に落ちた。

241D:2004/02/09(月) 10:54
ここの人達は、一体なんだんだろう。
優しさの欠片すら見れなかった目。
つかみ所を見せない梨華ちゃん。

切り取ったような1場面を見ただけだけど、ぐちゃぐちゃだ。
1週間もいれば胃をやられてしまう気がする。

前にも言ったけど、この世界はクリーンじゃない。
裏切られる気持ちにおびえる人間関係。
試し試される駆け引き。
疲れることだってある。
でも、楽しいことだってある。

知りたいとか、知ろうとするのは悪いことじゃないと思う。
もちろん、限度はあるけど。

さっきの梨華ちゃんの弟。
知りたいというよりも、欲しい。
きっとそれだろう。
あまり、気分のいいもんじゃないけど、ヤツは、きっと梨華ちゃんのカラダ目当て。

242D:2004/02/09(月) 10:55
言葉の駆け引きよりもタチの悪い。
優しさなんて見せないで、ただ、何かをしている。
もし、関係があるのなら、きっと、そこにあるものはない。

遊ぶ言葉。
傷つけるだけの遊ぶ言葉ならそんなもの投げ捨ててしまえ。
あたしはそう思っている。

傷つく為のカラダの関係。
傷つきたいのだけならそれはいいだろう。
でも、そんなの悲し過ぎる。

きっと、もう慣れていたから、今回が最初じゃない。
何度も、同じ時間に、アイツは現れている。

梨華ちゃんのカラダは、アイツにもう見られたんだろうか。
もう、触られたんだろうか。
もう、挿れられたんだろうか。

梨華ちゃんが、家に入れたかった理由は何?
これ?
それとも、もっと別のこと?

243D:2004/02/09(月) 10:56
わからないけど、正直今あたしは自分の考え出した答えに対して嫉妬をしていた。
嫉妬?
そんな可愛いもんじゃないか。
これは、もっと別のこと。

なんだあたし。
まとまらない言葉。
まとまらない思い。
とっちらかってやがる。

言葉と思考がまとまっていない。
イライラしている証拠だ。

244D:2004/02/09(月) 10:56
「タバコ、握り潰してて楽しい?」

いつからそこにいたんだろう。
振り返ったら、梨華ちゃんがさっきと同じ、露出の激しい服装で真後ろに立っていた。
少し冷めた目。
・・・そうか、干渉されること、好きじゃないんだもんね。
そんな触れられたくないこと?
知られたくないこと?

「何となく、握りつぶしてみたかったんだよ」
「そ、早くレポート。終わらせちゃいな」

また梨華ちゃんはベッドに座り、読みかけていた本に手を伸ばした。
あたしは、握りつぶしていたタバコを灰皿に投げて、だらしなく着ていたシャツのボタンをしめた。

とりあえず、レポートやろう。
切り替え、切り替え。
首を鳴らしたつもりだったのに鳴らなかった。
ちぇっ、何か決まらないや。

245D:2004/02/09(月) 10:57
これでいい。
今は、これでいい。
もう少し時間をかけよう。
梨華ちゃんがまた独りっきりになってしまわないように。

愛は与えるもの。
あたしってまさにそれ?
あ、違うか。

ユルイとか言われるけと、自分じゃ結構繊細と思っているあたし。
いつか届け、梨華ちゃんに。
そしていつか、知って欲しい。
誰かを『愛』するっていう気持ちを。

ははっ、あたしってば何かキザじゃない?

246D:2004/02/09(月) 10:57
綱渡りをしているのは、あたし達も同じなのかもしれない。
決まった範囲以外は踏み込まない。
いつだってその線を足で消そうか、飛び越えようか、そのままでいようかを計っている。
一定の距離感を保って、確信に触れない。

でも、あたしは梨華ちゃんと一緒にいたい。

いいじゃん、純粋で。
何か、カッケくね?あたしって。

切り替えられた思考で作業開始。
そして無事、レポートは3時過ぎに終了しました。

247D:2004/02/09(月) 10:58
恋愛感情なんて、上手いことコントロール出来るもんじゃない。
好きなもんは好きなんだし、側にいたいもんは側にいたい。
嫉妬だってするし、独占欲だって出てくる。

いいじゃん、人間らしくて。
あたしは、こんな自分、ちょっと好きだったりする。
で、いつか梨華ちゃんに好きになってもらいたかったりする。

あたし達は若い。
まだまだ、若造だ。
でも、精一杯、生きてるんだ。

248匿名匿名希望:2004/02/09(月) 11:02
更新しました。
遅いうえあんまし進んでない・・・_| ̄|〇
でもきっともうすぐすると進みます。

>236 名無し(0´〜`0) 様
石川一家の謎。
一体いつになったら解けていくんしょうか←オイ。
そして更新ペース落ちまくり。
申し訳ないです・゚・(ノД`)・゚・。
でも頑張ります。

249名無し(0´〜`0):2004/02/09(月) 16:03
匿名匿名希望さまの話というか文章ってすごいはまります。
おもしろくて切なくてあったかい。
ずっと応援してるのでむりせず進めてってください。

250JUNIOR:2004/02/10(火) 23:19
久しぶりにPCつけたら更新してある!!
まさに謎の石川一家・・・・・。
人を見下した目で見るヤツ・・。
私も嫌いだそんなヤツ。
マイペース更新頑張ってください。

251D:2004/02/13(金) 19:45


     *     *     *     *


ダルー。
何これ。
風邪っすかねぇ、最悪。
マジ最悪。

「・・・何変な顔してんの?」
「・・・ちゅーっす梨華ちゃん」

変な顔なんてしてないもん。
普通だもん。

「風邪でもひいたんだ」
「みたい」
「そ、お大事に」

252D:2004/02/13(金) 19:46
・・・冷たいんじゃないの。
すんごく。
それって。

「ヒーちゃん一人暮らしなんだ」
「知ってるよ」
「風邪ひいちゃったんだ」
「今聞いたよ」
「看病して」
「イヤ」
「いいじゃん」
「イヤだ」
「・・・ヒーちゃんが高熱にうなされて翌朝ぽっくりいってもいいの?」
「・・・。」

風邪に良くきく薬。
それはきっと

253D:2004/02/13(金) 19:46
「じゃぁ今から寝かせに行ってあげる。帰るよ」

愛だ。

「寝言は寝てから言ってね」

それがたとえ一方通行でも。

254D:2004/02/13(金) 19:47


     *     *     *     *
     

「最近授業サボるようになったねぇ」
「黙って寝てなよ」

学校まで頑張って行った意味なんてない。
到着一分後には学校出て家戻ってきちゃった。
そんで家で熱計ったら38度どか。
こりゃ体ダルイはずだわ。
制服脱ぐのもだるくてそのままベッドに飛び込んだ。

梨華ちゃんはアイスピックで氷を砕いている。
ありがてー、氷枕とかまじ嬉しい。

「何か飲む?」
「あぁ、じゃぁスポドリなんか」

255D:2004/02/13(金) 19:48
冷蔵庫をがさがさしている梨華ちゃんを横目に、上着を脱いでネクタイを緩めた。
あぁもうぉだるい。
風邪なんてひくもんじゃないよ。
でもまぁ、こうやって梨華ちゃんが看病してくれるのは嬉しいけどさ。
あ、氷枕ありがとう。
気持ちいいよ。

「薬は?」
「その棚の中」

すでにダルダルモードのスイッチが入っていたあたし。
何も言わずに薬を飲ませてくれる梨華ちゃんに感謝しながらそのまま目を閉じた。

「じゃぁ私、学校戻るから」

強烈な薬の力で眠りに落ちたいくあたしの耳に、冷たく響く、聞こえた言葉。
・・・本当、寝かせに来てくれただけなのね。

256D:2004/02/13(金) 19:48


     *     *     *     *


「これ、昨日のお礼」

お昼。
ばっちり寝坊したあたしは午前の授業を見事サボった。
1日で直る奇跡的回復力に自分でも驚き。
やはり愛の力だね。

「別に、お礼されるようなことしてないし」
「いいのいいの、こういうのは素直に受け取っておきなって」

中身、ベーグルだけど。
安物じゃなくてBLUE×BLUEのベーグルね。
ちょっと高いけど、あたしが知るなかで一番美味しい。

257D:2004/02/13(金) 19:49
「何かいつもよりも精気ない顔してんね。
 あたしが風邪でぐったりと寝込んでる間にまた誰かとヤッたの?」
「最低だったけどね」

いや、あたしそんなマジな返事期待してなかったんだけど。
いつもみたくサラリと流してくれるの期待してたんだよ。
そんなマジな顔されてベーグル食べられたらフリーズっすよ、あたし。
それも、機嫌悪いでしょ、梨華ちゃん。

「ひとみちゃんこそ、最近どうなのさ」

何その挑戦的な眼差し。
珍しい、いつもはそんな興味も何もないような目するくせに。
どうしたのさ、今日ちょっと変だよ。

「だからあたしは愛のないHはしないって言ってるでしょ。
 いつになったら信じてくれるのさ」
「昔は結構な遊び人だったんでしょ?有名だよ」

258D:2004/02/13(金) 19:51
それは、過去のこと。
今は違うの。

「遊び人なんて言われるのは不本意だよ。
 相手が求めてきたから答えてあげてたんじゃん」
「それが遊び人だって言うんだよ」

・・・そんなの梨華ちゃんだって同じじゃん。
きっと、重ねる意味は違うんだろうけど。
でも、何。
どうしたの。
積極的に話をするなんて珍しいじゃん。

「体調、もういいの?」
「ん?あぁ、全然平気。愛の力さ」
「まだ熱あるんじゃない」

風が吹いた。
髪が揺れた。
それだけなのに、梨華ちゃんを取り巻く空気が見えた気がした。
昨日までとは違う。
そう、違う空気が流れている。

259D:2004/02/13(金) 19:52
「梨華ちゃん、今日は何か饒舌だね」
「・・・そうかな」

饒舌。
自分から話をする=触れられたくない話がある。
ってことになるのかな。

昨日あたしが寝ている間に何かがあった。
そんな気がする。
きっと他の人が見てもわからないくらいの変化。
でも、同じ時間を過ごしている時間の長いあたしには、すごい変化。

饒舌だからじゃない。
空気が違うんだ。

「何か、あった?」
「・・・別に」

そんな遠く見つめて何処行くつもりさ。
あたし、置いて行く気?
勘弁してよ。
そんなのナシだからね。

260D:2004/02/13(金) 19:53
「気晴らしにどっか行こうか」

ちょっと寒くなったけど、こんくらいなら平気さ。
たまにはちょっと遠出しようよ。

「あたし、車出すからさ」

気晴らし、そう、気晴らし。
嫌なことあったなら、気分転換じゃないけど、一緒にどっか行こう。

立ち上がる気配のない梨華ちゃんの腕を掴んで無理矢理立たせた。
その拍子に落ちてしまったベーグルを拾ってはたいて口にくわえて。
最近サボりっぱなしだけど、まぁいいでしょ。

「いふぉう!」

ニヤッて笑ってみた。
ほら、手、繋いであげるからさ。
独りでいるよりも、一緒の方がいいべ?

「・・・何言ってっかわかんない」

261D:2004/02/13(金) 19:54
ちょっと悲しそうな顔して、少し、ほんの少しだけ、梨華ちゃんが笑った気がした。
気のせいかもしんないけど、ちょっと笑った気がした。

やべ、何だこれ。
嬉しいぞこら。

「しょうがない、付き合ってあげるか」

素直じゃないね、本当。
でもまぁそこも可愛いんだけどさ。

この空気は何だろう。
まだ、違うけど、でも、頑張って梨華ちゃんが笑ってくれたんだ。
行くしかないでしょ。

手を引っ張るフリして繋いでいるよ。
んな苦しそうな顔とか空気されちゃあたしが辛い。
ぎゅっと繋いでその冷えた手にあたしの愛っていうのを注ぎ込んであげるさ。

262匿名匿名希望:2004/02/13(金) 19:55
更新しました。
遠く近く遠く近く。
シートベルト着用サインがもうすぐつきそうです。

>249 名無し(0´〜`0) 様
大変はまられた(w
いや、ありがとうございます。
切なくてあったかい・・・・゚・(ノД`)・゚・。
ありがとうございますマッタリ更新ですが頑張ります。
道が見えてるのに遠いんです(苦笑)

> JUNIOR 様
書きたいこととそこまでの道が遠いようで近いようで遠いんです(苦笑)
>人も見下した目で見るヤツ・・。
昔よりもなんかちょっと書くことに抵抗あったりするんですよねぇ。
でも書きます(・∀・)
頑張りまぁす。

263D:2004/02/17(火) 10:15


     *     *     *     *


「何も言〜わずぅに、つきあぁってくれぇてサンキュ」
「何その歌」
「昔の歌みたい。この前さ、珍しく図書館なんか行ったんだ。
 んで、その時に何となく手に取ったCDに入ってた」

どりーむずかむとぅるーって言ったかな?
夢は叶っちゃうよぉみたいな名前だった気がする。

あのレポートのお礼で梨華ちゃんに1ヶ月ケーキ御馳走するようになって、
よく訪れるようになったBLUE×BLUE
最近じゃマスターとも友達みたいになったし、あのグラマーな姉ちゃんとも何となく仲良しになった。
こっそりまけたりしてくれるし。
そういうのもあって、結構頻繁にくるようになったんだよね。

264D:2004/02/17(火) 10:16
「髪、痛んでるね」
「う〜ん、でもカッケ−べ?」

そうそう、最近金髪にしたんだ。
何となく金髪ってカッケ−とか思ってさ。
もちろん、金なんてないから自分で脱色。
梨華ちゃんに頼んだのに、見事フラれた。

「頑張ったからムラもないでしょ?ねぇ、カッケ−カッケ−?」
「そうだね、カッケ−ね」
「・・・気持ちがこもってない」

でもさ、前よりも喋るようになったよね。
一方的な会話じゃなくなったし、黙ってスルーすることもなくなったし。
・・・随分時間はかかったけど。
あたしは今はそれで十分さ。
たとえ、言葉に気持ちがこもってなくたってさ。

「今日はさ、このままここで飲むんでこうよ」
「・・・あんましお酒強くないじゃん」
「飲み過ぎないよ。だからさ、たまにはいいじゃんか」

265D:2004/02/17(火) 10:17
明日は午後からだしさ。
ね、いいじゃんいいじゃん。
迷惑かけないからさぁ。

「ひとみちゃんのおごり」
「・・・うっス」

まぁ別に、いっか。
たまにだし。
それにあたしの我がままだし。

「マスター、今日地下行きたぁい」
「はいよぉ、後30分くらい待ってな」

266D:2004/02/17(火) 10:18
ニヤッと笑ったマスターの顔とか、その横でおケツをフリフリしている
グラマー姉ちゃんのこととか、そんなのは覚えてる。
あ、後、地下に入って1時間くらいの記憶もある。
それ以降、今からちょっと前までの記憶がない。
まぁ簡単に言うと、酔いつぶれたってやつだ。

267D:2004/02/17(火) 10:18
「・・・冷たい」
「目、覚めたでしょ?」

頭の上からごぽごぽ降ってくる水。
あたしが座っているのは、多分、地面。
コンクリートの上。
背中にあたってるのは、多分電信柱。
でもって、目の前に梨華ちゃんがいて、あたしはその梨華ちゃんに、頭の上から・・・

「わざわざ買ったの?」
「お店出る前にマスターからもらったの」

ペットボトルに入っている水をかけられてるらしい。
・・・冷たいよ、寒いよ。

「ここ何処?」
「BLUE×BLUEの近く」
「今何時?」
「2時」
「・・・泊めて」

268D:2004/02/17(火) 10:19
ペットボトルの水がなくなったのかな。
もう上かたごぽごぽ水が降ってこないや。
電車もうない。
ホテルとかだとお金かかる。

「梨華ちゃん肩かしてぇ」
「飲み過ぎないんじゃなかったの?」
「・・・もう飲み過ぎちゃった後だもん」

気持ち悪い、ぐわぐわしてる。
世界が揺れて回ってる。
うぅ顔寒い、何か痺れてる。
助けて梨華ちゃん、へるぷみー。

「・・・車呼ぶからもう少し待ってて」

ぐいっと手に何か掴まされた。
あぁさっきのペットボトルだ。
ん?中身残ってんじゃん。

「それ、飲んでいいから」

うぃぃ。
ありがとうございまぁす。

269D:2004/02/17(火) 10:20
今日は月が綺麗だねぇ。
真っ赤じゃん。
でかいデカイお月様ぁ。
空からの月明かりがあたし達の立つ地面に降り注ぐのも久しぶりだね。
ようこそお元気でしたか?
あたしはそこそこ元気だよぉ。

「誰に手、振ってるのよ」
「お空のお月様」
「もうすぐ車来るからしばらくそこで月とでも会話してなさい」

うぃっす。
了解ッス。
お月様に語らせてもらうよ、このあたしの梨華ちゃんへの大きすぎる程の愛をさ。

ヘコヘコ会話。
そんなのをしているうちにあたしのシワの少ない脳味噌が機能しはじめた。
寒い風にあたってるっていうのもいいのかもねぇ。

いつから星の数は減ったんだろう。
いつからあんなに月がボッこぼこになったんだろう。
誰がこの気持ちを好きだっていう風に思ったんだろう。
誰がこんな苦しい制服制度なんて最初に言い出したんだろう。

270D:2004/02/17(火) 10:21
あぁむかつく。
結構むかつく。
よくわかんないけどむかつく。
でも、どうでもいいや。

「ほら立って。車乗るよ」

ぐいっと腕を掴まれた。
二の腕痛いぃ。
もっと優しくしてよぉ。
ヒーチャンでりけーとなんだから。

「いい加減にして。置いていくよ」
「うぅ、嘘です。ごめんさい。肩かして下さい」

まだ足に力あんま入んないんだよ。
気持ち悪いし、寒いんだよ。

「頭下げて、もっと奥行って」

271D:2004/02/17(火) 10:21
ぐいぐい押されてどえらくフカフカなクッションの中へ。
ゴチンと当たったのは真っ黒な硝子。
んぁ、これ窓ガラスか。
すげー何だこの座りごこちの良さ。
試しにごろんと横になってみる。
こりゃまた何て素敵な肌触り。
そのうえ温い。
たまんねー、人肌温度。
すりすりしたくなるんだよねぇ、かぁすげーなんだここ、本当車の中か?

「それ、私の足」




バチンッ


次に目が覚めたのは、もう一度ペットボトルの水をぶっかけられた時だった。
場所?
梨華ちゃんの家の目の前、車の外。
月が眩しい程明るかったよ。

272匿名匿名希望:2004/02/17(火) 10:22
更新しました。
この話は、あんまり気持ちのいい話じかもしれません。

273名無し(0´〜`0):2004/02/17(火) 18:04
えぇーー!
気持ちのいい話じゃないんですか???
どういう風に物語りが展開していくのか全然分かんないから
更新が楽しみです。

少しは梨華ちゃんの心が溶けてきたのかなぁ。

274JUNIOR:2004/02/17(火) 22:43
酔いつぶれたよっすぃ〜もイイ!!(・∀・)
気持ちのいい話じゃない????
う〜ん、先がよくわかんない。
更新頑張ってください。

275匿名匿名希望:2004/02/22(日) 22:45
更新前に一言。

やっぱりこれは、あまり気持ちのいい話しではないかもしれません。

276D:2004/02/22(日) 22:46
・・・なんでこんなに窓締まりきってんの。
真っ暗じゃん。
何も見えないじゃん。
この間来た時は電気ついてたよね。
窓、そう窓からも光り差し込んできたよね。
ってか何で電気一つもついてないのさ。
おかしくない?
ありえなくない?

何で足元のライトつけるだけでこんな館内放送みたいの流れるのさ。
何ここ、何処ここ、梨華ちゃんの家だよね。
この前来た梨華ちゃんの家だよね。
あっちゅうまに何でこんなおかしな感じになってんの?

277D:2004/02/22(日) 22:47
働かない頭で見た家の中と外は真っ暗真っ暗。
ちょっと前に来た梨華ちゃんの家とは大違い。
そんな感じ。
ってか違う家みたいだ。
家?
そう、ここ家だよね?

梨華ちゃんの肩をかりながら上がった階段。
上がりきった瞬間に消える足元の明かり。
微かな光りが梨華ちゃんの部屋まで伸び、その光りを頼りに足を進める。

真面目に受けたことのない避難訓練の本格的なモノみたいな。
口元にハンカチ当てて進みましょう。
本気でやらないといざっていう時に役にたたないわよぉって・・・違うか。

278D:2004/02/22(日) 22:48
真っ暗な部屋。
ベッドにそのまま投げ込まれ。
揺らさないで、激しく投げないで。
気持ち悪いの、吐きそうなの、頭痛いの。

「私、シャワー浴びてくるから勝手に寝てて」

どんな気を使ってか、真っ暗なのに慣れた手つきで音楽をかけてくれた。
って言ってもあたしには見えないんだけどさ。
音楽が聴こえてきたからそんなイメージを持っただけ。
何歩歩けば何処に何があるかわかるってやつかな。
すげーよ梨華ちゃん。

プツプツって音。
あぁこれレコードか。

うぃぃッス。
どうもッス。
あんがとうッス。
でもまだ気持ち悪いよぉ・・・寝れそうもないよぉ。

279D:2004/02/22(日) 22:49
本当に真っ暗な部屋。
これじゃぁ何処に何があるかもわからない。
だから動けない。
完全に光りをシャットアウトされた空間。

デカイベッドに大の字になってみた。
何処を見ても真っ暗。
腕で目元を覆ってみたって変わらない暗さ。

正直、ここに梨華ちゃんがいてくれるっていうのが分かってないと、気が狂いそうだ。
こんな所で生活してるんだ。
逃げ出したくなったり、しないのかな。
あたし、ここ怖いよ。

280D:2004/02/22(日) 22:50
独りぼっちで、真っ暗で、何も見えなくて、聴こえてるのはクラシックの音楽とシャワーの音。
こんな空間だからこそわかる音のある幸せ。
・・・だからか、梨華ちゃんが音楽かけてくれたの。

聴いたことのない曲だな、これ。
考えることとか考えたいことが沢山あるのに、体内のアルコールはそれを許そうとしないらしい。
やべ、何か良い感じに眠くなってきた。
ごめん梨華ちゃん、先寝る。
ベッド半分借りるッス。
何とも欲望に正直な体。
あたしはそんなことを眠りに落ちる寸前に思った。
と、思った。

281D:2004/02/22(日) 22:50
***

282D:2004/02/22(日) 22:51
暗い。
だから人の判別が出来ない。
・・・そんなプレイは好きじゃない。

誰かがあたしの上にいる。
誰?

眠気と酒。
その両方があたしの中でまだ生きている状態。

誰?
あたしの上にいるの。
誰?
あたしの腕を掴んだの。

「・・・いつも同じ日に来るとは限らないんだよ」

・・・知ってる、この声。
知ってる、この気持ちの悪い声。
嫌いだ、この手つき。
顔に触れないで。

283D:2004/02/22(日) 22:52
「ん?姉さんじゃない?」

気持ち悪い。
鳥肌が立つ。
帰れ。
あたしに触れるな。

「まぁいいか」

下半身に触れられた瞬間、あたしは覚醒した。
眠気も酔いも総べて吹っ飛ぶような感覚。
全身がこの手に向かって拒否反応を起こしているみたいだ。

「・・・退いて」
「ん?何だ、起きたのか」

気持ち悪い息。
これ以上近付かないで。
触れないでよ。

284D:2004/02/22(日) 22:53
ありったけの力を込めて存在を感じる所へ腕を振り下ろした。
梨華ちゃんの弟か何だか知らないけど、あたしに触れないで。

「いいねぇ、抵抗されるなんて久しぶりだ」

簡単に掴まれた腕。
・・・何この力。

「もっと暴れろよ、その方がヤリがいがある」

首筋に舌の感触を受けた瞬間、あたしの中でやっと生まれた感情。

恐怖。

それはあまりにも遅すぎる感覚。
奪われた両手の自由。
もがいても動かない足。
引きちぎられたシャツ。

一方的な攻撃に対してあたしは何も守る術を持っていない。

285D:2004/02/22(日) 22:54
弱いとかそんなじゃない。
泣きそうだ。
わめきそうだ。
そしてあたしはそれに忠実だった。
一人じゃない。
だから、きっと出来たんだと思う。
声を出すっていうことを。

286D:2004/02/22(日) 22:54
シャワールームから光りが溢れた。
突然の光りに目が見えなくなる。
そして聞こえた梨華ちゃんの声。
そして聞こえるこの世のモノとは思えない声。
これ、あたしの声じゃない。

今だ消えない恐怖と響き渡る叫び、そして突然零れた光が写し出しているその光景に。
パニックになりそうになった。
パニック?
そんな言葉であってるのかな。
わからない。
ただ、本当に何もわからないんだ。

声なんて出ない。
震えることしか出来ない。
息も出来ない。
次から次へと溢れ出て来る涙を拭うことも出来ない。

287D:2004/02/22(日) 22:55
震えている理由は?
恐怖?
それとも苦しいから?
でも、震えてる。

思考は完全麻痺。
分かる、考えるそんなことが出来ない。
見ているだけ。
震えているだけ。
動く為の機能は完全停止状態。

あの目の前にいるのは何だ?
あの叫び声を出しているのはあの物体なのか?
疑問なんて後から浮かんでくるものだった。
取っ手付けたような疑問はすぐに浮かんできたモノじゃない。
やっぱり脳味噌が機能していないんだ。
そんなことだって後から思ったことだ。

そう、全部後から思ったことだ。

288D:2004/02/22(日) 22:56
目に映っていることが信じられなかった。
ただ、震えながら見ることしか出来なかった。
目を瞑ることすら出来なかった。
筋肉が動かない。
固まった指先を動かせない。
これだって、全部後から思ったことなのかも。

現実?
なんだそれ?
これは現実?
夢ならいいのに。

見たくないのに映る。
聞きたくないのに聞こえる。
優雅な音楽よりもドラマティックで、優雅なダンスよりも狂喜に満ちてる。
この、乾いた笑い声は誰のものだろう・・・。
泣いてるのに、笑っているのは誰だろう・・・。

289D:2004/02/22(日) 22:57
人のカタチをした人が体中から煙りを上げている。
目の前でミイラのように干涸びて行く。
落ちそうになる目玉。
骨と皮だけのような体。
そしてその体から落ちていく皮膚だったモノ。

次々に白衣を着た人達が部屋に走り込んできて、今だ叫び声を上げている物体の指を
銀色のモノで切り落とした。
音もなく落ちる世界。
音があっても聞こえない世界。

人のカタチをした人ではないモノに見えた。
ひび割れた皮膚が音をたてて割れていく。
音なんて聞こえていなかったけど、聞こえているように見えた。
存在する音が存在出来ない。
声に音がかき消されてるから。

290D:2004/02/22(日) 22:57
見えた断面。
わずかに零れた赤い液体。
その液体が体に触れた瞬間に巻き戻しの映像のように復元していく体。
そして復元しない指。
全身の血管が浮かび出て、破裂するように浮かびあがって沈んで行く。

誰かが大声で何かを言っているみたいだった。
でも、あたしには聞こえなかった。
モノクロのモザイクが全面に広がり、急激に意識が遠のいていく。
わずかに見えた指の数は、3本だった気がした。

そっか、乾いた笑い声と、笑ってるのに泣いてるのはあたしだったんだ。
今さら気付いた誰かの感触は、あたしの脳の一部をずっと触っているみたいだった。

291D:2004/02/22(日) 22:58
記憶なんて曖昧なものだ。
思考、記憶の順序、色、思い出、想い、気持ち、感触、痛み、刺激、欠片etc...
その辺に転がる言葉が付いた感じたモノを、適当にくっつけて都合のいいように記憶をいじる。
思い込めばそれが記憶に変わり、嘘が記憶へ変わる。

嘘ならいいと思った。
全部嘘で全部夢で全部あたしの思い込みだったらいいと思った。
叫んだら助けてくれて、起きたら汗をかいて荒い息をしているだけ。
ぬぐったら夢はそこで終わり、洗ったら現実を感じる。

夢ならいいと思った。

でも、現実感のない現実は逃れられない現実だった。

292匿名匿名希望:2004/02/22(日) 23:02
更新しました。
何か今回の更新は勇気がいりました。
遅くなってすみません。
正直、流れた先が良かったかどうかなんてわかりません。
でも続きます。
この先、ちょっと痛いんです。

>273 名無し(0´〜`0) 様
こんなになってしまいました。
すみません。
えぇっと、ラストが見えてから書き始めたので(なのにラストとかゼンゼン出来てない罠)
こんな展開になりました。

>少しは梨華ちゃんの心が溶けてきたのかなぁ。
変化は少しずつ。そして大きな波が襲ってきました。

> JUNIOR 様
流れはこんななんです。
そして私も先がいまいちよくわかってません←オイ。
でも、きっと進みます。
じゃないと進まないもんで(苦笑)

293名無し(0´〜`0):2004/02/24(火) 13:08
ぇええ??!
何がどうなってるんだろう・・・
何らかの秘密をよっちぃが知っただろうから
二人の中も変化していくのかな?
次回も頑張って下さい。

294D:2004/02/28(土) 16:09
いつも通り過ごしていると、いつもの日常と呼ばれるものが一体どんなモノだったかが思い出せなくなる。
昨日は何して、昨日は何を話したとか。
そこらへんに散らばっている日常。
記憶に残っているのはいつだってどうでもいい会話だったり、その日常というモノの1シーンを
切り取ったような何の役にもたたないような記憶。

嵐のように過ぎた時間。
物事は時間から溢れるように生まれてきた。
いつもなら消えるような出来事は見事消えた。
そして覚えていたくないような声や映像は見事残った。
記憶に、心に、目と耳に。

眠れない日が続いた。
時間の経過がわからなくなる程の感覚の麻痺。
出会ってから今までの時間は長いようで実はかなり短いようで。
1日にまとめたって大丈夫なんじゃないかと思う。

295D:2004/02/28(土) 16:10
毎日に意味を持たせようなんて思ってるワケじゃない。
出て来る言葉全てに思いを込めようなんて思ってるワケじゃない。
現実感がなくたって、あたしは生きて、確かにその日を過ごしていたから。

タバコも切れた、食料も腐った、梨華ちゃんにも会ってない。
目が覚めたら自分のベッドの上だった。
誰も側にいなかった。
独りだった。
でも、光りはあった。

いつまでも残る声を消したくて鼓膜を何度も破ろうとした。
そんなので声が消えるはずないのはわかってたくせに。

296D:2004/02/28(土) 16:11
生きてきた。
普通に。
周りが普通という普通なように生きてきた。

歩くのも、喋るのも、食べるのも、sexするのも全部普通と同じように生きてきたつもりだった。
そしてこれからもきっと『普通』に生きていくんだと思ってた。
特に特別なことを経験するとかじゃなくて、ほんとうただ平凡に毎日を生きて、
恋して、結婚して、年くって死んで。
そうやって終わっていくのかって。
全部、見えないけど、そんな風になるんじゃないかって思ってた。

もう違う。
きっと、もう違う。
『平凡』『普通』
きっとそんな言葉から離れた。
戻れない。
戻りたい。
でも、絶対に無理。
そんな気がした。

297D:2004/02/28(土) 16:11
だから今後どうなるかって言われたら、きっと今までみたく生きていくことだって出来るだろう。
これからを『普通』とか『平凡』と言われるように生きていうことだって出来るだろう。
だけど、記憶は消えないだろう。

音に怯えるようになった。
でも、無音はもっと嫌だった。
きっと、しばらくこんな風にして色々なことから怯える。
独りは嫌なんだよ。
暗いのも嫌なんだよ。

膝に顔を埋めて、嫌なことを忘れようとして、色々なことを思い出そうとした。
嬉しかったこと、楽しかったこと、自分の中で『好き』と思えるようなこと。
でも、思い出そうとしてるのに、思い出したい思い出は霞んで、昔のことになるにつれて
もっともっと霞んで、覚えている一番昔の記憶は楽しかった、嬉しかったとかじゃなくて、
本当にただ1シーンを切り取ったような思い出。

298D:2004/02/28(土) 16:12
今に近付くにつれて思い出すのは梨華ちゃんの顔ばかり。
近付きたくて必死だった頃、初めて、こっちを向いてくれた時。
嫌々ながらも色々な所についてきてくれて、困ったあたしを助けてくれる。

そして、梨華ちゃんと同時に思い出すあの家。
あの人。
あの声。
あの画。

グルグルぐるぐる出口が見えないトンネルを必死で走る。
消したい記憶を思い出す度、消したい記憶を思い出す。
近くにありすぎる記憶。
側にいすぎる記憶。
繋がりすぎているんだ。
全部、全部。

なのに、全然会いたくて、でも、自分から会いに行く勇気もない。
恐怖が勝っている。
会いたい思いよりも、怖いの方があたしの中で大きいんだ。

299D:2004/02/28(土) 16:13
・・・カッコ悪い。
本当、カッコ悪い。
でも、会いたいよ。
会いたいよ、梨華ちゃん。

ふいに聞こえたインターフォン。
ここ数日、一度だって鳴らなかった音。
何よりも先に怯えた。
誰が来たんだろう、何が来たんだろう。
何しに来たんだろう、何が起きるのだろう。

大きすぎる恐怖があたしの思考を全部そっちへ持っていく。
震えるんだよ、体が勝手に。
情けないけど、止まらないんだよ。

恐る恐る顔を上げた。
ディスプレイに映った顔は、あたしが、好きな人。
あんなことがあったのに、ずっと、ずっと会いたいと思ってた人。
泣きたいと、思う人。
梨華ちゃんだった。

300D:2004/02/28(土) 16:13
「・・・食事、全然してないでしょ」

最初の言葉を聞いて、本気で泣きたくなった。
バカでアホでヘタレな動けないあたしの所に、梨華ちゃんから来てくれた。
そんなことが、嬉しかった。
そういうことだから、嬉しかったのかも。
一人じゃなくなる。
それも、自分の好きな人がいてくれる。
我ながら単純な脳味噌。
なのに、今はそんな脳味噌に口付けをしたい気分だった。

逃げれない現実。
嘘だと思いたかった現実。
怯えて、怯えて、眠れなくて。
誰かに届けたかったSOS
感じて欲しかったあたしの寂しさ。

301D:2004/02/28(土) 16:14
卑怯で、弱い。
だから、独りじゃ生きれない。
きっと、生きれるかもしれないけど、いつか限界を知る。
あたしは、きっとその限界を知ると思う・・・

・・・わかんないや。
全部嘘かも。
でもいいや。
梨華ちゃん、来てくれたから。

バカで単純で寂しがりやで欲しがりや。
我がまま。
あたしって。
でも、我がままでも欲しいよ。
今は、誰かが。
できれば、梨華ちゃんが。

部屋に入って来た梨華ちゃん。
ちゃんと制服を着て、ちゃんと髪をセットしてる。
いつもと同じ。
ずっと、同じ。

302D:2004/02/28(土) 16:15
笑わないね、梨華ちゃん。
そういえば、前からほとんど笑わない人だったんだっけ?
忘れてたよ。
ずっと一緒にいたのにね。

・・・そっか、あたしが笑わせてあげるんだ。
あれ?そうだったっけ?

「・・・ごめん」

誰?今言ったの。
ごめんなんて言ったの誰?
あたし?梨華ちゃん?
・・・わかんないや。

でも、どうでもいいよ。
わからなくてもいいから帰らないで。
出してあげれる飲み物とか、食べ物とか、何もないけどまだ帰らないで。

303D:2004/02/28(土) 16:15
懐かしいと感じてしまう香。
そんな時間が経ったのかって思う。
実際どのくらいの時間が経過したとかわかんないけど、あたしは懐かしいと感じた。

今までみたくなりたくて、頑張って笑おうと思った。
そしたら抱き締められた。
突然。
梨華ちゃんに。
多分、梨華ちゃんに。

「・・・ごめん」

呟いた言葉はあたしじゃない。
だからさっきも今も梨華ちゃんだ。
何で謝るのさ。
梨華ちゃん悪いことしてないじゃん。
おかしいじゃん。
そんなのおかしいじゃん。

304D:2004/02/28(土) 16:16
涙を流せない。
きっと梨華ちゃんは泣けない。
だから代わりにあたしが泣いてあげる。
だから泣かせて。
一人じゃないよって、思わせて。
そう、思わせてあげるから。

都合がいい。
別にいい。
嘘の気持ちだっていい。
抱きしめていてくれているのが幻だって、嘘だっていい。

「・・・り、梨華・・・ぢゃん・・・」

カッコ悪くたって、情けなくたっていい。
独りよりはずっといい。
あたしの側にいて。
あたしも側にいるから。

欲しいのは謝罪の言葉なんかじゃない。
欲しいのは確かな感触だ。

305D:2004/02/28(土) 16:17
大声をあげて泣いた。
子供みたく、大声出して、涙も鼻水も出して。
今まで流れた涙とはきっと違う涙。
多分だけど、違う涙。

お願い、何も言わないで。
絶対に謝らないで。
そんなのいらない。
欲しくない。
あたしが欲しいのは誰かなんだ。
何かなんだ。

感情を出さないことが上手い梨華ちゃんなんだ。

泣いたら頑張るから。
あたし、今までみたく梨華ちゃんを掴んでどこまでも連れて行くから。
だから、もうちょっと、もうちょっとだけ強く抱きしめていて。

306匿名匿名希望:2004/02/28(土) 16:18
更新しました。
ペースがた落ちごめんなさい。
そして作者も微妙に混乱してきたのは内緒です。

>293 名無し(0´〜`0) 様
動き出しました。
やっとこさ、物語りが動き出した感じです。
変化らしい変化よりも変化らしくない変化を。
変わってる気がしないでもないんですが、変わってない気もします(苦笑)

307名無し(0´〜`0):2004/02/29(日) 19:37
初レスです、梨華ちゃんとよっちぃの関係が好きです。
これからも楽しみにしています

308名無し(0´〜`0):2004/03/02(火) 23:52
すごくおもしろいです。ひきつけられます。
続きも楽しみにしてます。

309D:2004/03/03(水) 15:05
     *     *     *     *


一度狂った歯車
多分ネジがどっか飛んでいっちゃったんだよ
だからバラバラになっちゃったんだ


     *     *     *     *

310D:2004/03/03(水) 15:05
きっと一生忘れられない出来事から数週間。
あたしはちょっと立ち直っていた。
今まで通りっていうワケにはいかないけど、学校も行くようになったし、御飯だって食べるようになった。
あと、眠るようにもなった。
悪夢で夜中に起きることはしょっちゅうだけど、睡眠時間がゼロっていうのじゃない。
生きてるよ、ちゃんと。

簡単に消えるモノならいいんだけど、どうやらあたしは自分が思っている以上に繊細らしい。
消えないし、思い出す。
でも、やっぱり生きてる。
だから、頑張る。
頑張りたい。

カッコ悪すぎ。
あたしってば。
散々心配かけて、料理まで作ってもらって、たまっていたレポートまで梨華ちゃんにやっててもらってて、
そのくせ何も恩返ししてない。
ダサダサ。
こんなんじゃ思いきって梨華ちゃんと一緒にいれない。
あたしの気が治まらない。

311D:2004/03/03(水) 15:06
でもさ、一緒にいたい。
恋の病。
恋の強さ。

いつもみたく梨華ちゃんにあたしがつきまとって、いつもみたいに梨華ちゃんがついて来てくれる。
やっとこさ、こんな風に戻ってきたんだよ。
すっかり寒くなっちゃったけど。
そんだけ時間が過ぎちゃったけど。

単純な脳味噌いいねぇいいねぇ。
あたしのおバカな頭もこういう時は好きなのよ。

「おはよう梨華ちゃん」
「おはよう」

梨華ちゃんもさ、あんまり気使わないでいてくれるようになった・・・
・・・かな。
でも前よりも冷たくなったかも・・・。
料理つくってくれたのも、もう何日も前で終了。
まぁ今までみたくなったってことなのかな。
そうしとこう。
そうしとかなきゃ。

312D:2004/03/03(水) 15:07
「今日はお昼作ってきたんだ。後で梨華ちゃんに渡すねぇ」

愛情コメ込め吉澤の御飯。
御飯っていうか、ベーグルサンド。
あたしの主食はベーグルなの。
絶対に。
今も昔もベーグルなのさ。

「・・・私の分も作ってきたの?」
「そ、だっていっつも買ってばっかじゃん。栄養片寄っちゃうよ」

まぁ、あんましあたしのベーグルサンドの中身も栄養あるもんでもないけど。
気持ちの問題だよ、気持ちの。
料理作ってくれてありがとうとか、レポートやってくれてありがとうとか。
まだまだ恩返し途中なのさ。

「ほら、お昼目指して授業頑張ろう!」

頑張れあたし。
頑張れ梨華ちゃん。
蓋が出来ないなら頑張るしかないっしょ。
結論じゃないけど、今出来ること、精一杯頑張んなきゃね。
空元気おーいぇー。

313D:2004/03/03(水) 15:07
天気は快晴。
北風が吹いて雲を飛ばして、雲のいなくなった空は青くて眩しい。
もう寒くて外で食事なんて出来ないけど、でかい窓から外を見ながら食事っていうのも結構いいもんだ。

「なかなか旨いっしょ」
「・・・うん」

何今の間。
いや、気のせいか。
うん、気のせいだ。

「今日この後予定あるの?」
「うん」

あ、そうっすか。
じゃぁ諦めるっす。

「ひとみちゃんってさ」
「おう」
「あんまりあたしのこと、聞いてこないよね」

314D:2004/03/03(水) 15:08
ピたッと止まった時間。
止まったワケじゃないんだろうけど、止まったあたしの時間。
これは久々の言葉遊びなのか、そうでないのか。
一瞬のウチで色々なこと、考えた。

「聞いたら教えてくれるの?」

わかんないから聞いてみた。
多分、答えはあたしが思っている通りだと思うけど。

「・・・どうだろうね」

曖昧な言葉を残したまま、梨華ちゃんは紙パックに入ったお茶に刺さっているストローを口にくわえた。
北風が吹き飛ばしたと思っていた雲が現れて、太陽を隠して雲の影を生む。
あたし達が座っていた窓から差し込んでいた光りは遮られ、数秒感。
そう、数秒感だけ、影をつくった。

「じゃぁ教えて」

315D:2004/03/03(水) 15:09
そんな影を取り去りたくて、投げてくれた言葉を受け止めたくて、紙パックを掴んでいた手を握った。
一瞬ビクッとなった手の動き。
表情は変わらないけど、確かに見えた梨華ちゃんの反応。
雲が影を作ってくれた数秒感の間だけ見えた、小さな梨華ちゃんの動き。
怯えられているのか、それとももっと違うことなのか。
わからないけど、梨華ちゃんは今、揺れている。
そう、感じた。

「・・・いつかね」

雲が太陽から抜けた。
また光りが戻り、梨華ちゃんはいつもの梨華ちゃんになる。
あたしはその時になって、自分の掴んでいた手が酷く冷たいことを感じた。

「いつか、絶対だよ」

316D:2004/03/03(水) 15:10
言葉を選んでいる余裕もなく、選ぶ必要もなく。
いつかが来るまであたしは一緒にいていいんだろうか。
一緒にいさせてくれるんだろうか。
考えてもわからないことがあるように、このこともあたしにはわからない。
だから、あたしは今まで通り、梨華ちゃんと一緒にいようとするんだろう。
今まで、そんなこと考えたこともないけどさ、でも、今、ちょっと不安になった。
何か、ちょっと不安になっちゃったよ。

「あたしがお婆ちゃんになっちゃう前には教えてね」

不安なんて蹴り飛ばしたくて、そんな不安はバレたくなくて。
あたしが笑顔になれば、きっと梨華ちゃんは笑わなくたって笑ってくれる気がして。
いつも、いつも思ってたこと。
気付いたら当たり前になってたことを、いつもみたく、普通にやったつもりだったんだ。

「ひとみちゃんの手は、熱すぎるんだよ」

なのに、梨華ちゃんは寂しそうだった。
すごく。
すごく、すごく。
あたしはその言葉に返せる言葉なんて持ち合わせていなくて、握った手を離すことも出来なくて、
ただ、外に視線を向けている梨華ちゃんの横顔を見つめることしか出来なかった。

熱いと言われた手。
この手を離すことが何よりも怖かったのかもしれない。

317匿名匿名希望:2004/03/03(水) 15:11
更新しました。
本当遅くでごめんなさいごめんなさい…

>307 名無し(0´〜`0) 様
どうも初めましてです。
まったり更新で本当申し訳ないです(土下座)
二人の微妙な関係はまだまだ続きます。

>308 名無し(0´〜`0) 様
本当にもう更新遅くてごめんなさい(土下座)
楽しみと言ってただけるように頑張っていきますです。

318308:2004/03/04(木) 01:43
いえいえ、そんな、こちらこそ(土下座)
ほんとに先がよめなくて楽しみです。
がんばってください。

319YUNA:2004/03/04(木) 15:39

きゃははっ、なんて笑いながら...
真里さんは、店の奥に行ってしまった...
バレてる...
なんで...??

320YUNA:2004/03/04(木) 15:40
ぁっ...
あぁ〜〜〜〜〜〜!?
すいません、匿名匿名希望サン...
間違えちゃいました...(苦笑
失礼しました!!!!!!(逃っ

321JUNIOR:2004/03/04(木) 16:07
やっぱし面白いです。
言葉にするのが難しいぐらいに・・・。
頑張ってください。

322D:2004/03/05(金) 17:01


     *     *     *     *


夜の2時くらいだったかな。
飲み物が切れちゃったからコンビニに買いに行ったんだ。
別に何か特別なことしたワケじゃない。
ただ、コンビニに行って、家に帰ろうと思っただけ。
それだけ。

323D:2004/03/05(金) 17:02
まだ荒くなった息が元通りにならない。
扉の鍵がかかっているか何回も何回も確認して、そのまま玄関の扉に背中を押し付けながら
座り込んでしまった体は全然力が入らない。
着ているコートと服の下では汗をぐっしょりかいている。

喉がカラカラだった。
全速力で走ったっていうのもある。
多分他にも理由はある。
ともかく喉が乾いていた。

手に握っていたペットボトルの蓋を外す為にもう片方の手を持ち上げるが、思うように動かない。
さらに両方の手が震えているからたったそれだけの作業なのにえらく時間がかかった。
唇からは飲んだ分と同じくらいの量の液体が零れていく。
コートはその液体をはじき、液体は丸い粒をつくって下へ下へと流れていった。

324D:2004/03/05(金) 17:03
いつもみたく歩いていた道。
コンビニで買ったペットボトルを手に持って、寒いなと思いながら歩いていた。
その道は、特に工事をしていたワケでもなく、何も変わったところなんてなかった。

歩いて少ししたくらいだったかな。
倒れるような音が聞こえた。
何も考えずにその音のした方に顔を向けたら数人の人がいて、その中心じゃ微かな街灯に照らされて
赤黒いドロッとした液体に浸っている長い髪が見えた。

出そうになる声は空いている手で口を押さえることで自分の中にとどめた。
数人の影のうちの一人がこっちを見た気がした。

震える膝で足をもつれさせながら走った。
どの道を通って来たかなんて覚えていない。
振り返ることも出来なくて、ただ、必死で走ることしか出来なかった。
制服の膝が破けているから、きっと何度か転んだんだろう。
いまさらだけど、そこからは血が出ていてドクドクと傷口が心臓のように動いていることに気付いた。

325D:2004/03/05(金) 17:04
次から次へと自分とは無縁だった世界に引きずりこまれているようだった。
映画の中で起こっているようなことが、実際目の前で起きる。
そしてその目撃者となる。
いつか頭の中で想像していた世界よりも、それはずっとずっと、あたしの回路を乱すモノだった。
体と体を繋ぐ連絡線を、神経が生きたまま切られていく感覚。
大量の息を吐いた時、込み上げてくるモノを抑え切れずにそのままトイレで全てを吐いた。

同じように記憶も時間も吐き出せればいいのに。

戻れない時間、戻せない行動。
現場にいたこと。
そして姿を見られたこと。
全部が、もう取りかえしのつかないことだ。

そう気付いたのは、玄関に座り込んだまま一夜を明かした後だった。
バカみたい。
あたしってば気付くの遅すぎだよ。
気付くまで『どうにかなる』と思っていたなんてバカすぎ。
マジ馬鹿。
自分がバカすぎで涙が出てきた。

326D:2004/03/05(金) 17:04
テレビじゃ連日起こる殺人事件の一つとして簡単に取り上げられただけの事件。
ニュースキャスターは『自殺』という言葉を使っていた。

あたしの目の錯角だったんだろうか。
一瞬そう思ったけど、そうならいいと思ったけど、きっとそう違うんだろうと思った。
あまりにも自分の回りで起こる普通とは言えないようなこと。
あたしの脳はそれでも普通に機能している。
そう思ったら何だか笑えてきた。

この先自分がどうなるんだろうか。
そんなことわからない。
あたしを見た人はあたしのことを殺しに来るんだろうか。
つきまとう恐怖は、日に日に増して行った。
『死んでもいいや』
こんな考え、全然なかったから。
あたしはまだ死にたくない。
こんな風に死にたくない。

身の回りで起こる事件や出来事は、ゆっくりとあたしを包み、
そして深い深い穴の底へと引きずりこんでいった。

327D:2004/03/05(金) 17:05
何で自分ばっか。
思ったってしょうがないことを、ずっと思っていた。
泣きたいから泣いた。
泣きたい時に泣ける自分はきっとまだ幸せだ。
そう思い込んで泣いた。

梨華ちゃんは今何をしてるんだろう。
梨華ちゃんはあの真っ暗な部屋の中で何を思っているんだろう。
梨華ちゃんは今、あたしのことを少しでも思い出してくれているんだろうか。

思い出す。
あたしにとっての綺麗なこと。
あたしにとっての安らぎの場所。

328D:2004/03/05(金) 17:06
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん
梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん梨華ちゃん

思い出すの表情。
思い出す仕種。
思い出す瞳。

『また、あたしは梨華ちゃんをこうして待っているだけ?』

恐怖に勝てる程、あたしは強くない。
でも、すごく会いたかった。

329D:2004/03/05(金) 17:06


     *     *     *     *


あの事件から数日後。
部屋の中からあたしを連れ出したのは、黒スーツの男達だった。

330D:2004/03/05(金) 17:07
突然部屋の扉を叩かれ、驚いて何も出来ないあたしに聞こえてきた声。
その声はあたしを『吉澤様』と呼び、何分経っても出てこないあたしを何分も待ち続けた。
そしてその声は警察に通報しようとした時に『梨華様のお父上が御呼びです』と言った。

キーワード。
あたしの。
叫び続けたあたしのキーワード。

あたしの名前を知っていて、梨華ちゃんの名前を知っている。
今の時間はお昼くらい。
普通なら学校で授業を受けている時間だ。

じゃぁその時間にあたしの家に来た理由は?
あたしが家にいると知っている理由は?

導き出した答えは『監視されている』だった。
ひょっとしたら違ったのかもしれない。
でも、あたしはその時そう思った。

331D:2004/03/05(金) 17:08
正直、あの家にはもう行きたくなかったのに『梨華ちゃん』という言葉を聞いただけで、
あたしの心は激しく掴まれたように震えた。

何かにすがりたかったのかな。
バカみたいだよね、あたしを呼んだのは梨華ちゃんのお父さん。
梨華ちゃんじゃない。

バカだよね、本当。
嘘つかれてたらどうすんのさ。
そのまま殺されてたらどうすんのさ。

扉を開けた後、そんなこと思って自称気味に笑った。
最近、思考が全部遅れている。
やっぱし、普通に脳は機能してないのかな。

景色も見えない暗い車内。
ダメだ、何か吐き気がしてきた。

何かさ、もうダメ駄目だった。
ここが何処とか、今からどうなるとか、逃げ出そうとか、そんなの全然思わなくなってた。
ははっ、やっぱし普通じゃないんだね。

332D:2004/03/05(金) 17:09
フラフラと歩くあたしは、両腕を黒スーツの男に掴まれて、真っ暗な道を歩かされた。
エレベーターに乗ったのは、覚えてる。
でも、道順とかは全然覚えてない。
だって、全然見えなかったんだもん。
それに下、見てたから。

座らされたソファーは柔らかく、うっすらとついていた明かりに照らされた目の前の人の顔は、
何処か梨華ちゃんに似ているようだった。

「吉澤ひとみさんだね」

想像していたよりも低い声。
梨華ちゃんと、全然違う。

「突然だが、君にお願いがある」

冷たいな、この声。
こんな声よりももっと温かい声が聞きたい。

333D:2004/03/05(金) 17:10

「梨華を、殺してくれ」

334D:2004/03/05(金) 17:10

     *     *     *     *


一度狂った歯車
多分ネジがどっか飛んでいっちゃったんだよ
だからバラバラになっちゃったんだ


     *     *     *     *

335匿名匿名希望:2004/03/05(金) 17:11
更新しました。
終わりではない終わりが見えてきました。
更新はマターリですが、もうマターリ出来ません。
私はそう思いました。

>308 様
いやいやこちらこそ(深々土下座)
私も先が見えていたくせに先が見えてませんでした。
見えた先にはもうすぐ辿り着きそうです。

>YUNA 様
いやぁ、いいっすよ。
大丈夫です。
『およ?』って思ったのは内緒ですが(w

> JUNIOR 様
私も何だか今がのってる状態です。
今回更新分からはちょっとのれてない状態で書いてましたけど(苦笑)
ジェットコースターのブレーキは壊れました。

336308:2004/03/06(土) 02:14
う〜ん…内容もかなり気になるんですが、
作者さんの発言も聞き逃せませんw
ぞくぞくしながらお待ちしてます。がんばってください。

337名無し(0´〜`0):2004/03/08(月) 15:33
むむむ
梨華ちゃんにどんな秘密があるんだろう

そういえば昔、吉田栄作が出ていたドラマ
「ジェットコースター悲劇」って呼ばれてましたね(遠い目

338D:2004/03/08(月) 17:36
言った言葉が理解出来なくて思わずず顔を上げた。
あたしの目の前に座っている人は、何処か梨華ちゃんに似ている人で、
さっきあたしを呼び出した声はこの梨華ちゃんのお父さんがあたしを呼んでいると言った。
だから、これは梨華ちゃんのお父さん。

「君も、私の息子の病気のことは知っているね」

机の上を滑ってきた数枚の写真。
一度見たら二度と忘れない目と、忘れたくても忘れない姿。
記録という名の証拠。
天を仰いで叫び声を上げているその一瞬。
写真の隅には梨華ちゃんに肩を抱かれたあたしが写っていた。

「息子の病気はつい最近発病した。最初はね、原因が全くわからなかったよ」

もう一枚、あたしにはよくわからない数字が書き込まれた紙が机の上を滑ってきた。
その紙の上には一つ、赤い丸で囲まれた数字があった。

339D:2004/03/08(月) 17:37
「息子からわずかだが梨華の体液が検出された。
 そしてその梨華の体液に混じって、不思議なモノが検出されたんだ」

次にあたしの手元に滑らされてきたのは、透明な袋に封じられた固形物。

「これはね、男性にのみ反応する不思議な薬なんだよ」

俯いていた顔を無理矢理あげさせられた。
視界に入る顔が歪む。
消えそうになる程。

「息子は将来、私の後を継ぐ運命にある。継がなくてはいけない運命にあるんだ」

机が音をたて、乗せられていたモノが宙に浮いた。
振り下ろされた拳が震え、机の上に置いてあった万年筆が床へ音をたてて落ちた。

あたしは、ただ、怖かった。
ここにいること。
ここで言われたこと。

340D:2004/03/08(月) 17:38
梨華ちゃんの家のことなんて全く知らなかった。
教えてくれないのには理由があるだろう。
だから無理に聞かなかった。
知りたかったことは、一番知りたくないカタチで知ることになった。

「君は梨華の友達だったね」

頷くことも出来なくて、掴まれた顎が痛んだ。
歪んだ視界がさらに歪んで、音を立てずにあたしの膝をあたしの涙が濡らしていく。
息をすることだって忘れそうなのに、生きようとする体は自然と息をしていた。

「だから君にお願いしてるんだ」

『だから』の意味も、『お願い』の意味も、全部、全部知りたくない。
今まで聞いたこと全部記憶から消したい。

「梨華の一番身近にいる君にね」

341D:2004/03/08(月) 17:39
目の前の人が一体どんな顔してるのかが分からない程歪んだ視界。
震える体。
かっこいい台詞の一つも言えない程に恐怖は体を支配する。
逃げ出したい。
そう思っているのに逃げだせない。
わずかに体を動かせたと思ったら首筋に冷たい感触を受けた。

「今すぐ君を殺すことは簡単なんだ。出来ればそんなことしたくない」

無理矢理握らされたのは冷たくて重いモノ。
テレビでしか見たことがなくて、本物に似せて作ったので遊んだことのあるモノと同じカタチのモノ。
落としそうになる程手が震えていて、情けない程に涙が溢れてくる。

「後で撃ち方を教えよう」

342D:2004/03/08(月) 17:40
一方的に進む会話はお願いなんかじゃない。
命の選択。

「期限は今日から一週間。その間は私達が君の安全は守ろう」

殴られたような感覚だった。
全部、全部見られていたということ。
あたしがこの間見た事件のことも知っているという発言。
そして、あたしを守る。
つまりいつでも監視しているということ。

「期限の一週間を過ぎたら私達が君と梨華を殺す」

逃げれない。
逃げることなんて許さない。

「君が生き残る為には梨華を殺すしかないんだ」

343D:2004/03/08(月) 17:40
引きずられるようにして連れていかれた部屋で、あたしは銃の扱い方を教えられた。
その時のことはあまり覚えてないけど、ずっと泣いていたのは覚えている。
頭が記憶をするのではなく、体が記憶をする。
あたしの手に握らされた銃は、そこで起こったこと全てを記憶していた。

刃向かうことも出来なくて、何も言うことも出来なくて、ただ泣くことしか出来なかったあたしは、





最低の人間だ

344D:2004/03/08(月) 17:41


     *     *     *     *


翌朝、梨華ちゃんが小さな荷物だけ持って家にやってきた。
一番会いたいのに、一番会いたくない人。
昨夜のうちに机の引き出しにしまいこんだ銃が、存在を隠すこをと拒んでいるようだった。

「死んじゃったのかと思った」

泣きそうになった。

345匿名匿名希望:2004/03/08(月) 17:42
短いですが更新しました。
更新しちゃいました。
重いなぁ…

>308 様
こう、基本的に走り出したら止まれないんです(w
だからもうマターリできません。
書いてる私が混乱してきたのは内緒です(;・∀・)アウアー

>337 名無し(0´〜`0) 様
さぁどんな秘密があるんでしょうか(w
書きながらまた生まれてくるんですよねぇ(色々と)

>そういえば昔、吉田栄作が出ていたドラマ
>「ジェットコースター悲劇」って呼ばれてましたね(遠い目
どんなドラマだったんでしょうか(汗)
いやー覚えてたりちゃんと見てたのはロン○バケーションくらいなもんで(爆

346名無し(0´〜`0):2004/03/09(火) 21:39
弟、死んだのかと思ってました…

347D:2004/03/11(木) 11:32


     *     *     *    *

一週間。
それは日にちに直せば7日間で、時間に直すと168時間。
あたしに残された時間はもう140時間もない。
もっと言うと、もう、そんな時間を数えられそうもない。

「梨華ちゃん、何か食べる?」

あの日、梨華ちゃんが家に来た日からあたし達はずっと一緒にいる。
家にはもう帰りたくないという梨華ちゃんと、一緒にいたくないのに一緒にいたいあたし。
時間は同じ空間で違うように流れる。

「ひとみちゃんは?」
「あたしはまだいいや」
「じゃぁ私もいい」

こんなにも狭い空間で、同じ空気を吸い、同じ二酸化炭素を吐く。
このまま逃げれたら。
一緒に、何処までも逃げれたら。

348D:2004/03/11(木) 11:32
ヒーローでもないあたしと、ヒロインでもない梨華ちゃん。
持っている力はとても少なく、お互いに痛い程無力。
逃げるフリなら出来るかもしれないけど、永遠に逃げることなんできっと出来ない。

「何処か行きたい所ある?」
「別に、特にはないよ」
「そっか」
「うん」

太陽の光りを遮るように下ろされたブラインドのわずかな隙間から差し込む陽射しが
足元まで伸び、素足の足を照らす。
冬晴れなんだろう。
きっと外では暖かい陽射しと、冷たい風が吹いている。
こもった空気。
この部屋の空気は外の風よりも冷たくて暖かい。

「空気の入れ替え、しよっか」

足元を照らしていてくれた太陽にさよならをしてブラインドを上げた。
眩しすぎる太陽は、あたしから一瞬視力を奪った。
目が痛かった。
瞼を閉じるよりも先に入り込んできた光は眼球を嫌なくらい刺激した。

349D:2004/03/11(木) 11:33
きっと梨華ちゃんにも届いている太陽の光りは、まだ地球が生きていることを証明している。
沢山いる生き物の中のわずかな存在。
それがあたしで、あたし達。
いきなりあたしが交通事故や事件で死のうと地球はやっぱり回り続け、太陽と月はお互いに光り続ける。
大きくなりすぎる太陽が爆発をする時まで。
ひょっとしたらそれ以降も。

窓を開けたら想像以上に冷たい空気が部屋に入り込んで来た。
足元から全身が冷たくなっていくことがわかる。
冷気は足元から背中を伝い、後頭部まで辿り着き頭のてっぺんから抜けるようにあたしを貫いた。

吹く風が一瞬、強くなった。
その風はあたしの髪をめちゃめちゃにし、部屋にあった紙を吹き飛ばし、ベッドに座っていた
梨華ちゃんの髪も同じようにめちゃめちゃにする。
それでもあたしはその窓を閉める気になれず、ただ風に吹かれていた。

全部、吹き飛ばしたかったのかもしれないな。
ずっと思い続けていて、常に思い続けていて、だけど声に出すことはしないで。
声に出すことが怖いんじゃなくて、声にしても叶わないことが怖いんだ。
きっと、そうだと思う。

350D:2004/03/11(木) 11:36


     *     *     *     *


「あぁ、冷蔵庫の中がもう空だ」

引きこもり生活数日目。
食料は当たり前のようにつきた。
元からあんまり溜め込まないし、いくら梨華ちゃんの食が細いとは言っても二人分。
当たり前といえば当たり前だ。
外に出る気がおきなくて、同じように梨華ちゃんも外に出ようとしなかったので
ずっとダラダラと家の中で過ごしていたんだから。

こうやって、二人で過ごすこと。
嬉しいはずなのに、素直に喜べない。
嫌ってくれたらどんなに辛いだろう。
どんくらい楽になるんだろう。
どれもこれも想像出来なくて、どれもこれも想像する気になれなかった。

何がしたい。
何をしたい。
そんな全然考えたことなんかなかった。
でも、あたしは今一番逃げ出したい。

351D:2004/03/11(木) 11:37
「あたし、買い物行くけど梨華ちゃん行く?」

出来ないのに。
できるはずないのに。

「…うん」

あたしは逃げれない。
梨華ちゃんのお父さんからも、梨華ちゃんからも。
一緒に来てくれると言われれば、心の奥底で喜ぶ自分がいる。
一緒に来ないと言われても、心の何処かでよかったと思おうとする自分がいる。

「じゃぁ一緒に行こう」

どれもこれも全部あたしなのに、だけどあたしは逃げ出したいと思っている。
ずっと、ずっと同じことばかり最近考えてる気がする。

352D:2004/03/11(木) 11:37


     *     *     *     *


「最近さ、変な夢を見るんだ」

梨華ちゃんがうちの来てもう4日目。
残された時間は後2日。
あたし達は相変わらず家でだらだらしていた。

本当はさ、もう残された時間が少ないってわかるともっともがくものかなぁとか想像してた。
何処か遠くへ逃げたり、無謀な喧嘩をふっかけに渡された銃だけを持って出たり。
映画で見たようなことするのかなって想像してた。

全然違うんだよね。
実際は何もしてない。
ただ毎日一緒にいて、何もしなかったり、何も喋らなかったりしながら時間を過ごしてる。
適当に料理作って、それを二人でつついて、お風呂に入って、洗濯して、ベッドとソファーで横になる。
そしたら起きてまた同じように生活のくり返し。
カラクリ時計の人形みたいに。

353D:2004/03/11(木) 11:38
「目を開いたら自分が目の前にいるの。
 でもね、もう一度目を閉じたら目の前にいた自分は消えて、自分も消えてるんだ」

見る夢までも同じ。
全部が同じすぎる。
気持ち悪いくらいに。

「そう」

ベッドに座ってる梨華ちゃんは、まだ乾ききっていない髪をいじりながらいつもと同じように呟く。
これも全部同じこと。
いつもと同じ声の高さで、いつもと同じような声の温度。
最近、ちゃんと声を聞いてない気がする。

もっと、聞きたいな。
そう思って梨華ちゃんをもう一度見た。

354D:2004/03/11(木) 11:39


突然、濡れた髪から覗く艶やかな唇に喉がなった。


違う声が聞きたかったなんて言い訳だ。
同じようにくり返される生活から抜け出したかったなんて言い訳だ。
でも、ずっとずっと想い続けていたのは本当だ。
聞きたい声、感じたい温度、触れたい体、触れたい心。
ずっと、想い続けてきた。
消えそうになる想いは宙を彷徨い続け、ずっと着陸地点を求めてきた。
『時間が無いから』
こんなのは全然意味に含まれていない。

…全部が言い訳みたいだ。
言い訳?何に対する?誰に対する?
梨華ちゃん?それともあたし?

頭の中を虫が飛んでいるみたいに音が響く。
音の後ろには白い線が残り、白い線は真っ暗なあたしの頭の中に糸のように降り積もり重なっていく。
絡まる。
絡まり続ける。

355D:2004/03/11(木) 11:40
『触れたい』
絡まった白い糸の間から手を伸ばして掴んだあたしの気持ち。
それが、『触れたい』
触れていたい。
愛したいよりも触れていたい。
もっと『梨華ちゃん』の声が聞きたくて、もっと『梨華』の声が聞きたい。

何でこんなにも喉は乾くんだろう。
体が何かを取り込もうとしているみたいだ。
糸の厚みが増していく。
重く、そしてきつくあたしは埋もれていく。

伸ばした手。
掴める?
一体何を?

触れられる?
一体何処に?




また喉が鳴った。

356匿名匿名希望:2004/03/11(木) 11:42
更新しました。
ジェットコースター。
早いです。

>346 名無し(0´〜`0) 様
弟くんはまだ生きていました。
今も石川家にいます。

357308:2004/03/12(金) 23:35
うわぁ…静かな分、余計迫力が。
続き楽しみに待ってます。

358D:2004/03/14(日) 09:40
あたしの体はベッドに座る梨華ちゃんの隣へと動いて行く。
『触れたい』この意識だけがあたしを動かしているみたいだ。
自分の体なのにコントロールが出来ない。
自分の思考すらよくわからない。

自分の重みで少しベッドが沈んだ。
まだ髪をいじくっている指を捕まえて、その指を口の中へとしまいこんだ。
自分よりも細くて、自分よりも短い指。
舌で爪のカタチや間接を確かめながら梨華ちゃんの存在を確かめる。

驚きもしないで、あたしの口の中で動きもしないで、梨華ちゃんはじっとしていた。
見えているのに、あたしには見えていない。
動いているのに、あたしは動いていない。

359D:2004/03/14(日) 09:40
違うよね、何か違うよね。
これ、絶対間違ってるよね。
こんな触れ方おかしいよね。

あたしの気持ち、こんな風に動いていいと感じてない。
何処かで気持ちが摺り替えられる?

触れたい。
そう、あたしは触れたい。
誰に?
梨華ちゃんに。
誰が?
あたしが。
あたし?
あたしは・・・吉澤ひとみ?

あれ?ねぇおかしいよ、これおかしいよ。
あたしは梨華ちゃんが好きなんだよ、愛してるんだよ。
だから触れないでいた。
触れられないでいた。
傷つけたくないから。
傷つけずにいたいから。

360D:2004/03/14(日) 09:41
これは?
この触れ方は?
違うよね、絶対間違ってるよね。

何で手が動いてるの?
おかしくない?
何でこの手は梨華ちゃんの首に伸びていくの?

違う、絶対違う。
何かおかしい。
あたしおかしいよ・・・

違う、こんなんじゃない。
あたしはこんなんじゃない。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う・・・

止めろよ、止まれよ!
違う!こんなの違う!!
駄目だよ!こんなの間違ってる!!

この手は梨華ちゃんの絞める為にあるんじゃない!
止まれ!ヤメロ・・・ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ………………

361D:2004/03/14(日) 09:42





「ヤメロよぉーーーーー!」





叫んだ瞬間、頭の中にあった白い糸が『プチッ』という音をたてて切れた。
切れた糸は解けるように端から溶けていき、暗いあたしの中へ沈んでいく。
何処までも深く、沈んでいく。

今まで梨華ちゃんの細い首にかけられていた手が震えていた。
張り付いた前髪が気持ち悪い。
止まらない大量の汗。
背中を伝ってはシャツに吸収され、顔から流れ落ちた汗が梨華ちゃんの頬を濡らしている。

362D:2004/03/14(日) 09:43

「…はぁ、ハァ…ハァ」

震えた手を、震えた腕で自分の方へ引き寄せた。
全身から吹き出る汗が服を濡らし、あたしの体から力を奪っていく。
膝だけではもう体を支えられなかった。
倒れることしか出来ない。
前へ、梨華ちゃんの上へ。

駄目だ、倒れちゃ駄目だ。
思っても叶わない。
全てがスローモーションで、視界はモノクロに変わった。
見えていたもの全てにモザイクがかかり、頭が痺れた。

呼吸が上手く出来ない。
違う、息はしてる。
なのに、全身が痺れてるみたいだ。
動かない。
体が動いてくれない。

363D:2004/03/14(日) 09:44
ごめん、梨華ちゃん。
あたし倒れる。

視界は真っ暗になった。
そして、全身の力が抜けた。

364D:2004/03/14(日) 09:44


     *     *     *     *


光りが戻った時、あたしは汗をかいたシャツを着ているワケでもなく、汗ではりついた
下着をつけているワケでもなかった。
あたしの上からかぶせられた毛布。
この毛布はいつもソファーであたしが寝る時に使ってるやつ。
じゃぁ背中にあるのは、梨華ちゃんが使ってる布団。
毛布と布団の間にいるのがあたしで…あたしだよね。

毛布から腕を出してみた。
自分の意思で動くか確かめて、他の体の部分も動かしてみた。

「服、洗濯機の中に入れておいたから」

365D:2004/03/14(日) 09:45
首を声のする方に動かしたら、さっきと同じように髪をいじくっていソファーに座ってる梨華ちゃんが見えた。
髪の隙間から見える赤い痕。
指の痕。
あれは、あたしがつけた痕。

吐き気が込み上げてきてトイレに駆け込んだ。
出せるモノを全て出して、流せるモノを全て流す。
涙で歪んだ視界を指でぬぐい、冷たい水でバカみたいに顔を洗った。

前髪も顔も濡れたまま部屋に戻ったら、梨華ちゃんはさっきと同じような姿勢でこっちを見ていた。
もう、髪はいじっていない。
首の痕も、視界に入れない。
見つめあうじゃない、見られている。
あたしも梨華ちゃんを見ていて、梨華ちゃんもあたしを見ている。
確かに視線はからみ合っているのに、これは見つめあうなんて言葉とは全然違う。

366D:2004/03/14(日) 09:46
一歩踏み出せば距離が縮まる。
梨華ちゃんは動かない。
逃げない。
だから縮まる。

梨華ちゃんはあたしが怖くないんだろうか。
自分の首に手をかけたヤツなのに。
どうして逃げないんだろうか。
どうしてあたしの目を見れるんだろうか。

367D:2004/03/14(日) 09:46
拒んでよ。
そうしたらあたしが逃げるから。
嫌ってよ。
そうしたらあたしが逃げるから。
泣いてよ。
そうしたらあたしが泣くから。
求めてよ。
そうしたらあたしが求めるから。

368D:2004/03/14(日) 09:47
どれもしない。
何もしない。
ただ、目を見られているだけ。
動かない。
ただ、目を見られているだけ。

逃げないから、距離を縮めた。
ゼロにはしないくらいに距離を縮めた。
何でだろう。
分からないけど近くに座ろうと思ったんだ。
そう、あたしがそう思ったんだ。
だからあたしは今ソファーに座ってるんだ。
梨華ちゃんの隣に座ってるんだ。

あたしが、そう動いたから。
だよね、あたし・・・だよね。

「何がしたいの?」

どうだろ、分からない。
何がしたいんだろうね。
あたしは、今何をしたいんだろうね。

「…分からないよ、そんなの」

ただ隣に座ろうと思っただけだ。
何がしたいとか考えてない。

369D:2004/03/14(日) 09:47
この距離よりももっと近付けばまたあたしは梨華ちゃんの首に手をかけるんだろうか。
それとも、もっともっと近付けばあたしは梨華ちゃんの首に手をかけないんだろうか。
苦しいよ、好きなのに、すごい苦しいよ。
この好きと思う気持ちはあたしのモノ?
あたし以外にあたしはいるの?
あたしは、梨華ちゃんが好き。
あたしは、梨華ちゃんを・・・

「そう、じゃあ私寝るね」

眠る。
眠ったら朝を迎える。
残り時間はほとんどなくなる。

ベッドに向かう梨華ちゃんの腕を捕まえた。
何も考えないで捕まえた。

何がしたい?
分からない。
何で捕まえた?
分からない。
どうしたい?





「抱きたい」




もう、喉は乾いていなかった。

370匿名匿名希望:2004/03/14(日) 09:51
更新しました。
展開の早さに自分がついていけてないような感覚です。
ジェットコースターは止まり方を忘れました。

> 308 様
同じ様な空間に毎日を同じように二人は過ごしていました。
食事したりお風呂入ったりベッドとソファーで眠ったり。
キッカケなんてなくて、突然変わりました。
これから先、どうなるんでしょうか←オイ。
ありがとうございます。
頑張ります。

371名無し(0´〜`0):2004/03/14(日) 12:13
更新キタ─wwヘ√レvv〜(0^〜^0)─wwヘ√レvv〜─ !!
もう、この作品めちゃめちゃ楽しみにしています。

ジェットコースターがんばってください!!

372308:2004/03/14(日) 22:35
時間が迫ってくる感じが怖いくらい伝わります。
続き期待して待ってます。
がんばってください。

373JUNIOR:2004/03/14(日) 22:47
ジェットコースター以上に早いですね。
とまり方を忘れた?とまらなくていいです。
故障しててもいいです。そのまま突っ走ってください。

374D:2004/03/18(木) 20:30


     *     *     *     *


結局、あたしは梨華ちゃんを抱かなかった。
・・・抱けなかった。

唇を重ねようとしたらあたしは動けなくなった。
シャツに手をかけようとしていた腕も動かなくなった。

抱きたい。
でも、出来なかった。
抱いちゃいけない気がした。

下からあたしを見上げていた梨華ちゃんの目とあたしの目が重なり、
見られているじゃなくて、見つめあったら体が動かなくなった。
好きだけど、こんな愛し方をしたいんじゃない。
愛とも呼べないようなことをしたいんじゃない。

375D:2004/03/18(木) 20:31
表情を見せない瞳に、あたしは自分の想いを込めた。
もう、伝えることもないし、伝わることもない。
お別れの出来ない想いにお別れの意味を込めて梨華ちゃんと見つめあった。

たった一言。
だけど言ってはいけなかった一言。
今までの日々を簡単に崩してしまった言葉。
裏切った。
きっとあたしは梨華ちゃんの裏切った。

言葉すら遊ばせないで、冗談も含めないで放った言葉は回収出来ない。
誤魔化すことだってできない。
一瞬でも手を出そうとした自分がいたんだ。
あたしがいたんだ。
こんなはずじゃなかった。
もっと、違う道で回収出来ない言葉にしたかった。

376D:2004/03/18(木) 20:32
ぐちゃぐちゃの頭で、整理出来ていない自分が言う言葉じゃなくて、もっと、もっと真直ぐに伝えたかった。
欲しいのは体じゃない。
触れたいのは肉体だけじゃない。
それを一番伝えたかったのに。
あたしは全部それを吹っ飛ばした。
温めていた気持ちを最低最悪のタイミングと言葉で踏みつぶした。

自己嫌悪。
バカみたい。
昨日のあたしは梨華ちゃんの弟と同じだよ。
触れたい、欲しい、壊したい。
違うのに、こんなあたしの思いは梨華ちゃんには伝わらない。
言葉にしないから。
出来なかったから。

泥のついた靴で踏み付けた。
水であらっても落ちない泥をあたしは投げたんだ。

さよならは出来ない。
一生、もう短いかもしれないけど、あたしが生きている間ずっとこの気持ちはあたしの中だけに封印する。
だって傷つけたくないから。
今さらだけど、あたしが原因でこれ以上梨華ちゃんを傷つけたくないから。

377D:2004/03/18(木) 20:33
勝手すぎる気持ちはどこにもいけなくなっていた。
考えることも、考えていたことも、考えなきゃいけないことも、あたしはコントロールが出来ていない。
数日前に考えていたこと、思っていたことだって忘れてる。
あたしは後ろに線なんて何もなくて、今立っている所だけに点がある。
その場なんだ。
その場だけなんだ。

いつだって分からないことだらけだった。
それは今も同じだ。
点の上に立ち、点の上に自分を置く。
進めば点はあたしの足元に移動をし、戻れば点はあたしの足元に移動をする。
戻れない。
戻ることなんて出来やしないんだ。

378D:2004/03/18(木) 20:34
同じ体勢でいた梨華ちゃんをそのままベッドに残し、あたしはソファーに横になった。
泣くのは違うと思ったけど、涙は勝手に流れてきた。
まとまらない思い、まとまらない気持ち。
あたしがどんどんとバラバラになっていく。

分からない。
あたしは自分が何をしたいのか。
何を思っていて、何を考えていて、何を考えていたのか。
全部、分からなくなっていた。

数時間前の記憶だって、あたしには全部思い出すことなんて出来なかった。
宙に漂っていた言葉を掴んで繋げて変わった考え。
何処までがあってて、何処までが間違いなのかわからない。
正解も不正解も存在しなくても、あたしはあたしがもうよくわからなくなっていた。
嘘の気持ち、本当の気持ち。
考えていたこと、考えていなかったこと。
正解はあたしの中にあるはずなのに、あたしにはあたしの正解が分からなかった。

379D:2004/03/18(木) 20:35
刻む時計の音。
時間は止まることがない。
迫る日を目の前にしているのに、あたしは笑った。
涙を流しながら笑った。

体が揺れればソファーが揺れ、体を震わせれば声が震えた。
このまま眠ろう。
そうすれば朝はまたやってくる。
いつもと同じように6日目の朝を迎え、7日目の朝を迎える。
8日目の朝を見ることなく沈む月を見るのだっていいだろう。

消えそうなのはあたしの方で、消えそうじゃないのはあたしの体。
明るくなりはじめる空を見つめながら短い夜を感じようと目を閉じた。
瞼はわずかな光を通し、あたしの目を刺激し続けた。

380D:2004/03/18(木) 20:36


     *     *     *     *


6日目の昼。
梨華ちゃんがウチに来て5日目の昼。
いつものように簡単な食事を作って食べていた。
そしていつものようにあたしが『何処か行きたい所ある?』と聞くと、梨華ちゃんは動かしていた手を止めて
少し考えるように視線を動かしてから言った。

「…明日、行きたい所があるの」
「今日じゃなくていいの?」
「今日は、ここにいたい」

らしくない言葉を聞いた。
この言葉を発しているのは梨華ちゃんなんだろうか。
今までのように手と口を動かし、モノを噛んで喉の奥へと流し込む。
変わらない動作をして、変わらない姿をしているけど、梨華ちゃんは何か違っていた。

「…そう」

381D:2004/03/18(木) 20:37
一定のリズムで動いていた時計の音が少し遅くなった。
電池が切れそうになっていた時計。
あたしは時計をそのままにしておいた。

針は止まる。
もうすぐ、止まる。
誰も動かさなければこの部屋で永遠にその時間を刺し続ける。
刻む時が無くなり、その時間を閉じ込めた時だけがそこに残る。

「いいの?」
「いいんだ」

朝が知りたければ朝日を見ればいい。
夜を知りたければ月を見ればいい。
目に見える刻まれる時間はもういらない。
空間と時間を切り取り、一枚の写真に残すように針は止まればいい。
シャッターが押されるのはいつかわからない。
針が止まったと同時にシャッターは押される。
その時間と空間を永遠に収めて、時を止める。

一度変わってしまったモノを無理に戻そうなんて思わない。
だけどあたしは今までと同じようにしてようと思った。
多くは望まない。
せめて今までと同じようにいさせて。
変わってしまったあたしと梨華ちゃん。
それでもいい、それでも少しの間は今までと同じようにして過ごしたかった。

382D:2004/03/18(木) 20:38


     *     *     *     *


その日の月は目が痛い程輝いていたのに、最後の日、目が覚めたら雲と雨が太陽の光りを遮っていた。
あたしは昨日の朝日なんて覚えてなかった。

383匿名匿名希望:2004/03/18(木) 20:39
更新しました。
次回からもっともっとジェットなコースター。
あんまし更新スピード落ちないようにがんがります(多分)

>371 名無し(0´〜`0) 様
妙な不定期更新で申し訳ないです。
そしてジェットコースターになりすぎて
私が微妙に焦っているのは内緒です(・∀・)
手をつけれないでいるのはもっと内緒です。

> 308 様
無くなり過ぎた時間に焦りを感じているのは
中の二人だけじゃないようです(w
私も同じように焦ってみたり、だけど直せないでいたり。
んあー頑張るっす。

> JUNIOR 様
すでに故障してしまったジェットコースター。
突っ走りすぎて脱線しないかが問題ですね(w
いやでももう止まれないです。
私の力じゃブレーキかけれないみたいです(苦笑)

384337:2004/03/18(木) 22:32
>そういえば昔、吉田栄作が出ていたドラマ
>「ジェットコースター悲劇」って呼ばれてましたね(遠い目
どんなドラマだったんでしょうか(汗)
いやー覚えてたりちゃんと見てたのはロン○バケーションくらいなもんで(爆

あんまり覚えてないんですが(^^;)
ジェットコースターのように浮き沈みがあり展開が早い
というような意味だったと思います。
例えるなら、
最近主婦に人気の「牡丹と薔薇」のような感じでしょうかw

385337:2004/03/18(木) 22:36
げっ!感想書くの忘れてた…すみません。

梨華ちゃんが何を考えてるが分かんないから
展開がまったく読めないよぉ。
うーー 続き楽しみです。

386D:2004/03/21(日) 09:23
「雨、強いね」

体が寝過ぎた後のようにダルイかった。
まだ固まっている腕でシャツのボタンをとめながら見た外。
この日降っていた雨は、ここ数カ月のうちで一番強い雨だった。
雨が地面や屋根を叩く音が音楽のないこの部屋にはうるさいぐらいに響いている。
きっとテレビでも付けたら大雨洪水警報なんてのが流れているんだろう。
バカみたいに降り続く雨に思わず笑いがこぼれた。

とっくに止まってしまった時計の針。
その針は深夜で動きを止めていた。
あたしが寝ている間だった。
まぁそれもいいだろう。
その時のことを、あたしは知らない。
だからこそ、それがよかった。

387D:2004/03/21(日) 09:25
「支度出来た?」

振り返ったらシャツのボタンに手をかけている梨華ちゃんが視界に入った。
何か、焦るとかそんなのを感じるんじゃなくて、ただ普通に黒の下着なんだって思った。
妙に冷静な自分がいた。
おかしいな、最後の日のはずなのに、驚く程に心が穏やかだよ。
信じられない感じもするし、何か、現実感がない。
ボタンをとめる梨華ちゃんの手を見つめながらそんなことを思った。

小さい手。
自分よりもずっと小さい手をしている。
その手を綺麗だと思った。
その動き方も、一つ一つの仕種も綺麗だって思った。
目があって、あたしが笑うと梨華ちゃんは何も言わずに視線を外した。
それでいいと思った。
変わる必要なんて何もない。

「トイレ借りるね」

そう言って梨華ちゃんはいつもと同じように洗面所へと消えていった。

388D:2004/03/21(日) 09:25
全ての準備は整った。
あたしも、梨華ちゃんも。
いつものように鏡で服装のチェックをする。
まがっているネクタイを直して、全身に触れて何処に何があるかを確認する。
全てのチェックだ終わった後、あたしは鏡に向かってその辺にあったリモコンを投げ付けた。
音が鳴り、ヒビが入っる。

梨華ちゃんと入れ代わるように洗面所に入り顔を洗った後、そこの鏡にもモノを投げ付けた。
多分、ドライア−だと思う。
まぁ投げるモノなんて何でもよかったんだ。
とりあえず割れてくれれば良かったから。

部屋に戻ると、梨華ちゃんがあたしのことを待っていた。
いつものように背筋を伸ばし、いつもとは違うように髪を下ろして。
数秒間、あたし達は無言で見つめあい、そして先に動き出した梨華ちゃんが玄関の扉を開けた。

雨は、さっきよりも強くなっているようだった。

389D:2004/03/21(日) 09:26
     *     *     *     *


いつどんなスイッチが入っちゃったんだろう。
あたしにはそのスイッチが何処にあったかも、
そのスイッチがいつ入ったかも分からない。

    
     *     *     *     *

390D:2004/03/21(日) 09:27
梨華ちゃんが行きたいと言った場所は、十数年前に起きたテロのせいで廃虚のようになった場所だった。
迷路のように組まれたパイプ、途中で打ち切られた工事の跡、壁の落書きに崩れ落ちそうなビル。

ここは、世間から見放された場所だ。
住めないことはない。
だが、一般人が住み続けられるような所でもない。
奪いあうことで生活をする人々。
死にたくないならここには近付くな。
小さい頃から聞いていて、教えられたことだった。

電車がホームに滑り込む。
この駅に止まる電車は一日に数本しかない。
そのうちの一本に乗ってあたし達はこの場所にやってきた。
時間の感覚はわからなかったけど、数時間は電車に揺られていたと思う。
遠い所に来たんだっていう感覚はなかった。

生まれて初めて来た場所。
幼い頃から聞かされていた言葉や噂。
想像していたよりもそこは暗く、静かな所だった。
聞こえるのは雨と風の音。
わずかな街灯が雨の粒を暗闇から照らしている。

今日は、よく冷える日だ。

391D:2004/03/21(日) 09:28






「…小さい頃に一度だけ来たことがあったんだ」

無人の改札を抜け、突然喋り出した梨華ちゃんの背中を追う。
雨と風ですでに壊された傘は今頃電車の中でまだ旅を続けているはずだ。
ウチらの頭上を守るものはない。
二人して雨と風に打たれながら暗い道を歩いた。

「見ておけって、そう言われて連れてこられた」

鉄の階段に足を置けば音が鳴る。
続く螺旋階段をひたすら昇った。

「何を見せたかったのかは今でも分からない」

壁のなくなったビル。
むき出しの鉄骨が雨風にやられて錆びている。
梨華ちゃんはその壁のない穴まで近付くと立ち止まった。
天井からは雨が降り続いていた。

「それでも、その時、お父様は私の手を握っていてくれた。
 だからこの場所は忘れないでおこうと思った」

392D:2004/03/21(日) 09:28
数メートル離れた所から見る背中。
いつもと変わらない背中。
梨華ちゃんの話しを聞くのは初めてだった。
過去のことも、家庭のことも、梨華ちゃんは何も喋ろうとしない。
それなのに、今あたしは梨華ちゃんの思い出の場所にいて、梨華ちゃんの言葉を聞いている。

いつもは全然話さないくせに。
いつもは単語でしか言葉を返してくれることなんてないくせに。
何で今日に限ってそんな饒舌なのさ。
いつもはあたしが手を引いてるんだよ。
なのにどうしてあたしが背中を追い掛けなきゃいけないのさ。

393D:2004/03/21(日) 09:29
雨の音が聞こえた。
濡れた制服も、濡れた髪も、全部この雨のせいなのに、全部雨のせいじゃないような気がした。
雨が鳴らす音があたしの中に雨を降らせる。
全てを濡らし、全てから温度を奪っていくように。

「今が何時か知ってる?」

雨にかき消されそうな声。
言葉の向く先は外の雨に向かっていたけど、向けられていた先はあたしだ。

「いや、時計とか持ってきてないから分からないよ」

真っ暗だし、起きた時には時計止まってたから。
昼過ぎくらいじゃなかな。
そんな風に思ってたんだけど。

さっきっから話すタイミングをあたしに与えない状態だった梨華ちゃんが、
はじめてあたしにくれた時間。
質問の答えを言うだけに与えてくれた時間。
こんな短い時間じゃ何を考えたって分かりっこない。
というか、考えたって分かるようなことでもない。
時間も、分かりッこない。

394D:2004/03/21(日) 09:30
「もうね、夜なんだよ」
「…まだ起きてから数時間しかたってないのに?」
「ひとみちゃんは、沢山寝てたんだよ」

395D:2004/03/21(日) 09:30
途端、ドクンと心臓が大きく鳴った。
前と同じような白い糸が私の頭の中で動きはじめる。
一本が二本に増え、四方からのびる糸が私の頭の中であたしの足を絡めていく。

改札を抜けた頃から、突然変わったように喋り出した梨華ちゃん。
それは人が変わったみたいで、梨華ちゃんが梨華ちゃんじゃなくなったみたいで。
あたしは、梨華ちゃんを見ているはずのに、そのはずなのに…。

糸が縛る。
あたしの頭の中でもがく。
見えていないはずなのにはっきりと見える糸。
動きが、止まっていくような感覚。

痺れる頭で考えた。
今朝はいつもと同じだった。
今朝?…今朝?

396D:2004/03/21(日) 09:31
起きて体がだるかった理由は?
こんなにも暗い理由は?
今朝ってどうして思ったんだろう。
そうだ、普通に起きたからだ。
だから起きた時間が朝だと思ったんだ。

…電車の時間。
調べたのは梨華ちゃんだ。
知っていたのは梨華ちゃんだ。
あたしはついてきただけ。
時計なんて今日一度も見ていない。

ドクドクと心臓の音が鳴る。
その動きがはっきりと分かる。
いつもよりも強い。
いつもよりも音がデカイ。

「私が、眠らせておいたから」

397D:2004/03/21(日) 09:32
今、あたしの目の前にはあたしの梨華ちゃんがいる。
いつもと同じような表情をしているのに、なのに、突然変わってしまったように
言葉を声に出し続ける梨華ちゃんがいる。


何だろう、この感情。
恐怖?これは恐怖?

さっきよりも大きく音が鳴った。
突然失われた時間に対する恐怖なんかじゃない。
じゃぁこれは梨華ちゃんに対する恐怖なの?
あたしが?梨華ちゃんに?

「ひとみちゃん、出しなよ」

いつの間にか握りしめていた手は、汗をかいていた。
突然現れた梨華ちゃんを梨華ちゃんと認識出来ていなあたしは、
目の前にいるこの華奢な体を持つ梨華ちゃんを怖いと感じている。

『何でだろう』
『どうしてだろう』
この答えは簡単に出てきた。

「銃、私に向けなよ」

振り向いた梨華ちゃんの手にはあたしのとは違う銃が握られていた。




糸が、あたしの体の半分を縛り上げた。

398匿名匿名希望:2004/03/21(日) 09:36
更新しました。
書けば書く程手がかじかんでいくなぁ…

> 337 様
おぉ、そうでしたか。
わざわざすんません。ありがとうございます。
最近は前よりももっとドラマ見なくなってまして、
唯一見てたのも終わっちゃった_| ̄|〇
狂ってきたのは石川さんも私も同じな感じです。
分身みたいに同じな感じですね。

399JUNIOR:2004/03/21(日) 21:10
更新お疲れ様です。
面白いことになってきましたね。
ジェットコースターは止まらずに頑張ってますね!
これからも頑張ってください。

400名無し(0´〜`0):2004/03/23(火) 23:19
梨華ちゃんは何を思ってるだろう…

401D:2004/03/26(金) 20:14
「…なん、で」

流れた時間はどれくらいだろう。
自分に向けられた銃口と、あたしを見る梨華ちゃんが視界に入っている。
やっと絞り出された声は掠れていて、自分でも聞き取りにくいくらいだった。

「私だけがひとみちゃんに銃を向けてるの、イヤなんだよね」

答えになっていない答え。
働かない頭で色々考えようとした。

全部、駄目だった。

402D:2004/03/26(金) 20:15
徐々にあたしを奪っていく糸が思考能力を一気に低下させる。
いや、そんなことがなくても分からなかったかもしれない。
…分からないだろう。
梨華ちゃんがあたしに銃を向けている理由。
梨華ちゃんがあたしの銃の存在に気付いてる理由。
今、ここにいる意味。
梨華ちゃんがあたしをここに連れてきた意味。
何で雨が降っているのかも、どうしてあたしの手が銃を掴んでいるのかも、
全部が全部、分からない。
それはこの糸のせいじゃない。
知らないから分からないんだ。

「安全装置外して」

動く指、見つめる先、向けられる先、意思とは関係なく動く体。
震えていた。
銃に対する恐怖心。
そして梨華ちゃんに対する恐怖心。

403D:2004/03/26(金) 20:16
「まだね、時間は残ってるんだ」

分からないよ。
梨華ちゃん、分からないよ。
時間って何のこと?
あたしの時間のこと?
それとも梨華ちゃんの時間のこと?
何を知っているの?
あたしの、何を知っているの?
怖いよ、どうしたのさ突然。

「だから、教えてあげる」

一体いつ何処でスイッチが変わってしまったんだろう。
数十分前まで知っていた梨華ちゃんは突然姿を消してしまっていた。
だってあたしはこんなに喋る梨華ちゃんなんて知らない。
ただ怖いという感情があたしの体全部を縛りあげている。
言葉が出てこなくて、呼吸すら忘れそうだ。
恐怖で歯がガチガチ鳴る。
寒さも加わって手も震える。

突然の梨華ちゃんの変化についていけなくて、突然のこの出来事にあたしは対応出来てない。
そしてあたしの自由を奪おうとする白い糸があたしを暗闇の中へと引きずり込もうとする。

404D:2004/03/26(金) 20:17
真っ暗な世界を雷が一瞬照らした。
照らされた世界で、濡れた梨華ちゃんがハッキリ見えた。
そして一瞬消える白い糸。

「お互いにね、残された時間は同じなんだよ」

何処かに雷が落ちた。
遠くで、雷が落ちた。

「与えられた時間もね」

空の引き出しは何を記憶していたんだろう。
止まった時計は何を記憶していたんだろう。
ひび割れた鏡は何を映していたんだろう。

「お父様がね、ひとみちゃんに私を殺すように頼んだこと、知ってたんだ」

右手から汗と雨で銃が落ちそうになった。
重い、すごく重い。
腕が痛い。
濡れた所から熱が奪われていく。
背中を流れたのは雨じゃない。
痺れているのは頭だけじゃなかった。

「教えてあげる。知らないままでいたくないだろうから」

405D:2004/03/26(金) 20:18
はじまりを告げる鐘が一つ鳴った。
その鐘に反応した糸が姿を消す。
暗闇に溶け込み、一つあたしを自由にする。
でも、真上に伸ばされた梨華ちゃんの手がもう一度こっちを向き、あたしは泣きそうになった。
痺れているのも自由になれないのも白い糸だけじゃない。
恐怖心は銃と梨華ちゃんだけに向けられているワケじゃないんだ。

怖かった。いや、今も怖い。
結局、あたしは決断なんて出来ていなかったのだ。
心なんて決まっていなかったのだ。
ギリギリまで一緒にいて、真実を告げて自分は死のうと思ってた。
思ってただけだった。
覚悟が出来ていなかった。
だから泣きそうなんだ。
だから、銃口を自分の方に向けることが出来ないんだ。
怖かったんだ。
だから、ずっと逃げていたんだ。

406D:2004/03/26(金) 20:19
「ひとみちゃんが私を殺さないと、ひとみちゃんはお父様達の手によって殺されてしまう。
 ひとみちゃんが私を殺さなければ、ひとみちゃんと私はお父様達の手によって殺されてしまう。
 期限は一週間。その間の一週間はひとみちゃんのこと守ってあげる。そう言われたんでしょ?」

頷くことなんて出来ない。
目の前が歪んでて全身に力が入らない。
頷けば流れそうになる涙が目の中で泳いでいる。

「ひとみちゃんは、お父様に呼ばれる前の日に見たよね。
 数人の人と、人として生きていた人。
 あれね、私が少しだけお世話になったことのある人達なんだ」

静かだった一週間。
その静けさの理由が目の前に見えた。
梨華ちゃんの言葉だけが綺麗に通って頭に響く。
通り抜けることなくあたしに理解しろと言ってる風に響いてくる。

407D:2004/03/26(金) 20:19
「私は言われたの。
 一週間以内にひとみちゃんを殺せ。
 私が殺さなきゃひとみちゃんは私以外の人に殺される。
 そして私も殺される」
 
残されたのは同じ時間。
与えられたのも同じ時間。
ただ与えられた条件が梨華ちゃんの方が一つ少なかっただけ。
辿り着く先に未来なんて開かれていなかった。
一人でも、二人でも、どっちも未来の保証なんてされてなかった。
甘く見ていた未来はあっという間に打ち壊された。

「私がひとみちゃんの話しを聞いたのは、ひとみちゃんがお父様に呼出された次の日だった。
 小さい頃から私の世話をしてくれてる人が教えてくれたの」

408D:2004/03/26(金) 20:20
壊れた鏡。
あれはあたしだ。
いや、あたし達なのかもしれない。
真正面を向いても道はなく、いつでも途切れてる点の上に立っている。
それは、あたし達だったんだ。

「偶然だよね、すごい偶然。 
 お父様達も、私のお世話になった人達も、私達がお互いにお互いの命の選択を
 しなきゃいけないことなんて知らないんだよ」

突然、梨華ちゃんが小さく笑い声を漏らした。
梨華ちゃんの笑い声なんて聞いたことがない。
だからそれを発しているのが梨華ちゃんだって気付くのに少し時間がかかった。

「どうせお互いに後1年ももたない命なのにね」

409D:2004/03/26(金) 20:20
もう一度雷が鳴った。
今度雷が落ちた場所はここから近いみたいだった。
響いた振動で屋根から砂のコンクリートが雨に混じって降ってきた。

「混乱してるよね?当たり前だよ。分かるはずがないもん。
 私だってひとみちゃんと同じ立場だったらきっと何も分からない」

もう一度鐘が鳴った。
梨華ちゃんは腕をもう一度上から私の方に向けた。

「でもね、聞かせてあげる。教えてあげる。
 それから、選ばせてあげる」

一つ鐘が鳴るごとに痺れていた頭が正常に機能する。
鳴らされた鐘はこの意味があるんだろうか。
それとも、鐘を鳴らしたいだけなのだろうか。
まだ歪んだままの視界。
頬を濡らすのは雨だけじゃなかった。
冷えていく体で心臓の音だけが力強く熱を持っていた。

考えることも、理解することも、考えをまとめることも、あたしはもう出来ていなかった。

410匿名匿名希望:2004/03/26(金) 20:29
更新しました。
ageちゃった…orz

> JUNIOR 様
私はすでに混乱状態です(苦笑)
なんか一緒になってきました。
沢山、一緒になってきました。
止めれないっすね、とめる気もないですが(w

>400 名無し(0´〜`0) 様
どっちも、きっと沢山思ってたり、思おうとしてるんだと思います。

411名無し(0´〜`0):2004/03/26(金) 22:47
うわぁ…
梨華ちゃんと家族の関係とか
これから「ドーナルンデスカー」。
救いはあるんでしょうか。

412D:2004/03/30(火) 18:24
「ひとみちゃん、手の甲にあるチップの意味って知ってる?」

チップの意味…。
この、チップの意味。

「…身分証明書。生きる為に必要なモノ」

それがどうしたの?
こんなの誰だって知ってるじゃん。
子供だって知ってるよ。
何で、そんなこと聞くのさ…。

自分の声が震えている。
掠れるような声は、まるで自分声じゃないようだ。

「まぁ、当たりじゃないけど、外れでもない答えだね」

腕が痺れてきた。
カタカタと銃が震え、腕は下へ下へと落ちていく。
あたしの動きを見ていた梨華ちゃんも一度銃をあたしからずらし、
地面の方へと銃口を向けた。

413D:2004/03/30(火) 18:26
「この子達には名前があるんだよ」

梨華ちゃんは銃を持っていない方の手で銃を持っている方の手の甲を触れた。
最初は優しく。
まるで赤ちゃんに語りかける母親のように。

「名前はね、『D』って言うの。
 生まれながらにして運命を決められた子、運命を選べない子。
 私の中にいるこの子は一つの母親から生まれた大量の子供のうちの一人。
 そして、Dはひとみちゃんの中にもいるの」

梨華ちゃんの言葉、何一つ理解できなかった。
『D』?
一つの母親から生まれた大量の子供?
言ってることを理解できなかった。

「Dの母親はDの父親を必要としない。
 だってDは作られた子供達だから。
 Dは母親から出てくると父親の中に埋め込まれたんだよ。
 だから、父親はDを持つ私達。
 私も、ひとみちゃんもDの父親」

414D:2004/03/30(火) 18:27
梨華ちゃんの右手の甲に震えている手が一瞬、動きを止めた。
あたしに視線を投げ、理解しているかどうかを確認する。
できるはずがない。
理解なんて。
すぐに信じろなんていう方が無理なんだ。
そう思うあたしがいるのに、あたしの右手の甲は梨華ちゃんの言葉に反応するように動いた気がした。
思うことなんて関係ない。
聞け、そして理解しろ。
何処からかそう言われてるみたいだった。

「Dが開発される数年前から、日本の全国民に対してチップの埋め込み作業が行われたの。
 老若男女問わず、全国民に対して。
 身分証明書と同じ扱いになる為、このチップの埋め込みを拒否したモノは、
 自らの身分を全て失うことになる。
 それは存在しないということ。
 一人では生きてはいけないということ。
 最初から選択肢なんて誰にも与えられてなかった。
 それでも埋め込まれることを拒否する人達だっていた。
 自分の存在を証明出来ないその人達は働けず住む場所も与えられない。
 だから埋め込み作業が始められた当初、街には人が溢れたんだって。
 ホームレスって言われてる人達は、その時街に溢れた人の生き残りなんだってさ」

Dが開発される前?
チップは全部Dじゃないの?
考えだそうとしたらまた白い糸が視界に入ってきた。

415D:2004/03/30(火) 18:27
「Dはね、日本にしか存在しないの。
 この国だけで作られて、この国だけで埋め込まれたの。
 チップをわざわざかざす理由。
 それは人の識別っていう理由もあるけど、Dを持っている人達にはそれ以外の理由もあるんだよ。
 母親であるメインコンピューターはね、全ての子供の監視をしているの。
 学校とかでチップをかざすのは、個人の証明ではなくDにエネルギーを与えるため。
 母親が子供であるDに必要な栄養を届ける為なんだよ」

雨の音が聞こえなくなってきた。
感じるのは雨の落ちてくる感触なのに、音だけが急激に遠ざかっていく。
梨華ちゃんと捕らえていたはずの視界が白く埋まっていく。
急激に体の力が抜けて、暗闇に引きずり込まれそうになった時、また鐘の音が聞こえた。
鐘が鳴る度びあたしは暗闇から抜け出ることができる。
梨華ちゃんは、そういうことも知ってるんだろうか。
倒れそうになる体を、少し力の戻った足で支えた。
それを確認した梨華ちゃんはまた喋りはじめた。

…知ってるんだ。
そう、思った。

416D:2004/03/30(火) 18:28
「私達の病気に対す免疫抵抗力は全てDがあるからあるものなんだよ。
 つまりDがなくなると免疫に対する抵抗力が一気に低下する。
 だから私達はDがなくては生きていくことが出来ない。
 そして子供であるDは父親からエネルギーをもらい成長していくの。
 母親からもらう栄養は病気に対する免疫抵抗力だけだから。
 だからDは私達がいないと生きていけないの。
 じゃぁDが生まれた理由は?
 何でDが生まれて、私達はDを育てているんだろう。
 そんなのは、考えることじゃなくて、知ることだった」

梨華ちゃんは動きを止めていた左手の爪を右手の甲に突き立てた。
破れた皮と肉から流れ出した血が、雨で薄められて梨華ちゃんの足元へと流れていった。
あたしは梨華ちゃんの話しを聞きながら、流れる梨華ちゃんの血を見ながら、
同じように右手の甲に爪を立ててみた。
痛かった。

「Dは父親の経験を記録するの。
 そしてDは父親の中で大人へと成長していく。
 その成長スピードは父親と全く同じ。
 私達が年をとれば、同じ分だけDが年をとる。
 20歳くらいまで成長して大人になったDは徐々に脳を支配していくの。
 もちろん、それは父親の脳。
 生まれてDを埋め込まれた次点で、Dの支配は始まるはもう始まっていたんだ。
 Dは取り込もうとするの。人や、自分の欲望の対象となるモノを。
 自分っていうのは、自分であってDであるんだって」

417D:2004/03/30(火) 18:29
思考の遅れ、自由のきかない体。
考えることが散らばり、回収することも出来ない。
遠ざかる意識も、見える糸も、それはあたし達の中にDがいるから。
そう言う梨華ちゃんの言葉が、突然重くなった気がした。
今までとは違った重みが突然出てきた気がした。

「Dを開発した理由。
 それは人が人を生み出す為の技術。
 つくり出すことなく新しい人を作りだす為の実験。
 簡単に言うと人体実験。
 実験の対象となったのは2185年生まれの子供達。 
 私達が生まれた年の子供達だった」

最近、あたしがよく見る夢。
そしておかしくなっていったあたしの体とあたしの思考。
それは全部こいつのせい?
痛んだ右手にもっと爪を食い込ませた。
 
「ひとみちゃん、最近白い糸がよく見えるでしょ?
 これってね個人差があるんだけど、時期が皆のよりも早く来たのはひとみちゃんが混乱してたから。
 色々なことがありすぎてそれについていけなくなって、脳が混乱してたからだよ。
 Dは手を伸ばしやすかったんだよ、ひとみちゃんに。
 だから私よりも先に強く症状が出てきたんだと思うよ」

418D:2004/03/30(火) 18:29
彼女の爪が右手の皮を少し剥いだ。
痛みや大きな音はDを遠ざける力があるんだそうだ。
弟との関係を持った日、一度白い糸を見た梨華ちゃんが、怖くなって自分の腕を
傷つけた時に発見した方法らしい。

「Dが父親である私達を支配するのももうあとすぐ。
 だから私達は生きているけどもうすぐ死ぬの。
 でもね、Dももうすぐ死んじゃうんだよ」

さっきよりも多くの血が流れていた。
いつも無表情に近い梨華ちゃんの顔が、歪んでいた。
それは痛みからくるのもなのか、それとももっと違うことなのか。
梨華ちゃんじゃないあたしには分からない。

「Dの母親であるメインコンピューターが死を迎えようとしているんだって。
 突然現れたウィルス。
 それによって母親は病気にかかっちゃったんだってさ。
 ウィルスが現れたのはつい1年前。
 急激にバグが増え、その活動を一時停止することが多くなったらしいよ。
 化学者達の技術で延命処置が行われたが、もう限界地点。
 1年前にわかった人体実験の失敗。
 そして私がそれを知ったのは2週間前だった」

419D:2004/03/30(火) 18:30
2週間前。
あたし、そん時どうしたんだっけ。
何してたんだっけ。
…覚えてないや。

「母親から与えら続けていたエネルギーの供給が出来なくなるとDは活動が出来なくなるの。
 だから母親を失えばDは死ぬ。
 そしてDを失うこの世代の人ももう生きれない。
 Dに体と脳を支配されても、Dは平均で言うと数カ月しか生きれないんだって。
 そしてDに体と脳を支配されなかった人も、Dを失うと1年くらいしか生きることが出来ないだってさ。
 体の免疫力が極端に低下するから、もって1年なんだって」

…さっき梨華ちゃんが言っていた後1年ももたない理由の説明。

「失敗とわかれば手放すことなんて簡単だよね。
 だってどんな手を使っても母親を治すことなんて出来なかったんだもん。
 バカだよね、自分の力以上のことをしようとするからこんなことになるんだよ。
 今政府はこの失敗をメディアにばらされないように、そこだけに必死になっている。
 無理に決まってるじゃん。
 そんなの、分かってるはずのに必死になってるんだよ。
 バカだよ、本当にバカ」

420D:2004/03/30(火) 18:30
雨の音が聞こえてきた。
その雨の音に消されるような声で、梨華ちゃんは『でも、どうでもいいんだけどね』そう言った。

「他のチップと同じように、チップのベースは全て同じ。
 違うのはそれがDなのか、Dじゃないのかだけ。
 違っているようで、実は全て同じなんだよ。
 Dは父親がいても母親がいないと生きていけない。
 他の人達はDににせたただのチップを埋め込んでいるだけ。
 それはDを埋め込まれた人が不審がらずに普通に生活をする為。
 手首を切り落としてDを取り出しても何の意味もないんだって。
 殺されたDはそこで死ぬから。
 二度と生き返らないから。
 D意外のチップは書き換え可能だから犯罪は減らないでしょ?
 でもDだけは死ぬと書き換えは出来ないんだってさ」

梨華ちゃんが大きく息を吸った。
そして白い息を吐き出してあたしを見た。

「母親はもうすぐ死ぬ。
 そして子供ももうすぐ消滅する」

421匿名匿名希望:2004/03/30(火) 18:34
更新しました。
混乱しました。
ストックきれました。
頑張ります。
そして改行とか少なくて読みにくかったらごめんなさい。

>411 名無し(0´〜`0) 様
一応、脳内では出来てきてるんですがついていかないんですorz
それも書いてるうちに舵がきかなくなって暴走とか。
私にもどうなるかは分かりません(苦笑)
救い、そうですね…あることを願っています。

422D:2004/04/02(金) 21:38
あたしがジッと梨華ちゃんを見ていると、梨華ちゃんはうっすらと笑顔を浮かべた。

「私がこんなに話すとおかしい?私だって話すことがあれば話すわよ」

少し興奮気味なんだろうか、梨華ちゃんはこんな寒い日なのにも関わらず
頬が少し赤くなっていた。
赤い頬とは違い紫色に変わっている唇。
震えすら隠して、梨華ちゃんは今、あたしを見ている。

「理解する方が無理だろうけど、何も知らずに死んじゃうのはイヤでしょ?
 だから聞かせてあげたの。だから教えてあげたの」

あたしは今さらながら、梨華ちゃんってこんな声してるんだよなって思った。
ちょっと高くて、あたしよりもずっと高くて、普通の女の子よりも高いんだなって。
梨華ちゃんがあたしに聞かせてくれたこと。
全然分かんないし、今だってはぁ?って感じだけど、梨華ちゃんは、きっと嘘なんてついてない。
嘘をつく理由がないから。
こんなことを考えられるあたしの頭はやっぱり単純でアホな作りをしているんだろうか。
分からない、考えられない。
だけど、無性に笑いたくなってきた。
お腹から声を出して、雨に混じって大泣きして、叫びたい気分だった。

423D:2004/04/02(金) 21:39
「知りたい?私のこと。もっと知りたい?」

知れば近付けると思ってたのに、知れば知る程遠くなっていく。
笑えばどうにかなっただろうか。
大声で叫んで、大声で泣けばどうにかなったんだろうか。

「ひとみちゃんの知らない私のこと。もっと、もっと知りたかった?」

あたしは分からない。
その時どうしたら今はこうなってたかも。
そんなこと全然分からない。
今のあたしは泣くのを我慢して、叫べなくて、笑えなくて、泣けなくて、
梨華ちゃんから言われる言葉も理解できてなくて、質問にも答えられてない。
その時どうしたらの、どうしたらの部分なんて何も出来ていない。

「私にひとみちゃんを殺せって教えてくれた人達が私に薬をくれたこととか、
 私がこんなにも色々な情報を知ってる理由とか、もっともっと、もっと知りたかった?」

424D:2004/04/02(金) 21:40
分かること。
分かること。
分かること。

「買えない情報はないの。調べられないことなんてないの。
 侵入することだってできるの。私はできるの、色々なこと。
 私は知ってるの、色々なこと」

今のあたしに分かること…

「殺したいくらい憎いヤツがいて、吐き気がする程気持ち悪い思いして体を抱かせて、
 何となく入り込んだ所で知らないこと知って、自分の命の残りを知って、
 抱かせた体に爪を立てたの。バカな自分。ほっとけば消えるのにわざわざ受け入れたんだよ
 洗っても消えない感触とか、眠れば夢に出る息の熱さとか、全部、バカみたい」

感情。
そう呼ばれるものがやっと見えてきた梨華ちゃん。
分かること、分かること…

「知りたい?私に。触れたい?私の体に。 
 汚いよ、すごく。ひとみちゃんが思ってる程私は綺麗じゃないの。
 私は綺麗なんかじゃないの!」

425D:2004/04/02(金) 21:41
雨は相変わらず強く降り続いている。
吐く息は白く、冷えた体は背筋から全身に震えを送っている。
数メートルの距離で吐き出される白い息。
初めて聞いた大きな声。
泣きたいのに泣けない梨華ちゃんの声。

「何も知らないくせに!私のこと何も知らないくせに!!
 両親に愛情なんて注がれた記憶なんて残ってない!いつも主人の娘だからっていうことだけで
 お嬢様よばわりされて、弟には性の対象でしか見られたことなかった!!
 ひとみちゃんみたく家族に愛されて育ったワケじゃない!!!
 何で私に近付いていたのよ!何で私にかまったのよ!!
 何で私の手をとったの!!何で私のこと好きになるのよ!!!」

肩を震わせ、頬を雨が伝い、全身がずぶ濡れになっている。
それはあたしも梨華ちゃんも一緒。
分からないことだらけじゃない。
もう、分からないことだらけじゃない。
分かること。
それは…今、目の前にいあるのが、梨華ちゃんの心の奥にいた梨華ちゃんだってこと。

426D:2004/04/02(金) 21:41
息をしているのも梨華ちゃん。
叫び声のように言葉を吐き出すのも梨華ちゃん。
本当は、怯えているのも、梨華ちゃん。
涙が止まらないのに、怖いのも止まらないのに、震えだって、全部、全部止まらないのに、
なのに、なのに…あたしは梨華ちゃんを欲している。
これはあたしなんだろうか。
これはDなんだろうか。
DはDに惹かれ、あたしは梨華ちゃんに惹かれているのだろうか。
あたしの小さな考えは、答えを出す前に雨に流されていったようだった。

「私は…私は愛される人間じゃないの。
 でも、愛されたいの…愛されたかったの…。
 ずっと、ずっとずっとずっと…触れたかったのに、触れたくなかった。
 怖くて、ずっとずっと怖くて…」

怯えていたあたしと、ずっと怯え続けていた梨華ちゃん。
溢れていた涙はやがて止まり、乾いていた唇は雨で濡れて水分を含んでいった。
数メートルの距離は腕を伸ばしても届かない距離。
雨が流したあたしの考え、そして流れたあたしの怯え。
流れた?
…流れた。
分からないけど、あたしは、今のあたしは…怯えてるんじゃなくて、欲してる。
体全体で梨華ちゃんを欲しがり、持ち上げた両腕で梨華ちゃんを掴みたいと思ってる。
あの細い体に、あの細い首に手を回したいと思っている。
必要なのはこんな黒くて重いものじゃない。
本当に必要なものはあたし自身と、目の前にいる梨華ちゃんだ。

427D:2004/04/02(金) 21:42
「ひとみちゃんは…熱すぎたの。私には大きすぎたの。
 欲しかった。欲しくなったの、私はひとみちゃんを。
 でも…でも熱すぎた。私には熱くて、大きすぎて、掴めないって分かった。
 掴んじゃいけないんだって、分かった」 

静かに吐き出された白い空気。
それは言葉というよりも、空気だった。
放てば溶けてしまう。
放たれた言葉には言葉というモノが残されたワケじゃない。
ただ、発して、溶かしてしまう。

奪い合うはずの立場にいるあたし達。
この状況を見たら人はどう思うのだろう。
雨も雷も風も止まることなく降り続けている。
背中の先に見えるはずの世界は雨によって見えなくなっている。
後ろに見えない世界。
もう、見えない世界。

428D:2004/04/02(金) 21:43
なら欲しい。
ただ、欲しい。
お互いに欲しがっている。
あたしと梨華ちゃん。
DとD
全てが欲しがっているんじゃないかと思う。

狂ってる?
違う、そんなはずない。
狂ってなんかない。
あたしはただ、欲してるんだ。
ただ、欲しいだけだ。
子供のように、我がままを言う子供のように梨華ちゃんを欲しいと思ってるだけだ。
全てを手に入れられるなら…そう、全部を手に入れられるなら…。

429D:2004/04/02(金) 21:45
雷が鳴った。
照らし出された梨華ちゃんの顔には、血管のように浮かび上がった筋のようなモノがいくつも走っていた。
もう一度雷が鳴った。
伸ばした両腕に、筋が浮かび上がっていた。
近くに落ちた雷の音で、あたしの腕からも、梨華ちゃんの顔からも細い筋は消えた。

目の前で、梨華ちゃんは泣いていた。

430匿名匿名希望:2004/04/02(金) 21:45
更新しました。
もうすぐなのに手が届かないなぁ…

431名無し(0´〜`0):2004/04/02(金) 23:26
私の頭の中には糸はないと思うのですが
難しくてあんまり理解できてません(^_^;)

2人とも、欲しいなら手に入れろ〜

432JUNIOR:2004/04/03(土) 00:59
更新お疲れ様です。
私も吉澤さんと同じで頭が単純でアホのつくりをしてるので、
難しい事は理解できません。

この際、2人とも欲望に任せて突っ走ってしまえ。

433D:2004/04/04(日) 21:47
小さいと思った。
あたしが思っていたよりも、ずっと、ずっと目の前にいる彼女が小さいと思った。
震えている肩も、掴みたいモノを掴めない手も。
涙を流しているのは梨華ちゃんなのかな。
それとも、Dなのかな。

欲しいと思っていたあたし。
梨華ちゃんが怖いと思っていたあたし。
それはあたしで、それはD
ずっと一緒だった。
何処までも一緒にいなければいけない。
あたしはDで、Dはあたし。
ならばDで欲しいと思った心はあたしの心。
伸ばした手も、かけた手も、欲したモノも、全部、全部あたしが望んだもの。

434D:2004/04/04(日) 21:48
突然世界が広がった。
脳味噌を打ち抜かれたような衝撃が走り、空が大きく開けた。
同化していくような感じがした。
糸と、あたしが。
溶け込んでいくような気がした。
消えていくように、溶けていくように。

Dをあたしと考えたあたしに訪れたこのどうしようもない興奮感。
並べられた言葉と、はがれ落ちていく梨華ちゃん。
向けられている銃から弾が飛び出せばあたしは死ぬ。
死ぬ…死ぬ。
あたしはあたしのままで死ぬ。

導き出される矛盾。
支配されていく体。
怖いのに、震えているのに笑みが浮かぶのは何でだろう。
こんなにも興奮するのは何故だろう。

435D:2004/04/04(日) 21:48
「…時間、もうないね」

さっきまであんなに怯えていたのに。
感情の起伏が激しい。
抑えられない涙。
震える熱い体。
怖いはずなのに、あたしは笑っている。

「ひとみちゃん」

言葉を発しない代わりに頭の中で飛び交う言葉。
温い川に足を入れているような感覚。
心地よい。
何処までも、流れていけそうだ。
笑える。
今は、笑える。
目を閉じたら広がる青くて、薄い雲が伸びてる空。
両手を天に伸ばせばあたしは空へと飛んでいける。

瞼を閉じて冷たい雨を受けた。
落ちてくる雨が瞼や肌を刺激する。
震えた。
でも、もう少しこのままでいたい。

音が流れ、体が流れ、あたしはこの川の流れと一緒に溶けていける。
両足だけではなく腰まで川に浸かろう。
きっと、もっと気持ち良いはずだから。

436D:2004/04/04(日) 21:49
全てを委ねようとしたら、もう一度落雷があった。
消えたビジョン。
遠ざかる興奮。
目を開けて、天から視線を戻したら、梨華ちゃんがこっちを向いてニコリと笑った。

「選ばせてあげる、最後の運命」

覚醒。
そう言うべきなのか。
犯されていたDからの覚醒。
抜かれた直後のような感覚が脳に走り、体はあたしが支配をする。
見えたつながり。
見えた境目。
あたしはDで、Dはあたし。
一体となればそのまま沈み、あたしはあたしにさよならを告げる。
単純なことだった。
簡単なことだった。

437D:2004/04/04(日) 21:50
「後一年生きたい?それとも今すぐに死にたい?」

これはDがあたしに教えてくれたことなんだろうか。
それともあたしが気付いたことなんだろうか。
考えれば考える程あたしとDは一緒になろうとする。
興奮の波が体を襲い、全てを委ねたくなる。

…駄目だ。
今は、まだ駄目だ。
こんな笑顔をする子をおいてあたしは消えていいはずない。
そんなのあたしがあたしを許せない。
気付いた時間。
残りの時間。
切るな、自分で。
終わらせるな、この波で。

口の中を噛んだ。
広がった血の味。
遠ざかる興奮。
目の前に見える子を見つめ、あたしは震えた。
あたしは心の底から震えた。

438D:2004/04/04(日) 21:50
いつも見たいと思っていた笑顔。
泣きながら笑った顔。
どうしただろう、どうしてこの子はこんなにも頑張るんだろう。
泣きたいなら笑わなければいいのに。
笑いたければ笑えばいいのに。

悲しい子。
そして優しい子。
何でもっと早く気付かなかったんだろう。
こんなに、ずっと一人で怯えていた子のことを。
どうして怖いと感じていたんだろう。

震える瞼を一度閉じた。
時間は、もうあまりない。
この言葉がぐるぐる回るあたしの頭。
理解している。
きっと、理解しようとしている。
感じることを理解しようとしている。
本能が気付いたことを脳が理解をしようとしてる。

439D:2004/04/04(日) 21:51
あたしはまだ何も言ってない。
あたしはまだ何も答えてない。
独りぼっちを抱えたままでずっとうずくまっていたこの子に何も伝えてない。
掴んでない。
触れてない。
このままでいいはずがない。

「どっちにせよ、あなたは私を忘れ、私もいつかあなたを忘れる」

カチリと何かが鳴った。
雨音が突然大きくなった。
体を叩くように降る大粒の重たい雨。
感覚を無くすには丁度いい温度。
声が遠くなる。
距離は変わっていないのに、声が遠くに聞こえるようになった。

「生きるのと死ぬのってさ、どっちが苦しいんだろうね」

440D:2004/04/04(日) 21:52
泣いて、泣いて。
本当の笑顔も見せない。
微かに聞こえる声。
呟き。
生きていると死ぬの?
そんなの分かるはずないじゃん。
だってあたしは今生きてるんだもん。
死んだ後のことなんて分かるはずがない。
言いたいのに、何で声が出ないんだろう。
どうして、涙は溢れてくるんだろう。

「0時を回らなけばまだひとみちゃんはお父様に守ってもらえる。
 私が死んだのが分かれば私の上にいる人達がひとみちゃんを殺しにくる。
 簡単だよね、撃ち合いが始まるんだもん。
 ひとみちゃんはその間にここから逃げればいい。
 抜けれる道があるの。
 それを教えてあげる。だから逃げることはできるよ」

441D:2004/04/04(日) 21:52
機械的な言葉。
いつから考えられていたんだろうか。
こんな文章を作り上げ、読み上げる。
いつから、こんな風に思ってたのか。
どうして、こんなことをあたしに言うんだろうか。

…違うでしょ。
こんなの違うでしょ。
何で笑うの?何で泣くの?
どうしてそんなに震えないの?

声を出そうとしてるのに喉の奥で全てが消える。
あたしの出ない声。
この雨の音と風の音じゃ、この声が出たとしても聞こえるはずない。
それなのに、どうして梨華ちゃんの声はこんなにも真直ぐあたしの耳に届くんだろう。
梨華は銃を構えたまま、小さく呟くように漏らした声なのに。

「途中まで、計画通りだったんだけどな」

442D:2004/04/04(日) 21:53
吐き捨てるように呟く言葉が雨の間を縫っていく。
捨てられた言葉を拾ってあたしは耳からその言葉を聞く。
跳ね返り、壁で溶け、雨に流され、風に飛ばされる。
想いや気持ちはそうして言葉から逃げていった。

「最後の最後でひとみちゃんのこと…」

だからそういう言葉は届かないんだ。
雨音に負け、風の叫び声にひれ伏すから。

「選んで、早く」

笑う、泣く、叫ぶ、怒る。
全てを押し込めて今まで生きてきた梨華ちゃん。
あたしに答えを見せてくれた。
あたしに教えてくれた。
沢山のことを。
なのに、あたしが選ぶの?

強い風が吹いて壁からコンクリートが飛んできた。
痛み。
あたしは、まだ痛みを知っている。
痛いということを知っている。

443D:2004/04/04(日) 21:54
覚悟しよう。
そう思ったワケじゃない。
でも、自然と決まったあたしの心。
落ち着いている。
心臓の音はいつもと同じリズムで血液を送りだしている。

散らばった言葉。
繋がらない文章。
まとめられない言葉と気持ち。
繋がるはずない。
言いたいことも、聞きたいことも沢山あるんだから。
そうだよね?…そうだよね
求められているのはこんな答えじゃない。
きっと、こんな答えじゃない。

「…どうして、人は生きているんだろうね」

444D:2004/04/04(日) 21:54
求められているモノに答えていないあたし。
ずっと、ずっと逃げていたあたし。
伝えなきゃ。
言葉にしなきゃ。
これは独り言じゃない。
これを独り言にしちゃいけない。
今ぐらい、いつもの吉澤ひとみと石川梨華に戻ろう。
背中を追って。
手を引くから。
いつもみたく、前みたく。
出来るよな、あたし。
出来なきゃ、あたしはあたしでいる意味がない。
ここに立っているのがあたしでいる意味なんてない。
伝えるんだ。
あたしが、梨華ちゃんに。

「…に、なるためだと思うよ」

本当のところなんて分からない。
あたしもまだ知りたい途中だから。
でも、今思ったこと、言葉にするから。
一人じゃないよ。
あたしがいるよ。
だから聞いて。
だから、聞いて。

あたしはあなたのことが欲しい。
Dも、あたしも、吉澤ひとみはあなたの全てが欲しい。
この数メートルの距離を縮め、その体も心も全てが欲しい。

「×××、×××××××××」

梨華ちゃんが笑った。
梨華ちゃんが泣いた。
だからあたしは笑って引き金を引いた。

445匿名匿名希望:2004/04/04(日) 21:58
更新しました。
後戻り出来ないくらいに自分を追い込みたくなりました。
だから生まれたてのDを更新しました。
勢いがないとこの先ずっと更新しない気がしたので。
そして突然ですが、次回からside Rです。

>431 名無し(0´〜`0) 様
私も書いてる途中からすでに混乱していました。
だからこそDになったのかなぁとも思いますね(苦笑)
人間くさいようで人間くさくなくなってしまいましたが、
分からないことがあってもいいんじゃないかと思ったのもあります。
自由です。
きっと、考えるのも、理解するのも。
だから混乱しちゃって下さい(w

> JUNIOR 様
私も単純でアホ野郎なので難しいことは全然分かりません。
でも、だから悩んで生まれてこんな風になってきたのかなぁと思います。
欲望。
突っ走ったら何に辿りつくんですかね(w
踏み出したらいつも道が消えるのは、Dを生んでる最中の私も同じでした。
ついでに今だってそんな感じです(苦笑)

446JUNIOR:2004/04/05(月) 21:38
んん!?なんて言ったんだー!!想像すればいいんですか?(想像中)
引き金引いちゃだめだYO。早まっちゃだめだー!!
きっと欲望も踏み出す道も駆け出すためにもあって通りすぎたら、
消えるものなのかもしれません。(えらそうな事言うガキですいません)

447D-R:2004/04/23(金) 20:47
***


最初は、キライだった。


***


幼い頃、私は独りじゃなかった。
お父様もお母様も周りの皆も私を見てくれて、私を愛してくれてた。
記憶に残っていないそんな思い出は数少ない写真が教えてくれた。

物心つく頃から、私の記憶にいる親はカタチだけの親だった。
お父様の跡を継げない私。
お父様の跡を継げる弟。
簡単な未来地図を目の前に広げられ、私は独りになったのだ。
訊いたのではなく、そう、理解していた。

育ててくれたのは小さな頃からずっと私の身の回りの世話をしてくれてた人だと思う。
叱ってくれた。
褒めてくれた。
私が家の中にいる時間だけは私を人として扱ってくれた。
都合のいいように組み替えてるかもしれないけど、私の記憶にはそう残っている。
いや、そう残そうとしているのかもしれない。

448D-R:2004/04/23(金) 20:48
一歩家の外に出れば、私は名前だけのお嬢様から解放される。
でも、解放されたって何が変わるワケでもなかった。
皆私を見ようとしない。
表にだけ目を向けてはすぐにそらす。
その行為は『見る』ではない。
そう、感じていた。
だから私は常に独りだった。
どこにいたって独りだった。

良い子になれば振り向いてもらえるのだろうか、悪い子になれば振り向いてもらえるのだろうか。
そんな風に思ったことなんていうのはなかった。
無理って感じてたから。
無駄って感じてたから。
繋ぎたかった手はそんなことしてもやってこないって、そう、わかってたから。
掴んだスカートの裾はいつしか薄くなり、ほつれ、そして穴があいていた。
そのスカートは、やがて消えてなくなっていた。
捨てた記憶はない。
だから、きっと捨てられたんんだと思う。

昔から人と上手く付き合うことが出来なかった私は話すことも、遊ぶことも、
どんな風にしたらいいのか分からなくて、いつも二重の窓から同年代の子達が遊ぶのを眺めていた。
春も、夏も、秋も、冬も。
ずっと、眺めていた。
一人で、眺めていた。

449D-R:2004/04/23(金) 20:49
この頃からすでに私は人に触れられることが好きじゃなかった。
多分、知ってたであろう手の温もりを再び知ることが怖かったんだと思う。
その温もりを知り、抜け出せなくなるのが怖かったんだろう。
繋ぎたいのに差し出された手を握れない。
矛盾してると気づいてたけど、私はどっちにも倒れることが出来ないでいた。

450D-R:2004/04/23(金) 20:50
右足を出して進む道も、左足を出して進む道も、足を置いた瞬間に他の道が透明になって
見えなくなっていった。
迷子とは違うのに、立っている所はいつも迷い道だった。
正解なんて、いつだって分からない。
決まってない。
そう思うことも出来ず、しようともせず、私は足を踏み出していた。

寂しくて、寂しくて、どうしようもない時もあった。
それでも、いつしか独りでいることを好むようになっていた。
傷の痛みも優しさの温もりも知らないままで。
無知なままで、その時以上のモノを望まないようにしていた。
私がどこで何してたって人は歩み、そして止まり朽ち果てていく。
それだけなんだ。
そう、割り切ってる。
そんな風に、思ってたんだけどな。
寂しさに負けて泣くことも、何かの理由で涙を流すことも、理由もなく涙を流すこと。
自分の中でのタブーになっていたのにな…。

流してしまえば私はきっと独りでいることに耐えられなくなってしまうから。
弱さを認めれば強がることが出来なくなる。
そう、思っていたから。
下唇を噛んで、鉄の味を感じれば逃げ去っていく私。
私は私を逃がし、そして何処までも、何処までも、ずっと、ずっと逃げていく。
無理に決まってるのに、そんな風に、してたんだ。

451D-R:2004/04/23(金) 20:50
***

毎日は淡々と過ぎていった。
寝て起きての繰り返し。
その間に何が入ったって何も変わりはしなかった。
話す相手もいない。
言葉を忘れてしまうんじゃないかと思う程、私は私だけとずっと一緒にいた。
本や勉強にも飽きると、私の向かい合う相手はモニターに変わった。
情報の渦巻く世界。
時間とお金を持て余していた私がその世界に溺れていくのにそんな時間はかからなかった。

交わされる陳腐な言葉を横に退け、私は狂ったようモニターに向かい、溢れ出る情報に目を向けた。
流れる時間の早さは、時折激しく感じる孤独を遠ざけてくれたから。
癒しとは違う感覚。
全てを麻痺させたように、何も感じさせることなく刻まれるリズムは深い深い闇への入り口だった。
一歩でも踏み込めば戻ってなんかこれない。
約束されることのない契約書に判を押し、私はその紙の上に血を垂らした。
そして知る。
私達の中にいるモノのこと。
そして私は過ちを犯す。

***

452D-R:2004/04/23(金) 20:51
成長すればする程、独りでいることが苦しく感じるようになってしまった。
それは成長してくにしたがってリアルになっていく痛覚によく似ていた。
見るモノ、聞く音、触れる痛み。
痛みを知れば、次からそれは感じる痛みに変わった。
その痛みは心の痛みにも繋がり、私の寂しさは他から入り込んでくる情報でも感じるようになっていった。
どんどん、弱くなっている気がした。

見て欲しい。
そう思ったワケじゃない。
でも、必要とされたかった。
重なる年齢、変わっていった身体。
鏡を見れば映る姿。
人の目に、この身体はどう映ったんだろうか。
求められたのはこの身体。
心なんてモノは必要ない。
私は必要とされたんじゃなくて欲しがられた。

初めてを差し出すことに、抵抗はなかった。
興味がなかったワケじゃないし、痛みの波は時間が経てば消える。
感触もきっとすぐに消えるだろう。
そう、思ってたから。

453D-R:2004/04/23(金) 20:51
求められたのは私じゃなかった。
分かってた。
私の身体だってこと。
だからどんなに痛みを訴えようとそんなことは関係ない。
そんな訴えは必要なモノじゃないから。
だから下唇を噛み続けた。
鉄の味がしようと、痛みの声は喉の奥へ、私自身は全部奥へと抑えこんだ。
耐えれば過ぎていく不快感や痛みはそんなに苦痛でもなかった。
足の間から血が流れた日の記憶なんて、あんまり残っていない。
痛いと感じたことも感触も、全てかすれていった。
わずかに残っている記憶なんて、その部屋が血のように濃い赤一色で埋め尽くされていたという記憶だけだ。

孤独感を拭う為に重ねたはずなのに、身体を重ねるごとに私の孤独は大きくなっていた。
痛みも感触もなかなか消えなくなった。
積み重なるように残り続けた。
それなのに求め続ける私がいて、泣けない私もいて、独りになるとただ空に目を向けていた。
何かを見てるワケでもない、見ようとしているワケでもない。
もう、下を俯き続けることが怖かったんだ。
もう、イヤだったんだ。

454匿名匿名希望:2004/04/23(金) 20:57
更新しました。
突然ですが、Dはあと2回か3回で終わる予定です。
ひっそりこっそりsage進行で行こうと思っております。

>JUNIOR 様

>んん!?なんて言ったんだー!!想像すればいいんですか?(想像中)
最後に言った言葉は明らかになる予定ですが、予定です(w
想像して下さい。
人それぞっす。
明らかになるかもしれない言葉は吉澤さんの言葉ですから。
行き着いてみないと分からないことって、すげー沢山あるんですよね。
行き着くまでが大切だったり、行き着いた先も大切だったり。
分からないことだらけっす(苦笑)

455JUNIOR:2004/04/24(土) 19:11
更新お疲れ様です。
私はいまだに想像してるの〜てんきな人です。
梨華ちゃん・・・。相当難しい過去を持ってるんだ・・・。
あと2,3回ですか・・・・。どんな結末になるか楽しみにしてます。
これからも頑張ってください。

456D-R:2004/05/02(日) 00:16
一度、入ってすぐに大学を辞めたことがあった。
理由は…なんだっけな。
多分たいした理由じゃなかったと思う。
近寄ってくる人がイヤだったのかな。
いや、どうだろ。
覚えてないや。
ともかく私は寂しいくせに、人が苦手だった。
だから最初はキライだった。

ほっといて欲しいのにつきまとってくる、本を読んでいたいのにかまってくる。
痛いくらいの笑顔を向けて、何度も何度も私のことを捕まえようとしてきた。
何がしたいのか、どうしたいのか、そんなの分からないけど、ただ、あの人は私につきまとってきた。

私なんかにつきまとう理由がさっぱり分からなかった人。
目的も見えない。
考えてるこても読めない。
何がしたくて、私に何を求められてるのかも分からなかった。

457D-R:2004/05/02(日) 00:17
不快だった。
私は人に触られるのが好きじゃない。
誰かに心の中に触れられるのも好きじゃない。
どこまでいっても他人は他人で私は私だ。
絡まることも、交わることも、全て表の薄皮一枚で起こること。
奥の奥の最後の一枚までは合わさるこてなんてなく、破られることもない。
きっと、この先どこまでもこんな風に進んでゆくのだろうと思っていた。

何度も無視した。
距離をできるだけとろうとした。
なのに、距離は開かず、逆に近づいていった。
近づいてくるくせに、深いところには入り込んでこようともしない。
興味がないのか、それともどうでもいいのか。
ともかく私にはさっぱり分からなかった。
でも、触れて欲しくて、触れて欲しくないところに無理に入りこもうとしてこない彼女は
イヤでもなく、キライだった。

…なのに私は、彼女に近づこうとしていた。
理解出来ない。
私のことなのに私は私を理解出来なかった。
寂しかったのか、それとも彼女の側の温度が、近づいてきた時の温度を少しでも心地よい、
そう感じてしまったのかもしれない。

458D-R:2004/05/02(日) 00:17

***

私は強くなろう。
そう思っていた。
思うとしていた。

***

459D-R:2004/05/02(日) 00:18
彼女と同じ時間を過ごすことが増えた。
彼女と一緒にいると今まで隠れていた自分が溢れてきた。
それは私の知らない自分で、知られることも、知ることも、全てが新鮮で、全てが恐怖と隣り合わせだった。
知られることで去られること。
私自身が気付かないうちに現れている違う私。
はたしてそれは私なのか。
本当に、私なのか。
同じなのに、違う自分がいて、違うのに、それは私。
そんな恐怖があったのに、私はずっと私でいられたのは、どんな私も彼女が受け入れてくれたから。
隠す必要もなく、抑える必要もなく、ただ、私は私でいればよかった。


一度手放してしまった孤独。
彼女の背中を追わない時間、その孤独を感じる量が増えた。
自ら壊してしまった壁。
それは時を過ごせば過ごす程細かくなり、かき集めることも、もう一度作ることも出来なくなった。
私は自分を知られることで彼女が私から放れていってしまうことに恐怖を感じるようになった。
…なのに、知って欲しかった。
もっと、私を知って欲しかった。
私の、全てを知って欲しいと感じてしまった。

460D-R:2004/05/02(日) 00:20
だからだと思う。
彼女を部屋に招き入れたのは。
私がどんな家の子で、私の周りにはどんな人がいるのか。
知られて消えてしまう恐怖よりも、知って欲しいという欲望の方が勝ったのだ。
そして彼女の人生を狂わせてしまった。
なのに、私には悲しみだけが訪れるのではなく、むしろ一つの輪の中に彼女が一緒に入ってくれた。
こんな気持ちも訪れていた。
最低だと思う。
自分で、自分を最低だと、強く思った。
それなのに、この、胸の奥から出て来る気持ちを抑えることは出来なかった。

あの日の夜だって、そのまま彼女を車で家まで送ることだって出来たのに、
そうしなかったのはこの輪から彼女がまた出て行ってしまうのがイヤだったから。
自己中、私の我がまま。
あの日、私は彼女にもっと知って欲しかった。
もっと私のこと、私の周りのことを知って欲しかった。
結果、彼女をこんなにも追い詰めることになるのに。

引きつった笑顔で泣き、笑い、そして震える彼女を抱きしめた時、私はどうしようもない罪悪感に包まれた。
彼女に何も罪はない。
私の我がままで彼女を振り回し、ここまで追い詰めた。
壊した。
彼女を。
彼女から平凡な日常、こんな言葉を奪い去った。

461D-R:2004/05/02(日) 00:21
何日も彼女に会わないかった日。
満たされていないと気付いた。
私にとって必要な人、そしてもっとも恐るべき人。
それが彼女だ。
彼女と一緒にいつことが私の生活の一部になりはじめていた。
言葉が欲しくなった。
存在が欲しくなった。
あの、隣で感じられる温かさが欲しくなった。
変わってしまった私達の間。
変わってしまった彼女。
だけど、彼女は、彼女だった。
どんな風になっても、どんな風に泣いても、笑っても、震えてても、彼女は彼女。
そして、私は私。
怖がられて離れられてくと思ってたのに、彼女は私の腕の中の強さを求めてくれた。

だからだと思う。
きっと、生まれた初めてこの言葉を言ったんだと思う。
そんな言葉だけで許されるものならば、私は何度でも叫ぼう。
そして、彼女に何度でも言おう、そう、思った。
子供のように泣きじゃくる彼女を抱きしめながら、私は何度も、何度も、心の中で謝罪の言葉をくり返した。

462D-R:2004/05/02(日) 00:22

全ては私からだ。
溢れる情報の中から見つけた薬。
受け取ったのも私。
使ったのも私。
そしてそれで全ての人の人生を狂わせたのも私。
彼女の心に、深い傷を作ったのも私。
私はいつも自分ジブンだった。
傷つくことを恐れ、そして人を傷つけ、私は私を守り続けていた。
我がまま。
そして最低なのが私。
これが、私。
こんな私があの熱い手を握ることなんて出来ない。
同じ世界に生きることなんて出来ない。

463D-R:2004/05/02(日) 00:23
彼女の歯車を狂わせてしまった直後、私は私達の運命を知る。
一つの芽から下へと伸びる線を辿り、知ったこと。
『D』のこと。
私は自分の中にあるDのことを知った時、泣き崩れることもなく、ただ、その文面に目を向けていた。
そして運命という言葉があるのなら、こんな私にも運命というのはあるんだと、そう、思った。

抜けだせない横の繋がり。
知られている私のこと。
そして、彼女のこと。
『殺せ』
こう言われた時、冷静な自分がいた。
どっちにせよ、私と彼女は消えてしまうんだ。
そう、もうすぐ消えてしまうんだ。
彼女が消えれば私も消えよう。
何かに取られて奪われてしまう前に私が消してしまおう。
そうすれば彼女は何処にも行かない。
彼女に抱いている気持ちは恋愛感情とは全く別のモノ。
欲しい。
この独占欲。
だから、彼女も消して、私も消えようと思ってた。

464D-R:2004/05/02(日) 00:24
なのに、私は彼女との生活が心地よいと感じ、何度も眠る彼女に向けた引き金を引くことが出来なかった。
まだ時間はある、まだ、時間はある。
日は一日一日と経っていき、その毎日の中で、彼女の眼差しは私だけに向けられていた。
それが私の引き金の引けない理由の一つ。
向けれられたことのない私だけへの眼差し。
彼女は気付いていなかったけど、私は、それが心地良かった。
そして引き金を引けない毎日は続き、彼女の中からはDが強く出始めた。

465D-R:2004/05/02(日) 00:25
『何がしたいの?』

この言葉を使った私は卑怯だ。
私が欲しかった回答を私は彼女に求めた。

私はしたいの。
私は欲しいの。
私はあなたに全てを見て欲しいの。

彼女が言った『抱きたい』という言葉。
それは私の願望。
欲望。
全部、彼女に向けられているモノ。

言葉以上に瞳は饒舌だ。
私は、彼女の瞳の中に言葉を見た。
あんなにも優しく、あんなにも悲しそうな目で見つめられたのは初めてだった。
流すことも出来なくて、受け止めることも出来なくて、ただ、その目を見つめた。
だから私達は見つめあった。

466D-R:2004/05/02(日) 00:27

私は生まれて初めての恋に落ちた。

初めてだった。
人に愛されていると感じたのは。
初めてだった。
ベッドの上で何もされずに大事にされたのは。
重ならない唇と、動かない腕。
体の動きを止めた彼女から伝わった痛いくらいの気持ち。
私が彼女に対して抱いていなかった想い。
そう、その瞬間までは抱いていなかった想い。

467D-R:2004/05/02(日) 00:27
すぐに視線を逸らして、すぐにソファーに横になった彼女は気付いていなかったが、
私はあの後、一瞬で自分の中で生まれてしまった感情をどうすることも出来なくて、
自分で自分の首にずっと手をかけていた。

胸の痛みは治まらない。
欲する欲望も治まらない。
首に手をかけたままベッドの上で天井を見つめていた。
この手の下には彼女の手があった。
その上に自分の手を重ねている。
取り込もうとしていた。
彼女は、私を。
そう思うと、どうしようもなく濡れてきた。

欲していいるのは体だけじゃない。
欲しいのは私の中で動く指や舌じゃない。
見て欲しかった。
私を。
眠っている彼女に、見て欲しかった。
彼女に、全てを知ってもらいたい…

私は、朝日を背中に受けながら、裸のままで彼女の寝顔を見つめ続けた。

468匿名匿名希望:2004/05/02(日) 00:33
更新しました。
あとちょっと。

>JUNIOR 様
>私はいまだに想像してるの〜てんきな人です。
私もきっと探してる途中です(苦笑)
吉澤さんの答え、私の答え、はたして同じなのかどうかは疑問です(爆

石川さん、書けば書く程私が罠にハマっていくんです。
そして、終わりが見えてるはずなのにどうしてか遠い。
ゴールテープをきるまで後わずか。
あれっす、最後の直線に入ったってところですかね。
いつもレスありがとうございます。
頑張るっす。

469JUNIOR:2004/05/02(日) 10:26
更新お疲れ様です。
あと少しですね・・・。
梨華ちゃんは胸のうちはこんな事思っていたんですね、ずっと・・・。
自分は寂しいのに人が苦手。なんとなくわかります。

最後の直線・・・・・・。
もうすぐ終わると思うと悲しい・・.゜.(ノД`).゜.
頑張って、最後まで全力で走り抜けてください。

470D-R:2004/05/06(木) 18:18
彼女を消すことにためらいを覚えた。
残りの日を、彼女と一緒に過ごしたいと思ってしまった。
この小さな空間から彼女を解き放つことなく、私だけを見て欲しい。
もう一日、彼女と同じ空間で、この心地よい温度を感じていたかった。

大切だと思ってしまった彼女。
だから彼女には私の一番大切にしていた思い出の場所を見てもらいたかった。
全てを知ってもらいたかったから。
思い出も、私のことも、彼女のことも。
そして、そこで全てを終わらせようと思った。
私は最後の最後まで我がままで、最後の最後まで彼女の運命を弄ぶ。
だって、彼女の体も手に入れようとしてしまったから。

471D-R:2004/05/06(木) 18:19
最後の夜。
私は彼女に睡眠薬を飲ませていた。
紅茶に混ぜた私の欲望。

欲しいの、あなたが。
感じたいの、あなたで。
聞いて欲しい。
私の声を、私の言葉を。
歪んだ愛情。
これを愛情と呼んでいいのかは分からないが、私は、彼女が以前よりももっと欲しかった。
そして全てを見たかった。

ボタン一つ外す行為ですら私の体は震えた。
沢山聞いて欲しいことがあった。
もっと、もっと彼女を見つめながら話したいことがあった。
彼女を包み込んでいた布を全て取り去っると露になった自分とは違う肌の色。
白く、そして美しい肌。
それは彼女に恋をする前に見た時よりも、もっと、美しく見えた。

472D-R:2004/05/06(木) 18:20
自分の服を脱ぐという行為にさえ、私の指は震えていた。
一枚服を脱ぐごとに、彼女に愛されているという錯角に落ちた。
体が熱くなっていくことを感じ、彼女の唇をなぞった指で自分の唇をなぞるだけで私は欲情した。
ここまで欲しくなるのはDのせいなのか。
それとも、ただ、私が彼女を欲しいのか。
分からない。
でも、私は欲しかった。
そして、もっと、聞いて欲しかった。

彼女の体を仰向けにし、その上に自分の体を重ねた。
少し冷えた体と体。
密着した部分から彼女の温もりが流れてきた。
胸に耳を当てたら聞こえる心臓の鼓動。
生きている証。
耳を胸に当てたまま、私は沢山のことを彼女に話した。

473D-R:2004/05/06(木) 18:20
───死んじゃったらさ、意識ってどうなっちゃうんだろうね。
Dに飲み込まれること、それって意識を失うことなのかね。
だったら、死んじゃうってことなのかね。
そんなんじゃ『生きてる』なんて言えないよね。

昔ね、死んだらどうなっちゃうんだろうって考えたら眠れなくなっちゃったことがあったんだ。
このまま眠って、目を覚まさなかったら私どうなっちゃうんだろうって。
怖かった。すごく怖かった。
想像なんてしても想像出来なくて、ともかく怖かった。
今もね、考えると怖いの。
すごい、怖いの。
でもね、あなたと一緒なら、大丈夫だと思うの。
今なら、そう、言える。
思うだけで、少しは怖くなくなるんだよ。
一緒になんかいれるはずないのにね。
でも、思えば、そう、思えば、ちょっとは怖くなくなるんだ。


ねぇ、あなたは私を抱いてくれる?
私のこと、愛してくれる?
私のこと、ずっと、ずっと見ててくれる?
こんな私だけど、愛してくれる?
今だけ、愛してくれる?───

474D-R:2004/05/06(木) 18:21
尽きることのない言葉。
生まれては吐き出され、私の息が彼女の胸を駆け抜けた。
言葉のない返事を胸の鼓動で確かめ、そっと指を腹や胸や鎖骨や頬に滑らせた。
口元から規則的にくり返される呼吸を指で感じ、同じように唇でも感じた。

475D-R:2004/05/06(木) 18:22
───自分が人から愛されるような人間じゃない。
そう、分かってる。
それでもいい。
今だけでいい。
全て忘れられる程にあなたが欲しくて、私を愛して欲しいの。
そう、今だけでいいから───

476D-R:2004/05/06(木) 18:23
薄く開いた唇から舌を入れて彼女の中の熱さを知った。
触れた唇の温かさや、触れた頬の柔らかさを知った。
唇でなぞる全ての部分が愛おしくて、全部、私だけのものにしたかった。
他の人が触れたことがあると思うだけでも食い千切りたくなった。

白い肌に指を這わせ、胸の先端を口で含んで舌で転がした。
固くなるのが嬉しくて、愛のない愛を感じた。

私は体中を愛した。
口付けしてない場所なんてないくらいに夢中で彼女に唇と舌を這わせた。
食べて一つに溶けてしまいたい。
お互いを縛るモノを全てなくし、彼女と溶け合ってしまいたかった。

Dが私ならよかった。
私が彼女の中に溶けていればよかった。
彼女を取り込み、私が彼女に、彼女が私になる。
自分で自分を愛し、自分で彼女を愛し、彼女に私は愛さあれる。
背中が溶けてしまう程に熱く、私の胸を焦がす程に熱く。
この指が彼女の指になり、彼女の指が私の指に変わる。

渡したくない。
彼女をDなんかに。
失わせたくない、彼女を他の何かに。

477D-R:2004/05/06(木) 18:24
私は独占欲の固まりだ。
駄々をこねて欲しがる子供。
同じようなモノを持つ体。
同じ所を同じ部分に重ね合わせれ私は彼女と解け合えるだろうか。
そう思って重ねた体。
胸、足、腕、唇。
重ねた所から快感が走り抜け、私から理性という言葉が抜け落ちていった。

下手くそな愛撫よりも感じる彼女の指。
こんなやり方間違っているって分かっていても、私は彼女を求め続けた。
荒くなった息。
背中を伝う汗。
全て、彼女に捧げるもの。
今だけ、愛されてると実感できていた証拠。

…違うのは分かってる。
なのに、彼女の肌触れている時間、私は私だけの世界から抜けだせていた。
終わった後のこの激しい胸の痛み。
私は最悪の状況をつくり出し、彼女を辱め、そして彼女の肌に触れた。

478D-R:2004/05/06(木) 18:25
最後の夜。
残りわずかな時計の命は、私が彼女の唇に唇で触れている間にその時を止めた。
永遠のカタチにもならない動きを、その時に刻み込んだ。

終わってしまえ、何もかも。
終わらせてしまえ、私自身も。

降り出した雨を見つめながら、私は彼女の手に自分の手を重ねてみた。
その手は、やっぱり熱すぎた。

479D-R:2004/05/06(木) 18:26
───愛されるような人間ではない私が愛した彼女。
私の記憶に残る優しい風が吹く場所。
最後の時を過ごそうと決めた場所。
ここで全てを終わらせよう。
彼女に全てを知ってもらおう。
そして、選んでもらおう。
どこまでも私は彼女の歯車を狂わせ続けた。
最後の、最後まで───

480D-R:2004/05/06(木) 18:27
まっすぐなひとみは語る程にその姿を隠すことが多くなった。
Dの激しい侵食。
時間のない時間。
彼女は混乱をし、そして私も今まで言葉となって外に出ていくことのなかった感情が溢れ、
彼女と同じように、いや、彼女以上に私が私を管理出来なくなった。

溢れる言葉は止まることを知らず、私は止め方を知らない。
吐き出される想い、彼女の愛を知っていながらに否定をし、そして愛を求めてた。
冷静でいられなくなる私とは反対に、彼女はどんどんと落ち着きを取り戻しているようだった。
そのひとみは私を捕らえ、そして私から最後の鍵を簡単に取り上げた。
転がるように落ちていった私。
Dが私の体を犯していくのに気付いていた。
なのに、止められなかった。
私は、その吐き出しているその時、今までにない幸福感を感じていた。

481D-R:2004/05/06(木) 18:28
彼女の運命を全て狂わせた私。
そんな私なのに、最後の最後まで彼女の運命を弄んでしまった私なのに、
彼女は私から目を反らすことなく、むしろ無ではない目で私を見ていてくれた。
私という人物を見てくれて、私というカタチを見てくれる。
向けられている視線は私だけのもの。
こんな私なのに、見てくれている。
涙が流れた。
彼女を見て、涙が流れた。
もう独りでいることにおびえないでいいって分かったから。
この人なら側にいてくれるって分かったから。
そして昨日の夜のことを思い出し、私は涙を流し続けた。

482D-R:2004/05/06(木) 18:29
戻れない時。
止められなかった自分。
ほんの少しの勇気も持たず、ただ自分を守り続け、相手を傷つけ続けた。
なのに、彼女は答えてくれた。
私に、答えを教えてくれた。
夕べ、私が犯した罪を知らずに自分の手を打ち抜き、短い一生を選んでくれた。
私といることを選んでくれた。

重なる罪の意識。
戻れない時と、戻れない私。
答えを探し出せない私に手を差し伸べてくれて、同じように引き金を弾いてくれた。

痛みは感じなかった。
これがDというものなのか。
それとも、私がもう麻痺をしてしまっていたんだろうか。
流れる赤と、砕け、流れてしまった破片。
戻れない時を選択し、血を混ぜ合わせるようにして掴んでくれた手。
彼女との融合。
体でも、心でもなく、血の融合。
掴んだ手から流れてくる熱さは私に熱をくれ、包み込まれて感じた頬の熱さが私の涙と溶け合った。

483D-R:2004/05/06(木) 18:30
『私から、はなれないで』

こんな言葉を使うなんて思ってなかった。
自然と出てきた言葉。
Dの消えた私から出た私の言葉。
彼女は泣いた。
そして彼女は笑った。
濡れた手を掴み、私をこのまま連れ去っていく。
何処まで進めるかなんて分からないまま、幼い私達は進んでいく。
繋いだ手の熱さ、それを知り、それを幸福と感じなから。

484D-R:2004/05/06(木) 18:31
***

あの日、降り続く雨の音と風の音と共に辺りを支配した音と叫び声。
はじまりは私達のはじまりだけではなかった。
私は、愛されていた。

ずっとお父様は私のことを憎んでいるのだと思っていた。
ずっと、ずっと私は愛されていないと思っていた。
全て、それが間違いだなんて気付かずに。

逃げるように、隠れるようにしていた私達のもとに届いた私宛の手紙。
見なれた文字で綴られた言葉。
私はその手紙を抱きしめて涙を流し、長い年月、間違いを犯し続けていたことを悔やんだ。

お父様は私達の為に初めてお爺さまに逆らってくれた。
身寄りのないお父様を引き取ってくれたお爺様。
私はお父様がお爺様に逆らったところなんて一度も見たことがなかった。
それが家では当たり前で、他の答えというのは存在しなんだと思っていた。

485D-R:2004/05/06(木) 18:32
私の写真をずっと大切に持っていてくれたなんて知らなかった。
私を殺せと言ったのはお父様じゃなかった。
私の為に涙を流し、私の為に今までの生活を捨てたことも知らなかった。
お母様がずっと泣いていたことも知らなかった。
何も書かれていなかった弟のことは、今でも分からない。
それがお父様達の優しさだったのかどうかは分からないが、私は消えない罪を一生背負っていく。
そう、そうしなければいけないと思う。

私は何処までも子供で、結局は何も分かってなかった。
見ようとしていなかったのは私の方だった。
ちゃんと、真直ぐと見ていなかったのは私だったんだ。
最後に書かれた一つの言葉。
それは私がお父様とお母様の子供だったという証拠。

もう戻れないあの部屋。
もう戻れないあの家。
消えてしまった空間に、今は緑の草がはえている。
暗く閉まりきった扉は砂となって消え、いつかここにはまた誰かが何かを築くのだろう。
それは私ではない誰かで、彼女ではない誰か。
いつの間にか熱くなっていた私の手は彼女と握られ、そしていつかは消えていくのだろう。

486D-R:2004/05/06(木) 18:33
起きた奇跡は一つじゃなかった。
だからこうして私は彼女と生きていられる。
残っていた破片。
Dは私、Dは彼女。
残った破片は私達に生きる力を残してくれた。
私はD、彼女はD。
同じDを持ち、違うからだを持つ。

残された時間なんて分からない。
それでも私は彼女を選ぶ。
あの時、私が犯した罪を受け入れてくれ、そして、愛してくれた彼女と共に。

487D-R:2004/05/06(木) 18:34
***

「…梨華ちゃん?」

だからこの言葉はあなただけにあげる。

「どうしたの?難しい顔して」

この体も、全部、全部あなただけにあげる。
私を、全部あげる。

「ん、ちょっと、昔のこと思い出してた」


そして私は生きる。
『幸せになる為に生きている』
こう教えてくれた彼女と一緒に。
ずっと、ずっと、どんなカタチになろうと、生きていく。
いつかは消えてしまうものでも、私は生きていく。
これがあなたの幸せに繋がっていくのなら。
それが、私の幸せだから。

488D-R:2004/05/06(木) 18:34
***

489D-R:2004/05/06(木) 18:35
***

490D-R:2004/05/06(木) 18:36
***

491D-R:2004/05/06(木) 18:36
***

492D-R:2004/05/06(木) 18:37
***

493D-R:2004/05/06(木) 18:37
***

494D-R:2004/05/06(木) 18:37
***

495匿名匿名希望:2004/05/06(木) 18:45
更新しました。
そして今回で『D』は全て終了です。
読んで下さった皆様、本当に本当にどうもありがとうございました。


>JUNIOR 様
生まれたてほやほやで更新しちゃいました。
勢いがないといつまでも更新しない気がてしまったので(苦笑)
最後の直線、全力ダッシュをしてしまい、気付けばゴールテープをきっていました。
レス、本当にありがとうございました。

496JUNIOR:2004/05/06(木) 23:54
完結お疲れ様です。
とてもとても(・∀・)イイ!話でした。
ゴールテープを切っていましたか・・・・・・・。
それはそれで良い記録が生まれたと思います。
飼育でも頑張ってください。

497名無し(0´〜`0):2004/05/07(金) 01:07
感 動 し ま す た。

完結お疲れ様でした。


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