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暫定保管スレ【第105話61レス以降 作品・保全ネタ】

1名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:45:52
現状「暫定保管庫(まとめ3)が停止している為一時的に第105話61スレ以降のに投稿された作品・保全ネタ掲載していきます
投稿された順に書き込んでいきますのでかなり読み辛いかとは思いますがご了承ください
いつか暫定保管庫が復活する日が来ることを信じて・・・

2名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:51:17
【第105話61レス以降】

期間
2015/06/04(木) 17:09 〜 2015/06/22(月) 16:49 337レス

3名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:53:00
「3名様、禁煙席ご案内です!!」
女性スタッフの明るく元気な声が響く店内
「たまにはこういうチェーン店も悪くないやろ?」
光井は空いたグラスをドリンクバーで横に並ぶ鈴木に渡しながら、優しく声をかける
「フフフ、なんだか楽しいんだろうね」
テーブルには先に席に通され、腰を下ろした飯窪の姿

「よいしょっと。さて、今日は二人ともお疲れ様やったな
 無事に帰ってきたことに乾杯!!」
光井がグラスをかかげると鈴木も満面の笑みで乾杯と続いたが、飯窪はかぼそい小さな声だった。
鈴木は一気に飲み干し、カランと氷がグラスの淵にあたり陽気な音を奏でた
「ふわぁ〜おいしかった!光井さん、料理も頼んでいいですか?」
「もちろんええで、がんばったったしな、二人とも。
いつもどおりにポテトとシーザーサラダ、そやな・・・飯窪もおるし、ピザも追加するわ」
テーブル端に置かれたボタンに手を伸ばそうとするが飯窪の反応がないことに気づき、顔を覗き込んだ

「なんや?飯窪?遠慮なんてせんでええんやで。
鞘師なんて愛佳と二人で食事いったとき、遠慮せんでバクバクたべて、愛佳の心臓がバクバクなったことあったんや」
「い、いえそうではないんですが・・・今日のことがあってどうしても元気にはなれなくて」
飯窪の言わんとすることは当然―今日のこと、亀井の襲撃についてだ
「私、何もできませんでした」
飯窪も鈴木も逃げることしかできなかった

「リゾナンターなのに逃げるのが精いっぱいでした、頑張ってなんかいないんです」
飯窪は俯いたまま、鈴木が後を受けるように語りだす
「もちろん、経験の差があるっていうのはわかってるんです。
 でも、私達だってそれなりに経験を積んできた、つもりでした。だからこそ・・・悔しくて」
光井はグラスを手に取り、何も言わずに喉を潤す
「もちろん私の力が戦いに向いていないことは私自身が一番分かっていますよ。
 感覚を繋ぐことで仲間のサポートに徹することしかできませんし・・・
 運動神経だって普通、いや普通以下なんですよね、リゾナンターなのに」

4名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:54:02
『感覚共有』、それが飯窪の能力
5感、即ち触覚、視覚、嗅覚、味覚、聴覚を対象間で共有させる能力でたる
自分が視たものを相手の視覚として重ねたり、相手が感じた臭いを自分でも感じられるようになる力
当然のことながら肉体的ダメージを相手に与えることなどできない

「ペットボトルのふたを開けられないくらいの力しか私はないんですよ
 普通の女の子、くらいの腕力しかなくて、足も遅くて、跳び箱も人並みにしか跳べません
 性格だって鞘師さんやあゆみんみたいに強気ではありませんし、頭だって勉強ができるわけでもないんです
 こんな自分だから、できないのが嫌でせめて個性だけでも磨いてきたつもりでした、でも何もできなくて」
「ここまではるなんが悔しいって感情を出すの珍しいね」
「そうなん?」
「はい、はるなんは道重さんの次に上だからですかね?あまり香音たちに弱音を吐かないんですよ
 ・・・まあ、陰では道重さんに相談しているのは知っているんですけど」
「!! どうして鈴木さん、知っているんですか?」
鈴木がにやにやと白い歯をのぞかせて笑った
「だってまさきちゃんが見たっていうんだもん、あの子は隠し事できないんだろうね」

そこにウエイトレスがサラダを持ってきた
鈴木は笑顔でありがとう、といって取り皿に均等にサラダを取り分け始めた。
「はるなんには言ったことなかったけど、時々私はこうやって光井さんに相談してるんだ」
「そうなんですか」
「うん、ほら、私だって里保ちゃんみたいに強くないし、生田みたいに我も強くないからさ。
 聖ちゃんのように前から体を鍛えていたってこともないし、普通にやってもおいてかれちゃうんだよね
 同じときに出会ったのにスタートが違うんだよ。でも、それは悔しくなかったし、むしろみんなが強くて誇らしかった」
半熟卵を器用に崩し、フォークでそれぞれの皿に移す
「だから、みんなに近づきたくて『透過能力』をどうすればいいのか、って光井さんに相談していたんだ
 水限定念動力とか精神破壊に比べて地味、というかどうすればいいのかわからなかったから」
鈴木はフォークの柄をつかみ、飯窪の目の高さに掲げた

5名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:55:00
「始めは香音だって自分の意思で好きなように透過させることもできなかったんだよ
 だから、失敗ばかりで怪我ばかりして、道重さんのお世話になってばっかりだったし。
 ほら、香音だって運動神経よくないじゃん。でも、いろいろと光井さんに特訓に付き合ってもらって」
そこまでいい、フォークを自分の左手の甲めがけて思いっきり振り下ろした
何も知らない周囲の目があったら、狂気としか思えないその行動だが、飯窪は動かなかった
だって、大丈夫だと信じていたから
「おかげで、ほらこんなこともできる」
フォークが左手を突き抜け、柄の部分が手の甲に、端が掌からとびぬけた

「もともと鈴木の力は不完全やった。ただ、『すりぬける』だけの能力
 それだけでも愛佳は十分やとおもっとったけどな。攪乱や潜入にはもってこいやからな。
 前線におるんがすべてではない、と何回も諭したんやけどな」
光井は鈴木の左手を通り抜けているフォークをつかんだ
「鈴木は自分から、力をつけたい、戦いたいっていうてきたんや
 今でも覚えているで、『りほちゃんのためにも強くなりたい』って泣きながらきたんや」

「そ、そうでしたっけ?」
「なに、とぼけとるんや?鞘師が大怪我して腰痛めて動けなくなって、それでもあきらめなかった姿をみて感化されたやろ?
 フクちゃんと生田と鞘師との4人での何回目かの戦闘でな。なんとか愛ちゃんが間にあったけど、4人ともぼろ雑巾や」
そのときの話を飯窪はしっかりと知らない。4人の誰に聞いても、曖昧にはぐらかされてしまうのだ
その話を当然のように口にしない・・・それほどそのときのことは4人にとって悔しかったはず

「道重さんはまあ、なんというか、当然、いうたらあかんけど、鞘師を一番に治しはったわ
 そんなときでも自分を見失わへん、いうのもすごいなあ」
光井は笑った。
「ハハハ・・・そ、そうですね」
飯窪は笑えなかった。
「ま、あのときの負けっぷりも今日のに近いやろなあ」
「・・・今日はあのときよりもひどいかもしれないです、光井さん
 でも、あの負けがあるから香音は強くなれたんですから、必要な経験でしたよ」
「そやな」

6名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:55:33
思いっきりフォークを引き抜いた
抵抗なくフォークは鈴木の体を通りぬけた。

「あの日から訓練して、香音は『透過能力』を自分の意思で完全にコントロールできるようになったんだ、はるなん
『通り抜けるもの』と『通り抜けられないもの』を選ぶこともできるから、透過能力で戦えるようになったし」

応用として、銃弾をすり抜け、相手の体だけすり抜けられないようにして、全体重をかけてタックルをかける
地面に潜り、足元に手を伸ばし、敵の陣形を崩す
「今の香音ならそれなりに戦えると思う。」
そして・・・誰にも話していない透過の可能性を鈴木はみつめるようになった

ただ、と光井はポテトをつまみながらつぶやいた
「ま、その分、失った部分はあるんやけどな」
そしてコーヒーを飲み、サラダを引き寄せ、何かに気づいたのか、壁側に少し動いた
「どういうことですか?」
「なんも、言葉のまんまや。鈴木の透過能力は『無意識に』『完全に』『なんでも』通りぬけることができた
 せやけど、訓練することで『頭で認識』してからでないと通り抜けられなくなった
 そこには『意識』するという発動までのタイムラグが生じることになった。せやから」

ガシャーーーン  「冷たいっっっ」

「とっさの出来事に反応できなくなってしまった」
ウエイトレスが転び、お盆に乗っていたグラスがこぼれ、鈴木のスカートの上にこぼれてしまった
すみません、すみません、といいながらあわててほかのウエイトレスがおしぼりを奥からとってくる

「昔やったら危険を察知した瞬間に力が発動されて、なにもおきへんかったやろうな」
「・・・いま、光井さん、予知して、逃げましたよね」
「そなの?ごめん」
妙にあっけらかんとした物言いで悪びれた様子もない

7名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:56:22
「それならば、光井さんはいつ、予知されたんですか?」
飯窪はそうたずねながら、濡れた鈴木のかばんを拭いている
「!! 確かに、そうなんだろうね。今の話だと矛盾していますよ、光井さん
香音の透過にタイムラグが生じるのならば、予知能力にも起こってもおかしくないんだろうね
 時間が何時何秒なんてわからないんだから、対応できないことだってあるんじゃないんですか?」
おしぼりでテーブルを拭きながら光井は顔を上げずに答える
「まあ、もちろん、何時何分おこるわかっとるものもあるけど、そうじゃないものが大半やな
 せやけど、何が起こっても大丈夫なように備えるだけや。予知能力の本質を知っとるか?」
「え?未来をみること、ではないんですか?」
「そや、それだけや。未来をみるだけ、変えたりする力はあらへん
 よく、未来は変えられるいうけど、それは正しくもあり、まちがいでもある」
「??」

「例えば列車の脱線事故、これを愛かが見たとする。それもいつの何時何分までわかっとる
 せやけど、それを現実におこさせんようにすることができるか。
 できへんことはない。せやけどそのためにとても時間がかかる
 所詮、愛佳はほぼ自分の行動しか変えられへん。事故を未然に防ぐようなことはほとんどできへんやろ
 結局、事故は起こる、せやけど愛かはその列車に乗らんことで、事故にあうことは防げる」
「それって」
「残酷なことや。たくさんの人が不幸な目にあうことわかっとっても、変えられへん
 できることはしてるで。せやけど、何も知らん人がいきなり『おたくの電車を調べてください』なんていわれて信じるか?
 まともな人間なら取り合ってくれへんやろうな、きっと。いたずらやろうって
 下手したら愛佳を犯人なんやろって疑うこともあるかもしれへん。とにかく、能力は万能やない
 何もできへんことやってある。せやから今日の二人が何もできへんからって凹む必要はあらへん」

その言葉に飯窪は救われた気がした。
何かしなくてはならない、チームの一人として果たさなくてはならない役割を考えていた
知らず知らずに自分に枷をはめてしまったのかもしれない
それを知ってかしらずか、光井は淡々と語る

8名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:57:06
「できることなんてほんの一握りしかあらへん。努力してもできへんもんはできんやろ
 せやけど、それでも努力することだけでも大事やと思うで
 練習せえへんでできへんことと練習してもできへんことは意味が違う、わかるやろ?」
「一回みたものはほぼ完ぺきにしないといけない、ですね」
「そや、ちゃんと練習してきたん?」
今日初めて3人とも笑い出した

「アハハ、そ、そういえば、光井さん、リンリンさんとジュンジュンさんに初めてお会いしたんですけど、お二人とも強いですね
 リンリンさんの中国拳法と炎のコンビネーション、ジュンジュンさんのパワーとスピード
 あの二人が光井さんと一緒に戦っていた仲間なんですよね」
「そや、リゾナントにきたんは愛佳がすこしだけ先やったけど、ほぼ同じくらいに仲間になったんや
 始めはぜんぜん反りもあわんくて、特にジュンジュンとは喧嘩してたな〜懐かしいわ」
過去を思い出し、光井がほんのりと笑う
「ジュンジュンさんと喧嘩とか香音からすると怖くてできないんだろうね」
「そうでもないで。べつに誰とでも正面からぶつかってきたんや
 愛ちゃんとだって愛か喧嘩したことあるし、田中さんとも・・・田中さんとはないかな」
ポテトに手を伸ばす

「喧嘩いうても手が出るわけでもあらへんし、まあ子供の喧嘩みたいなもんやな
 言いたい事言い合えるくらいやないと、パートナーとして信頼できへん、そう愛佳はおもっとる
 せやから、鈴木が生田とぶつかったり、佐藤が、特に工藤とぶつかっていることは心配してへん
 それは成長するために必要なことやから。自分を否定され、他人から攻撃される。
 人格形成の時期やから、刺激は多ければ多いほどがええ
 今日が昨日と同じ、そんなことはありえへん。気づかんうちに変わってるんや、良い方にも悪いほうにもな」
最後の部分はあえて聞こえないように小さな声でつぶやいたことを二人は知らない

「二人とも仲間を大切にしたほうがええで」
「「はい」」

9名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:57:56
「そういえばはるなん、なんで今日は自分からここに来たいっていったんだろうね?」
「え?あ、ああ、そういえばそうでしたね、私からお願いしたんでしたね
 でも、もう答えはでました。ありがとうございました、光井さん」
「ん?別に愛佳は何もしてへんで」
なにもわからない鈴木を残し、光井は思わせぶりに笑う

「せやけど、不要かもしれへんけど、もうひとつアドバイスや、飯窪。ほんまに聴きたかったんはこれやろ?
 愛佳がさっき言い切った、『愛佳なら鞘師に勝てる』の意味を」
「・・・気づいていましたか」
「当然や、鞘師も知りたいようやったけどな。あの時グラスが揺れたから、ショックやったんやろうな
 自信家の鞘師にしてみたら、先輩とはいえ非戦闘員の愛佳に負けるとは思うてへんやろうからな、失礼やけどな」
里保ちゃんらしいな、と鈴木は心の中で思う。

「鞘師は強い。それは認める。普通に戦ったら、強さだけなら今のリゾナンターで1,2を争っても仕方ない
 ただ、それはあくまでも普通に戦った場合にかぎる」
自身の頭をコツコツと叩いて見せる
「普通なら、や。幸いにも愛佳には未来が視えるときがある。
 自分に有利な場、状況を作ることがある程度はできるんや。
 それが愛佳の能力の『長所』になる。それを使わんのは勿体無いやろ?
 なあ、飯窪、その『感覚共有』、5感をつなぐ力やろ?視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を同じように感じさせる」
「は、はい」
「飯窪、それだけの感覚を支配できるっちゅうことやろ?愛佳なら・・・」


ガチャーーーーン

またウエイトレスが転んだようだ

「ゴメンナサーーーーイ」

10名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:58:38
★★★★★★

笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う

わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、

warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau

waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru

わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる

悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪

さあ、笑おう、悪とともに。キャハハハハハハハ・・・・

・・・カナ★

11名無しリゾナント:2015/12/22(火) 20:59:58
>>3-10
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(10)

12名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:01:30


一方的な殺戮。
一言で表すなら、それがもっとも相応しかった。
圧倒的な生命力と、身体能力。そして、本能のままに行動する狂暴性。
しかし科学の作り出した歪な命たちは、能力者たちの前に全くの無力だった。

「うおおおっ!!!」

「戦獣」の頭上に落とされる、鋼鉄よりも硬い両拳。
須藤茉麻の一撃が、鍛え上げられた獣を叩き潰す。まさに必殺。

その一方、徳永千奈美の見せた幻術により自分たちが断崖絶壁の縁にいると勘違いした獣たち。
必死の思いで深淵とは真逆へと逃げたつもりが、ある獣は骨まで焼き尽くされ、ある獣は芯まで凍
てつかされる。

「…大したことないね。『戦獣』も」
「ほんと」

退屈だとばかりにぼやく、炎の使い手である夏焼雅と、氷の剣士菅谷梨沙子。
その向こうでは、熊井友理奈が戯れに戦獣を浮かび上がらせ、地面に叩きつける。
浮力と、その後の超重力によって哀れな獣はお好み焼きのように体を潰して絶命した。

13名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:02:10
「二人とも、そんなんじゃ新人たちに示しがつかないよ」

有沙が、敷地の隅のほうで奮戦する一団を指す。
彼女たちは「ジュースジュース」、今回の討伐団の中で一際若いグループだ。

戦場で派手に踊る、赤と黒。
しかしその戦果は思ったほどでもなく。
頼りなさげなリーダーが指揮を執るも、効率がいいとは決して言えない。
猿のような金切り声をあげて、喧嘩を始める二人組。また、別の二人も何やら様子が変だ。よく見ると、片方が
もう片方の尻を蹴り上げ、高らかに笑っている。

「…新人としても、ひどくない?」
「まるで幼稚園ね」

あきれ返る、「サトリ」こと恵里菜。
初陣なのだろうか。そのたどたどしさが、ますます先輩組の凄さ、手際のよさを際立たせる。

「しかし不意打ちを狙ったとは言え、立ち塞がる壁がワンコロちゃんだけなんて。拍子抜け」

ベリキュー無双、とも言うべきワンサイドゲームを眺めるのも飽きたのか、空に向かって大あくびをかます友。
その口の動きが、時を止められたかのように止まった。
空が、割れたのだ。

ひび割れた青空からゆっくりと姿を現す、黄金の女性。
黄金と言っても、髪の色だけだが、彼女の姿を見たものは大抵。
その輝きを目に焼き付けながら、息絶える。

14名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:03:03
「やっぱ裕ちゃんの能力借りてた時のほうが楽だったなー。『ゲート』疲れるし」

ひとりの女が現れただけだというのに、場の空気はまるで変えられてしまっていた。
金色の闇が、覆い尽くしている。
ここにいる全員の喉元に刃が既に突きつけられているような。
自分が死ぬかもしれないというリアルな現実が、そこにあった。

「…『黒翼の悪魔』。行方不明だって聞いたけど」

清水佐紀は、ぱたぱたと翼をはためかせ宙に浮く魔人を見上げながら、苦く笑む。
戦慄。それは他のベリキューの面々の表情を見ても明らかだった。

そんな中、頭の悪そうな、いや怖いもの知らずの舞と千聖が。

「は?何あんなのにびびってんの?うける。まじうける」
「つーかさ、あのきもい羽ぶち抜いたら終わりじゃん。『悪魔』ぶっ殺したとか、すげー功績になるし」

恐いもの知らずと言えば聞こえはいいが、無鉄砲にも思えるその発言。
しかし言葉の次からの行動は、早かった。
半獣化した舞の背に跨った千聖が、空中に浮かぶ「黒翼の悪魔」目がけて念動弾を放つ。
尋常でない数の弾が、集中砲火という形で襲い掛かった。

やる気のなさそうな顔をして、ふわりふわりとそれを避け続ける悪魔。
しかしその動きは、緩い割に正確。つまり、少しも被弾してはいない。

15名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:03:50
「生意気なやつだなー。ちょっとくらい当たれっての」
「ま、うちらの本領発揮はこれからっしょ」

狂暴な角をひと振るい。
まるで駿馬のように、舞が雄大なストライドで駆け出す。

それを見た梨沙子が、氷の刀を一振りした。
千聖たちの目の前に現れた氷の階段、大きく螺旋を描きながら、羽ばたく悪魔のもとへと伸びてゆく。

「ん…」
「そのとぼけたツラ、すぐに青ざめさせてやるよ!!」

大量の弾幕を張りつつ、一気に階段を駆け昇る千聖と舞。
その先には、「黒翼の悪魔」が待ち受ける。

ふと、舞の腰のあたりに何かが乗っている感覚。
見ると、梨沙子が絶妙なバランスで立っていた。

「ちょ、りーちゃん!」
「階段だけ作らせるなんて、虫のいい話」
「梨沙子が乗ったら、舞の腰折れちゃう!!」

と言いつつも、見た目ほどの負荷はなく。
二人と一頭、ベリキュー連合軍がダークネス最強の喉元に刃を突きつけようとしていた。

舞の剛き角がいくつも枝分かれして、悪魔の周囲を取り囲む。
その隙間を縫うように、千聖がありったけの銃弾をばら撒いた。

16名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:04:47
ど派手な包囲網。
苦笑する「黒翼の悪魔」の頭上が、暗くなる。
氷の刃を携えた、梨沙子だった。

「…剣士、か」
「もらった!!」

弓なりに跳躍した梨沙子が、「黒翼の悪魔」を一刀両断しようと、刀を上段に構える。
防御の間に合わない、絶好の攻撃タイミング。誰の目からしても、そうとしか見えなかった。

「うそ…太刀筋が見えな…」

鮮血。
空に赤い花を咲かせたのは、梨沙子のほうだった。
力を失い、ゆっくりと崩れるように墜ちてゆく。

袈裟懸けに斬られた梨沙子、悪魔の握る黒身の長刀は彼女の血でぬらりと濡れていた。
鍔迫り合いさえ許さない、圧倒的実力差の前に。
呆気に取られる千聖と舞もまた、黒血の魔刀からは逃れられない。

張り巡らせた鹿角の包囲網は、一瞬にしてばらばらに切り落とされ。
あっという間に間合いを縮めた悪魔は、彼女たちを攻撃の射程圏に入れてしまう。

ひゅん、という軽い音が二人の耳に届いたその瞬間には。
全てが終わっていた。

17名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:05:38
「舞!千聖!!」

舞美が、叫ぶ。
悪魔の羽が貫いた二人は、梨沙子を追うように大地へと吸い込まれようとしていた。

「黒翼の悪魔」が翼を畳み、落ちてゆく三人を追うように急降下。
止めを刺すつもりなのだ。しかし、それを阻むは強靭な肉体。

「させないよっ!!」

友理奈の浮力によって、大空高く舞い上がった巨体。
茉麻は「黒翼の悪魔」をその両腕でがっちりとホールドする。

顔色一つ変えない悪魔。
試しに、黒い刀身を二度、三度打ち付けるも、茉麻の体には傷ひとつついていない。

「…『よろしくおねがいします。受かったらゆいたいです』なんて言ってた子が大きくなったねえ。ち
ょっと大きくなり過ぎだけど」
「はぁ?あんたなんかに会った覚えは…!!」

訝る茉麻の脳裏に、突如として甦る記憶。
彼女たち「キッズ」が生を受けてすぐのこと。幼い顔立ちを固くして、横一列に並ぶ子供たち。
その初々しい様子を慈しむように、金髪の少女が眠そうな顔で、目を細めていた。

懐かしき思い出は、断ち切られた両腕とともに。
剛体化した茉麻をあっさりと斬り伏せた悪魔は、次の標的を求めてついに地上へと降り立った。

18名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:06:20
瞬く間に、四人がやられた。
その事実が、この場にいる全員に重くのしかかる。
忍び寄る死の影が、死の吐息が、すぐそこまで来ていた。
本当にここから、生きて帰ることはできるのか。

ゆっくりと、集団に近づく「黒翼の悪魔」。
そんな彼女の体が、びくっと痙攣した。腹のあたりからは、輝く切っ先が。
翼と翼の真ん中、ちょうど腰に当たる部分を背後から貫くものがいた。

「この瞬間を、待っていた」

暗殺。
エッグでも有数の使い手である北原沙弥香。
彼女は、悪魔に気配すら悟られることなく、凶刃を突き立てる。

「ありゃ。気を抜きすぎたかな」

けれど、「黒翼の悪魔」は止まらない。
何もなかったように手に収まる黒刀を握りしめたかと思うと。
背後の沙弥香の腹を、寸分の狂いもなく突き刺し返す。

「がはっ!!」
「よいしょっと」

それでも得物を握りしめ離さない沙弥香、「黒翼の悪魔」は虫でも払うかのように。
持ち手を、蹴飛ばす。何度も。何度も。
重くへし折れる、嫌な音。ぐにゃぐにゃになった両腕が、力なく垂れ下がった。

19名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:07:04
「おいおい、ちょっとまずいんじゃないのこれ…」

手練れの能力者たちが、まるで赤子扱い。本能では嫌というくらい理解しているのに。
事実に思考が追いつかず、顔を引き攣らせ半笑いの友。

「そうだねえ。じゃ、いっちょあたしが出ますか」
「は?」

ゆっくりと前に出るリーダーの有沙を見て、冗談だろと呟いた。

「エッグ」を結成してずいぶんの長い時が経つけれど。
友は。いや、エッグの誰一人、彼女の能力を見たことがない。
能力的には大したことはないが、統率力のみでリーダーに選ばれたのだ。
口さがなく、そう言い切るものもいたくらいだった。

そんな人間が、自分が出ると言う。
友でなくとも、耳を疑うのも当然の話であった。

一方。
沙弥香の腹筋に刺さった黒刀、しかしそれはなかなか抜けてくれない。
沙弥香が力を振り絞り、筋肉を収縮させているのだ。

「うざいなあ、それ、何の意味があるの?」

刀が封じられても、彼女には鋭い翼がある。
二つの翼が細長く伸び、第二第三の刀として沙弥香を切り刻む。
それでも彼女の強靭な腹筋は力を緩めない。

20名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:07:52
防御の間に合わない、絶好の攻撃タイミング。誰の目からしても、そうとしか見えなかった。

「命と引き換えにしてでも…暗殺を成、功させる…暗殺者とは、そう、いう、ものだ…」

その冷徹な表情をして「Noel(静かな聖夜)」と仇名される沙弥香。
命と引き換えに、の言葉に嘘偽りはなかった。

「うん。立派立派。でもそろそろ終わりにするね」

指揮棒のように、右に左にと沙弥香の体を引き裂いていた翼が、ついに沙弥香の頭上で固定さ
れる。その時だった。悪魔は背後に別の気配を感じ、振り返る。

「…死にたくなければ、邪魔しないほうがいいよ。この子をやったら、ゆっくり相手してあげ
るから」

まるで少女と見紛う小さな体、幼い顔。
「エッグ」のリーダー・能登有沙は、悪魔の警告などものともせずに一歩、また一歩と近づい
てゆく。有沙の瞳には、悪魔の姿は映っていなかった。

「ごとー、そういうの、嫌いだな」

それまで気の抜けていた、悪魔の表情が険しくなる。
まるで特攻隊のような死を恐れない有沙。気に入らない。
命を捨てるのは、愚か者のすることだ。それは悪魔の美学に反する。侮辱とも言えた。
命は、燃やし尽くしてこそ輝くのだから。
その感情は、行動となってダイレクトに現れる。

細く伸びた翼が。
有沙の胸を貫通していた。
一撃。命のやり取りを至高の存在と考える悪魔が取った、侮辱への回答。
あっという間に命を奪われた有沙は、笑っていた。

21名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:08:24
意味のない、自殺行為。
なのに笑っているのは、何故だ。
答えは、自らの体の異変が教えてくれた。

ぽろぽろと、風化してゆくように。
有沙の体を貫いていた翼が細かく砕け、風に吹かれて消えてゆく。
それだけではない。沙弥香を刺し貫いていた黒刀さえ、形を維持することができずに崩壊しは
じめていた。

「どうして」
「…それが…あたしの能力だからねぇ」

息も絶え絶えに、有沙が言う。
顔面は既に蒼白、命はまさに尽きかけようとしていたが。

「血の不活性化(イナクティベーション)」。
血に関するあらゆる能力を封じる能力。それは「黒翼の悪魔」の体を駆け巡る黒血も例外では
ない。有沙の発動した能力により、黒血内のナノマシン群は、次々と沈黙していった。

対悪魔に最適とすら言えるこの力。一つだけ欠点があるとすれば。
この能力は、使役者が死亡することで初めて完結するということ。
「エッグ」の誰もが有沙の能力を見たこともないのは、当たり前の話だったのだ。

悪魔が自らの手の平を傷をつけ、血を垂らしてみる。
黒い血は、ゆっくりと軌跡を描いて地面に染みを作るだけだった。

22名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:08:56
「あはっ。結構ピンチかも」

「黒翼の悪魔」に向かって、突進してくる一人の女。
背中に水の竜神を纏った舞美が、悪魔の腹に拳を叩き込む。
ゴムが千切れるような、鈍い音。思い切りくの字に体を曲げた悪魔の頭を、力強い掌が掴み。

金髪が、固いアスファルトに叩きつけられた。

がすん。

何かが砕け散る音。
それは、黒き翼で立ち塞がるものを悉く葬ってきた絶対王者の壁が崩れる音だった。

23名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:10:10
>>12-22
『リゾナンター爻(シャオ)』

24名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:14:09
『XOXO』
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/657.htmlの続きですが
話の流れ的には
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/479.htmlの続きです。

25名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:14:40
「まだ方法はあると思うなぁ」

掲げた腕が冷えきった空間を裂くように振り下ろされようとした時、耳慣れない声が静かに響いた。

「あなたの最高傑作の秘密を明かすことが一番のトリガーだと思うけど」

あさ美の瞳の奥が一瞬、色を変えた。

「秘密?この実験体に秘密などありはしない」
「じゃ、言い方を変えるわ。その子を生み出した経緯と名前の由来、という風に」

声の在処を追って天空を見上げると、そこには漆黒の羽が散らばっていた。

「その子にはアイデンティティが欠けている。何故自分は生を受けたのか、受けなければならなかったのか、という生物の純粋な子孫繁栄のプロセスから外れたクローンだからこそ在るべき絶対的理由が」

白と黒の雑踏の景色の中から、まるでそこにベンチがあるかのように黒翼の天使が空中に腰掛けていた。
何故彼女を天使だと思ったのか、理由はわからない。少なくともここで過ごしていた時代に彼女を見かけたことはない。檻の中という狭い、閉ざされた世界。
しかし、愛の存在は組織内でもトップシークレットであったと里沙から聞いた。事実、愛が見知っている人物は研究員を除き全て組織の重役達で、他に愛が出会ったモノ達は全て愛自身の手で葬り去ってきた。
しかしその中に彼女は居ない。だが彼女はあさ美と同等の情報を持っている。つまり、ダークネスの中でもかなりの精鋭だということ。

だけど。

「今更隠すことも無いんじゃない。あなただって全てを承知した上でしょう」

ふわりと天使が居住まいを正す。
落ちてきた羽を握りしめるあさ美が、ふと表情を緩ませ、また引き締める。

「相変わらずどこから仕入れてきたのか分からない情報通ね、後藤」
「うわさには敏感みたい…昔から」

彼女��後藤にはダークネスの幹部にあるべき殺気が全く無く������むしろ憐れみに満ちていたのだ。

26名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:15:11
やるなら今だ。
そう、全身が告げていた。後藤の登場であさ美の意識は分散している。脳の時間軸も今はいじられていない。
後藤はダークネスだが攻撃は確実に行わない、何故かそう本能で感じていた。絶好機はまさに今だった。

しかし愛の身体は動かなかった。あさ美を倒す、それ以上に、愛の思考は二人の会話に引きつけられていた。
アイデンティティ、追い求め追い求め、追い続けていたもの。
里沙はダークネスに育てられた。ダークネスの組織の中での触れ合いで成長した。
私は。
私はダークネスから生まれ落ちた。怪物と闘わされ、そして捨てられた。
私に母はいない。父もいない。あるのは持って生まれた能力だけ。意味を持つ名前すら無い。
何故つくられたのか、その理由も知らず、そして無言で捨てられた。
高橋愛のアイデンティティは喫茶リゾナント、そしてそこに集う仲間達と一緒にいること。
そして避けられない、i914であること。
ではi914のアイデンティティとは。忌み嫌い心の奥底でずっと押し殺して、だけどずっと欲しかった『i914の存在理由』。

「平方根は知ってる?」
「え?」
「ルート4は2、で有名な数学の基礎よ」

あさ美は舞い落ちる黒羽を見つめながら突如、口を開いた。

「ルート9は3、ルート25は5、ルート169は13」
「二乗したら元の数字に戻るってやつか」
「そう」

後藤は空中に腰掛けながら、変わらずに笑みを浮かべている。

27名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:15:43
「でもさっきの答えじゃマルは貰えない。��3を二乗しても9になるもの。じゃあ��9の平方根はなにかしら」
「…±3i」
「そう、正も負も二乗すると正の数になってしまう。でもそれじゃ困るって考えだされたのが虚数単位のi。虚数、なんて言うけど現代科学は虚数無しじゃ成り立たないわ」
「あたし数学教えてなんて」
「じゃあこの虚数i、なんの頭文字でしょう」

あさ美が漂わせていた視線をようやくこちらに向ける。

「imaginary numberって聞いたこと無い?」
「imaginary…想像上の…数字」

あさ美の目尻にしわが一つ刻まれる。

「次。TOEはさすがに知らないわよね、Theory of Everythingの頭文字でTOE」
「………」
「日本語に訳すとそのまま万物の理論。まだこの理論には誰も行き着いていないけれど、もしこの理論が完成すれば、その名の通りこの世の事象全てを統一的に証明出来るわ」
「……へぇ」
「で、今最もこのTOEに近いと言われている理論がある。それがM理論。もちろんまだまだ未完成」
「M理論……」
「でもこのM理論が完成してTOEが成立したとしても問題がある」
「問題?」

頭上で後藤が一つ息を吐いた。

「ゾンビワールド」
「ゾンビワールド?」
「TOEが完成したとして、それは物理的理論にしか過ぎない。つまりEverythingなのにEverythingを説明していない…感情・意識については抜けちゃっているの。
TOEが説明する世界は物理的法則のみに従う感情の無い人間の世界で、それを哲学者達はゾンビワールドと呼ぶ」

28名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:16:17
そこまで言うとあさ美は一呼吸し、愛から視線を外す。

「……そうね、これが成れの果てとでも言うのかしら」

同意を示すような頭上の柔らかな笑いが純白の世界に降り注ぐ。

「ダークネス創始者は言った。
『私たちは異質で数が少ないというだけで深海に追いやられた悲劇の民。優劣に従い、表層と深海をひっくり返す』と。
しかし数の利というのはいつの時代も圧倒的な力を誇るもの。数の力をもってミツバチが巣に入り込んだスズメバチを蒸し殺すように。
そして彼女も数を求めた。彼女の論理のみに従う感情の無い兵を」

この空間に至るまでに刻んだ亡き者たちの叫びを思い出す。

「感情の無い、やと……みんなどれだけ苦しんどったと……」
「その通り、どれだけ兵器として特化しようとも生物である以上最低限度の心を持ってしまう。つまり万物の理論なんて絵に描いた餅なの。
M理論も、ゾンビワールドも全て仮定のお話、想像上のエトセトラ。まぁ研究課題としては非常に興味深かったし、何より造ったバケモノ達もある程度の役割を果たし、実際組織の体力も増した」

ここからがあなたのお話、そう口にしたあさ美が愛に視線を戻す。

「その日私は自説の論証の最中だった。気配を感じて振り返ったらあの女がいたわ、手に1本の試験管を持って」
「あの女…?」
「女は言った。『この命を使って最高のショーを創りましょう』
私は悦びに全身が震えたわ、生まれて初めて神に感謝すらした。最高の、最高の研究ができる」

29名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:16:49
あさ美は瞳孔を全開にしながら話し続ける。

「能力者のクローンプロジェクトが始まって以来、夢にまでみた理想。
他の追随を許さない、絶対的な能力者の血液を目にして興奮しない科学者がいれば教えてほしい。
ただただ彼女のクローンで終わらせてたまるものですか。より圧倒的な能力者を生み出すことが女との約束でもあったけれど、そんなの当然だわ。
最高傑作以外生まれる訳がないもの、あの遺伝子を用いるのだから。全身の血が滾った状態、不眠不休で研究と実証を重ね、ついにその日はやってきた」

あぁ、身体中が熱い。なのに震えが止まらない。

「9月14日、ヒトのかたちをしたものがようやく現れた。0から有を生み出す言霊の代わりに、全てを無に還す光の能力を携えて」

「……それが……あたし…」

「比肩するものとてない能力、溢れ出る心、現代科学の最高峰の全ての集合体、現実となった想像上の存在。敬意を込めてその名をつけたのよ……i914、と」

追い求めていたはずのアイデンティティ、欠けていた心の中心。
意味のない数字の羅列だったはずのその番号に込められたもの。

想像上の存在、という意味。
この身体に流れる、この血液。

「あなたの血縁上の母は我らの創始者。あなたの存在を生み出したきっかけの母は漆黒の女。私はそれを具現化した」

心が破れる、音がした。

30名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:17:53
>>25-29
『XOXO -Hug and Kiss- (4-e)』

31名無しリゾナント:2015/12/22(火) 21:22:19
【第106話】

期間
2015/06/23(火) 03:00 〜 2015/08/25(火) 00:51 1000レス

32名無しリゾナント:2015/12/23(水) 02:20:26
>>23 の続きです



核シェルター級に厳重な警戒態勢を敷いている、「天使の檻」。
その肝である防護壁が、自動ドアのようにやすやすと、開いてしまう。
つんくが帯同させている二人の能力者のうちの一人・石井の能力によるものだった。

「ここまで来たらもう少しや。調子は…ま、聞かんでもええか」
「……」

石井は。
全身から絶え間なく漏れ出している血によって、体を朱に染めていた。
自らの使役する電流を利用して、防護壁のセキュリティシステムと同期する。つまり自らをカ
ードキー化することで、防衛装置を作動させることなく建物内を通過することができるという
仕組みだ。

ただし、肉体への損傷は計り知れない。
事実、石井の体は限界に達していた。体組織は破壊され、全身からの血が止まらない。免疫系
統が機能停止した何よりの証拠だ。
そんな姿を見ても、つんくは進むことをやめない。まるで最初からこの程度の犠牲は織り込み
済みだと言わんばかりに。

33名無しリゾナント:2015/12/23(水) 02:21:00
不意に、建物全体に轟く地響き。
外での戦闘が激化した合図だろうか。もう一人の能力者である前田が困惑気味に周囲を見渡す。

「紺野のやつ、ジョーカー切りよった」
「ジョーカー?」
「せやけど。切り札は切ったら…しまいや」

つんくの歩みが、止まる。
目の前に、巨大で重厚な防御壁が立ち塞がっていた。

「この先に、『天使』が待ってる。時間的にもぎりぎりやな。頼んだで」
「……」

答える気力もないのだろうか。
石井は床に自らの血を滴らせ、カードリーダーの端末に手を伸ばす。
電気を自在に操る石井の体が一瞬光ったかと思うと、大きく痙攣しはじめた。
口から、目から、いや、体じゅうの穴という穴から。激しい出血が止まらない。石井の体がカ
ードリーダーのセキュリティシステムと融合しようとしている。だが、その代償はあまりにも
大きい。

認証完了の、電子音が静かに鳴り響く。石井は。
そのまま自らが作り出した血の海に崩れ落ちる。
そして、二度と動く事はなかった。

34名無しリゾナント:2015/12/23(水) 02:21:33
石井の亡骸を、見下ろす形のつんく。
文字通り命を賭した部下にかけた言葉は。

「ご苦労さん。さ、前に進もか」
「は、はい」

前田は、改めて自らの上司の非情さを肌で感じる。
石井は自分が使い捨てになることを知っていた。知った上で、忠誠を示すかのように命を散らせ
ていった。それを、ご苦労さんの一言で済ませてしまう。

だが。
そこに芽生える感情など、大いなる目的の前ではまるで意味を成さない。
つんくは、ダークネスという巨大な組織に立ち向かうため、能力者を集めそして育て上げた。そ
のことがどれだけの労苦を齎したかは想像に難くない。

全ては、巨悪を倒すため。
前田もまた、任務のためなら命を投げ出す覚悟でいた。

劇場の幕が上がるように。
ゆっくりと、防御壁が上部に収納されてゆく。

徐々に姿を現す、透明なガラスによって中央を仕切られた部屋。
これが、「天使の檻」の中枢にして真の姿。
椅子に座っていた部屋の主は、訪問者の存在に気づき、驚きの声をあげた。

35名無しリゾナント:2015/12/23(水) 02:22:05
「つんくさん…?」
「おう。久しぶりやな」

派手な金髪に、白スーツ。
人を食ったようなにやけ顔は相変わらず。
その変わらなさが。

「天使」の表情を、強張らせる。

「何やねん安倍、感動の再会やのにそないな顔して」
「どうして、ここに来たんですか」

「銀翼の天使」の瞳に湛えられた、静かな、それでいて悲しげな怒り。
つんくはそれを、そよ風を受けるが如く流していた。

「藪から棒やな。俺が手塩にかけてプロデュースした逸材を訪ねに来た、ええ話やん」
「つんくさん。あなたは。『HELLO』を離れてから今まで…何をされてきたんですか?」
「そらもう、八面六臂の大活躍やがな。警察にヘッドハンティングされて、能力者による治安維
持部隊を編制。その傍ら、有望な能力者の卵たちをスカウトして、一人前の能力者に育て上げる。
能力者業界から表彰状貰ってもええくらいやで?」

椅子から立ち上がり、つんくを睨み付ける「天使」。

「何をそないに怒ってんねんな」
「私はあの日…組織の本拠地を抜け出して、新垣の。ううん、リゾナンターたちのもとを訪れた。
それは、彼女たちに会って伝えなきゃならないことがあったから」
「ほう…?」
「つんくさん。あなたの、本当の姿を」

36名無しリゾナント:2015/12/23(水) 02:22:36
つんくは。
ただにやにやとした笑顔を、浮かべ続けている。

「あなたは『能力者のプロデュース』と称して、能力者の子供達を各地から集めていた。能力の
開花。制御不能な未熟な能力を、正しい方向へと導く。そう言ったお題目の元に」
「おっかしいなあ。顔変えて、素性も変えて。『俺』やってバレへんようにしてたつもりやった
んやけどなあ」
「でも、裕ちゃんや圭ちゃんたちはその事実を、まるで見て見ぬふり。おかしいと思った。でも
ね、よっすぃが教えてくれた。本当のことを」
「はぁ。情報部の連中はそないなことまで調べてるんか」

「天使」は、その表情を少しずつ険しくしてゆく。
理性と感情の狭間、辛うじてそのバランスを取っている。

「集められた子供達。彼女たちは最初から、組織とあなたの共有財産だった」
「…ええシステムやろ?」
「ふざけないで!そのせいで、どれだけ多くの子たちが苦しんできたか…!!」
「そなの?ごめんね」

「銀翼の天使」が、純白の羽を広げる。
その羽の一つ一つが、高密度のエネルギーの塊。こぼれ落ちた羽が床面に落ちると、そこからあ
ふれ出した純粋な「力」が爆ぜる。それでも特殊合金製の床には傷ひとつ、ついていない。

37名無しリゾナント:2015/12/23(水) 02:23:06
「どうして!どうしてそんなことが言えるの!?なっちは、なっちは!!!!」
「つんくさん、『天使』の力が異常に高まってます!!このままでは危険です!!」

ダークネスの誇る超強化ガラスに阻まれてはいるものの、この状態は決して安穏としてられるも
のではない。
しかし前に出ようとした前田を、つんくの手が制する。

「俺としたことが、済まんな。まずは、邪魔なもんを取り払う」

前田の目の前に翳された手。
そのまま上に掲げ、そして、指を鳴らした。

ぱちん。

まるで、光り輝く雪のようだった。
前田は、はじめは「銀翼の天使」が能力を行使したのかと思った。
だが、そうではない。降り注ぐのは、それまで天使の檻が檻の体を成していた所以とも言える、
強化ガラスの欠片。
信じられないこと。それは、檻の向こう側にいた「天使」もまた同様であった。

あまりに突飛な出来事が、「天使」の組まれかけた武装を完全に解いていた。
それだけ異常な出来事が起こったということだ。

つんくは、能力者ではない。
それがここにいる人間の、共通認識だったはず。
しかし現実に、鉄壁の強化ガラスは、粉みじんに、跡形もなく崩れ去った。

38名無しリゾナント:2015/12/23(水) 02:23:39
「あなたは…」
「言っとくが、これは俺の『能力』ちゃうぞ」

いつの間に、背後に回り込まれていた。
迎え撃とうにも、ありえない行動速度の速さに「天使」の反射神経が追いつかない。
後ろから首を回し、顎を上げ、唇の隙間から「何か」を滑り込ませる。
吐きだそうとする「天使」、しかしそれはつんくが許さない。

「ま、専門分野やしな。薬の飲ませ方は心得ておま」

「天使」の喉に手を当て、口蓋の筋肉を弛緩させる。
小さな錠剤は、吸い込まれるようにして落ちていった。

つんくを突き飛ばし、床に突っ伏して咳き込む「天使」。
入れられたものを吐こうと、手指を突っ込んで嘔吐を試みる。が。

「無駄やで。飲んだ瞬間に胃に溶けて早く効く。それが俺の『プロデュース』した薬の特徴や」
「何を…飲ませた…の」
「安心せえ。効能は、『モルモット』で証明済みや」

その時だった。
天井に収納されていたアーム付きのモニターが、ゆっくりと降りてきた。
それとともに、液晶画面に映し出されるのは。

39名無しリゾナント:2015/12/23(水) 02:24:10
「『天使』さんに何を飲ませたのか。ぜひ、私にもご教授いただきたいものです」

白衣に身を包んだ、ダークネスの叡智。
組織の頭脳の統括者とも言うべき、紺野あさ美がそこに映っていた。
それを見上げるような格好になったつんくは。

「…世界ががらりと変わる、薬や」

厭らしく、唇を歪ませる。
そしてつんくは語り始める。弟子に、自分の研究成果を披露する。
ありのままに、全てを。

40名無しリゾナント:2015/12/23(水) 02:25:14
>>32-39
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

41名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:45:34
なんやねん!
ウチが何したんや!?

「待てや女ァ!」
「言われて待つ奴なんかおらんわ!」
「んだとガキがァ!」

夕方
森の中
か弱い女の子がおっさん2人に追いかけられとる

か弱い女の子はウチの事な

なんて
ゆっくり説明しとる暇なんかあらへん!

「見ず知らずのおっさんに、追いかけられて喜ぶ趣味なんかないで!」
「こっちもやりたくてやってるんやないわ!」
「とにかく待てや!」
「嫌やーっ!」

怪しい!
怪しすぎる!
誰やねん!
このおっさん2人!?
捕まったら何されるかわかったもんやない!

学校が終わって家に帰って、写真でも撮ろうかと一番近い山に来たら
森のくまさんやなくて、2人のおっさんが追いかけて来るとか

ホンマありえんわ!

42名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:46:08
「こんガキ……いい加減にしーや!」

ベキベキベキッ!

突然、樹が折れてウチの前に倒れて来た

「うわっ!」

慌てて立ち止まる

あかん……道が塞がれてもうた
いや、それよりも

「さあ、大人しくせんかい!」

なんで後ろにおるおっさんがウチの前にある樹を倒せるん?

もしかして……
このおっさんら、超能力者なん?

「自分、さっきの写真どうする気や?」
「写真? 空とか森とかしか撮ってへんわ!」
「嘘言うな!」

ポケットに入ってるデジカメを掴む

変なモン撮ったつもりはないのに……

ようわからんけど
あのおっさんらに都合の悪いモンでも写っとるんやろか
やったら、このデジカメ渡したら終わり?

43名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:46:40
「どっちでも構へん。疑わしきは罰せよ、やろ」
「せやな」

あかん!
この会話はあかん!
ウチ絶対に殺されるわ!
もう逃げるしかないやんか!

倒れた樹に向かって走り、思いっきりジャンプする
飛び越せなくても、上に乗れば──

「逃がさんで」

──念動力──サイコキネシス

「うわっ!」

倒れてた樹が転がり足元がふらつく

「駄目押しや!」

ベキベキベキッ!

別の樹が倒れて来る

あかん
もう死んだわ
ここで何もかも終わりや

もっと生きたかった
もっと色んな事したかった
もっと……

44名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:47:13
まだ
死にたくない

助けて
誰か──!

45名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:48:10
>>41-44

といった保全作は要りますか?

46名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:54:44
>>32-39 の続きです



治癒の力を注げど注げど、体を蝕む滅びの力は止まらない。
業を煮やした「金鴉」が取った行動は。

「しゃおらああぁあっ!!!!!!!!」

勢いよく噴出す、鮮血。
炭化した足の部位を鷲掴み抉り取るという、無茶苦茶な荒療治だった。

「…あんた、馬鹿なの?」
「ざまあみろっ!このボケナスが!!」

あきれ返るさゆみに向かって強がる「金鴉」だが、大ダメージは隠せない。
何せ腿の決して少なくない肉を抉ったのだ。動く事すら難しいはず。

「てめえの滅びの力なんざ、のんには効かねえんだよ!!」
「ふぅん。じゃあ自分の体が穴ぼこだらけのチーズになるまで頑張りなさいよ」

さゆみの視線は既に、背後の「煙鏡」のほうへ注がれていた。
今回の全ての計画を描いた人物。能力の強弱は不祥だが、警戒すべきは悪魔の頭脳。

47名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:55:23
「何や自分。あいぼんさんがそんなに可愛いからって、戦いの最中に見つめてたらあかんで」
「笑えない冗談ね。あんたはさゆみのタイプじゃないし」

余裕の軽口は、策を講じている証拠なのか。
幸い、目の前の相手は「もう問題ではない」。もう一人の相手の見せる余裕、その謎を解かなけ
ればならない。
さゆみは「金鴉」の怪力によって破壊された石畳の礫を拾い上げ、「煙鏡」に向って投げつけた。
すると、礫は奇妙なカーブを描いてあさっての方向に飛んでゆく。

「無駄やで。うちの『鉄壁』にはそんなん通用せえへん。そういう『ルール』やからな」
「ルール?」
「っと。サービスが過ぎたな」

自らの能力の性能を誇りたいが故の饒舌か、それとも。
考えあぐねていると、横からけたたましい声が聞こえてくる。

「てめえ!のんのこと無視してんじゃねーよ!!」
「別に。相手して欲しかったら立てばいいじゃない」
「こんなの…がっ!ぐううっ!!」

力んだ際に、撒き散らされる鮮血。
「金鴉」は生まれたての小鹿のように、よたよたとしか立ち上がれない。
しかしそんな姿を揶揄したのは。

48名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:55:55
「情っさけないな自分。全然相手にならへんやん。あんなんうちなら10秒で終わりやで」
「はぁ!?そこまで言うならあいぼん替われよ!」
「あほか。大将が出張るんは、先鋒が死んでからやろ」
「おいこら勘違い薄らハゲ。大将はのんの方だろうが」
「そんなボロクソに負ける大将なんておらへんわ。そらうちにも負け越すわな。つまり、負け越
しゴリラや」
「負けてねーだろ!1064戦1065勝、どう見てものんの勝ちじゃん!!」
「戦った回数より勝利回数が上回ってどうすんねん。相変わらず可哀想なおつむやな」
「は!可哀想なのはお前の死にかけの頭皮だろ!!」
「言うたな…この筋肉ゴリラ!」
「うるさいハゲ!」
「ゴリラ!」「ハゲ!」「ゴリラ!」「ハゲ!」

突如として始まった低次元な言い争い。
しかしさゆみはその状況に合点がいく。この二人、コンビを組んではいるが仲があまりよろしく
ないようだ。だから、二人一緒に攻撃を仕掛けてこないのだ。

「さゆみには、出来損ないのコントを鑑賞する暇はないんだけど」
「…ああそうかよ!!」

またも、ストックの血入り小瓶を取り出して飲み干した。
すると、どこからともなく集まってくる、黒い雲。いや、雲ではない。
やがて、空を劈くような無数の羽音が響き渡る。

「やっ!む、虫!!」

虫嫌いの聖が、近づいてきた「黒い雲」を見て顔を青ざめさせる。
そう、黒い雲のように見えたのはありとあらゆる羽虫の群れだったのだ。

49名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:56:27
「確かお前ら、『蟲惑』とやり合ったことあったんやろ。それはそいつの血の為せる能力や」

その名前には、さゆみたちも聞き覚えがある。
地獄から甦ったと自称していた、黒いプロテクトスーツを身に纏った女。ダークネスではない別
の組織に与したその女が、「蟲惑」の二つ名を名乗っていた。
となると。

黒い雲はやがて、「金鴉」の元に集まり姿を覆い隠す。
千切れた筋組織に食い込み、繋ぎ、補う。虫の寄生力が実現する、究極の超回復。
負傷していた足を、二、三振り。機能は問題なさそうだ。

「これで、動けるようにはなった。お前、ぜってーに殺してやるから」
「…その割には、あなたの虫さん、繋いだ先から死んでるけど」

さゆみの言う通り、滅びの力に侵された部位に食い込んだ虫は程なくして、その抗えない力の前
に命を散らしてゆく。だが、数が力を押さえつける。次から次へと死地へ赴く小さな軍隊は、指
揮官の命令を忠実にこなしていた。

「その虫の力がさゆみの『治癒の力』の代わりってわけね。でも、逆に言えば『滅びの力』への
有効な手段も失った」
「お前をぶっ殺す方法なんざ、いくらでもあるんだよ!!」

「金鴉」が、両手を広げてさゆみの前に突き出した。
鋭い羽音を立てて、黒い塊が襲い掛かる。ただ、避けられない速さではない。素早く身を屈めて
猛攻をやり過ごすと、まるでブーメランのように虫たちは帰ってくる。

50名無しリゾナント:2015/12/23(水) 07:56:59
再び交戦が、動に入った。
さゆみは駆け出しつつ、執拗に襲い掛かる虫たちを回避する。

「避ける事しかできねえのかよ、虫はどんどん増えてくぞ!!」
「…馬鹿ね」

挑発しながら、使役する虫を増やしてゆく「金鴉」。
一度人間の肌に止まれば、皮膚を食い破り中の組織へと潜り込む獰猛な虫だ。
しかしさゆみは、そんな虫たちを嘲笑うが如く、動きを止めた。
喜び勇んでさゆみの白い肌に着地した虫は、触れた足から即座に灰になってゆく。

「忘れたの?さゆみの体全体にも、『滅びの力』が行き渡っていることを」
「…ちくしょう!!!!」

どのような力を用いようと、「滅びの導き手」を打ち崩すことはできない。
それが例え複数の能力を「ストック」できる能力擬態の能力者でも。
自棄になった「金鴉」が、さゆみ目がけて突っ込んでくる。まるで先に命を散らした虫と同じよ
うに。

「金鴉」が纏っていた羽虫たちの一部は、主人からはぐれ、リゾナンターたちの周囲を煩く飛び
まわっていた。しかし、積極的に害をなすことはない。
香音は、気づいていなかった。
いつの間に、はぐれた虫の一匹が、密かに。
自らの首筋に、小さな噛み跡が、ついていることに。

懐に飛び込んだ挑戦者が、拳を振るう。
速い。しかし、避けられない類のものではない。
回避行動に入るさゆみの身に、「それ」は起こった。


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