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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part6

1名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:16:33
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第6弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

2名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:19:24


「主任。新しい被験体のデータが採れました」
「何や。めっちゃ早いやん」
「ええ。『共鳴現象』の再現を上が急いでるとのことで…」
「俺としてはもうちょいじっくりやりたかったんだけどなあ。ま、ええわ。ちょっと見せてみ」
「どうぞ」
「k-207にT-617か。ほう…これええな。めっちゃロックやん。『双子みたいなのに双子じゃない』、そんな感じやで」
「はぁ。おっしゃってる意味はよくわかりませんが」
「『共鳴』のほうはさっぱりやけど、別の特質が出てる。ええで、ええで。この調子で頑張り。ほなな」
「承知しました…」

「主任はああ言っていたが」
「ああ。間違いなく失敗作だ」
「二人揃って一人前とは…『共鳴現象』の再現を狙った際の副産物か」
「廃棄するか」
「いや、それは主任が許さないだろう。それに、戦闘能力だけ取ってみればまあ…悪くはない」
「ふう。仕方ないな。では引き続き被験体の育成とデータ採取の続行。上層部の指定した4月1日の納
品に間に合わせるぞ」

3名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:20:24


光と夢の国に、一瞬の静寂が訪れる。
「金鴉」と姉人格を表出させたさゆみ。
「さえみ」と化した「さゆみ」は、値踏みをするかのように二人の少女の顔を見る。

「二人一組で行動する、ダークネスの幹部…」
「何だよ、びびってんのか? 安心しな。あいぼんには手を出させな…」
「別にそんなこと、心配してないわ。ただ」

さゆみは、にっこりとほほ笑む。
だがその笑顔の陰には。

「二人で一人分の仕事しかできないなんて、とんだ半人前。そう思っただけ」
「な…に!?」

それまで常に上位に立っているとでも言いたげな態度だった「金鴉」の表情が、大きく歪んだ。
場の空気が、ずん、と音を立てるが如く、重さを増す。

「てっめええええぇえ!!!!」

「金鴉」の瞳に闇の炎が灯される。
炎に映るのは。憤怒。憎悪。そして、強烈な殺意。

「絶対絶対絶対絶対!!!!!絶!!!!体!!!!ぶっ殺す!!!!!!!!!!」

放った殺気が、容赦なく若きリゾナンターに襲い掛かった。
全員が一斉に、幼い顔を強張らせる。

4名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:21:21
「な、なんだよ!なんだよあいつ!!」
「どぅー、おもらししちゃった?」
「し、してねえよ!!」

明らかに狼狽える遥をからかう優樹だが、彼女自身の顔色も優れない。
それほどまでに、凄まじい負の力なのだ。
「水軍流」を修めた里保でさえ、額に汗がにじみ出るほどに。

「あーあ、自分。言ったらあかんこと、言うてもうたな。うちらは決して二人で一人前と違う。のんは、そのことめっ
ちゃ気にしてんねん。ま、うちかて今にもトサカから火が噴き出そうな思いやけどな」

「金鴉」の後方で腕組み構えている「煙鏡」。
表情は変わらないが、口元には蛇のような執念深さが見え隠れしていた。

「さっきから『殺す』だの、『ぶっ殺す』だの。いつになったら行動に移してくれるのかしら」
「慌てんなよ。色んな能力試して遊ぼうかと思ってたけど、気が変わった。一気に決めてやる」

怒りが醒めたのか、それとも内に収める術を知っているのか。
「金鴉」はゆっくりと、さゆみに向かって指差す。そして。

「のんの能力は…『血から能力をコピーする』こと。道重、お前と闘り合うって聞いてさあ…用意しといたんだよね」

「金鴉」が懐から、またもや赤い液体の入った小瓶を取り出す。
そして顔の斜め上に掲げ、握り潰した。
拳から滴る、小瓶の中の血液とも自分の血液とも知れぬ血を飲み干して。

5名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:24:24
急襲。
対するさゆみは微動だにしない。
彼女は知っているのだ。迂闊に自分の体に触れた相手は、一つの例外もなく消し炭のようになって崩壊することを。

「余裕ぶってると、後悔すっぞ!!」

左に飛んでからの、フェイント。
右方向から殴りつけようとさゆみの顔面に迫る拳。
さゆみの本能が警告する。「この拳をまともに受けてはいけない」。

大きく体を仰け反らせ、回避体制。
空振り、無防備な背中を曝け出した「金鴉」に、さゆみがそっと手を添える。

「…やっぱり」

不可解な顔をしつつも、相手を滅びに誘うのを諦めて距離を取る。
千載一遇のチャンスだったはずなのに、さゆみは自らそれを手放してしまった。

「はは、わかるみたいやな」

その様子を遠くで見ていた「煙鏡」が、上から目線で言う。

「…治癒の力で、相殺したのね」
「その通りや。さっきのんが飲んだんは、治癒能力者の血…道重さゆみ、お前の血を複製して作ったもんやで?」
「!!」

いつの間に、と言いたいところだが。
ダークネスとの長きに渡る抗争において、さゆみの血を採取する機会など、それこそ山のようにあったはず。だ
から、複製できたとしてもおかしな話ではない。

6名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:25:24
「お前は完全に無防備っつーこと!!」

嬉々として「金鴉」がさゆみに襲い掛かる。
ガラスの小瓶を軽々と握り潰す筋力は、喰らわずとも危険なものであることがわかる。
そしてそのことは、辛うじて回避したローキックがさゆみの背後にある街灯柱にヒットした時に証明された。

鉄でできた柱が、まるで飴の棒のように、大きくひしゃげる。

「…凄い馬鹿力」
「そいつの筋力、まあちょこっと弄っとるんやけど、能力と違うで? 天性のもんやから、当たらんように気ぃつけや」

相方は高みの見物か。
ありがたいけど、何かを隠している?
ともかく、謎解きは今の局面を何とかしてから。
さゆみは視線を再び目の前の「金鴉」に向けた。

「オラァ!立ち止まってる暇なんてねえぞ!!」

再び攻勢をかける「金鴉」。
さゆみは体力の消耗を抑えるべく、最小限の動きで何とか破壊の一撃をかわしてゆく。
それでも。

「どうしよう、このままじゃ道重さんが!!」

亜佑美は、いや、この場にいる全員が知っている。
姉人格の滅びの力は絶大でも、彼女自身のフィジカルはさゆみのそれに準じることを。

7名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:26:17
「いや、大丈夫だよあゆみちゃん」
「鞘師さん?」
「道重さんは、何かを掴んだみたい」

不安に駆られる面々とは違い、里保はいち早くそのことに気づいていた。
その証拠に、さゆみの表情には少しの乱れもない。
ひょっとしたら、意外と早く決着がつくかもしれない。と。

「逃げろ逃げろ!ひひ、いつまで体力が持つかな?」

「金鴉」は攻撃をかわされつつも、着実にさゆみを追い詰めていた。
むしろ、体力をじわじわと削って消耗してゆく様を楽しんでいるようにすら見える。
さゆみの白い肌はうっすらと赤みがさし、額からは汗が滲み出ていた。

不意に、さゆみの動きが急に鈍くなる。
即座に限界が来たと判断した「金鴉」は一撃必殺を食らわすべく、大きく拳を振り下ろした。

しかし、拳が砕いたのは煉瓦敷きの床。
意外。今度は確実に「当てるつもりだったのに」。きょとんとする「金鴉」の太腿に、突然鋭い蹴りが突き刺さる。

「がっ…は!!!」
「戦いの最中なのに、ずいぶん余裕じゃない。でも、もうあんたなんかに遅れは取らない」

急速に朽ちてゆく太腿を慌てて治癒しながら、「金鴉」は信じられないものを見たような顔でさゆみを見ていた。
こいつ、さっきまでの奴とは違う。

8名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:27:43
「…奥の手出しよったか。紺野の言うてた通りや」

「煙鏡」は目の前で奇跡を成し遂げたさゆみに対して忌々しく思うとともに、改めて白衣の鬼才に対して嫉妬にも似た
怒りを覚える。
ダークネスの頭脳は既にこのことを、予見していた。

「道重さんの動きが…ううん、道重さん自体が変わった!?」
「もしかしたら。表人格と裏人格の統合かもな。何となく、そういう風に見える」

春菜と遥が相次いでそんなことを言う。
結論から言えば、彼女たちの推測はほぼ当たっていた。

― おねえちゃん。さゆみに任せてくれて、ありがとう ―

さゆみは、心の内に身を潜めつつ力を貸してくれている姉に感謝した。
裏の人格を収納しつつ、その力だけを引き出すという荒業。もちろんそんな時間がいつまでも続くわけがないが、一定
時間の中でなら言わば「二重能力者」のように振る舞うことも可能だ。
そのことに気付いたのは、つんくに貰った薬を服用してからのこと。幾多の強豪との戦いで使用しているうちに、滅び
の力と治癒の力を同時に使用できるかもしれないという結論に至ったのだった。

「てっ…めえ!!」

破滅の力に侵された部位を修復し、狂った獣のように襲い掛かる「金鴉」。
さゆみはそんなやけくそのような攻撃を、軽やかにかわしてゆく。

恐るべき擬態能力者。
しかし所詮は一度に一つの能力を擬態することしかできない。
それがさゆみの「滅びの力」によって間接的に封じられている以上、目の前にいるのはただの怪力馬鹿だ。

9名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:29:45
振れども振れども、空を切るだけの「金鴉」の腕。
そしてついにその隙を突き、さゆみの強烈なローキックが「金鴉」の足に叩き込まれた。

「やった!!」
「でもみにしげさん、いつのまにあんなに動けるように…まさたちの中でも運動音痴だったほうなのに」
「きっとそれは、里保ちゃんのおかげね」
「え、うち!?」
「うん。道重さん、事あるごとに里保ちゃんを触ろうとするから、里保ちゃんもつい回避行動取っちゃうでしょ。その
やり取りが、日々の稽古のように運動能力を高めて…」
「そんなわけないでしょ」

彼女たちの失礼な考察はさておき、さゆみの運動能力が向上しているのは事実だった。
さらに。

「な、なんだこれ!のんの治癒の力が…追いつかない!!!!」

蹴られた足が炭になってゆくのを阻止しようと自らの手を翳す「金鴉」。
だが、治らない。治らないどころか、炭化は逆にさらに侵食してゆく。

「あんた、さゆみの治癒の力をコピーしたって言ったよね。それって、いつのさゆみ? さゆみは、昨日の自分、明日
の自分。超えてかなきゃならないの。可愛い後輩たちを引っ張ってゆくためにね!」

攻撃を加えるインパクトの瞬間に、滅びの力だけでなく、治癒の力を混ぜ込む。
二つの力は、まったくの正反対の力ではない。ゆえに、相手の治癒の力がさゆみの滅びの力の防波堤になっているのな
ら、そのバランスを崩してやればいい。さゆみの力がかつての彼女自身の力、つまり「金鴉」の力を上回っていれば、
不可能ではない。

10名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:30:22
勝負あった。
さゆみの戦いを見守っていたリゾナンターの誰もが、そう思っていた。

けれど、地を這いもがき苦しんでいる「金鴉」を見ている「煙鏡」は。
嬉しそうに、笑っていた。

11名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:30:59
>>2-10
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

12名無しリゾナント:2015/06/04(木) 13:53:06
>>2-10 の続きです



「ご用件はそれだけですか。じゃあ、長話はこれで。私も、そこまで暇ではないので」

それだけ言うと、白衣の科学者・紺野あさ美は携帯を切った。
恐らく受話器の向こうの相手は怒りを煮えたぎらせていることだろう。
しかしそれははっきり言ってしまえば、「大した問題」ではない。彼らが、密かに起こそうとしてい
る行動を含めて。

組織のスポンサーとして、彼らは重要な存在であった。
しかし逆に言えば、彼らを繋ぎとめておくメリットはその資金力以外の何物でもない。
いつの世も、金で繋がる関係はその程度のものだ。

まるでどこぞの社員食堂のような、質素な作りの食堂ではあるが。
適度に日が差し、健康にはよさそうだ。
普段は明かりもつけない真っ暗な部屋で過ごすことの多い紺野ではあるが、たまには気分転換
の一環としてこのような場所で食事を摂るのも悪くないと考えていた。

ふと、目の前が暗くなる。来訪者だ。

13名無しリゾナント:2015/06/04(木) 13:54:10
「『首領』も含めた組織の総意、ねえ。自分、いつからそんなに偉くなったん?」
「…盗み聞きですか。貴方ほどの地位の人間がすることとは、思えませんが」

組織の本拠地の、もっぱら一般構成員が使うような食堂。
そんな場所で科学部門を統括する立場の紺野が食事をしているのも珍しいが、組織の長が席について
いるとなると。
最早、異常事態である。

さすがに、周囲がざわめき立つ。
もちろん、名目上のトップはダークネスと称する黒頭巾で顔を覆った謎の人物である。故に一般の構
成員たちは「首領」がそのような立場にあることを知らない。ただ、かなり高位にある人物らしいこ
とは理解していた。

そもそも彼女の地位については、こうやって幹部の人間と対等以上の会話をしている時点で推して知
るべきだろう。
紺野に上から目線で話ができる人間など、組織にそうはいない。

「ま、あいつらに関してはうちも堪忍袋の緒が限界迎えてたんやけど」
「その気になれば、いくらでも代わりはいる。ということですか」
「あちらさんが『先生』んとこや『理事長』さんとこを選択肢に入れてるのと、同じくらいにはな」

言いながら、紺野が大事に切り分けていた芋のひと欠けを拾い上げ、口にする。
あっ…私のおいも、という紺野の名残惜しい呟きを無視し、

「それはともかく。『天使の檻』がえらいことになってんなぁ」

と本題を切り出した。

14名無しリゾナント:2015/06/04(木) 13:55:04
「ご存じでしたか」
「あないな派手なことしとったらうちでも気付くわ。あの人のやりそうなことやな」
「私の、師匠だった人ですからね。それ以前に、ダークネス。いや、さらに源流へと遡った…」
「昔話なんて、どうでもええ」

紺野の言葉を遮る「首領」。
そこには有無を言わさぬ凄みすら感じさせる。

「なっちは…『天使』は、絶対奪われたらあかん。それは、分かってるやろな」
「ええ。ですから、切り札を差し向けました」
「豪華な取り合わせだこと。あの人ならきっと『ロックやな!!』って歓喜するやろ」
「まあ、全てが終わったら、改めてご報告いたしますよ。例の二人組の件も含めてね」

「首領」が例の二人組、という言葉に反応する。
誰を指しているのか、言うまでもない。

「改めて聞くけど。それは必要なことなんやろうな?」
「ええ。避けては通れない道です」
「ほんなら、ええ。そっちの件は、もとより自分に任せてるしな」

空間が、音を立てて裂け始める。
まるで生きているかのように鋭い切り口を開いたと思ったら、「首領」ごと呑み込み、そして跡形も
なく消えてしまった。
あっという間の出来事だ。表情を窺い知ることはできない。だが、紺野にはわかる。
あの時、彼女は二人組に決断を下せなかった。それはおそらく今でも、変わらないはずだ。

「さて。時間まではもう少し、あるはずですね」

すっかり静かになってしまった食堂。
紺野は壁掛けの時計を見やると、再びゆっくり過ぎるランチの続きを始めた。

15名無しリゾナント:2015/06/04(木) 13:55:40
>>12-14
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

短くて恐縮です

16名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:30:06
「3名様、禁煙席ご案内です!!」
女性スタッフの明るく元気な声が響く店内
「たまにはこういうチェーン店も悪くないやろ?」
光井は空いたグラスをドリンクバーで横に並ぶ鈴木に渡しながら、優しく声をかける
「フフフ、なんだか楽しいんだろうね」
テーブルには先に席に通され、腰を下ろした飯窪の姿

「よいしょっと。さて、今日は二人ともお疲れ様やったな
 無事に帰ってきたことに乾杯!!」
光井がグラスをかかげると鈴木も満面の笑みで乾杯と続いたが、飯窪はかぼそい小さな声だった。
鈴木は一気に飲み干し、カランと氷がグラスの淵にあたり陽気な音を奏でた
「ふわぁ〜おいしかった!光井さん、料理も頼んでいいですか?」
「もちろんええで、がんばったったしな、二人とも。
いつもどおりにポテトとシーザーサラダ、そやな・・・飯窪もおるし、ピザも追加するわ」
テーブル端に置かれたボタンに手を伸ばそうとするが飯窪の反応がないことに気づき、顔を覗き込んだ

「なんや?飯窪?遠慮なんてせんでええんやで。
鞘師なんて愛佳と二人で食事いったとき、遠慮せんでバクバクたべて、愛佳の心臓がバクバクなったことあったんや」
「い、いえそうではないんですが・・・今日のことがあってどうしても元気にはなれなくて」
飯窪の言わんとすることは当然―今日のこと、亀井の襲撃についてだ
「私、何もできませんでした」
飯窪も鈴木も逃げることしかできなかった

「リゾナンターなのに逃げるのが精いっぱいでした、頑張ってなんかいないんです」
飯窪は俯いたまま、鈴木が後を受けるように語りだす
「もちろん、経験の差があるっていうのはわかってるんです。
 でも、私達だってそれなりに経験を積んできた、つもりでした。だからこそ・・・悔しくて」
光井はグラスを手に取り、何も言わずに喉を潤す
「もちろん私の力が戦いに向いていないことは私自身が一番分かっていますよ。
 感覚を繋ぐことで仲間のサポートに徹することしかできませんし・・・
 運動神経だって普通、いや普通以下なんですよね、リゾナンターなのに」

17名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:31:26
『感覚共有』、それが飯窪の能力
5感、即ち触覚、視覚、嗅覚、味覚、聴覚を対象間で共有させる能力でたる
自分が視たものを相手の視覚として重ねたり、相手が感じた臭いを自分でも感じられるようになる力
当然のことながら肉体的ダメージを相手に与えることなどできない

「ペットボトルのふたを開けられないくらいの力しか私はないんですよ
 普通の女の子、くらいの腕力しかなくて、足も遅くて、跳び箱も人並みにしか跳べません
 性格だって鞘師さんやあゆみんみたいに強気ではありませんし、頭だって勉強ができるわけでもないんです
 こんな自分だから、できないのが嫌でせめて個性だけでも磨いてきたつもりでした、でも何もできなくて」
「ここまではるなんが悔しいって感情を出すの珍しいね」
「そうなん?」
「はい、はるなんは道重さんの次に上だからですかね?あまり香音たちに弱音を吐かないんですよ
 ・・・まあ、陰では道重さんに相談しているのは知っているんですけど」
「!! どうして鈴木さん、知っているんですか?」
鈴木がにやにやと白い歯をのぞかせて笑った
「だってまさきちゃんが見たっていうんだもん、あの子は隠し事できないんだろうね」

そこにウエイトレスがサラダを持ってきた
鈴木は笑顔でありがとう、といって取り皿に均等にサラダを取り分け始めた。
「はるなんには言ったことなかったけど、時々私はこうやって光井さんに相談してるんだ」
「そうなんですか」
「うん、ほら、私だって里保ちゃんみたいに強くないし、生田みたいに我も強くないからさ。
 聖ちゃんのように前から体を鍛えていたってこともないし、普通にやってもおいてかれちゃうんだよね
 同じときに出会ったのにスタートが違うんだよ。でも、それは悔しくなかったし、むしろみんなが強くて誇らしかった」
半熟卵を器用に崩し、フォークでそれぞれの皿に移す
「だから、みんなに近づきたくて『透過能力』をどうすればいいのか、って光井さんに相談していたんだ
 水限定念動力とか精神破壊に比べて地味、というかどうすればいいのかわからなかったから」
鈴木はフォークの柄をつかみ、飯窪の目の高さに掲げた

18名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:32:16
「始めは香音だって自分の意思で好きなように透過させることもできなかったんだよ
 だから、失敗ばかりで怪我ばかりして、道重さんのお世話になってばっかりだったし。
 ほら、香音だって運動神経よくないじゃん。でも、いろいろと光井さんに特訓に付き合ってもらって」
そこまでいい、フォークを自分の左手の甲めがけて思いっきり振り下ろした
何も知らない周囲の目があったら、狂気としか思えないその行動だが、飯窪は動かなかった
だって、大丈夫だと信じていたから
「おかげで、ほらこんなこともできる」
フォークが左手を突き抜け、柄の部分が手の甲に、端が掌からとびぬけた

「もともと鈴木の力は不完全やった。ただ、『すりぬける』だけの能力
 それだけでも愛佳は十分やとおもっとったけどな。攪乱や潜入にはもってこいやからな。
 前線におるんがすべてではない、と何回も諭したんやけどな」
光井は鈴木の左手を通り抜けているフォークをつかんだ
「鈴木は自分から、力をつけたい、戦いたいっていうてきたんや
 今でも覚えているで、『りほちゃんのためにも強くなりたい』って泣きながらきたんや」

「そ、そうでしたっけ?」
「なに、とぼけとるんや?鞘師が大怪我して腰痛めて動けなくなって、それでもあきらめなかった姿をみて感化されたやろ?
 フクちゃんと生田と鞘師との4人での何回目かの戦闘でな。なんとか愛ちゃんが間にあったけど、4人ともぼろ雑巾や」
そのときの話を飯窪はしっかりと知らない。4人の誰に聞いても、曖昧にはぐらかされてしまうのだ
その話を当然のように口にしない・・・それほどそのときのことは4人にとって悔しかったはず

「道重さんはまあ、なんというか、当然、いうたらあかんけど、鞘師を一番に治しはったわ
 そんなときでも自分を見失わへん、いうのもすごいなあ」
光井は笑った。
「ハハハ・・・そ、そうですね」
飯窪は笑えなかった。
「ま、あのときの負けっぷりも今日のに近いやろなあ」
「・・・今日はあのときよりもひどいかもしれないです、光井さん
 でも、あの負けがあるから香音は強くなれたんですから、必要な経験でしたよ」
「そやな」

19名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:32:56
思いっきりフォークを引き抜いた
抵抗なくフォークは鈴木の体を通りぬけた。

「あの日から訓練して、香音は『透過能力』を自分の意思で完全にコントロールできるようになったんだ、はるなん
『通り抜けるもの』と『通り抜けられないもの』を選ぶこともできるから、透過能力で戦えるようになったし」

応用として、銃弾をすり抜け、相手の体だけすり抜けられないようにして、全体重をかけてタックルをかける
地面に潜り、足元に手を伸ばし、敵の陣形を崩す
「今の香音ならそれなりに戦えると思う。」
そして・・・誰にも話していない透過の可能性を鈴木はみつめるようになった

ただ、と光井はポテトをつまみながらつぶやいた
「ま、その分、失った部分はあるんやけどな」
そしてコーヒーを飲み、サラダを引き寄せ、何かに気づいたのか、壁側に少し動いた
「どういうことですか?」
「なんも、言葉のまんまや。鈴木の透過能力は『無意識に』『完全に』『なんでも』通りぬけることができた
 せやけど、訓練することで『頭で認識』してからでないと通り抜けられなくなった
 そこには『意識』するという発動までのタイムラグが生じることになった。せやから」

ガシャーーーン  「冷たいっっっ」

「とっさの出来事に反応できなくなってしまった」
ウエイトレスが転び、お盆に乗っていたグラスがこぼれ、鈴木のスカートの上にこぼれてしまった
すみません、すみません、といいながらあわててほかのウエイトレスがおしぼりを奥からとってくる

「昔やったら危険を察知した瞬間に力が発動されて、なにもおきへんかったやろうな」
「・・・いま、光井さん、予知して、逃げましたよね」
「そなの?ごめん」
妙にあっけらかんとした物言いで悪びれた様子もない

20名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:33:27
「それならば、光井さんはいつ、予知されたんですか?」
飯窪はそうたずねながら、濡れた鈴木のかばんを拭いている
「!! 確かに、そうなんだろうね。今の話だと矛盾していますよ、光井さん
香音の透過にタイムラグが生じるのならば、予知能力にも起こってもおかしくないんだろうね
 時間が何時何秒なんてわからないんだから、対応できないことだってあるんじゃないんですか?」
おしぼりでテーブルを拭きながら光井は顔を上げずに答える
「まあ、もちろん、何時何分おこるわかっとるものもあるけど、そうじゃないものが大半やな
 せやけど、何が起こっても大丈夫なように備えるだけや。予知能力の本質を知っとるか?」
「え?未来をみること、ではないんですか?」
「そや、それだけや。未来をみるだけ、変えたりする力はあらへん
 よく、未来は変えられるいうけど、それは正しくもあり、まちがいでもある」
「??」

「例えば列車の脱線事故、これを愛かが見たとする。それもいつの何時何分までわかっとる
 せやけど、それを現実におこさせんようにすることができるか。
 できへんことはない。せやけどそのためにとても時間がかかる
 所詮、愛佳はほぼ自分の行動しか変えられへん。事故を未然に防ぐようなことはほとんどできへんやろ
 結局、事故は起こる、せやけど愛かはその列車に乗らんことで、事故にあうことは防げる」
「それって」
「残酷なことや。たくさんの人が不幸な目にあうことわかっとっても、変えられへん
 できることはしてるで。せやけど、何も知らん人がいきなり『おたくの電車を調べてください』なんていわれて信じるか?
 まともな人間なら取り合ってくれへんやろうな、きっと。いたずらやろうって
 下手したら愛佳を犯人なんやろって疑うこともあるかもしれへん。とにかく、能力は万能やない
 何もできへんことやってある。せやから今日の二人が何もできへんからって凹む必要はあらへん」

その言葉に飯窪は救われた気がした。
何かしなくてはならない、チームの一人として果たさなくてはならない役割を考えていた
知らず知らずに自分に枷をはめてしまったのかもしれない
それを知ってかしらずか、光井は淡々と語る

21名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:34:59
「できることなんてほんの一握りしかあらへん。努力してもできへんもんはできんやろ
 せやけど、それでも努力することだけでも大事やと思うで
 練習せえへんでできへんことと練習してもできへんことは意味が違う、わかるやろ?」
「一回みたものはほぼ完ぺきにしないといけない、ですね」
「そや、ちゃんと練習してきたん?」
今日初めて3人とも笑い出した

「アハハ、そ、そういえば、光井さん、リンリンさんとジュンジュンさんに初めてお会いしたんですけど、お二人とも強いですね
 リンリンさんの中国拳法と炎のコンビネーション、ジュンジュンさんのパワーとスピード
 あの二人が光井さんと一緒に戦っていた仲間なんですよね」
「そや、リゾナントにきたんは愛佳がすこしだけ先やったけど、ほぼ同じくらいに仲間になったんや
 始めはぜんぜん反りもあわんくて、特にジュンジュンとは喧嘩してたな〜懐かしいわ」
過去を思い出し、光井がほんのりと笑う
「ジュンジュンさんと喧嘩とか香音からすると怖くてできないんだろうね」
「そうでもないで。べつに誰とでも正面からぶつかってきたんや
 愛ちゃんとだって愛か喧嘩したことあるし、田中さんとも・・・田中さんとはないかな」
ポテトに手を伸ばす

「喧嘩いうても手が出るわけでもあらへんし、まあ子供の喧嘩みたいなもんやな
 言いたい事言い合えるくらいやないと、パートナーとして信頼できへん、そう愛佳はおもっとる
 せやから、鈴木が生田とぶつかったり、佐藤が、特に工藤とぶつかっていることは心配してへん
 それは成長するために必要なことやから。自分を否定され、他人から攻撃される。
 人格形成の時期やから、刺激は多ければ多いほどがええ
 今日が昨日と同じ、そんなことはありえへん。気づかんうちに変わってるんや、良い方にも悪いほうにもな」
最後の部分はあえて聞こえないように小さな声でつぶやいたことを二人は知らない

「二人とも仲間を大切にしたほうがええで」
「「はい」」

22名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:35:39
「そういえばはるなん、なんで今日は自分からここに来たいっていったんだろうね?」
「え?あ、ああ、そういえばそうでしたね、私からお願いしたんでしたね
 でも、もう答えはでました。ありがとうございました、光井さん」
「ん?別に愛佳は何もしてへんで」
なにもわからない鈴木を残し、光井は思わせぶりに笑う

「せやけど、不要かもしれへんけど、もうひとつアドバイスや、飯窪。ほんまに聴きたかったんはこれやろ?
 愛佳がさっき言い切った、『愛佳なら鞘師に勝てる』の意味を」
「・・・気づいていましたか」
「当然や、鞘師も知りたいようやったけどな。あの時グラスが揺れたから、ショックやったんやろうな
 自信家の鞘師にしてみたら、先輩とはいえ非戦闘員の愛佳に負けるとは思うてへんやろうからな、失礼やけどな」
里保ちゃんらしいな、と鈴木は心の中で思う。

「鞘師は強い。それは認める。普通に戦ったら、強さだけなら今のリゾナンターで1,2を争っても仕方ない
 ただ、それはあくまでも普通に戦った場合にかぎる」
自身の頭をコツコツと叩いて見せる
「普通なら、や。幸いにも愛佳には未来が視えるときがある。
 自分に有利な場、状況を作ることがある程度はできるんや。
 それが愛佳の能力の『長所』になる。それを使わんのは勿体無いやろ?
 なあ、飯窪、その『感覚共有』、5感をつなぐ力やろ?視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を同じように感じさせる」
「は、はい」
「飯窪、それだけの感覚を支配できるっちゅうことやろ?愛佳なら・・・」


ガチャーーーーン

またウエイトレスが転んだようだ

「ゴメンナサーーーーイ」

23名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:36:21
★★★★★★

笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う

わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、

warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau

waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru

わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる

悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪

さあ、笑おう、悪とともに。キャハハハハハハハ・・・・

・・・カナ★

24名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:37:06
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(10)です
開始して一年たって、このペースの遅さ(笑)
ホゼナンターさんありがとうございます。
完結まで頑張って書くよ

ここまで代理お願いします。

25名無しリゾナント:2015/06/12(金) 06:38:36
代理投稿行ってきます!!

26名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:12:06
>>12-14 の続きです



一方的な殺戮。
一言で表すなら、それがもっとも相応しかった。
圧倒的な生命力と、身体能力。そして、本能のままに行動する狂暴性。
しかし科学の作り出した歪な命たちは、能力者たちの前に全くの無力だった。

「うおおおっ!!!」

「戦獣」の頭上に落とされる、鋼鉄よりも硬い両拳。
須藤茉麻の一撃が、鍛え上げられた獣を叩き潰す。まさに必殺。

その一方、徳永千奈美の見せた幻術により自分たちが断崖絶壁の縁にいると勘違いした獣たち。
必死の思いで深淵とは真逆へと逃げたつもりが、ある獣は骨まで焼き尽くされ、ある獣は芯まで凍
てつかされる。

「…大したことないね。『戦獣』も」
「ほんと」

退屈だとばかりにぼやく、炎の使い手である夏焼雅と、氷の剣士菅谷梨沙子。
その向こうでは、熊井友理奈が戯れに戦獣を浮かび上がらせ、地面に叩きつけていた。
浮力と、その後の超重力によって哀れな獣はお好み焼きのように体を平たくして絶命した。

27名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:13:26
「うわーくまいちょー残酷ぅ」

地獄絵図に似合わぬ嬌声。
これまた戦場向きではないフリフリのワンピースを着た嗣永桃子が、本気とも冗談ともつかぬトーンで揶揄する。

「桃に言われたくないよ」
「ねー。自分が一番残酷な事してるくせにさ」

原型を留めぬほどにどろどろに「腐食」した肉の山で、体をくねらせアイドルポーズ。
残酷である以上に、異様な光景ですらある。

「声うざい、小指立ってるのうざい、うんこヘアーうざい」
「はぁ!?これは、天使の羽!て・ん・し・の・は・ね!!」

ところが、周りの同僚たちから思わぬ反撃を食らった上に、チャームポイントに対する侮辱。絶妙な曲線を描く
独特な二つ結びを振り回し激昂する姿はまるで水牛だ。

「さすが、その名を轟かせた『セルシウス』と『スコアズビー』」
「私たちの出る幕はない、って感じっすよねー」
「戦獣の心読んでもさ、つまんないんだよね」

ベリーズとキュートが獣たちを屠る間、高みの見物でその健闘ぶりを称える三人。
能登有沙。吉川友。真野恵里菜。
その表情を素直に受け取るか、「新参者」たちの活躍にいい思いをしていないのかは定かではないが。

28名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:14:40
「二人とも、そんなんじゃ新人たちに示しがつかないよ」

有沙が、敷地の隅のほうで奮戦する一団を指す。
彼女たちは「ジュースジュース」、今回の討伐団の中で一際若いグループだ。

戦場で派手に踊る、赤と黒。
しかしその戦果は思ったほどでもなく。
頼りなさげなリーダーが指揮を執るも、効率がいいとは決して言えない。
猿のような金切り声をあげて、喧嘩を始める二人組。また、別の二人も何やら様子が変だ。よく見ると、片方が
もう片方の尻を蹴り上げ、高らかに笑っている。

「…新人としても、ひどくない?」
「まるで幼稚園ね」

あきれ返る、「サトリ」こと恵里菜。
初陣なのだろうか。そのたどたどしさが、ますます先輩組の凄さ、手際のよさを際立たせる。

「しかし不意打ちを狙ったとは言え、立ち塞がる壁がワンコロちゃんだけなんて。拍子抜け」

ベリキュー無双、とも言うべきワンサイドゲームを眺めるのも飽きたのか、空に向かって大あくびをかます友。
その口の動きが、時を止められたかのように止まった。
空が、割れたのだ。

ひび割れた青空からゆっくりと姿を現す、黄金の女性。
黄金と言っても、髪の色だけだが、彼女の姿を見たものは大抵。
その輝きを目に焼き付けながら、息絶える。

29名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:15:27
「やっぱ裕ちゃんの能力借りてた時のほうがよかったなー。『ゲート』は疲れるし」

ひとりの女が現れただけだというのに、場の空気はまるで変えられてしまっていた。
金色の闇が、覆い尽くしている。
ここにいる全員の喉元に刃が既に突きつけられているような。
自分が死ぬかもしれないというリアルな現実が、そこにあった。

「…『黒翼の悪魔』。行方不明だって聞いたけど」

清水佐紀は、ぱたぱたと翼をはためかせ宙に浮く魔人を見上げながら、苦く笑む。
戦慄。それは他のベリキューの面々の表情を見ても明らかだった。

そんな中、頭の悪そうな、いや怖いもの知らずの舞と千聖が。

「は?何あんなのにびびってんの?うける。まじうける」
「つーかさ、あのきもい羽ぶち抜いたら終わりじゃん。『悪魔』ぶっ殺したとか、すげー功績になるし」

恐いもの知らずと言えば聞こえはいいが、無鉄砲にも思えるその発言。
しかし言葉の次からの行動は、早かった。
半獣化した舞の背に跨った千聖が、空中に浮かぶ「黒翼の悪魔」目がけて念動弾を放つ。
尋常でない数の弾が、集中砲火という形で襲い掛かった。

やる気のなさそうな顔をして、ふわりふわりとそれを避け続ける悪魔。
しかしその動きは、緩い割に正確。つまり、少しも被弾してはいない。

30名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:16:30
「生意気なやつだなー。ちょっとくらい当たれっての」
「ま、うちらの本領発揮はこれからっしょ」

狂暴な角をひと振るい。
まるで駿馬のように、舞が雄大なストライドで駆け出す。

それを見た梨沙子が、氷の刀を一振りした。
千聖たちの目の前に現れた氷の階段、大きく螺旋を描きながら、羽ばたく悪魔のもとへと伸びてゆく。

「ん…」
「そのとぼけたツラ、すぐに青ざめさせてやるよ!!」

大量の弾幕を張りつつ、一気に階段を駆け昇る千聖と舞。
その先には、「黒翼の悪魔」が待ち受ける。

ふと、舞の腰のあたりに何かが乗っている感覚。
見ると、梨沙子が絶妙なバランスで立っていた。

「ちょ、りーちゃん!」
「階段だけ作らせるなんて、虫のいい話」
「梨沙子が乗ったら、舞の腰折れちゃう!!」

と言いつつも、見た目ほどの負荷はなく。
二人と一頭、ベリキュー連合軍がダークネス最強の喉元に刃を突きつけようとしていた。

舞の剛き角がいくつも枝分かれして、悪魔の周囲を取り囲む。
その隙間を縫うように、千聖がありったけの銃弾をばら撒いた。

31名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:18:17
ど派手な包囲網。
苦笑する「黒翼の悪魔」の頭上が、暗くなる。
氷の刃を携えた、梨沙子だった。

「…剣士、か」
「もらった!!」

弓なりに跳躍した梨沙子が、「黒翼の悪魔」を一刀両断しようと、刀を上段に構える。
防御の間に合わない、絶好の攻撃タイミング。誰の目からしても、そうとしか見えなかった。

「うそ…太刀筋が見えな…」

鮮血。
空に赤い花を咲かせたのは、梨沙子のほうだった。
力を失い、ゆっくりと崩れるように墜ちてゆく。

袈裟懸けに斬られた梨沙子、悪魔の握る黒身の長刀は彼女の血でぬらりと濡れていた。
鍔迫り合いさえ許さない、圧倒的実力差の前に。
呆気に取られる千聖と舞もまた、黒血の魔刀からは逃れられない。

張り巡らせた鹿角の包囲網は、一瞬にしてばらばらに切り落とされ。
あっという間に間合いを縮めた悪魔は、彼女たちを攻撃の射程圏に入れてしまう。

ひゅん、という軽い音が二人の耳に届いたその瞬間には。
全てが終わっていた。

32名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:19:14
「舞!千聖!!」

舞美が、叫ぶ。
悪魔の羽が貫いた二人は、梨沙子を追うように大地へと吸い込まれようとしていた。

「黒翼の悪魔」が翼を畳み、落ちてゆく三人を追うように急降下。
止めを刺すつもりなのだ。しかし、それを阻むは強靭な肉体。

「させないよっ!!」

友理奈の浮力によって、大空高く舞い上がった巨体。
茉麻は「黒翼の悪魔」をその両腕でがっちりとホールドする。

顔色一つ変えない悪魔。
試しに、黒い刀身を二度、三度打ち付けるも、茉麻の体には傷ひとつついていない。

「…『よろしくおねがいします。受かったらゆいたいです』なんて言ってた子が大きくなったねえ。ち
ょっと大きくなり過ぎだけど」
「はぁ?あんたなんかに会った覚えは…!!」

訝る茉麻の脳裏に、突如として甦る記憶。
彼女たち「キッズ」が生を受けてすぐのこと。幼い顔立ちを固くして、横一列に並ぶ子供たち。
その初々しい様子を慈しむように、金髪の少女が眠そうな顔で、目を細めていた。

懐かしき思い出は、断ち切られた両腕とともに。
剛体化した茉麻をあっさりと斬り伏せた悪魔は、次の標的を求めてついに地上へと降り立った。

33名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:19:47
瞬く間に、四人がやられた。
その事実が、この場にいる全員に重くのしかかる。
忍び寄る死の影が、死の吐息が、すぐそこまで来ていた。
本当にここから、生きて帰ることはできるのか。

ゆっくりと、集団に近づく「黒翼の悪魔」。
そんな彼女の体が、びくっと痙攣した。腹のあたりからは、輝く切っ先が。
翼と翼の真ん中、ちょうど腰に当たる部分を背後から貫くものがいた。

「この瞬間を、待っていた」

暗殺。
エッグでも有数の使い手である北原沙弥香。
彼女は、悪魔に気配すら悟られることなく、凶刃を突き立てる。

「ありゃ。気を抜きすぎたかな」

けれど、「黒翼の悪魔」は止まらない。
何もなかったように手に収まる黒刀を握りしめたかと思うと。
背後の沙弥香の腹を、寸分の狂いもなく突き刺し返す。

「がはっ!!」
「よいしょっと」

それでも得物を握りしめ離さない沙弥香、「黒翼の悪魔」は虫でも払うかのように。
持ち手を、蹴飛ばす。何度も。何度も。
重くへし折れる、嫌な音。ぐにゃぐにゃになった両腕が、力なく垂れ下がった。

34名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:20:19
「おいおい、ちょっとまずいんじゃないのこれ…」

手練れの能力者たちが、まるで赤子扱い。とてもではないが想定できた事態ではない。
事実に思考が追いつかず、顔を引き攣らせ半笑いの友。

「そうだねえ。じゃ、いっちょあたしが出ますか」
「は?」

ゆっくりと前に出るリーダーの有沙を見て、冗談だろと呟いた。

「エッグ」を結成してずいぶんの長い時が経つけれど。
友は。いや、エッグの誰一人、彼女の能力を見たことがない。
能力的には大したことはないが、統率力のみでリーダーに選ばれたのだ。
口さがなく、そう言い切るものもいたくらいだった。

そんな人間が、自分が出ると言う。
友でなくとも、耳を疑うのも当然の話であった。

一方。
沙弥香の腹筋に刺さった黒刀、しかしそれはなかなか抜けてくれない。
沙弥香が力を振り絞り、筋肉を収縮させているのだ。

「うざいなあ、それ、何の意味があるの?」

刀が封じられても、彼女には鋭い翼がある。
二つの翼が細長く伸び、第二第三の刀として沙弥香を切り刻む。
それでも彼女の強靭な腹筋は力を緩めない。

35名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:22:52
防御の間に合わない、絶好の攻撃タイミング。誰の目からしても、そうとしか見えなかった。

「命と引き換えにしてでも…暗殺を成、功させる…暗殺者とは、そう、いう、ものだ…」

その冷徹な表情をして「Noel(静かな聖夜)」と仇名される沙弥香。
命と引き換えに、の言葉に嘘偽りはなかった。

「うん。立派立派。でもそろそろ終わりにするね」

指揮棒のように、右に左にと沙弥香の体を引き裂いていた翼が、ついに沙弥香の頭上で固定さ
れる。その時だった。悪魔は背後に別の気配を感じ、振り返る。

「…死にたくなければ、邪魔しないほうがいいよ。この子をやったら、ゆっくり相手してあげ
るから」

まるで少女と見紛う小さな体、幼い顔。
「エッグ」のリーダー・能登有沙は、悪魔の警告などものともせずに一歩、また一歩と近づい
てゆく。有沙の瞳には、悪魔の姿は映っていなかった。

「ごとー、そういうの、嫌いだな」

それまで気の抜けていた、悪魔の表情が険しくなる。
まるで特攻隊のような死を恐れない有沙。気に入らない。
命を捨てるのは、愚か者のすることだ。それは悪魔の美学に反する。侮辱とも言えた。
命は、燃やし尽くしてこそ輝くのだから。
その感情は、行動となってダイレクトに現れる。

細く伸びた翼が。
有沙の胸を貫通していた。
一撃。命のやり取りを至高の存在と考える悪魔が取った、侮辱への回答。
あっという間に命を奪われた有沙は、笑っていた。

36名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:24:36
意味のない、自殺行為。
なのに笑っているのは、何故だ。
答えは、自らの体の異変が教えてくれた。

ぽろぽろと、風化してゆくように。
有沙の体を貫いていた翼が細かく砕け、風に吹かれて消えてゆく。
それだけではない。沙弥香を刺し貫いていた黒刀さえ、形を維持することができずに崩壊しは
じめていた。

「どうして」
「…それが…あたしの能力だからねぇ」

息も絶え絶えに、有沙が言う。
顔面は既に蒼白、命はまさに尽きかけようとしていたが。

「血の不活性化(イナクティベーション)」。
血に関するあらゆる能力を封じる能力。それは「黒翼の悪魔」の体を駆け巡る黒血も例外では
ない。有沙の発動した能力により、黒血内のナノマシン群は、次々と沈黙していった。

対悪魔に最適とすら言えるこの力。一つだけ欠点があるとすれば。
この能力は、使役者が死亡することで初めて完結するということ。
「エッグ」の誰もが有沙の能力を見たこともないのは、当たり前の話だったのだ。

悪魔が自らの手の平を傷をつけ、血を垂らしてみる。
黒い血は、ゆっくりと軌跡を描いて地面に染みを作るだけだった。

「あはっ。結構ピンチかも」

「黒翼の悪魔」に向かって、突進してくる一人の女。
背中に水の竜神を纏った舞美が、悪魔の腹に拳を叩き込む。
ゴムが千切れるような、鈍い音。思い切りくの字に体を曲げた悪魔の頭を、力強い掌が掴み。

金髪が、固いアスファルトに叩きつけられた。

37名無しリゾナント:2015/06/14(日) 02:23:33
>>26-36
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

38名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:41:24
>>26-36 の続きです



核シェルター級に厳重な警戒態勢を敷いている、「天使の檻」。
その肝である防護壁が、自動ドアのようにやすやすと、開いてしまう。
つんくが帯同させている二人の能力者のうちの一人・石井の能力によるものだった。

「ここまで来たらもう少しや。調子は…ま、聞かんでもええか」
「……」

石井は。
全身から絶え間なく漏れ出している血によって、体を朱に染めていた。
自らの使役する電流を利用して、防護壁のセキュリティシステムと同期する。つまり自らをカ
ードキー化することで、防衛装置を作動させることなく建物内を通過することができるという
仕組みだ。

ただし、肉体への損傷は計り知れない。
事実、石井の体は限界に達していた。体組織は破壊され、全身からの血が止まらない。免疫系
統が機能停止(システムダウン)した何よりの証拠だ。
そんな姿を見ても、つんくは進むことをやめない。まるで最初からこの程度の犠牲は織り込み
済みだと言わんばかりに。

39名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:42:25
不意に、建物全体に轟く地響き。
外での戦闘が激化した合図だろうか。もう一人の能力者である前田が困惑気味に周囲を見渡す。

「紺野のやつ、ジョーカー切りよった」
「ジョーカー?」
「せやけど。切り札は切ったら…しまいや」

つんくの歩みが、止まる。
目の前に、巨大で重厚な防御壁が立ち塞がっていた。

「この先に、『天使』が待ってる。時間的にもぎりぎりやな。頼んだで」
「……」

答える気力もないのだろうか。
石井は床に自らの血を滴らせ、カードリーダーの端末に手を伸ばす。
電気を自在に操る石井の体が一瞬光ったかと思うと、大きく痙攣しはじめた。
口から、目から、いや、体じゅうの穴という穴から。激しい出血が止まらない。石井の体がカ
ードリーダーのセキュリティシステムと融合しようとしている。だが、その代償はあまりにも
大きい。

認証完了の、電子音が静かに鳴り響く。石井は。
そのまま自らが作り出した血の海に崩れ落ちる。
そして、二度と動く事はなかった。

40名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:43:37
石井の亡骸を、見下ろす形のつんく。
文字通り命を賭した部下にかけた言葉は。

「ご苦労さん。さ、前に進もか」
「は、はい」

前田は、改めて自らの上司の非情さを肌で感じる。
石井は自分が使い捨てになることを知っていた。知った上で、忠誠を示すかのように命を散らせ
ていった。それを、ご苦労さんの一言で済ませてしまう。

だが。
そこに芽生える感情など、大いなる目的の前ではまるで意味を成さない。
つんくは、ダークネスという巨大な組織に立ち向かうため、能力者を集めそして育て上げた。そ
のことがどれだけの労苦を齎したかは想像に難くない。

全ては、巨悪を倒すため。
前田もまた、任務のためなら命を投げ出す覚悟でいた。

劇場の幕が上がるように。
ゆっくりと、防御壁が上部に収納されてゆく。

徐々に姿を現す、透明なガラスによって中央を仕切られた部屋。
これが、「天使の檻」の中枢にして真の姿。
椅子に座っていた部屋の主は、訪問者の存在に気づき、驚きの声をあげた。

41名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:44:58
「つんくさん…?」
「おう。久しぶりやな」

派手な金髪に、白スーツ。
人を食ったようなにやけ顔は相変わらず。
その変わらなさが。

「天使」の表情を、強張らせる。

「何やねん安倍、感動の再会やのにそないな顔して」
「どうして、ここに来たんですか」

「銀翼の天使」の瞳に湛えられた、静かな、それでいて悲しげな怒り。
つんくはそれを、そよ風を受けるが如く流していた。

「藪から棒やな。俺が手塩にかけてプロデュースした逸材を訪ねに来た、ええ話やん」
「つんくさん。あなたは。『HELLO』を離れてから今まで…何をされてきたんですか?」
「そらもう、八面六臂の大活躍やがな。警察にヘッドハンティングされて、能力者による治安維
持部隊を編制。その傍ら、有望な能力者の卵たちをスカウトして、一人前の能力者に育て上げる。
能力者業界から表彰状貰ってもええくらいやで?」

椅子から立ち上がり、つんくを睨み付ける「天使」。

「何をそないに怒ってんねんな」
「私はあの日…組織の本拠地を抜け出して、新垣の。ううん、リゾナンターたちのもとを訪れた。
それは、彼女たちに会って伝えなきゃならないことがあったから」
「ほう…?」
「つんくさん。あなたの、本当の姿を」

42名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:46:16
つんくは。
ただにやにやとした笑顔を、浮かべ続けている。

「あなたは『能力者のプロデュース』と称して、能力者の子供達を各地から集めていた。能力の
開花。制御不能な未熟な能力を、正しい方向へと導く。そう言ったお題目の元に」
「おっかしいなあ。顔変えて、素性も変えて。『俺』やってバレへんようにしてたつもりやった
んやけどなあ」
「でも、裕ちゃんや圭ちゃんたちはその事実を、まるで見て見ぬふり。おかしいと思った。でも
ね、よっすぃが教えてくれた。本当のことを」
「はぁ。情報部の連中はそないなことまで調べてるんか」

「天使」は、その表情を少しずつ険しくしてゆく。
理性と感情の狭間、辛うじてそのバランスを取っている。

「集められた子供達。彼女たちは最初から、組織とあなたの共有財産だった」
「…ええシステムやろ?」
「ふざけないで!そのせいで、どれだけ多くの子たちが苦しんできたか…!!」
「そなの?ごめんね」

「銀翼の天使」が、純白の羽を広げる。
その羽の一つ一つが、高密度のエネルギーの塊。こぼれ落ちた羽が床面に落ちると、そこからあ
ふれ出した純粋な「力」が爆ぜる。それでも特殊合金製の床には傷ひとつ、ついていない。

43名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:47:20
「どうして!どうしてそんなことが言えるの!?なっちは、なっちは!!!!」
「つんくさん、『天使』の力が異常に高まってます!!このままでは危険です!!」

ダークネスの誇る超強化ガラスに阻まれてはいるものの、この状態は決して安穏としてられるも
のではない。
しかし前に出ようとした前田を、つんくの手が制する。

「俺としたことが、済まんな。まずは、邪魔なもんを取り払う」

前田の目の前に翳された手。
そのまま上に掲げ、そして、指を鳴らした。

ぱちん。

まるで、光り輝く雪のようだった。
前田は、はじめは「銀翼の天使」が能力を行使したのかと思った。
だが、そうではない。降り注ぐのは、それまで天使の檻が檻の体を成していた所以とも言える、
強化ガラスの欠片。
信じられないこと。それは、檻の向こう側にいた「天使」もまた同様であった。

あまりに突飛な出来事が、「天使」の組まれかけた武装を完全に解いていた。
それだけ異常な出来事が起こったということだ。

つんくは、能力者ではない。
それがここにいる人間の、共通認識だったはず。
しかし現実に、鉄壁の強化ガラスは、粉みじんに、跡形もなく崩れ去った。

44名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:47:56
「あなたは…」
「言っとくが、これは俺の『能力』ちゃうぞ」

いつの間に、背後に回り込まれていた。
迎え撃とうにも、ありえない行動速度の速さに「天使」の反射神経が追いつかない。
後ろから首を回し、顎を上げ、唇の隙間から「何か」を滑り込ませる。
吐きだそうとする「天使」、しかしそれはつんくが許さない。

「ま、専門分野やしな。薬の飲ませ方は心得ておま」

「天使」の喉に手を当て、口蓋の筋肉を弛緩させる。
小さな錠剤は、吸い込まれるようにして落ちていった。

つんくを突き飛ばし、床に突っ伏して咳き込む「天使」。
入れられたものを吐こうと、手指を突っ込んで嘔吐を試みる。が。

「無駄やで。飲んだ瞬間に胃に溶けて早く効く。それが俺の『プロデュース』した薬の特徴や」
「何を…飲ませた…の」
「安心せえ。効能は、『モルモット』で証明済みや」

その時だった。
天井に収納されていたアーム付きのモニターが、ゆっくりと降りてきた。
それとともに、液晶画面に映し出されるのは。

45名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:48:39
「『天使』さんに何を飲ませたのか。ぜひ、私にもご教授いただきたいものです」

白衣に身を包んだ、ダークネスの叡智。
組織の頭脳の統括者とも言うべき、紺野あさ美がそこに映っていた。
それを見上げるような格好になったつんくは。

「…世界ががらりと変わる、薬や」

厭らしく、唇を歪ませる。
そしてつんくは語り始める。弟子に、自分の研究成果を披露する。
ありのままに、全てを。

46名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:49:33
>>38-45
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

47名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:54:55
>>38-45 の続きです



治癒の力を注げど注げど、体を蝕む滅びの力は止まらない。
業を煮やした「金鴉」が取った行動は。

「しゃおらああぁあっ!!!!!!!!」

勢いよく噴出す、鮮血。
炭化した足の部位を鷲掴み抉り取るという、無茶苦茶な荒療治だった。

「…あんた、馬鹿なの?」
「ざまあみろっ!このボケナスが!!」

あきれ返るさゆみに向かって強がる「金鴉」だが、大ダメージは隠せない。
何せ腿の決して少なくない肉を抉ったのだ。動く事すら難しいはず。

「てめえの滅びの力なんざ、のんには効かねえんだよ!!」
「ふぅん。じゃあ自分の体が穴ぼこだらけのチーズになるまで頑張りなさいよ」

さゆみの視線は既に、背後の「煙鏡」のほうへ注がれていた。
今回の全ての計画を描いた人物。能力の強弱は不祥だが、警戒すべきは悪魔の頭脳。

48名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:56:06
「何や自分。あいぼんさんがそんなに可愛いからって、戦いの最中に見つめてたらあかんで」
「笑えない冗談ね。あんたはさゆみのタイプじゃないし」

余裕の軽口は、策を講じている証拠なのか。
幸い、目の前の相手は「もう問題ではない」。もう一人の相手の見せる余裕、その謎を解かなけ
ればならない。
さゆみは「金鴉」の怪力によって破壊された石畳の礫を拾い上げ、「煙鏡」に向って投げつけた。
すると、礫は奇妙なカーブを描いてあさっての方向に飛んでゆく。

「無駄やで。うちの『鉄壁』にはそんなん通用せえへん。そういう『ルール』やからな」
「ルール?」
「っと。サービスが過ぎたな」

自らの能力の性能を誇りたいが故の饒舌か、それとも。
考えあぐねていると、横からけたたましい声が聞こえてくる。

「てめえ!のんのこと無視してんじゃねーよ!!」
「別に。相手して欲しかったら立てばいいじゃない」
「こんなの…がっ!ぐううっ!!」

力んだ際に、撒き散らされる鮮血。
「金鴉」は生まれたての小鹿のように、よたよたとしか立ち上がれない。
しかしそんな姿を揶揄したのは。

49名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:57:08
「情っさけないな自分。全然相手にならへんやん。あんなんうちなら10秒で終わりやで」
「はぁ!?そこまで言うならあいぼん替われよ!」
「あほか。大将が出張るんは、先鋒が死んでからやろ」
「おいこら勘違い薄らハゲ。大将はのんの方だろうが」
「そんなボロクソに負ける大将なんておらへんわ。そらうちにも負け越すわな。つまり、負け越
しゴリラや」
「負けてねーだろ!1064戦1065勝、どう見てものんの勝ちじゃん!!」
「戦った回数より勝利回数が上回ってどうすんねん。相変わらず可哀想なおつむやな」
「は!可哀想なのはお前の死にかけの頭皮だろ!!」
「言うたな…この筋肉ゴリラ!」
「うるさいハゲ!」
「ゴリラ!」「ハゲ!」「ゴリラ!」「ハゲ!」

突如として始まった低次元な言い争い。
しかしさゆみはその状況に合点がいく。この二人、コンビを組んではいるが仲があまりよろしく
ないようだ。だから、二人一緒に攻撃を仕掛けてこないのだ。

「さゆみには、出来損ないのコントを鑑賞する暇はないんだけど」
「…ああそうかよ!!」

またも、ストックの血入り小瓶を取り出して飲み干した。
すると、どこからともなく集まってくる、黒い雲。いや、雲ではない。
やがて、空を劈くような無数の羽音が響き渡る。

「やっ!む、虫!!」

虫嫌いの聖が、近づいてきた「黒い雲」を見て顔を青ざめさせる。
そう、黒い雲のように見えたのはありとあらゆる羽虫の群れだったのだ。

50名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:58:23
「確かお前ら、『蟲惑』とやり合ったことあったんやろ。それはそいつの血の為せる能力や」

その名前には、さゆみたちも聞き覚えがある。
地獄から甦ったと自称していた、黒いプロテクトスーツを身に纏った女。ダークネスではない別
の組織に与したその女が、「蟲惑」の二つ名を名乗っていた。
となると。

黒い雲はやがて、「金鴉」の元に集まり姿を覆い隠す。
千切れた筋組織に食い込み、繋ぎ、補う。虫の寄生力が実現する、究極の超回復。
負傷していた足を、二、三振り。機能は問題なさそうだ。

「これで、動けるようにはなった。お前、ぜってーに殺してやるから」
「…その割には、あなたの虫さん、繋いだ先から死んでるけど」

さゆみの言う通り、滅びの力に侵された部位に食い込んだ虫は程なくして、その抗えない力の前
に命を散らしてゆく。だが、数が力を押さえつける。次から次へと死地へ赴く小さな軍隊は、指
揮官の命令を忠実にこなしていた。

「その虫の力がさゆみの『治癒の力』の代わりってわけね。でも、逆に言えば『滅びの力』への
有効な手段も失った」
「お前をぶっ殺す方法なんざ、いくらでもあるんだよ!!」

「金鴉」が、両手を広げてさゆみの前に突き出した。
鋭い羽音を立てて、黒い塊が襲い掛かる。ただ、避けられない速さではない。素早く身を屈めて
猛攻をやり過ごすと、まるでブーメランのように虫たちは帰ってくる。

51名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:59:17
再び交戦が、動に入った。
さゆみは駆け出しつつ、執拗に襲い掛かる虫たちを回避する。

「避ける事しかできねえのかよ、虫はどんどん増えてくぞ!!」
「…馬鹿ね」

挑発しながら、使役する虫を増やしてゆく「金鴉」。
一度人間の肌に止まれば、皮膚を食い破り中の組織へと潜り込む獰猛な虫だ。
しかしさゆみは、そんな虫たちを嘲笑うが如く、動きを止めた。
喜び勇んでさゆみの白い肌に着地した虫は、触れた足から即座に灰になってゆく。

「忘れたの?さゆみの体全体にも、『滅びの力』が行き渡っていることを」
「…ちくしょう!!!!」

どのような力を用いようと、「滅びの導き手」を打ち崩すことはできない。
それが例え複数の能力を「ストック」できる能力擬態の能力者でも。
自棄になった「金鴉」が、さゆみ目がけて突っ込んでくる。まるで先に命を散らした虫と同じよ
うに。

「金鴉」が纏っていた羽虫たちの一部は、主人からはぐれ、リゾナンターたちの周囲を煩く飛び
まわっていた。しかし、積極的に害をなすことはない。
香音は、気づいていなかった。
いつの間に、はぐれた虫の一匹が、密かに。
自らの首筋に、小さな噛み跡が、ついていることに。

懐に飛び込んだ挑戦者が、拳を振るう。
速い。しかし、避けられない類のものではない。
回避行動に入るさゆみの身に、「それ」は起こった。

52名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:00:34
「!!」

突然の、立ちくらみ。
いや、そんな生易しいものではない。
まるで体中の全ての力が、底なしの穴へと引き摺り込まれる様な感覚。
今までも、薬の副作用らしきものはあった。
けれど、これほどまでに強烈なものはなかった。
つんくからは、何も。何も、聞いていない。

躊躇、そして困惑。
目の前には唸るような「金鴉」の剛拳が迫っている。

問題ない。
さゆみはすぐに思考を切り替える。
回避したところを滅びの手で迎え撃つつもりではあったが。
直接攻撃を受け止めるのはややリスキー、しかし問題ない。
いかに相手の膂力が凄まじかろうが、さゆみの全身を覆う滅びの力によって拳の先から灰と化し
てゆく。問題は、インパクトの時に発生する衝撃をどう逃がすか。

それだけの、はずだった。
しかしさゆみが今、目にしているものは。

「道重さんっ!!!!」

春菜の悲痛な叫びが、こだまする。
「金鴉」の拳は、さゆみの胸の辺りを貫通していた。
当のさゆみの表情に苦悶の色は見えない。不可解、といった感じの表情。

53名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:01:44
してやったりの「金鴉」の顔が、徐々に変化してゆく。
この顔は。さゆみが見間違える、はずもない。

「あんた…鈴木の能力を」
「へへ。虫を飛ばしてあいつの血を頂いたんだよ。お前、のんが一度に一つの能力しか擬態でき
ないって勘違いしてたろ。あいぼんの言う通りだ、『弱いふりして油断させれば』相手は必ず隙
を見せるってな」

香音の能力「物質透過」。
「金鴉」はそれを盗み取ることで、自らの腕をさゆみの体に貫き通した。
何の殺傷力もない行動。それを、「金鴉」の厭らしい笑みが否定していた。

さゆみは重心を思い切り後ろに倒し、貫いた腕を引き抜こうとする。
だが、体はびくともしない。香音の能力で摺り抜けているはずの腕が、さゆみの体を離さない。

「みんな、道重さんを助けるよ!!」
「はいっ!!」

聖の言葉で、一斉にさゆみの元へと駆けつけようとするリゾナンターたち。
それも、見えない何かに阻まれ、近づくことすらできない。

「これからがええとこやのに。邪魔したらあかんで?」

「鉄壁」の能力。
香音が物質透過しようとも、衣梨奈がピアノ線で薙ぎ払おうとも、里保が一閃のもとに切り伏せ
ようとも。
びくともしない。亜佑美が戦ったスマイレージが一人・中西香菜の使役する「結界」には、まだ
物質的な感触があった。しかし。
「煙鏡」の操る「鉄壁」には、まるで手応えがない。あたかも、最初から切り抜けるのが不可能
かのような、絶望。
つまり。彼女たちの救いの手は、さゆみには届かない。

54名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:02:15
「ここで問題です。のんが今、物質透過能力を解いたら…どうなると思う?」
「…元あった物質が、入り込んだ物質を弾き飛ばす。つまりあんたの腕は」
「そう。のんの腕は強制的に抜き取られる」

さゆみは、気づいてしまった。
「金鴉」が、何をしようとしているかを。

「愉快な置き土産を置いてなぁ!!!!」

見えない力に吹き飛ばされるが如く、「金鴉」の小さな体が後方へと飛ぶ。
その腕には、穴あきチーズのような穴が、いくつも開いていた。
開いた穴から、幾筋もの滅びの煙を燻らせながら。

「道重さん!!!!!!!」

明らかにさゆみの様子がおかしいことは、すぐに後輩たちに伝わった。
顔は青ざめ、体が痙攣していた。もっと言うなら。
さゆみもまた、「金鴉」が拳を撃ち込んだ場所から、煙を立ち上らせていた。

「いっちょあがりや」

「煙鏡」の表情は、晴れ晴れとしていた。仕事を、終えたような顔。
そう、終わったのだ。その証拠に、彼女は既に「鉄壁」を解いてしまっている。

55名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:03:45
もうリゾナンターたちを縛り付けるものは何もない。
聖が、真っ先にさゆみのもとに駆けつける。今このメンバーの中で、治癒の力を使えるのは聖し
かいなかった。
風を切る迅さで、崩れ落ちかけていたさゆみを抱きかかえ、煙の出ている場所に手を翳す。
聖の血の気が、引いた。

「だめ…ふくちゃん…さゆみの中にはもう、滅びの…力が」
「そんな」

物質崩壊の使い手である以上、自らの力で自滅してしまう危険性は常に存在している。
それを防ぐために、全身に滅びの力の被膜のようなものを纏わせ、それを防ぐ。が。
あくまでも、体の表面だけの話。被膜を何らかの方法で突破されれば、体の内面は無防備そのもの。

こちらの弱点を的確に突くやり方、頭の悪そうな「金鴉」が思いつくわけがない。
どちらかと言えば、後ろに控える「煙鏡」のやりそうなことだ。
なのに、どうして。同時に戦うことすら嫌がる関係のはずなのに。
いや。違う。大きな、思い違いをしていた。もし本当にそのようなことが可能なら。
迂闊だった。自分の至らなさを悔やみつつ、さゆみの意識はぷつりと途絶えてしまった。

信じられない。いや、信じたくない。
だが、紛れもない事実だった。

物質透過によってさゆみの体を貫通した、「金鴉」の腕。
「金鴉」は。自分の足を支えている蟲のいくつかを、自らの腕に寄生させていた。
滅びの力によって、死にかけた蟲を。

そして、置き去りにされた蟲たちは。
内部から、さゆみの体を蝕み始める。そのスピードは、聖の持つ複写の治癒の力ではもう抗うこと
はできない。
そんな状況とも知らずに、後続のリゾナンターたちもようやくさゆみのもとに到着する。

56名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:04:35
「フクちゃん!!」
「道重さんが大変なの!すぐに、体の中の蟲を取り出さないと!!」

駆けつけた里保の顔を見て、緩みそうな気持ちを引き締める聖。
本当は、泣き出してしまいたい。けれど、そんな暇があったら一つでも多くの行動をすべきだ。
不安で崩れそうになる心を、強い意志が懸命に支える。

「どぅーは千里眼で蟲を探して!えりぽんは糸を使って何とか蟲を取り出す。香音ちゃんはサポート、
優樹ちゃんは道重さんの中にいる蟲を瞬間移動。小田ちゃんは時間停止を。はるなんはみんなの集中
力が続くように力をわけてあげて!!」

できそうなことから、一見無謀なことまで。
聖は今思いつく、さゆみを救うことができるかもしれない方法を全員に告げた。
とにかく、やるしかない。躊躇している場合ではない。でないと。

「えりちゃん、糸、物質透過かけたから!」
「生田さんそこですっ!」
「やった、獲った!」

連携作戦は、徐々にだが功を奏してゆく。
その場にいた全員が、さゆみの命を救おうとしていた。
今ここで、彼女を失うわけにはいかない。

57名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:05:37
里保たちが最初に喫茶リゾナントを訪れた時。
リゾナンターのリーダーは高橋愛だった。
ダークネスの襲撃によって崖っぷちまで追い詰められた当時の状況は、逆に言えば再起のチャンス
でもあった。弛まぬ努力は新垣里沙に受け継がれ、さゆみの代に結実した。

右も左もわからない新人たちが、曲がりなりにも能力者社会にその名を知られるレベルにまで成長
したのは。間違いなく。

だから、失ってはいけない。

春菜の表情が、強張る。
そして何かを探すように、さゆみの手を取り、言った。

「道重さん…息、してません…」

晴れていたはずの青空は、いつの間にか灰色にくすんでいた。
低く垂れ込める雲、一陣の風が吹き込むと、ぽつり、ぽつりと大粒の雨を落とし石畳に染みを作っ
てゆく。

「え…?」

言葉が、頭の中に入って来ない。
言葉の意味が、たった一つの事実に結びつかなかった。


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