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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

1名無しリゾナント:2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

288名無しリゾナント:2014/11/07(金) 06:37:50
口を尖らせて、なおぶつぶつと愚痴を垂れていた芽実。
その頬が突然、赤く腫れ上がる。

「え? いたっ! なに、ちょっと」

まるで、何かにぶつかった。
いや、まるで誰かに殴られたような。
否。芽実は実際に「誰か」に殴られたのだ。

「りなぷーでしょ!!」

涙目になってその名前を呼ぶと、芽実を殴った誰かがやる気なさそうにぼんやりと姿を現しはじめた。

「ひどいよいきなり殴るなんて!て言うかいつからいたの!?」
「さっきから。いつ終わるかなって待ってたんだけど、それかタケが切れて殴って終わるかなとか思ってたんだけど。
ぜんぜん終わんないし」

姿を現した脱力系少女・勝田里奈が、殴った拳をまじまじと見ながら、そんなことを言う。
朱莉のさすがに朱莉でもそこまではしないよ、という言葉などまるで耳に届いていないかった。
ちなみに彼女の能力である「隠密(ステルス)」は、厳密に言えば姿を消す能力ではない。

姿を隠す、と言えば今は亡き光の使い手・前田憂佳の十八番であったが。
彼女が光の屈折率を利用し、物理的に姿を隠していたのと、里奈が姿を消したのは根本的に仕組みが違う。

ざっくり言ってしまえば、射程範囲の対象から自分の存在を「消す」能力。
相手の精神に働きかけて自分の姿を認識できなくしてしまうので、能力の影響下にある人間には彼女が「見えない」。
無防備の芽実に放った拳は、まさにステルスパンチといったところか。

289名無しリゾナント:2014/11/07(金) 06:39:16
「それよりさ、かななんは? 一緒だったんじゃないの?」
「香菜なら、結界に和田さんっぽいのが引っ掛かったって言って、様子見に行った」
「あ、そう。りなぷーは見に行かなかったんだ」

たぶん面倒臭いからだろう。と朱莉は思いつつ口には出さなかった。
今は、殴られたことに気を取られている芽実の魔のゾーンから救い出してくれたことに感謝しよう。餅巾着を食べてい
るのを見て「共食いだ」などと揶揄したり、朱莉の鼻が低いのをもじって「はな ひくし」と悪口を言うのも3回くら
いは見逃してやろう。そう思った。

「でもさ…和田さん、大丈夫かな」
「さぁ。香菜の『結界』は何が引っ掛かったのかはわかるけど、それが生きてるか死んでるかまではわからないし」
「ちょ、りなぷー!!」

里奈のあまりな物言いに思わず目を剥く朱莉。
確かにその通りなんだけど、それをさっきまでネガティブモードに入ってた芽実の前で言うかね普通。と呆れつつ。

「そうだよね…和田さんにもしものことがあったら。福田さんはこう、引っ張ってくようなタイプじゃないし。そした
らめいたちが中心になって…やっていけるのかなあ」
「ほらきた」

想定内の芽実の反応に、思わず朱莉からそんな台詞が出てきてしまう。
これでは振り出しに戻ったようなものだし、芽実は殴られ損だ。案外里奈も自分でやっておいて殴り損だなどと思って
いるかもしれない。

290名無しリゾナント:2014/11/07(金) 06:40:05
「たったったたいへんや!!」

そんなところに飛び込んできた関西弁。
全速力で走ってここまで来たのだろう。中西香菜はぜえぜえと息を切らしながら、部屋に上がりこむ。

「おかえり香菜」
「反応が冷静すぎるよりなぷー」
「ちょっとかななん何が大変なの」

三者三様の対応に、少しずつ息が整ってきた香菜は。
何か言いにくいことを吐き出すような表情でこう言った。

「あんなあ、実は和田さんが…」

291名無しリゾナント:2014/11/07(金) 06:42:54
>>286-290
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

292名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:34:35
【お知らせ】
他の作者さんの作品に登場するキャラのスピンアウト的な単発を一本。
ぶっちゃけリゾナンターは出てきませんが、もしそのことに不満を抱かれるであろう方に一言。

>>155が悪い

293名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:36:34
「舞美、遅っ」

遅れて到着したリーダーをからかおうとして口にした言葉が途絶えた。
血が流れている。
矢島舞美の美しい顔から出血している。
誰にも傷つけることなどできないはずの“invincible”である筈の存在。
無敵でなければいけない矢島舞美の唇から血が流れているのだ。
驚かないわけには…。

「ひゅひゃあ、ついうっかりして」

うん、アホだ。
平常運転のアホ舞美だ。
舞美の両腕には直径20cm、長さ80cmぐらいの金属製の円筒が抱えられている。

「置時計の振り子の後ろに隠してあったんで分解しようと思ったんだけど」
「ごめん、話が見えてこないんだけど」

舞美の抱えているのはどうやら爆発物。
それを分解しようとしたことまでは分かるが、それがどうして唇から血を流すことに繋がる。

「よくハリウッドとかだとさ、爆弾解体の時には工具的な何か咥えてたりするじゃん」

洋画で描かれる爆弾の解体作業を真似しようとしたものの、適当な工具を持っていなかった舞美は…。

「愛用の銃剣を咥えてたら唇の端が切れたって馬鹿丸出しっていうか意味無いじゃん。 あんないかつい銃剣なんか細かい作業に仕えるわけないし、どうせ素手で分解したんでしょ」
「あぁ傷つくな、なっきー」

私たちのやり取りを聞いていた舞の顔が蒼ざめている。

294名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:37:36

「ごめん、舞美。それ私が担当したルートだよね。見落とした」
「う〜ん、いいよ。私だって何か食べるものが隠してないか探してたらたまたま見つかっただけだから」

嘘だね。
舞美は嘘を言っている。
譜久村家の所有する山荘を急襲、内部にいる人間を生死を問わず確保。
その指令に応えるべく、三つの経路からの侵入。
指令が文字通りの指令であるか、あるいは罠であるか。
いずれにせよ脱出経路を確保しておくために、セキュリティの解除と爆発物の有無を確認しながらの侵入を敢行。
簡単で単調な作業をゲームにするために、侵入時の最終目的地である大広間までのタイムトライアルに仕立てたのは私だ。

他のチームが二人一組。
自分は一人だというハンディを背負ってるのに、おそらくは他の2チームのルートもクロスチェックしたんだ。
三つのルートを回りながら、5分30秒程度の遅れ。
ほんとうに、このバカときたら。

「でもよかったよ」
「何が」

即時に反応したのは舞美同様、私たちの中では白兵戦担当のちっさーで。

「だって私たちに拘束されるかわいそうな譜久村家の一族なんて最初からいなかったんだから」
「もう舞美ったら〜」

状況から考えて今回の任務は最初から私たちを誘き寄せる為の罠だった。
かわいそうな譜久村一族はこの山荘にはいなかったっかもしれないけど、敵さんはわたしたちをかわいそうな目に遭わせる気気満々みたいなんだけど。

「ちっさー、この爆弾の匂い嗅いでみて」

295名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:38:08

片手でひょいっと投げた円筒を全身で受け止める千聖。
その意外な重さに驚いたのか、抱え込むようにしてその場に座り込む。

「火薬の量はそんなに多くないみたいだし、燃料系でもない。金属片が入ってるっぽいけど」

私には到底できない臭覚で爆弾の中身を解析していく千聖。
小型のクラスターで私たちに手傷を負わせるのが目的なのか。
たとえ捕まえることが叶わなくとも、千聖や舞美のDNAを採取できたら敵さんには御の字だろうし。

「いやっ、さっき振り回してみた感じだとチャフっぽいね」
「ちょなんで爆弾を振り回したりするかな〜」
「うふふ、ごめん」

チャフは通常、電波障害を引き起こすためのものだけど、それを実内で私たちに対して使う目的は…。

「ジャマー系の能力阻害」
「ピンポンピンポンだろうね。 おそらくは位置認識の阻害が目的かな。屋外には十中八九、大型の電磁波発生装置もスタンばってると見た」
「じゃあ早く逃げなきゃ」

能力の阻害というキーワードを聞いた舞が焦ったような顔をする。
通常兵器相手ならほぼ無敵というか完全に無敵なんだからもうちょっと落ち着いてもいいと思うんだけど。

「え〜お腹が空いてるのにすぐに動けないよ」
「あんたね、携行糧食はどうしたのよ」
「久しぶりに5人揃っての出撃じゃん。 あまりにも楽しみだったから昨日の晩寝れなくてさ〜、食べちゃった」

このアホリーダーは。
敵さんも決して馬鹿じゃない。
私たちの能力の全容までは把握してなくとも、その一端は掴みかけてるし、それなりに対策してるっぽい。
過大に評価する必要はないけど、甘く見すぎるのも禁物だと思うんだけど。

296名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:38:53

「ごうぢゃがばいリまじだよ〜」

ちょ愛理。
見かけなかったと思ったら、何暢気に紅茶なんか入れてんのよ。
ガスとか簡単に爆発させられるし、さすがにここはリーダーとして一言言っとかなきゃ。

「さすが愛理ママ、気が利いてる〜。あと何か食べる物は?」
「グッギーばぁっだばぁら開げざぜでぼぉらっばぁけど」

ダメだ。
他人のこと言えた義理じゃないけどアホばっかしだ。
舞なんか硬直し始めてるし。
そうだよね、薬物を仕込まれてる可能性だってあるし。
千聖!!

「ちょっと待って。 最初に私が毒見するから」

え〜っと嘆く舞美から取り上げたクッキーを咀嚼して、紅茶を半分くらい飲み下す。

「大丈夫。 多分だけど…」

わ〜いとクッキーに噛り付く舞美。
紅茶を口にする愛理。

「痛っ」
「熱っ」

だ大丈夫…なのか私たち。
口にするでもなくクッキーを割っている舞。
何事もなかったかのように紅茶を味わう千聖。
私は…私に何かあったら巻き戻せないから、うん。

297名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:39:25

「うわっビスケット。いいな〜」
「あんた昨日の晩に食べたんでしょ」

数枚のクッキーでは物足りないらしい大食漢が物欲しそうに私の手元を見つめてる。

「欲しいのならワンとお言い」
「ワワン!!」

馬鹿犬に糧食用のビスケットを放り投げる。
こんな時は同じバカでも舞の方がまだ話相手にはなる…筈だ。

「以前はともかくここ最近は防衛さんともトラブルはなかったよね?」
「…うん。多分あの喫茶店の案件で不満があったんじゃないのかな」

舞の口から発せられた喫茶店という言葉に私を含めた他のメンバーが反応する。
物憂げな表情を見せる愛理。
懐かしげな貌になる千聖。
私の心は高まるというほどではないが、少しざわつく。
舞美はというと不敵な笑いを浮かべ。

「はる坊に釘は刺しといたよ。あっ釘を刺したら怪我しちゃうね。まあ軽く警告ね」
「でも防衛さんの希望は…」
「シャーラップ」

いつになく強い口調で舞を黙らせる。

「あいつらの胸の内とか腹の中とか興味ないから。腹芸がしたいなら自分らの宴会で好きなだけやってりゃいい」

それはリーダーとしての最後通告だろう。
この状況を作り出した防衛省周辺との関係を丸く収めるつもりは無いという。

298名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:41:44

「舞、イエスかノーで答えて。 電磁波系のジャマーを喰らった状態で自分以外の誰かを銃弾から守れる」
「多分、無理。 私一人だけならデフォルト状態で問題ないと思うけど位置感覚をずらされると他の誰かはきつい」
「オッケー。 じゃあ一番ジャマーの影響が少ないであろうちっさーが先行して、阻害装置。多分トレーラーかなんかに偽装してるやつをぶっ壊して、ついでにその辺をしっちゃかめっちゃかにかき回して」
「了解」

矢島舞美はバカだ。
それもかなり残念な部類のバカだが、こういう状況。
仲間に危機が迫ってる状況下で彼女が下す判断は限りなく正しい。

「ちっさーが突撃してから時間差で愛理、早貴、舞が発進。舞は能力で二人を守って」
「あのさ…」
「何?」
「私だったら阻害装置が壊されることを想定して、他に何台か配置しておくけど。逃げ道を想定してさ」

舞のネガティブ思考がまた始まった。
舞美はというとその掌で舞の頭を撫でている。

「えらいね〜。舞のそういうところに私はいつも助けられてるよ」

ネガ舞を慰撫しながら、その恐怖心を取り除いていく。
能力阻害用の電磁波は指向性の強いものでなければ意味を成さない。
したがってその有効範囲は普通の電波のように広範囲というわけにはいかない。
かなり狭範囲になってしまう。

「ちっさーが一台ぶっ壊せば、一定時間の安全は確保できる。それでいい」
「でも…」
「私たちの生命線は愛理の歌で、私たちの切り札はなっきーの能力。でも今二人を守れるのは舞の能力しかないから」

両肩を抱かれ見つめられていた舞の瞳に炎が点ったのがわかる。
それはとても弱々しいけど決して消えることのない魂の焔。
でも肩、痛そう。

299名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:42:31

「四人はそのまま全速離脱。後は…私一人で殲滅するから」

千聖が私の顔を窺ってきた。
血みどろの白兵戦を展開する決意をした舞美を一人で戦わせていいのか。
自分たち、少なくとも自分ひとりだけでも反転して援護すべきではないかという思い。
矢島舞美は無敵のバカだ。
しかし自分の強さに驕り単独先行するような愚か者ではない。
今、舞美は自分に怒りを覚えている。

防衛省周辺との融和路線を選択することで、私たちを欲しがっているどの機関とも等距離の関係が築けるという甘い考えを抱いた自分に激怒している。
能力者に人格があるとは思わず、只の数値として捉え国益とやらに貢献させようという人間が国の中枢にいまだ存在する事実に憤怒している。
今宵これからの戦いで実際に血を流す兵士の殆どは自ら意思決定する権限を持たず、実際の責任者は安全な高みから見下ろすという不公平な構造に義憤を抱いている。
でもそんな状況でも矢島舞美は絶望しない。
絶望して、全てを投げ出して、壊れてしまった方が楽だとしてもそんな道を決して選択しない。
それが矢島舞美だ。

私たちを導くリーダーとして、全ての責めを負うことで辛うじて、舞美はかつて犯した過ちの贖罪を果たし続ける。
だったらそんな舞美の決断に口を挟むことなど誰が出来ようか。
ゆっくりと首を振った私に頷く千聖。
これから創り出す状況は決まった。
後は…。

「ちょ舞美、時計外してどうするの」
「いや〜、いろいろご馳走になったからせめて、ね」
「ねって、私たち罠にかけられたんだよ」
「でも譜久村の人たちもぐるだったかはわからないし」
「もしそうだとしても譜久村家ってちょっとした財閥並みの金持ちだよ」

300名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:43:32

腕時計を紅茶やクッキーの対価として置いていこうとする舞美を千聖と舞が諌めている。

「でぼ、じがんばばぜしじどがばいぼ、ぼればらのぼうぼうにじじょうぼぎだすんじゃ」
 (でも、時間合わせしとかないと、これからの行動に支障をきたすんじゃ)

ナイス、愛理。
滑舌は相変わらずだけど、ナイス。
でも舞美がここまで正しさを貫いてみせるってことは、逆に今夜これからとっても酷いことをするってことだからさ。

「そうだ、これ持っとく」

私はデジタルオーディオプレイヤーを舞美に投げた。
ディスカウントストアで買った安物なんだけど、ちゃんと動画も映るやつ。

「前に言ったでしょ。 私たちと同じ五人のグループの新曲。そのパート割を時間の目安・・・」

えっえっえっえっ。
私掴まれてる。
舞美の掌で頭を鷲づかみにされて、宙吊りにされて、痛っ。

「どうして、そんなことするのかなあ」

はぃ?

「そんな違法ダウンロードなんかアーティストの人に何も還元されないのに」

ちょ待ってって。
タップタップタップ。
離せないから少し手を緩めて地面に下ろして。

301名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:45:03

「ここれ公式のPVだから。違法じゃないから許してお願い」
「じゃあちゃんとシングル買う?」
「買うから。帰ったらちゃんと買うから」
「じゃあ許す」

鉄枷から解放された私の真似を千聖がしてる。

「私、帰ったらCD買うんだ。 はいなっきーの死亡フラグ立ちました」

お前なあ。
わたしはあんたと違って身体は普通の人間並みなんだから。
拳を振り上げる私に笑って見せるとジャケットのフードを上げる。
もう千聖は戦闘態勢に入りつつある。

「へえ、I miss you か。良さげだね」
「でしょ、でしょ。そのPVも大きなお屋敷で撮影してるし」
「でもここの譜久村邸よりはちょっと貧相かな」

肩耳にイヤフォンを挿し、小声で口ずさみながら冷静な比較。
愛理も自分向きのパートを歌ってる。
前から言おうと思ってたけど歌う時は滑舌良いよね。

「でも…この子たちいい気なもんだね。こんな衣装を着てお化粧して好きな歌を歌って踊って」

舞の気持ちもわからなくはないけどさ。

「それは違うよ」

おっバカリーダーが何か良いこと言いそうな雰囲気。

302名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:46:20

「多分、この子たちだっていろんな悲しみを経験して、それを引きずりながら何とか前に向かって歩いてるんだ、同じ」

みんなおんなじという舞美の言葉は現実とは多分かけ離れている。
でも舞美がそんなにまっすぐだから他のみんなもなんとかこの地獄の中絶望に飲み込まれず生きていける。

「わたしたちは大切なものを失った。それはもう取り戻せない。だからこれ以上失うわけにはいかない。あいつらにこれっぽっちもくれてやるわけにはいかない。だから…」

それは舞美の悲しみ、そして私たち全員の怒り。
二振りの銃剣を手にした舞美が号令を下す。

「これより状況を開始します」

私たちは独立特殊攻撃部隊“ Celsius ”
何度も打ちのめされてきた。
何度も大切なものを失った。
もう二度と負けるわけにはいかない。

303名無しリゾナント:2014/11/07(金) 18:50:26
>>-
以上『I miss you』的な何か
うん■■さんならせいぜい2レスで描ききる話だよね


--------------------------------------------ここまで

↑とりあえずアリバイ作りというか転載禁止対策としてここに投下しときます
本スレの方には夜、皆さんが寝静まったころに行ってくる予定
もし他の方が投下される場合は気にせず自分の方を優先なさってください

304名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:44:28
「大丈夫カ?怪我してナイカ?」
屋根の上のポニーテールの小柄な女性がたどたどしい日本語で優しい言葉を問いかけながら、振り返る
緑色の炎は一瞬の輝きを放ち、それは幻であったかのように鮮明に脳裏に刻み込まれてしまった
「・・・大丈夫です」「えりも」
頭に降りかかった瓦礫を払いながら二人は体を起こす
「それはヨカッタ。でも、まだカメイサンは元気デスネ」
女性は右手を腰のベルトに携えていた拳銃に手を伸ばした
「ここは危険だから、離れたほうがイイネ」

突然、二人の体が浮かび上がった、いや何かに、捕まえられたのだ
「な、なんや?」
「・・・パンダ?」
小田と生田はパンダの背中にのせられた形になっていた
しかし、それは遊園地にあるような子供向けのファンシーなそれではなく、獰猛な一個体として、であったが
「動くなっていうとると?・・・て待つと!そっちは危ないやろ!!
 新垣さんのピアノ線が張り巡らされているとよ!!怪我するっちゃ」
恐怖で顔が引きつるが、ピアノ線がどこにはられているのかわからないこの状況では当然であろう
しかし、生田は知らない、すでに何十ものピアノ線の中をこのパンダが突き抜けていることを
野生の動物、それに加え、鍛え上げられた肉体によりピアノ線はただの糸に成り下がっていたのだ

「パンダつええ・・・ピアノ線の中につっこんでいるのに無傷っすか」
「工藤、何言うとるんや!パンダやないやろ!っちゅうか、なんであいつもなんでここにおるんや!!」
「愛佳、それよりもカメに集中!」
すでに道重に足を治してもらった新垣は新たなピアノ線を手袋につなぎ準備を整え終えていた
宙に浮かぶ、その影をその場にいる全員が注視する

305名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:45:00
緑色の炎に焼かれたというのに、身にまとっている御召物一つ燃えていなかった
ただ宙にふわふわと浮いており、時々呼吸に合わせて胸が膨らんだり縮んでいるのを確認できるのみ
銃口を向けられているのにもかかわらず、無心の表情を携えている

銃を向けている側もある意味では同じ、表情を変えることはなかった。浮かんでいる表情は笑顔だが
「ハハハ、さすが亀井サンですね、私の炎くらいじゃびくともシナイ」
場違いとも思える明るい笑い声をあげているが、三日月の目の奥には鋭い眼光が光り続けている
「風で私の炎で燃やされる前に身を守ったンデスカ。前よりも強くなってマスネ。デモ、私も成長してルンデスヨ」

緑色に輝く弾丸が数発、放たれ亀井に伸びていく
彗星の尾のように弾丸の通過した後には緑炎の道筋が放たれた弾丸の数だけ描かれる
「・・・」
亀井は迫ってくる弾丸にも顔色一つ変えずに、腕をふる
弾丸に無数の切れ目が走り、原型を失うほどの細かな破片になる
緑色の炎をあびた火の粉たちはさらにふきすさぶ風にあおられ、点に昇っていく
弾丸と同じ緑色に燃え上がった拳銃を持ち、女性は満足げに頷く
「・・・やりますネ。デモ、ワタシ、あきらめ悪いデスヨ」
次々と銃弾を放ち続け、亀井はそれを砕き続ける

「す、スゴイ、二人とも・・・あの人はいったい?」
新垣が準備を整え、今にも亀井にワイヤーを伸ばそうとしながら早口で答えた
「あの子はリンリン。私や愛佳、さゆみんと同じく始まりの9人の一人
 中国の秘密組織『刃千吏』の幹部、のはずだけど、なんでここにいるかな?」
「それはジュンジュンが答えようカ?新垣サン」

振り返るとそこには、全裸の女性

306名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:45:30
「ちょ!ジュンジュン!何しとんの!」
「光井サン、お久しぶりデス」
「いやいや、久しぶりやけど、それどころやないやろ!何しとんねん!まだ高校にも上がる前の子もおるんやで」
「デモ光井さん、私の姿、慣れているダロ?」
「愛佳は慣れとっても、ほかの子達が訳わからんやろ!!誰か、身にまとうものもってきて!」
慌てる光井に堂々としたジュンジュンと呼ばれた女性、その姿は滑稽に見えてしまう

「な、何者なんだろうね?」
こんな場所に突然全裸で現れた不審な女性に驚きを通り越し、引いている鈴木
その声を聴いたのか女性は鈴木はとっさに横にいた石田の後ろに隠れようとした(実際には隠れることはできなかったが
「・・・」
「な、なんですか?私の顔に何かついてますか!!闘るっていうなら闘りますが!?」
自分よりも背丈20cm以上高いであろう女性に対しても強気に出る石田
「オマエ、いい匂いするナ」
「!!」

「はい光井さん。服とってきました!」
「あ、それ、さゆみのジャージ!!」
「へ?なんで道重さんのジャージがなんでここにあるんや?」
その答えはジャージを持っている人物の無邪気な微笑みだった
「へへへ、まーちゃん、急いで跳んでとってきたんですよ!みにしげさん、褒めてくださ〜い」
凍り付く光井の表情、恐る恐る口を開く
「・・・佐藤、リゾナントまで飛んできたってこと?」
「はい!」
「・・・またテレポートできる?」
「え〜まさ、疲れたなう。しばらく無理うぃる」
「ドアホ!!!」
「え〜なんで怒ってるんですか?」

307名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:46:00
そんな喧騒に巻き込まれることなく鞘師は生田と小田のもとへと駆け寄っていた
「二人とも大丈夫?」
「えりは大丈夫やけん、ジュンジュンさんめっちゃ強くて速いと!」
「・・・石田さんのリオンと同じ、いやそれ以上かもしれないです
 ・・・それより、亀井さんと闘っているあの人、危ないです」
「危ない?」
小田の言いたいことの意味が分からず、同じ言葉を繰り返す鞘師
「・・・亀井さんは『何か』隠しています」

上空には浮かんだまま弾丸を弾き続ける亀井。そんな亀井に向かい屋根の上で弾丸を放ち続けるリンリン
「え?えりの目にはリンリンさんが一方的に押しているようにしかみえんと
 それにしてもリンリンさんの弾丸一向にきれないっちゃね」
「・・・あれは弾丸というよりも直接炎を発射しているようですよ、生田さん」
「うん、あの拳銃はただの飾り、といったところだね、なんでそんなことをしているのかわからないけど」
「え?小田ちゃんも里保も気づいてたと?」
「うん、もちろん」

そんな会話を知ってか知らずか、リンリンは拳銃をホルダーに戻した
その姿をみて、亀井も腕をおろし、ゆっくりと地上へと降りてくる
「やはり直接、組まないと倒せないデスカ」
両手を前に突き出し、膝を軽く折り曲げ構え、四肢に緑炎を纏う
そして、改めて笑い、左足で地面を強く蹴る

(速い!)
靴底から炎を放ち、その遠心力を利用し、さながらロケットの如き速さで詰め寄る
その速さの中で、的確に鋭く亀井の首めがけ、同じく炎をまとった手刀が振り下ろされる
亀井はその手刀に左腕を合わせ大きく払いのけ、同時に体の重心を落としリンリンの懐に潜り込もうとする
それを待っていたかのようにリンリンは伸ばし切っていた膝を折り曲げ、下りてこようとする亀井の顔面に狙いを定める
それを体の柔軟性を用いて反り返りながらも、リンリンの反対側の足に自身の足を絡ませて倒そうとする
それを瞬時に察知し、リンリンは炎を足底から噴射し空中に逃げこんだ

308名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:46:35
二人の攻防をみて何が起こったのかわからないメンバーも多かったであろう
鞘師や小田にとっては一つ一つの動きの意味を理解できただろうが、ただ逃げただけに見えないものもいた
飯窪にとっては何もみえなかった、と言わざるを得ないものであり、近くにいた工藤に開設を求めていた
しかし工藤自身もすべてを把握するには至らず、解説をする頃にはすでに亀井に向かいリンリンが再びとびかかっていた

「サスガ、亀井サン、強いですネ」
ジュンジュンはのんきに腕を組んで、瓦礫に腰掛けながらバナナを食べ始めていた
「ちょ、ジュン、どこにバナナおいてあったん?それおいてあるんやったら服用意してれば」
「ん?してたぞ。デモ光井サン、ジュンジュンの話聞かないで勝手に服もってコイとイッタ」
「・・・そうなん?」
「ソウダ」
そして大きな口でバナナを食べ、食べたそうにしている佐藤に向かい、食べるか?といって差し出した
食べる!といってジュンジュンの横に座り食べだした佐藤をみて、この子もかわいいナとつぶやいた

「ねえ、ガキさん、それよりえりをなんとかしないといけないんじゃないですか?」
「そ、そうだね・・・う〜んと、みんな、作戦言うからしっかりと聞く!いっかいしか言わないからね
 鞘師と小田は石田のリオンにのってカメに直接向かう、佐藤と飯窪、ふくちゃんはさゆみんの警護
 飯窪と工藤は愛佳の予知を私達に伝えて、生田は私と一緒にサイコダイブの用意を」
「新垣さんと一緒に?えり、がんば・・・」

そこで生田の近くに何かが勢いよく落ちてきた
砂埃があがり、じきにその何かが見え始めると、生田はひぃっと叫び声を上げた
「て、手首っちゃん」
それは間違いなく人の右手であったもの。切断された断面からは骨がのぞいている

あわてて亀井とリンリンのほうをむくとリンリンの右手首から上がなくなっていた
「アハハ、やはり亀井サンは強いデス」
地面に尋常ではない量の血だまりができあがっていた。左手で右手首をやいて止血しているようだ
「しかし、リンリンの右手で亀井さんにそれだけの傷を負わせられるなら本望ですね」
なぜか笑うリンリン

309名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:47:31
亀井はというと・・・来ていた衣服に穴が開き、そこから赤く焼き爛れた皮膚がのぞいていた
特に顔面は左目の周囲から頬にかけて真っ赤に腫れていた
「美人の亀井サンには申し訳ないデスガ、手加減できないですからネ」
しかし、亀井はそんな傷の痛みを感じていないのかゆっくりとリンリンに近づいていく
「とはいえ、あはは、リンリンマン、ピンチですね」

一歩、また一歩と近づく穴の開いたブーツを履いた女
煙をあげるパンツから覗く赤く爛れた肌
痛みを感じていないのであろうか、歪むことなき無表情

「ちょっと、何してるんですか!新垣さんも光井さんもジュンジュンさんも!
 仲間がピンチだっていうのに、なんで動かないんですか!道重さんも!・・・もう、私が行く!!」
しびれを切らしたように集中力を高める石田
月明かりに照らされ、青き幻獣が現れ、石田はその背にまたがる

そして、倒れこむリンリンの元へと向かわんと、リオンは強く地面を蹴った
しかし、リオンの動きは光と闇の色を持つ獣の腕に妨げられた
「な、なにするんですか!!」
獣は何も言わず、リオンを抑え込む
「仲間を助けないで何をしているんですか!いま、すべきことはリンリンさんを助けること」
「おまえじゃ、助けられナイ、かわいい後輩、無駄死にさせるわけイカナイ」
「な、なんですか!先輩とはいえ、私だって怒りますよ」
とはいうもののリオンは完全にジュンジュンに抑え込まれ、身動き取れなくなっていた

「せやから」
にじみ出るリンリンの汗が月夜に映える
「こういうトキは」
ザスッとした砂利を踏む亀井の足音
「ハァ、悔しいけど、頼りになる」
満月が宙に浮かび、影が大きくなる
「仲間に任せるの」

310名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:48:11
何者かの影が飛び出し、亀井の腹をけり上げ、亀井は勢いよく転がっていく
「ニシシ・・・ヒーローは美味しいところだけいただくものっちゃん」
不良にしかみえない佇まいはあの日別れたまま、しかしそこに秘めた頼もしさはあの日以上
「ほら、リンリン、立つと。エリに負けるとかありえんちゃろ?」

しかし、驚くのはそれだけではなかった
すぐに亀井が立ち上がった、しかし、ゲボッと血の塊を吐き出した
「ありゃりゃ、れいな手加減せんかったけん、やりすぎたと?」
「イエ、私も本気でしたカラ、バッチリです」
リンリンを背負いながられいながあほか、と呟き、笑う
「でも、えりがこんなんで倒れると思うと?」
「ナイデスネ」
その通りであった。己の吐いた血を見ても動じることなく、ただただ二人を、リゾナンターを眺めていた

血が得意ではない工藤にとってその光景はさぞおぞましいものであったのだろう
内心、気持ち悪かったのだが、逃げるわけにもいかない、とあえて他の視線から亀井を観察しようとした
・・・と、あるものに気づいた
「道重さん」
ぽつりと工藤が報告する
「なに、工藤?」
「亀井さんの力って・・・風使いと傷の共有、それだけですよね?」
「??? そうだけど・・・何?」
「・・・亀井さんの傷が治ってます」

そうなのだ、ゆっくりとであったが、亀井の傷が少しずつふさぎ始め、赤く爛れた肌も元の肉感的な色を取り戻していた

それをみて慌てるのは鞘師や生田、譜久村をはじめとした、始まりの9人以外
新垣、道重、田中、光井、ジュンジュン、リンリンは物怖じもしていない
それどころか、新垣はため息を漏らしていた
それを見逃さなかったのは鞘師と小田の二名
(今、新垣さんため息を??)(・・・何か知っているんでしょうか)

311名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:49:08
「何をしているんだ亀井!!何をもたもたしている!!
 田中に新垣に道重に光井、リンリン、ジュンジュン、それに9人もそろっているんだ!!」
甲高い声が糸のように張った緊張感を切り裂いた
「詐術師!!おったと?」
「な、このおいらのことを!!おい、亀井!」
「・・・」
「この、生意気ななんちゃってヤンキーをやっつけろ!!」
亀井は動かない
「おい、聞いているのか!!亀井、お前、先輩の言うことがきけないのか!
 おい、反応しろよ!時間の無駄なんだよ!!役立たずが!」
そこで亀井はぴくっと反応し、詐術師へ顔を向けた
「お、そうだ、それでいいんだ、少しは反省するんだ、おいらはオリメンにもっと・・・」
そこで詐術師は体の異変を感じた。人並み外れて饒舌なはずの口が動かしにくいのだ

「ふ、譜久村さん、あれ・・・」
「え、そうみえますけど、そんなこと・・・」
「いやいやいやいや、嘘だ、嘘だ、嘘だから、嘘だから」
慌てる敵の姿に急に不安になった詐術師は喉元に手を伸ばした。しかし、妙に風を感じるのだ
(なんだ?いやに体が軽いぞ)
喉に手を当てたが、おかしい、何も触れられないのだ
(???)

そして突きつけられる現実、水溜りに映る自分の姿
腕が、喉元に当てようとしたはずの腕が、途中から淡い光になって消えていっているのだ
月の光に照らされ、淡く桃色に光って自身の体が溶けていく
(な、なんだよ、これ!!)
そう、叫びたくても、すでに喉も光に溶けていき、声は静寂に置き換わる

人の体が闇に飲み込まれる、恐ろしいはずの光景なのにリゾナンター達は目を離せなかった
元々小柄の詐術師の体が少しずつ、桃色の光に浸食されていく
一人の人間が闇に溶ける、そんな光景が美しく目が離せないのだ

312名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:49:50
とはいえ、消えかけていく当の詐術師は気も狂わんばかりに暴れ続ける
口であった、大きな穴から、声が出ているのであれば壊れんばかりの叫びをあげている
その音は誰にも届かない
恐怖、それだけであろうか、絶望を受け入れなかった者の最後の表情をうかべた


詐術師は消えた、痕跡すら残されていなかった

しかし亀井は笑わない、怒らない、泣かない、悩みもしない
詐術師をけし、何事もなかったかのようにリゾナンター達の方を向いた
「・・・」

各々背中に汗が流れるのを感じ、無意識に力が入る
(いま、わたしに何ができるのだろうか?)
重苦しい空気に肺がつぶされそうになり、呼吸一つすらまともにできそうになる

しかし、意外なことに亀井はリゾナンターから視線を外し、自身の燃えた服に触れた
そして―何もすることなく浮かんでいく

「ま、まって、エリ!待つの!」
親友の声に耳を貸さず、空高く昇っていく
それを待っていたかのように、宙に穴が開き、そのなかに亀井は姿を消した
振り返ることなく亀井は去って行った

「あれはダークネスのワープ装置ですね。ということはまだ亀井さんは」
「うん、ダークネスの側にいるってことだね」
早くも周囲に一般人がいないか、確認しだす新垣と光井

「シカシ、リンリン派手にやられたナ」
「ハハハ、亀井サン、強かったネ。ジュン、バナナくれ」
「ダメダ」

313名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:53:12
「で、でも、助かったっちゃね。あの力、今のえり達じゃどうしようもないと」
地べたに疲れ果て大の字になって倒れこんだ生田
それを覗きこみながら「生田、お疲れ」と鈴木が笑う
「でも、あの力ってなんだろうね。あれって風の力なのかな?」
「ねえ、くどぅー、くどぅの目ではどう視えたと?」
寝ころんだ姿のまま首だけ工藤に向けて尋ねる生田

「はるの眼には、詐術師の体が、こう、溶けていくみたいで、風に吹かれるようではなかったです
 なんていうんでしょうか、こう、お風呂の中に温泉の元をいれたみたいに・・・」
「でも、きれいだったね!」
「まあちゃん!何言ってるの??
「だって、詐術師さんの体、ピンク色に輝いていたんだもん、はるなんも思ったでしょ」
強く否定しきれなかった飯窪は黙るしかなかった

「・・・あの、道重さん」
「なに、りほりほ?」
「・・・私達に隠していること、あるんじゃないですか?」
表情が答えを示していた、明らかに答えはYES
「私達と比べて道重さんたちはあまり驚いていないようにみえました。
 みなさん、なにか知っているのではないんですか?」
「さゆ、隠しても無駄っちゃろ、いわなきゃいけないこともあると。もうれーな達だけの問題やないけん」
「そうだね、私も田中っちに賛成なのだ。この子達もリゾナンターなのだから伝えておくべきだと思う」
いつの間にか新垣と光井も近くに来ていた

「ジュンジュンもそう思うゾ」
「私も同じデス」

「・・・そうね、わかった。れいな、でも、さゆみの口から言わせてほしいの。だって、始まりは・・・」
「わかっとうよ。さゆともえりともれーなは、くされ縁やけん」
「ありがとう。ねえ、みんな、大事な話があるの、しっかり聞いてほしいの」
そして、道重の口から真実が語られることとなる

314名無しリゾナント:2014/11/08(土) 22:56:14
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(5)です
100話おめでとうございます。
これからも素直に面白いと思える話が出続けることを期待させていただきます。


ここまで代理よろしくお願いいたします。

315名無しリゾナント:2014/11/09(日) 01:26:21
いってきます

316名無しリゾナント:2014/11/09(日) 02:35:58
いってきました
途中連投規制回避のため間が空いてしまいましたw

317名無しリゾナント:2014/11/10(月) 01:49:56
■ ミッシングメモリー −道重さゆみ− ■

ガキさん達に繋がらない。

嫌な予感が、大きくなる。

どうしよう…、どうしよう。

よりによって、こんなときに、ねえ絵里、どうしよう。

リゾナントへと戻る道重さゆみの足が早まる。


「『亀井絵里』です『か・め・い・え・り』、そんなはずないでしょ!」

はっとする、思わず声が大きくなった、だがそんなことをしても意味などなかった。
無駄、無駄だった。

「いいえ、『亀井絵里』さんという方が、入院している記録はありません」

だれも、亀井絵里を覚えていなかった、どこにも記録は残っていなかった。
看護婦さんも、担当の先生も、誰一人、誰一人、覚えていない。
「道重さゆみ」のことは、みな覚えている、それなのに。

318名無しリゾナント:2014/11/10(月) 01:51:02
不自然だ。

そもそも、この病院の関係者にとって、
道重さゆみは「うちの患者の亀井絵里さんに面会に来る道重さゆみさん」だったはずだ。
それが「うちの患者に面会に来る道重さゆみさん」になっていた。
その患者が誰か、を、誰も覚えていない。
興味すら、示さない。

無かったことになっている。
存在しない。
最初から、いない。

拉致?能力者?組織?

思考が千々に乱れ、不安だけが心を支配していく。

立ち止まる。

だめだ、しっかりしてさゆみ、考えて!考えるの!

かけ続けていた携帯を切る。
はやる心を抑える。
暫く考える。
考える。

そして、再び携帯を。
踵を、返す。

「ふくちゃん、お願いがあるの、今すぐ来て!」

319名無しリゾナント:2014/11/10(月) 01:51:50
>>317-318
■ ミッシングメモリー −道重さゆみ− ■
でした。

320名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:12:13
【お詫び】
「黄金の魂」という題名に相応しい崇高な物語になるはずだったんです
だったんですが、なんだか最低な話になりつつあります。
共鳴って素晴らしいねって思っておられる方にとっては許せない内容かもしれませんね
回避した方がいいかもしれないと誘い受け

>>-の続き

更にだ…。
朝目覚めると何故か立ってるんだ。
ちゃんとベッドで眠ったはずなのに立った状態で目覚めるんだ。
そして頭の上には大皿に盛られた汁満タンの冷やし中華。
足元にはお気に入りの服が広がってる。
腕は使えない。
何故か
ガムテープで後ろ手に縛られてるんだ。
別に金属製の手錠とかじゃねえ。
ただのガムテープだ。
力づくなら剥がせねえわけじゃねえ。
ただそうするには頭の上の冷やし中華が邪魔だ。
それをどうするか。
部屋や服が汚れるのを覚悟で冷やし中華をぶちまけるか、それとも何とかバランスを取ってせめて流しまで辿り着こうか考え中、不意に真横にあの人が現れて、鼻息も荒く耳元に囁かれるんだ。

「冷やし中華はまだ冷やし中か…なんて・ね」

ただでさえ曇っていたリンリンの顔が土気色に染まっていくのがわかる。

「そそれは恐ろしい。 というかとてつもなく嫌です」

状況を想像してあまりの恐ろしさゆえか、せっかく構築していたアルアルキャラが崩壊してしまっている。

321名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:12:41

「これが真っ向からの殴り合いなら望むところだ。正直そういうの好きだし。しかし地味に確実にHP削られてくの…辛いぜ」

更にと付け加えようとしたアタシを手で制したリンリンは、エレベーターの方へ向かうよう促した

「出来るだけ大人しくしてますから何とか穏便に。それとさっき私が言ったこと保田さんにはなにとぞ内密に」

ふぅ。
どうにかエレベーターに乗れた。まったく最初の関門でどれだけ時間を費やしてるんだか。
あとはさっさと保田の大明神に拝謁して「黄金の魂」とやらについて意見を交換して、あとはさっさと退散だ。

つうか遅い。
このエレベーターのスピードまじ遅いだよ。
いや遅ければご対面が遅れていいといえばいいんだが、遅すぎるのも苛つく。
どう考えたって階段を歩いて上った方が早いっていうぐらいの時間がかかって到着した四階。

このカラオケボックスの建物は大雑把にいうと凹形になっている。
勿論上からみたらの話な。
その左右がボックスになっていて真ん中の部分がエレベーターや階段、そしてトイレが設けられている。
但し一階当たりの面積は狭いので一フロアには男女どちらか一方の専用トイレが作られてるそういう感じの構造。
確か最初の電話では四階にある女子トイレに来てくれって話だった。
でもいきなりトイレに向かうってのもぞっとしない。
とりあえずこの階にあるボックスを覗いてみることにする。
ひょっとしたらそっちの方に鎮座されてるかもしんねえし。
四階の女子トイレを指定してきたってことは三階か五階のボックスに陣取ってる可能性あるわけだが。

とにかくエレベーターを出て向かって左側のボックスに向かおうとしたちょうどその時、そのボックスの扉が開いた。
中からは若い連中の賑やかな声。
違ったか。
出てきたのは基本リンリンのと同じ色調の制服。
ただし男verを着た店員だった。

322名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:13:28
イケメンの部類には入らないな。
こういう接客業で働いている人間特有のちょっと崩れた感が無いどちらかというと無骨な感じ。
髪も短めにカッとして、顎にはゴート髭。
ラーメン屋の大将とか創作居酒屋のマスターなんか似合いそうだな。
そんな感じのCYOIKARAの店員が空になった大皿を抱えて歩いてきた。

「いらっしゃいませ!! 前を通らせていただきます」
「あ、どぅも↓」

なんか活力に満ち溢れてる感じに軽く気圧されたみたいな。
まあアタシはこれからのことでちょっと落ち気味なこともあるけど。
どうやら左側のボックスは関係無いみたいだね、だったら一応右側を覗いとくか。
つうかゴート髭の兄ちゃん呼び止めて保田さんの取ってる部屋番訊こうかな。
らしくもない逡巡で立ち止まっているとジトッとした視線を感じる。
こ、この雰囲気は…。
女子トイレの扉が少しだけ隙間が開いている。
そこからアタシに視線を注いでいるのは。

「遅かったじゃない、藤本」

裏の世界では「永遠殺し」という二つ名で呼ばれている保田圭その人だった。

「つうかアタシ別にあんた直属の部下でもないんですけどね」

意外だと思われるかもしれないが、アタシが身を預けている組織には確固たる指揮系統だとか鉄の規律だとかは存在しない。
各々が心の中に抱く闇で世界中を覆い尽さんとする意志の集合体。
それがダークネスの真実だ。
だから【永遠殺し】と呼ばれる女とアタシの関係も本来なら上下関係なんか無い対等の筈。
だから事前のアポイントメントもない当日の呼び出しなんか応じる義理は無い。
なのにこうしてノコノコ顔を出しているのは個々の力関係とか器の大小とか。

323名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:14:16

まあそれ以上にリンリンにも言ったけどこの人特有の能力を利用しての嫌がらせがたまんないという面もあるんだが。
いまふと思ったんだが保田さんの能力を使った数々の嫌がらせこそ本当の「パワーハラスメント」ってやつじゃねえか。
ま、ともかく完全に無視を貫くのはキツイ相手だが、唯々諾々と従うのも業腹だってわけさ。
ま、そんなアタシの感情なんか目の前にいるオバハンには関係なさそうだが。

「まあいいわ。重大事なのよ藤本」

だからね〜もう少し手順を踏むとか相手に花を持たせるとか思わないのか。
思わないんだろうね。
そういう先輩風っつーかボス風を吹かせたいんならテメーのシンパ相手に吹かせて欲しいもんだが。
まあ来てしまったんだから仕方ない。
とりあえず話は聞いてやる。
が、その前にだ…。

「重大な話をこんな所で立ち話するのもなんでしょうが。 部屋に行ってますから何号室か教えてくださいよ」

初冬っていうには早い時期。
それでも外を出歩くのに少し肌寒くなってきたのは事実だけど、ビル内は空調のおかげでまあ快適にすごせる温度である。
一体型なのか女子トイレもその恩恵は被っている。
寒くてしょうがないというわけではない。
だったら何故場所を変えたいかというと。
臭いのだ。
いやっ、誤解しないで欲しい。
そっちの方の臭いじゃない。
芳香剤だかなんだかの匂いが強烈過ぎて、鼻が拒絶反応を起こしそうなんだ。
アタシは【永遠殺し】にそのことを伝えるために、わざと鼻をクンクンさせてやった。
こんな臭いところじゃ話をする気になれませんってなぐあいに。

「鼻が利くわね、藤本。Chloeのオードパルフォムよ。このひねりを加えた遊び心が気に入ってるのよね」

324名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:15:00

悪かった、Chloe。
あんたらの賞品を貶すつもりじゃなかった。
ただどんな香水でも度を過ぎてしまったら逆効果だと思う。
っていうか、このオバハンはいったいどれほどの量を使ったんだ。
それとも瓶ごとぶちまけたのかってぐあいの感じなんだが。

「とにかくここから離れるわけにはいかないの」
「ですけど他の客がいつ入ってくるかもしれませんし」
「その点は大丈夫。この階のもう一方の部屋は若い男の子ばっかりみたいだし」

いやっそれだけじゃ不十分だろう。
一階ごとに男女各々の専用トイレが交互にあるってことはこの階の上下階の女性客がやってくる可能性も高い。
女子会とかやってる部屋があったら、ただでさえ足りないだろうし。

「とにかく今ここを離れるわけにはいかないの。最悪誰かが来たときには【時間停止】を使用してでも排除するから」

オバハ…いや保田さんの口から【時間停止】という言葉が出たことでだらけてたアタシの中の緊張が高まった。
何故かって?
一口に能力者といってもいろんなタイプがある。
能力の種類に色々あるというのは勿論だが、今アタシが言っているのはそういうタイプ分けじゃない。
その能力者の品性というか人格、ようするに自分の能力を必要以上に誇示するかしないかっていうタイプ分けだ。

神様の気まぐれってやつで異能を手にしたことに不幸を感じるどこかの喫茶店の連中みたいな奴ばかりじゃないってこと。
人とは異なる能力を手にしたことに浮かれちまって使いまくることで自己主張するタイプも少なくない。
勿論誇示するといったってテレビのバラエティ番組で実演したり、動画サイトにアップしたりするとかじゃない。
そんなやつらは全てとまではいわないが殆どがまやかしのイカサマだ。

要はここで使うかってタイミングで必要以上の強度で能力を行使してみたり、その能力を応用した技にこっぱずかしい名前をつけたりする奴。
一番わかりやすい例えが石川梨華だ。

325名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:15:57
アイツのサイコキネシスは確かに協力だ。
そんなものに番付があるのかどうかわからないが、力の最大出力や精緻さ連発が効くか。
いろんな面を総合すれば、アイツはサイコキノの横綱級だろう。
その念動力を使って粛々と粛清人をやってればいいものを、アイツはそれだけに留まらなかった。
念動波による攻撃にオリジナルのネーミングをつけるという痛い真似をしえかした。
波動を刃状に形成した攻撃を念動刃(サイコブレード)と名づけたあたりはまだ良かった。

しかしバカなアイツはやらかしちまった。
銃弾状に調整した波動を念動弾(サイコブレッド)と名づけちまった。
弾丸といえばブレット。
ブレッドといえばパンのことじゃねえか。
念動で捏ね上げたパンはさぞかし弾力があって美味いことだろうよ。
アタシが皮肉交じりに教えてやっても間違いに気がつかねえ。
そればかりかその名を裏の世界に広めようと、サイコブレッドを放つ度に従属武官(取り巻き)の岡田とか三好とかに叫ばせる始末。

「石川さん、あかん。 サイコブレッドみたいな強力な技使ったら跡形も残らへん!」
「うぉぉぉぉぉぉ。 さすがは黒の粛清。サイコブレッド、っぱねえっ!す」

恐怖を世界に知らしめるべき粛清人が、バカっぷりを裏の世界中に知らしめてしまった。
っていうかv-u-denも気づけよって話だ。
当の石川はというとオリジナル攻撃第三弾として念動嵐(Psy-clone)を編み出すために修行中だ。
ホントまじサイクロンでどっか飛ばされていってくれねえか。

話は逸れた。
そんな不詳の弟子である石川梨華とは違い、【永遠殺し】保田圭はその能力を誇示しないタイプだ。
いや【永遠殺し】という二つ名自体が香ばしいといえば香ばしい、それは認める。
能力を発動する際、“時間よ止まれ”だの“時間よ私の前に傅きなさい”だの詠唱を行うのも微妙なところだ。
そもそもアタシをはじめ意に沿わない相手に能力で悪さをすること行為自体が能力の誇示でないかという見方もできる。

326名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:16:54
しかしアタシから見た保田圭は己の能力を誇示しないタイプに属する。
石川梨華が広く拡散するタイプなら、保田圭は一点に収束するタイプとでもいおうか。
石川梨華がバカみたいにくぱぁーっとおっ広げるタイプなら、保田圭はウジウジもったいぶるタイプとでもいうか。
とにかくそんな保田圭の口から【時間停止】能力を使用してでも機密を守ると言ったのだ。
緊張も高まるってものさ。

アタシが来るなり、重大事とやらについて話し始めようとしたってことにしても、アタシが頼りにされてるってことだろう。難儀なところもあるがその実力を認めざるを得ない先達に当てにされたんなら気分は悪くない。
密談に応じてやろうじゃねえか。
そんなこんなで香水の強烈な匂い漂う女子トイレに留まることを決めたアタシは、自分も警戒するつもりであるということを示すため、ドアに険し目の視線を注ぎながら話を促した。
そういや「黄金の魂」についてとかいう云ってたっけ。

「とんでもない事態に陥ったのよ」
「だからどんな事態だってんですか」

よく見るといつになく慌て気味のご様子だ。
こいつはほんとうに一大事が起こったのか。
例の喫茶店に新人が四名も入ったという情報は掴んでいるが、いきなり主戦力として使えるとも思えねえし。
ってことはやっぱり内向きの問題か。

「トイレの水が流れなくなったの」

は? 今なんと仰いましたかね。

「聞こえなかったの藤本。 トイレの水が流れないの」
「いやそれはおかしい。それはそれなりに大変だろうけどアタシをわざわざ呼び出すほどじゃないでしょうが」

これはからかわれてるのか。
いやっそれとも。

327名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:18:27
「黄金よ」
「あぁそういえばメールでそう書いてましたっけ。 確か黄金の魂」
「黄金の塊よ」
「はぃ?」
「本当に鈍い子ね。黄金の塊を詰まらせてトイレの水が流れなくなったって言ってるの」

あのすいません。
その黄金の塊っていうのは、まさか?

「ここ一週間お通じがすぐれなかったのよね。 だから午前中、前に効果があった骨盤矯正を整体院でやってもらったのよ」
「おい、アンタちょっと待てよ!!」
「午後は隠れ家でペーパーワークに没頭してたんだけど、全然来る気配が無くてね」
「言うに事欠いて何言ってるんだ」
「それで油断しちゃったのよね。で、執務が終わったからいつもみたくこの店に歌いにやってきたんだけど」
「語るな。しれしれと経緯を語るなっていうか聞かせるな。そんなもの聞きたくねえんだよ」
「ワインにシャンパンを空けて、あ勿論ミニボトルよ。それから定番の芋焼酎を頂いていると、来たのよ。ビッグウエーブが」

いやっ、もう何が来たのかとかは言うなっていうか言わせねえよ。聞きたくねえよ。
脱兎のごとくその場から立ち去ろうとしたアタシを【永遠殺し】の微妙に篭る声が制止した。

「そんなに今晩夢の国に辿り着くまで耳元で“おやすみきてぃ”って囁いて欲しいの?」

既に永遠に醒めない悪夢に迷い込んでいる気がするんだが。

「そんなに私の手作りの味噌汁の香りで目が覚めたいの? まな板で糠付けを刻む音で目が覚めたいの? ほっぺにチュッで目が覚めたいの?」

想像するだけで何かを催してきそうなシチュエーションから考えを逸らそうとするアタシ。
その原因たる【永遠殺し】は、あっと声を洩らしていた。

328名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:19:08
「よく考えると私の言ってること全部お仕置きじゃなくご褒美よね」

いえ、かなりキツイ地獄の刑罰なんですけど。

「とにかく待ちなさい。私の話を全部聞きなさい」

【永遠殺し】保田圭の口から語られたこと。
それは闇の、裏の世界における【永遠殺し】の存在意義。

さっきアタシは言った。
ダークネスには確固たる指揮系統だとか鉄の規律だとかは存在しないと。
ダークネスの幹部級は一国一城の主みたいなものだ。
ということはその稼ぎも自分の才覚によるってことだ。

勿論ダークネスの利益に繋がる破壊工作だとか粛清だとか。
そんな特別業務に携わった場合は特別報酬がきっちり支給される。
しかし基本的に二つ名持ちの幹部級の能力者は、自分の才覚で稼いだ金で自分を養っている。
そればかりかその稼ぎの中から少なからぬ献金だか上納金だかを上層部に収めてさえいる。
そこまでして組織に所属しているメリットがあるのかと言われたら、あるとしか答えられない。
詳しくは言えないけど、これまで散々派手に暴れてきたこのアタシが、警察の目とか気にせずお天道様の下を歩いているのはそのほんの一端なんだなあ。

とにかくアタシたちが口に糊するのにもっとも手っ取り早い稼ぎ口は、雇われの荒事だ。
石川なんかは粛清の他にどこかの金持ちの依頼で、貴重な美術品だかレアものの宝石だかを盗んだりしてる。
何を血迷ったのか岡田や三好を引き込んで“怪盗v-u-den”と名乗り、盗みの予告状を送り届けたり、盗んだ現場にメッセージを残したり。
まあ目立ちたがり屋のバカだ。
【催眠】能力を保有する吉澤あたりは、命知らずの密入国者や無知無教養なならず者に催眠を施して編成した一夜限りの軍勢、“Midnight shift”を派遣して結構な金を稼いでる。

329名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:20:02
かくいうアタシもそっちの方面じゃ【戦争魔女】として知られている。
アタシの異能は他の奴らの異能とは違っていて、発動やらに手順が必要で時間がかかる。
その所為で一対一のバトルでそのまま活用するのにはちょっと不利なんだが、一度発動すれば、ロングレンジかつワイドレンジの攻撃が可能。
つまり軍隊の援護射撃ってやつにおあつらえ向きってことさ。

そんな雇われの荒事がダークネスの利益に繋がらないと判断された場合は、依頼の段階で即時撤収命令が出る。
しかし利益を損なわないと判断された場合は何の連絡もない。
時に、戦争の相手側にダークネスの人間が立っていたとしてもだ。

あの時は熱くなりすぎた。
中央アフリカのとある国の守旧派と革新派の争い。
アタシの手駒は現地の正規兵が二百人ばかり。
革新派の支配してる地区に急襲を掛けた。
十三万発の氷槍を撃ち込んで突撃させた革命軍本拠はもぬけの殻。
正規兵とはいっても過酷な訓練を乗り越えた精鋭ってわけでもない。
所詮は烏合の衆。標的を見失って右往左往しているところに横槍を仕掛けてきたのが“Midnight shift”。
欧州で民主政権の発足を宣言した革新派に雇われた吉澤が指揮していた。

アタシたちダークネスは手を取り合って一つ船に乗り、同じ場所に向かって旅する同行者じゃない。
各々が約束の場所の方角に向けて走る船にたまたま乗り合わせただけの同乗者に過ぎない。
だから時にアタシたちは潰しあう。
だからこそアタシたちは常々蝕み合う。
戦い続け、最後に生き残ったたった一人の者に闇の王の王冠を授けることこそが、ダークネスの大義であるかといわんばかりに。

アタシたちの一人一人が心に秘めた目的と。
ダークネスが世界の闇に向けて掲げる一つの大義。
二つのものが必ず溶け合うとは限らない。

だからアタシは一杯喰らわされた吉澤の澄ました顔に最低三十発は叩き込むつもりで奴の率いる軍隊に突進した。
奴もアタシを殺る気満々で傀儡と化した部隊を展開した。

330名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:21:16
結界と地雷網。
氷矢と銃弾。
眩霧と十字砲火。

存分に潰し合った結果、馬鹿を見たのはアタシたちの尖兵となった者たち。
敵のアイツの凶弾に倒れたのか、味方のアタシに背中を撃たれたのか。
敵のアタシに胸を貫かれたのか、味方であるアイツに欺かれ非業の死を遂げたのか。
合わせて五百近い死者が出て、内戦は実質的に終わった。
勇ましい兵隊たちは馬鹿を見たけどその国の民衆たちにとってはそれほど最悪の事態ってわけじゃなかった。
武器を持つ力を持たず、現為政者からも未来の為政者候補からも穀潰しの無駄飯食いとしか扱われてこなかった女子供に怪我人たち。
軍事力を喪失したその国の異常事態を憂いた世界の首脳が国連のPKOを派遣した結果、失われるはずだった多くの命が救われることになった。
でもそれで一件落着と収まらないのがこの世の中だ。

安全地帯から資金を提供してアタシたちを動かした支配者たちは自分たちの権益が損なわれる事態を快く受け入れるはずも無い。
最悪の事態をもたらしたアタシたちに制裁を加えるべく、手元に残った有り金全部つぎ込んで別なる闇を動かそうする。
そんな時にあの人は現れる。

【永遠殺しの調停者】

あの人は緊迫した時間を止め、時にスケープゴートを仕立て、時に代案を示し、時に当事者を時間から排除することで、錯綜した事態を調停する。

“Gravity” 後藤真希
“Terrible Assassin”高橋愛

世界の災厄と恐れられる二人の能力者と比してなんら劣らぬ力を持ちながら、そのチカラを誇示しようとしない存在。
チカラを誇示しないことで、その存在を誇示する存在。

331名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:21:51
「つまり私の存在があってこそ裏の、いやこの世界の均衡は辛うじて保たれているといっていい」
「それは確かにそうかもしれませんけどね」
「そんな私が黄金の塊でトイレを詰まらせたという恥辱に塗れて尊厳を失ったら、…この世界の均衡は損なわれてしまう。違うかしら?」
「台無しだ! 八十行近く使ってハッタリかまして何とか盛り上げようとした努力が“黄金の塊”の一言で台無しだ!」
「私の黄金の塊は結構盛り上がってるんだけどね」
「言うなぁぁぁぁぁぁ」

ふてぶてしいオバハン。
いや往生際の悪い永遠殺しに対して思いの丈をぶつける。

「あのな、このスレだって大変なんだぞ。リゾナントブルーの原点の九人はどんどん卒業していって、作者だって代替わりしていって」
「安易なメタは見透かされるわよ、藤本」

あんたの言ってることも大概メタメタだけどな

「とにかく黄金の塊とかむちゃくちゃだ。 時に寂れたり、時に荒れたりしながらなんとか百話までやってきたこのスレが終わっちまうじゃないか」
「…ふっ。 そう、だったら始めましょうか。スレの終わりの始まりをこれから始めましょうか」
「アンタ女として、いや人として終わってるけどな」

あまりにも理不尽な状況に巻き込まれたことへの抗議を口にしながら、それでもどこか違和感を覚えていた。
たしかに女性が自分のう・・・黄金の塊で水洗トイレを詰まらせてしまうという事態は深刻な事態ではある。
しかしそれはその女が普通の人間であればこその話だ。
今、アタシの目の前にいる女はただの女ではない。
【永遠殺し】なのだ。
時間停止能力を使える存在なのだ。
私怨と私怨を胸に激闘を繰り広げる能力者の間に立ち、戦いを調停できる存在なのだ。
調停に応じない不逞の輩には制裁を加えられるほどの強者なのだ。
たかだかカラオケボックスのトイレの水の流れとか気に病む必要など無いではないか。

「あっはっはっ」

332名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:22:49

かなり不自然だが何とか笑うことができた。
別に気が触れたとかではない。
【永遠殺し】はアタシをからかってるのだ。
あるいは、あるいは本当に自らが創り出した黄金の塊でトイレを詰まらせたことでパニくってしまって状況を必要以上に深刻に捉えているのだったら、そのことに気づかせてやればいい。

「何も深刻な事態なんかじゃねえじゃねえか」

怪訝そうにアタシを見ていた永遠殺しは首を傾げる。

「そう…かしら」
「そうに決まりきっているじゃねえか。アンタの能力なら誰に見咎められることもなくこの窮地から脱出できるじゃねえか」

そう、【永遠殺し】保田圭の能力は時間停止。
時間を停止させている間にこの場から立ち去って、ついでに店からも退去すれば何の問題も残らない。
いやっ何も問題が残らないということはないだろう。
少なくともこの女子トイレに黄金の塊は残る。
それを放置プレイというというモラル的な問題も発生はする。
料金を清算せずに逃亡するという明らかな犯罪も起こしてしまう。
だがそれだけだ。
それだけのことで、闇の世界で囁かれる【永遠殺し】の名誉は守られるのだ。
いきつけのカラオケボックスを一軒失うことにはなるだろうが、その程度で…。

「それはダメよ」
「はぁそれはまたどうして?」

ひよっとしてまさかの公徳心でも目覚めたか?

「そんな真似をしたらもうこの店を使えなくなるじゃないの」

333名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:24:01
それはトイレに黄金の塊を放置した奴がどのつ面下げて顔を出せるかって話だよな。
まあでもこの界隈でカラオケを唄える場所がここ一軒ってわけでもあるまいし。
まあ駅から一番近いし便利といえば便利だけど。

「そんなことをしたら、彼に会えなくなるじゃない」

はぁ?
彼ってなんだよ彼って。
この期に及んで新しい登場人物か。
オリキャラか、それともモデルはいるのか。
いたら面倒くさいぞ。

「あなただってさっき会ってたじゃない」
「あ、ええっとすいません。その彼ってまさか」
「この支店を取り仕切っている主任の彼よ」

あのゴート髭か。
ああまあこのオバハンの年齢的には、あのぐらいが似合いなのか。

「それで藤本、さっきは彼と何を話してたの?」
「いや、別に」
「別にってことはないでしょう。さっきだってアンタらしくもなくしおらしくしてたじゃない」

何がアタシらしくもなくだ。
さっきはアンタに会うのが気が重たかったからああだっただけで。
いやそもそもこんな目に遭うと分かっていたら、どんなイケメンだって突飛ばして逃げてるさ。

なんとなく見えてきた。
つまりこのオバハンは自分が憎からず思ってる男に醜態を知られたくないから、何とかして黄金の塊を極秘裏処理したいんだ。
その片棒を担がせるためにアタシを呼び出したと。
ほぅ、上等じゃねえか。だが、しかしだ。

334名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:26:05
「残念ながらそれはできませんぜ」
「何ができませんよ。私はあんたが彼と何を話してるのか訊いてるの」
「うっさい。もうそんなことはどうでもいい」
「よくないわよ。はは〜ん。さてはあんたもあの男性を…」
「いやっ、まじカンベンしてくれよ。話がややこしくなるだけだからさ。とにかくアンタがアタシに何を望んでるかはわかった」
「…そうなの」
「いやっ、アンタ物憂げに喋ったらいい女に見えるとか思ってんじゃねえだろうな」
「そんなこと…ないけど」

うわ、むかつく。
アタシはわかってしまったんだ。
自らが創り出した黄金の塊で行きつけのカラオケボックスのトイレを詰まらせたこの女が、氷雪の魔女と呼ばれるこのアタシに何を望んでるかわかってしまったんだ。
何か雑学の本で読んだことある。
ひょっとしたらテレビのクイズ番組で知ったのかもしれないけど。

アラスカとか気温氷点下が当たり前の地域では、小用を足しているその先から凍っていって中々愉快なことになるとか。

「つまり大小の違いはあるけど、要するに処理しやすいように固めちまえってことだろう。アタシの魔術で」
「結構、固まってると思うんだけどね黄金の塊」
「だからしれっと状態を言うのはやめれって絵が浮かぶから」

本質的には常識人の部類に入ると思うんだが、どこかズレてるだこの人は。
魔法という自分の異能をそんな用途に使用するのはぞっとしないが、それでもそれを行使することでこの事態から抜け出せるのなら、使いもしよう、だが。

「今のアタシには新規の魔法は使えないんだ」
「…それはどういうこと」

だからその…は、まあいい。
とにかくアタシの事情を説明するのが先だ。

335名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:26:57
「アタシの魔法がアンタの能力とは仕組みが違うってことはわかってるでしょうが」
「確か魔法陣とか呪文とかが必要だったとかかしら」

厳密に言うと、アタシ藤本美貴は能力者ではない。
“普通”の能力者なら。
一度発現した能力を学習によって我が物にした“普通”の能力者は、自分の手足を動かす感覚で異能を行使できる。
しかし、“普通”の能力者ではないアタシの場合はそうはいかない。
アタシの異能は「魔法」だ。
「魔法」を使うには儀式という手順を経て、魔力を練成する必要がある。
「魔法」の種類によっては精霊の力を借りるだの、悪魔と交わって魂を売るだの表現は異なるが、要するに能力者と同じプロセスで異能を行使したりはできないということだ。
石川梨華や吉澤ひとみや保田圭たち“普通”の能力者にとって各々の異能を行使するということは、スーパーで買い物カゴに自分の必要な商品を詰め込む作業に等しい。
勿論、財布の中身が乏しければ買い物カゴに詰め込むことを諦めなきゃいけないだろう。
商品が大きすぎれば、買い物カゴが詰め込めないこともあるだろう。
しかし一定のレベルに達した能力者にとって、その能力を使うということは日常の延長戦にある。

だがアタシが「魔法」という異能を使う場合、ちょっとばかり面倒くさい。
買い物カゴの例えでいうなら、まずカゴを作成するところから始めなきゃいけない。
カゴが出来たら今度は商品の種類や価格を一つずつチェックしてそれを音読して、旦那様にお伺いを立ててようやくカゴに in みたいな感じ。
大喰らいの科学者なんかはアタシの魔法のプロセスをプログラミングみたいだと言うんだが、…そうなのか?

「藤本、あんたの方が格上なんだからお伺いなんか立てる必要ないでしょ」
「どれだけ出たがりなんだ。 ここ後々大事なところなんだからガメラみたいな首突っ込まねえでくれよ」」

何故、そんなプログラミングみたいな行程が必要なのか。
その件を科学者に尋ねたら、こんな説明をされたことがある。

336名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:27:27
どういうわけだか、能力者には女性が多い。
いやっ男の能力者だっているにはいるが、世界の災厄や最悪、最強と称せられるほどの高レベルの能力者。
たとえば、後藤真希。たとえば高橋愛。あるいは中澤裕子。
そして今目の前に居るガメラ、保田圭。
彼女たちはみな女性だ。
どうしてそういう分布になったのか。

女と男の脳神経の機能の仕方の違い。
脳梁と呼ばれる左右の脳を繋ぐ部分を中心に、右脳と左脳をつなぐネットワークが濃く形成されている女の脳。
左右の脳をそれぞれ使って、脳の前後を接続するネットワークが形成されている男の脳。
小難しい理屈はよくわからねえが、つまり女の方が男よりも左右の脳を連携して使っているということだ。
その差、情報処理力の差こそが高レベルの能力者は女に多く現れる原因だという仮説がある。
その仮説を元に人為的な処理を経ての能力者育成プログラムが世界のどこかの国ではすでに存在するとか、そんな噂はどうでもいい。

つまり“普通”の能力者と比べて情報処理能力に劣るアタシは魔法の儀式という拡張メモリーを使用して、処理能力の補完をしているのだと、科学者は言っていた。
自分ではそんな複雑なことをしているつもりは無いんだがな。

「でもアンタいちいち呪文とか唱えなくても、氷矢とか撃ってるじゃないの」
「それは細工があるんですよ。ちょっとした細工がね」

儀式を経て練成した魔力は強力だ。
厳選した強い地脈の上で練成した魔術は、気象にさえ干渉できる。
春だというのに遭難者が続出するほどの寒波さえ呼び込めるほど、強力かつ広大な魔法を行使できる。
しかしそんな魔法は能力者との近接戦では役に立たない。
特攻機に懐に飛び込まれた大型戦艦って感じだ。
儀式を必要とするタイムラグの問題も含めて、闘いの最前線に立つには通常の魔法では不利だ。
だから、あんまり気は進まないんだが練成した魔力を近接戦向きの能力に変換して蓄えるということをアタシはしている。
蓄えるものは出来るだけ、魔法ってものが発生した時代に存在していた形が望ましい。
古式ゆかしい杖とか箒でもいいし、装飾品であったり古式のドレスとか。

337名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:28:33
「アンタのドレスにもそんな意味があったのね。私はまた時代錯誤の痛々しいコスプレ女だとばっかり」
「コスプレとか言うなっ!!」

なぜ魔力から能力への変換に気が進まないか。
それは魔力を魔法のために使う場合に比べて、交換レートが悪いってこと。、
為替の円安ドル高みたいな感じの。

「ここのところの円安にも困ったものね」
「アタシは今、アンタに困らされてるけどな!!」
「どうしたの藤本、落ち着きなさい」

いやっ、アンタに言われたくは…まあいい。

「だから今アタシは護身用に氷矢と氷槍十発ずつぐらいしか魔力は確保してないんです」
「それは本当なの、藤本」

魔力の練成にはそれなりのコストが必要だし、体力だって消費する。
だから必要以上の練成は行いたくないし、擬似能力に変換するのもより効率良く行っておきたい。

「つまり氷矢用の魔法は最初から氷矢用の擬似能力として変換してるんで、それを凍結に転用したりは出来ねえってことです」

今すぐこの場で誰にも知られず、黄金の塊を処理しやすくするよう凍結させることはできないということだ。
新たに魔力を練成するにせよ、擬似能力を再変換するにせよそれなりの手順を踏まねばならない。
魔方陣をこの場で構築するには、必要なものが足りないし、アタシの家に一度は戻った方が早い。

「まあ残念ですけど」「それは好都合だわ」

えっ。
アタシは耳を疑った。
今アタシが魔法を使えないことが好都合。
どうやって隠蔽するつもりなんだ。

338名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:29:24
真意を問い質そうとしたアタシの目の前で【永遠殺し】は言葉を発した。
それはまるで魔法のような事象をこの世界に顕現させるキーワード。
【時間停止】能力を発現させる際に為される詠唱の文句。

「時間よ、私の前に傅きなさい」

闇色の光というものがいったいあるのかどうかそれまでわからなかったアタシだけどたった今それを見ちまった。
それは保田圭の暗く燃える瞳から放たれる漆黒のオーラ。
収束していく時間の中でアタシが見たもの、それは…。


>>-

以上『黄金の魂』改め『黄金の塊』

次回完結。

339名無しリゾナント:2014/11/13(木) 21:04:56
違和感。
一言で済ませると、たった三文字で終わる。
しかし、それだけでは終われない。何故なら今は、戦闘の最中なのだから。

「凄いですね。私のテリトリーに入って平気で居られる人、はじめて見ましたよ。さすがは『鞘師』の継承者、
といったところでしょうか」

目の前の、里保よりやや年下に見える少女が言う。
テリトリー、の発音がやけに流暢だ。

里保の肩が大きく上下する。息が、乱れる。
例の「違和感」は、彼女の精神のみならず肉体にまで影響を及ぼしていた。

「『鞘師』のもの、か。その言い回し、どういう意味かな」
「意味もなにも。私は貴方が『鞘師』である以上、倒さなくてはいけない。do you understand
?」

ドゥーユーアンダースタンドと来たか。
まるで英語の授業に出ているようだ、と思いつつ。
この状況を何とか打破しなければ。でなければ。
地に這い蹲る結末が待っている。

少女が懐から取り出すは、銀色のナイフ。
それが、まっすぐに里保に向かって飛ぶ。だが、里保は回避行動を見せない。
案の上、鋭い刃は里保の体を突きぬけ明後日の方向へと消えていった。

目に見えるものは。耳で聞こえるものは。そして肌で感じるものは。
信用するな。

それが少女と短い間交戦して学んだ、事実。
太腿を走る痛々しい赤い痕が、それを教えてくれた。

340名無しリゾナント:2014/11/13(木) 21:06:00
「警戒してますね、鞘師さん。私の異能を」
「恐ろしい能力だからね。人の感覚を悉く”狂わせる”」

少女が里保の前に現れてから程なく、相手が仕掛けてきた。問答無用というやつだ。
違和感は既に始まっていた。
少女が投げるナイフ。速さはさほどではなかった。なのに。

避けられなかった。
いや、正確に言えば何かの嫌な予感から刀を咄嗟に下段に構えていたが故に、ナイフが深々と刺さる事はなかっ
たものの。
それでも、予想できなかった軌跡が里保の肌を裂く。
だがそれすらも、立て続けに続く不可解のほんの端緒でしかなかった。

攻勢に出た里保の一太刀はあっさりと空を切る。
避けられたわけではない。少女は涼しい顔をしてその場に立っていた。
まるで、里保自身が「目測を見誤った」かのように。

それからは。
こちらの攻撃は当たらず、相手の攻撃は読めず。
ナイフが飛んできた方向とはまったく異なる方向からの鋭利な痛み。
念のためにと張って置いた水のバリアもまた、投擲の直撃を避けるための気休めの防護策にしかならない。その
ことが、里保の精神をすり減らしてゆく。

「…じゃあそろそろ、本番と行きましょうか」
「!?」

その瞬間、少女の姿が掻き消えた。
違う。いつの間にか懐に入られていた。
そこから繰り出される、拳、蹴り。

341名無しリゾナント:2014/11/13(木) 21:06:41
「…体術も得意なんだ」
「むしろこっちのほうが本領ですけど」

見えている動きとはまるで関係ない場所が軋み、打ちのめされる。
防戦一方。身を固めるしか術がなかった。
先ほどのナイフは間隔を空けて攻めていたから、何とか直撃を避けることができた。
しかし肉弾戦ではその隙さえ与えられない。

このままではいずれガードが打ち崩され、決定的な一撃を与えられてしまう。
その証拠に、これだけの乱打をしておきながら少女は汗一つ、かいていなかった。
フィニッシュブローを温存しているのは、火を見るより明らかだ。

目に見える軌跡が。空を切る音が。肌で感じる空気が。全てまやかしならば。
何を信じればいいというのだろう。
里保は相手のサンドバッグになりながら、それでも考える。
浮かんだのは、遥か遠くの故郷にいる祖父の顔だった。

342名無しリゾナント:2014/11/13(木) 21:15:45
>>339-341
「幻影(前)」

野中さんの能力設定の叩き台になれば

343名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:28:38
わたしの敵はわたしの中にいるとずっと思ってた。
“精神破壊”
人の精神を焼き尽くす狂気の焔を吐く悪竜。
それがわたしの中にいる化け物の正体だ。

かつてわたしには三十人の級友がいた。
ある日わたしは三十人の級友を失った。
それはわたしが三十人の級友を地獄に突き落としたせいだ。

わたしが作り出した地獄。
それは級友を発狂させ、級友同士で傷つけ合わせ、体にも心にも決して癒えることのない傷を負わせた。
三十人、いや家族を合わせれば百人以上の人生をわたしは一瞬で壊してしまった。
決して救われることのない地獄のど真ん中で私はけたけたと笑っていた。
誰もが救えないと諦めかけたわたしにただ一人手を差し伸べてくれたやつがいた。

“なぜ、泣いてるの?”

狂乱の現場から昏睡状態で搬出された先で目覚めた私が目にしたのはペットボトルを手にベッドの横で佇んでいたあいつだった。
喉の渇きを覚えペットボトルに物欲しげな視線を注ぐ私を無視して、看護士を呼び出してから病室の外に出て行ったあいつ。
あん時はすかして小憎らしい奴やと思った。

身体の傷が癒えるにつれ、混濁していた記憶が回復していく。
自分の犯した罪を受け止めきれないでいたわたしにカウンセラーの人は言ってくれた。
わたしが悪いんじゃない。
あれは能力が暴走した結果、起きた悲惨な事故なんだって。

そんな曖昧な言葉に縋りつき、足掻いていたわたしにあいつは言った。

「能力に勝手に手足が生えて、イクちゃんたちの前にやってきたんじゃない。 あれはイクちゃんがやったことなんだ。だから…」

344名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:29:44
チカラを手にしてしまった者の責任。
そのチカラで人を傷つけないこと。
そのチカラで人を救うこと。

だからわたしはわたしの心の中の刃を二度と抜かないと心に決めた。
“精神破壊”
人の心を焼き尽くす狂気の紫を二度と燃やしてはいけないと。

今あいつは傷つき倒れ地に伏している。
わたしとの鍛錬では見せたことがないほんとうの本気を込めた一撃は敵には届かず、逆に倒されてしまった。

あいつを倒した奴は戦鎌を手に視界を睥睨している。
奴があいつの命を刈らないのはそうすることでわたしをこの場に留め、そして討ち果たすため。
今わたしがやるべきことは、奴が望まないこと。
この場を外界から隔てている結界を内から打ち破り、襲撃の事実を隠蔽できなくすること。
そして他の仲間をこの場に呼び寄せ、何人がかりでも奴を制圧して、一分一秒でも早くあいつを治療すること。

わかってる。
そんなことはわかってる。
あいつだっていざというときの覚悟はできているはずだ。
傷ついているあいつに背を向けてこの場を去ったって、わたしを責めたりなんかしない。
むしろそれが最善手だって褒めてくれる。
あいつはそういうやつだ。
わたしにそうさせるために、あいつは傷ついた体でなおも奴を足止めしようとしてくれている。
あいつの努力を無駄にしないために、背を向けろ。
そして走れ、走れ、走れ。

うるしゃい、そげなこつはわかっちいる。
黙れ、黙っちょれ。

345名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:31:01
これからの一生ずっと。
許されるなんて思ってない。
許されたいなんて思ってない。
許されようとも思ってない。
それだけの罪をわたしは犯した。

わたしはわたしの犯してしまった過ちから決して逃げないと決めた。
そんなわたしがいまやるべきことは。
そんなわたしがいまやりたいことは。

目を背けるな、過去の過ちから。
目を逸らすな、目の前の脅威から。
消えてしまえ、わたしの中の恐怖心。
冷静な判断なんてクソ喰らえ。

燃えろ、狂気の焔。
わたしの心を紫で染めろ。
怯えを狂気で塗りつぶせ。

346名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:31:36
わたしの敵はわたしの中にいると思っていた。
“精神破壊”
人の心を狂気の紫で焼き尽くす魔獣。
二度と目覚めさせないと誓った力。
今、その誓いを破ろう。
たとえこの身がどうなろうとも。
たとえこの心が破滅しようと。
わたしはわたしのなずべきことをする。
あいつの力が宿っている血刀を武器に。

「りほ、待っとき。こんどはうちが救っちゃるよ」

共鳴セヨ…蒼キ憎シミ二
共鳴セヨ…紅キ怒リニ
共鳴セヨ…紫ノ狂気二

347名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:32:06
>>-

『狂気の紫』

>>430の画像とか
>>433から想像してみた

リゾナント元は勿論、■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■ http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/430.htmlです

鞘師さんから朝食を誘われた先で赤の粛清さんから襲撃されたり、
改造して復活した赤の粛清を見て生田さんが魔進チェイサーみたいだと萌えたりするシーンもあったのですが冗長すぎると思ったのでこういう形で投下しました

348名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:45:40
話は長くなるから、と前置きをして道重はこほんと咳をする
「・・・とはいえ、なにから話せばいいのか困るね」
「ええっちゃない?話がながくなっても、それだけ複雑なことやけん」
「そうかもしれないの」
そやろ?と笑うれいなはどこから拾ってきたのだろう、ドラム缶に腰掛けている
そして当然のように、佐藤が田中の手を握りしめ隣に座り込んでいた

「あの子、田中サンのこと大好きみたいダナ。犬みたいになついてル」
壁際にもたれかけながらジュンジュンがそれを眺める
「デモ田中サン、嫌がっていないからバッチリデスネ」
リンリンは地べたにあぐらをかき、先ほど道重に治してもらった手の感触を確認する
相変わらずスゴイ、とつぶやきながら緑炎を灯したり消したりを繰り返す

一方新垣は腕を組んだまま道重のそばで立ったまま、あれこれと考えているようだ
それに対し光井はリゾナンターの9人に慌ただしく目を移す
「・・・」
「ど、どうかしましたか?光井さん??」
見つめられていることに真っ先に気づいた譜久村が不安げな声で問いかける
「・・・なんでもないんや」
「??」

何から言うべきか迷っていた道重もようやく心を決めたようだ
「ガキさんがいるのにさゆみが全ていうっていうのも変な話だと思うんだけど」
「ん?いいよ、あたしは。だって、今のリーダーはさゆみんなんだからさ」
「そ、そうですか?じゃあ・・・リンリン」
突然呼ばれ驚くリンリンは「はい?」と疑問形になり、慌てて「どうしましたカ」と付け加える

「リンリン、その炎はいつから使えるの?」
「『緑炎』デスカ?そうデスネ・・・日本に来る頃には使えてましたが、いつからかは覚えてナイデス」
「初めからその色だった?」
「そうですね、緑色の炎が、刃千吏の炎の証ですカラ」

349名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:46:13
「じゃあ、石田、リオンを出してみて」
「え?は、はい、リオ〜〜〜ン」
今度は石田が間抜けな声を出してしまった。咆哮を携え蒼く輝く幻獣が姿を現し、その姿をみて田中が口角を上げた
「ふーん、石田、リオン、前よりも逞しくなっとう、鍛錬積んどうやろ?」
「え、ま、まあ、それなりには」
田中に褒められ、涼しげな顔を張り付ける石田

「じゃあ、最後に小田ちゃん、こっちにおいで。額、怪我してるから治してあげるから」
「・・・はい、ありがとうございます」
小田の額に触れ、ゆっくりと傷口にそって指をなぞらせ、桃色の光が傷を覆い、完璧に傷は消えた
「はい、終わったよ。みんな、見てあげて」

「あの、道重さん、さくらちゃんを治していただくのはありがたいのですが、早く本題に入っていただけませんか?」
飯窪がいつも以上に言葉を選びながら、道重に声をかけるが、答えたのは新垣だった
「いや飯窪、すでに本題に入りかけているから」
「へ?」

「さゆみ達の家はどこかな?工藤」
「え?家ですか??リ、リゾナントです」
「正解。いつもみんなにお菓子だったり、お茶を出しているもんね」
「は、はい、いつもおいしいケーキと飲み物を」
「そう、だからみんな、9人分、さゆみも含めると10人分の個人用のマグカップを用意してあるの」

(マグカップ??)
亀井とマグカップ、それがどうつながるであろうか?どうやっても無関係に思えてしまうのだが
鞘師はあえて口に出さずにいた、しかし、そうはいかないものもいる
「え〜それと亀井さんの話になんの関連性があると?エリにはわからんと」
それを咎めるように新垣が、生田!というが当の本人は、何ですか〜とうすら笑いを浮かべるばかり

350名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:46:57
「まあ、そうかもね、確かに生田の言うとおりかもしれないっちゃね
 さゆ、やっぱもっと簡単にいわんとじれったいと。れーなにも少しだけ説明させてほしいと」
「う、うん、かまわないけど」
「ありがと、生田、生田のカップの色は何色と?」
気味の悪い笑顔を浮かべて答える
「今は黄緑色です!新垣さんと同じ色、前はむらさきでした!!」

なにやら頭痛を感じたのであろう眉間を抑える新垣をさておいて田中は続ける
「うん、フクちゃんはピンク、鞘師は赤、鈴木と佐藤は緑、飯窪は黄色、石田は青、工藤はオレンジ、小田は紫やったっけ?」
道重に確認しながらマグカップの色をあげた
「みんなと同じようにれーな達にもマグカップがあったと
 それは愛ちゃんが用意したものっちゃけどね。れーなは水色、愛ちゃんは黄色、さゆはピンク。
 愛佳は紫、小春は赤、リンリンは緑、ジュンジュンは青
 ここまで聞いて何か気づくことはなか?」

「・・・マグカップの色と能力発動時の発色が一緒ですね」
「御名答、小田のいうとおり。マグカップの色と能力の発動時の色が一致しとう
 まあ、れーなの場合は共鳴増幅やけん、目立たん。だからわかりにくいと
 でも愛ちゃんの光は黄色、ガキさんのサイコダイブの始まりは緑色の景色、小春の電撃も赤」

鞘師はそこでふと思い出した、家宝の水軍流の鞘も紅いことを
譜久村の複写の発動時、桃色の光がともる、生田の昔の精神破壊は紫色の光を放っていた
佐藤が跳んだ時にはエメラルドグリーンの光が輝く、小田の時間跳躍の瞬間目がラベンダー色になる

「そして、この写真をみてほしいの」
道重が取り出した一枚の写真、それは9人がリゾナントの店内で撮ったもの
それぞれが楽しそうな表情でふざけあいながらカメラに目を向けている
「奥の食器置場のマグカップを見て、9個あるでしょ?」
そうなのだ、9個ある、黄、緑、橙、桃、水色、赤、紫、青、緑の9個

351名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:47:32
「道重さん、この写真は9人がいたときの写真で間違いないんですよね?
 そうすると残ったこのオレンジ色のマグカップが、亀井さんということでしょうか?」
頷く道重と、そこで何を言わんとしているのか気が付いた鞘師と小田
「基本的にはマグカップの色にあわせたつもり『だけ』、らしいの、愛ちゃん的にはね
 まあ、私もわかりやすくていいよね〜なんて言ったんだけどね」
新垣も懐かしむように笑う

「さて、ちょっとさゆみ達の昔話を聞いてほしいの
 3年前のある日のこと、あるメンバーがダークネスと思わしき組織に拉致された」
あるメンバーとはこれを語る、当事者、道重のことを指すのはいうまでもない
「そのメンバーを奪還するがために8人は声の下へ駆けつけたが、その姿はなかった
 命の危機すら感じ、その子の『親友』は精神が不安定になった」
それが亀井、ということであろうか
「しかし、数日後、助けて、という声が8人のもとに届いた
 今度こそ、救わんと駆けつけたが、そこにいたのは、道重さえみ、私の中のもう一人のわたし」
これはこの前、リゾナントで聞かされた話、そのままであった
「私を独占しようとした私の中のお姉ちゃんと8人は戦ってくれた
 結果からすれば私はみんなの元に戻れた。だけど、親友を失った」

そこでいったん区切りをつけた
「ここまでは、みんなに教えたよね?さえみお姉ちゃんという存在とえりがいなくなった理由」
「そのさえみさん、ってそんなに強かったんですか?」
「強いなんてモノじゃナイ、化け物ダ」
いつの間にかまたバナナを食べているジュンジュンが割り込む
「大陸でもさえみさんに肩を並べられるほどの能力者をジュンジュン2人しかシラナイ」

「さえみさんの力ってなんだったんですか?」
「お姉ちゃんの力とさゆみの力は根底は同じ。どちらも『生命力を増幅』させることなの
 たださゆみは傷を治す時点で止めるけど、お姉ちゃんは『過剰に生命を増幅』させる」
「そ、そうなるとどうなるんだろうね?」
「体自体が治癒に耐えきれず、崩れていくんや。それこそ、ぼろぼろに溶けていくように」

352名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:48:20
『溶ける』という表現に仲間達は反応を示した
「溶けていくってそれじゃあ、まるでさっきの詐術師みたいじゃないですか!!」
「その通りっちゃね、さえみさんが消した敵はみんなああやって雪融けのように消えたと」

「いやいやいや、でも、ですね、田中さん、亀井さんの力は風使いと傷の共有ですよ
 それがどうやって、仮にですよ、そのさえみさんの力を手に入れたとしましょう
 どうやって手に入れるんですか?だって、亀井さんは道重さんの話では消えたはずですよ!」
石田が強く答えを求めてくる
「亀井サンは消されてないデスヨ、石田ちゃん。だってリンリン達の前に現れたじゃないデスカ」
「そ、そりゃそうですけど、それでは幽霊とでもいうんですか?」
首を振る道重
「違う、えりは間違いなく生きている。それになんでえりの中にお姉ちゃんがいるのか・・・なんとなくわかる」

「わかる」と断言した道重に新垣が顔を曇らせた
「・・・さゆみん、思い当たる節があるっていうの?」
「はい、ごめんなさいガキさん、えりの姿が再び現れた時から、わかっていたんです」
そこに割り込むれいな
「それってあの日にれいなに言ったあのこと?」
「そう、あのこと」

「えりがいなくなった次の日、れいなとさゆみは、えりも含めた三人にとって大事な丘にいったの
 そこでれいなと、えりがいなくなることで・・・なんていうのかな悲しむんじゃなくて
うん、誓いをたてたの、諦めないって、世界を幸せだって気づかないくらい幸せにするって
 そしてその時にれいなにだけいったことがあるの」
お姉ちゃんがえりとともに消えるときに、お姉ちゃんがさゆみと初めて会話をしたってことを」

「さえみさんと?」
「はい、ガキさん。夢の中みたいな奇妙な出来事でした
 お姉ちゃんは、私がいなくなってもさゆみをよろしくってみんなに伝えなさいと言ってた
それから『エリちゃんのことは償わせてもらいます』とも」
「『償わせてもらう』ですか?」

353名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:49:13
「あのときカメはさゆみんの居場所を奪った最大の原因が自分だと責めていた
 だからこそ、さゆみんを救おうと自己犠牲の道を選んだ」
新垣が言葉を選びながら歩みを道重の元へ進める
「それに応えるようにさえみさんもカメを守ることを結局は選んだ、そういうことと解釈していいのかな?」
「ええ・・・たぶん、そうだと思います。さえみお姉ちゃんが守る、と言ってたので
 それはすなわちお姉ちゃんがえりの中に取り込まれ、何かあった時には身を守る、そんな意味だったと思います
 そう、だからこそえりは傷を治すことができるし、詐術師を消す力を手に入れた
 一方でさゆみはお姉ちゃんの力を失った」
さゆみの考察をきき、光井がうーんと唸った
「ありえへんことではないと思いますが・・・なんというかすんなり入ってこないですわ」
「さゆみもそれが正解とは思ってはいないけど、あのとき詐術師が桃色の光とともに消えたことを考えると・・・
 えりは自分で傷を治すこともできたのだからそう考えるしかないと思うの」

「でも、それでも説明できないあるんですが・・・」
「飯窪?遠慮なく言ってみい」
「は、はい。でも道重さんの話だと亀井さんは一旦、みなさんの前から姿を消したんですよね?
 傷の共有も風使いもその場から姿を消す、なんてことできないと思うんです」
「まさみたいにポーンって跳んだってことはあるんじゃないの?」
「仮に瞬間移動できても、皆さんが共鳴で存在を確認できるはずですよ
 だからこそ、この3年も存在が確認できないのは奇妙というか・・・」

「それについてはリンリンが説明するネ
 飯窪ちゃんの言う通りリンリン達は生きている限り、絆があれば共鳴できる
 そして、この数年間、亀井サンの存在を感じるコトはできなかった」
「ですよね?それならばなぜ」
話終えないうちにリンリンが割って入ってくる
「それは亀井サンがいなくなる事件のトキにも起きた。
道重さんがさえみさんになっていたトキ、リンリン達はさゆみさんと共鳴できなカッタ」
 そのとき道重さゆみさんは『意識がなかった』状態にアッタ」
続くはジュンジュン

354名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:49:44
「おそらく亀井サンはこの数年間眠っていたと思う。それも強制的に、ダークネスの手によって
もし亀井サンが自分の力で寝ていたとしても長すぎる、眠り姫でも長すぎる
 それに、なぜダークネスと一緒にいたのカ説明ツカナイ」

「それではいったいどうやって亀井さんの意識をダークネスは沈めたんでしょうか?」
譜久村が道重に問いかけたが、答えたのは別の人物だった
「・・・時間停止、です」
それは小田であった
「・・・永遠殺し、この前のあの人、亀井さんの横にいた女の人の能力
 ・・・亀井さんの時を止めれば、意識を戻さずに、共鳴を、生存を隠し通すことができます」

あの亀井が消えた日、現場にあらわれた永遠殺しーその目的はマルシェたちの回収ではなかった
『亀井絵里』の回収の可能性

「多分、その通りだと思ウ。本当はさえみさんの時を止めるつもりだったのカモしれませんガ
 いずれにせよ、亀井サンの時をとめて、ダークネスは亀井さんを手に入れた」
「そして、亀井さんをダークネスに染めるために洗脳教育を施した、そういうことですね?」
首を振る新垣
「違う、工藤。それなら詐術師をカメが消すはずがない」
「え?それならどうして亀井さんはダークネスの言いなりになっているんですか!!」

ジュンジュンがゆっくり立ち上がる
「亀井サンの時は永遠殺しで止められた、強制的にダ
 ただ、そこでその力を強制的に打ち消す力が現れた」
「な、なんなんですか?その力って??」
ゆっくりと腕を伸ばし、指をある人物に向けた
「小田ちゃんのちからダ―時間跳躍能力」
「!!!!」

355名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:51:20
「さくらちゃんの力がなんで亀井さんを動かすことにつながるんですか!!」
「そうですよ!小田ちゃんはただ時間を時間を飛ばし、飛ばした間の出来事を『認識できなくする』能力なんですよ」
仲間達が強く現実を認めたくないのか先輩に問い詰める形となった
「その通りダ、今は。だけど、昔はそうでなかった、ソウダナ?」
「・・・はい、そうですね、昔の力はもっと強力で能力すら消すことができました
 ・・・ただそれだとダークネスの幹部の力すら消えてしまう、そう判断され、そんな制限をかけられました」

小田さくらの『時間跳躍』により、止められた時を強制的に動かされた『亀井絵里』

「当然、ダークネスは亀井絵里が動き始めたことに気づいたのであろう
 そして、当初からの予定、ダークネスの一員としての教育を行おうとした
 ただ、問題が一つアッタ」
道重がそこから先は受けついだ
「お姉ちゃんの攻撃を受け、体と心はボロボロになってしまった
 お姉ちゃんが傷は治したが、結局、精神までは救うことができなかった
 いまのえりにはさゆみ達の声は届いていない・・・可能性が高い」

道重、れいな、新垣・・・かつての仲間にためらいなくカマイタチを放ち、無表情な亀井
それはまるで人形のように、中身のないように見えたのであった

「じゃあ、亀井さんは操られている、ではなく」
「可能性としては言われていることをただ、忠実にこなす、作業みたいに感じているかもしれへんな」
「そんな・・・」

「リンリンとジュンジュンがここに来た、最初の目的は亀井さんの復活を感じたからではナカッタ
 本当の目的は小田ちゃん、あなたがどんな力を有しているのか確認シタカッタ」
「・・・」
「私達が心配するような悪の心はないようダ。ただ、そのためにとんでもない相手が生まれてしまっタ」
「別に小田ちゃんを責めるとかそんな気はナイ。ただ、亀井サンが復活した、それは緊急事態ダ」

356名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:52:16
「・・・私たちはどうすればいいんですか?」
譜久村が不安げな声をだす
「きまっとうやろ?戦うんや、えりと」
「・・・仲間と闘うってことですか?皆さんはそれでいいんですか?」
にやりと笑うれいな
「えりと一度、本気で闘ってみたかったとよ」
「田中ッチ、冗談言ってる場面じゃないよ
 フクちゃん、そりゃ私だって本当なら戦いたくはないけど、あんなカメを救えるのは私達しかいないんだ
 カメをダークネスの操り人形にさせる?そんなこと許せない!」
「せやからこそ、愛佳達で救わなあかんのや」
「別ニ命を奪うことが戦う目的ではナイ」
「亀井サンの記憶を要は思い出させればいいだけダロ」

『先輩』達同様に、リーダーも力強い口調、覚悟を決めているようだ
「みんな、えりの心をすくいましょう。それがダークネスとの戦いになるの
 みんなもリゾナンターならできるはずなの、力を貸してください」
そして深々と頭を下げた

「や、やめてください、道重さん」
慌てる仲間達をみて、れいなが道重の肩をたたく
ゆっくりと顔を上げる道重に仲間達は、当然とでもいうように力強い光を目に宿していた
「ありがとう、みんな、えりを、助けるのに、リゾナンターとしてではなく、友達としてよろしくなの」
自然と涙がこぼれ始め、慌てて涙をぬぐい始めた

「そんじゃ、一回リゾナントに戻るとしますか、作戦会議しなきゃね」
「そうですね・・・佐藤、そろそろいけるか?」
「うーん、もう少し」

「それなら、あっしがまとめて送るよ」
次の瞬間には道重達はリゾナントに戻っていた
「こ、これって一体?」
「みんな、期待してるがし」
その声の主―高橋愛はカウンターで笑って見せた

357名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:56:30
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(6)です
チャット前にここまでは上げないとと思って急いでしまい、表現の稚拙が目立ちますが・・・
無理やりな論理ですかね?
ところで、■■さんと設定かぶったのは本当に偶然です

ここまで代理お願いします。

358名無しリゾナント:2014/11/16(日) 10:36:57
>>357
ふ〜ん小田ちゃんの能力を亀井さんの復活につなげてきましたか
とりあえず行ってきます

359名無しリゾナント:2014/11/16(日) 10:51:16
>>357
代行完了しました
最後の1レスが行数オーバーだった

360名無しリゾナント:2014/11/16(日) 12:07:26
代理ありがとうございます。まあ・・・無理やりですかね?

361名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:54:51
>>339-341 の続きです



「ああ!また『はずれ』じゃ!!」

しじみの目をした少女が、悔しげに叫ぶ。
少女の期待とは裏腹に、引き上げた糸に獲物は食いついてはいなかった。

口を尖らせる少女・幼き日の里保を尻目に、白髪痩身の翁が軽快に糸を引き上げる。きらきらとした川魚が連なる
姿が、里保の不満をさらに募らせた。

「どうしてじいさまはそんなにいっぱい釣れるんじゃ」
「ほっほっほ、どうしてじゃろうなぁ」
「うちもじいさまと同じようにやってるのに」

渓流での、釣り遊び。
傍から見れば祖父と孫が戯れているようにしか見えないが。
唯一つ、普通の釣りとは異なる点。それは彼らが釣竿を持っていないこと。

「糸を的確な場所に打ち込まんと、魚は釣れないけぇのぉ」

言いながら、祖父は再び糸を川面に垂らす。
頼りなげな糸一本のみで魚を釣る。餌すらつけずに、そんな不可能に近いことを目の前の老人はいとも容易くやっ
てみせるのだ。

362名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:55:38
里保とて、何も知識がなくここへ来たわけではない。
彼女もまた、糸を使い魚を釣る事はできた。現に家の庭にある池では、祖父が目を丸くして感心するくらいに、錦
鯉をひょいと釣って見せてもいたのだが。

静止した水と流れる水では、条件が違う。
そんな言い訳じみたことは言いたくない。流れる水の速さなら、十分計算できているはず。
なのに、魚は一向に里保の糸には寄ってこない。

「そうじゃのう」

焦燥感を露にし始めた孫に、祖父が助け舟を出す。
と思いきや。

「川の水に手を入れてみるんじゃな」
「それってどういう」
「目に見えるもんが全てではない。じゃが、目に見えるもんを見逃してはいけん。そういうことじゃ」

と言ってにかっと笑って見せるだけ。
正直、里保には理解できなかった。だが、やってみなければ何もはじまらない。
意を決し、さらさらと流れる川の水に自らの手をそろりと漬けてみた。

「え…これって」
「ほっほ。もう気づいたんか。何じゃ、困らせ甲斐のない孫じゃのう」

何かに「気づいた」里保にそう言葉をかける祖父ではあったが。
その顔は満面の笑みに包まれていた。

363名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:57:54


里保の意識が追憶から戻る。
糸口は掴めた。あとはどう「やれば」いいかだけ。

「どうしました? 意識が朦朧としているんですか?」

目の前の少女が拳を再び前に構える。
だがその表情には勝利に対する確信が見て取れた。
里保は分析する。確かに少女の格闘術はなかなか侮れないものだ。加えて彼女の能力の影響下で動きの予測が立て
られない。
そんな状況から畳み掛けるように。

「『鞘師』…数百年の伝統を誇る水軍流も、意外と大したことないんですね。こんなもののために『あかねちゃん』
の人生が翻弄されるなんて…馬鹿馬鹿しい」

水軍流とそれを綿綿と伝えてきた「鞘師」への侮辱とも取るべき、少女の言葉。
しかし里保は首を振る。そんなことで激昂するより、やらなければならないことがある。
ここで倒れてしまえば、里保自身が少女の言葉を肯定したことになってしまう。

次の瞬間、少女は信じられないものを見るように目を見張った。
里保が祖父から受け継いだ赤鞘から刀を抜き、徐に自らの腿に突き刺したからだ。
強烈な痛みが、瞬時に里保の全身を駆け巡る。

364名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:58:36
「ぐっ!!」

叫びたくなるのを抑え、相手を見据える里保。
その炎にも似た視線を、少女は涼しげな顔で受け止めた。

「刺激を与えれば、能力の影響下から脱却できる、ですか」
「……」
「そんな程度じゃ、私のテリトリーは解けませんよ」

圧倒的な自信。
万が一にも、自らの敗北など考えにもない。

「ううん、わかった」
「は?」
「だいたい『わかった』」

里保は知っていた。
過信は時に、自らの身を危うくすることを。
それはこちらも同じ事。
だから一撃で、決める。

少女の視界から、里保が消える。
消えてしまったかと錯覚するくらいの、神速とも言うべき踏み込み。
なぜ里保が正確無比にこちらの懐に入ることができたのか、少女には理解できない。
だが、本能が警鐘を鳴らす。これは「危険な状態」だと。

365名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:59:33
水平に襲い掛かる、太刀筋。
少女はそれを体を反らして何とか回避しようとする。
ただ、少女がいた場所を流水の流れのように静かに、それでいて鋭く薙ぐ刃。

美しくも、恐ろしい。

少女がその剣技に見惚れている暇はなかった。
さらに一歩踏み出た里保の足が、不安定な少女の体勢を崩しに掛かる。

先程のは囮で、これが本命か!!

虚を突かれ、あっけなく崩れ落ちる少女。
天を仰ぐ形で倒された少女の鳩尾を襲ったのは、燃えるように赤い鞘の先だった。

魂をもぎ取られているのではないかと思うくらいの、強烈な一撃。
倒れるわけにはいかない。落ちるわけにはいかない。
強固な意志とは裏腹に、意識は穴の底に落ちてゆくが如く。

「どうして…わたしの…」
「君の能力は、精神に働きかけるものじゃなくて、物理的に『ずれ』を起こさせるもの。だったらその『ずれ』を
修正すればいい」

366名無しリゾナント:2014/11/18(火) 01:01:15
少女の能力は。
自らの領域内の気温や湿度を操作する。
それにより局地的に空気の密度を不均一にする。
言うなれば自由自在に陽炎や逃げ水を発生させるようなもの。
そして異常な湿度や不均一な空気、それに伴う気圧の変化が音の伝わりや皮膚感覚をも乱す。
彼女の「空気調律(エア・コンディショニング)」の領域に入った人間は文字通り、自分の立ち位置に迷うことに
なる。

しかし里保は、自らの体に刀を振るうことで、自らの身に齎された「ずれ」の具合を把握した。まるで目測を阻む
水の屈折具合を、自らの手を差し入れることで感覚調整するかのように。
自分が想定した刀の軌跡と、実際に打ち込まれた場所の「ずれ」。痛みの感覚と、実際に傷を負った場所の「ずれ」。

それらのずれ全てを把握し瞬時に調整することができたのは、里保が水軍流の看板を背負うこと、つまりは「鞘師」
の名を継ぐに相応しい資質の持ち主だからだろう。目に見えるものが全てではないが、目についたものは見逃して
はならない。祖父の教えを忠実に守ることで、里保は目の前の少女から勝利を得たのだ。

「そんなことで…やだ…ここで…あかねちゃん…」

それだけ言うと、少女は糸が切れたように気を失ってしまった。
里保は知らない。少女の言う「あかねちゃん」が自身の因縁に大きく関わっていることを。
そして。少女も含めた二人もまた、自身と同様に「響きあうもの」だということを。

367名無しリゾナント:2014/11/18(火) 01:11:29
>>361-366
「幻影(後)」

叩き台にと書いたものなので設定とか色々甘いとは思いますが、
設定の甘い言い訳ついでに

>>  さん
小田ちゃんの能力は、すごく雑に言えば
自分が現在いる時間の前後5秒間の時間を切り取り、編集できる
その間にあったことはなかったことにできるし、あったことにもできる 能力です。
つまりまーちゃんの前で飛び降りたという時間は飛ばしつつ、まーちゃんの
「小田ちゃんが飛び降りた」記憶はそのままにしたという感じです

>> さん >> さんが考え出した説が公式になってもよかったのですが
一応作者自身も作中のどこかで説明はしていたはずなので(書いた本人が忘れるとは!!)
説明させていただきました。
遅くなってしまいすみません。

368名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:22:46
>>286-290 の続きです



ごく小さめな、宗教画。


中央、やや左上に天使。
両腕を上に掲げ、豪華な衣装がはためく。
天に向けられた顔は、なぜかぼやけ、その表情はわからない。
広がる地上には救済を求める人々が歓喜の表情で空を見上げる。

その救済を求める人々の中に、春菜はいた。
やがて天使の手から溢れる光は、春菜を包み込み…

そうだ。
わたし、和田さんの精神世界の中にいたはずなのに。
暗闇に包まれて、意識が溶けていって。
そして今、先ほどの絵画のような光景が春菜の目の前に広がっている。

わたし、死んじゃったのかな。

精神世界での出来事は、現実の肉体にも作用する。精神世界における死はつまり、現実の死。
春菜が初めて喫茶リゾナントのドアベルを鳴らした日。当時の店主だった新垣里沙はそんなことを言っていた。
コーヒーの淹れ方をレクチャーしながらの軽い雑談のようなものだったが、まさかそれが自分の身に降りかか
るとは。

369名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:24:16
天使が、春菜の手を引き天を目指して飛んでゆく。
なるほど、死んでしまうならこの光景も腑に落ちる。
たまに優樹を怒り過ぎたり、何とか相手のいいところを探して褒めようとしたけれど見つからなくて挫折したこと
はあったが。どうやら地獄に落ちるようなことにはならなかったらしい。

仲間のことを思う。
生田さんは無事だろうか。送り込まれたのが自分だけでよかった。しかし、志半ばで倒れることになってしまった。
道重さんは泣いてくれるだろうか。くどぅーとまーちゃんは仲良くやれるだろうか。小田ちゃんはみんなの輪の中
に入ってゆけるだろうか。

どうも心配事ばかり増えてしまう。
春菜は思い直し、天使のほうに目を移した。
長い黒髪。小麦色の肌。天使と言えば金髪で色白と相場が決まっているものと思っていたが、現実はそんな単純な
ものではないらしい。

天使が、振り返る。
大きい、潤んだ瞳と目が合う。
誰かにそっくり。そうだ、和田さんに似ているんだ。
そう言えば和田さんを助ける事はできなかった。あんなに大きなことを言っておいて。

― それと、次からは『和田さん』じゃなくて『彩ちゃん」ね! ―

絶海の孤島に旅立つ日の朝、偶然出会った彩花にそう言われたことをふと思い出した。
あんな綺麗な人を「彩ちゃん」だなんて。でも、一度呼んでみたかったな。ちょっと恥ずかしいけど。って言うか
もう死んでるからいいかな。天使さん、申し訳ないんですけど今だけ、和田さんの代わりになってくださいね。

370名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:25:31
「彩ちゃん!!」
「はるなん?」

天使が、大きな目を細めて笑う。
そこで春菜は違和感に気づく。自分の手を引いて空を飛んでいるはずの天使の顔が、なぜか自分の目の前にあ
るのだ。

「よかった。はるなん、気がついたんだ」

あれ? 天使さん? 何でわたしなんかの名前を知ってるの? それに親しげにはるなんだなんて。

そこでようやく春菜は、自分が布団の中で寝ている体制であることに気づく。
そう言えば天井も見慣れたもの。そうか、ここは喫茶リゾナント。じゃあ、この天使さんは。

「もしかして…わ、だ、さん?」
「なに?寝ぼけてるのはるなん」

いたずらっぽく笑う彩花を見て、春菜はようやく状況を理解する。
自分が、現実の世界にいるということを。

「えっと、あの、生田さんは!」
「えりぽんのこと?下にいるよ。彩、えりぽんからはるなんのこと、色々聞いちゃった」

少しずつ、情報の断片をつなぎ合わせてみる。
つい先ほどまで、自分は彩花の精神世界にいたはずだ。途方も無い闇に飲まれ、そのまま意識を失ってしま
った。ここまでは確実だ。

371名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:26:32
で。話の流れがぶった切られたかのように、現在がある。
見る限り、彩花に常軌を逸した狂気は見られない。となると彼女は「元に戻った」ということになる。ここで
問題。誰が、彩花を光の世界に連れ戻したのか。

A 生田さん
B わたし
C その他の第三者

Bはまずないだろう。私は失敗してしまった。だから、あの闇に呑まれてしまったわけで。
Aも考えられない。生田さん自身がサイコダイブしたならともかくだ。となると。

「おー、飯窪目ぇ覚ましたんだぁ」

部屋に入ってきた、良く知っている顔。
かつてリゾナンターたちを率いていた、前リーダー。
思わず反射的に体が飛び上がる。

「新垣さん、どうして!!」
「いやー生田に呼ばれたのよ、飯窪が倒れたって言うから。ま、あたしが何もしなくても、あんたたちは無事
生還できたみたいだけど」

そこで春菜はようやく実感する。
戻ってこれたのだ。現実の、世界に。

しかし先程の三択の答えはCである第三者、つまり里沙が自分たちを助け出したと思っていたが。今の里沙の
口ぶりだと、どうやらそうではないらしい。

372名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:27:50
「でも、私…和田さんの意識の中に取り込まれて、それで」
「ありがとう、はるなん」

そこで春菜の手に添えられた暖かな手。
あまりにも畏れ多い。春菜は自らの首をぶんぶん振る。

「いやいや、私お礼を言われることなんて何も」
「ううん」
「え?」
「彩の心が、深い闇に沈んで、どうしようもなくなって。辛いのは彩だけ、世界から取り残されたのも彩だけ
だと思ってた。でも、はるなんも辛い思いをしてたんだよね」
「それって」

春菜は思い返す。
彩花の精神世界に入り込み、壮絶な過去を垣間見た時。
確かに、フラッシュバックのように春菜自身も体験した思い出したくない出来事が甦った。
それが、彩花にも流れ込んだというのだろうか。

「でも、はるなんは立ち上がった。眩しいいくつもの光が、はるなんを導いてくれたんだね」

彩花の言うとおりだ。
異能力の詰まった肉の塊、そう形容するのが相応しいくらいの扱いを受け。
そして、闇に心を閉ざした。そこに光を当ててくれたのは、今ここにいる里沙やさらに先代のリーダーである
愛が率いたリゾナンターたち。今も春菜のかけがえのない仲間たちだ。
しかし面と向かって言われると。春菜は自分の顔に急激に血流が流れ込むのを感じていた。

373名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:29:33
「うん、確かにそうなんですけど、でも、和田さんにそんなこと言われるとわたし、何か恥ずかしくて」
「恥ずかしいのはお互い様でしょ?はるなんだって、彩の昔のことを見たんだし」
「え、それはその…はい…見ました」

肩を落とし項垂れる春菜。
そうだわたしったら和田さんの過去を勝手に見ておいて自分の過去を見られたのを恥ずかしいとか言ってもう…
そんな様子を見て、彩花はふふっと微笑んでみせるのだった。

「あやね、あの過去を見られたのがはるなんでよかったと思ってる」
「…どうして、ですか?」
「だって彩たちが背負ってるものはきっと似てるから」
「和田さん」
「だから、彩も光を見出すことができた」

そうか。そういうことか。
彩花はきっと、春菜が光に導かれ支えられているのを見て、自らもその道を選ぶことを決意できたのだ。
つまり、自身の闇から抜け出すことができたのは彼女本人の力なのだと。

「光の中にね、顔が浮かんできたの。たけちゃん、かななん、りなぷー、それにめいめい。あと誰だっけ…とに
かく、彼女たちがいる限り、彩は落ち込んでいられない、立ち上がらなきゃって。憂佳ちゃんや紗季ちぃのため
にも」
「そっか…和田さんは自分の足で立つことができたんですね」
「ううん」

自分のやったことは無駄だったのか。
そう思いしょげかえる春菜の手を、彩花が再び取る。

374名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:30:55
「彩が光を見つけることができたのは、はるなんのおかげだよ…ねえ、はるなん」
「和田さん?」
「…さっき彩のこと、『彩ちゃん』って呼んだでしょ」

思いも寄らない指摘。
再び春菜の顔に恥ずかしさの火が灯る。まさかあれを聞かれてたなんて!!

「いやっあれはその寝ぼけてただけって言うかそんなわたし如きが和田さんのことをいきなり…ぁゃ…ちゃんだ
なんて恐れ多くて」
「あれ?今何て言ったの?もう一度言ってみてよ」
「だ!ダメです!!」

彩花にからかわれ、手足をばたばたさせている春菜を遠目で見ながら里沙は。
衣梨奈から聞いていた話だと、和田彩花は心を闇に侵食された不可逆状態に陥っていたと思って間違いない。と
なると例え精神干渉のスペシャリストの里沙でも彼女を救えたかどうか怪しい。それを、春菜はやってのけた。

盗み聞きの趣味があるわけではないが、春菜と彩花の会話の断片から里沙は、二人の共通した過去が今回の事件
の解決に繋がったのだと想定した。奇しくも彩花は例の「エッグ」の被験者であり、春菜もダークネス傘下の宗
教団体の手により過酷な人体実験を受け続けたという。

「今回は、あやちょが自分の力で立ち直っただけだから。あんな奴らの力なんて、借りてない」
「…いたんだ」

里沙から、絶妙な距離をとった背後に。
苦い顔をした花音が立っている。

「増してやあんたたちに借りを作ったなんて、思ってないから」
「…あんたがどう思おうが知ったこっちゃないけど、今回御友達を救ったのは間違いなくうちの子たちだよ。あ
たしでも助けられたかどうか」
「くっ…!!」

375名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:32:38
明らかにこちらに敵意の目を向ける花音を見て。
彼女がまだダークネスの手の内にあった頃のことを思い出す。
里沙がダークネスのスパイとしてリゾナントと本拠地を行き来していた頃。隔離された研究施設にいた、虚ろな
目をした子供達の中に、彼女はいた。

一目見て、里沙は花音に精神干渉能力が備わっていることを見抜く。
それは自らの能力にとてもよく似たものを感じたから。
当時の研究主任は、今は同時に10人程度しか洗脳する力はないが、いずれ100人、ひょっとしたら1000人以上を
一度に洗脳できるくらいの能力に発展するかもしれないと誇らしげに語っていた。それほどまでの「神童」な
のだと。

結果的に彼の願いは叶うことは無かった。
彼女を含めた「エッグ」と呼ばれた子供達が何者かの手引きで奪われてしまったのだ。例の研究主任はその責
任問われた上に強奪事件の関与をも疑われたことで、即日粛清される。まるで仕組まれたかのように、迅速に。

「…あの子は連れてかないの?」

そのまま帰ろうとする花音に、里沙が声をかける。
小さな背中は、振り向くことなく。

「あやちょはもう一人で帰れるから。それと。今回のことも、『赤の粛清』の件も。あたしはあんたたちに助
けてもらったなんて、微塵も思ってない。『スマイレージ』は、あんたたちリゾナンターを超えてやるんだから」

リゾナンターという存在への、強烈な対抗心。
それは荊のように里沙の心に絡みつき、そしてなかなか消えてはくれなかった。

376名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:33:51
>>368-375
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

377名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:20:52
■ マスクオブホース −田中れいな− ■

衝撃波。

一撃は、破裂音に弾かれた。


「はいはい!聞いてくださーい!ちょっとだけっ!止まってくださいっ!
この先、ちょっと!お取込み中なんで!ここで!ちょっとだけ!お時間くださいっ!」

繰り返されるセリフ。

彼女は決して戦おうとはしない。
だが、決して、田中をのがさない。

立ち塞がるは覆面の少女。
パーティーグッズによくある『馬』のゴムマスク。
身長は、田中と同じほど。

ただし、腕と脚の太さは、倍ほどに違う。

ラフな赤地のTシャツ、デニムのハーフパンツ。
黒のニーソックス、黒のスニーカー。

「さっきからなん?そこどき!」
「いやー!ちょっと!それはっ!どけないっ!どけないです!」
「ちっ!なんね!」

378名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:21:26
先ほどからこの繰り返し。

左へ行けば左、右へ行けば右。
踏み込めば退き、踵を返せば猛然と追随。
再び立ち塞がる。

どかんのなら、打ち倒しようだけったい。

「ストーップ!とーまってー!」

構わず踏み込む。

「ちょ!やめてって!」

フルスイング。
強引な一撃。
辛うじてかわす『馬』の少女。
そのまま距離をとるべく、さらに退く。

「まだまだ!」

田中の猛攻。
ことごとくかわす。

だが、起伏の激しい山腹、
植林された杉が連立し、斜度もある中、
途切れることなく繰り出される田中の連撃を、凌ぎきれるものではない。

ドン。

379名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:23:09
一抱えほどの杉を背に、『馬』の少女が追い詰められる。
クロスガード。
交差した両腕の上。
叩きつけられる、田中の拳。

衝撃波。

田中の拳が『馬』の少女を捉えた瞬間、
まるで、見えない壁が、爆発したかのように、田中の拳は弾き返された。

破裂音。

拳に走る激痛が、自らの攻撃と、
衝撃波のそれとが、ほぼ比例していることを直感させる。

「だっから!あぶないって!ゆってるのにっ!」

「ちぃ!」

これが、少女の能力か。

380名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:25:52
戦車の装甲の一種に”爆発反応装甲”あるいは”炸裂装甲”と呼ばれるものがある。
装甲板に対し、斜めに衝突した弾頭を、爆薬で吹き飛ばし、内部への浸透を防ぐ、
使い捨て、換装式の二次装甲。

本来の”炸裂装甲”は装甲板に対し角度をもって衝突した弾頭でなければ効果はないが、彼女の能力は、衝突の角度に関わらず、効果を発揮するらしい。

しかも、強く殴れば殴るほど、跳ね返る衝撃波もまた、強くなるのか?

もし、そうだとするなら、
能力として、直接の攻撃手段を持たない田中にとって、
これほど相性の悪い相手もいまい。

打撃はすべて防がれ、さらに、同じだけの衝撃波が田中を襲うことになる。

「もう!田中さん!あきらめて!じっとして!手ぇこわれちゃうよっ!」

『馬』の少女はへっぴり腰。
両手を前へ出し、田中を押しとどめる。
手のひらをこちらに向け、制止を促す。

手が壊れる?
なるほど、このまま殴り続ければ、結果は見えている。


…上等たい。


赤黒く腫れ上がる、自らの拳を握りしめる。

381名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:27:24
こん道草食ってる暇、ないけんね。

「なん知らん、弾きようなら、もっと強い力で打ちよう!」
「だーっ!なんでっ!そうなるのっ!」

猪突猛進。

身を低め、一直線。

再び構える『馬』。

交錯する両者。

山林に、破裂音が響き渡る。

衝撃波。

382名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:28:33
>>377-381
■ マスクオブホース −田中れいな− ■
でした。

383名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:32:03
深い森の中を、走る一人の少女。
一人の少女を取り囲むようにして追う男達。その数、六。
目つきの鋭い少女は自分が追い込まれたことを知ると、観念したように立ち止まった。

「大人しくすれば、命までは取らんよ」

男のリーダー格が、言う。

「命とらん代わりに、慰み者にするんやろ。そんなんまっぴらごめんやわ」

男を睨む少女。
危機的状況からか、関西のイントネーションに棘が立つ。

「失礼な。あなたには被験対象になっていただくだけです。貴重な、ね」
「はん。要するにモルモットっちゅうわけか」

少女の両足から、ゆっくりと煙が立ち上る。
それは、地面の草が炙られ、焦がされた煙。

384名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:33:36
「…『火脚』だ、気をつけろ!」

男の一人が叫ぶ。が、それは気休めにすらならない。
次の瞬間、独楽のように舞う炎が彼らに襲い掛かったからだ。

自らの体を回転させ、火を纏った両足での空中蹴り。
その威力もさることながら、灼熱の炎は確実に標的を蝕む。

「くそ、三人やられたか!」
「構わん想定内だ!対火炎能力バリアを張るぞ!!」

男たちの体を、青白い光が包み込む。
男の一人が炎の力を防ぐ防護壁を張り巡らせたのだ。

「どうだ、これでお前の力は封じられたも同然…」
「不用意に近づくな!こいつはまだ!!」

勝ち誇った男の一人が少女を拘束しようと、肩に手をかけたその時。
肩が、爆発でも起こしたかのように盛り上がる。いや、そうではない。

385名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:35:05
男が少女だと思っていたそれは、姿形を大きく変えていた。
刹那、男の掌に焼け付くような痛みが走る。思わず手を離した後に見たそれは。

逞しい四肢。
纏っていた衣服は既に燃え散り、真紅の絨毛が赤く赤く燃え上がる。
その様はまさに、虎。

「はは、ついに正体を現したな。『火脚』を操り、炎で人の魂まで焼き尽くす…絶滅寸前の人虎が」

男たちのリーダー格は半笑いを浮かべつつ、自らが後ずさっていることに気付く。
立っているだけでも賞賛されるべきだ。他の二人は既に腰が砕け、戦意喪失していた。
煉獄の獣とでも言うべきそれは、地を焦がしながら、赤い瞳に男たちを映していた。

彼女の名は焔虎 ― 尾形春水 ―

386名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:36:09
>>383-385
「焔虎」でした
やっつけ感がひどくてすいませんw

387名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:32:03
■ ディープハグ −新垣里沙X亀井絵里− ■

叫びは、声となったかどうか。

崩れ落ちる。
立っていられない。
出血が、止まらない。

【リゾネイター】亀井絵里。

かつて、共に戦った、かけがえのない仲間が、そこに。
だらりとさげたナイフ、健康的な肌、ふともも。

そう、みちがえるほどに、健康的な。

それは、いつもの彼女だ。
だがそれは、彼女の知る彼女ではない。

病、入院、心臓…

いったい、何が?
彼女に、何が?

ぼやける視界でもわかる、屈託のない、いつもの笑顔。
いつもの笑顔が、ありえぬ言葉を紡ぐ。


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