したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2

1名無しリゾナント:2011/01/18(火) 17:04:23
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第2弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

248代理投稿お願いいたします:2011/08/10(水) 14:43:18
 ■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■


共鳴セヨ…
少女は声にならぬ声を聞いた気がした
共鳴セヨ…
なにに?
『憎シミ』ニ…
蒼キ『憎シミ』ニ共鳴セヨ!

―――――

249名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:43:54
「あっいちごー!エリ、いちご好きっちゃん」
そう言ったとき生田衣梨奈は
すでにイチゴのパックを掴んでいる。
「えりいちごすきっちゃん」
その小さな暗殺者は生田の手からイチゴを掠め取り
ちいさな顔の、ちいさな眼と口で、にまーっと笑った。
「すきっちゃんすきっちゃん」
―明らかに嘲笑気味な声音で生田のセリフを繰り返しながら―
イチゴパックを元の位置に。
「あー!里保ちゃん!それエリのいちごやけん!」
「高橋さんに頼まれた買物リストにはイチゴは入ってませーんざんねんでーす」

天敵。

ものを知らない生田に、この単語が思いつくわけもないが、
鞘師里保はまさに生田の天敵だった。

大人の前では礼儀正しくまじめ。絵にかいたような優等生。
だがこの優等生、どういうわけか生田のやること為すことすべてを妨害してのける。
一方、生田衣梨奈は全く正反対、
大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
ヘラヘラと笑いながら大人たちの神経を逆なでする。

優等生と問題児。優良と不良。水と油。
…最悪の関係だった。

最悪な関係?…いや、それは違っていた。
少なくとも生田にとって、これほど心地よいことはなかったのだ。

250名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:44:48
返り血を浴び、貼りついた笑顔の仮面の裏で泣きじゃくっていたあの冬の日。

そこに鞘師里保は現れた。

あの日…―生田が共鳴者となった―あの冬の日…。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…

―――――

251名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:45:23
生田は、大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
子供を支配の対象としか考えていない大人たちからすれば、
生田はただ一言「反抗的」と記号化されスポイルされるだけの存在でしかないだろう。
大人だけではない。
同級生にとっても、生田は「ただへらへら笑っているだけの怖くてキモい女」でしかなかった。

事実、彼女は幼いころからそう扱われ、周囲から疎まれてきた。

だが、違うのだ。本当の彼女は違うのだ。
彼女は「反抗」などしていない。

聞かないのではない、「聞けない」のだ。
守らないのではない、「守れない」のだ。
反省しないのではない、反省している人間はどういう態度をとるものなのか「理解できていない」のだ。

そう…彼女は、ただ「出来ない」だけなのだ。

それでも幼い少女は必死に皆と関わろうとしてきた。
だが、彼女の精一杯の親愛の表現は、ことごとく他人を傷つけるものだった。

同級生の持ち物を勝手に盗むなど日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
それは、自分が好きな人のものと自分のものとの違いがわからなかったから。

同級生に暴力を振うことも日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
ただ嬉しくなって跳ねまわっていたら、いつの間にか誰かが動かなくなっていただけ。
彼女にとって不幸だったのは
彼女が女性離れ…いや人間離れした身体能力をもっていたことだろう。
その怪力、敏捷性、天性の勘…

252名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:48:35
だが、誰もその才能を褒めてはくれない。誰にも気づかれない。興味を持ってもらえない。

「なぜこんな非道いことをするの?」

なぜ?皆が生田に説明を求めた。
生田には答えられない。答え方がわからない。
そんな生田を周囲は一方的に責め続けた。

理由を言え。さあ早く!さあ!。説明しろ。
説明できないならば理由など無いとみなす。
説明「出来ない」お前が悪い。

「出来ない」お前が悪い。

無能は罪…

そう、この世界は「無能力者」にとって地獄そのものだった。

それでも、生田はあきらめなかった。
いや己が住む地獄に気づいてすらいなかった。
そして必死に努力した。

笑顔…。
美しい彼女の顔を一遍で台無しにする不自然で、不気味な笑顔の仮面。
彼女に出来る最高のつくりわらい。

彼女の努力は、報われなかった。

253名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:49:26
キモい。
キモい、キモい、キモい、キモい!
周囲は不快を表明する。
生田はまだ気がつかない。
自分が嫌われていることに。
キモい!死ね!死ね!
それでも気がつかない。
キモい!死ね!死ね!死ね!。死ね!!!


そしてあの冬の日、生田は気がついてしまった。
自分がこの世界から拒否されていることに。
あの日気がついてしまった。
そんなこと、
と う に 理 解 し て い た 
ことに。
あの日気がついてしまった。
自分の心に潜む『蒼き魔獣』の存在に。


共鳴セヨ

蒼キ『憎シミ』二、共鳴セヨ!


―――――

254名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:50:23
「愛ちゃん!」
思わず田中れいなが叫ぶ。
「ぐうっ!」
吹き飛ばされ、教室の壁に叩きつけられながらも、高橋が即座に起き上がる。
「愛ちゃん!どうしたんね!?」
「わからないんやよ!」
「わからん?!」
「あの子、『心がわからない』…【読心術】が効かないんよ」
「なんてー!」

「ガキさん!動ける生徒たちは?」
「うん!全員支配出来てる。もうすぐ一階まで誘導終わるっ。」

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!

「笑ろうちょる…こんだけのことしといて!よう笑ろうもん!」
怒りに打ち震える田中が叫ぶ。

割れたガラス、ひしゃげた机、散乱するノート、教科書…
踏み潰された携帯、携帯、携帯。
そして、血の海…。
教室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】
それが生田を無限の孤独へと押遣っていた力の正体だった。
力の意味を知らず、そのコントロールを知らぬ少女は漏れ出るその力によって
周囲にある種の精神的妨害を無秩序にまき散らし続けていたのである。
他者の心を推し量ろうとする意思そのものを奪い取り続ける生田を、
その発生源たる生田を排除しようとする防衛本能。
それはただ何となくの生田への不快感へと、そして、不快なものを遠ざけんがための無関心へと繋がっていた。
だが生田の力が無関心では防衛しきれないほど増大したとき、
一気にそれは生田への憎悪となって噴出し、
そしてそれはさらなる生田の能力の増大…いや、決壊を促してしまった。

255名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:51:07
もはやそれは止められない。
際限なく溢れ続ける憎悪の感情は、直接その手に触れた者の心を一瞬で究極の狂気へと突き落とし、
ずたずたに引き裂き、切り刻み、すり潰す。
普通の人間であれば一瞬で発狂してしまう…。

あるものは見境なく暴れ、あるものは窓からその身を投げ、
あるものは自らの耳を引きちぎり、唇を噛み切り、自らの腕をただひたすらにペンで刺し続ける…
自らの指を食いちぎり、泣きながら過去の罪を懺悔しひたすらにその頭を床に叩きつけ続ける者…
…地獄…
そこはまさに地獄だった。

その地獄の中心で少女はただ、ひきつった笑顔で立ちつくしている。

「だめ…完全に自分を見失っている…多分、自分自身も能力に喰われてしまっている…」
助けられない…
先ほどから何度となく高橋は少女に呼び掛け、同時に暴れ続ける少女を取り押さえんと格闘を繰り返していた。
通常ならば相手の攻撃を全て読み、あっという間に取り押さえることが出来るはずが、
心が読めぬその少女はその生来の動体視力と身体能力だけで、格闘戦のエキスパートたる高橋の、しかも
【瞬間移動(テレポート)】によってどこから来るかわからないはずの攻撃を全て跳ね返し続けていたのだ。
迎撃のたび、高橋はその反撃による激痛に耐え続けていた。
一般人ならば一瞬で発狂しかねないその【精神破壊】を幾度となくガードする。
精神系の能力者である高橋であるがゆえに辛うじて単なる「激痛」のレベルに抑えている。
しかも、田中の【共鳴増幅(リゾナントアンプリファイア)】によりその防御力が高まっているにもかかわらず、
徐々にその激痛は大きくなっている。
やがては高橋といえど狂気の侵入を防ぎきれなくなるだろう。
手詰まりだった。

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!
教室に一人、生田の乾いた笑い声が響きわたる。
「ちぃ!もういいっちゃ!愛ちゃん!もう無理っちゃ!やるしかないよ!」

256名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:51:42
つまりそれは、生田を殺す、ということだった。
「でも!れいなだって感じたやろ!あの子は!…あの子も!」

共鳴者なんやよ!

「仕方ないっちゃ!どの道、こんなこと笑いながらやるようなもん!救いようがないっちゃ!」

仕方が無い…排除されても仕方が無い存在…

「笑ってないです」

え?

「あの人、笑ってないです」

小さな少女だった。
小さな、その小さな少女は音もなく教室に現れた。
音もなく、教科書を踏みしめ、音もなく、血の海を渡って。
この教室で地獄をその目におさめていた。

「鞘師ちゃん!外で待機っていっとったやろ!」

生田が跳躍する。
突然現れたその少女を排除するために。
どうせコレも同じなんだ。みんな憎んでしまえばいいんだ!
全部同じなんだ!

「鞘師ちゃんダメ!その子に触れさせては!」

鞘師の脚元から、深紅の血刀が突き出され鞘師のたなごころへと納まった。
鞘師の体は流れるように、溶ろけるように低く変形し、一瞬の躊躇もなく生田の懐へ飛び込んだ。

257名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:52:30
ガガンッ

血刀は、ひと呼吸のうちに左右に跳ね跳び、生田の両の腕を、
鞘師に掴みかかろうとするその両方の前腕…内碗部を打ち折っていた。
まるで関節が一つづつ増えたかのごとく、生田の腕がありえぬ方向へと折れ曲がる。
血刀は刃引きであった。刃のない血の塊は重い鈍器となって生田の腕を襲ったのだ。
だが、生田は止まらない。
そんなものでは生田の憎悪はとまらない。
止まりはしない。

「ガァァァァァ!!!」

大きく開いたその口が鞘師の首筋へと襲いかかる。
鞘師はなにもせず、立ちつくしている。
生田のあぎとが、あとすこしで鞘師の首に届く、あとすこしで…
ガガッ!
電光石火、血刀が生田の右膝を砕き、ほぼ同時にかち上げられた柄頭が生田の顎をとらえた。
ドサァッ
一瞬浮き上がるように空中に停止したのち、生田は床に倒れ伏した。
手足を砕かれ血反吐を撒き散らす、哀れな姿となって、床をはいずっている。

「鞘師ちゃん!」

無言で鞘師は「待ってください」と高橋をとどめた。

ムクリ…
生田がその場で上体を起こした。
壊れた人形のように尻だけで体を支える。

ハハッ…

ハハハ…

258名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:53:17
ハハハハハハ…

「まだ…笑っちゅう…!」

アハハ…アハ…ハハハハハハ…

「なぜ、泣いてるの?」

唐突に、そう鞘師は尋ねた。

アハ…ハ?

「なぜ、あなたは泣いているの?」

読めぬはずのその心を鞘師は…

水軍流

凡庸なる人類がその身体資源の限界を超えることなく、それでも究極の殺傷力を求め、編み出された、殺法。

それは、まず己れのあらゆる内的感覚を観察し分析し解読する力を育む。
ほんの些細な膝の角度、背骨の変化、重心の位置、呼吸における内臓と横隔膜の変化、
そこからさらに生まれる、全身の重さの配分の変化…
その自己の身体感覚に基づいた観察力は他者を観察する力へと拡張されていく。
その積み重ねが敵「意」という概念に置き換えられ、敵の次の一手を正確に指し示す。
もはやそこには神経伝達速度の限界は無い。いや逆だ。
初めから次の一手がわかっているのだから神経的な伝達速度など一般人と変わらぬ程度で十分なのだ。
やがて敵「意」が単純な五感の情報以外からも察知できるほどになるころ、
その観察力は身体運動から相手の心理状態まで読みとる力へと深化していく…
鞘師は丁度、その途上を歩む者だった。

超能力ではなく、純粋に、ただの「技術」によって鞘師は生田の心を見抜いていた。

259名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:56:12

彼女は泣いている…と。

そこに同情は無い。
鞘師もまた、未熟な心の、「あるべき何か」が欠落した、未完成な子供である。
でてきた言葉は、ただの感想にすぎない。

「泣いているなら…」
ハハ…ハ?
「泣いているなら、普通に泣けば?」

ハハハ…ハハハ…ハ…ハ……
ハ…ァ…ァ…ァァァ…ァア…アアア…
アアアアアアアアア!!!
アアア!!!アアアアアア!!!!

鞘師の言葉は限りなく冷たい。

だが、そんな言葉が限りなく温かいものとして、あれほどの憎悪を…
生田の心を簡単に溶かしてしまった。

涙だ。あたたかい、あたたかい涙がとめどなく頬を流れ落ちる。

どんな形であれ、それは、「生田の心が他人に通じた」瞬間。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…

260名無しリゾナント:2011/08/10(水) 14:59:54

------------------------------------------------------------

※未練たらたらの付録(イクちゃんの能力設定、そのボツネタの記録)
いくちゃんに関してはどんな能力がいいか?そもそもどんなキャラなのか全く掴めず、全然筆が進まない状態でした。
そんななか、『――― Erina』が発表され、KYそのものが能力というアイディアが示されました。
当時も「なるほどうまい。実にうまい。これはいいなぁ(でも自分のイメージとは違うな)」
という印象だったのですが、能力的には物理的な能力者がいいと思っていました。
(卒業メンバーが軒並み物理戦闘系でしたし…)
が…なぜか日を追うごとに勝手にその延長線上の能力で自分の中のイクちゃんが暴れ出してしまいまして…
泣く泣くそっちへと引きずられてしまった感があります。

でも未練が残る。あーせっかく設定考えたのに。とまあそういう未練をここに。

■生田衣梨奈:【空気制動(アトモスフィアフリージング:atmosphere freezing)】

現状では「一瞬、その場の空気を凍りつかせる」だけの能力。
一種の空気限定の念動力ともいえる。
生田を中心に半径5m程度の範囲内のうち任意の空間に充満している空気(酸素に限らず、ガスや水蒸気も含め)を自然の摂理に反して「その場に固定する」
扇風機の「強」程度の流れならば完全に停止させる。
但し、人間が全速力で突っ込んでくるなど大きな力が加わった場合、それなりには動いてしまう。
が、逆にこれを応用し衝突や落下の衝撃を弱めるクッションとして使うことが出来るかもしれない。
また使い方によっては範囲内の生物を窒息させることもできるかもしれない。
ただし能力の連続使用は生田本人も相当に消耗するので我慢比べのようなことになるだろう。

能力の発展性について
もしかしたら彼女の能力は「空気を止めること」から拡張されていくかもしれない。
空気の成分を正確により分ける、空気を自在に動かす(風を起こす)、など。

261名無しリゾナント:2011/08/10(水) 15:01:08
■生田衣梨奈:【電磁操作(エレクトロマグネティック;electromagnetic)】

電気を操る力のうち、主に電磁波に関する能力に特化したもの。
能力の強度、どれだけの自由度にするかはいまだ未設定。
どれくらいの誤差かは未設定だが発振する電磁波の周波数はコントロールできる
また周囲の電波や電磁波の存在を感知できる
未熟なうちはただのノイズにすぎない(相当不快だろうからこれを無視する習慣は必須となるかもしれない。KYの原因?)
が熟練によって有益な情報として(例えばその電波がラジオ放送ならちゃんと人の声や音楽として)感知できる日
がくるかもしれない。

具体的な能力使用例
弱めの能力設定であれば、電子機器を狂わせる等。
強めならば、メーザー砲、つまり水のような極性のあるものを共振させ発熱。敵を蒸し焼きにする。
電撃を操る能力を持たせるかは未定。

■生田衣梨奈:【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】

悪意、敵意、攻撃の意思を持ってその手で触れたものを発狂させる能力。
現状、強力な発狂作用をもたらすためには接触せねばならないようだが、
非接触であっても軽度の精神妨害を常に撒き散らしているため、
将来的には非接触であっても発狂に至らせる能力者となるのかもしれない。

非接触時の軽度の精神妨害は
「自他の心が読めない」「空気が読めない」と周囲に認識されているようだ。
リゾネイターとしての覚醒以前は完全にダダ漏れ状態であったが、
リゾネイター達との出会いにより、徐々にそのコントロール法を身につけていくことだろう。

262名無しリゾナント:2011/08/10(水) 15:04:01
>>248-261
以上、 ■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■ でした。


以上の代理投稿をお願いいたします

263名無しリゾナント:2011/08/10(水) 20:54:47
長いなw
場合によっては分割投稿で対応しますか

264名無しリゾナント:2011/08/10(水) 21:10:07
完了

265名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:14:47

「なんでよっ!!」

ガチャン、と食器が激しくぶつかる音と共に聞えた絵里の声。
滅多に声を荒げない彼女が怒っている。
さゆみは急いで病室の扉を開けたが、そこに居た絵里が今にも泣きそうな顔をしていた所為で声をかける事を躊躇った。

「二日延びるだけじゃない」
「そんなの嘘でしょ!絵里知ってるもん!そうやってもっと入院延ばすんでしょ!?」

幸い食事は済ませた後らしかった。絵里が感情に任せて強く机を押した所為で
今度こそ食器は白い床に落ちて音を立てた。
その音に驚いて思わず息を呑むと気配に気付いた絵里と目が合った。

「さゆ…」

気まずそうに目を逸らされる。絵里はシーツをぎゅっと握って唇を噛んだ。
こんな姿を見るのは久しぶりだ。
昔―絵里とまだ出会ったばかりの頃―は入院が予定より長引く度に泣きじゃくり、物を投げていたのだが
さすがに年齢を重ねるたびそれは減り、そしてリゾナントの仲間と出会ってからは滅多と起こらなかった。

「どーしたのよ絵里。珍しいね、怒鳴ってるなんて」

努めて明るい声で、いつもの調子で話しかけたがバツが悪かったのか絵里は目を合わせようとしない。

266名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:15:50

「さゆみちゃん、絵里ちゃんの着替え後二日分よろしくね。軽い貧血。大事をとってだから、心配しないで」

落ちた食器をトレイに乗せながら看護士が小声でさゆみに伝えた。

「すぐに先生来るから、どこも行かないでね」

優しい声でそう残し部屋を後にする。静寂が二人を包んだ。
――― 大したことないって。二日延びるだけじゃん。
平気な振りしてそう声をかけるのは簡単だった。だが今のさゆみにそれを言うことは躊躇われる。
絵里にとっての二日間がどれほど長いか。病院で過ごす一日一日がどれほど不安か。
出会ってもう10年近い。その気持ちは、痛い位理解しているつもりだ。

「調子悪かったの?」

ベッドの傍にあった丸イスに腰を下ろした。顔色も悪くない。点滴だっていつものやつだ。
大事をとって、その言葉に間違いはないようだ。

「悪くないもん。元気だもん…」

ベッドに備え付けられているテーブルに突っ伏した。

「明日着替えもって来るね。赤いチェックのパジャマ、乾いてるから」
「持ってこなくていいよ。絵里今日帰るもん」

くぐもった声は震えていた。

「絵里…」
「帰るもん!!帰るんだってばっ!!!!」

ドン、と拳でテーブルを叩いた。部屋が揺れた様な気がした。
どうしようもないことは絵里自身が一番分かっている。だからこそ、この感情をどこにぶつければいいのか分からない。
絵里の腕はさゆみを求めた。さゆみはイスから立ち上がり絵里のしたいように体を預ける。
ぎゅう、と痛いほどの力で抱きしめられて、さゆみはどうしようもなく切なくなった。だから同じくらいの力で絵里の頭を抱きしめた。

267名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:16:42

「約束したんだもんっ!明日帰るねってみんなに言ったもん!絵里がチーズケーキ作るって
 愛ちゃんがお店に出してくれるって言ったもん。れいなだって材料買ってきてくれるって
 ガキさんも愛佳ちゃんも、小春もジュンジュンもリンリンも楽しみにしてるって…!」

さゆみのお腹に顔を押し付けながら、絵里は喚いた。涙でいっぱいの、そして震えた声で。

「それから、さゆと約束したもん…今日はクレープ買って帰るんでしょ…、一緒に、食べたいよぉ…」


明日生きられるか分からない絵里にとって、約束がどれほど大切なものか、それはきっとさゆみの想像を遥かに超える。
でもその約束が、明日を生きるための目印になっている事は知っている。明日の約束を守ること。絵里はそれを大事に胸に抱き眠るのだ。

あの日、屋上で青空へ飛び出してしまいそうな絵里に、約束を取り付けた。
明日またこの屋上に一人で来てしまわないように。さゆみはしっかりと絵里の手を掴んだ。

明日は絶対クレープ食べようね
明日は面白い絵本もって来るね
明日は絵里の好きな本をさゆみに教えてね
明日はこっそりお菓子もって行くね
明日は、あしたは…



だから絵里は。ワァァァァと、迷子になった小さな子どもみたいに声を上げて泣た。

268名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:17:16

「明日も絶対来るよ、絵里。予定は変更。中庭に行こ。ね、何しよっか」



絵里が生きる目印を見失わないように。
絵里の約束が果たせぬ日が来ぬように。
絵里が明日もわらっていられるように。

時々弱虫になる絵里をさゆみは守らなくちゃいけないの。
明日も明後日もずっとその先も、さゆみは約束を守るよ。

明日の約束をすることがさゆみの約束
明日の約束を守ることが絵里の約束



寝癖で跳ねた頭に鼻先を押し付けて、さゆみは精一杯の弾んだ声で絵里に明日の約束を取り付けた。

269名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:23:16
>>265-268『やくそく。』
ちょっと真面目で懐かしい感じ、でした。
もうちょっとスマートに書けたら…と不完全燃焼ですが上げさせていただきます。

9期設定にも夢中になるけど、やはり、ふと原点に戻りたくなります
とりあえず形が変わってもリゾナンターは大好きだということです。

270名無しリゾナント:2011/08/13(土) 02:24:34
以上代理投稿宜しくお願いいたします。
この間まで大丈夫だったのに規制されてましたorz

271名無しリゾナント:2011/08/13(土) 17:29:10
行って来ましょうかね。上手く書き込めるか不明ですが。

272名無しリゾナント:2011/08/13(土) 17:42:33
投稿して参りました。改行の規制のためレスの区切りが変わってしまいました。
ご容赦下さい。

273代理投稿願います:2011/08/14(日) 15:05:58
 ■ クリミナルエネミー −鞘師里保− ■

イクちゃんってやっぱりKYだよなぁ

自分より年上で背も大きいくせに買い物を手伝うわけでもなく
カゴ一つ持ってくれるでもないその「美しきポンコツ」を横目に
鞘師は重たい買い物カゴを運んでいた。
水軍流によって、重量物を効率的に運搬するための体のコントロールは
知り尽くしている鞘師であったが、いかんせんもとの身体資源そのものが乏しいのだ。
瞬間的な動きの中なら敵の体重が100kg超であろうと片手で楽々放り投げる事が出来ても、
のんびり重いものを運びつづけるのは、やはりしんどい。

「カゴ持って」とか具体的に指示すれば生田は喜んで手伝ってくれるだろう。
だが、鞘師は頼まない。

ごく短い付き合いではあるが彼女の「ポンコツ」ぶりは身に染みてわかっている。
勝手にイチゴを取るぐらいならまだマシだ。
誰かの役に立てた、そのうれしさからカゴを振り回すかもしれない、
別の興味を引くものが眼に飛び込んできていきなりカゴを放り出す可能性もある…
なんにせよ、現状より良くなることは一切ない。その確信だけはある。

で、鞘師なりのささやかな抵抗が博多弁イジリというわけだ。

274代理投稿願います:2011/08/14(日) 15:07:10
例の一件は表向き、全て済んだこととなっている。
「特務安全調査室?」なるところと高橋との間でどんな密約がなされたものか、
『福岡県立防人中学集団ヒステリー事件』は、
思春期特有の不安定な精神状態により…とかなんとか、もっともらしい理屈とともに
ごく小さくとりあげられ、その他の瑣末なゴシップの中に埋もれて消えていった。

鞘師にはそういったことはどうでもいいことだった。
生田に対して同情も断罪するつもりもない。全く興味が無いのだ。

実はリゾネイターの中でも、高橋と新垣ぐらいしか気がついていないことだが、
鞘師自身、善悪とか合法違法に関しての感覚に大きな欠落部分を抱えている。
鞘師が全く問題を起こさない優等生であるのはそれが自分の安全にとってベストであるからだ。
善悪や道徳ではなく合理性によって『そうしている』にすぎない。
が、あの一件からわずかな期間で、喫茶リゾナントでの生活で、仲間との交流の中で、鞘師も大きく変わりつつある。

生田に対する不満からちょっとしたイジワルをする。
これなど、ほんの少し以前の鞘師には考えられないほどの「人間性」ではないか。

対して、生田の方はこの鞘師の不満には全く気がついていない。

一方的に「鞘師ちゃんは衣梨のことわかってくれる」そう生田は感じている。
だが、以前よりはるかに力のセーブが上達しているとはいえ、
実際のところ鞘師も生田の能力の影響をもろに受けているのだ。

275名無しリゾナント:2011/08/14(日) 15:08:05
「イクちゃんって何考えてるのか全然わからない」そう感じている。

それでも、わずかな足の向き、目線の変化、全身の微細なシフトウェイト…
そういった情報から一瞬先の行動ぐらいは判断できる。
通常、人間はこういった具体的な情報を正しく分析できず
「あてずっぽう」「たんなる思い込み」で判断し行動している。
鞘師は常人とは桁外れに多くの「具体的情報」を入手でき、それらを正しく判断できる。
生田の能力によってそれらが半減させられたとしても、それでも常人をはるかに超えている。
ただそれだけのこと。
感情にいたってはせいぜい喜怒哀楽が読み取れる程度の事だ。
犬がしっぽを振っていたら「多分喜んでるんだろう」誰にでもそのぐらいはわかる。
鞘師が人、生田を犬にたとえるなら、要はその「しっぽのこと」を鞘師だけが知っている状態。

276名無しリゾナント:2011/08/14(日) 15:08:57
本当に、ただそれだけのことだ。

あの一件の少しあと、リゾネイターにはもう一人、譜久村聖が加わっていた。
【残留思念感知】をもつ彼女もまた、生田の心を読める能力者であった。
鞘師、譜久村、そして能力のセーブが上達するに従い高橋、新垣…
いまや生田の心を読めるのは鞘師だけではない。
むしろ、高橋、新垣、譜久村のほうが鞘師よりはるかに生田に興味を持ち、生田を心配し、気にかけてくれている。
だが、「衝動性の塊」のような生田の突発的な奇行に対して「ダイレクトに」割り込めるのは今のところ鞘師だけなのだった。

先ほどのイチゴの事などもうすっかり忘れた生田が鞘師の前をスキップしている。
やっぱりかのんちゃんと一緒の班がよかったよ。鞘師は思う。
かのんちゃん…鈴木香音は譜久村聖と日用雑貨がそろう向かいのビルで買物しているはずだった。

ちょっとかのんちゃんに電話しよう。
高橋さんに用意してもらった携帯を取り出す。
「ほーいこちら神のケータイである〜」
「あ香音ちゃん。そっち終わった?」
「うんにゃ。でももうちょいかな」
「じゃさっき決めた待ち合わせ場所先行ってるから」
「ほーい…TVビル…とこの…プツツ…植木の前…っじゃあすぐ…プツ…」

切れた…圏外…?おかしい、さっきまでそんなことはなかったはずだが…

このとき、
もし、鞘師一人だけだったら?
もしかしたら、すでに異変を察知できていたかもしれない。
だが、それだとして、無事に何事もなく済んだだろうか?
逆にもし、このとき、生田がこの場にいなかったら?
 −生田がKYでは無かったら?−
鞘師は命を落としていたかもしれない。

危機が…迫っていた。

277名無しリゾナント:2011/08/14(日) 15:15:17
>>273->>276
 ■ クリミナルエネミー −鞘師里保− ■ でした。

以上、代理投稿願います。

278名無しリゾナント:2011/08/14(日) 21:53:07
遅れたけど行って来ますか

279名無しリゾナント:2011/08/14(日) 21:58:23
完了
本格的に9期の物語が動き出したって感じでしたね

280名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:37:19
>>627からです。
泉はバックステップをし、愛を庇うように前に出て再び構えをとる。
井坂は落ちていたナイフを拾いニヤリと笑って刃を泉に向けながら近づいてくる。
「逃げて、早く、逃げて!もう私の目の前で誰も殺させない、傷つけさせない、誰も失いたくないの!!」

泉が叫ぶ。

泉の脳裏には時間を魔術で戻す前、自分を犯人から守って血まみれになった高取刑事、港で灯子が
『愛してる』と言いながら銃をこめかみに当てて引き金を引き、そのまま海に落ちた事が浮かんだ。

その様子が泉の背中にいる愛に伝わってきた。

「泉さん……」

「うるせえ!」

281名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:39:29
井坂が銃をぶっ放す。
空砲が泉の耳をつんざく。思わず構えをとき、肩をすくめてしまった。

「次の弾は入ってるぞ……」
うすら笑いを浮かべながらゆっくりと近づいた後、一気に井坂は泉にナイフを振りかざしながら向かってきた!
「死ねぇっ!」

「危ない!」

井坂が愛めがけてナイフを振り下ろした時、泉は間一髪で愛の小さな体を抱いて受け身を取った。
ゴロゴロとアスファルトを転がっている間、泉の腕から鈍い音が聞こえてきた。

「泉さん!」
ナイフで泉の半袖のシャツを切り裂かれ更にそこからは深くはないが切り傷があり、ポタポタと血が滴り落ちている。
「泉さん……」
愛は悲しそうな目で泉を見た。
そんな愛を見た泉は顔を痛みでしかめながらも笑顔を作った。
「大丈夫よ。いつものことだから」
「でも……」
泉は思った。
彼女がこんなに怖い目に合っているのに自分を心配してくれている。
彼女を信じて良かった。
見ず知らずの女の子だったけど悪い人じゃなかった。

泉は愛の頭を撫でて立ち上がった。
(これだけ騒げばもうすぐ警察が来てくれる、それまで私が井坂を食い止めないと!)

282名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:41:16
「今度は外さねぇぞ」

「はぁ、はぁ……」
右腕を押さえても血はまだ滴り落ちている。
泉の息が荒い。

「逃げて、早く……」

「嫌や……」

「もう、誰も死なせたくないの」
泉は稟として言い放った。
「死ねえっ!!」

「嫌やーー!!」

井坂がナイフを振り下ろした時、愛は泉を突き飛ばした。

守られる愛ちゃん。
次と次くらいで終わりそうです。
保母さん強えー、ただの女子大生じゃねえ。
最終回には超猿達(英訳)に最後に入った人を出す予定です。
このスレの平均年齢の低さに嫉妬。
アク禁されちゃった……。

283名無しリゾナント:2011/08/15(月) 03:50:27
以上です。
初狼の代理お願いします。

284名無しリゾナント:2011/08/15(月) 04:43:09
書き込めました。
ありがとうございます。

285代理投稿願います:2011/08/15(月) 17:24:41
 ■ ミーティングオブリベンジ −保田圭・矢口真里・市井紗耶香− ■

「これで全部?」
「ああ、そうだよ」
「ふうん…
で、これらのデータから導き出された答えが、これなのね」
「なんだよ、なにが言いたいんだ?」
「矢口、あんた、このデータ見て何も気づかない?」
「ああ?」
「結論から言うわ。
その答えはほぼ間違ってるとみていい」
「なんだよそれ!意味わかんねーよ」
「このデータ、確かにみんな本物よ。こっちの内容…それ自体にも矛盾は無い。
でも…それらのデータを総合して出てきた答えが正しいものになるとは限らない。
いい?
この供述書、それとこっち、それからこっち、あとこっちも…
口調や文脈、勤めて特徴を変えてはいるけど、これ全部『同一人物の作った台本』を基に言わされてる内容よ。
こっちに教えたい情報だけを意図的に、ね。」
「なっ!?そんなはずは」
「あなたの尋問が甘かったわけじゃないわ。
彼らも台本を言わされてるつもりも、嘘をついているつもりもないはず…」
「じゃ…」
「そう。精神系の…例えば新垣のような能力者…それも、かなり強力な…」
「なるほど。和田、前田っていう子供のほかに、まだ能力者がいるってことか。」
「なんだよ市井まで」
「責めちゃいないよ。分析のミスは修正すればいいだけだ。」
「あんたも、あの二人が譜久村って子と接触している可能性を考えてたじゃない。
譜久村以外にも生き残りがいても何ら不思議はないわ。
おそらく、『大半が本当』のデータの中に巧妙に嘘が混ぜ込んであるのね。

286代理投稿願います:2011/08/15(月) 17:25:50
もう一度、廃棄物のデータを洗い直す必要があるわ。
それも、外部に持ち出されたとされる廃棄物のデータではなく、
完全に処理が完了していることが判明しているデータの方を、ね。」
「その中に…このシナリオを書いた子がいる…か」
「容易ならざる敵ね…矢口、アンタの言う和田って子より、もしかしたら厄介な相手かもしれないわよ」
「圭ちゃんはアイツと直接会ってないからそう言える。アイツは…」
「わかってる。過小評価はしていないわ。
和田彩花…自在に『空を飛び』まわり、至近距離からの銃弾にも『当たらない』、
そして、矢口と後藤の能力を『妨害』する力…
組織の歴史上かつて存在したことのない【三重能力者(トリプルアビリティ)】かもしれない相手。
しかも空を飛ぶ以外の能力に関してその実態は全く不明…
過小評価しろという方が無理よ。」
「厄介の性質が異なる…といったところか。
保田さん、矢口の考えた対和田攻略法については?」
「うーん…何とも言えないわね…それこそ私たちは彼女に会っていない。
彼女の能力を体験したわけじゃないわ。
ただ、こんな単純な手で防げるものかどうか…。それこそやってみないと何とも言えないわね。」
「認めたくはねーけど…和田のもってる【能力阻害】はオイラの比じゃない。
けど、『オイラ同様の能力である以上』オイラと『同じ弱点を持ってるはず』だ。」
「…本当に…【能力阻害】なのかしら?…」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ。どの道、現段階ではその方法以外にいい方策は思いつかないわ。やってみるしかないわね。」
「つうかさ、この攻略法はもともと市井と二人でやるつもりで考えたもんだからさ。
圭ちゃんがいるなら最初から圭ちゃんに時間を止めてもらえばすぐ済む。」
「まあそうね。でも、まずはその作戦を試しましょう。」

全てが停止した中、三人の女が邂逅し、やがて別れ、世界に時間が戻っていく。

『和田彩花…必ず殺すわ…後藤を…真希の仇はとってあげなくちゃね…』

287代理投稿願います:2011/08/15(月) 17:26:41
>>285-286

■ ミーティングオブリベンジ −保田圭・矢口真里・市井紗耶香− ■ でした。

以上代理投稿願います

288名無しリゾナント:2011/08/15(月) 19:46:36
行ってきました

289いつもすみません 代理投稿願います:2011/08/16(火) 16:07:25
 ■ フリボラスマーチャント −岡守時秀− ■

「どうもどうもー。いつもさわやか明朗会計、"小売店"仕入れ担当さわやか伍郎です。
いやー福田さん今日もセクシーですねーいやホント。」
「そんなこと全然知ってます。てゆうか電話だし見えてないし嘘だし、どっちみち
さわやかさんに言われてもきもちわるいだけでちっとも嬉しくないんですけど」
「いやいや!またまた!サンキューフクーダ!」
「…チッ」
「い…いやー!しかし今回もまた見事な手際でございましたね!どれも実に状態がよろしくて!
私も上司も大喜びですよ!」
「話薄い。ってゆうか報酬値切るつもりならこっちだって考えがありますからね」
「いやいやそんなめっそうもない!ただー…そのぉ…『丸太』の数の方がちょっと合わないといいますか…」
「そんなことこっちの責任じゃないでしょ。回収はそっちがやるって契約だったんだから。
回収し切れなかったなら、それはそっちのミスじゃない?」
「いやーしかし、まさか『船』をあんな状態にしてしまうとはこちらも聞いてなかったといいますか…」
「あたし達が依頼されたのはあくまで『丸太』。やり方はこっちに任せるって契約でしょ?
もしかして、『丸太』代だけ払って『船』ごと手に入れようなんて考えてたわけじゃないですよね?」
「いやーそれは」
「とにかく、報酬は約束通り。交渉は一切しません。いやならこれきりです。」
「やだなぁ福田さん。値切ったりなんかしませんって。もちろんいつも通りお支払い致しますよ!ホントホント!」
「…もう切りますからね」
「あっ。待ってください!またいいバイトがありましてですね。是非一度お話を…あっ切られちゃったよ…相変わらず不機嫌だねあの娘も。生理かねぇ?」
ほぼトラ刈りの頭にちょび髭、どう見てもチンピラか、よく見てもチンピラ…そんな風貌の男が
一方的に切られた携帯に向かって一人愚痴をこぼす。

「つうかまぁ…、あんな『物騒なもん』くすねてなにする気なんでしょうねーあのお姫様たちは…」
さほど気にしているふうでもなく、男は携帯をかけ直す。

「どうもどうもー。いつもさわやか明朗会計、"小売店"『販売』担当、さわやか伍郎です。
ご注文の品、入荷いたしましたー。つきましてはお取引の日時と場所をですね…」

290いつもすみません 代理投稿願います:2011/08/16(火) 16:10:31
■ フリボラスマーチャント −岡守時秀− ■ でした。

以上、代理投稿願います
狼、最近また弾かれるようになってしまった…

291名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:22:12
エピローグ
「・・・ここに来るのひさしぶりなの」
「そうっちゃろ?」
れいなと道重は街を一望できる丘の上に来ていた
「なんで、ここに来たか、わかるっちゃろ、サユなら」
れいながまだ目が腫れぼったい道重に尋ねた

道重は目の前に広がっているまだ淡い白い雪を被った街を眺めながら言った
「ここは・・・エリが・・・大きい夢を言ってくれたところだから」

『れいなと手をつないで、さゆの癒しの力をさ、絵里が起こす風に乗せて、世界の人たちに幸せを届ける』
この丘の上で亀井が二人にそんな大きな夢、いや計画を語ったのはもう数年前のこと

「ここに来ると、いつも思うことがあるっちゃ。エリとサユのためにも頑張ろうって
 エリみたいな目標を持つことを素直に格好いいと思ったけん、少しでも出来ることはしたいって」
れいながさゆみの横に並んで立つ。その目はさゆみにも負けないくらいに大きく腫れている
「だけど、そんときはれーな思ってもみんかった。まさか・・・エリがその夢を最初に諦めることになるなんて」
隣に立っている道重は思わず涙ぐむ
「れいな、そんなこと思っても言わないで欲しいの」

そんな道重を知ってか知らずかれいなは語り続ける
「リゾナントは開いているけど、やっぱり愛ちゃんも元気ないと。だけどお店は休めないって愛ちゃんらしいと
もちろん、れーなも愛ちゃんも一緒に泣いたっちゃ。だってエリがおらんくなるなんて…信じられんもん」
事実れいなは一日中泣いて、泣いて、泣き通した
流れ落ちた涙がお気に入りのベッドに染みいり、大きな跡として今も残っている

「他のメンバーも気になって、こっそり見に行ったと。メールするの恥ずかしいっちゃろ?」
泣き崩れている高橋に気付かれないようにれいなは二階からこっそりと脱出したのだ
リンリンとジュンジュンはバイトしているようであったが、いつもよりも目の周りの化粧が濃かった
久住は生放送のテレビに出ていたが、笑顔がいつもよりもかなりひきつっていた
光井は授業には出ているようだが、うつむいて登校しているで首に巻いたマフラーは黒かった
そして、新垣はお店にすら現れていないらしい

292名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:22:55
「みんな、つらそうな顔してたと。ガキさんは見とらんけど、特にショックを受けとう。
 もちろん、一番ツライのはサユやと思ってるけど」
「・・・」
道重はカバンからハンカチを取り出し涙を懸命に止めようと悪戦苦闘している
「みんなエリがいなくなったことに向き合うことはできておらんっちゃ
 自分達に出来たことが何かなかったのかってずっと自問自答していると
 もちろん、れーなも悩んだとよ。れーなの思いが足りなかったんじゃないかって」

「ねえ、れーなはどう思ったの?・・・さゆみと戦っているとき」
最後の一言を口に出すのは苦しそうであった
「怖かった?それとも、悲しかった?」
「正直、複雑だったと。さえみさんを倒したらサユを失うことになったかもしれんっていう不安もあった
 さえみさんがれーな達を認めてくれるなら、無事に帰れると思ってたけどさえみさんが暴走して…
 それにさえみさん、手加減しなかったけん、れーな、途中で何をしたいのかわからなくなってたとよ」
「そうなんだ・・・ごめんね、れいな」
道重はさえみが表に出ていた時の記憶はほとんどなかった
「れーなに謝られてもどうしようもないとよ」

「でも、一つだけわからんことがあると・・・なんでさえみさんが消えたのにさゆは消えなかったと?」
「エリの傷の共有で体ボロボロになったのに、なんでサユの体は無事なんやろ?」
れいなはピンクとオレンジ色の光に包まれる直前の二人の姿を思い出していた

「・・・お姉ちゃんが守ってくれたの。『私が消えるからさゆみは生きなさい』って」

293名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:24:15
亀井の傷を移されたさえみは悟ったのだろう、このままでは自分も消えてしまうと
それは自分が存在する意味そのものであった何より愛しい妹を消すことになる
確かにさゆみとさえみ、二人の存在が消えることになれば永遠にさゆみを自分のモノにできる
ただ、それは・・・さゆみが望んでいることではないとわかっていた
さゆみの望むことを全て叶えてあげたい、それがさえみの生きる目的であったのだから―

「最後の最後までお姉ちゃんがさゆみを守ってくれたの。さゆみが拒否してもやっぱり離れられなかったみたい
・・・あのね、れいな、最後にね、お姉ちゃんと会話できたの
『さゆみちゃんに本当に申し訳ないことをしてしまった』って悲しそうな声してたの
それに『さゆみちゃんも大人になった。いつまでも守らなくてもいいのよね』とも言ってた
ただ正直、お姉ちゃんを許していいのかわからないの。だってお姉ちゃんは私自身だったから」
れいなは何も言わない方がいいのだろうと思い黙っている

「それから・・・お姉ちゃんにみんなに伝えてって言われたの」
「なにを言われたと?」
「『私がいなくなってもさゆみをよろしくって、それからエリちゃんのことは償わせてもらいます』って」
「『償う』ってどういうことっちゃ?」
道重はわからないという風に首をかしげているが
「多分、さゆみを守っていたようにエリを守ってくれるんで事だと思うの」

「ほら、そんなことよりれーな、持ってきたの?」
「もちろんとよ、提案したのれーなやけん」
そういいれいなが取りだしたのは猫の飾りのついた青色の携帯ストラップ
さゆみもカバンからピンク色のウサギの飾りのついたピンク色の携帯ストラップを取り出した

294名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:25:17
「本当ならエリの思い出のモノも一緒に埋めたいっちゃけどれーなお揃いのモノないけん」
そういいながられいなは凍った地面をスコップで掘り始めた
「これ、さゆみエリとお揃いのリングなの。変わりにこれを入れるの」
さゆみはれいなから受けとったストラップ、そして二つのリングを穴の中に丁寧に置いた

れいなが優しく土をかぶせていく
「エリ、ここでゆっくり眠るっちゃ。エリの分までサユとれーな頑張るけん
頑張ってきたぶん、休むと、れーな達負けんからね!」
「さゆみ達、前を向いて行かなくちゃいけないのわかっているの。
 今まで本当にエリと一緒に入れて幸せだったよ。あ、こういうのエリ嫌いだっけ?幸せがああだこうだ言うの
 ・・・そうだよ、今、全然幸せじゃないんだからね!もう幸せになれる気なんてしないんだから!
 エリがいて、馬鹿見たく笑って、泣いて、感情隠さないでいたから楽しかったんだから!!エリのバカ!」
そう大声で叫び、道重は涙を流しながらブーツをはいたその足で荒っぽく土をかけ始めた

れいなと道重の手によって埋められていく絆の証
携帯ストラップもリングも亀井絵里と共に時間を過ごしたという証明
それを忘れないために二人はこの丘に埋め、亀井の『墓』ではない

「エリはこの場所がとても好きだったの。愛ちゃんがこの場所を教えてくれたって言ってたの
 ここならエリも安心して笑っていられるでしょ?・・・この世界一の幸せ者がぁ」
「・・・エリはずっとここで生き続けるっちゃ。多分、れーな達は思いだすんやろうね、風が吹くと」
「アホっぽくて、適当で、天然で、だけど誰より考えていて、強くて、意地っ張りなエリのことを」
自然と手を握っていたれいなとさゆみ、そんな二人の間を一筋の風が吹きぬけた

「さあ、さゆ、リゾナントに戻って愛ちゃん達に何か作ってもらうよ!
 愛ちゃん達はまだ立ち直れていないっちゃけど、いつまでも立ち止まれないやろ?
 出会うのも運命、だけど別れ、それも運命っちゃろ!うじうじしてたらエリにバカにされるっちゃ!」
「・・・そうだね、愛ちゃん達にも早く向き合って欲しいの!エリ、さゆみ負けないから笑ってみてて!」
れいなとさゆみ、二人は小さく「ありがとう」と呟き、今来た道を駆け足で戻り始めた

295名無しリゾナント:2011/08/16(火) 22:28:17
『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』のエピローグ(1)です
待たせてしまいましたか?待っていないですかねw
最近投下多いので…遠慮していましたが待っていられないので投下しました
(1)とあるように・・・少しだけ続きますw
(2)(3)で終わる予定ですのであと少しだけ辛抱を!


代理投稿よろしくお願いしたします

296名無しリゾナント:2011/08/17(水) 08:11:07
遅くなったけど行ってきました

297名無しリゾナント:2011/08/17(水) 08:16:02
すみません、自分で行けばすべて済むんですけど(汗
ありがとうございました。

・・・なんか最近、『外れた』話が多い気がする、なんてつぶやいてみる

298名無しリゾナント:2011/08/18(木) 13:59:13
>>289です
いつもお世話になっております
暫定保管庫で>>289の解説をしていただいておりますが(ありがとうございます)
さわやかさんの実際の名前は「さわやか五郎」「岡見時秀(おかみときひで)」です。
作中では伍と守に変えてあります
ご存じの通りさわやかさんはアップフロントの人ではあるんですが
まあ男は一文字づつ変えとこうかぐらいの気持ちで名前を少しいじったのが災いしてしまいましたね

299名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:00:21
                ★   ★   ★   ★   ★   ★

誰にもつけられていないことを確認して彼女は部屋に入った
施錠したことを確認して、ほっと一息つき、右手をのばし部屋全体に灯りをつけた

「元気にしてた?ほら、ここにあなたの大好物を置いておくから」
女は近くに立っている若栗色の女の子の足元にプリンを置き、目を閉じて手を胸の前に合わせた
「今日で、あなたがここにきて3年ね、どう?後悔してる?」
女の子は何も言わずに目を大きく見開いたまま微動だにしない

女は部屋の奥へと足を進め、奥に置かれたテーブルにカバンを置き近くの椅子に座った
「ただいま、久しぶりね、元気だった?」
椅子のすぐ横に立っている茶髪の女に声かけたが、その女もやはり反応はない
「・・・あんたが話せたらいいんだけどね・・・まだその時じゃないのよ、残念ね」
女は一人呟き、部屋を見渡した

部屋の中には数十人の人間の姿、ただしそれらはまったく動いておらず人形の館の様だ
思い思いの格好のまま止まっていて、呼吸すらしていないのだが、死んでいるのではない
彼らはこの部屋の主である女―保田圭によって永遠の時を与えられた存在だからだ

保田は時々この部屋にやってきては彼らの欲望のあまり止められた愚かさを確認しに来ていた
それは自分自身が強欲であることを戒めるためでもあり、同時に変化がないことを見るためであった

数日ぶりに来たこの部屋にはほとんど変化はない
保田がテーブル横の女の足元にかぼちゃプリンを置き、自分は持参した水筒からコーヒーを飲みだした
「あらやだ、おいしいじゃない。あのお店いいもの扱っているのね」

保田の目はゆっくりとかぼちゃプリンを置いた女の隣へと移動する
そこには栗色のふんわりとした髪の女の姿が。もちろん止められている
ゆっくりと保田はその女性の全身を眺め、変にねじれているところがないことを確認した

300名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:02:12
時々・・・保田の力が弱まり、勝手に動くことがあったのだ
それは主に、大きな相手、Gだの天使と戦う時に限られてはいたが用心にこしたことはないと考えている

時間を止めること、それが保田の能力
あの時−さえみに消されそうになった吉澤、マルシェを救いだしたのもその力があったためだ
マルシェと吉澤を連れて帰ってきたのはもう一週間も前のことになる

                ★    ★   ★   ★   ★   ★

「おかえり〜キャハハ、圭ちゃん大変だったねえ〜」
転送装置に乗って本部に帰ってきた保田、吉澤、マルシェを出迎えたのは矢口だった
「矢口さん、珍しいですね、お出迎えしてくださるなんて」
「キャハハ、誰か幹部が消えればおいらの出世も近づくじゃん、残念だけどみんな無事なようだね」
そういいながらも矢口が出迎えてくれたことがマルシェにとっては嬉しかった

「矢口いいの?仕事中でしょ?」と尋ねる保田にも矢口は「休憩」といって相変わらず笑っている
「それじゃあ、俺は疲れたからシャワー浴びて来るわ」
さえみと戦い自慢の髪の毛に埃が付き、汗をかいた吉澤が早々に立ち去ろうとした
しかし、矢口が吉澤を呼びとめた
「ちょっとよし子、少しくらい話聞かせてよ。おいらの部屋に来てさ、コーヒーくらい用意するからさ」
先輩の半ば強制的な誘いを断れることなく、4人は矢口の部屋へと向かった

矢口の部屋は巷で人気のフィギィアや漫画が置かれており、悪の幹部の部屋とはとうてい思えなかった
矢口は自分の椅子に座り、保田達は部屋に置かれているソファーに腰掛けた
机の上に置かれたボタンを押し、「すぐにコーヒー4つね」と矢口が注文する。どうやら厨房と繋がっているようだ

「それで一体何があったって?マルシェ、簡潔に説明してね」
「あ、はい。あ、でも一体矢口さんはどこから知っているんですか?」
マルシェは矢口が何を聴きたいのか把握するために尋ねた
「ん?おいらが知っていること?」
矢口がうーんと指を顎に当てて考え出した
「そうだね・・・あの誘拐現場での犯人がさえみさんってことくらいかな?」

301名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:03:20
「え?なんで矢口さん、そんなこと知っているんすか!?」
そう声を上げたのは吉澤だった。犯人がさえみだと判明したのは本人の口からでたからだった
にもかかわらず目の前にいる先輩は行かなかったにも関わらずそのことを知っていた
あの現場で唯一生き残った男の精神にダイブした吉澤ですら犯人がさえみであることはわからなった
なのに・・・なぜ?

そこにノックの音
「矢口様、コーヒーお持ちいたしました」「ごくろうさん、入っていいよ〜」
ドアノブが回される音がして「失礼いたします」と男が入ってきた
その男の顔に吉澤は見覚えがあった
「あ!お前!なんでここにいるんだ!」

吉澤が驚いたのも無理もないだろう、そこにいたのはさえみに消されなかった誘拐犯の唯一の生き残りの男だった
この男の心に吉澤は前日に飛び込んだばかりで、後の『処理』を矢口に任したはずだったからだ
処理とは言わずもがな―消すことだが、なぜかこの場にいる

「矢口様、こちらケーキもお持ちいたしました」
矢口にお盆に載せたケーキを渡している男に矢口は「相変わらず気がきくね〜」と言った
「矢口さん!こいつと知り合いなんですか?」
吉澤が尋ねると男は吉澤の姿を見て背筋を伸ばして、敬礼した

「ん?こいつ?ああ、おいらの部下の一人だけど、言っていなかったっけ?」
敬礼している男を指差して矢口が紹介した

「吉澤がこいつの心に飛び込んだときに教えていなかったけ?キャハハ」
矢口が憎たらしく笑うのをみて吉澤は苦虫をつぶした表情を浮かべた
「・・・どうりでこいつの心をしっかりと見れなかったわけだ
 矢口さん、あなたが外から俺の『ダイブ』を邪魔していたってわけですか」
吉澤の言葉にも動揺せず矢口はケーキにフォークを伸ばした

302名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:04:25
吉澤はマイペースにティータイムを楽しむ矢口を見て一人考えた
(よく考えれば、こいつらがどうやって能力者を選別して集めていたのかわかる
 矢口さんが頂点を務めている部隊なら能力の保有の有無を判定できるからな
 前もって矢口さんが部下に『こいつ』と指示すればただ隊員達は捕まえるだけでいいからな)

一年前の雅との接触の際にも矢口は雅を「能力者」として判断する目を使っていた
今回の「能力者のたまご」を集めるにも矢口の「能力者判定」がなければ不可能であるはずだ

マルシェも同じことを考えていたのだろう。思わず口に出してしまった
「まさか矢口さんが絡んでいたなんて思ってもいませんでした
・・・しかし、そうだとしてもなんで道重さゆみを連れ去ったんですか?彼女は強力な能力者なのに」
マルシェの疑問に対して矢口はぴくりと少しだけ体を動かして反応してしまった
「なにか大きな理由があるみたいですね。ただ、矢口さんが言わないってことは・・・」
「別に大した意味なんてないよ、よし子。メンドクサイだけ」
矢口が空になった皿を机に置きながら言った

言わないでいるものつまらないと思ったのか矢口は自ら口火を切った
「ねえ、マルシェはさ〜今回のおいらの目的は何だと思う?」
「え?それは新しい能力者を捕まえて支配下に置くためかと」
突然名指しされたとはいえ、まさにマルシェはお手本のような回答を示した
「キャハハ・・・マルシェは本当に教科書通りだね〜キャハハ・・・
 ブー、残念でした〜そんな普通のことしてたら道重なんて連れていかないって」
「つーことは道重は『あえて』連れ去ったということになりますね、矢口さん」
矢口はどうして、吉澤に対してだけ「どうだか」とはぐらかしてばかりだ
そんな先輩の姿を見て吉澤はなんとなくいらいらを感じずにはいられない

303名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:06:22
「あたしの考えなんだけど、矢口は道重を暴走させるつもりだったんじゃない?」
低い声で保田がマルシェと吉澤の視線を惹きつけた
「あんた達は知らないかもしれないけど、道重が連れ去られる前日、あいつらと私達の小隊がぶつかったの
 それはもちろん、ダークネスが撤退して終わったけど、それはどこの部隊かと言うと矢口のところ
 しかもそこで道重さえみによって一隊員が消されている」
矢口はなんでそのことを知っているんだ?とでもいう表情だ

「それから吉澤がだれよりも知っているだろうが…一年前の雅との接触の際にあいつの心の中に闇を感じたでしょう?」
「ええ、保田さん、雅の中には田中へのねじ曲がった愛情が詰まってましたよ」
「吉澤、あなた、撤退するときに雅になんて言ったか覚えているかしら?」
「『ダークネスは闇に巣くいし者。いつでも闇を持つ者がいれば、そいつに近づき…闇へといざなう』」
吉澤はゆっくりとそのボスから教えられたダークネスの存在する意味を噛みしめながら口に出した

「それなら道重さえみはどういう存在?正義という光の元に生きている道重さえみを支える影の存在
 その一方で彼女はリゾナンターとして戦ったことは一度もなく、たださゆみを守るだけの存在
 彼女は決して正義ではなく、むしろ雅に似たねじ曲がった愛情の塊であったといえないかしら?」
保田の推理の範囲でしかならない想像に矢口は鉄仮面をかぶったように表情は変えまいと必死だ
「さえみは闇に巣くいし存在。そして、矢口はこう思ったんじゃないかしら?
 『もし、さえみが仲間を裏切ったならば誰も止められず、リゾナンターは消される』とね
 そしてリゾナンターを消し去ったら、今度はダークネスがさえみを倒す、いや私が『止める』と」

ダークネスの言っていたさえみを止める手段、それはなんてことはない保田の『時間停止』だった
動きを止めてしまえば何も怖くない、そのために多少の犠牲はあるのかもしれないが致し方が無いことだと

「ついでに言うと熊井っていう子、あれは単なる偶然だったんでしょうね
 矢口が誰でもいいから身近にいた能力者を集めた時に偶然混ざってしまっただけの存在でしょうね」
マルシェは逃してしまった可愛い獣化能力者を思い、強く唇を噛んだ
「おい、マルシェ、目がやばいぞ」
マルシェの目をみて吉澤が肩をたたき、マルシェはウーっと唸った

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

304名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:10:01
『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』のエピローグ(2)です。
裏のボス登場ってことでw 今回無駄なシーンはありませんよ〜

motorシリーズ、マイケルシリーズ、Vanish!はすべて同一世界で起こっていますから〜
あと一回で終了です・・・長かったな・・・

代理投稿よろしくお願いします

305名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:14:11
行って来ますか

306名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:20:21
完了

307名無しリゾナント:2011/08/18(木) 22:56:31
ありがとうございました!本当に毎度毎度すみません・・・

308名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:40:15
保田の推理に対して矢口は何も言わなかったが、おそらく図星なのだろう
突然仕事の時間だといって部屋を飛び出してしまったのだから

保田の推理を聴いた吉澤とマルシェは何も言わなかった
別に自身が出世するためだとかリゾナンターが嫌いとかそんな理由でしたわけではないこともわかっている
全ては組織のため、だと、上から許可が下りているということを

そのことをあの二人がどうとらえたのかはわからない
本来ならばリゾナンターは私達にとっては邪魔だけの存在なのだが…奇妙な感情が湧いているのも事実だ

あれからそれなりの日にちがたっているが、あの二人はきっと前と変わらない日常を送っているのだろう
相変わらず矢口は笑っていて、吉澤は裏世界を駆けまわり、マルシェは兵器制作に取り掛かる
先程、表世界に出たが、喫茶リゾナントも開いているし、月島きらりもテレビで笑っている
大学受験の近い光井もおそらく学校に出ているだろうし、ジュンリンも生きるためバイトをしているだろう
雅も熊井も変わらず学校で笑っているようだ―熊井の記憶は雅が消したようだが

もちろん一人という人間が消えたこと、特に身近にいるならば、それは確かに精神的には大きい
だからといって日常が全て崩れるというわけではないのだろう
関わることが少ない、多い、そんなことは関係ないのであろう
変わらないのだろう、だってみんな、生きていくしかないのだから
命のある限り前に進み続ける、それは仕方がないこと

ただ思わざるを得ないこともあった
この世に生きること、それは人と人との関わりで、人は一人では生きていけないということ
でもそれは一人くらい欠けたって世界は変わらないことの裏返し
小さい一人がどんだけ大きな声をあげてみても、どれだけ立派なことを叫んでもそれは小さいこと
それを認め、共に動いてくれる存在がいなければ止まってしまう
仲間という存在は一人では生きていけない私達が生きていくために見つけ出した手段なのだろう

結局、私、そんな一人は小さい歯車(motor)にすぎないのだろう
歯車を集めて、互いに支え合って大きな力になる、そうなのだろうか

309名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:41:20
じゃあ、それが二人だったらどうなのだろうか?
それも大切な二人を―さえみと親友、亀井絵里を失ったならば?
ここで言っているのはもちろん、道重さゆみのことだ

あの子は自分では気付いていないが依存して生きていた
「気付いていないこと」、それは彼女にとって偶然ながら幸せなことだろう
なぜなら、今はまだツライだけの感情が先走っているのだから

私くらいの年齢になれば誰だって大切な人を失うという経験はしたことがあるだろう
悲しみにうちひしがれ、思い出を巡り、最後には居なくなったことを受け入れる、そんな過程を取る
関わりが深ければ深いほど立ち直るまでには時間がかかる
そう、彼女が耐えなくてはならないのはこれからなのだろう
笑ってくれる仲間は多くても、一番傍にいた人がいない、一番近くで慰めてた人を失った

でも、こういうときだから泣くのが一番なんだろう、悲しい時なんだからこそ
止めたりしちゃダメ、素直の心を溢れるままに任せていけばいつかは気持ちは晴れるんだろう
溜めこんでいて誰にも言えなかったからこそ、爆発してしまった
弱さを見せること、それは本当の意味での強くなるために必要なことなんだから

これくらいしか私はこの子にかけられる言葉は無いのだろう

あの日−道重さえみが暴走した日、私はダークネス本部に戻ってきた
それは、矢口の計画に隠されたもう一つの計画をするため
ボスから「矢口が動く」との連絡が入って来て、急いでここにやってきた
そして急いで…道重のもとへと『移動』した。そうあの『移動装置』を使って

マルシェ達もリゾナンターも疑問に思っていたのだろうか?訊かなかったが
どうやって道重と熊井があんな倉庫から遠く離れた森の中に移動したのか、ということを
どうやったとしても誰かに見つかってしまうだろう、あの二人だけの移動では

だからこそ私が時間を止めて二人をあの場所へと送ったの
もちろん二人ともなんであの場所に現れたのかは疑問に思うから、手紙を残しておいたけどね

310名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:42:24
ボスから「矢口が動く」との連絡が入って来て、急いでここにやってきた
そして急いで…道重のもとへと『移動』した。そうあの『移動装置』を使って

マルシェ達もリゾナンターも疑問に思っていたのだろうか?訊かなかったが
どうやって道重と熊井があんな倉庫から遠く離れた森の中に移動したのか、ということを
どうやったとしても誰かに見つかってしまうだろう、あの二人だけの移動では

だからこそ私が時間を止めて二人をあの場所へと『送った』
もちろん二人ともなんであの場所に現れたのかは疑問に思うから、手紙を残しておいたけどね
手紙には宛名は書かず、住所とこの建物が誰にも使われていないので人が来ないことを記しておいた
その手紙は・・・裏に熊井が雅を助けるために『逃げて』と書かれていたわね
そう、あの時、マルシェとリゾナンターをさえみの光から救う時に取り返させてもらったわ

ただ時間が止まった間は私が触れたもの以外は動かせないから、移動する時に余計なものも移動させざると得なかった
そう、それは死んだ隊員と部屋に置かれたテーブル
あの装置で隊員の一部とテーブルの角が削られて、その部分は異空間へと消えた
だからこそ、あんな綺麗な円形に抉られたテーブルが残してしまったのだ
もちろんすぐにリゾナンターが来てしまったので処理することが間に合わなかったのが残念だが仕方がない
幸運なことにあいつらはそのことに気がつかなかったのだが

なんのためかって?それはシンプルな理由
道重の暴走をより強力にするには一旦エネルギーを抑えなくてはいけないから
食事もこっそりと『嗣永印』の野菜を置いて届けるなど、支給していた
時間がたてばたつほど怒りのエネルギーが強くなる、そうボスがおっしゃっていたからそれに従っただけ
―そう、私はそれに従っただけのこと

そして実際に、さえみは私達の想像以上の暴走を見せてくれた
残念ながらリゾナンターを消すことは出来なかったが、まあ、それはいいだろう
必ず成功する作戦は無いのだし、リゾナンター達は仲間を失ったと思い落ち込んでいるのだから

311名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:43:40
・・・
そろそろ会議の時間だわ、またここに来るわね
さあ、強欲の象徴のみんな、またお会いしましょうね

あ、そういえばあなたにはまだ何も置いてなかったわね、新入りさん

はい、これ、あんたの好物なんでしょ?置いておくわね

ピンク色のお漬物とチーズケーキ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

『聖痕』−それはイエス・キリストが磔刑となった際についたとされる傷
足首なり手首なりに残され、科学では証明できない神秘の傷

部屋を去る保田を見送る人は誰もいない
みな、永遠の時の中に閉じ込められているのだから

しかし、保田は知らない、たった今『お供え物』を置いた栗色の髪の女が残したものを
それは服で隠れた彼女の背中の傷

タイプは違うのだろうがある意味ではその傷も『聖痕』と言っていいのかもしれない
女の背中には傷が浮かんでいた
そして、その傷は部屋を出ていった保田の背中にも同じ位置にできている

健康的なその肌に刻まれていたのは本当に短い文章
『絵里は生きてるよ』

保田が出ていき暫くするとその女の目が金色に光った・・・ように見えた
それは部屋に差し込む僅かな光の加減なのかもしれないし、そうではないのかもしれない

312名無しリゾナント:2011/08/20(土) 23:45:38
『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』エピローグ(3)で、完結です
半年かかってようやく完成しました。お付き合いいただきましてありがとうございました
あとがき書いておくので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです

最後の代理投稿よろしくお願いします

313名無しリゾナント:2011/08/21(日) 01:48:00
行ってまいりました

314名無しリゾナント:2011/08/21(日) 10:01:54
ありがとうございました。本当に何回もしていただきまして(+o+)

315名無しリゾナント:2011/09/18(日) 04:55:18
 ■ テンクトナイ −能力者− ■  

「吉澤サン!吉澤サァン!」
「あ?ああ…タ……シ…」
「よ…よじざわさぁ…」
「悪かったな…無茶な頼みごとばっか押し付けて…
それと…ふふっ…今夜はサンキューな…
さ…最後にお前と…"踊れて"楽しかったよ…ベイベー…」

"共鳴者"は首を振る。少女のように、そう「あの頃の」ままに。
吉澤と共にいた、あの頃のように。

あぁ…そうだ…勝ったら教えてやる…約束だったっけ…
三つ目は…」

吉澤の声は屋上に吹く突風にかき消され、言葉は"共鳴者"にだけに伝えられた。

「そう…さ…笑っちまうよなぁ…それが…俺たちの"能力"の本質さ…
そんなもののために…いや…だからこそ…俺たちは守らなければならな…
"D"から人間を…人間から…"D"を…俺たちは…そのための"器"…そのための"組織"…」

吉澤の声はかすれ…床には鮮血の海が広がっていく。

「た…た…シ…頼む…ぜ…"組織"を…"GOD"を…
お…俺たちは…"M"…悪を…粉砕…する…せ…せぃ…ひ…」

「…粉砕する正義の鉄槌。"モーニングスター"…明けの…明星…」

最後の言葉は"共鳴者"によって紡がれた。

316名無しリゾナント:2011/09/18(日) 04:56:51
…沈黙…

これ以上ないほどの、優しい、悲しい、微笑み。

吹きすさぶ風…

…そして"能力者"だけが残された。

朝日が昇る…剣のような一筋の光が、闇を切り裂いてゆく…
切り裂かれた闇は苦痛に身をよじり…
怯え、悶え、哭き叫び…それでも…光へ戦いを挑む…
やがて…全てを日の光に焼かれ…消えゆくとしても…闇は抗い続ける…
決して勝てぬと知りながら…

"能力者"は立ちあがる。
光の剣から己の体で最後の闇を守るように。

…もう、そこには、もう…

太陽に背を向け、"能力者"は…

317名無しリゾナント:2011/09/18(日) 05:02:37
>>315-316

 ■ テンクトナイ −能力者− ■ でした。

http://gree.jp/michishige_sayumi/blog/entry/599540353
この衣装のイメージと"あの歌"でようやく踏ん切りがつきました

318名無しリゾナント:2011/09/18(日) 10:28:54
♪おはよん
 今から行ってくるよん

319名無しリゾナント:2011/09/18(日) 10:32:07
♪いってきましたよん
 代理だということを書き忘れたけどw

320名無しリゾナント:2011/09/18(日) 15:05:05
 ■ ミスタームーンライト −共鳴者− ■ 

吹きすさぶ突風が屋上を駆け抜け、
"共鳴者"と"能力者"が相見える。

「よぉ、やっときたか新人」
「………」
「はは。もうすっかりそう呼ばれることも無くなったってか?…が俺からすりゃ新人だよ…まだ、な。」
「………」
「あぁ。下の?見てきたのか。
もう済んじまったよ。…遅すぎたな」
「……!」
「そんなことより、さ。
今夜はお前に言っとかなきゃならないことがあってさ。」
「……?」
「言っときたいことは、"三つ"。それと…
まあ、頼みごともあってさ。」
「………」
「相変わらず熱いな。よくそれでリーダーやってられんな。
まあ"だからこそ"お前には話とかなきゃならないんだ…」

「まず、一つ目。後藤が死んだよ。」
「……!」
「知らなかったか?だろうな…最初はお前らかと思ったが…どうやら別の連中らしい。
まあ今はそれはどうでもいいんだ。そう…"どうでもいい"。」
「………」
「優しい奴だなぁ…後藤もいい後輩持ったもんだよ。」
「………」
「二つ目…"A"の脳波に反応が出た…おそらく、目を覚ますだろう…新垣には言うなよ」
「……!」
「つうか誰にも言わねえか…お前は言わない…そう言う奴さお前は…優しいからな。」

321名無しリゾナント:2011/09/18(日) 15:06:15
「………」
「三つ目、こいつは言葉だけじゃ伝わんねえ。
うん。これは伝わらねえ…。」

「だから、さ、新人。
あのときの"続き"をしようや。」

「………」

「勝ったら教えてやる…
おまえがもう新人じゃねぇってとこを見せてみろよ。」

「…!…!」

「ああ…だがお前は逃げない…優しいからな…そうだろ?」

風が止んだ。

月光がステージを照らす。


「さぁ…『僕と踊りませんか?ベイベー』」


力と、破壊の、インプロンプト。

322名無しリゾナント:2011/09/18(日) 15:08:05
>>320-321
 ■ ミスタームーンライト −共鳴者− ■ でした。

以上代理投稿お願いいたします

>>319
どうもありがとうございました
お手数おかけします

323名無しリゾナント:2011/09/18(日) 16:00:17
行ってきますかね

324名無しリゾナント:2011/09/18(日) 16:07:34
完了しました
敢えて時間軸を遡って描いたことで戦士の非情な宿命みたいなものが感じられたように思えます

325名無しリゾナント:2011/09/19(月) 19:01:37
>>324
投稿、感想ありがとうございます

それと…
>テンクトナイってなんだろう?
>歌の英語部分の音読とか?
御明察の通りです

326名無しリゾナント:2011/09/19(月) 20:12:15
ちょっと静かなうちにうpしようと思ったら、やっぱり規制されました。
どなたか代理お願いいたします


映画チラシ風?完全自己満足画像集です
【Resonant00】の9期は勝手にオリジナル設定です。こんなのもありかな、くらいの緩い気持ちで見ていただければ嬉しいです。
そして【Resonant-I】は『R-Infinity(5) 最後の夜を、君と』の作品からリゾナントさせていただきました
作者さんのイメージと異なっていたらすみません…
『00』の方に8期がいないのは自分のイメージとあう画像が見つからなかったからです
決してはぶってるとかそういうのではありません!(なんてったって作った人が愛佳推しですw)
いいのが見つかり次第すぐに作ろうと思っています。その時はまたお付き合いいただけると嬉しいです

ttp://www1.axfc.net/uploader/H/so/143069  リゾ00
ttp://www1.axfc.net/uploader/H/so/143075  リゾーI
パスワードは『resonanter』

327名無しリゾナント:2011/09/19(月) 20:46:46
まだ見てませんが楽しみです
早速貼ってきます

328名無しリゾナント:2011/09/19(月) 21:42:37
>>327
早速ありがとうございました!
またお世話になると思いますが、どうぞよろしくお願いします。

329名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:14:00
 ■ トラストオアコンフィデンス −鞘師里保X生田衣梨奈− ■

「じゃさっき決めた待ち合わせ場所先行ってるから」
「ほーい…TVビル…とこの…プツツ…植木の前…っじゃあすぐ…プツ…」

切れた…圏外…?おかしい、さっきまでそんなことはなかったはずだが…

「なんか電波が悪いみたいだ…」

静寂

「よ…あれ?」

無人

鞘師は周囲を見回した

先ほどと変わらぬ景色。
青果コーナー、鮮魚、精肉…。
だが、消えている。

人が…消えた。

―――――

330名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:14:31
「里保ちゃん?」
鞘師の前をスキップしていた生田はふと鞘師に声をかける。
すぐ後にいると思っていた鞘師ははるか後にいた。
床にカゴを置き、ぼぅっと突っ立っている。
「もー鞘師ちゃんおっそいっちゃ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる
「はやくはやく」
ぼぅっと突っ立っていた鞘師がふと我に返ったように周囲を見回す。
顔を撫で、両手を握ったり閉じたりしている。
やがて生田の存在に気づくとカゴを抱えこちらに歩き出した。

―――――

331名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:23:22
「イクちゃん?」

静寂

返事はない。

不覚だった。

きっと予兆はあったはずだ。
普段の鞘師ならばもっと早い段階で何かしらの異変を察知できていたはずだ…だが…
「イクちゃんか…」
【精神破壊】その副産物のような効果によって生田の周囲には常に精神的な妨害作用が撒き散らされていた。
思考は鈍磨し、注意力、集中力、あらゆる精神活動は本来の精度を保てなくなる。
水軍流によって育まれた危機を察知する鞘師の能力もまた生田の能力の影響を大きく受けてしまっていた。
そのうえでなにをしでかすかわからない生田の一挙手一投足を観察し先を読み続けるのである。
知らず知らずに生田に注意力を集中しすぎてしまっていた。
こういう事態もありえると、常日頃、鞘師自身気を配ってはいたはずだった。
若さ、経験の不足。まだまだ、未熟だった。
水軍流に限らず武術の世界でいの一番に教えられる教訓『一つ所に留まらない』これを完全に見失っていたといえる。
それにしても、ここまで鈍らされるとは。

332名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:32:07
だが自分ひとりを除いて一瞬で
これだけの人間を煙の如く消し去る。

333名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:33:04
だが自分ひとりを除いて一瞬で
これだけ大量の人間を煙の如く消し去る。
そんな非常識な事が起こりえるのだろうか?
これだけ大規模な事態の予兆にまったく気が付かないなどということがありえるのだろうか?

334名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:41:13

「かのんちゃん達、平気かなぁ」

335名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:44:42
生田の事など、

336名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:46:14
まるで

337名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:46:47
まるで気にする様子もなくそうつぶやく。

338名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:48:15
「イクちゃん?」

静寂

返事はない。

不覚だった。

きっと予兆はあったはずだ。
普段の鞘師ならばもっと早い段階で何かしらの異変を察知できていたはずだ…だが…
「イクちゃんか…」
【精神破壊】その副産物のような効果によって生田の周囲には常に精神的な妨害作用が撒き散らされていた。
思考は鈍磨し、注意力、集中力、あらゆる精神活動は本来の精度を保てなくなる。
水軍流によって育まれた危機を察知する鞘師の能力もまた生田の能力の影響を大きく受けてしまっていた。
そのうえでなにをしでかすかわからない生田の一挙手一投足を観察し先を読み続けるのである。
知らず知らずに生田に注意力を集中しすぎてしまっていた。
こういう事態もありえると、常日頃、鞘師自身気を配ってはいたはずだった。
若さ、経験の不足。まだまだ、未熟だった。
水軍流に限らず武術の世界でいの一番に教えられる教訓『一つ所に留まらない』これを完全に見失っていたといえる。
それにしても、ここまで鈍らされるとは。

だが自分ひとりを除いて一瞬でこれだけ大量の人間を消し去る。
そんな非常識な事が起こりえるのだろうか?
これだけ大規模な事態の予兆にまったく気が付かないなどということがありえるのだろうか?

「かのんちゃん達、平気かなぁ」

生田の事など、まるで気にする様子もなくそうつぶやく。
ここにいても仕方がない、鈴木香音らとの待ち合わせ場所に行ってみよう。
鞘師は歩き出した。

―――――

339名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:48:51
「でね!エリおもったっちゃ!
やっぱりチョコクリームよりホイップクリームのほうが
イチゴには合うって!そうおもわんと?」
「うん」
鞘師がにこやかに微笑む。
先ほどからずっと生田が一方的に話し続けている。
「衣梨奈ちゃんおトイレ一緒に行こう」
しばらくすると鞘師がそう提案してきた。
「うん!行く!行く!」
二人は手を繋ぎ歩いていく。

―――――

340名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:51:16
「ふーん」

鞘師は立ち止まった。

「違ってた」

鞘師は周囲を見回した

先ほどと変わらぬ景色。
青果コーナー、鮮魚、精肉…。

出られない。

鞘師は待ち合わせ場所まで行こうとした。
が、しばらく歩くと、いつの間にかここに戻ってきてしまう。
このフロアから、この食品売り場から出られない。

「違ってた」

もう一度そうつぶやく。

自分ひとりを除いて一瞬で人を消し去る…そうではなかった。

消えたのは…

「私のほうか」

特に何の感慨もない。
鞘師は、ただ淡々と事実を確認した。

―――――

341名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:51:56
それぞれが個室に入っても生田はしゃべり続けていた。
「やっぱり平成ライダーの中ではWが一番かっこいいっちゃ!
ふぃりっぷ君としょうたろうだったらやっぱ攻めはふぃりっぷ君で…」
鞘師は無表情のまま貯水タンクの蓋を開ける。
タンクに手を入れ何か包みを手に取る…隣の生田に聞こえぬよう静かにビニールを破る…
鞘師は、ちいさな顔の、ちいさな眼と口で、にまーっと笑った。

ズガン!

一瞬の出来事だった。

トイレの個室を仕切る壁は、薄い合板二枚で出来ていた。
その壁が突然ぶち破られたのだ。
同時に生田の腕が突き出され、鞘師の腕をわしづかみにする。
その腕に握られていたのは…拳銃だ。
バリリッ!バリリッ!
恐ろしい力で壁を破壊し生田の肩と頭が現れる。


「お前…だれっちゃ?鞘師ちゃんを…どこにやった?」


―――――

342名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:52:54
さて、どうするか…

鞘師は一応考えてはみる。

が、答えはもう出ていた。

どうしようもない。

おそらくは能力者による攻撃を受けたのだろう。

幻覚か?…白昼夢のようなものを見せられているのか?…いや違うな…おそらくこれは…
近距離での物理的戦闘においては、ほぼ無敵の鞘師の弱点、それは心の脆弱性。精神系能力者からの攻撃だった。
初陣のとき、戦況を有利に進めていながら一瞬のうちに気を失い、ズタボロにされた苦い経験がよみがえる。

訓練で新垣さんに【精神干渉】をかけてもらったことがある。
そこで得た結論は
『かかったらどうしようもない』という事実。
何度もかけてもらい自分なりにたどり着いた結論だった。
精神系の能力であれ、その発動の直前、敵意や殺意、あるいは害意のようなものは必ず発生する。それを察知し、敵の能力の発動前に何らかの対処をする。それしかない。
まったく無防備な状態で"かけきられてしまっては"もうどうしようもなかった。

結論としてはどうしようもないのだが、鞘師は別に悲観しているわけでも
絶望しているわけでもなかった。

ただ事実を確認しただけだ。

343名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:53:43
だが事実とは常に過去にのみ適用される。

鞘師はそう考えている。

少なくとも未来を諦めるための言い訳の道具ではない。

方法はある。

鞘師は確信している。

鞘師にはどうしようもない。これは事実だ。だが…

「さて、"そろそろ"かな」

―――――

344名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:56:32
「お前…だれっちゃ?鞘師ちゃんを…どこにやった?」

「くっくっく。よく見破ったな。おっと馬鹿なことは考えるなよ?
この体は間違いなく鞘師里保なんだからな。」

「鞘師ちゃんを返せ」

「さぁどうかな?そいつはお前次第だ。まずは手を離してもらおうか?
…どうした?この体がどうなってもいいのか?」

「鞘師ちゃんを返せ」

「おい…聞いてるのか?この手を離せ。このまま舌を噛み切ってもいいんだぞ?」

「鞘師ちゃんを返せ…返せ…」

「おい?待て待てどうするんだ?え?返して欲しくばおとなしく言うことを…」

「 カ エ セ ! 」

生田は力を解放する。
生田の憎悪が、怒りが、無限地獄となって鞘師へとなだれ込む。

【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】

ぐ…ぐぎゃあああああああああああああああああ

―――――

345名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:57:06
気が付くと鞘師はリゾナントの入っているビルの倉庫にいた。

「鞘師っ!しっかり!鞘師っ!よかった…鞘師!無事?」

リゾナントのみんなが鞘師をコンクリの床に押さえつけていた。

みな汗にまみれ全身に打撲と大小の傷を負っている。

大体の想像は付いている。

どうやらほぼ思ったとおりの展開になっていたようだ。

「すみません…みなさん…」

傷は鞘師がつけたものだろう。

いや、"鞘師に乗り移っていた能力者が"鞘師の体を使って暴れたのだ。

そう。発狂して。


―――――

346名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:57:56
高橋が駆けつけたとき、生田は泣きながらへたり込み
鞘師は白目を向いてひきつけを起こしトイレの床をのた打ち回っていた。

即座に状況を把握した高橋は二人を連れてリゾナントへと飛んだ。

【精神干渉】により、
鞘師が【憑依】系の能力者によって支配されたこと、
その能力者を生田がまったく無計画に衝動的に"焼いた"ことを理解したとき
新垣は戦慄した。

もしかしたら鞘師の精神まで破壊するかもしれない。
生田はそんなことまるで意に介さず
躊躇することなく鞘師の"中にいるもの"を破壊したのだ。

―――――

347名無しリゾナント:2011/09/25(日) 15:58:33
「ごぇ…ごぇんなざいざやじぃぢゃぁん」

生田が泣きながら鞘師にすがり付いてくる

「鼻水…きたないから…」

鞘師が傷だらけの腕で…やっぱり傷だらけの生田の顔を押しのける。
生田の顔や腕には、ささくれた木の破片が無数に突き刺さっていた。
血まみれのその顔を見ながら、鞘師は生田に笑ってみせる。

「いいよ。イクちゃんなら、躊躇しないって判ってたから。」

もし、仮に生田が空気の読める子だったのなら…
大切な仲間の身体を気遣い、鞘師への攻撃をためらうような子だったのなら…
事態はさらに最悪な状況へと陥っていただろう。
鞘師の命だけで済めばよい。
場合によってはフクちゃんや高橋さんたち…
最悪の場合、鞘師の身体が、かのんちゃんの命まで奪っていたかもしれない。
考えるだけでぞっとする。

そうだ。思ったとおり生田はベストな選択をしてくれた。

それは、信頼…というより確信だった。

『イクちゃんはポンコツだから』

必ず後先考えず、目の前の敵を攻撃する。

あとは、鞘師が憑依されていることを生田が見抜けるかどうか?

不確定材料があるとすればそれだけだったのだが…


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板