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デイドリーム・ビリーバー

1名無し護摩:2012/02/12(日) 11:46:52

これは、あるメンバーのおはなし

2名無し護摩:2012/02/12(日) 11:49:57

 『デイドリーム・ビリーバー Ⅰ』

3:2012/02/12(日) 11:52:07

―――― 聖は浅い眠りから目を覚ました。

意識を戻してしばらく、だるい頭で今の状況をようやく把握する。
隣には、掛け布団から裸の肩を出した同期の衣梨奈がいた。
すやすや眠っている。

『…しちゃったんだ』

枕もとの時計を見上げ、聖は2時間ほど前の事を思い出す。

4:2012/02/12(日) 11:52:49

一体なにがきっかけだったか。

ツアー先のホテルで相部屋となり、いつものように楽しく喋っていたら。
キスをしたことがあるか、という話題になった。
先輩の道重さゆみがリーダーの高橋愛にライブ中キスしていたことを、聖が『そういえば』と思い出して言ったのが
きっかけだった。

「えりはしたことないと。
聖は〜?」
無邪気に尋ねる衣梨奈に、つい小さく吹き出してしまった。

5:2012/02/12(日) 11:53:38

それから思い出しても言葉では言い表せないような、妙としか表現しようのない雰囲気になり。
どちらからでもなく、唇を合わせてしまった。

『丸い目だなあ』
衣梨奈の顔を間近で見て、そんなことを思ってしまった。
唇を離したあと、聖が衣梨奈の鼻の頭をぺろっと舐めると、衣梨奈はくすぐったそうに笑い、目を細めた。

6:2012/02/12(日) 11:54:15

一度キスをすると箍が外れる。
聖は学んだ。
衣梨奈の細めた目に手を伸ばし、指で瞼に触れ。
衣梨奈が聖の頬に口づけし。
聖が深いキスを仕掛け。

そう繰り返してるうちに、自然と服を脱いでベッドの上に座り、長い間見つめ合っていた。

7:2012/02/12(日) 11:55:13

『まいったなあ』
一連の出来事を思い出し、聖は思った。

嫌いじゃないし、むしろ好きだけど、この子のこと。

『…しちゃってよかったのかな』
小さく溜息をつく。

隣の衣梨奈は、聖の腕の中で気持ち良さそうに眠っている。

枕もとのデジタル時計はもう2時。
明日もライブがある。

「…まいったなあ」
聖は声に出してみた。

ベッドサイドの淡いオレンジの灯りの中、綺麗な寝顔にしばらく聖は見とれていた。


end.

8名無し護摩:2012/02/12(日) 11:56:01

 『デイドリーム・ビリーバー Ⅱ』

9:2012/02/12(日) 11:56:59

『えり…えりぽん』

声が聞こえてきて、衣梨奈は頬を綻ばせた。
温かい腕に包まれ、心地よい夢を見ている。
『聖、あったかいっちゃ』
布団をかぶり直すように、聖の腕の中で少し頭をずらす。

10:2012/02/12(日) 11:57:34

ゆうべ、聖と長い時間見つめ合い、そのあと愛し合った。

『えり…』
愛し合う時に聴いた、少し低いささやきが、嬉しかった。

11:2012/02/12(日) 11:58:25

『起きて…起きな』
「うん…」
「起きなよって、ホラもう!」
強く揺すられ、衣梨奈は完全に目を覚ました。
『夢オチっちゃか?』
あまりの現実感のなさに、衣梨奈は自分と聖の今の格好に目をやった。
全裸だ。
間違いない。
実は夢でした、だったら恥ずかしいと、と衣梨奈は考えた。

12:2012/02/12(日) 11:58:56

聖は決まり悪そうに、『ホラ、支度して』とあまり目を合わさず言った。
「みっずき〜♪」
物凄く笑顔で首に腕を回して、衣梨奈は聖の頬にキスをする。
聖は仕方なさそうに、衣梨奈の頬にキスを返した。

13:2012/02/12(日) 11:59:57

「聖、早かね。
まだ8時前っちゃ」
枕元の時計は、8時にアラームを設定していた。
「シャワー浴びたりしないと。
…バレちゃう」
聖はふっと俯いた。
衣梨奈は一瞬きょとんとしたが、
「ああ。
えりは別にバレてもよかよ?」
事も無げに言った。
「あのさ」
聖は額に手を当て、溜息をつく。
「ふたりそろって、その…ゆうべのままで現れたら、先輩たちに何言われるか分かったもんじゃないよ?
その辺は弁えなきゃ?
あたしたち、アイドルじゃん」
「ん」
衣梨奈があっさり頷くので、聖はちょっと拍子抜けしたが、
「さ、先にシャワー使うね?」
そそくさとベッドから出て行こうとする。
ベッドから下りて、バスルームに向かおうとする聖の腕を、衣梨奈は名残惜しそうにそっと掴む。
「なに?」
聖が振り向くと、衣梨奈はそのまま背中に顔を埋めた。
「えり、時間なくなるってば」
「うん…」
衣梨奈が離さないので、聖は自分の方を向かせて深いキスをした。
「うん…みず、き…」
衣梨奈はそのまま枕に頭が沈んだのに気付き、ちょっとびっくりする。
聖が体重をかけてきたのだ。
「え、え…?
聖、また…すると?
時間、あんまないと…」
聖が無我夢中でキスしてくるので、衣梨奈もその甘さに溶けそうになる。
聖が衣梨奈の胸に腕を伸ばそうとしたところで、8時を知らせるアラームが鳴る。
我に返った聖が、呆然と衣梨奈を見下ろす。
「…シャワー、浴びてくる」
よろよろと歩いて行く聖の後ろ姿を見て、衣梨奈は少し微笑む。

14:2012/02/12(日) 12:00:35

「――――いい天気っちゃ!」
衣梨奈がカーテンを開けて伸びをしていると、
「パ、パンツくらい履いて!」
バスルームのドアを少し開けた隙間から、中途半端に髪を濡らした聖が真っ赤な顔で叫んだ。
「どうせお風呂入るんだからいいっちゃ」
「そういう問題じゃない!」
「は〜い」

外はいい天気だ。
何かいい事が起こりそうな予感がした。


END.

15名無し護摩:2012/02/12(日) 12:02:01

 『デイドリーム・ビリーバー Ⅲ』

16:2012/02/12(日) 12:02:39

雨は依然として降り続いていた。


「止まないっちゃね」
窓から外の様子を見ていた衣梨奈は、カーテンを閉めてこちらに戻ってきた。
「明日、晴れたらいいけど」
ベッドに寝そべって携帯を弄っていた聖も、顔を上げて言った。

明日はライブがある。
いつもなら大抵当日現地入りするのだが、台風の影響で前乗りして今ホテルにいる。

17:2012/02/12(日) 12:03:09

「ちょっと伸びたね」
ベッドの隣に腰掛けた衣梨奈の襟足の辺りを、聖は触れる。
ファンクラブツアーでハワイに行った後、衣梨奈は長かった髪をバッサリ切ってショートにした。
長い髪も好きだったが、ショートも似合っているので聖はちょっと嬉しかった。

「あー、そろそろ切らんといけん。
ショートはマメに切らないかんけん、面倒っちゃ」
衣梨奈はめんどくさそうに言い、自分の頭に手をやる。
フフ、と笑い、聖は衣梨奈にヘッドロックをかける真似をする。
衣梨奈はケラケラ笑い、足をバタバタさせた。
ひとしきり笑ったあと、衣梨奈は聖の肩に凭れかかる。
「ん?」
聖は衣梨奈の方を向き、口にかかった髪を指でよけてやった。
「なんか、最近、ふたりになる時間なかったやん?」
衣梨奈が言った。
「あー、確かに…」
リーダーの愛の卒業ライブのリハに、取材、撮影。
今度から、10月にあるミュージカルの稽古も始まる。
衣梨奈はそれに加えて、不定期出演ではあるがテレ東の子供番組のレギュラーの仕事も始まった。
「なにを話したいってワケやないっちゃけど、聖とふたりで話したかったと。
電話とかやなくて」
「うん」
聖はそれだけ言って、
「聖も話があるんだけど」
と続けた。

18:2012/02/12(日) 12:03:41


「なん?」
衣梨奈は顔を上げた。
「…付き合わない?」
聖が言葉を選びながら言うと、衣梨奈は聖から離れて座り直し、まじまじと聖の顔を見つめた。
「あ、イヤだったら…。
てか、ごめん」
「恋人になるってことっちゃか?」
「それ以外何が…」
聖が最後まで言う前に、衣梨奈は聖の腕を掴み、そこへ顔を埋めた。
衣梨奈が泣いてることに、少し経ってから気付く。
「えり…?」
顔を上げさせ覗き込むと、
「ヤバイ…泣きそう」
と衣梨奈は目を擦りながら笑った。
「もう泣いてるじゃん」
聖も微笑んで、指で涙を拭ってやる。

19:2012/02/12(日) 12:04:15


「順番、逆になっちゃったけど。
勢いでやっちゃ…しちゃったような気もするけど、えりをずっと前から好きだから」
「いつ?」
「あー…いつだったかな」
衣梨奈の頭を撫でながら、聖は顔を上げて考える。
「いつかはハッキリ覚えてないし忘れたけど、ハロコンで9期発表した時、えりを綺麗な子だって思ったよ?」
「へえ…」
衣梨奈は目を丸くする。
「『聖って呼ぶね』とかいきなり言われるし」
聖がわざとちょっと意地悪そうに言うと、衣梨奈は声を上げて笑った。
「聖」
衣梨奈が目を伏せて、顔を近づけてきた。
聖はそのまま、顔を傾ける。
小さくキスして、すぐ離れた。
「左利きって」
「うん?」
「まず左で、抱き締めるっちゃね」
「あー…無意識だった。右がいいの?」
「どっちでもよか」
衣梨奈は微笑んで、
「えり、ここが一番好きっちゃ」
聖の腕の中に収まった。


END.

20名無し護摩:2012/02/12(日) 12:05:24

 『デイドリーム・ビリーバー Ⅳ 〜それすらも』

21:2012/02/12(日) 12:05:56


「お風呂入ってくるねー」
ツアー先のホテルで。
聖がそう言って着替えを持って立ち上がると、ベッドで携帯を打っていた衣梨奈は顔を上げて『ん』と答えた。

22:2012/02/12(日) 12:06:26

約1時間後。
聖が髪を拭きながら出て来ると、衣梨奈はベッドに突っ伏して、携帯を握ったまま寝ていた。
キャミソールの裾もまくれて、お腹どころか胸も少し見えている。
「あーあー…もう」
聖は携帯を手離させて、
「えり、えり」
と揺する。
衣梨奈は顔にシートパックまでしていた。
「起きて。
ホラ、布団入って寝ないと。
風邪引くよ」
揺すられて、衣梨奈は一旦うっすら目を開け布団にごそごそ入る。
だがやたらと自分の顔を触り、
「パックが…ゴミ箱に入らんと」
(…ダメだ。寝ぼけてる)
聖はパックを剥がしてやり、そのまま傍のゴミ箱に捨てた。

23:2012/02/12(日) 12:07:19


(…聖がお風呂上がるの待ってるうちに、寝ちゃったんだろうな)
衣梨奈はすぐ寝てしまうので、ホテルで同室になったら先にお風呂に入らせるようにしている。
衣梨奈の携帯をベッドサイドに置こうとして、ディスプレイが目に入る。
『えりぽん、頑張るけん
おうえん』
ブログの更新なのか、ここまで打って変換しようとして寝てしまったらしい。
「…いいや、このままにしとこ」
衣梨奈の携帯を充電器に繋いで、聖も布団に入った。
「…おやすみ」
前髪を直してやり、額に小さくキスして聖も目を閉じた。


END.

24名無し護摩:2012/02/12(日) 12:08:21
 
 『デイドリーム・ビリーバー zero』

25zero:2012/02/12(日) 12:08:59

ある春の日。
ツアー先のホテルで、聖は電気も消して寝床に入った。
隣のベッドでは、同期の衣梨奈が早々と寝息を立てている。
寝つきいいなー、と微笑ましく思いつつ、聖も目を閉じた。

26zero:2012/02/12(日) 12:09:29

夢を見る。

原っぱのような場所が目の前に広がったと思うと、甘い香りが漂ってきた。
「わあ。林檎だ」
聖は目を輝かせた。
林檎の木が重そうな実をつけて聳え立っていた。
「おいしそう…」
ひとつもいでみようかと腕を伸ばすと、
『汝に告ぐ』
何処からか声が聞こえた。
「わ、びっくりした。
誰?誰ですか…」
『その林檎は禁断の果実やよー。
食べたらアウトやよー』
「…あの、高橋さんですよね?」
『違うがし。
なあ、ガキさん?
あ…』
聖は微妙な気持ちで目を細めた。
笑っているわけではない。
「わあ、おいしそうっちゃ。
聖、取って食べると」
気が付いたら、衣梨奈が隣に立っていた。
「あ、なんか高橋さんが禁断の果実だから食べちゃダメって」
『食べたらアカンとは言うてへんやよー。
ただ、アウトやって言うたんやー』
「どう違うと?」
衣梨奈はツッコミを入れると、
「ま、いいと。
よいしょっと」
脚立に乗り、
「聖、下押さえてて。
衣梨奈、上の方の林檎取ると」
振り返って指示した。

27zero:2012/02/12(日) 12:10:16


「なんで上なの?」
押さえながら聞くと、
「だって上の方がお日様がよく当たってきっと甘いと」
「…衣梨奈ちゃんってたまにムダに知識あるよね」
「キウイは林檎と一緒に置くと甘くなると」
「へ、へえ…」
衣梨奈はふたつほどもいで、
『よいしょ』
と下りてきた。
「うん、いい匂いと。
いただきまーす」
カシッという音を立てて、衣梨奈は早速林檎を齧った。
「わー、食べた!」
迷いのなさに、聖はやや引いた。
「うん、おいしおいし。
聖も食べると」
差し出された齧ったあとのある林檎を、聖はちょっと怪訝そうに見る。
『てか、毒とか入ってたらどうすんの…。
あ、もしかしてこの子、先に毒見してくれた?
ああ、でもこの子、そういうの、微妙だしなー』
恐る恐る、差し出された林檎を齧る。
口の中に、林檎特有の酸味を帯びた甘さが広がる。
「うん…おいしい」
聖がそう言うと、衣梨奈は顔をくしゃくしゃにさせて笑った。

28zero:2012/02/12(日) 12:11:04

『ちょ、ガーキさんて。
この子ら、食べおったわ』
『あー、食べたねー』
新垣の声がしたと思ったら、地面に大きな葉っぱが落ちていることに気付いた。
『ハイ、アンタら。
禁断の果実食べちゃったから、このイチジクの葉で隠してー』
「え…この葉っぱ、新垣さんっちゃか?」
衣梨奈は近づいて行って、
『えいえい』とイチジクの葉をその辺にあった棒でつついた。
『ちょ!
破れるでしょーがー!』
葉っぱはマジギレした。
「あ…スミマセン」
衣梨奈は小声で謝り、しゅんとなった。
「あの、新垣さん。
隠すって、何を隠すんですか?」
聖が問うと、
『そりゃあ、見られたら恥ずかしいトコよ。
もう!なに言わせんのよ!』
「あの…聖たち、服着てますし」
『『あ』』
高橋と新垣の声が重なった。

29zero:2012/02/12(日) 12:11:36


『禁断の果実は、食べたら快楽を知ることになるやよー。
後戻りできんがし』
「はあ」
どっかで聞いた話だなあ、と聖は考える。
「えー、こわいっちゃね」
シャリシャリいわせながら、衣梨奈は林檎を食べていた。
『うっわー。
この子、ふたつめいったよ!愛ちゃん!』
「おいしいですよ?」
衣梨奈は悪気なく笑った。
「快楽だって。
どうする?聖?」
「…大して悪いって思ってないでしょ?」
「聖も食べる?
衣梨奈、もっともいでくるっちゃ」
「…とりあえず上がった時、スカートの中見えないようにしてくんない?」
「えー、聖のえっちー」
「いや、えっちじゃなくって」

そこで目が覚めた。

(…ヘンな夢だなあ)
聖は頭をかいた。
隣で衣梨奈は、ぐっすり眠っている。
寝顔を、ちょっと綺麗だと思ってしまった。

30zero:2012/02/12(日) 12:12:24

てか、リンゴを食べたのはアダムとイブだよね?
としたら。
…うちら、どっちがアダムでどっちがイブ?
まあ、どっちでもいいけど。


というか、この子、迷いなく食べてたな。
聖は衣梨奈の寝顔をまた見て、苦笑した。

まだ起きるには早い時間だったので、『ま、いっか』と聖は布団を掛け直して眠りについた。

31zero:2012/02/12(日) 12:13:20


その日の朝。

起きてすぐ、昨夜コンビニで買い込んだパンなどでふたりで朝食を摂る。
衣梨奈はコンビニ袋をがさがさいわせて中から出し、
「えり、ゆうべリンゴのパン買ったと。
食べる?」
「え?」
聖はちょっとイヤな予感がした。
衣梨奈はひとくち齧り、聖に差し出した。
「うん、おいしいと。
食べなよ、聖」
「う、うん…」
衣梨奈が齧ってない部分を、恐る恐る齧る。
菓子パン特有の甘ったるい味と、甘く煮たリンゴの味が広がった。
「ね?
おいしかろ?」
「…甘い」
ぺろっと唇を舐め、指で口についた砂糖を拭った。
「まだついとうよ」
衣梨奈は手を伸ばし、聖の口許の砂糖を拭ってやる。
拭った指を、衣梨奈は舐めた。
聖は思わず目を丸くする。
「えへへ。
甘いと」
衣梨奈は満足そうに笑った。

『覚えとき。
禁断の果実を食べたら、もうアウトやよー』

夢の中の神様の声が、聖の頭の中に響いてきた。


END.

32名無し護摩@蛇足ですが:2012/02/12(日) 12:15:23
 
※禁断の果実→アダムとイブの話でおなじみのアレです。
       フクちゃんの夢では快楽の実となってますが、
       聖書では快楽ではなく、知識の実。
       よくリンゴというが、実はリンゴではないとか。

『アダムとイブ、禁断の果実食う→わー、ヲレらなんでまっぱなん!?』
て流れで、ふたりはいちじくの葉で恥ずかしいトコ隠したそうです。


※※これはふたりが付き合うずっと前の話です。
ちょうど2011年の春ツアーの頃なので、フクちゃんは夢の中でえりぽんを名前に
ちゃん付けして呼んでます。

33名無し護摩:2012/02/12(日) 12:16:19

 『デイドリーム・ビリーバー Ⅴ』

34名無し護摩:2012/02/12(日) 12:17:01

※これは愛ちゃん卒業の少し前の話です

35:2012/02/12(日) 12:17:32

――――数学の授業終了5分前。

衣梨奈はシャーペン握ったまま、意識が飛んだ。
気が付いたら、ガタガタ、と周りの子たちが席から立ち、一気に騒がしくなった。
一体自分はどこに行ってたのか。
頭を振って、教科書をしまった。
「宿題、最後に言ったよ。あと、明日小テスト」
友達が教えてくれる。
持つべきものは友だ。
衣梨奈は礼を言い、教えてくれた教科書のページとテスト範囲をメモした。

36:2012/02/12(日) 12:18:16


最近、いつもこんなだ。

衣梨奈はためいきをついた。

秋ツアー本番とミュージカルの稽古が始まってから、更に忙しくなった。
不定期ではあるが、おはスタ出演。
おはスタは生なので、その日は朝3時には起きて。

それと。
最近、聖と微妙に上手くいってなかった。

この前、聖の家に遊びに行き。
まあ、なんだかんだで聖の部屋で色々あって。
行為後に爆睡して夕方帰ったのだが。

それ以降、ギクシャクしてしまい、あまり突っ込んだ話をしていない。

聖は聖で、ミュージカルの稽古中に居眠りして先輩に怒られたり。
9期まとめて怒られたり。
なんだかスカッとしないことが続いていた。

37:2012/02/12(日) 12:18:47

衣梨奈は、眠気覚ましも兼ねて休み時間にてくてくと廊下を歩いた。

それにしても眠い。

明日はおはスタがある。
数学で小テストがある。
ミュージカルの稽古がある。
取材がある。
体育がある。

あと、なんだっけ。

考えたら、よけい眠くなってきた。

38:2012/02/12(日) 12:19:19

昼休みになった。

給食の時間は好きだった。
この学校の給食は量が多い。
食べきれないくらいだ。

同じクラスの友達は、聖のファンなのか、聖のことをよく聞きたがる。
「フクちゃんって、えりのこと普段なんて呼んでるの?」
「フクちゃんとどんなとこ遊びに行くの?」
「フクちゃんと一緒のツーショ見してー」

(みんな聖、好きっちゃねー。
いちおー、衣梨奈もアイドルなんやけど)

39:2012/02/12(日) 12:19:52


衣梨奈は知らない。

クラスの一部女子に、ぽんぽんヲタがいることを。
「やっばくない?ぽんぽんは奇跡だよ、奇跡!」
「いや、あたしはりほかの派なんだけど」

彼女らは、衣梨奈がいない時よくそう言っているのだ。

40:2012/02/12(日) 12:20:24

「あ」
放課後。
同期の香音を見かけた。
「おーい、スズカノー!」
ポニテ頭の香音はくるっと振り返って、
「先生に呼ばれてるからまたね」
と行ってしまった。

41:2012/02/12(日) 12:21:02

ちぇっ。
つれないの。
衣梨奈はちょっと拗ねる。

42:2012/02/12(日) 12:21:42

また歩いて行くと、他の女子と一緒に連れ立って歩いてきた、同期の里保とすれ違った。
衣梨奈には気付いたようで、すれ違う時、里保はチラッと視線を衣梨奈にやった。
里保は校内で会っても、結構素っ気無い。
たまに小さく手を振ってきたりもするが。

43:2012/02/12(日) 12:22:24

眠い。
眠い。
眠い。

なんか、聖に会いたくなってきたと。

眠い頭で、衣梨奈は考えた。

聖の肩先に凭れて、ちょっと休みたくなった。

44:2012/02/12(日) 12:23:10

(あ、いかんいかん。
ケンカしとるんやった。
…はあ)

衣梨奈はためいきをついた。

どっちが悪いとか。
どっちが謝るとか。

それを考えるのも、眠くなってきた。

(…まあ、稽古行けば会えるし)

そして今日もまた、お互い相手の反応見ながら、余所余所しい会話を交わすのだろう。

45:2012/02/12(日) 12:24:01

「…みずきのあほーーーーー!!」

周りに知られないように、衣梨奈はカバンを振り回して小声で叫んだ。


END.

46名無し護摩:2012/02/12(日) 12:24:52

 『デイドリーム・ビリーバー EX』

47名無し護摩:2012/02/12(日) 12:26:06

※番外編で、9期デビュー前後くらいの話です。

48EX:2012/02/12(日) 12:26:48

『綺麗な子だなあ』


9期メンバーとして里保や香音とステージに上がってきた衣梨奈を見て、聖は思った。

49EX:2012/02/12(日) 12:27:32


正月恒例のハローのコンサート。
その日は、モーニング娘。のオーディションに合格したメンバーの初お披露目があった。
『やっぱ、こういう子が受かるんだな…』
聖自身は3次審査で落ちていたので、そう考えた。

50EX:2012/02/12(日) 12:28:36

「あと1名、モーニング娘。に参加させたいメンバー、決心しました」


「譜久村」

つんくに名前を呼ばれたとき、聖の人生は変わった。

51EX:2012/02/12(日) 12:29:56

新メンバーとしてモーニング娘。に加わり、日々の生活も多忙になる。
モーニングの忙しさは、噂では聞いていたが、話に聞くのと実際するのとでは大違いだった。

でも、エッグとして経験のある自分が同期の3人を引っ張っていかなきゃいけない。
聖は考えた。

元々東京にいる自分と違って、衣梨奈、里保、香音の3人は地方から上京しての加入だ。
特に里保と香音は、小学校卒業を目前にしての転校だった。

52EX:2012/02/12(日) 12:31:56

帰ってから、電話で他の子の泣き言を聞いたり。
ダンスや歌で分からないとメールで言ってきたことを、自分も復習しながら
返信したり。


1日があっという間に終わる。

そうやって、日々は過ぎて行った。

53EX:2012/02/12(日) 12:32:30

ある日。

衣梨奈がその日、ダンスレッスンで先生に怒られた。
結構キツイ事を言われたので、聖も気にしてはいた。
帰ってお風呂に入り、部屋で髪を乾かしながら何となく携帯を弄っていたら、
着信があった。
衣梨奈だった。

最初はその日あった事とか雑談をしていたが、衣梨奈がふと、
「えり、やめた方がいいんやろか」
と漏らした。
「何が」
聖はちょっと怒った声で言ってしまう。
「これ以上やってもさ、なんか迷惑かけるって最近思うけん」
聖がしばらく黙ってると、泣き声がしてきた。
聖はどう言ったものか考える。
衣梨奈はすぐに泣くが、こんな泣き方は初めてだった。
「ねえ、ここまで頑張ってきたんだからさ。
頑張ろうよ」
電話の向こうで泣きじゃくる衣梨奈に、聖は言った。
すぐに返事しなかったが、やがて衣梨奈は、『うん』と泣きながら言った。

54EX:2012/02/12(日) 12:33:21

モーニングの活動に慣れてくると、衣梨奈は先輩の里沙に特に懐くようになった。
聖たち他の9期は、あまりの懐きっぷりに、苦笑いして見ていた。


そんなある日。
「そんなに好きならさ、言ってみたら?新垣さんに」
9期だけで話しているとき、そんな事を里保が言った。
香音も『こーくはーくー!』と盛り上がる。
衣梨奈は困ったように聖に視線を送ってきた。
あれは助けを求めてる目だ。
そう思ったが、聖は、
「まあ、そういうのは本人の意思だしさ」
と、その場は流した。

55EX:2012/02/12(日) 12:33:56

その日の仕事終わり。

「聖」
楽屋で鞄や荷物をまとめていると、衣梨奈が声をかけてきた。
「ん?」
「えり、新垣さんとこ行ってくる」
「ああ、なんか分かんないとことか聞くの?」
衣梨奈は首を振った。
「正直に、えりが新垣さんどう思ってるか、言うてくる」
聖は言葉が出なかった。
「ああ…うん。行ってらっしゃい」
ようやっと、それだけ言って見送った。
衣梨奈は何も言わず、緊張した面持ちで部屋を出て行った。

56EX:2012/02/12(日) 12:34:30

そういや、私。
同年代の女の子を、綺麗って思ったことなかったな。
可愛いって思ったことはあったけど。


楽屋で待ってる間、聖は衣梨奈に初めて会った日の事を思い出していた。

57EX:2012/02/12(日) 12:35:43

衣梨奈が戻って来た。
ドアを閉めて、すとん、とドアに近い側の真ん中のパイプ椅子に腰を下ろした。
「言ってきた?」
聖が尋ねると、
「うん」
携帯をカチカチ弄り出す。
メールでも打ってるのだろうか。
テーブルの反対側の一番右端に腰掛けていた聖は、自分の携帯のディスプレイを眺めながらも、衣梨奈を時々見遣っていた。

聖はちょっとしてから異変に気付く。
傍目から見ても、衣梨奈は同じ箇所を打っては消し、打っては消し、としてるようだった。
見てられず、聖はガタンと立ち上がり、ドアの方へ向かう。
衣梨奈は聖を見ていたが、聖が自分の背後に回って立ったのを、首を曲げて
「なん?」
と問う。
「泣いていいよ」
それだけ言って、聖は衣梨奈を後ろから立ったまま抱き締めた。

58EX:2012/02/12(日) 12:36:31

衣梨奈は一瞬息を呑んだようだが、やがて堰を切ったように泣き出した。
「うえ…うぐっ…」
「ね、無理しなくていいからさ」
耳の近くで言って、聖は頭を撫でてやる。
「がま…我慢…」
「うん?」
「我慢…して、しとったのに…なんで」
しゃくり上げながら、衣梨奈が言う。
顔を近づけると、目も顔も真っ赤だった。
なんで、というのが、何に対するものか分からなかったが、聖は構わない、と思ってぎゅっと腕に力を込めた。
「しなくていいから」
聖しか見てないから、と聖は付け足した。

59EX:2012/02/12(日) 12:37:01

その数日後。

聖は仕事の空き時間に、サブリーダーの里沙に『ちょっといいかな』と呼び出された。
スタジオの外の、人気のない所に連れて行かれる。

「その、生田の様子どう?」
開口一番、里沙はそう切り出した。
「え…?」
「いや…知ってると思うけど、この前、あたし生田に告られたんだけど、
『好きな人いるから』って断って…」
里沙が言い終わらないうちに、
「どうしてそれをあたしに聞くんですか」
聖は思いがけず大きな声を出した事に、自分自身驚いた。
言われた里沙も、目を丸くしてる。
「…すみません」
踵を返し、聖は元来た道を歩いて行った。

60EX:2012/02/12(日) 12:37:33

『みずき〜!
新垣さん、ダンス褒めてくれたとー!』

『新垣さんにお菓子もらったっちゃ!』

『新垣さん、写メ撮るのうまいと!
聖も撮ってもらうといいったい!』

思い出すのは、いずれも笑顔の衣梨奈ばかりだった。
聖は悔しさに体を震わせながら、ぎゅっと拳を握った。

61EX:2012/02/12(日) 12:38:11

楽屋へ戻れず、廊下の端の長椅子に腰掛けてやり過ごしていると、いつの間にか
衣梨奈が隣にやって来てすとん、と座った。


「新垣さんから話、聞いたと」
「えりぽん…」
「ありがとうっちゃ」
「――――え?」
「聖、えりのこと思って新垣さんに怒ったんやろ?
だから、ありがとうっちゃ」
「…ふ」
「なんで笑うとー?」
衣梨奈はちょっと膨れて、でも笑いながら聖の腕を叩いてくる。
やっぱり、この子はズレている。
聖は可笑しくなってきて、今度は声を上げて笑った。
「もー」
衣梨奈はぱしぱし叩いて、聖と顔を見合わせ、自分も声を上げて笑った。


END.

62名無し護摩:2012/02/12(日) 12:38:55

 『デイドリーム・ビリーバー Ⅵ』

63名無し護摩:2012/02/12(日) 12:42:00

※これは『デイドリーム・ビリーバー Ⅴ』(このスレの>34-45)のちょっと後くらいの話です。
愛ちゃんは卒業してます。

64:2012/02/12(日) 12:43:00

秋の日は暮れるのが早い。


聖は、はあ、とため息をついて稽古場のあるビルから出た。

最近、どうにも煮詰まっている。

近々、リーダーの里沙、先輩のれいな、9期4人が出演する舞台がある。
9月最終日に先代リーダー・愛の卒業ライブが終わり、今は連日舞台の稽古だ。
時間がないのはみんな分かっている。
しかしふとした時に油断は訪れるもので。
聖は稽古中に寝てしまったのだ。
演出家の先生が聖の演じるクレオパトラについて説明している時だったので、そのタイミングもまずかった。

9期は全員、里沙とれいなに呼び出され、ガツンと怒られた。
原因は自分なので、聖は他の同期3人に申し訳なく思った。

65:2012/02/12(日) 12:43:42

『電話してね』

彼女の衣梨奈にそれだけメールして、聖はベッドに突っ伏した。
この処、いくら寝ても疲れが取れない。
母には帰ったら早々にすぐお風呂に入れ、宿題をやれ、と言われ、少々うんざりする。

(衣梨奈とかみたいに寮に入れたらなあ)
天井を見上げながら、聖は思う。

衣梨奈たち上京組は、会社が管理している寮にいる。
寮と言っても女性専用マンションみたいなものだが、食事の面倒も見てくれる専任の人がいるらしい。
しかし各部屋の掃除までしてくれるわけではないので、衣梨奈や里保みたいな片付けの苦手なメンバーの部屋は
惨憺たることになっているとかいないとか。

(そういや、行くって言っててずっと行ってないな)
なかなか時間がとれず、付き合い出してからも衣梨奈の部屋には行けていない。

チラッと横目でベッドに放り出した携帯を見る。
着信は、まだなかった。

「…えりのバーカ」
携帯を充電器に繋げ、聖は頭から布団をかぶった。
もう、3日ほどこの繰り返しだった。

66:2012/02/12(日) 12:44:20


――――翌日。

「ごめん、聖ー」
稽古場で会うなり、衣梨奈は眉を下げて言った。
ゆうべも電話しなかったのを、気にしてるようだ。
「…もう!これで3日だよ!」
他のメンバーに知られないように、聖は小声で語気を荒くする。
「聖から電話くれたらいーやん」
「電話しても寝てるじゃん」
「うん、まあ。そうなんだけど…」
衣梨奈は困ったように笑う。
「電話してよ?」
「うん…」
衣梨奈は何か言いたそうだったが、敢えて聖は触れなかった。

67:2012/02/12(日) 13:05:13


――――その夜。

「…もう!」
聖はいい加減しびれを切らし、自分から電話をかける。
やっぱり、繋がらなかった。

68:2012/02/12(日) 13:05:46

「衣梨奈」
翌日、稽古場で会った時、聖はすぐ冷たい目を向け呼びかけた。
「あー、はい。
すみません…」
衣梨奈はただ、頭をかいて笑うだけだ。
「ごめん、最近ほんっとヤバイくらい眠いと。
稽古の後でよかったら、ちょっとくらいなら時間あるから話聞くと」
衣梨奈なりの気遣いなのだろう。
頭では分かっていても、聖は
「もう、いいよ」
スッと通り過ぎて稽古場に入って行った。

69:2012/02/12(日) 13:06:23

(自分は、どうしてこうなんだろう)
休憩中、ペットボトルの水を飲みながら聖は思う。
大事なものを、大事にしたいだけなのに。
衣梨奈を、困らせていることは分かっている。
でも、どうしたらいいのか分からない。

70:2012/02/12(日) 13:06:59

――――その数日後。
事務所に行く用があり、稽古の前に立ち寄った。
ビルから出ると、見覚えのある人物が手を振っていた。

「えり…」
「公園行くと」
近くの公園に連れて行かれ、衣梨奈は『ハイ』と何か袋を渡した。
「なに?焼き芋?」
「うん。
この前、香音ちゃんとか里保と食べたと。
すっごく美味しかったから、聖にも食べさせたげたいって思ったと」
気遣いが。
嬉しい筈なのに。
「…聖だけ、いない時に食べたんだ」
聖は俯いて言った。
衣梨奈は怪訝な顔で見ていたが、すぐ困ったように、
「え、だって、聖、そんとき別の…」
「もういいよ」
袋を衣梨奈に押し返し、聖はそのまま歩き出した。

71:2012/02/12(日) 13:07:33


その日。
帰ってから、聖は夕食も食べず、ずっとベッドで泣き通した。

72:2012/02/12(日) 13:08:08

――――翌日。
聖は稽古場への道を、重い足取りで歩いていた。
午前中に学校で、月のものが始まったのだ。
今月はやけに遅く、その所為か普段よりきつかった。
(…何かお腹に入れて、鎮痛剤飲もう)
稽古場に入り、椅子に腰掛けて錠剤を水で流し込んだ。
幸い、まだ誰もいない。
長机に突っ伏して、痛みが和らぐのを待った。

73:2012/02/12(日) 13:08:44

「…みずき?みずき?」
意識が遠退きかけたとき、肩を揺すられた。
「あ…来てたんだ」
顔をこすって、体を起こした。
衣梨奈がじっと自分を見ていた。
「どうしたと?具合悪いと?」
「うん…お腹が」
「女の子の日っちゃか?」
「あー、うん」
「薬は?飲んだと?」
なかったらえり、持ってると、と衣梨奈は自分のカバンをがさがさ漁った。
「飲んだ。
大丈夫だから」
「うん」
衣梨奈の心配そうな顔を見てると、ふっと頬が綻んで、
「…ちょっとだけこうしてて」
座ったまま、衣梨奈の肩先に聖は顔を埋めた。


END.

74名無し護摩:2012/02/12(日) 13:11:31

 『デイドリーム・ビリーバー Ⅶ』

75名無し護摩:2012/02/12(日) 13:14:19

※これは『デイドリーム・ビリーバー Ⅵ』(このスレの>62-73)の
後日の話です。

76:2012/02/12(日) 13:15:00



ご機嫌を損ねる、というのはこういうことか、と衣梨奈は最近身をもって知った。

77:2012/02/12(日) 13:15:41


最近付き合いだした――――同期の聖を衣梨奈が電話を返さなかったことが原因で怒らせてしまい、
他にも色んな出来事が絡まって、しばらくギクシャクしていた。

78:2012/02/12(日) 13:16:13

(…衣梨奈やって、怒ってたんやけんね)

少し前に聖の家に招かれて、日中、別室に他の家族もいるというのに、聖は自分の部屋で迫ってきた。
同意して身を委ねたとはいえ、どうにも釈然としないような気がし、しばらく聖と必要最低限の会話しかしなかったのだ。
(いつまでも怒ってるのも大人気ないかなー、やっぱ)
そう思い、劇場に通う日々は続く。

今、衣梨奈はミュージカルに出演していた。
新宿の南口から少し歩いた所にある劇場に、短期間ではあるが先輩の里沙やれいな、9期全員で出ていた。

数日前、稽古中に聖が少し体調を崩したことがきっかけで、若干仲直りはした。
聖も反省してるのかそれとも体調が原因で弱っているのか、一時の機嫌の悪さは収まっている。

79:2012/02/12(日) 13:16:43

(一緒にブログ用の写メ撮ったりはしとうけど、うーん)
衣梨奈は燻るように悩んでいた。

80:2012/02/12(日) 13:17:19

(両想いやと思っとったけど)
溜息をつきつつ、考える。
(…えりの『好き』と、聖の『好き』は食い違うと)

もやもやとする日々は続く。

81:2012/02/12(日) 13:17:49


ある日。

その日はたまたま休演日だった。
今日は少しはのんびりできると思って仲のいい友達と昼休みに給食を食べていると。

「ちょ、えりー!」
席を外していた友達がクラスに戻るなり、慌てて衣梨奈のところへやって来た。
「なん?」
「ちょっと、えりの同期のズッキと鞘師ちゃん?
2年の子に呼び出されてたよ」
「え?」
衣梨奈は食べかけのパンを皿に置いた。
「あの、なんてったっけ?
スマイレージに入った2年の子、あの子も呼ばれてた」
「それ…」
「まずくない?」
衣梨奈は少し躊躇したが、
「…行ってくる!」
席から立った。

82:2012/02/12(日) 13:18:30

校舎の裏に走って行くと、見覚えのあるポニテ頭が目に入った。
香音だ。
里保、スマイレージの香菜たちの先に、いい評判を聞かない女子たちがいる。
衣梨奈とクラスは違うが同じ学年の子が5人と、1年が2人いた。

「えりちゃん…」
先に、香音が口を開いた。
「ちょっと。
あんたら、この子らに何か用?」
走ってきた衣梨奈が息を落ち着かせながら言うと、
「やっぱ訛ってるよ」
グループのうちのひとりが小声で言い、数人がくすくす笑った。
衣梨奈は眉を顰める。
「えりの訛りはどうでもよか。
この子らに何か用なんかって聞いてるったい」
「ああ、あんたもモー娘。?」
分かっているだろうに、わざわざ尋ねる辺りに悪意を感じる。
衣梨奈の隣にいる里保が険しい表情をしているのが、横顔で分かった。

83:2012/02/12(日) 13:19:33

ふと顔を上げると、モーニングの後輩の亜佑美が走ってくるのが見えた。
「みんな!」
衣梨奈と同じように誰かにこのことを聞かされたのだろうか、焦った様子でやって来た。
「あ、またモー娘。来たよ」
グループの1年の子が言った。
「ちょ、オマエ、3年にヤバイってー」
と他の子たちは笑っているが、衣梨奈たちはちっとも愉快ではなかった。
「あ、先輩。宮城から転校してきたんでしたっけ?
ヒョージュンゴ分かります?ヒョージュンゴ」
続けるように言ってきた悪意を含んだからかいに、里保が怒った目を向けた。
「ちょっと何?
何でみんな…」
亜佑美の問いに、
「べっつにー。
このヒトたち、ちょっとゲーノージンだからデカイ顔してね?ってウチらの知り合いが言ってましてねー、先輩」
2年のひとりが答える。
衣梨奈は膝の横で握り拳を震わせた。
「それやったら里保とか香音ちゃんまで呼ばんでいいっちゃろ!
1年相手になん?
中西ちゃんと石田ちゃんなんか転校してきたばっかやん!」
「ウザイんだよ、オマエ!」
衣梨奈は一際体の大きな子に突き飛ばされた。
「オイオイオイ、ケガさせんなよー。
なんかあったらヤバイしー」
そう言いながらさっき亜佑美に答えた生徒が衣梨奈のシャツの前部分を掴み、
「おはガールかなんか知んねーけど、調子こいてんじゃねーよ」
そう言ってから後ろへ放り投げるように離した。
「もうやめてえやあ!」
香菜が泣き出した。
「うちらがあんたらに何かしたの!?」
「もう気が済んだでしょう?」
「暴力まで振るって、最低だよ!」
香音、里保、亜佑美は口々に言った。
衣梨奈は倒れたまま、ぼんやりとそれを見ていた。
「モー娘。なんて落ち目じゃん」
連中も飽きてきたのか、さっき衣梨奈にウザイと言って突き飛ばした生徒がさもバカにしたように言った。
「こんなブスが入れるなら誰でも入れるよ」
「あー、行こ行こ」
「生田さんに謝りぃやぁ!」
香菜が走って、衣梨奈を突き飛ばした生徒の腕を掴んだ。
「離せよブス!」
「謝りぃや!」
尚も食ってかかる香菜に、
「ここで歌って踊ったら?
そしたら謝ってやるし」
嘲笑が聞こえた。
みんな険しい表情になる。
衣梨奈は、
「うちらは…ファンの人らに楽しんでもらうために歌って踊ると。
そんなんで見せれん」
「金取ってんじゃん」
「親もおかしいよね、そんな仕事させて」
「卑しい商売だね」
フン、と鼻を鳴らし、衣梨奈に唾を吐き掛けて連中は言った。

「えりちゃん…」
里保は衣梨奈を抱き起こし、香音は黙って衣梨奈の顔の唾をハンカチで拭いた。
亜佑美は泣きじゃくる香菜の背中をさすり、慰めていた。

84:2012/02/12(日) 13:20:12

衣梨奈の武勇伝は、存外早くメンバーに伝わっていた。

その日、打ち合わせなどがあるので、学校を終え、衣梨奈は事務所に向かった。
廊下で、
「えり」
と聖が声を掛けてきた。

85:2012/02/12(日) 13:20:58

何となく、洗面所に向かう。
「聞いたよ、学校でケンカしたって」
と聖は囁くように言った。
「うん」
所在なさげに、衣梨奈は頭をかいて頷く。
「話伝わるの、早いと」
「ケガは?」
「あ、うん。
突き飛ばされたりしたっちゃけど、血は出ん…」
衣梨奈が全部言い切らないうちに、聖が強く抱きしめてきた。
強く抱きしめてはいるが、聖が震えているのが分かった。
「同じ学校じゃないんだし、いつでもそばにいて守ってあげれないんだから。
頼むから、無茶しないでよ」
聖が真っ直ぐ自分を見て、また抱きしめる。
「うん…」
衣梨奈は聖の肩に額をつけて、両手を彼女の背中に回した。
「聞いてる?」
「うん」
衣梨奈は小さく頷いた。

86:2012/02/12(日) 13:21:29

「悔しかったと」
衣梨奈は呟いた。
「うん?」
「えりのことだけバカにするんならまだ我慢できると。
仲間とか親とか、モーニングとか、仕事とか、そんなんまでバカにされて…ばり、くやし…」
聖が黙って、衣梨奈の肩を掴んで押して、顔を上げさせた。
衣梨奈は手の甲で涙を拭う。
「えらかったね、我慢して」
「ちが…我慢しとらん…」
「うん?」
「自分らなんかに芸を見せれんって啖呵切ったと」
「フフ」
「なんで笑うと」
聖は目を細めて衣梨奈の頭を撫でる。
「頑張ったね」
お姉さんのように言い、聖が抱きしめてきた。
衣梨奈は何か自分の中の何かが溶けていくような気がして、また聖の肩に顔を埋めた。
顔を上げると、聖が両手で頬を包んできた。
そのまま目を閉じて口づけを受けようとすると人が入って来て、そのまま瞬時にふたりは離れて
何事もなかったかのように洗面所を出た。


「聖の彼女は、勇敢だよ」
廊下で、聖が前を向いたまま、ちょっとだけ手を繋いできて言った。


END.

87名無し護摩@つけたし:2012/02/12(日) 13:23:00

※書き忘れ。Ⅶはちょうど『リボーン』を上演してた頃の話です。

88名無し護摩@つけたし:2012/02/12(日) 13:24:28

 『デイドリーム・ビリーバー  Ⅷ』

89名無し護摩:2012/02/12(日) 13:25:21

※これはガキフクバースデーイベのちょっと前の話です

90:2012/02/12(日) 13:27:30

「水炊き?」
「うん、ママに頼んで、地元でお肉とかスープ買って来てもらったと」

聖は、衣梨奈のマンションの前にいた。
とある金曜日、仕事が終わってから、一緒にやって来たのだ。
前から遊びにおいで、と衣梨奈に言われていたので、翌日は土曜で学校も休みなので、
話し会って今日お泊り会をしようということになったのだ。

夕食はえりがご馳走すると、と衣梨奈は張り切っていた。

91:2012/02/12(日) 13:28:46

部屋に荷物を置いて手を洗うと、
「テレビでも見といて」
と衣梨奈は早速、料理を始めた。
「手伝うよ」
「よか、座っといて」
そう言われたので、聖は何となくリビング奥のソファーに移動し宿題を始める。

ふとシャーペンを走らせる手を止め、部屋の中を見渡す。
衣梨奈は片付けが苦手なので、自宅もさぞ惨憺たることになっているだろうと思っていたら、
拍子抜けするくらい綺麗だった。
聖はソファーの前のテーブルの隅に、紙切れがあるのに気が付いた。

92:2012/02/12(日) 13:29:24

『えり
たまには掃除しなさい。
聖ちゃんが来たら、冷蔵庫のデザートも出してあげなさいね』

93:2012/02/12(日) 13:30:10

文面に、聖はぷぷっと笑いを堪えた。
「何笑っとるん?」
衣梨奈がエプロン姿でソファーにやって来る。
聖はニヤニヤして紙を渡す。
受け取って目を通すと、衣梨奈はすぐ
「もう〜!見んでぇー!」
バツが悪いのか、少し赤くなって、ばしばし聖の二の腕を叩いた。

94:2012/02/12(日) 13:31:32

「お母さん、来てたんだね」
テーブルに卓上タイプのIH調理器を置き、後は鍋で煮込むだけだ。
「うん。
ママ、昨日こっちの親戚に用あって来て、今日帰ったと」
「へえ」
(…野菜とかは多分お母さんがあらかじめ切って用意してたんだろうな)
皿に盛られたキャベツなどを見て、聖は思った。
「キャベツ、入れるんだね。
白菜じゃなくて」
「うん」
衣梨奈は鍋の蓋を開けて、中のスープを掬って椀によそい、そこに塩とネギを入れた。
「はい。
冷めんうちに飲んで」
「ああ、うん」
受け取って、聖は一口啜った。
「…んー!」
聖は目を大きく見開き、
「おいしい!」
「いけるやろ!?」
衣梨奈も顔をくしゃくしゃにして笑い、嬉しそうだ。

ふたりは鍋の具を殆ど食べつくして、満腹なのでシメの雑炊は明日の朝食べることにした。

95:2012/02/12(日) 13:34:03

「すっごいおいしかった!」
聖は満面の笑みで言った。
「ありがとう、えり」
「喜んでくれて嬉しいと。
ママに買ってきてもうて正解やったと」
「うんうん。
お母さんにもお礼言わないと」
そう言って、聖は衣梨奈の頬を両手で包んだ。
「なんか、えり。
肌、すべすべしてる」
衣梨奈の頬をさすって言うと、
「コラーゲン効果っちゃ」
衣梨奈は目を細めた。
「なに?
昨日なんか食べたの?」
「へへ、水炊き」
「え?
じゃ、えり、2日連続水炊き食べたの?」
「うん、だって」
めっちゃおいしいけん、聖にも食べさせたかったと。
そう続け、衣梨奈は屈託なく笑う。
それを見て、聖は嬉しさと同時に少し切なくなる。
聖は椀を置き、衣梨奈の肩を抱きキスをした。
「ありがと」
小さく囁き、もう1度衣梨奈の耳のそばに口づけた。

96:2012/02/12(日) 13:34:49

聖がバスルームから出ると、先に風呂に入った衣梨奈がリビングで、
ソファーに座ってテレビを見ていた。
「なに?」
髪を拭きつつ何を見ているのか尋ねると、
「ん、撮り溜めしててまだ見てないやつ」
「うん」
聖も隣に腰掛ける。
「聖、アイス食べると?
いちごとチョコ入っとるやつ、あると」
「ああ、うん」
衣梨奈が冷凍室から出してきたアイスを食べながら、ふたりで録画を見た。

97:2012/02/12(日) 13:36:36

1本音楽番組を見終わり、次何を見ようかとなった時、録画一覧を見て、聖は、
「あ、『ハロプロ!TIME』。
聖、この日のまだ見てないんだ。
これ見ていい?」
「あ、うん」
衣梨奈はちょっと浮かない顔をしたが、リモコンを操作した。
その回の『ハロプロ!TIME』は、武道館公演と10期発表の舞台裏を取り上げたものだった。
途中まで、ふたりは笑って見ていたが、番組中盤を過ぎたくらいで、聖は『ん?』と首を傾げる。
気になる箇所があり、リモコンで巻き戻す。
「あれ…?」
それを2〜3度繰り返す。
衣梨奈は最初は黙っていたが、どのシーンを巻き戻しているのか確信し、
「もー!そんな何度も巻き戻して見んでええやん!」
赤くなってリモコンを聖の手から奪う。
「…もしかして、妬いてる?」
聖がリモコンを奪い返し一時停止した画面には、ステージの裏で新メンバーとして入ってきたエッグ仲間の遥を、嬉し泣きしながら抱きしめてる聖がいた。
遥の横で、視線を泳がせる衣梨奈も映っている。
聖にそう問われ、衣梨奈は無言で頷く。
画面の中の自分は、見てて恥ずかしくなるくらい、妬いているのが丸分かりだった。
「そっか。
妬いてるんだ」
聖はリモコンを置いて、目を細める。
「や、くどぅーはエッグでおんなじやったって分かっとうし、仲いいんやなってこん時もその後の普段見てても分かるし、
えりも初めての後輩やし、一緒にこれからがんば…」
よく分からない言い訳を始めた衣梨奈がふと横を見ると、聖が膝に顔を埋めて、笑いを堪えているのが分かった。
「そこ笑うとこなん!?」
「や、だってさー」
顔を上げた聖はうっすら涙まで浮かべていた。
笑いすぎだ。
「心配しなくても、えりを一番好きだよ」
「え、あ…」
聖のキスは、さっきのアイスのいちごとチョコの香りがした。


END.

98名無し護摩:2012/02/12(日) 13:38:13

 『デイドリーム・ビリーバー Ⅸ』

99名無し護摩:2012/02/12(日) 13:38:44

※これは、ガキフクバースデーイベ当日の話です

100:2012/02/12(日) 13:39:14

遥には、気になっていたことがあった。


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