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最果てに住まうティアテラ

1言理の妖精語りて曰く、:2007/05/22(火) 01:50:18
此処は変人ティアテラと最果てについて記述するスレッドです。

【ティアテラ】
最果ての最果てに住まう変人の若い男。
人間嫌いで、三ヶ月に一度しか街に出ることは無い。
一人で古代の遺物を集めて弄ったり
ジャガフライを箸でつまみながら(本が油塗れになるのが嫌なので)
文献を読むことを好む。
ドーでも良いような事に考察を巡らせるのも好きである。
趣味は、文献から失われたもの(主に一風変わった料理を再現する事)
納豆について造詣が深い。

【バーガンディア】
魔眼竜とも。最果てに住まう竜。
黒い鱗に縦に切れこんだ大きな紅い一つ目。六つの複眼を持つ。
辺境に住む人食い竜だが、人より納豆が好き。
亜納豆、紀納豆、堕納豆、どれも好んで食す。
ティアテラの納豆カレーのレシピを奪おうと画策中。
バーガンディアは眼が弱点で、その眼に毒矢を打ち込めば一端は撃退出来るが
数日後にはまた無傷で現われると伝えわれている
【アルマリデル】
良く眼を怪我したり眼病を患うことが多い少女。
よくティアテラの元を訪れる。
治してもらいに、または彼の作る納豆料理や前衛料理を奪う為に。
片目を包帯で覆っていて紅い瞳に黒い髪、納豆好き。

81言理の妖精語りて曰く、:2007/06/12(火) 22:35:30
納豆時計や紀時計がないのはなぜだ

82言理の妖精語りて曰く、:2007/06/12(火) 22:44:38
あるに決まってるだろ。
というかお前んちの時計もそうだろうが。

83言理の妖精語りて曰く、:2007/06/12(火) 22:49:03
家の時計は体内時計

84言理の妖精語りて曰く、:2007/06/12(火) 22:52:33
なんというかたつむり

85言理の妖精語りて曰く、:2007/06/12(火) 23:29:57
こたつむりだよ。こたつから出ない幻の希少種。ひきこもり(シェルター)ともいう。

86言理の妖精語りて曰く、:2007/06/12(火) 23:34:50
・・・時計はコタツの中に?

87ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:48:08
周りの通行人に時間と場所を聞いたティアテラは、心底吃驚していた。
「新史暦518年のトルクルトア!?」
通行人が変な顔をするが、ティアテラはそれどころではない。
未来に来てしまった……おかしいな、銀の車輪は過去にしかいけないはずなのに……
アルマリデルが俺の財布を手に眼を輝かせている。
食べ物の露天の出店をあれこれ巡っている。
「納豆をこれで買えるだけ全部!トッピングはネギにひよこ卵にカツオブシ!
トルクルトア最高いやっふぅー!」
「飯なら買って来るから銀の車輪見張ってろといったのに………あいつはまったく頼りにならねえな」
ティアテラは深くため息をついた。

ことの起こりはこうだ。
ティアテラは退屈していた。
面白い過去の遺物も見つからず、書店に新刊は並んでいない。
研究はスランプ気味だし料理も新しいのが思いつかない。
ふと、自分の持っている半欠けの金貨が眼に留まった。
「そうだ、ミト・ムーン・サーンに会いに行こう」
そう思って、銀の車輪に乗ろうとした時、事件は起こった。
アルマリデルが私も連れてけ、というのだ。
そこで「半欠けの金貨の由縁の場所へ」と。
そしたらこんな所にきていたわけで。

88ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:48:35
「ティアテラー」
「ああ、なんだ?」
「銀の車輪無いよ。パクられた」
「なんだってえええええええ!!!」
「いやーごめん」
「ごめんじゃすまねえぇ!手分けして探すぞ!どんな手段を使っても構わん!確実に取り返せ!」
「面倒な事に成ったねえ」
「俺は向こうを探す!その前にこれを渡しておく」
アルマに掌サイズの水晶玉を渡しておく。
「何これ?」
「共時玉!通信機だ。話したい相手を念じながら話せばもう一つの玉にそれが伝わる!」


アルマと別れ酒場で情報収集をしたら興味深いことが幾つも出てきた。
そんな妙なものは知らないといわれたがこのトルクルトアと言う街では
「ハイミラ教団」というカルト宗教が流行しているらしい。
俺のミドルネームかよ…と軽く凹む。
更に話は続く。
納豆神群?納豆使い?
納豆神群と言うのが良く分からない……俺が去ったあの後…
そのような神が本当に降臨したのかもしれない。
元々あの村には納豆を信仰する下地があった。
おどろいたのは次だ。
…それに教団の今のリーダーは最強の納豆使いと呼ばれる、チャック・ムーン・サーンだと言う。
そしてそのチャック・ムーン・サーンが三日前、キュトスの姉妹を戦って捕らえた、と言う噂も。
それを聞いた時、緊急事態なのをわすれ俺は吹きだしていた。
「ははははははっ!今度は戦って、とは流石に俺も驚いたぞ!
奇しくも、いや、これこそ歴史の皮肉だな!
サーンの一族よ!何処まで納豆を練り上げたのかをこの眼で見たくなったぞ!
銀の車輪が見つかるまでの間、この時代でやる事も出来たしな!」
変な顔で見る客等に目もくれずにティアテラは店を出た。

89ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:48:54
ハイミラ教団の信徒は直に見つかった。
街頭で納豆をかき回しながら布教活動を行ってれば誰でも判る。
フォークで納豆をかき回すのが気に入らないが。
布教文句を右から左に受け流しつつそれとなくキュトスの姉妹を捕まえた時の状況を聞いてみる。
(ちっ、術の構成とかの断片とか肝心な事はさっぱりわかりはしねえ)
分かったことといえば、チャックがキュトスの姉妹を捕らえたあと
謎の美女が乱入し、あっけに取られるハイミラ教徒とチャックを置いてきぼりにしつつ
場の空気を完全に掌握して仕切りつつキュトスの姉妹を散々に弄り倒したあげく。
「本当にやばくなったら迎えにくるから〜」
とかいいつつ消えていったらしい。
そいつは間違いなくキュトスの姉妹だろう。
さあ、状況はいよいよ悪化してまいりました。
銀の車輪があればとっくにアルマと逃げ帰っている所だ。
捕らえた妹を救出するため上位ナンバーの姉妹が来ればこの町と心中する事に成りかねない。
カタルマリーナやビークレットが来て町ごとこんがりとか発狂死とかまじかんべん。
「あー。もう一つ質問。ハイミラ教団本部の場所は?」
教徒は親切に教えてくれた。
それだけ聞けばもう用は無い。
礼を述べるとダッシュで駆け出す。
納豆のように粘り強く付いてきたが上手く撒けた様だ。
もうすぐ日が暮れる。

90ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:49:13

「とんだ夜の旅になったな!」
ティアテラはハイミラ教団本部で戦っていた。
目指すは地下。何故知ってるかって?
門番を締め上げてキュトスの姉妹と半欠けの金貨の事を聞いたからだよ。
既にハイミラ教団本部は蜂の巣を突付いたような騒ぎだ。
「本殿に侵入者です!」
「数は何人だ!!」
「凄い勢いで番兵や納豆使いをなぎ倒して地下に向っております!」
「殺しても構わん!地下に近づけるな!」
「教祖様にお伝えしろ!」
教団お抱えの納豆使い達が立ち塞がる。
納豆粒が空を切り、跡に糸を引く。
使ってきたのは「斬糸」納豆を用いた論理記述ではポピュラーな物だ。
納豆の糸に強度と切断概念を加える物。捕らえられたら普通の人間なら輪切りだ。
だがティアテラからしたらこんなのネギも醤油も卵も入ってない練の中途半端な納豆だ。
「練れてねえ……てめーらは…納豆に対する情熱が足りねえんだよ!」
(解呪に対抗する為の論理記述が入っていない納豆糸なら…)
ティアテラは「箸」…120リーデほどにしたリンケドラッへとレヒテカッツエ。
それをクルクルと回し…ついっ。っと振る。
それだけで、納豆糸は強度を失う。
(これだけの対抗措置で無力化できる)
相手の納豆使いの顔が驚愕に見開かれる。
ティアテラがそんな隙を見逃すはずも無く納豆使いの首筋にリンケドラッへが叩き込まれて昏倒した。

91ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:49:43

まだ刺客はやって来る。斬糸の納豆使いの後ろの柱の影に居たらしい。
今度の納豆使いはと……
ティアテラは一目…じゃなくて詠唱と仕草で相手の魔術の構成を看破した。
(なるほどー。大気中の元素の爆発物を集めて納豆粒を爆弾にする魔法かー…)
今度はホーミングとか対抗術式とか色々構成を複雑にしている。
当たったり発動したら即死は免れない。
でも構成が複雑になると言うことは発動に時間が掛かるということ。
「お前ら極端だなー。粘りが強いのは良いことだが今度は執着しすぎているぜ」
ティアテラは一言呪文を呟くと箸を振る。
呪文を唱えていた納豆使いは天井に叩きつけられたあと……
とどめの一撃で床に沈んだ。
「出の速い論理記述で潰せば良いだけの話だ」
(あー……こいつらの誤算は前衛が脆過ぎたことだな……)
そう思いつつ、地下に向う。階段は程なく発見した。
「とりあえず入り口に納豆の罠を仕掛けて後続の憂いを立っておくかな……」

92ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:50:57
地下―
そこは特別な牢獄と宝物庫だった。
宝物庫の祭壇には、年月こそ立ってあちこち疵付いてはいるが半欠けの金貨が昔と変わらない輝きを放っていた。
「……これを見れただけでも、来た甲斐が合った……」
感傷は牢屋の中に居た人物のくぐもった声で中断された。
「むぐー!」
どうやら納豆束で簀巻き状に拘束されているらしい。
顔立ちは泡良系。十人中十人が美女、と評するだろう。
キュトスの姉妹の六十九番目「宵」である。
「うほっ…いい納豆」
ティアテラの発言に宵はずっこけた。
そんなことお構い無しにティアテラは続ける。
「うーん。厄介なほどにねばっこくて良く練られた魔術構築…
『納豆は練るたびに強度を増す』
『納豆糸は刃物で切れない。只からみつき更に伸びるのみ』
中でもがけばもがくほどそれを納豆束の強度を増加させる事に成るなあ。
しかもフラクタル構造を上手く利用して、壊呪が困難になるよう仕向けられてら。
解法には施術者が用いた「食器」か何か無いとだめだな。普通なら。
「これを解くには論理を成立させている大前提条件「納豆」をブチ壊すしかないな」
ティアテラは突然、持ってきた荷物を降ろし料理を始めた。
その手際は恐ろしく良い。
「えーと…温いお湯に味噌を解いて……豆腐を少し入れると」
「で、これを掛けると……味噌汁で顔洗って出直して来いってやつ?」

93ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:51:19
ティアテラは味噌汁を躊躇いも無く納豆束で拘束された宵に振りかけた。
「わぷっ…………」
暫く、納豆束で縛られた宵はプルプルと震えていたが、ティアテラの耳にセリフが聞こえた。
「あん?」
「無礼者……斬るっ……!」
「うわっち!」
ティアテラはとっさに論理記述を発動し、宵の神速の斬撃を受け止める。
「真剣白箸取りってやつ?」
ティアテラの頬を汗が伝う。防ぎきれなかった衝撃が電光となって箸の回りに漂っている。
心底恐ろしい斬撃だ。
「それだけ動けりゃ上等だ。助けてもらったのにいきなり斬られそうになったし。とんだ夜の旅だぜ」
宵は驚いたような顔をしていたが
「……すまん」
「まあ簡単に説明すると納豆束に乗せられてた魔術を上書きしたんだよ。
「切った豆腐」で魔術の構成を緩めて……
味噌は魔術の触媒だからなあー…納豆の理がゆるんだそこを、魔力と呪を味噌が吸う。
それにくわえてとどめに魔術を構成せしめている論理の破壊。
豆腐と味噌と納豆はお料理の相性は良いんだけど魔術的論理の相性というか完全な融合は難しいんだよねー。
それに味噌と豆腐が混ざった納豆はもはや別物。
「納豆」じゃなく「納豆汁」というか納豆お味噌汁だもんねー。
納豆が納豆じゃなくなったから論理が破綻して自動で魔術の構造が破壊されるって寸法です」
「はあ……」
説明が分かったのかわからないのか、不思議そうな顔をしている。
「いや、実際獲物でもこの糸って破壊出来ない事も無いんだよねー。こうくるくるっとやれば…」
突如、入り口の扉が破壊された。

94ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:51:53


土煙の中、現れたのは最強の納豆使い。
「我が名は、チャック・ムーン・サーン。驚いたぞ……。
この短時間で我が配下の納豆使い達四十人をこうもあっさりと倒してのける納豆使いが居たとは……
それが今まで野心も持たず隠れていたなど……」
「へえ、あの罠を容易く破って………なるほど、何処と無くミトの面影があるなあ。男前だ。
一応名乗っておくか……俺はティアテラ・ハイミラ」
「何……!?」
「ご先祖様から聞き覚えは無いかい?キュトスの姉妹には関わるな、そっとしておけってこと」
チャック・ムーン・サーンの目が鋭くなった。
ティアテラは押し殺したような声で告げる。
「納豆の糸と人の繋がりはかき混ぜて粘りを強めねばならないが……憎しみの糸はどこかで断ち切らなければ成らない……
キュトスの姉妹に手を出せば九姉が必ずや復讐に来るだろう。それに俺は巻き込まれたくない」
「貴様…何者だ?」
「ハイミラの末裔…ってとこかな。単なる錬豆術師さ……」
突如、共時玉から通信が入る。
「ごめんティアテラ!こそ泥と銀の車輪は見つけたんだけどさ一悶着あってさー!今の今まで時間が掛かっちゃった!
今ハイミラ教団の本部前に居るよ!」
「……俺の用事はこれで全て終わった。俺は最果てに帰る」
ティアテラはチャックに告げる。
「ふざけるな!」
チャックが叫び納豆を使おうとしたとき……

95ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:54:25
「………俺は面倒ごとが嫌いなんだよ。それにあんたとまともに戦う気はもう無い」
突如、チャックの頭上から降り注ぐ者があった。
それは。先ほどティアテラが納豆束の解呪に用いた味噌汁の残り。
論理記述を用いて鍋のあまりを既に中空に浮かせておいたのだ。
リンケドラッへをチャックの喉元に突きつけてティアテラは言った。
「言ったろ?あんたとまともに戦う気は無い、と。その手の箸と納豆粒と動作を見れば練達…いや達人の域にある納豆使いだ。
そんなのと戦ったら俺だって只ではすまん。
攻撃系納豆魔術を潰すには触媒の納豆の論理を破壊するのが一番手っ取り早い……」
ティアテラの取った行動はいわば銃の火薬をしけらせたような物だ。
キン、と刀を鞘から抜こうとする音が聞こえたのでティアテラはレヒテカッツエを宵に向けた。
「おっと。此処でこの男を斬ろうとするなら俺が相手だ。…剣士と納豆使いは最強に相性が悪い事は身をもって体験済みだろう?
それにあんた…そういえば名前も聞いてなかったが納豆運がなさそうな顔してる…分かったらとっとと全部忘れて帰りな」
「……宵だ」
ぶっきらぼうに彼女は答えた。
「そうか、キュトスの姉妹に合うのはこれで三人目か。多分もう合う事は無いだろうが」
ティアテラは答える。

96ティアテラの夜の旅:2007/06/14(木) 02:55:36

「何故だ……」
チャックが心底不思議そうな顔をしてたずねた。
「ふん……あんたの先祖に……俺……じゃなくてご先祖様が世話になったからだよ」
ティアテラは出口に向けて歩き出した。
「それに俺は嫌いなんだよ。誰かが殺されたり、殺したりするのは」
ぽかんとする二人を尻目に、ティアテラは出て行った。
倒れている納豆使いをまたいで歩くと、白々しい拍手の音が聞こえた。
一瞥をくれると、外套を纏った絶世の美女が壁にもたれていた。
名前も知らないが、これがハイミラ教徒の話に出ていた美女とやらだろう。
「いやー。宵ちゃんを助ける手間が省けたよ」
「別に。只単に俺は自分のために行動しただけだ。俺はキュトスの姉妹の復讐の巻き添えが嫌だっただけだ」
「ふーん……」
「あまり妹を苛めてやるな。因果は巡る……悪事というか他人に併せた酷い目の納豆の端は自分に繋がっている」
「あれ、あんたどっかで見た事が……あ!!窓から見てたよ!そういえばすっごい昔に変な乗り物に乗ってメクセトに納豆をぶつけた……!」
「それはきっと紀のせいだ!そんな昔に俺が生きてるわけありません!他人の空似だ!俺帰るから!」
後ろを振り返らずティアテラは走り出した。

ハイミラ教団入り口。
ティアテラに気絶させられた門番がまだ呻いている。
そしてその傍らには銀の車輪とアルマリデル。
露天で買った食べ物を一杯籠に積んである。
「うーん。甘納豆うまうまー……渋い茶が欲しいねえ」
「帰るぞアルマ!えらい目に合った!」
「おつかれーらいす食べたいな」
「帰ったら幾らでも作ってやる!」
荷台にアルマを乗せてティアテラは銀の車輪を漕ぎ……その場から掻き消え、永劫線を越えて最果てへ。
こうしてティアテラの夜の旅は終わり、何時もの変わらない日常へ戻っていく。

97言理の妖精語りて曰く、:2007/06/14(木) 16:35:52
ティアテラって錬豆術師としてチャック・ムーン・サーンと同等、いやそれ以上だったのか…。

98言理の妖精語りて曰く、:2007/06/14(木) 22:56:28
ティアテラは歴史上五本の指に入る納豆使い。

99言理の妖精語りて曰く、:2007/06/14(木) 22:59:49
誰の指だって?
もちろん、アルマリデルの指だ。

100言理の妖精語りて曰く、:2007/06/14(木) 23:39:27
アルマリデルは五人の納豆使いにであった。

101言理の妖精語りて曰く、:2007/06/15(金) 16:48:20
アルマリデルの出合った納豆術師は五人。

これなら五指に入るぜ!

102言理の妖精語りて曰く、:2007/06/15(金) 21:31:39
ティアテラは五指の五番目。
出会った順で5人目だから。
実力の順ではどうかって?
アルマリデルは優しいから、そういう時はただ笑うのだ。

103時間の迷子のはらぺこ竜:2007/06/17(日) 03:16:31
永劫線―全ての時間が流れる場所。
そこにティアテラとアルマリデルは居た。
新史暦518年のトルクトルアから元の時代への帰り道。
息を切らしながらペダルを漕ぐティアテラ。
満足そうに荷台に腰掛けるアルマリデル。
銀の車輪に二人乗りして彼らは時を旅する。
「はー。食った食った」
右手でティアテラの肩を持ち左手で何処からか楊枝を取り出してご満悦のアルマリデル。
「はは…はあ、しんどい……」
「酔いそうな景色ねえ……」
「まったくだ…だが、最近では『顎』やノエレッテも見ないから安心して時間旅行が……」
疲れてはいるが時間旅行も三度目とあってティアテラもなれたようだ。
だがそれが思わぬ事態を引き起こす。
元の時代に帰るために…ハンドルの右側についているつまみを弄る。

104時間の迷子のはらぺこ竜:2007/06/17(日) 03:16:53

つまみには元の時代の時間が紅いマークでしるされている。
変速紀械がギアを変更し、チェーンが移動する。
その時、事故は起こった。
「あ、美味しそうな……」
アルマリデルが永劫線上に映る時の幻影の食べ物に手を伸ばそうと、つい右手を離したのがまずかった。
ギア変更の際の震動で銀の車輪がガクッと揺れた。
アルマリデルの体が後ろに傾き、銀の車輪から落ちそうになる。
「あ…ちょ、ちょっとこれ、マズイんじゃない!?」
「アルマ!?」
ティアテラがとっさに後ろを振り返りアルマの手を掴もうとしたが、指はすり抜けた。
アルマリデルは永劫線に落下して行く……
「アルマぁあああああ!!!」
ティアテラの叫びが、虚しく永劫線に木霊し、彼と銀の車輪は光に包まれて永劫線を抜けた。

105時間の迷子のはらぺこ竜:2007/06/17(日) 03:17:19
「…………」
アルマリデルは、暗闇の中で目を覚ました。
「随分落ちたように思うけど……ここは…何時の時代でどの場所なのかしら?」
辺りを見回しても暗闇ばかりで何も無い。
「なんっか見覚え在る様な気が……この食べ物の気配が全く無い場所は……」
暗闇の遥か彼方、遠方にかすかに銀の光が見える。
その方向に、巨大な気配を感じる………
この気配……知っているような気が……
「何か嫌な予感するけどとりあえず、行って見るかー」
アルマリデルはてくてくと歩いて光の指す方向に近付いたが…
光の正体を確認した時、かなり驚いた。
強大な気配と輝く銀の鱗を持つ竜がまどろんでいたからだ。
銀の車輪と何処か似た色に輝く鱗。
銀の輝きを放っていたのは銀の鱗を持つ立派な竜と、その後ろにある銀の扉だった。
扉の方は分からなかったが竜の方は有名だ。…と言うかわりと良く知っている。
「相変わらずチルマフがこない時は寝てるのね。創世竜の一柱……第三位の調停竜クルエクローキ……」
調停竜クロエクローキは、ゆっくりと目を開けた。

106時間の迷子のはらぺこ竜:2007/06/17(日) 03:17:41
「久しぶりと言うべきか……何故此処に来た……
己の敷いた秩序にのみ従う異質にて異端なる彷徨えるはぐれ紀竜よ……
……魔眼竜バーガンディアよ……そしてその化身餓竜姫アルマリデルよ…」
重く、威厳のある声が暗闇に響いた。
だが大抵の者に畏怖を覚えさせる声も、気配もアルマリデルにはあまり効果が無いようだ。
まあ思考の八割が食事に占められているせいでもあるが……
クルエクローキの言ったようにアルマリデルは己の敷いた秩序にのみ従う竜の異端だ。
気安い態度を取る理由はそれだけでもなさそうだが。
片方の眼でクロエクローキをしっかりと見つめると答える。
「…ティアテラの作った銀の車輪から振り落とされてね…来たくなかったんだけど」
「……なるほど。グレンデルヒの弟子か……」
クルエクローキは瞑目するように瞳を閉じた
「知ってるの?」
「我は此処から全ての時間を観察している…永劫線の終点と始点……時間の濫觴にして終着。
此処は全ての時間の集合からのみ辿り着けるどの時間でも無い場所。
時の最果てとも言うべき場所だからな……」」

107時間の迷子のはらぺこ竜:2007/06/17(日) 03:18:19

「そういえばそうだったわね。余は貴方にはあまり会いたくなかったけど…時の最果て……か」
アルマリデルはその言葉を噛む様にして繰り返した。
そしてクルエクローキの後ろにある巨大な銀色の扉に眼を向けた。
「銀の扉……この向こうには紀源錘だったわね。一度も見たことは無いけど」
「そうだな」
「……紀源槍に触れた者は紀人になる……
じゃあ紀源錘に触れた者はどうなるの?」
「教えられぬ。知っての通りこの世界は槍により支えられる世界……
その反概念の錘……何人たりとも、紀源錘に触れては成らない」
「そう。最果てに帰りたいんだけど……」
「……我が手を貸さずとも、お前の持つその石が導となるだろう」
「あ、これか」
アルマリデルは共時玉を取り出す。それがうっすらと輝いて居るのが分かった。
共時玉はもう一つの石と共鳴同期し引き合う性質を持っている不思議な宝石だ。
石から光が伸びて道を指し示す。
「余は帰るわ。ここには食べ物が無いもの」

108時間の迷子のはらぺこ竜:2007/06/17(日) 03:18:37
そこをクルエクローキは呼び止めた。
「待て……最後に一つ聞いて行け。単純な力は兎も角時間を弄ぶあの男がどれほど危険な者なのか…お前も竜なら分からないことはなかろう」
「…………」
「今はまだ…あの男は大した事を行っていない。揺らぎの許容範囲だ。只、引っ掻き回したに過ぎん。
だが何時か人の領分を越えた行いが出来る事に気が付くだろう……そしてそれをするときはきっと来るだろう……だから……」
「その前に消す…って言うつもり?
ティアテラが余の最後の晩餐に成るかどうかは…余が決める事。
……勝手な事はするんじゃないわよ……」
「………」
クルエクローキは黙ってアルマリデルの瞳を見つめる。
そしてアルマリデルも見据え返す。
「まあ、心配しなくてもそう酷い事にはならないわ。
貴方が思って思っている程ティアテラは危なくは無いわ。
奴はそんなに大それた事はしないと思う。
ティアテラは今までもこれからも余のために飯を作り余の飢えを満たす。
そうして日常は過ぎていくのよ、何時ものようにこれからもこの後も」
「それは…お前の願いでは無いのか?」
「……」
アルマリデルは無言で光の指す方向に歩き出す。
アルマリデルが居なくなった後、クルエクローキは小さなため息をつくと、再びまどろみ始める。

109時間の迷子のはらぺこ竜:2007/06/17(日) 03:19:04
ティアテラがアルマを探しに再び時間を越えようとした数刻後…
殆どタイムラグ無しでアルマリデルが宙から降ってきた。
ティアテラはびっくりしつつも、銀の車輪を置いてアルマの元に走りよった。
「アルマ!良かった!心配したんだぞ!」
「はあー。何かどっと疲れたわ。やな奴にも会っちゃったしね」
「嫌な奴?」
ティアテラは怪訝な顔をした。
「まあね……あんま関係ない事聞くけどさ、ティアテラはもし両親が居たら、しょっちゅう実家に帰りたいと思う?」
「いいや。俺は此処の生活が気に入っているからな」
「そうよねー」
うんうん、とアルマリデルは頷いた。
「んー。しかしどうやって永劫線から帰ってきたんだ?」
「まあまあ、細かいことはどうでも良いじゃない、カレー作ってよカレー」
「そうだな……ほっとしたら俺も腹が減ったしな」

110ティアテラと夢の中の不死蝶/1/3:2007/06/27(水) 23:40:32
砂漠の最果て。
今日はティアテラは日も高いのにベッドで寝ている
ちなみに悪夢にうなされてた。
「うーんうーん……助けてー!」
夢の状況を簡潔に説明しよう。
アルマの色々な所がでかくなっちゃった。
「というか主に全長500フィーテになったアルマが町や人や神様をモグモグしてるー!
やめなさい雲は綿菓子じゃありません!
止めてー!ドルネスタンルフは飴玉じゃない!
ペレケテンヌルの上半分だけが食われてる…アポロチョコのつもりか貴様ー!
セラティスはまだか!誰かあのはらぺこ娘を止めてくれ!
これこそ天地を喰らうっていうか世界を喰らうものというかワールドイーター?
あ、アルセスが咀嚼された。まあ良いやアルセスだし。そんな腹黒食ったら腹壊すよー」
そんな風にアルマリデルに向って叫んでいると、誰かにぽん、と肩を叩かれた。
「此処に居たんですねティアテラさん」
振り返ってみると見たことも無い女の子が立っていた。
年の頃は16かその辺り。黒一色のドレスに白の髪をツインテールにしている。
ポニー教とツインテール教の血で血を洗う論争は紀憶に新しいが今はそんなことはどうでも良い。
眼はつり眼だ。可愛いとは思うけどストライクゾーンじゃないなあ。
需要の多そうなと言うかもてそうな女の子だとはおもったけど。

111ティアテラと夢の中の不死蝶/2/3:2007/06/27(水) 23:41:15
「誰ですかあんた?」
「私はこういうものです」
長方形に切った紙に名前が書いてある。
「各種草の栽培およびクランテルトエルスの販売、暗殺、何時もにこにこ現金即決、その他諸々裏仕事請け負います……
ペイント・イット・ブラックプラック公司代表取締役レナリア・オルガナ……」
「まあそんな感じです」
「おだやかじゃないね」
「はいー」
「で、そのレナリアさんが何の用?何ら接点を見つけ出せないんだけど?」
「何をとぼけているんですか……名もなき 地下世界の 暗黒大帝 の指令を受けたでしょう?」
「なにその電波!ちょっとエリアワードちっくだよ!」
「まあそれは嘘です。でも貴方のような時間の迷い子がいるのなら……」
レナリアは少し溜めて言葉を紡ぐ。
「夢の迷い子が居ても不思議じゃないでしょう?」
「・・・・・・・どういうことだ?」
「言葉通りです。この世界にはひょっとしてまだまだ迷い子が居るのかもしれません…神話に語られず残らない迷い子達が」
「ちょっと詳しい話を聞かせてくれ、その話凄く続きが気になる!」
「でもまあそんなことどうでも良いです。本題に入りましょう」
「人の話を聞け!というか本題?」

112ティアテラと夢の中の不死蝶/3/3:2007/06/27(水) 23:42:34
いぶかしむティアテラを尻目にレナリアは淡々と自分のペースで話を進める。
「貴方はこれから全身を納豆に包んであの怪獣に抱きついてもらいます」
レナリアは今もモグモグしているアルマを指差した。
「というかちょっと待てそれが本題かよなにその罰ゲーム!?なにその納豆プレイ!俺そんなのやだよ!何で!」
「いえー。だって未成年の犯罪は保護者が責任を負うものじゃないですか」
「それは分かるが……何で抱きつくんのかが意味わからねえー!!」
「抱きつかれたら気持ち悪いじゃないですか」
「そんなのどういう意味があるんだよ!」
「意味があって意味が無いのが夢じゃないですか」
ティアテラは何故か屈強なマッチョマンに羽交い絞めにされる
「待て、止めろ!放せ!放せ〜!!!」
「また機会があったら夢で会いましょう」
バイバイといった感じで無表情に手を振るレナリア。
「何このカオス!もう滅茶苦茶だ〜!」
その時、ティアテラは鈍痛を覚え、目を覚ました。
「……って、夢か…風呂異土先生も爆笑だっぜ」
ティアテラは起きるとふと何気なく外を見る。
庭の花に一匹の黒い蝶が止まっていた。
「オルガナ…不死蝶か……神話の一説で紀神を助けた礼に不死をもらったと伝えられる蝶……
メギンジェルと対とされたりする夢と再生のシンボル……
年老いて力尽きてもその中からまた幼虫が生まれてくるとされる……
幼生→脱皮→羽化→成体→老体→死に体→幼生→脱皮→をエンドレスで繰り返す蝶か……」
それを一瞥すると、ティアテラは顔を洗おうとのろのろと起き上がった。
今日もまた、平穏無事に最果てでは時間が過ぎていく………

113UG774:2007/07/07(土) 02:34:27
今回はちょっとだけダークなお話です。

114ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:36:04
「ふう・・・・・・畑仕事もしんどい・・・」
ティアテラは一仕事終えると、石碑の前に座って一休みしていた。
「流石に徹夜で読書は堪えるなあ・・・・・・ぐー・・・」
疲れが彼に忍び寄り、ティアテラは何時の間にかうとうとと眠りに落ちていた。
そして気が付けば、奇妙な所に居た。
「あれ・・・?」
いや、良く知っている場所なのだがあるべきものがない。
無窮の青空、寂莫たる砂漠はいつも目にしているもの。
だがそこには自分の家もなく、畑も森もオアシスもない。
有るのは、キュトスの石碑のみ。
「これは夢か?」
ザリッ、と砂を踏む音に振り返ると、白い髪に黒い服の少女が居た。
「やあティアテラまたあったわね」
「チェンジ!」
にこやかに挨拶する少女にティアテラは皮肉で返す。
「ちょ、チェンジじゃねーよwwわたしゃリクシャマーの風俗嬢じゃないww」
苦笑しつつサラリと受け流すレナリアも只者ではない。
「レナリアか…御呼びじゃない帰れ。人の夢に勝手に入ってくるな」
「……折角来た人に対してそれは酷いなあ…
まあ確かにあの時は悪かったわねー。つい見てる夢がカオスだったから悪乗りしちゃった。でも夢の旅だって危険が一杯なのよ?」
「・・・・・・そうは見えないがな」

115ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:36:30
「いやー。夢の中で死ぬと私マジでしんじゃうし……貴方の時間の旅と同じように危険なのよ?」
「………なぜ、そんなことを知っている?」
レナリアは驚いた、と言う顔でティアテラを見る。
「あなた……迷い子(まよいご)の定めを知らないの?」
「なんのことだかさっぱりわからん」
「はあ……言理の迷い子の言っていた事は本当だったのね……
時間の迷い子は初めての時間跳躍の時、永劫線の影響でかつての記憶全てを失った…ってのは」
「……ふーん」
「あら反応薄いわね」
「何となくそんな気はしていたからな…だが今の生活が気に入っているからな」
「言理の迷子曰く…永劫線に挑んだ死霊使いガルズは人格崩壊を起こしてノエレッテに殺されているらしいしね……
永劫線に当てられて正気や記憶を失うのは珍しい事態じゃないみたい」
「………で、『まよいご』とはなんだ?正直どうでも良い。俺の平穏な生活を邪魔しないでくれるとありがたいんだが」
「ふふっ、時間転移しては色々な時代を引っ掻き回す貴方が言えたセリフ?」
「早く本題に入ったらどうだ?」
「……迷い子ってのはね。目的地にたどり着けないから迷子。そしてその終着駅とは…
まあ、これは伏せておきましょうか」
「いや、伏せるなよ」
「知ればきっと後悔するわよ……」
「じゃ、やめとく」
「あっさり!?」
「だって興味ないし」
「くっ……厄介な性格してるわねえ……こほん、でもそんなこと言ってられないわよティアテラ」

116ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:36:53
咳払いをするとレナリアは真面目な顔でティアテラを睨む。
「……永遠の平穏はこの世界ではありえない……ってわからない?
永遠を望む……それは人間なら当たり前のことだわ……
貴方なら土を耕し、時に時空を旅し、友人と楽しい食事をする以上の事は望まないように……
私だって美術品を集めたり眺めたり……夢の中で遊ぶ事以外は望んでいないわ。
でも・・・何時までも自分達だけが平穏を享受するというわけには行かないみたい……
貴方は論理記述で時を越えている、と思っているみたいだけどその論理記述は通常の魔術が出来る範疇を超えているわ。
論理としては一応成立するけど余りにも無茶すぎるのよ。普通の人間なら起動用の魔力が用意できる術式じゃない。
技術、と言うよりは道具を媒介に発動する迷い子に埋めこまれた・・・・・・能力」
その眼光の鋭さにティアテラもたじろぐ。
「すっげー不吉な予感がする……」
「そしてその代償たる迷い子の定めは……蟲毒…いえ、壮絶な貧乏くじの押し付け合い」
「……独りぼっち、ってことじゃねえな。蟲を瓶に詰めてその怨念を呪殺に使用する禁止術式のほうか」
「まあ、そんな感じ。重苦しいのは嫌いなんだけどね……
話は変わるけどティアテラはこの石碑の謂れを知ってる?ちなみにこの槍と空と大地しかない夢は石碑が見ている夢なの。
レナリアはキュトスを忌む石碑を指差す。

117ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:38:26
夢…ティアテラの夢ではなく、キュトスの石碑が見る夢の世界。
その景色は、無窮の青空から暮れなずむ夕陽へと、その姿を変えようとしている。
「いや」
「これはアルセスがキュトスを殺したとき、外れた石突だといわれているわ」
「そうなのか」
「それに人間が字を彫り込んだものらしいけど・・・ああ、この黒曜石の黒に刀剣の鋭いフォルム…
秀逸なデザインしてるわよねー」
キラキラとした眼でうっとりとレナリアは石碑を見つめた。
「デザインはどーでもいいが俺はこの文の無意味さが気に入っているけどな」
「ちっ、これだから芸術や物の本当の価値を知らない奴は」
「そりゃどうも」
「ほめてないわよ……そうだ……そうね…」
「あ?」
何かを思いついた、というか決めかねていた何かを決めたレナリアの瞳が剣呑な物を帯びた。
そして、顔を俯かせると意を決したように尋ねる。
「貴方は今幸せ?」
「まあな。好きに時間を旅したりアルマに飯食わせたり納豆や遺物の研究したりする生活は幸せだな」
深く、言葉をかみ締めるようにレナリアは頷いた。
ギリ、と奥歯を噛む音が聞こえた。
「そう……この石碑、くれない?代わりに、良いもの上げるからさ」
レナリアがゆっくりと両手を後ろ手にまわした。
「どうやってこんな物もって帰るんだよ、ってかいいものってなんだよ」
訝しげに問うたティアテラに顔を上げたレナリアが答えた。
その瞳に宿るのは、混じりけのない、殺意。
「それはね。永久(とこしえ)の安息よ」
レナリアが両手をティアテラに向ける。
その両手は鋭い鉤爪の付いた手甲に覆われ、魔道銃が握られていた。
その言葉が終わると同時に、爆音とともに銃弾が叩き込まれる。
弾に仕込まれた術式が開放され爆炎が舞い上がる。

118ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:38:53
「何のつもりだ」
完全な不意打ちであったが、ティアテラは辛くも論理記述による防壁を展開して防ぐ。
両手には拡大化させたリンケドラッへとレヒテカッツエが握られている。
レナリアが謳うように言葉を紡ぐ。
「幸福に生きることは世界で一番良いこと……
そして、二番目に良いことは幸福の最中で死ぬ事……
依頼は受けていないけど……貴方に夢見る事なき永遠の黒き眠りをあげる事に決めたわ。
貴方はこれ以上何も知らないままのほうが…幸せだと思うから」
ティアテラもレナリアを見返す。
「その眼は本気だな…確かに死は夢を見ない眠りに似ているかな。。
…夢の世界で殺されるとお前が死ぬといっていたが…それは相手にも適応されるんだろう」
「察しがいいわね。具体的には精神の死ね。現実世界で一生目覚めないから衰弱死する事に成るわね」
「お断りだね。俺の師匠が言っていた……夢は寝ている間に見るもんじゃない、とな。
ましてや死後に望みを託す物でもない。起きている間に不可能を可能にし、果てしなく知の探求を行い現実で望みを叶えるべきだとな…
現実が悪夢なら俺は限り有る時間を使って穏やかな時を創る為に戦うだけさ!
レナリア・オルガナ!俺の死ぬ『時間』は俺が決めさせてもらう!」
ティアテラはリンケドラッへをレナリアに突きつけて、言い放った。
「……此処から先は言葉は要らないわ。
さあ、ティアテラ!ハザーリャの代わりに迎えに来たわ!
貴方をこれから訪れる『現実』という悪夢から開放してあげる!」
レナリアは微笑を浮かべ、両手を広げて答えた。
広げた手から弾切れとなった魔道銃が音を立て地に落ちた。
それが、戦いの合図だった。

119ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:39:45
夢の中を蝶が舞う。
対象を速やかに冥府へ送る告死の蝶が優雅に舞う。
二つに分かれた白い髪が風を流れる。
黒いドレスをなびかせて、腰に付けられた大きな黒いリボンの端がたおやかに踊る。
死の舞踏の相手をしているティアテラはたまった者ではなかったが。
(うはー!!やばいこいつガチの暗殺者だよ!)
「―処式・飛障小柄―」
ティアテラの眼を狙った軌道のナイフが投げられる。
論理記述の重力反転で上空に打ち上げようとするがナイフに蒼い雷が走るだけで何も起きない。
(あのナイフ対抗論理記述式が刻まれてやがる!)
そのナイフに危機を感じたティアテラは仕方なく弾くと同時に飛びのいた。
ナイフが爆裂し、辺りに嫌な色の粉をばら撒く
(加えて目潰しと毒かよ…えげつねえー!!)
距離を取りながら相手の傾向と対策を分析していくティアテラ。
(夢だからって何でも有りな訳じゃねえな……使える技も、結構現実に即してやがる)
この前のようなお遊びとは雰囲気がまるで違う。
(それは幸いだけどリアリティが高い夢っつーことは…これはマジにやられたら不味いな)
レナリアはひらリひらりと舞うように牽制攻撃を交わす。
(あの動き……まるで舞だな。身体能力強化と動きに緩急をつけるための浮遊・移動系統術……)
ひらりと舞っていたかと思うと、鋭い爪の一撃が的確に急所を狙ってくる。
論理記述で防御するが爪が軽く頬を凪いで、三筋の血が流れる。
(そして攻撃手段は魔法に対する対抗措置を練りこんだ武具による暗殺術!…これは厄介だな!)

120ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:39:58
「――除式・管切二連――」
頚動脈を狙った凶爪での二連撃を辛くも交わす。
「惨式・臓腑抉」
抉りこむように臓物を掻き出そうとする凶爪の一撃が来た。
衣服に軽い切れ込みがはいった。
防御障壁を易々と抜けてくるのが怖すぎる。
なんとかレヒテカッツエで捌いて、重力反転の術式を放つが
レナリアひらりと空中で一回転すると、爪でさくりと浮遊効果を切り裂いて脱出する。
(そして何よりこいつには付け入る余地がねえうえ相性が悪い!魔法を潰して確実に殺しに来てる!
武術の腕では向こうの方が上で弾いて辛く交わすのが精一杯だしよ……)
こちらの攻撃は当たらないのに相手の攻撃はじわじわと自分に傷をつけてくる。
「死式・血染浮雲」
ヒット&アウェイの爪による乱舞を二本の武器で受けきる。
リンケドラッへとレヒテカッツエのシールドを強めて振りかぶられたニ爪を受け止める。
金属をこする様な嫌な音が障壁と爪の間で響き、消しきれなかった衝撃が蒼い火花となって輝く。
音は俺の防御障壁記述と爪に刻まれた対抗記述がせめぎ合う音だ。
触れれば届きそうな距離。色気は皆無だが。
レナリアが感嘆した様に呟いた。

121ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:40:27
                                        アサルト・アーツ
「やっるー……磨き上げられた魔法って芸術ねえ……消すのが勿体無いくらい。私の『急襲する芸術』と良い勝負かも」
「技と芸術を掛けてるのかよ…それにしちゃわらえねえ…」
ティアテラは脂汗と一緒に苦笑いを浮かべた。
「……私の芸術はなかなか理解されないけどね……」
レナリアは無理矢理に障壁の中に右手甲を捻じ込む。
障壁と二槍に阻まれ
この体制と位置ではとても急所には届かない。
だがレナリアはお構いなしに言葉を紡ぐ。
まるで防御障壁を通すのが目的といわんばかりに
「……坂本はかくかたりき――」
ティアテラに悪寒が走る。
レナリアの手甲の爪部分ではなく、手の甲に位置する部位が防御障壁の火花を受けて黒煙を上げている。
(焦げる火薬の匂い!ヤバイ!これは色々と不味い!ネタ的にも!どこぞの白い魔王なら天地魔闘で何とか出来るだろうけど俺には無理!)
「芸術は、爆発だぁあー!!悟式!微塵徹掌――!」
鈍い爆発音と爆炎と煙が、辺りを包む。
レナリアはチリチリと燃える右爪や手甲の刺がなくなった右手甲を振って火を消す。
「即死だけは避けたか……とっさに交わして破片による殺傷のダメージを軽減するとは……戦いなれてるねえ……」

122ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:41:03
「げほっ……知るか……体が勝手に動くんだよ……」
血反吐を拭うとよろよろとティアテラは立ち上がった。
そして、リンケドラッへを短くして短刀の長さに。
反対にレヒテカッツエを長刀の長さにする…
「何のつもり!?」
レナリアが驚いたように叫んだ
「まだ未完成で実験中の論理記述だ……どうなっても、しらんぞ」
ティアテラは自らの腕時計を眺めた後奇妙な構えを取る。
右拳と左拳の位置が極端に近い。そして剣の向きは相手に向うのではなく横に向いている。
そして、時計の時刻と見比べつつ、構えを修正する。
それはまるで、時計塔のような構えであった。
言い知れぬ悪寒を感じたレナリアが記述の完成を阻止する為に駆ける。
そして、、左爪を振り上げてティアテラの首を刎ねに行く。
ティアテラは無防備ともいえる。一点を凝視し、何かに集中しきっている。
その手が振り下ろされ……
「とった!!」
レナリアは気が付いていなかった。
ティアテラの目線は腕時計だけに注がれ、構えは時計とシンクロさせる為だけに正確に刻まれていた事を。
そして呟きと同時に、ティアテラは腕の動きを止めた。
「裏理記述―――時計刀――クロノグリフ」
全ての時間が凍りついた。
レナリアの爪が、ティアテラの喉元1リーデの処で止まっている。
爪だけではない。
レナリアも、背景も、全てが止まっている。
レナリアは跳躍したままの姿勢で浮いたまま固っている。
「……………」
少し考えた後。
ティアテラは構えを崩さぬままスルリと右に動くと……
構えを解いてリンケドラッへでレナリアの左爪を叩き割り
レヒテカッツエの柄をレナリアの腹部に叩き込んだ。

123ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:41:25
レナリアは地面に倒れ付していた……
「何…が……起きたの……」
「…………」
「あり……えない…防御も回避も不可能なタイミングで……あんな位置に移動するなんて……」
「一か八かだったがギリギリ…間に合ったよ」
「…止めを刺しなよ」
「俺は殺すのも殺されるのも嫌なんだよ・・・・・・なんでお前暗殺者なんかやってんだよ」
「あ……はは……私はこんなお人よしに負けたのか……
は……は……そういえば父さんもお人よしだったわね………
まあこっちにも……色々と事情がねー……私のフルネームは、レナリア・ヴュ・オルガナ。
わたし元はリクシャマーの貴族だったんだけど七つのときに父さんがゼダ家の陰謀で謀反の疑いが掛けられてね・・・・・・
オルガナ家は美術や貿易を担う貴族だったの。
父さんはね、色んな所から絵や壷やら魔法の本を集めるのが好きだった……私も絵を描くのが好きだった……
でも……貿易でお金が集まって…美術を通じて人の輪が広がるに連れて……全ては変わったわ。
父さんはお金が入るのを美術品がもっと集められるな、人の輪が広がるのは美術の理解者が増えるって純粋に喜んでいたのに…
他の貴族はそうは思わなかった……
オルガナ家の資金力と人脈を恐れた貴族達によって……
父さんと母さんは殺されてね……
何とか逃げ出した私はリクシャマーのスラムに独りぼっち・・・…」

124ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:41:46
周りの背景が変わっていく……
暗い裏路地、何処かのスラム。
襲われる少女。
下卑た男は気が付かなかったが。
無我夢中で振り回した手には…小さなナイフが握られていた。
振り回したナイフが男の首筋に刺さり、抜ける。
男の首から紅い噴水が吹き上がり、倒れ伏すとそれきり動かなくなる。
少女は乱されかけた着衣を戻すと呆けた顔でナイフを拾い呟いた。
白い髪が赤い、白かった衣服も赤い。
父さん、母さん、赤い絵の具だよ……
父さん、母さん、もどってきてよ……
虚ろな表情で、着衣を血で汚しながら壁に血で絵を書くレナリア
ティアテラは気が付いた、これはレナリアの悪夢だ。

(こええええええええ!!!!これはトラウマ物だわ…悪夢より酷い現実だなこりゃ)
「ふふ……ストリートチルドレンが生きる為には身体を売るか盗みに手を染めるか・・・・・・
どっちもやだーって路地裏で座り込んでいたら・・・・・・・・・
おっさんに襲われそうになってさー……あぶないとこだったけど…
気付いたら・・・・・・そいつの頚動脈を掻っ捌いていたわ。
家から唯一持ち出せた絵画用の小さなナイフで…父さんの形見だったんだけど……
それが私の始まり。力に目覚めたのもそのころ。
後はもう転がるよーにねぇー・・・・・・殺して盗む事を覚え・・・・・・
殺すことに馴れたころ・・・犯罪組織に拾われてねー。気が付いたら若頭になって美術品を集めてたわー。
それから私に目的が出来た。…父さんと母さんを殺した貴族に復讐して散逸した美術品の全てを取り戻す。
失った時間を取り戻そうとして……時間は勝手に流れてくのにねえ……」
「お前辛い人生送ってるんだな・・・・・・」
「同情はいらないわ……ああ、依頼も受けずに仕事をしようとするもんじゃないわねー」
「………」
「私は記憶もないのに幸せそうなあんたが憎かっただけかもねぇ………」
「でも……俺はあんたの悪夢が醒める事を俺は祈ってるぜ」
「私の負けねぇ……帰る」
「ああ、じゃあな」
あたりの風景がぼやけていく。

125ティアテラと黒き夢謳う告死蝶:2007/07/07(土) 02:43:28
「ティアテラー!!」
「ん?」
アルマの声で眼が覚めた。
「よかったー!何時までも起きないから心配したじゃない」
「そうか……」
「ティアテラ、泣いてるの?」
「………悪い夢を、見てた」
「そう……」
「何か作るよ、ちょっと待っていてくれ」
「………うん」
最果ての黒い夜空には、何時ものように綺麗な星と月が輝いている。
ティアテラは、未だに醒めない悪夢の中を生きる少女の夢が早く醒めるように祈ると
食事を作りに家へと戻っていった……

126ルスクォミーズの百夜物語・第七十七夜:2007/07/11(水) 02:32:09
あるいはティアテラが報酬を受け取った儀について

オルガナ・レナリアは暇を持て余していた。
最近では依頼も来ない。
黒い寝台に体を横たえて寝ようとするがどうにも寝付けない。
仕方なく、テーブルの上から本を取り、
本を広げてしおりを外す
「此処からだったかな」
―ルスクォミーズの百夜物語・第七十七夜。
「ルスクォミーズと滅茶苦茶な魔道師……か」

127ルスクォミーズの百夜物語・第七十七夜:2007/07/11(水) 02:32:41
―まだルスクォミーズが亜大陸を旅し、人に害成す悪魔や怪異、眷属を倒して旅をしている時の事でした。
大陸の南東の海沿いには、人を海に引きずり込む海魔が、
竜の巣の南の南、大陸の南の果てには人食い竜が居ると言う噂を聞きます。
南の果ての方が彼女からは近かったのでとりあえずそこに向う事にしました。
南の果ての町に訪れると、そこは人の石像が数多く立ち並ぶ町でした。
情報を集めると、その竜は時たまふらりと現れ
街の食料を食い散らかしたりするそうです。
街に立ち並ぶ石像は、竜の邪魔をして石に変えられた人間達のようです。
数百年の間に何度か討伐隊は出されたのですが誰一人かえって来ません。
街の人達は諦めつつも数百年も過ぎるうちこの竜の対処に慣れたようで
竜が食料を食っている間に、物陰から目に向って毒矢を射ることで今まで何十年、何百年も追い払ってきたとの事です。
そしてその竜が住処としているオアシスの近くにはひとりの変な魔道師が住んでいるといいます。
その魔道師は特に街に害成すことは無いですが、竜と同じく何百年も前からこの街では目撃報告が有るといいます。

128ルスクォミーズの百夜物語・第七十七夜:2007/07/11(水) 02:32:59
ルクスォミーズが歩を進め、砂漠を越えて人食い竜の住処とされるオアシスに近付きます。
処が奇妙な事に、オアシスに近付くごと脚が鉛のように重くなり喉に綿を詰められたかのように息切れがします。
凄まじく強力な魔女避けの守りが、ルスクォミューズの行く手を阻んでいるのです。
そしてついには一歩も進めなくなりました。
にっちもさっちも行かなくなったそこに魔道師が現れました。
魔道師は事情を聞くと
「竜は友達だから退治するのは止めてくれ。
人食いや石像の事は何とかして見せよう。
この竜の代わりに他の化け物を倒す手伝いをし、君に良い物を上げよう。それでどうだ?」
嫌だといったら?というルクスォミーズに魔道師は余裕綽々で答えました。
「その選択肢はオススメしない。
その時はお前が魔女だとばらすだけだ。長いことあの石碑は無意味だと思っていたが
実際に魔女の侵入を防ぐ時に機能して初めて本物だと分かった。
この結界が正常に動くと言う事はそういうことだからな。
それに竜の巣は結界の中。どう足掻いてもお前は竜を殺せないし街から追われる事と成るわけだ
それだったら代わりの品を貰い俺が化け物退治の手伝いをした方が絶対に良いと思うがどうだ?
人間嫌いの俺が人のために動く事など滅多にないことだしな…支度をするからまっててくれ」
ルクスォミーズは渋々その条件を飲みました。

129ルスクォミーズの百夜物語・第七十七夜:2007/07/11(水) 02:33:18
「竜はもう人食いは止めるってさ」
「ほんとうにか?」
「今は人より十分美味い物を見つけたとさ」
ルスクォミーズと変な魔道師は海岸沿いに東に向かいました。
変な魔道師は食べてばかりの女の子を連れていました。
こんなので本当に役に立つのかと、ルクスォミーズは頭を抱えました。
海岸沿いの東の町では、上半身は美しい人間の女ですが
下半身は魚を統べる眷属の海魔セイルレネが猟師達を美しい歌声で惑わし、
次々に海の底に引きずり込んでは喰らっているそうです。
そしてその時海が血によって真っ赤に染まると言うのです。
街には、夫や家族を奪われた女の嘆きが木霊していました。
魔道師は相変わらずなに考えているか分かりませんし
女の子の方は食べてばかり。
「戦う前から相手の特徴が割れているなら勝ったも同然だ」
魔道師は随分自信たっぷりです。
根拠のなさそうな自信に頭を痛めながらルクスォミーズは地元の老人から一層の小船を借り
三人は港から沖に向って漕ぎ出しました……

130ルスクォミーズの百夜物語・第七十七夜:2007/07/11(水) 02:33:35
程なく漕ぎ出すと、海にはにわかに怪しい霧が立ち込め
海上に顔を出す者が現れ始めました。セイルレネです。
ルクスォミーズは剣を構えて言い放ちます。
「恨みは無いが、人に害成す貴様等には死んでもらう」
魔道師はクルクルと納豆をかき混ぜながら答えます。
「よ。あいつ風に言うと……あんたらにとこしえの安息をもってきたよ」
少女は指をくわえセイルレネや魔道師の納豆を見て呟きます。
「おなかすいた」
たちまちセイルレネから失笑が上がり、そしてその顔が怒りの色に染まります。
「ふ、あはははははっ!今まで何百と言う大人の勇者や魔道師がやってきたが
皆我等の歌声の虜となって自ら海に飛び込んだ!
よしんば歌に耐えられても息継ぎをしないと死ぬ人間が海の中の戦いで我等にかなう訳がない!
それがたかが魔術師一人に女が一人に子供が一人!
舐めきっているのも大概にしろ!
お前らも海の藻屑に沈めてやる!」
そしてセイルレネ達は声をそろえて謳い始めました。

131ルスクォミーズの百夜物語・第七十七夜:2007/07/11(水) 02:33:50
「それは今までの奴等が腕力や魔力で物事を解決できると思ってる大馬鹿か脳筋だけだったんだろ?」
魔道師はそう呟いたまま納豆を練っています。
ルスクォミーズも女の子も動きません。
「何故だ!」
セイルレネ達が驚愕に満ちた声を放ちます。
唇を読んで魔道師が答えます。
「みみせん」
「そんな耳栓ごときで……」
「只の耳栓じゃねえよ。紀納豆に音声系催眠魔法に対する対抗術式をぶち込んだ特製だ。
――ちと粘つくのが欠点だがね」
「たかが耳栓で何時までも私達の歌を拒みきれると思うな!」
金切り声を上げて怒りをあらわにしたセイルレネはさらに高らかに声を上げて歌を強めます。
しかし、三人とも落ち着き払っています。
「…よし。予測通り。あらかじめ船に身体を縛っておいて正解だった」
魔道師は少女に手を振って合図します。
「――歌え」
その時この世ならない酷い歌が海に響き渡りました。
ボエエ、ともゴエエ、とも付かない、凄まじい音痴の歌が。
他の人間が聞いたら多分聞くものを発狂させるカタルマリーナの歌と言うでしょう。
ルスクォミーズはもう何が何だか。
セイルレネ達も負けずに歌います。

132ルスクォミーズの百夜物語・第七十七夜:2007/07/11(水) 02:34:02
その光景を眺めていた魔道師は満足そうに頷きます
「よし!俺のターン!」
耳を押さえながらルスクォミーズは問いかけます。
「一体何をするつもりなの?」
「……俺はまともに戦う気は全く無いぜ?…今からやるのは、漁だ」
魔道師は手にした納豆を海にばら撒きます。
その一瞬の後、閃光と轟音、そして高く上がる水柱。
「まずはオーソドックスな納豆手榴弾漁法」
全然オーソドックスじゃない!
――めちゃくちゃだ。
ルクスォミーズはそう思いました。
「続いてガチンコ漁法」
魔道師が納豆をかき混ぜていた棒を振ります。
詳細に見れば、それは小さな二本の杖でした。
タクトのように二本の杖を振ると、海の底から巨岩が持ち上がります。
そしてそれを、思い切り岩礁に叩きつけます。
地響きが広がり、衝撃波が海を伝わります。
事此処にいたってようやく目の前の三人が驚異の敵だと認識したセイルレネの一団が直接小船を沈め、三人を殺そうと泳いできます。
「そして最後に――」
セイルレネの爪が魔道師と貫こうとした時、ルクスォミーズの剣がそれを腕ごと叩き落しました。
その時、セイルレネの誰が気が付いたでしょう。

133ルスクォミーズの百夜物語・第七十七夜:2007/07/11(水) 02:34:39
魔道師の二本の杖が蒼い電弧を纏っていた事に。
「ビリ漁法」
海全体が、一瞬輝きました。
高圧電流を喰らったセイルレネは残らず失神しプカリと海に浮かぶ羽目になりました。
「…げ、外道……」
ルクスォミーズは耳から納豆を掻き出しながらそう呟かずにはいられませんでした。
容赦なく眷属を狩っていたルクスォミーズですが……
此処まで反則的な戦い方をする滅茶苦茶な魔法使いなど見たことありませんでした。
「さあ、後はしとめるだけだぜ?早くしないと麻痺が解ける。俺殺しは嫌いだからあんたやってくれよ。
めんどくさいから手柄も全部あんたので良い」
「さかな!さかな!」
女の子は魔道師の所為でセイルレネごと浮き上がってきた魚を取ってご満悦です。
後は至極簡単な物で、海に浮いているセイルレネ達にルスクォミーズが止めを刺しました。
陸に上がった時、魔道師と女の子は小船に山盛りの魚とともに既に姿を消していました。
そこにはただ魔道師が約束した香辛料と醤油が置いて有るだけです。
「………」
暫くした後、魔道師と出会った場所に金貨の詰まった袋が捨てられていたそうです。
「旅に邪魔になるので置いていきます」
と書かれた書置きを残して。


読み終わったオルガナは呟いた。
「……名前出てないけど、この魔道師って絶対あいつじゃん」
ルスクォミーズの百夜物語七十七夜目・了

134バキスタの戦いで板金鎧が一兵卒まで揃った理由・裏:2007/07/12(木) 23:06:28
レナリアは一仕事終えてトントンポロロンズをつまみに一杯やっていた。
あー。どうもー。マグドールさんじゃないですか。
こんな場末の酒場に来てていいんですか?
俺は元々農民だ、ですかい。
あははは、こりゃいいや。人の運命なんて物はわからないもんですからねえ
元農民の貴方はいまや貴族。
わたしゃ貴族から裏街道まっしぐらの暗殺者とくりゃあ…
ホント、人の世は紙風船、一幕の悪夢といったかんじですねー
酒の一杯もあおりたくなりますよー
あ、仕事はちゃんとやってますよ。
対立商会の人はちゃんとバラしときましたから。
へー。戦争でプレートメールが大量に要りそうだけど、
需要は沢山有るけど職人の手製だから時間が掛かって満足に数が揃わなくて困ってるんですか。
商売の愚痴は置いといて酒のつまみに何か面白い話をしてくれ…ですって?
……参ったなあ。私は口下手のうえ暗殺と美術、それに夢を見る以外にはとんと能の無い女でして。
でもお世話になってるマグドールさんの頼みじゃ断れませんよねー。
オルガナはカクテルを煽った。

135バキスタの戦いで板金鎧が一兵卒まで揃った理由・裏:2007/07/12(木) 23:07:15
夢……あ、そうだ。マグドールさんの悩み解決できるかもです。
そんなにせっつかないでくださいよ。
いえね、此処だけの話、私は人の夢に忍び込む事が出来るんですよ。
その中には遥か未来の夢や大昔の夢を見る事が出来る奴が居るんですよ……
遠い未来の職人が横一列に並んで、動く台座から流れてくる妙な品物を組み立てている光景とか……
その夢とさっきのマグドールさんの話を聞いてい繋がりました。
……それって熟練した職人が一人で全部やろうとするからそんなに時間が掛かっちゃうんじゃないですか。
全部一人でやろうとするから間違ってるんですよ。
一人で全部作ろうとしたらそりゃー時間掛かりますよ。
例えば……作業を細かく分けちゃうんです。
鉄板を曲げる人、肩当を作る人、鋲を打つ人、組み立てる人……
作業を細かくすればそれだけ簡単になりますよね?
それだけ極めちゃえば良いんですから。
流れ作業で次の人に渡していけばいいんですよ。
で熟練工一人に払う給料を四等分なり五等分する。
一般の兵士に回そうとするならそんな上質な物要らないじゃないですか。
で、熟練工は将兵用の上質な鎧作れば全く問題ないじゃないですか。

136バキスタの戦いで板金鎧が一兵卒まで揃った理由・裏:2007/07/12(木) 23:08:52
それだー!!!なんておおげさな……
面白かったですか?そりゃよかった。
え、私は恋人がいるのかって?
居るわけ無いじゃないですか。
私男運ないんですよ。
裏街道に身を落としてから性格ねじくれちゃって。
特技が暗殺。で、日がな一日美術品を眺めて黒いベッドで夢を見る事だけが楽しみなんて女に恋人なんて居ませんよ。
頭空っぽの男は寄って来るんですけどそういう人は二爪の練習台にすることにしてますから。
……笑って済ませるんですか。流石に大商人でこの国の裏のボスですねー。
……貴方も女運なかったんですかー。何か親近感湧きますね。
あーあー泣かないでくださいよ。
将来性が無いから、って理由で婚約を妨害されるとか酷すぎますねー。
なんなら、格安で殺ってきましょうか?
美術品じゃなくて、美術品を買う費用の半分の金でも別に構わないですよー

(了)

137言理の妖精語りて曰く、:2007/07/21(土) 02:48:47
ある日ティアテラが森を歩いていると、妙な人間に出くわした。
全身をスズメバチに刺されながら、蜂の巣を執拗にベロベロ嘗め回しているのだ。
蜂たちはパニックを起こしたように、ヒステリックにそいつを刺し続けていた。
そいつの全身は赤とか黄色とか紫とか、色とりどりに腫れ上がり、
痛々しくてとても見ていられなかった。
「あの、何をなさっているのです?」ティアテラはきいた。
「ベロベロベロベロベロ!」そいつは答えた。
「……そうですか……そうですね……」ティアテラは納得した。
「ペロペロペロペロ!」そいつは、蜂蜜の味に飽きたのか、今度は、
てきとうな蜂をパクンと咥え、嘗め回していた。舌を繰り返し刺されて
いるのがわかった。
「あなたの名前は?」ティアテラは尋ねた。
 こいつはそろそろ死ぬだろうし、目の前で死なれたなら、墓の一つも
作ってやらねば夢見が悪い。そして墓標には名前がいる、と思ったのだ。
「デメリオトバト」とそいつは答えた。
 ティアテラは、まるでリストラを宣告されたか、家が家事で焼けたと
知らされたもののように、愕然とした。宇宙をいくつも作っては滅ぼした
馬鹿が、目の前にいる。こいつが何をやらかすかは、神のみぞ知るだ──
 そう思った時、
「う〜ん」と言って、デメリオトバトはばたりと倒れ、地面に伸びた。
ティアテラはそろそろと近づき、呼吸を確かめた。
 微妙に息をしているようだったが、ティアテラは気のせいだ、気のせいに違いないと
自分に言い聞かせ、墓穴を掘り、そのなかにデメリオトバトを埋めた。
「やすらかに眠れ」
 そして家に帰ってロイヤルミルクティーを啜った。
 やがて夜を迎え、ベッドに臥したとき、ティアテラは、天井に蜘蛛のように
張り付いてじっとこちらを見つめているデメリオトバトに気づいた。
デメリオトバトは、ティアテラの顔をめがけてよだれを垂らした。ティアテラは逃げ出した。

138リクシャマーの日々:2007/08/18(土) 01:27:02
リクシャマー帝国首都のリグアレス通り。
小奇麗で上品な建物が立ち並ぶその通りの一角にとある事務所が有る。
マグドール商会系列・ペイント・イットプラックブラック公司
表向きはマクドール商会の単なる染物や衣服の問屋だが
実は此処、七つの売春宿、四つの賭場、三つの酒の密造所
二つのカナビス(規制薬物や草)のルートの資金を管理するオフィスでも有る。
そして下部暴力組織を統括する事務所でもある。
その中の一室。様々な美術品で飾られた部屋の中で
せっせと書き物をしている女性が居る。
白いツインテールと、大きな蝶のようなリボンが付いた服が特徴的な彼女は
名をレナリア・ヴュ・オルガナと言う。
「あー。しんどい……表帳簿と裏帳簿の刷り合わせがこんなにしんどいとは……」
レナリア・ヴュ・オルガナは忙しい。
最初は卓越した暗殺者として大物の始末を請け負ったりしていたのだが
彼女が単なる暗殺者の才だけではなく想像以上に使える人材である事を理解したマクドールが新しく
下部組織の纏め役や表の仕事のあるマグドールの名代として他の組織との折衝役。
会計の管理など、若頭としての仕事も任せるようになったからである。
「最近はマジで忙しい…」
「姐さん、デキムの奴が草の売り上げを持って逃げたようです」
「はあ……今そっちまで手が廻らないー。捜索人員の編成は任せるわ。
多分山沿いを抜けてセイルムの扉を目指すはずだから
扉で高飛びされる前に…見つけ出してアーテス川に沈めといてー」
「へい」

139言理の妖精語りて曰く、:2007/08/18(土) 22:36:48
レナリアは過労で倒れそうだな。最果てで気ままに暮らしているティアテラ
とは対照的だ。

140言理の妖精語りて曰く、:2007/08/18(土) 22:46:12
対照的にしたいんだろ。

141リクシャマー・イン・ザ・ダーク・1:2007/09/19(水) 15:29:53
――幽月の昇る深夜、リクシャマー帝国。
途轍もなく、巨大で豪奢な屋敷の中を一人の男性が歩いている。
ステッキを持った、紳士然とした洒落物の初老の男性だ。
渋いヒゲを蓄え、いぶし銀の魅力漂わせる顔。
飴色のステッキも、胸ポケットに入れられている金の懐中時計も。
着ている高価そうなスーツも、良い趣味のネクタイからカフスに到るまで。
どれも並々ならぬ一級品である風格を漂わせていた。
ただ、白髪の混じったオールバックの髪の毛。
見る限り普通の髪の毛だが魔術に詳しいものなら髪の毛に
巧妙に偽装されているが「高度幻影」「完全接着」「質感」etcetc…のエンチャントが掛かっている事に気付くはずだ。
正し彼の前でそれを口に出した物は即座にこの世から退場する事になる。

142リクシャマー・イン・ザ・ダーク・2:2007/09/19(水) 15:30:26

彼こそがリクシャマー帝国の豪商にして財務大臣にして裏世界のドンであるマクドールである。
マグドールの表向きの顔は貧しい小作農から史上空前の商業組織を作った豪商になり、
そこからさらにリクシャマー帝国財務大臣と言う領地を持つ貴族にまでのし上がった男である。
その裏の顔はリクシャマーに君臨する闇社会のボスである。
緋毛の高価な絨毯を踏みしめ、廊下を歩いて部屋の前で立ち止まる。
「ようこそ、お待ちしておりました」
レナリア・オルガナに呼び出されたマグドール・ドゥ・ギボンは驚愕に目を見開いていた。
レナリアとの真夜中のお茶会自体は珍しいことではない。
マクドールが抱える暴力組織をナンバー2として束ねる若頭である暗殺者集団の長でもあるレナリア・オルガナ。
彼女から茶会で裏世界の近況報告を受けたり、抹殺対象など告げたりするのが通例となる。
驚いたのはその格好だ。
何時もの鎖が編みこまれた黒装束ではない。
(メイド服!?)
「コホン……屋敷に賊が入り込んでおりまして……その時に少し。
変えの服がなくサイズの合う衣装をお借りしたのですが……」
戸惑いと言うか落ち着かなさげにレナリアは視線を彷徨わせた。
「そ、そうか……似合っているぞ」
「ありがとうございます。さ、こちらへどうぞ。お茶の用意は出来ています」
「………………これからはその格好で来てくれ」
「は、はあ……分かりました」
なんだか二人の間にちょっぴり気まずい空気が流れた。

143リクシャマー・イン・ザ・ダーク・3:2007/09/19(水) 15:31:29
入った部屋の中は薄暗かった。
「薄暗いな……夜目が効くお前はともかく……これでは茶器も良く見えぬ」
「今回は趣向を少し変えております。さあ、テーブルへどうぞ」
レナリアがイスを引いてマクドールは腰掛けた。
マッチを擦って暖炉に放り込むと、仄かに火が上がる。
暖炉には既に釜が掛けられている。
「……リクシャマーの水は少し土地の塩分が強いので十二賢者山脈から雪解け水を持ってこさせました」
「ほう……」
先に用意しておいたお湯でカップとポットを暖めて置くことも忘れない。
温めたポットに茶葉を入れ沸騰したてのお湯を注ぎ、すぐにフタをして蒸らす。
紅茶の芳醇な香が室内に充ちてゆく。
蒸らし終わったら、 ポットの中を、スプーンで軽くひとまぜ。
そこで一端所作を止め、一言呟いた。
「少し、失礼しますね」
右手の指を軽く弾き、乾いた音が室内に響いた。
それを合図に一部分のカーテンが開き、天井に星が映し出される。
魔道具に指を弾いたら起動するようにセットしておいたのだろう。
「天球儀……!そうか、この部屋の暗さはそのための……!」
マグドールが感嘆したように声を上げた。

144リクシャマー・イン・ザ・ダーク・4:2007/09/19(水) 15:31:59
レナリアは茶濾しで茶ガラを濾しながら、濃さが均一になるように回し注ぐ。
何時の間にかカーテンが開いており、そこから差し込む月光がテーブルを照らしている。
白地に金の装飾をされた優雅なカップとポットがはっきりと浮かび上がる。
そして紅茶を注ぐレナリアの白磁のような手によって行われる、一切の無駄の無い所作。
それが月明かりと星明りに照らされ、より鮮やかに見える。
告ぎ終わったカップを丁寧にマクドールに渡す。
「どうぞ」
マクドールはそれを口に運んだ後、ふう、と感嘆のため息をついた。
「……見事な手前だ。紅茶の味、香、温度、演出。どれをとっても申し分ない」
「ありがとうございます」
「お陰で心から寛げたよ」
それはマグドールの心からの本心だった。

145リクシャマー・イン・ザ・ダーク・5:2007/09/19(水) 15:32:23
「此処には私のあり方を込めてみたつもりです」
「有り方、とは?」
レナリアは瞑目すると語り始めた。
「……私は美しい物が好きです。
宝石、小物、服、アクセサリーは言うに及ばず……
茶碗、陶器、絵画、陶芸、彫刻……幾人も、幾人も殺して集めました」
「………お前には辛いことを強いてしまったな」
「いえ、いいんです、全ては私が望み、私が行ったことです」
「…………」
二人の間に沈黙の帳が落ちる。
「でも、いつのころからか集めた美が虚しく、重たくなってきました。
当然ですよね……美術品に篭った思い出の残滓を幾ら掻き集めても、時は戻らないんですから……
はっきりと自覚したのはティアテラを殺せなかった時でしょうか。
彼が強いのもありましたけど、無限の時間に苦痛を感じることなく、時の流れに身を任せ
日々を、ささやかな幸福を、ただ在るが如く過す在り方……」
「………」
「眩しくてどうしようもなく綺麗で……あの平穏な日常と言う美を私はどうしても認めることが出来なかった……
やっぱり、暗殺者は依頼されて殺さなきゃダメですよねー……」
苦笑しながら語るレナリアに、マクドールの心は、戦慄の予感を感じ取った。
このまま彼女が消えてしまいそうなそんな錯覚。
俺は果たしてレナリアをどう思っていたのだろう。
初めは信用していなかった。品物で寝返り何時その卓越した腕を自分に向けるか分からない。
だが、たわいも無い話を交わしたり、その意外な商才に感心したり……
凄く有能な娘だと分かってからは自らの裏の仕事を任せるようになった……
そして彼女は忠実にそれに答えてくれた。
そして、入れてくれる紅茶を飲むと、裏世界のボスであることも、財務大臣で有ることも忘れ
只のマグドールに帰れた。今はもういない母が入れてくれた、
出がらしで滅茶苦茶薄い茶とちっとも甘くない一粒菓子を思い出した。
いつか語ったレナリアの言葉が思い出される。

146リクシャマー・イン・ザ・ダーク・6:2007/09/19(水) 15:33:23
マグドールに過去の記憶が去来する。
あれは酒場の時だった。
(――あー。どうもー。マグドールさんじゃないですか――)
(――こんな場末の酒場に来てていいんですか――?)
(――俺は元々農民だ、ですかい――)
(――あははは、こりゃいいや。人の運命なんて物はわからないもんですからねえ――)
いつかの茶会の記憶だ――
(――お茶会って、もてなす人ともてなされる人しかいないんです――)
(――そこでは何の飾りも衒いもない素朴な美の世界なんですよ――)
(――私が暗殺者だと言うことも、貴方が財務大臣だと言うことも忘れて――ただお茶が美味しい)
(――それだけあれば別に凝った茶器とか要らないんですよ、あ、無論お茶の葉とか水は美味しい方が素敵ですけど)
(ああっ、でもやっぱり坂本の彫刻を眺めながらお茶とかマジ最高!ごめんなさいやっぱり私物欲捨てきれません!)
《正直で、サバサバしててこの上なく有能で、敵には容赦が無くて凄く頼りになった。
綺麗な物には目が無いところはそれはそれで女らしい可愛げがあって、でも何処か寂しげで――》
そういって笑った彼女を覚えている。
その通りだった。
ただただほっとしたり、まったりできた。

147リクシャマー・イン・ザ・ダーク・7:2007/09/19(水) 15:36:32
レナリアは、悟りを開いた聖者のような穏やかな表情で語り始めた。
「この部屋は暗い部屋は私の心。私の魂。いかな美でも拭いきれぬ血まみれ漆黒の魂魄」
「でも、最近気がついたんです」
「何が、だ?」
「坂本は言いました。花火は消えるから美しい――花は散るから美しい――
二度と戻らないからこそ美は美としてありそれをいとおしむ心が生まれる」
「ちょっとまて――」
レナリアは突然咳き込んだ。白いハンカチに、一滴の紅が落ちる。
「お前……どうして!今までどうして黙っていた!」
「あれ、言ってませんでしたっけ?私、病気というか呪われてるんです。
私に永遠の黒と静寂、ハザーリャの跫音が聞こえるようになってから殊更に美が綺麗に見えます。
いえ、この世界そのものが、ですかね。黒い私の魂を清めてくれるかのように。
詫びの境地ってやつですかねー……多分私はゲヘナ行きですが後悔は無いです、綺麗な物にも会えましたし、お茶会も堪能しました」
レナリアは勤めて平静に、淡々と語る。
マグドールはそれどころではない、感情の波が荒れ狂っている。
「呪い……だと!?」
「紀元錘の呪い……迷子の定めらしいです…強大な異能と引き換えに……
上位三名は永劫を彷徨い、下位六名は体を蝕まれる……
力を使うたびに命の蝋燭を燃やす……夢の中で会ったウィアドは三十まで生きられるかどうかって言っていました。
でも多分もっと短いです。三桁は力を使って殺してきましたから」
「何とかならないのか!?何か知っていることを話してくれ!」
マグドールは狼狽し、懇願するように問い詰めた。

148リクシャマー・イン・ザ・ダーク・8:2007/09/19(水) 15:37:08
レナリアもそれに答えた。
「……呪いを解く方法は唯一つ。当代に存在する残りの『魔人』八人を殺すこと。
今のところ判明している当代の迷子は五人。
迷空「アエル」
名前しか分からない空の迷子……空を渡り歩く女の子と言うことしか分からない。
迷語「瞑=ウィアド・ウィジランディエ」
竜神信仰の巫女に取り憑いた当代の言理の迷子にて、迷子たちの争いを観察する悪性言語にして最悪の言理の妖精……
迷時……「ティアテラ」
私が殺そうとした男……最果てに住まい銀の車輪で永劫を行く時の旅人……
迷威……迷子の中でも最大の戦闘力を誇るまさに魔人。
メクセトがそうだったと言われてるけど今の魔人は分かりませんねー。
迷機「グレンデルヒ」
本人も気付かぬ迷子……機械の天才……異能は知力と才能が増大するだけ……。
自身の肉体のみの戦闘力でいえば全迷子中最弱だけどそのぶん肉体負担やペナルティがかなり軽いらしいですねー
迷精、迷歪、迷熱もわかんないです。
最後に私。迷夢「レナリア」
夢の中で人を殺す暗殺屋です」
マグドールは押し黙って何も言わない。
「でももういいんです。無関係な人を殺してまで生き延びようとは思いません。
半数は何処にいるのかも分からないですし。
私は、このまま暗殺者として運命を受け入れるつもりです。人殺しの運命としてはまあ上等な部類でしょう」

149リクシャマー・イン・ザ・ダーク・9:2007/09/19(水) 15:37:35
「…………」
何か言わなくてはならない。
それでも言葉にならない。
何を行ったら良いのか分からない。
喉の奥が熱い。
全身が凍えるように冷たいのに
はらわたに鉛を詰められたように重い。
それでも言葉は出てこない。
「あ、最後になりましたけど、お仕事は最後まで続けるつもりです。
どんどん使ってやってください。どうせハザーリャの迎えが繰るなら最後まで誰かの役に立っていたいんです。
止めたりしないから安心してください。お金も美術品も要らないですよー
今の私には、世界で生きる時間がそのまま大きな美術品ですよー」
「…………」
「あ、まだ書類残ってますから、そろそろ行きます。風邪引かないでくださいねマグドールさん」

150リクシャマー・イン・ザ・ダーク・10(終):2007/09/19(水) 15:38:18
行くな、と言う呟きは風に消された。
今まで座っていた椅子に腰掛ける。
紅茶の素晴らしい香だけは、今もポットとカップに温もりと一緒に残っている。
マグドールはカップをぎゅっと握った。
なんだか、これを手放したら自分の魂の半身まで手放してしまう気がして――
風が、鳴いた。
窓の隙間から、風が鳴く。
それはさながら、歯の隙間から押し出したような嘲笑に似ていた。
嘲笑は、風の囁きはやがて歌となる。
『ハンプティ・ダンプティが 塀の上』
『ハンプティ・ダンプティが おっこちた』
『王様の馬みんなと 王様の家来みんなでも』
『ハンプティを元には 戻せない』
猫の国の歌を歌うは言理の悪魔。
『今まで私の心を埋めていた物、失って初めて気付いた』
「やめろ……!言うな!!!」
『やることは?もう既に分かっているんだろう?』
「私に何をさせる気だ?」
『……別に?ただ迷子を殺すのは迷子自身でなくても良いってことを教えてやりたくてさ』
(ただ俺はエアルが生まれてアルセスの世界が終ればそれで良いのだからな――)
『良いことを教えてやろう……安らぎは紀源槍より高く金を積んだとしても、決して買えはしない』

マグドールは、力なく立ち上がると、カップを握ったまま、部屋を後にした。
風は身勝手に吹き付ける。
『迷子の定めからは逃げられないよ、逃がさない。迷わずに逃げるものには死有るのみ』
『のろいは たしかに はじまったのだから』
何時の間にか、窓が静かに閉じ、後には静寂だけが残った。

151アルセミラの魔導王:2007/11/14(水) 19:07:46
―――最果て。
「お腹すいたなあ」
「またお前はそれか……」
今日も今日とて、最果てでは何時もの日常が繰り広げられていた。
「たまには王様みたいなご馳走を、山ほど食いたいなあ」
「無茶を言うなよ……」
ティアテラは今日は政治学や歴史の本を読んでいる。
統治や支配に関する書物についてもだ。
「ティアテラが王様ならなあ……ねえ、王様になってみてよ
そんでもって余に腹いっぱいのご馳走を食わせてくれるの」
「お前なあ……俺がそんなめんどくさい事するわけ……」
だが、ティアテラはふと思った。

152アルセミラの魔導王:2007/11/14(水) 19:08:14

歴史の書を見ても、政治の書を見ても、それは醜く愚かなものばかり。
まともな統治など殆どされたためしが無い。
だが、自らが一国を統治する、「支配実験」を行えたら楽しいかもしれない。
いや、自らが作る国がどんな物なのか……知りたくなった。
そしてふと飛来する過去の記憶。
(そうだ。仁の国、華の国を作るんだ…父さんとは違うやり方で……)
――鈍い頭痛。
その痛みに顔をしかめて、思考を中断する。
そして呟く
「……そういう、『実験』もたまには面白いかもしれん」
「今度は何を思いついたのかしら?」
「どうせ俺は悪い魔法使いだ…暇だしこういう趣向も、悪くない」
「おおー。今度は何をやらかすの?」
アルマリデルの顔にも少しワクワクした表情が浮かび上がった。
「国盗りさ。お前にもちょっと手伝ってもらうぞ…歴史に残らぬのなら……問題ない」

153アルセミラの魔導王:2007/11/14(水) 19:08:49
……二人は銀の車輪で過去に飛んだ。
新たな統治者を待ち望む国を探す為に。
そしてそれは程なく見つかった。
「これはひどい」
それがアルマリデルの第一声だった。
たどり着くと直食べ物を探しに駆け出した。
その国は国民が圧政であえいでいた。
重税、戦乱、疫病……何処に行っても民達の苦しむ声が広がっている。
「最果てが天国に見えるな……これだから人間は嫌いだ」
ティアテラは吐き捨てるように呟いた。
実際………最果てはかなりの高環境なのだが。
戦乱もない。
疫病もない。
キュトスの姉妹の被害もない。
そもそも二人だけなのだから法律も税もないのだから。

154アルセミラの魔導王:2007/11/14(水) 19:14:54

「……それでも人は群れずには生きれない」
ティアテラがそう呟いてため息を吐いた。
ほどなくアルマリデルがガックリと落胆するように帰ってきた。
「あー。ダメダメ。市にもろくな野菜も果物も肉もありゃしない。クズ野菜にクズ肉に……」
「美味い物は全部王族貴族の元に行ってるから当然だな……」
「あー!腹立つわねー。余に食べられる為の食べ物も無い!人間は皆ガリガリにやせ細ってまずそうだしさー!
食べ物を独り占めして良いのはこの余だけなのよ!これは食を守護する紀竜に対する大冒涜だわ!」
「お前の怒りは相変わらず良く分からん……が、これなら実験にちょうど良い」
「……ほほう」
「三ヶ月でこの国を落とす。時間がない。
政治の腐敗で国力ががた落ちしてる。今立て直さないと程なく他国に飲まれる」
「で、具体的にどーすんのよ?」
「レジスタンスを組織して国の食料庫と武器庫を占拠する……
今までに覚えた、学んだ全て……戦術、戦略、魔術……
一度全てをフル活用して見たかったんだよな」

――これが、歴史に沈んだ華の国アルセミラの始まりだった。

155言理の妖精語りて曰く、:2007/12/10(月) 01:20:51


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<<妖精は口を噤んだ>>

157言理の妖精語りて曰く、:2008/07/01(火) 02:42:43
ずっとずっと昔―遠い遠い砂漠の果てで。
アルマリデル「…誰も居ないねえ」
ティアテラ「俺たちは時間に置いていかれたからなあ…」
アルマリデル「他がどれだけ変わっても、此処は変わらないね」
ティアテラ「ああ」
アルマリデル「お腹すいた」
ティアテラ「ああ、何か作ろうか」
アルマリデル「肉料理お願い」
ティアテラ「変わらないということは、良い事なのかもな
砂漠鳥のスペアリブでも作ろうか…」
アルマリデル「うん。時に取り残され、世界と歴史と記述がどれだけ狂っても
此処は変わらない…人に忘れられた砂漠の果て。
歴史から失われた永劫線の水底。
キュトスに嫌われた記元槍の石突の欠片の元で…」

158言理の妖精語りて曰く、:2008/07/01(火) 19:19:13
最後のバカップルと共に永劫の時間を生き延びた砂漠鳥たちが、実に不満げに二人を見ています。
嗚呼、【錆びた車輪】の言に嘘はなかった。人は言葉を放たぬものをけして他者とはみなさない。

・・・男の方はまだ火の始末をしているというのに、もうモモ肉に噛りついている。
せめて「いただきます」ぐらい言え、この大食娘め。

159言理の妖精語りて曰く、:2008/10/01(水) 18:51:40
「あまりにも錯綜した物を好む物は迷妄に陥る。
錯綜を知り迷妄を知り
理学は更なる飛躍を遂げる…とわが師匠は語る。
あの人は混沌の中で今も知識を追い求めているのか」
「ここって凄い勢いで言理は増えるけれど、
そこに統一や秩序は見えないものねえ。
どうでも良い言理ばかり増やしていないで
もちょっと良い記述は無いものかしら。
言葉は食べられないけど
余は新しい調理法とか食材を見つけてくれたほうが嬉しいな」
今日も最果ては平和です。

160言理の妖精語りて曰く、:2018/08/08(水) 14:22:12
アクヒサル
『ヨハネの黙示録』1章 11には七教会の所在地の一つ (テアテラ) と
呼ばれていたトルコ西部の都市。黙示録の七教会の四番目
【ティアティラにあてた手紙】ヨハネの黙示録2章18節
わたしは、あなたのわざと、あなたの愛と信仰と奉仕と忍耐とを知っている。
また、あなたの後のわざが、初めのよりもまさっていることを知っている。
しかし、あなたに対して責むべきことがある。
あなたは、あの女を、そのなすがままにさせている


【テッラ・デラ・ベリタ(真実の国)】
キュトスの姉妹の六十三番目
ガルディエーラ=千代・山田の浄界。

言語支配者テララ
言語支配者。言語魔術師デルゴの研究成果をもとに
CUTOS-ss(Contemporal Unification Through Over Synapse synchronizing sphere)
【シナプス同調空間横断即時思考伝達装置】によって
思考ネットワークを完成させた。
情報を用いる、という点においての言語の扱いに特に長けており、
圧縮言語や秘密言語の開発に大きな成果を残している。

【銀輪の椅子】
ぎんりんのいす。しろがねのわのこしかけ
距離でなく経過を得る装置とされる。
重心に取り付けられた椅子にまたがって、取っ手を握り、
両足を地からはなしてペダルを漕ぐ事で作動。
過去2回、【世界を滅亡に導いた発明品】。

161言理の妖精語りて曰く、:2018/08/26(日) 05:31:24
絶対言語

【紀元槍】はバベルの現象界への顕現である。
紀元槍の中枢には、母なる大バベルが在している。

もしも絶対言語によって嘘偽りなく相手と分かりあった結果として
「こいつと俺は絶対に相容れない存在だからここでぶち殺す」とか

「人の心の触れてはいけない部分に土足で踏み込んできた上
にドン引きするとか許せんぶち殺してやる」

【SSSバベルクラッシュ】

【絶対言語】とは拳で語り合うもの。
最後は、夕日の土手をバックにお互いに手をとり、友情を誓い合うのがセオリーとされている。
しかし、実力が均衡していないと通じない、大変危険な言葉でもあるのだった。

形あるナイフで人を刺せば血が流れ当たり所によっては死ぬように
形泣き言葉のナイフで魂を抉れば心が死ぬ事だってあるのだから。

162言理の妖精語りて曰く、:2018/08/26(日) 05:35:47
「なんでも口に入れてはいけない」
特に「しゅうえん」を食べてはならない。
「アルマリデルではなくなってしまうのだから」

クルエクローキが餓竜姫アルマリデルに発した警句。
ちなみに、子供や人に何かをやらせたいなら
それを禁止してしまう事が一番簡単なのかもしれない。

世界の終わりを齧るのを止めたのなら終わりが来るのは
論理的に正しい記述……


ブレイスヴァは、破壊神ではない。
かといって、創造神でもない。
「彼女」は、何も滅ぼさず、かといって創り出すという記述が無いからだ。
彼の者について考えるには、あまりに時間が足りない。
ブレイスヴァについて考え尽くす前に、
全てはブレイスヴァに食われてしまうからだ。

163言理の妖精語りて曰く、:2018/08/26(日) 05:37:38
リーデによると、世界の終末においてキュトスが復活を果たしたことで、
フラベウファはアルセスに捨てられ、世界の果てで一人絶望し続けるという。

世界の初めに紀元槍を持った、古き神アルセスが存在したのと同じように、
世界の終わりには紀元錘を持った、新しき神オーが存在しているだろう。
エアル・バクスチュアル・オー
【振り子のエアル】
紀元槍に触れたグレンテルヒを叩き潰そうとした。

グレンテルヒと弟子
グレンテルヒ問題の解決に、彼が時間を超えた時間旅行/放浪/漂流者
となったという仮説を持ち出すのは能く在る事である
其の仮説の中には、他に、時間旅行者となったのはグレンテルヒの弟子の
一人で、グレンテルヒではないという仮説や、グレンテルヒも其の弟子も
時間放浪者となったというもの、更に、其の「グレンテルヒの弟子」は、
グレンテルヒを探して彷徨っているというもの等が在り、
極端なものでは、グレンテルヒは時間漂流の果て、
其の人生の終焉に此の世界の終わりを見るだの、其の時に、
グレンテルヒと其の弟子は最初で最後の再会を果たすだの、
其の再会の後、弟子だけが再び時間を飛び、生き延びるといった説が在る。

164世界の更新・ティアテラの悪夢:2018/08/26(日) 06:09:30
「よろしい…よろしい…じつに…よろしい!」
あの偉大なる錬金術師は、砂の上に血溜まりと共に倒れ付す。
「時よ止まれ!!お前はいかにも美しい!!」
「師匠?」

ティアテラの呟きは風に溶けた。
虫食いの記憶がその弟子にシシシと囁く。
あの錬金術師は偉大なるグレンデルヒ。

世界は常に不安定なカオス(ゆらぎ)の中にある。
そのため、世界を安定させる平衡器が必要になったのだが、
グレンテルヒは、その平衡器アルセシリアが何らかの事態により破損、破壊された時のために修復する道具である。

(しかし、世界修復の為の道具が破壊された時のことは想定していたのだろうか?)

パンゲオンからヨンドヴァナラウンドへ。

パンゲオンが滅び、槍のタングラムの開始とエアル・バクスチュアル・オーの出現によって新生する来世。
悲劇に終わりはない
この繰り返しに果てはない?
六兆五千三百のループ。ループしても未来が良くなるとは限らない。
ティアテラは夢見た。言葉のナイフが全ての憎しみを断ち切る事を。
思わず時間が全てを解決してくれることを祈った。時間に祈る事なかれ。

これは終焉ではない、それは世界の更新だ。新生する。進化する。
蛹が羽化する。雨が降る。虹。海は天にあり、雲と星と月と太陽が
ひっきりなしに飛び交う。逆転した時間と黄昏と暁と夜空は地球の側を
回遊する。泥と塵の堆積したヨンドヴァナラウンドが割れた大地の狭間より
光と共に現れた。此方の槍が作り出した世界に彼方の錘が遣ってきた。錘を持つ神は何も語らずただ見守るのみ。

165グレンデルヒを待ちながら:2018/08/26(日) 07:09:09
「俺達は悔い改めたらどうだろう?」
「生まれた事を?」
そう言われたティアテラは笑うに笑えない。
ティアテラは今にもグレンデルヒがやってくると必死で引き留める。
腹が減ったというアルマリデルにポケットから
二十日大根を取りだして与えると、人参がいいと言うので
今度はちびた人参を与える。
アルマリデルは人参を口にしながらようやく思い出したように……
「そいつに、縛られているのかい?」と再びティアテラに問う。
彼女は気になっているらしい。
「冗談じゃない!」
ティアテラはむきになって言い返した。
「縛られているのじゃないか?」
「そんなことは、ない……」
という言葉の応酬がしばらく続いていると……
「グレンデルヒは何時来るんだ?」
「もう来てもいい筈だ」
「待ち合わせ場所は此処なんでしょうね?」
「本当に来るんだろうか?」
「ここだが、確かに来るといったわけではない」
「来なかったら?」
「また明日着てみるさ」
「きたんじゃないか?」
「いやあれは違う」
「もう行こう」
「ダメだよ」
「なぜ?」
「グレンデルヒを待つんだ」
「そう……」

166グレンデルヒを待ちながら:2018/08/26(日) 07:15:27
「ところで、やっこさんに何を頼んだの?」
「君もその場にいたじゃないか」
「気をつけていなかったわ、何か食べていたから……」
「つまり、別にはっきりしたことじゃない。まあ、一つの希望、漠然とした、嘆願のような……」

道を通っていった主人と奴隷はいつも懐中時計を気にしている。
「時間のことを言うのはよしてくれ!」
去り際にそんなことをいい、帰りには主人と奴隷は逆転していた。
二人は1本の木に気付く度に自殺を思いつき、冗談めかしてほのめかす。
しかしその木は、首吊りには堪えられないほど心細く……
ティアテラの持っている糸はあまりに細い。
その背後に隠れるには小ぶりすぎる。
「この木ときたら、なんの役にも立たない」
食えないことに腹を立てたアルマリデルが憤慨する。
「木だけが生きている」
新芽を認めてティアテラが呟く。

不意に「あのう――」という若い男の声が聞こえる。
続いておずおずと羊飼いの男の子が登場する。
「アクヒサルさんは?」というのでティアテラが
「自分だが、何の用だ」と応える。男の子が
「グレンデルヒさんが・・・・・・」と言って口ごもる。
アルマがが「何故こんなに遅くなったのか」と詰問するが
怖がって応えようとしない。「さっきからそこにいたんだろう」というと
どうやら主人と奴隷のやりとりが怖かったらしい。
「グレンデルヒさんが、今晩は来られないけど、明日には必ず行くからっていうようにって」と一気に少年が言う。
少年によると、グレンデルヒさんは、自分には優しいが、兄はぶたれる。
自分が不幸かどうかはわからないと語る。
「グレンデルヒさんには、私たちに会ったといいな」
「そうだろ。君は確かに私たちに会ったんだろう?」
頼りなく「ええ。」とうなづいて少年が立ち去る。
「じゃあ、行くか?」
「ええ、行こう。」
2人は動かない。沈黙。やがて、溶暗。

167spoiler effect:2018/08/26(日) 11:51:01
ウィアド、【空白のルーン】は
ウィアドには宿命という意味が強く含まれている。

しししっ、と歯の間から空気を押し出すような音を立てて笑う。
言理の迷子、呪いは確かに始まっていた
大陸の南端の最果て、地の果て、時の果て。
それは世界の終端といっても差し支えあるまい。
世界の終端で世界そのものを喰らい続けるモノ。

「ししししっ……ティッタンタッティンに目を抉られる前の
『両目の揃った』混沌のサーペント、魔眼竜バーガンディアには……
何か別の名前があったのかも知れないなぁ」

「ネコの国の言葉にしてみるといい……」
Burn ground ear  バーン グラウンデ ィア
Blaze bar     ブレイズ バー
Melt burns    メルトバーンズ
「鞄語で愛しき焦げた大地、焔の棒、熱で溶解し焦げるもの共……」
「……しししっ……皆炎と熱、何処かで聞いた音の連なりだと思わんかね」

168spoiler effect:2018/08/26(日) 11:52:38
「フォグラントの猫の変身した刀「ティッタン・タッティン」
メクセトが神との戦いを決意したとき、フォグラントは
「氷血のコルセスカ」を与えられ、参戦することになった。
しかし彼はこの戦いに反対であったので、
その証として「氷血のコルセスカ」を決して使用せず、
猫の変身した刀「ティッタン・タッティン」を使用した。
この戦いでメクセト王が倒れたあと、フォグラントは
残存戦力を統制して撤退戦を行い、自らはしんがりとなって戦死した。
かつて、メクセトが神々に挑み敗れた直後、
焔竜メルトバーズ、彼女は『真なる炎』の名を自らに冠し、この世の全てを手に入れんと、世界制服に乗り出した。
「メクセトが斃れたあと撤退戦をする有象無象ではなく、フォグラントの相手などメルトバーズ以外あるまいよ!」
「真なる炎の号を関する前の第八紀竜の真の名は?」
「ティッタンタッティンは何時魔眼竜バーガンディアの眼を抉った?」
「世界を焼き尽くさないよう人の形に凍っているだけか!?」
「時系列も因果もぐちゃぐちゃ 焔龍の卵なのか、転生なのか、抉られた目は何処に行った!?」
「シシシシシッ!俺にはあの腹ペコ竜が何処から来たのかとんと判断がつかんのよ!」

169spoiler effect:2018/08/26(日) 12:17:35
【創世竜】
王たる八竜に神たる一竜を加えた九頭の竜達は創生竜と呼ばれている。
この九頭の創世竜たちは竜騎士になれない。
何故なら、彼らは騎士ではなく騎士たちを束ねるものだからだ。

『シッシシシ……『餓竜姫』アルマリデルねぇ……竜騎士じゃなくて?』
『常識で考えると、『姫』なんて王の娘以外に使わなくねぇ……?』

【偽ワールドイーター】
五つの紀性を吸収した五重剋・塵芥屑切が千呪の死後、変貌した形。
その姿は、首の無い四足の獣。
本来のワールドイーターは【三足】であるが、千呪の骸を利用して産まれたため四足。

【竜騎士】
人型の竜。巨大な体躯を人間サイズにまで縮め、纏った鱗を鎧の装甲とする。
尻尾はあるものと無いものがいるが、ある者は武器に使ったり第三の手として使ったりと、自在に動かす事が出来る。

『シシシ……右足、左足、尻尾の『三足』……オラ嫌な予感してきたぞ!』

170言理の妖精語りて曰く、:2018/08/28(火) 08:53:43
(『人類』キュラギのアップデートパッチ)
「まあ、一つの希望、漠然とした、嘆願のような……」

ようこそ嘆きの円環へ
ここが輪廻の濫觴だ

ティアテラは、自らが立っている巨大時計の中心部を見たことは無かった。
初めて恐れと共に下を見た。
時の天心が【世界終末時計】である事に気がついた。
ミアスカの遺産。始まりの隠された一族の128人の忘れ形見。
世界の終末まで――あとわずか。
全ての記憶を取り戻せたが少し遅すぎたのかもしれない。

171言理の妖精語りて曰く、:2018/08/30(木) 05:54:30
『シシシ……【焔竜の卵】アルマリデルはワールドイーターじゃない?』
『矛盾している?キュトスこそがワールドイーターだって?』
『シッシシシ!!そうであるともいえるし、そうでないとも言えるな!』
『お前さんの時間なんかとっくにイカレているから分からなくもない』
『アルマリデルの抉られた目は何処に行った!?』

キュトスという神が世界を終末に導く【ワールドイーター】
であると考える学者も存在する。
ワールド・イーターとしてのキュトスが復活すれば、
世界は滅び、そしてまた新たに創世されるという。
世界の創世を終えたキュトスは「永き眠り=死」をむかえ、
ふたたびこの世界が滅びをむかえるそのときまで、
(アレッテ・イヴニル=ラプンシエル)
魔女たちの中で眠り続けているという……

172 spoiler effect:2018/08/30(木) 06:06:16
『シシシシシッ……お前さんも本当はわかっているんじゃないかね?』
『それが判っていて、古ミアスカ語で紀源槍の石突に』
『キュトスの姉妹おことわり、なんて記されているんだから』

『アルマリデルは目を失って距離感が狂っているから』
『終末を見つけて食べようとすることは決してない』
『絶えざる飢え……増大するエントロピーと』
『宇宙の熱的死をその胃袋に抱えていても……』
『失った片目がアレッテ・イヴニル=ラプンシエルである限り』
『ブレイズヴァともメルトバーズとも何の関係もない』
『繋がりはあっても他人だからな……シシッ……笑えねえよ』

173 spoiler effect:2018/08/30(木) 06:16:13
『だからお前は時間稼ぎをしているんだろう?』
『何もかも終わらせる未知なる末妹が来る前に』

『キュトスの最果ての妹。終わりの妹であり振り子、の担い手』
『未知なる末妹の名は「終末少女エアル」「魔法少女エアル』
『紀元錘の所持者、「振り子のエアル」「最後のオー」……』

『振り子のエアルは何れ終末を齧る竜を殺しに来る』
『128人の中で最も時間に精通した時間の達人が……』
『出来るのは世界の終末と再生を遅らせる果てしなき時間稼ぎだけで』
『時間が全てを解決してくれるように祈るのは皮肉しかねえよ……』

174 spoiler effect:2018/08/30(木) 06:29:49
『シシシッ……全く恐れ入るし頭が下がるよ』
『世界の滅亡が好きな奴はいねえ。一体いつからだ?一体何度やり直した?』
『テララ、累計これまで何兆年だ?』

『シシシッ……猫の国の黙示録を引用させてもらうぜ……
私は、あなたの技と、
あなたの愛と信仰と奉仕と忍耐とを知っている。
また、あなたの後の技が、初めのよりも勝っていることを知っている。
しかし、あなたに対して責むべきことがある。
あなたは、あの女を、そのなすがままにさせている』

ウィアドは笑い止めて言った。
『――殺せねえもんな、お前は本当は良い奴だ』
『嫌なんだろう、殺すのは、キュトスを殺すのも、竜を殺すのも』
『だからなすがままにさせるしかないし、回りくどい時間稼ぎしか出来ない』
『なるべく沢山の人が満足する違うルート、違う結末をずっと探し続けている』

175 spoiler effect:2018/08/30(木) 06:53:02
『最果てに住んでいるというのも意味深だな』
『ツルが来る前に、グレンデルヒが来る前に』
『フラベウファがこのあたりで絶望する前に』
『なんか上手い事ゆらいでいい感じの結果になるといいのにな』
『ここはタダの地の果て、砂漠の果て、大陸の最果てであって』
『あらゆる審判の行なわれる世界の真の最果てではありえない……』
『そんなふうに信じたい気持ちは判るがね……』
『それはあなたの決める事ではない、ってのが問題だよな』

176 spoiler effect:2018/08/30(木) 11:47:46
『――そもそも黙示録、アポカリプスという言葉そのものが――』
『「秘密の暴露」、またそれを記録したもの。と言う意味だ』
『大仰な言葉の大判ぶるまいだが……』
『まあ、要するに俗な言葉で言ってしまえば――』
『終末についてのスポイラー、ネタバレ本、ってことだな、シシッ……』
『なあ、時間の達人、黙示録の聖示にして隠者(セージ)』
『時間旅行者が知ってきた未来の情報は』
『過去の者にとっては預言者にも見えるんだろう?』
『ちょっと俺にも教えちゃくれないかい?』

177 spoiler effect:2018/08/30(木) 12:04:41
『生贄の子羊だけが封印を解くことができる』
『七つの災害が繰り返し起きる』
『ニガヨモギと言う星が落ちる……』
『レストロオセの紋章ってあたり碌な事にならなそうだな……』
『諸国民の家の大都市の滅亡と大淫婦が裁かれ』
『赤い竜(メルトバーズ)が自由の身となり』
『世界すべてが火の池に投げ込まれる』
『そして救世主(エアル)と新天地(ヨンドヴァナラウンド)が現れる』

『ゆらいでいるからこのとおりになるとは限らない、か』
『シシッ……ありがとよ、教えてくれて』
『こりゃちょっと色んな奴等に刺激が強過ぎらあ』

178 spoiler effect ・終章:2018/08/30(木) 12:47:29
『でも諦めるつもりはないんだろう?』
『運命に追いつかれたら時ですら逃げ出せない』
『だが何時だって可能性だけは残されている』
『神も、魔も、人も、竜も、猫も、だれも、みんな』
『なんかふわっといい感じに皆ある程度救われりゃ良いんだが……』
『ある猫の国の作品から引用してこのスポイラー効果を締めくくろう』
『世界を、騙せるといいな』
『確定した紀述、過去と未来を変えずに、結果を変えられるのならば……』
『望むまでループとやり直しは時間旅行の華だろう?』
『シシッ……俺は俺で頑張るつもりだ、友よ、健闘を祈る』

179言理の妖精語りて曰く、:2018/08/30(木) 15:24:51
『追伸、最期にこれから先』

文字は .notdefグリフを参照

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『シィッ……ト!!』
『……ああ!畜生文字が豆腐に!!』
本来此処には
グリフが存在しないことから、不正な文字が表示されることに……

グリフとは未定義文字を代替表示するための文字(いわゆる豆腐)

納豆は腐っているし、豆腐は箱に納めて作るから、
『豆腐』と『納豆』は漢字が逆だと思った貴方。
諸説あるが……
中国から輸入された際、木箱に『納豆』『豆腐』と張ってあった
紙が台風で剥がれたから適当に戻したら逆になった。
もともとは逆の漢字を使っていたのに(平安時代以降)
伝言ゲームみたいに、使っているうちに逆になった。

ゆらぎは誤謬と錯誤の連打である。

180いつか、瞑の生まれる前:2018/08/30(木) 15:48:12
「いけないなあ、人のご飯を取っちゃいけないんだ」
アルマリデルは笑顔だが目が全く笑っていない。
歯から空気を押し出すようなもう声は聞こえない。
「そんなことを吹き込んで、一回旅立ったら時はもう戻らないじゃない」
ティアテラの家の周りには……赤い石が一つと……
沢山のトントロポロロンズが転がっていた。
文字が邪眼を受けて石化するとこのようになるのだろうか。
「食べられないこの石は適当に理由をつけて売るとして……」
「竜神信教の人なら竜に纏わる物品なら買ってくれるかな?」
「それで黄色いケーキが食べたいなあ」
「……トントロポロロンズは食べよう、今日は冷奴だ」

「おいアルマ。今誰か……凄い恐怖と何か懐かしい友が来た気がするんだが……」
忘却の妖眼が怪しく煌いた……

「むーしゃむーしゃ……いや、私知らないよ」
「風の噂、エーラマーンの囁きじゃないかな」


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