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44くそ餓鬼:2015/09/30(水) 16:25:38
(P147〜)

進級

「先生、一上に上がりました」
 少年は興奮した表情でそう報告した。少年院の教育プログラムは、通常二級下、二級上、一級下、一級上と進級していく。通常の教育プログラムなら、一級上になってから三か月程度で退所となる。
もちろん降級もあり、重大な規律違反の場合、三級まで降格することもある。

 彼は事情が違っていた。彼の処遇は「相当長期」で、各段階で一年〜一年半の期間が設定されていた。あとから入ってきた生徒がどんどん進級し、退所準備に入るのを横目で眺めながら、彼は何も言わずに通常日課をこなしていた。

 これは、ほとんどの長期処遇の生徒に見られる態度だった。彼らは、自分が他の生徒と異なる処遇を受けている理由をよく理解している。そして、自分の期間について何も言う資格がないと感じていることも、長期処遇の子どもたちに共通している。
 たまに、「いつ退所になるのかなあ」と独り言のふりをした問いかけをすることはあっても、それは不満を述べるという言い方ではなかった。不思議なことに彼らは、在院期間についてだけは黙って受け入れるべきだと感じているようだった。

 施設の生活は長く、苦しい。自由がなく、朝起きる時間から夜寝る時間まで、分刻みで決められた生活、常に監視されている苦しさ、気の合わない同室者と二十四時間顔を合わせ、逃げ場のない生活。許されるなら、一日でもここに長居したくないと思うのが普通だ。

 児童自立支援施設は在院期間の目安がないため、さらに苦しい。比較的軽微な犯罪で施設送致になった者なら、入所措置に対して不満たらたらなのだ。

「早く帰りたいな。もういやです、こんなところ」
 窓越しにそう言って私に甘える他の生徒の言葉を、彼らは黙って聞いている。
 私たちは誰も、適正な処遇期間を知らない。完全な人間にしてから社会に返してほしいと言われたら、誰も死ぬまで社会に戻れないだろう。
多くの少年に、信頼をおける後ろ盾がないことも、社会復帰を難しくしている。

 彼らが社会復帰できる間に社会に返させてください――それが私たちの願いである。それは被害者や社会一般の感情とは異なるかもしれない。
それでも、少年たちはよくなる、その可塑性を私たちは信じ続けている。


(P236〜)

重大事件を犯した加害者が社会に出ていく覚悟は、軽微な犯罪の累犯者とは違うことを私たちは知っている。彼らは、多くの少年たちがひっきりなしに口にするような安易さで退所の時期を私たちに問うことはない。
聞いてはいけないと多くの少年が思っているように見える。よほど間近にならなければ、私たちも彼らに退所の目処を伝えることはない。
責任機関が最終的に仮退所を認めるまで、処遇している施設自体にも、その少年がいつ社会に戻れるのかわからないからだ。
 先が見えないことほど不安を駆り立てることはない。

「僕は本当は社会に戻れないんじゃないでしょうか。この独房にずっと閉じ込められ続けて、周りの少年たちはどんどん出ていって、職員も年ごとに異動して、気が付いてみると、
老人になった僕が誰からも忘れ去られてこの部屋に今と同じように座っている、そんな姿が見えてしまうんです」

 そんなことはない、あなたはちゃんと社会に戻っていくんだよ、そう伝える私に、彼は不安そうにうなずく。私の目にも、延々と退所が延びてこの暗い部屋の窓から廊下を眺めている彼の姿が見えるような気がする。
あなたはここから出ていくんだよ、私はもう一度、今度は自分に念押しをする。

「ここを退所したら何をしたい?」
 彼はしばらく考えてから言った。
「地面に寝転がって、塀や窓の格子で区切られていない青空を眺めてみたいです」
 私は彼らを知っている。彼らのこころの痛み、彼らの努力を知っている。目に見える格子がなくなっても、彼らはこころにしっかりと鉄格子をはめている。
「万一、重大事件の再犯があったとしたら、私たちは道義上の責任を負っています」
 私はそう断言するくらいの自負と責任は感じている。道義上の責任は、世の人々が「言葉だけだろう」というほど軽いものではないと私は考えている。


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