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文章鍛錬企画【同一プロット競作】5/15〜

26くろ:2004/06/04(金) 00:01
 大きなリビングルームには四人の女と小さな子供が一人居て、それぞれ好き勝手に、テレビを見たり雑誌を読んだり、子供のお絵書きの相手をしていたりした。
「おいみんな、今日から入る美里」
 寮長が言うと、四人の女たちは一斉に顔をあげてわたしの方を見た。ソファに座って雑誌を読んでいる女に見覚えがあった。
「本当はあと二人いるんだけど、今日は買い物に出てる。部屋は由香利の隣でいいね」
 雑誌を読んでいた女がうなずいた。由香利。一年前にここに居た時一緒に過ごした仲間だ。
「部屋に連れてってやって。美里、ゆっくり休んでからあたしんとこに来な」
 由香利は雑誌をラックにおさめるとわたしの先に立って二階の部屋に誘導した。
「ひさしぶり」「うん。由香利はあのあと出たんでしょ」「そう。で、一月前に戻ってきちゃったの。顔、ひどいじゃない」「まあね」「前の男が追ってきたわけ?」「そうじゃなくて、新しい男がまたさ」「ん……どうしてあたしらはそうなっちゃうかねえ」
 暴力をふるう男が悪い。それは揺るぎない事実だ。一方で不思議な、不可解な現象がある。わたしたちは暴力をふるう男といったん別れても、また同じような癖をもった男と出会ってしまう。その度にこの寮に逃げてきて、わたしたちは一命をとりとめる。それは決して大袈裟な話じゃなく、こういう場所を知らずについに殴り殺された女もいる。
「ここがふるさとになっちゃまずいんだけど」
 そう。ここはふるさとではない。ふるさとではないけれど、親類縁者にも見放されたわたしたちのことをいつでも迎えてくれる場所だった。わたしたちはあのぐるぐるまわる自動車道みたいに、もう見ることはないだろうと思っていた場所にまた帰ってきてしまう。
 机と椅子と備え付けのクローゼットがあるだけの質素な部屋はわたしを懐かしい気持ちにさせ、同時に、これまで耐えていた体の痛みと疲れを思い出させた。「氷でももってこようか?」と言う由香利に「ありがとう。大丈夫、自分でする」と言ってわたしは荷物を置き、由香利が部屋を出ていってから窓の外の景色を眺めた。窓からは遠目に海が見えた。サーファーたちはあの大波に乗ることができただろうか? わたしは窓辺に椅子を引き寄せ、そこに座ってしばらく海を見ていた。


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