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文章鍛錬企画【同一プロット競作】5/15〜

25くろ:2004/06/04(金) 00:00
このサイトでは最後の投稿かなあ。
みなさんの作品への感想は後日。

螺旋状の道行き (原稿用紙換算4.3枚)

 沖のほうで波を待っているサーファー達の姿を眺めながら、わたしはバスに揺られていた。一人、二人。すこし離れたところにもう一人いる。今の時期に海に出てきているのはよほどのフリークに違いない。まだ水が冷たいし、ついでに今日はすこし曇っている。 
 五分程走ってバスは大きなカーブにさしかかり、次第に海が見えなくなる。そしてしばらく雑草と、むき出しの岩肌に囲まれた景色が続き、そこを抜けるとまた海沿いに出る。さっきよりも高いところから見ると、サーファー達が待っている大波がもうすぐそこまで迫ってきているのがわかった。この、岩山をぐるぐると螺旋状に切り開いた自動車道の先に、わたしの目的地がある。バスは再び山地側に入り、わたしはバスの窓ガラスに写った自分の顔を見た。右目のまわりの皮膚が赤紫色に変色し、左の上唇が腫れてめくれあがっている。
 バスを降りて、高くめぐらされた塀の脇を少し歩き、見慣れた門の前で立ち止まった。インターホンのボタンを押す勇気がない。わたしは門を背にして煙草に火をつけた。
「美里かい?」
 誰がその言葉を発したのかわかっていたけれど、わたしは声のする方をちらっと見た。広大な庭の先にあるロッジのような建物のドアが開いて、花柄の割烹着を着た年輩の女がこちらの様子をうかがっている。寮長だ。わたしはすぐに顔を下に向けて、口の中が痛いのも気にせず煙草を吸った。あわせる顔がなかった。
 寮長はいったん建物の中に入り、門のロックが大きな音をたてて外れた。寮長は門に近い窓から顔を出して「入んな」と大きな声で言った。


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