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文章鍛錬企画【同一プロット競作】5/15〜

24にゃんこ:2004/06/03(木) 21:32
 男が近づくと猫は警戒心のない目を向けた。男はその猫をどこかで見たような気がした。ちくわを差し出すと、臆することなく食べ始めた。どこにでもいる虎猫なのだが、男が小学校の低学年の時に見た猫に似ていると思った。勉強をしていると教室によく入ってきた猫だ。その猫のことを白足袋と呼んでいた。虎猫で足のところが白かったから、白足袋と呼ばれていた。いま、目の前にいる猫も足が白である。似ている猫がいるものだ。
 男は猫と分かれると、自分が住んでいた鉄筋コンクリートの住宅に行った。昭和二十八年に建てられた五階の建物だ。中は無惨にも廃虚と化していた。窓は壊れ、畳は腐っていた。緑無き人工島といわれたのに、部屋の中にまで、雑草が茂っていた。壁には男が小学校の時に描いた、父の絵が張ってあった。現在の自分よりも若い父の姿である。色は抜け落ちていたが、まだ、見られるものであった。壁から、はがして持ち帰ることにした。いま、父が生きていれば、何歳であろうかと思う。
 空の牛乳瓶が目についた。島を出る最後の日に、父と半分ずつ飲んだのを思い出した。そのときの父の笑顔が鮮明によみがえった。
 居住区をでて、思い出に耽ながら、あちらこちらと探索した。
 
 島の中央付近にある、小高い丘にある鳥居をくぐると社がある。潮風にさらされて、社は木肌が洗われて朽ちていた。社の横で、さっきの猫がぼんやりと海を眺めている。
「また、あったな」と、声をかけると、猫は男の方を一瞥して再び海を眺めた。
「おまえと、小学生の時にあったような気がするよ」
 男は声をかけたが、猫は耳をピクリともせずに海を眺めているだけだった。
 携帯電話がなったので出てみると、渡船の船長からだった。迎えにきたのだった。
「じゃあ、元気でな」
 男は猫に声をかけると、渡船が待っている場所に向かった。
 堤防から渡船に乗り移ると、いつの間にか猫が堤防のところにきていた。男は思わず笑みを浮かべながら、再び「元気でな」と声を掛けた。猫の鳴き声が男に聞こえた。
「だれか、島に残っているのですか」
 船長が不思議そうに男に訊ねた。男が、猫のことを言うと、船長は堤防の方を見ながら、 首をかしげた。男が再び堤防を見るとそこには猫はいなかった。
「お客さん、もしかしたら、白足袋の猫を見たのではありませんか」
「ああ、そうだよ、虎猫で、足が白かった」
「その猫なら、島ができたときから、いるとの噂がありますよ。きっと、あの島の主なのですよ、もしかしたら、あの島、自身かもしれないな」
 船長はそういいながら、渡船のエンジンをかけた。
 渡船は白い航跡を残しながら、人工島を後にした。
―― 了 ――


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