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文章鍛錬企画【同一プロット競作】5/15〜

23にゃんこ:2004/06/03(木) 21:28
―― 人工島の猫 ――
 周囲二キロにも満たないその島は、二百年前までは、草木のない水成岩の瀬にすぎなかった。石炭が発掘されたので、埋め立てられ、岸壁をコンクリートで固められて、奇怪な形をした人工島へ変貌した。海の底深くえぐった炭坑の先端では、発破が炸裂し、削岩機が岩盤を掘り起した。コンベアはうなりを上げ、石炭を地上に搬出した。
 いつしか、人工島は人々であふれかえり、町の様子を現し始めた。パチンコに映画館、病院に派出所、鉄筋コンクリートの住宅が林立し、子供たちの学舎である小中学校までできた。およそ、人間の生活に必要なものは島の中でほとんどまかなえ、人々は島から出る必要さえ無くなった。
 その人工島から神隠しのように人々がいなくなったのは、エネルギー政策が、石炭から石油に転換したからだ。昭和四十九年に炭坑は閉められ、それから、わずか三ヶ月で人工島は無人の島になった。

 蒼穹に鳶が舞っていた。穏やかな海面を一隻の渡船が人工島に着岸した。
 一人の男が、人工島に上がると、渡船は白波を立てて去っていった。目の前には廃虚と化した七階建ての学校が建っていた。荒れ地の上に赤茶けたコンクリートの建築物が無惨な姿をさらしている。
 男は学校の中に入っていった。床の板が所々腐って抜け落ちていた。体育館だった場所だ。男が中学二年生の時に、この人工島が閉鎖され、家族とともに島を去った。父と母、男と妹の四人家族。
 三十年ぶりにこの島に男は帰ってきたのだ。父が閉山で職を失い、家族は新天地を求めて、大阪に出た。家族を養うために父は建築現場で働いた。しかし慣れない仕事で、現場のビルから落下して死んだ。そのあと母が懸命に働いて、男と妹は大学を出た。男の学生時代はアルバイトばかりだった。
 あれから二十二年の歳月が流れ、男は、就職、結婚、そして子供が生まれ、生活も安定した。男が三十代で立ち上げた会社は、不景気といわれた時代にも、利益を上げた。
 仕事で長崎に立ち寄った日の夜、男は居酒屋で焼酎を飲みながら、朽ち果てゆく、人工島の話しを耳にして、生まれ育った、ふるさとに立ち寄りたくなったのだ。
 男が体育館から、荒れ地になった運動場を眺めていると、雑草の陰で虎猫が耳のあたりを後ろ足で掻いているのが見えた。男は驚いた。無人島になって、三十年になるのに、未だに猫がいるのが不思議だった。猫の寿命は長くても十五年ほどだ。男は、島に渡る前にコンビニでワンカップとちくわを買っていた。そのちくわを持って、猫に近づいた。


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