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文章鍛錬企画【同一プロット競作】5/15〜

19怜人:2004/05/31(月) 22:25
3

 到着した先は、僕の母校である里中小学校だった。生徒数の減少により、今はもう廃校になってしまっている、小さな古い木造校舎の建物。周囲は山に囲まれており、時折吹くそよ風に、深緑色をした山の木々がざわめいている。陽は傾き始めていたが、それでも十分に暑かった。
 僕は昔使っていた玄関から校舎内に入った。途端、それまであまり感じることのなかったノスタルジックな思いが胸に込み上げてくる。
 一歩歩く度にぎしぎし云う階段を踏みしめながら、僕は二階に上がった。当時の、僕達の教室が見えてくる。狭い教室内には、ぼろぼろだが、小さな机や椅子が積んである。
 カタン。
 教室内に溢れる思い出を噛み締めていた僕の耳に、何か、重く、硬いものが落ちる音が聞こえた。
 慌てて音のしたほうを振り向く。
 大きな窓から差し込む夕陽で逆光になった小さな影、それは――。

4

 浩介は、帰ってきたのだ。
「こ、浩介……?」
恐る恐る声をかける。何も言わずに黙って佇んでいる。
「あの時――僕は弱かった。遠野に逆らう勇気も無かった。でも、信じて欲しい。僕は君の事を嫌ったことなんて一度もなかった。すまないと思ってる」
震えた声で、唐突に始まった自己弁護に、浩介は戸惑ったに違いない。ただ、この十年胸の奥に蓄積されたどろどろとした贖罪の気持ちが、一気に吐き出されてしまったのだ。
「おい、浩介。お前調子に乗るんじゃねえよ」
突然後ろから聞こえた声に、僕は驚愕した。その声は、紛れもなく十年前の遠野のものだったのだ。
 振り向くことが出来なかった。しかし、僕のことが見えていないかのように、少年達の声が続いた。自分だけ透明人間になって過去にタイムスリップしてしまったような錯覚すら覚える。そして――。
「いっつもへらへらしやがって。気色悪いんだよ。死ねよ」
その声の中のひとつを聞いた途端、僕の背筋に悪寒が走った。
「死ねよ」と言ったその声の主は、十年前の僕自身だったのだ。
 僕と遠野達は、つかつかと歩いて僕の前に立った。みんな、あのときの姿のままだった。思い思いのTシャツや短パンをはいた少年達が、眼の前で浩介に暴言を浴びせている。
「違う――」
僕は呟いた。
 外で聞こえていた、木々のざわめきも、風の音も、蝉の声も、何も聞こえない。夕陽が空を一面炎上させているのが窓から見える。

「あーうぜぇ。マジさっさと死ねよ」

十年前の僕の口から容赦なく発せられる言葉。


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