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文章鍛錬企画【同一プロット競作】5/15〜

18怜人:2004/05/31(月) 22:21
やけに気合を入れて書いてしまい、大幅な字数オーバー。本当にすいません。

――廃校綺譚――


「浩介!」
 橙に染まる、古びた木造の長い廊下に佇む彼に向かって、僕は叫んだ。窓から差し込む夕陽が逆光になっていて顔はよく見えないが、しかし、それでもそれが浩介であるということは、十分わかった。十年前――あの時の姿のままの、佐々木浩介であると。
 ――あの日のままだ。
 少しツバの歪んだキャップ。そして、右手に握られたバットを見て、僕はそう思った。

1

 眼を開くと、名前通り太陽の如く鮮やかに咲き誇る、数百本のひまわりが、涼しげに風と戯れているのが見えた。いつしかCMで見たどこか外国のそれには遠く及ばない規模ではあるが、綺麗なひまわり畑だと思う。ただ、普通ならば爽やかに感じようその風景も、僕にはやはりどこか陰鬱に思えてしまう。それが、この墓地という場所柄によるものなのか、それとも僕の心境が影響しているのか――少なくとも、今日という日が原因のひとつであることは、間違いなかった。
 僕は静かに灰を落とす線香を、しばらくぼんやりと眺め、物思いにふけっていたが、少し強めの風が、さあ、と吹いて灰を浚っていったのをきっかけに、ようやく重い腰を上げて立ち上がった。園内には人気がなく、暑さを際立たせる、蝉の声だけが騒々しく響いていた。
 今の今まで来ることのなかったここに、十年目の命日だから、と、ここに訪れたことを、少し後悔していた。墓に刻まれた名前を見ると、否が応でもあのときの風景が思い出されてしまう。
 思い出というには忌々しいそれらの記憶を振り払うように何度か頭を振り、僕は車に乗り込んだ。
 ――いい機会かもしれない。
 僕は急に思い立ち、浩介の墓を後にし、あの場所に向かった。

2

 車内で僕はあの日のことを思い出していた。
 浩介は、僕の親友だった。優しい性格で、正義感が強く、人一倍努力家で、あこがれさえ抱くほどの、最高の親友。
 しかし、六年生の夏、彼はいじめを受けて、この世を去った。

 ――いじめられた理由は恐らく大したことではなかった。十年前、僕の母校である里中小学校は、一クラス二十人程度で、全学年一クラスずつという構成になっていた。一学年一クラス、クラス替えなしであるためか、みんな仲が良かった。しかし一方で、一度出来た力関係はそう簡単に崩れない、という状況も作り出していたのも事実だった。当時、六年生だった僕達のリーダー的存在だったのが、遠野弘樹。がっちりした大柄な体つきをしていて、喧嘩はめっぽう強かったし、勉強も出来た。
 本格的にいじめが始まったのは、六年生に入ってからだったと思う。勉強が出来た遠野のテストの点数を、浩介が上回ってしまったのだ。それまでずっとクラスで一番頭が良かった遠野のプライドが傷つけられ、それ以来陰湿ないじめが始まったのだ。最初は浩介の持ち物がなくなる程度だったが、次第にエスカレートし、いつしか机の中に鼠の屍骸が入れられたこともあった。
 それでも、浩介は動じなかった。それが、余計に遠野の逆鱗に触れて、結果的にもっとストレートな『暴力』に発展した。浩介の友達だった僕も、結局教室の隅で早く終わるのを祈るぐらいしか出来なかった。自分が情けなくてたまらなった。
 そんなある日のことだった。グラウンドから、野球を終えて、道具を背負いながら帰ってきた浩介への、エスカレートし過ぎた暴行が起こったのは。事が終わるのを泣きながら待っていた僕は、遠野たちが去った後に倒れる浩介に駆け寄った。浩介は痛そうに顔を歪ませながら、笑って「大丈夫だよ」と言ってふらふらと帰っていった。僕は何も言わずその後ろ姿を黙って見ているだけだった。
 次の日、浩介は脳震盪を起こして死んだ。

 助手席を見ると、透明のビニールに包まれた白いユリの花が置いてあった。墓に添えるはずだったのを、忘れていたのだ。
 今からでも戻って添えに行こうと思ったが、時既に遅し、車は目的地に到着してしまっていた。


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