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文章鍛錬企画【同一プロット競作】5/15〜

15風杜みこと★:2004/05/22(土) 01:45
参加することに意義アリ――ということで、字数オーバーな作品ですが投稿させていただきます。


 真利子は窓の外を見ていた。
 隆が指定した駅前ビルの1Fにある喫茶店は待ち合わせに最適だった。店内は冷房が効いているし、駅側に面した壁は色付きの全面ガラスになっていて、駅の改札を通る乗降客がよく見える。キヨスクにも電話ボックスにも、交差点で信号待ちしている群れの中にも隆の姿はない。
「おっそいわね……」
 真利子は気を紛らわせるようにBGMに合わせて足を揺らした。
 ジーンズに包んだ長い足を組み、片手でカプチーノを啜っている姿はなかなか様になっている筈だ。長く伸びた黒髪を無造作に背中で一つに纏めた髪型は、ともすると野暮ったいが、体にピッチリしたTシャツにブルージーンズ、ブランドもののサンダルを身につけ、幾重にも天然石のビーズのブレスレッドをした今日のスタイルにはちょうど合っているだろう。
 隆とは付き合い始めて一ヶ月と経っていない。今日が三度目のデートだ。ファースト・デートは映画だった。ずっと観たかった『トロイ』。二度目も映画。それも隆の趣味でホラーもの。今日も、もしかしたら映画かもしれない。映画して食事してキスして……その繰り返し。
 恋愛って、みんなが言うほど楽しくナイ。
「あーぁ、帰っちゃおうかな〜」そう呟いた時、
「帰れば?」
「えっ?」真利子は後ろを振り向いた。いつの間にか待ち合わせの相手である隆がきていた。だが、隣に生意気そうな少年を連れている。
「隆、なんなのソイツ」
 真利子は唇を尖らせ、少年を観察した。中学生ぐらいだ。黙っていれば可愛いと言えなくもない色白の小顔のなか、瞳だけが不気味に光を放っている。
 隆は真利子の声が聞こえなかったかのように顔をそむけ、少年の横顔を見つめている。それも見たこともないような真剣な目で。
「まさか……隆……アンタもしかして、そっちの趣味だったの」
 真利子の台詞に少年が皮肉気に笑い、一歩踏みだし言った。
「バーカ」
「な……なんですって、このガキ! ちょっと隆、どういうつもりなの。何とか言いなさいよ!」
「バカだからバカって言ったんだよ。こんな奴にひっかかりやがって。どうせひっかかるなら、もっと大物選べよ、マヌケ」
「こんなヤツですって〜」
 隆は気まずそうに見ているだけで何も言ってくれない。真利子はカッとなった。
「なによ! 隆の方から告ってきたんじゃない。今日だってアンタが誘ったから来てやったのに……なによ何よナニよ! わざわざこんなガキ連れてきて……ッ!」
 真利子は一口もつけていなかった水の入ったグラスを掴み、隆と少年めがけて放った。

 パッシャーン……。

 真利子は茫然と、前髪から滴りTシャツを濡らしていく水を感じていた。
 自分のかけた筈の水は避けられ、少年に水を逆に浴びせかけられたのだ。
 真利子は目を上げ、隆を見た。
 青い顔で立ち尽くしている隆の瞳に自分が映っている。
(なんか……変。)
 自分の体を見下ろした。ジーンズが濡れて貼りついている。薄茶色のサンダルの皮にまで水滴で黒い染みができてしまってる。
(あたし、こんなカッコだったっけ?)
 視界がぶれ、別の映像が過ぎる。ツキンと目の奥に痛みが走り、真利子はテーブルに左手をついた。
 その手が一瞬見知らぬ他人のもののように見え、慌てて右手で確かめるように触れる。
 なんでもない。自分の手だ。
 でも、何かがおかしかった。
 真利子はあたりを見回した。
 いつの間にか店内には、自分たちしかいない。
 流れていた音楽は止んでいる。
 ガラス窓を見れば、さっきまで明るかったはずの外は暗く、駅から漏れる光と信号機の灯が目を打った。
「……嘘」
 店内に視線を戻すと、隆と目が遇った。
「た、隆――? 何か言って。ねぇ、どうして。どうしてなの。隆なにか言ってよぉぉお!」
 
 パシャッ……。

「――ッとぉ。これだけかけりゃあ十分だろ。いい加減目ぇ覚ませよ」少年が真利子を見下ろし、空のグラスを振った。
「あ……」
 真利子にはもう何がどうなっているのか分からなかった。分かってるのは二度も水を掛けたこの少年が、自分を馬鹿にしてるということ、許せないということだけだ。
「……このぉ!」
「へへっ、怒ってやんの」
 我慢も限界だった。真利子は席を立ち、少年につかみかかった。
「待ちなさいよっ」
 テーブルの間を逃げていく少年を追いかけ、後ろから肩を掴み、振り向かせる。
 刹那――
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 少年の指先が奇妙な印を結び、そこから光が膨れ上がった。白い光が目を、意識を灼き、そして――
「きゃあぁぁぁああ――!」


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