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文章鍛錬企画【同一プロット競作】5/15〜

13セタンタ:2004/05/22(土) 01:21
「おまえって、必ずそのパターンだな」翔太は口を真一文字に引き締めたまま、おしぼりで頭や顔を黙々と拭いた。向かいの席に座っていたミズキが言う。
「いい加減に、見えないフリや聞こえないフリするの、やめろよ」
首筋から背中に冷たい水が伝わる。気色悪かったが、翔太はそのまま立ち上がろうとした。
「理緒のあのカッコ、ゴスロリって言うんだろ? あれって理緒の好みじゃないぜ」ミズキは窓から外を見下ろした。ライラックの樹の下を、転びそうになりながら走っていく理緒がいた。理緒は地下鉄入り口の階段を降り、視界から消えた。
「何でそんな事、知ってるんだ?」翔太はミズキを睨みつけた。
「あのドレス一式は、今日、理緒に届けられたものだ。撮影許可の条件は、今晩、月光の下で、と、あのカッコで来てくれ、っていう二つだ。バリバリ怪しいと思わないか?」
「だから、何でそんな事をおまえが知ってんだよ?」翔太は低い声で言った。
「見てたからに決まってるじゃないか。理緒がおまえにメールしてきた時に、ちょっと気になったからな、覗きに行った」
「おま、え、まさか」翔太が目を剥いた。
「心配すんなよ、着替えるトコまでは見てないって」ミズキは、にやっと笑った。
 翔太が乱暴に席を立つと、ミズキが言った。「理緒、パラソル忘れてるぞ。なぁ、翔太。おまえは俺達の事を怖がっているが、本当に怖いのは何だかわかっているのか?」
 翔太は無言のままパラソルを掴むと、会計を済ませて外に出た。

 理緒はボーイフレンドの一人である坂西と共に、二階堂邸の居間にいた。
 当主の雅治は、T駅の近くに広大な土地を所有しており、戦前までは資産家として知られていた。戦後、殆どの資産を手放したとはいえ、未だにこうして広大な土地と屋敷を維持している。かつてはお抱えの庭師もいて、庭園や硝子張りの温室はよく手入れをされてはいたが、今では雑草が生い茂り、樹々は伸び放題で荒れ果てていた。瀟洒で贅沢な造りの西欧風の屋敷は朽ちかけ、今や、廃墟、あるいは、お化け屋敷として有名だった。
 二人が通された居間の床はフローリングで土足、家具はヴィクトリアン様式の古い物で薄っすらと埃がかかっていた。三十分程前に使用人らしき老女が出してくれた紅茶は、甘い矢車草の香りがした。ずっと待たされ、そのうちに隣に座っていた坂西は眠ってしまった。坂西の軽い鼾を聞いていると、理緒までうつらうつらとし始めた。
 軋んだ音をたてて扉が開いた。
 雅治が痩せた体に杖をつきながら現れた。眼窩は落ち窪み、頬がそげ、顔色は悪かった。
「お待たせして、済まなかった。ここのところ、体調が、思わしくなくて、今もなかなか起き上がれなんだ。では、ご案内、しましょう」雅治は少し甲高い声で、一語一語区切るようにして喋った。油の切れたブリキ人形のような声だと、理緒はぼんやりと思った。雅治は理緒の隣で眠りこんでいる坂西を一瞥すると、乾いた声で笑った。
「お友達は、ぐっすりと、お休みのようですな。疲れているのでしょう、ここで、起こすのも、何だから、あなただけでも、行きませんか? 雲が出てきていますので、急がないと、時を、失ってしまう。どうされますか、わたしは、このまま、でも、構いませんが」理緒は坂西を乱暴に揺すって声をかけたが、起きる気配は全くなかった。理緒は微苦笑を浮かべると、坂西の横に置いてあるカメラを取って、お願いします、と告げた。


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