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文章鍛錬企画【同一プロット競作】5/15〜

12セタンタ:2004/05/22(土) 01:13
      『月下廃園』
 大通公園を見下ろす喫茶店で、翔太は高校のクラスメイトだった理緒と待ち合わせをした。栗色の髪をくるくるにカールさせ、フリルたっぷりの黒のドレスを着て、ようやく理緒が現れた。膨らんだ袖、バレリーナの衣装のように広がっているスカート、黒のハイソックスに厚底の靴、ご丁寧に黒のパラソルを持っていた。アンティークドールのような姿に、翔太は椅子からずり落ちそうになったが、理性で抑えた。そう、翔太にとって、理性と理論はいつも大切な相棒であった。
「ごめーん、待った?」にっこりと笑いながら、理緒は席に着いた。肩にかかる髪を軽くふんわりとさせ、小首を傾げる。「いや、それ程でも」翔太は口ごもりながら告げた。理緒の服装の好みはともかくとして、笑顔は充分に可愛かったし、こうして呼び出されるのは嫌ではなかった。高校時代の思い出話をして笑い転げた後、理緒がグラスの中のアイスティーをストローでかき混ぜながら、ためらいがちに言った。
「ねえ、翔太、お願いがあるんだけど」「ん?」「……今日の夜なんだけど、ちょっと付き合ってくれないかな?」「……どこ、に?」翔太の心拍数は一気に上がった。期待に胸が膨らむ、いや、そんな不謹慎な考えを抱いてはいけない、冷静に冷静に、と様々な言葉とたぎる想いが血管の中を駆け巡る。理緒が上目使いで翔太を見つめ、そっと唇を湿らせた。
「二階堂邸の廃園」
「嫌だ」翔太は即答した。心拍数は急激に下がり、血液の流れは止まった。
「だって、ホラ、翔太って霊感体質だから魔よけになるし」理緒は長い睫をパチパチとさせながら、早口で訴えた。
「絶対に嫌だ。俺は霊感体質ではないし、今日はバイトの遅番だから、どうしたって無理」
「そこを何とかお願いっ! サークルのサイトの更新に間に合わないし、」
「サークルって、何の? まさか、オカルト研とか、そんなのじゃないよね?」
「まっさかぁ! ちゃんとした文芸サークルだよ。廃墟の写真と一緒に詩や小説を組み合わせる事になったんだ」
「で、二階堂邸ってワケ? 確かにあそこは廃墟スポットとしては有名だけど、何も夜に撮影しなくてもいいんじゃないのか? それに私有地だから、持ち主に断りもなく入り込んだら面倒な事になるだろ」
「だって、仕方ないじゃん。その持ち主が、夜に撮影してください、って言うんだもん。ウチの庭は月光を浴びてこそ一番美しいから、だって。ずっと渋っていてなかなか許可が出なかったのよ。それが昨日急に連絡がきて、明晩は満月だから、この時を逃したらもう駄目です、って」理緒は肩をすくめた。
「……、なんか、ヤバクないか?」
「ぜーんぜん。ちょっととっつきにくいけど、いいおじいちゃんだったよ、二階堂氏」
 理緒は必死に頼み込んだが、翔太は、はねつけ続けた。ついに理緒は怒りだした。
「もうっ! こんなに頼んでいるのに何でそんなにガンコなのよ! いいわよっ、誰か他をあたるから。その代わり、みんなに言いふらすからね、翔太は臆病者だ、って!!」そう言うが早いか、理緒はグラスに残っていた氷水を翔太の頭からぶちまけた。
「わっ!」翔太は思わず声を出し、目をつぶった。目を開けた時、理緒の姿は既になく、紅茶くさい水が頭から滴り落ちていた。呆気にとられながらも、何とか気を取り直し、頭から氷の欠片やレモンのスライスを取り除いていると、くくくっと笑い声がした。


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