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文章鍛錬企画【コラボ即興文】4/22〜

38セタンタ:2004/05/26(水) 20:12
 
 俺たちは近くの運動公園に行った。ベンチに座ると、美紀は消毒薬をしみ込ませた脱脂綿でパタパタと俺の顔を叩き始めた。
「いっ、もっと優しくしろよ、いてっ!」美紀は手をゆるめようとはしない。そして、俺は美紀の手を払いのけようとも、立ち上がろうともしなかった。美紀の真剣な顔が間近にあり、俺は悪態をつきながらも、そのままでいた。
 いつの間に睫が長くなったのだろう。切れ長の瞳を細めて、俺の顔を、いや、顔の傷を見ている。そういえば、一重まぶたを気にしていたな。右目の下には小さなホクロ。ちょっと上の前歯が出ているから、いつも、唇が少し開いている……。
 甘酸っぱい汗の匂いと柑橘系の香りと、そして美紀。
 息苦しくなった頃、やっと終わった。氷の袋を渡され、俺は頬に当てた。
「昨日の夜はかなり飲んだみたいね。酒臭くって、こっちまで具合悪くなりそう。健史の所に泊まったの?」「いや。健史と道端で寝てた」「あっきれたあ。健史って結婚してまだ半年もたっていないのよ。信じられない」
 美紀は俺に栄養剤を寄越し、自分はアイスティーを取り出した。俺は掌の中で冷たいガラス瓶を転がしながら言った。
「夕べは……すまなかった。ぶち壊す気はなかったんだ。あの後、気まずくならなかったか?」
「ほーんと、大変だったわよ。婚約破棄されるかもね」
 俺は真っ青になった。「悪い、美紀。俺、着替えたらすぐに謝ってくるから」
 美紀は吹き出した。「やーだ、冗談に決まってるでしょ。聡は心がとっても広いの。美紀の幼馴染ってユニークだな、って笑ってたわ。健史がフォローしてくれたから、みんな、酔っ払いのたわ言だってわかってくれたみたい」
「本当にゴメン」俺は頭を下げた。
「恭介と健史っていいコンビだよね。幼稚園の時、お雛様飾ったからってウチに呼んだ時も、二人で取っ組み合い始めるし、小学校の時も、サッカーやってんだか喧嘩してんだかわかんないし。喧嘩しているわりには仲良くて、いつもくっついていたね」
「くっついていたんじゃないよ。健史がすぐ泣くから、俺が面倒みてたんだよ、腐れ縁ってヤツさ」
「どっちが面倒みてたんだか」美紀は肩をすくめた。
 俺たちは黙ったまま公園の風景を見た。ジャングルジム、砂場、築山、丸太やロープを組み合わせたアスレチック。時折、ジョギングや犬の散歩をしている人たちが通り過ぎていく。
「毎日ここで遊んだよね。恭介はいつも意地悪で、よく泣かされたなあ。そのたびに健史がかばってくれたのよね」
「美紀が好きだったから、な、……健史は」
「知ってた」美紀がくすっと笑った。
 さや、と風がそよぐ。樹々の梢が揺れ、葉の緑が濃くなる。
 美紀は立ち上がった。
「もう帰るわ。午後からウエディングドレスを選びに行くから、忙しくって。じゃ、またね」美紀はそう言うと、公園の出口に向かって走っていった。
「美紀!」
 遠くなった美紀の後姿に向かって俺は叫んだ。美紀が立ち止まり、振り向いた。俺は口の周りに両手をラッパのようにあて、大声で叫んだ。
「幸せになれよ! 結婚式でもスピーチしてやるからな!」
 美紀は舌を出して、思いっきり鼻に皺を寄せた。それから、輝くような笑顔を浮かべると、手を振って走り去った。
       <了>


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