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文章鍛錬企画【コラボ即興文】4/22〜

37セタンタ:2004/05/26(水) 20:07
      『獅子は何故吠える』     

 俺たちは酔っ払い、路上でわめき散らしていた。とにかく俺は怒っているんだ、と健史の耳元に叫ぶと、いや、僕のほうが怒っている、お前のは我慢が足りないだけだ、と言い返され、取っ組み合いになった。
「ヘンな時に我慢して、肝心な時に何も言わない。我慢しなきゃならない時にはバカな事をする。今頃悔やんだって遅いんだよ」健史が厳しい口調で言った。カッとなった俺は健史を殴った。健史も殴り返してきて、組み敷いたり敷かれたり、俺たちは転がっていった。
 気がついた時には街路樹の下にいた。朝日の中で、俺たちはバツの悪い思いをした。二人とも顔は腫れあがり、唇は切れていた。俺はまだ頭がふらついていた。体のあちこちが痛く、あまりの情けなさにぐったりときた。
 昨夜は美紀の婚約披露パーティがあった。スピーチの順番がきた時、俺は言わなくてもいい事を口走った。ほんの軽いジョークで場をわかせ、美紀はちょっと口を尖らせながらも笑ってくれる筈だった。なのに、結果は惨憺たるものだった。それまでの和やかなお祝いムードは見事に引いてしまった。美紀は蒼白になり、フィアンセの顔はこわばっていた。健史は俺からマイクを奪い取ると、悪酔いしているとか何とか言って、俺を会場から引きずり出した。その後、俺は飲んだくれ、一晩中、咆哮した。
 喉がひりひりとして、唾を吐くのも痛い。俺たちは無言で駅に向かい、別れの挨拶もせず、それぞれの電車に乗った。がらんとした車両の中で、俺はとてつもなく後悔していた。謝っても美紀は絶対に許してくれないだろう。後悔先に立たずって、俺のためにある言葉だよな、と思い、自分で自分のケツを蹴飛ばしたくなった。
 電車を降り、のろのろと自宅に向かう。健史の言葉が重い。体の底に沈んだ鉛のようだ。
 コンビニに寄り、飲料水の置いてある冷蔵庫に向かった。扉に手を伸ばそうとした時、右側から、さっと腕が伸びてきた。爪には薄いピンクのマニキュアがしてあった。目を上げると、トレーニングウエアの美紀がいた。ポニーテールに化粧っ気のない顔。額に汗が浮いていた。目を瞠ると、小声で怒ったように言った。
「恭介、どうしたの、その顔。それにスーツ、ボロボロじゃない!?」
「どぉってことないよ。酔っ払って、転んだだけだ」俺は謝るきっかけをなくし、横を向いた。視界の隅で、美紀が眉をひそめているのがわかった。
「薬」「えっ?」「薬、消毒薬とか軟膏とか、あるの?」美紀が聞く。
 姉は他県に嫁ぎ、親はこの三年の間に亡くなっていた。家族で暮らすのには充分な広さの家だが、一人で暮らすのには無意味に広かった。広いだけ広くて、どこに何があるのかわからない。
「ちょっと待ってて」美紀はそう言うと、マキロンや飲料水、弁当、野菜サラダを籠に入れるとレジの所に歩いていった。俺がぼんやりとしていると、振り向いて、「お金」と言った。俺は慌てて、財布を取り出し支払った。


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