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文章鍛錬企画【コラボ即興文】4/22〜

25海猫:2004/05/02(日) 13:37
 しばらくの間、僕と「彼女」の睨み合いは続いた。睨み合い。そう、「彼女」もまた、僕を見つめているのだ。目は無い。「彼女」は何処までも、ただ人の形をした靄だった。時折ふわりと形を崩しては、また人の形に戻る。それを繰り返し、僕を見ていた。
 どれだけ時間が経っただろうか。僕はふと、自分に余裕がある事に気付いた。「彼女」はただそこにいるだけで、僕に対して何か害を為そうという意志はなさそうだという事が分かったのだ。僕は意を決し、息を飲み込んで口を開いた。
「……キミ、さっき体育館にいたよね?」
 思ったよりもしっかりと言葉が出てくれた。が、「彼女」はやはりもやもやと揺らめくだけで、何も返事をしてはくれなかった。それでも僕は、再度口を開いた。
「さっき、何を見ていたの? 女子のバスケ? あ、仲間に入りたかったとか。でも、女子ってバスケの試合で昼飯賭けてるんだよ? 笑っちゃうよね。鹿山――あ、さっきここにいた奴だけど、鹿山もこの前十点差で負けてカツサンド奢らなくちゃならなくってさ。カツサンドって、購買部に十秒以内に駆け込まないと買えないくらい人気があるから――」
 僕は話し続けた。この間の抜き打ちテストの事。友人の事。先生の愚痴。部活の悩み。ちょっとした自慢。思い出話。何故か次々と話題が生まれた。きっと「彼女」は聞き上手だったのだろう。
 いつの間にか、「彼女」は僕のベッドのすぐ横に立っていた。心なし最初よりも人の形を整えつつあるように思えた。しかし僕には、恐怖心は全く無かった。
 僕はふと、最初からずっと「彼女」に訊きたかった事を思い出した。けれど、それは口に出して良いものか憚られた。でも、僕は言う事に決めた。どういう結果になるにしても、分かり合おうとする努力は大切だと思うから。
「――ねえ、キミは誰なの?」
 シャッ、という歯切れの良い音と共に、カーテンが開かれたのはその瞬間だった。驚いてそちらを見ると、保健の松田先生が立っていた。
「あら、病人さん? サボリじゃないでしょうね」
「あ、はい……――あ」
 はっと気付くと、「彼女」はもうそこにはいなかった。消えた? きょろきょろする僕を、先生は怪訝そうに見つめた。
「どうしたの? ……あ、そういえば他に誰かいた? 何か話し声が聞こえたんだけど」
 僕は、どう答えたら良いものか迷った。嘘を吐くのは容易い。でも、しかし――。
「……友達、です」

 結局、「彼女」は最後まで一言も話さなかった。でも、僕は何か彼女と通じ合えたように思える。どういった点で通じ合えたのかは分からないけれど、しかし、何となく、曖昧に、けど確実に。それは幻なんかじゃ絶対無いと、少なくても僕は信じていたい。
「彼女」は何者だったのだろうか。今日も学校の中を彷徨い、誰かを見つめているのだろうか。一言も話さず、ただ聞き耳だけを立てて。彼女は静かに、そこに存在し続けるのだろうか。
 とりあえず僕は、今のところ再び彼女に会えてはいない。そう、今のところは。次は僕から名乗ってやろうと、実は密かに思っている。

 ―了―


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