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文章鍛錬企画【コラボ即興文】4/22〜

16うり:2004/04/28(水) 22:16
「お前さんはよお、浦島太郎の末裔なんだよ」
亀は、らしくない素早い動きで便座の上に飛び乗ると、脚をぶらぶらさせながら話をはじめた。
「乙姫ちゃんはよ、お前さんの先祖に見捨てられて、そりゃあもう荒れたワケ。でもさ、振られる前に予感があったんだろうな。アタシ、この人を忘れられないって」
完全に呆けていた俺には、亀の話は右から左だった。
「でさ、太郎くんに逃げられる前に、DNAにこっそりオレ様を仕込んだワケだ。あ、正確にはオレ様じゃなくて、卵だけどな。まあ、そりゃどうでもいいや。で、やっぱり乙姫ちゃんは、太郎君を思い出しちゃったのよ。で、その想いでオレ様が目覚めちゃったワケ。分かる?」亀はいったん息を継ぐと、「と、言うワケだからさ、オレ様としてもシモベの役目を果たさなきゃならないのよ」と言うと、突然二メートルばかりに成長した。
腰を抜かさんばかりに驚いたのだが、狭いトイレいっぱいに甲羅が広がって、座り込む事すら出来なかった。
「行くぜ」
亀は俺の腕を掴んだ。
「い、行くって、い、一体どこへ?」
「全ての道はローマに通じるって習っただろ。水ある所は竜宮城に通じてんだよ」
そうして亀は、俺の腕を掴んだままトイレの中にダイブしたのだ。

頭の下がごつごつと固くて目が覚めた。見上げて思わず息を飲んだ。皺の数を数えれば、十年あってもまだ足りないと言うほどのババアが、俺の顔をじっと覗き込んでいる。そこでようやく気付いた。頭の下の固い物は、ババアの腿だと言う事を。
「会いたはったあ……ありぇから三百年」
口をもごもごさせながら、熱い吐息混じりにババアが呟く。……と、言う事はつまり。
「お、お、乙姫えええ!」
昔話のいい女のイメージとかけ離れたその姿に、思わず絶叫した。
「うれひい。覚えてひてくれたのね」そう言いながら、かさかさ、じょりじょりと頬擦りをする。乙姫の乾ききった肌はヤスリみたいで、俺の頬は傷だらけになった。
竜宮城に来てまで、またババアだあああ! 心の中で雄叫びをあげ、一目散に駆け出した。

「乙姫ちゃんって、マジでカワイすぎ。本気で惚れちゃいそうで恐いよ」
グラスに酒を注ぎながら、そっと肩に手を回す。乙姫ははにかんだ笑みを浮かべ、「うひょ。誰にでもひってるんでひょ」と俺の手をつねる。
視界の片隅に、牙を剥き出しにしたサメが見える。
月明かりが薄っすらと差し込む竜宮城のテラス。見上げると、水面で揺れているであろう月の影。
「きょんなにドキドキひてるの」
乙姫は俺の手を胸元へもって行く。肋骨が浮き出たごつごつとした感触に、思わず項垂れる。
「はら、太郎も照れてりゅの?」
俺は乙姫の言葉を聞き流しながら、この明かりを辿って行けば、元の世界に戻れるのに、と溜息をついた。

 <了>


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