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文章鍛錬企画【コラボ即興文】4/22〜

12セドナ:2004/04/26(月) 08:39
(つづき)
 ハナが消えてからもう3年が経つ。我が輩は今、メメという嫁をもらって2児の子と共に暮らしている。このメメがまたできた嫁で、朝6時になるとするりと布団から抜け出して、こっそりと台所に降りていく。目ざめてから朝食の支度にかかるまで、ただひとつの物音も立てぬ。7時になるとまだ夢心地の我が輩の枕元にきて「朝食の支度ができました、顔を洗ってから来てくださいな」などと優しく呟く。本当に心が安らぐいい嫁である。容貌もダルマのようなハナとは違い、粉雪のごとく白い肌に黒曜石のように輝く髪を備え、手足は長く、誰に見せても美人だという。
 いつか、道端でハナと出会したら、このメメのことを自慢してやろう。「メメはお前と違って、ようできた女子じゃ」。悔しがるハナの顔を想像して、我が輩はニンマリと笑みを浮かべる。
 しかし今朝方、知人の伝手でハナの死を知った。3年前にケツカクという原因不明の流行病を罹って咳が止まらず、最期は血を吐いて倒れたらしい。突然出て行ったのは、周りの人に病を移さぬためという。ならばなぜ文のひとつもよこさぬのか、と我が輩が知人に問うたところ、「あのお方にこれ以上、迷惑をおかけすることはできませぬ。あのお方にとっては私がいなくなった方がきっと幸せでしょう、どうか伝えずにおいてください」とハナがしきりに言うのでその通りにしたのだという。ずしりと重い漬け物石を受け取ったような心地がした。
 とぼとぼと山道を歩きながらハナの事を考える。今思い起こしてもハナは酷い女子であった。炊事、洗濯いっさい適わず、なにかにつけては泣きわめき、叱れば必ずくちごたえをする。まったく箸にも棒にもかからぬ酷い女子である。しかし、いくらあの酷い女子でも、死んだと聞けば程に善く思えるから不思議なものである。あの塩辛い汁さえもたまに恋しくなる。
 山道を抜けたところにハナの墓がある。我が輩は墓標の端の目立たぬところに小さく細くこう記した。
「我が最愛の人、ハナ、ここに眠る。デコ」と。
(了)

【感想】
>おづね・れおさん
「閑古鳥」素敵な場所ですね。ほんとうにこんな喫茶店があったらぜひ行ってみたいです。
 就職せずに歴史シミュレーションゲームを作っている主人公が、翌日に就職活動を始めるまでの内面の変化を、「雨→閑古鳥→歌→店を出る」という流れで見事に書ききっているのには感服しました。三語を読んでいておづねさんの作品をもっと長いもので読みたいと感じていたので、字数の多いコラボ即興文ができて良かったです。就職をしない主人公が雨に降られて立ち寄る場所が、情熱の国、スペイン風の喫茶店ということを考えると、なにやら意味深な香りもしますね。余談ですが、私が今まで「シミュレーション」のことを「シュミレーション」と間違えて認識していたことは秘密です。(笑)

>セタンタさん
 シリアスな空気がいいですね。面白くて最後まで一気に読めました。曇り空でうす暗いロンドンの街並みがありありと浮かんできます。ジェイキンスが唄う童歌にはなにか意味があるのでしょうか? そこが少しわかりませんでした。おづねさんの作品を読んだ後にセタンタさんの作品を読んだので、二つの作品の温度差の違いが何とも言えず面白かったです。同じ書き出しでこうも変わるとは……。それがこの企画の魅力でもありますね。

【次回のタイトルと書き出し】
タイトル:『不思議少女』
書き出し:
「え〜と。今から手品をします」
 公園で遊んでいる私を呼び止めて、友達の千佳ちゃんが突然変なことを言い出した。

 でお願いします。


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