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文章鍛錬企画【コラボ即興文】4/22〜

11セドナ:2004/04/26(月) 08:38
 コラボ即興文、なかなか手強いです。三語とはまた違う脳を使うようで苦労しました。書き出しってやはり大事なんですね。あらためてそう思います。
 では作品に。

「デコの告白」

 我が輩はデコである。ハナと別れてからしばらく経つ。あの女子(おなご)のことはもう知らぬ。永らく面倒をみてやった恩を忘れ、ただ己の勝手我儘で家を飛びだして、以来一度の文もよこさぬような恩知らずな奴だとは思わなかった。今はもう微塵の未練も感じない。わざわざ探し出して連れもどそうという気も一切起こらぬ。勝手にどこかでのたれ死ねば善い。
 しかし、思い出すたびに腹がたつ。
 そもそもミケン先生がいけない。まだ大学生だった我が輩の下宿に、ハナを連れてきたのはミケン先生なのだ。2月の寒さがいっそう寒くなってきたあの夜に、先生はわざわざ我が輩の下宿にまで足を運び、「ひとつばかり頼みを聞いてほしい」と仰る。昔恩のあったミケン先生の頼みならば聞かざるを得まいと思い、「何なのですか?」と訊き返すと、先生は「どうか何も言わず、この娘を2、3日預かってくれぬか?」と深々と頭を下げて懇願された。見ると、先生の後ろにはまだ12、3ほどのあどけない娘が立っているではないか。手足は汚れ、所々穴のあいた服を着せられ、グズグズと洟を垂らして泣いている。
 我が輩が首を縦にも横にも振らぬ内に、ミケン先生は「では、宜しく頼む」とだけ言い、さっそうと出て行かれた。後には呆然と立ちつくす我が輩と、握り拳で目頭をおさえながらグズグズと泣いているだけの娘が残った。ようやく泣きやんだ後に名を訊けば「ハナ」とだけ言う。
 2、3日の辛抱だとあきらめ、仕方なく飯を食わせたり、風呂にやらせたりして世話をしたのだが、3日経ったところでミケン先生は引き取りに来るかわりに文をよこした。文には「あと一週間待ってくれ」とだけ記してあったので、我が輩はなにやら嫌な予感がしたのであるが、案の定、一週間後には「あと1ヶ月待ってくれ」という文が来た。そんな調子でずるずると先延ばしにされ、ついには文さえ届かなくなった。
 さてどうするものか、と我が輩が腕組みをして頭を捻っている横で、ハナは飯ばかり食っている。この娘、動かずにただじっとしているだけのくせに飯だけはたらふく食べる。このままでは懐が持たぬので、奉公に出そうかとも考えたが、それもやや忍びない。「ハナ、お前は何かできぬのか?」と訊ねたところ「家事なら何でもできます」とすんなり答えたので、ならば家事をさせようと決めた。
 しかしそれが、我が輩の不幸のはじまりであった。何でもできるといったくせにこの娘、何もできぬ。炊事をさせれば黒焦げの飯に、潮水のごとく辛い汁をだす。洗濯をさせれば着物をぞうきんにして返す。買い物に行かせれば、ネギと白菜の区別さえつかぬ。こらえきれなくなった我が輩が「お前には目がついておるのか!」と叱ると「だって私はハナですから、そんなものございません」などと生意気に口ごたえする。我が輩も負けじと「なら私だってデコだぞ」といって頭突きをすると、「いたぁい、いたぁい!」と言って泣きわめく。放っておけばいつまでも泣いているので、頃合いを見計らって「五月蠅いぞ!」ともう一度頭突きをかますと、ようやく大人しくなる。
 時が経てば、人は誰でも少しは成長するものである。しかしこのハナという女子はきっと人ではないのであろう。あれから5年の月日が流れたがちっとも変わらない。相変わらず塩辛い汁を作り、ネギと白菜の区別さえつかぬ。おまけに、自分が台所に立つのをいいことにつまみ食いが増えたものだから、腹の下の肉だけとうに大きくなってしまった。ああ、そうだ、あれはきっと人ではなくダルマである。手足短く、鼻っぷしの強い顔立ちに突きだした腹を加えれば、まさしく相当のダルマであろう。ならばきっと御利益があるにちがいない、と、それから毎日ハナを眺めては心の中で拝むことにした。――どうかあの女子をどこか他のところへやってくださいませ。すると願いが通じたのか、ある日突然、ハナが消えていなくなった。
(つづく)


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