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文章鍛錬企画【コラボ即興文】4/22〜

10セタンタ:2004/04/25(日) 16:24
『路地裏の歌』の続きです。
 
 夜が更けていく。私は30分近くも待っていた。この辺りは盛り場から離れているとは言え、物騒な事に変わりはない。煉瓦壁には年寄りの乞食が鼾をかいて眠っていた。問題ないだろう。私は足踏みをしながら童歌を口ずさんでいた。
 As I was going by Charing cross. I saw a black man upon a black horse.
 チャリングクロスはチャールズ1世が処刑された場所だ。どうして、私はこんな不吉な場所を指定したのだろう? 確かに知り合いには見られたくはなかったが。路地の向こうからカンテラの灯が見えた。湿った暗闇の中を、ちらちらと揺れるオレンジの輝きと舗道を歩く足音が重なる。私は胸が高鳴った。エミリーがこちらの路地裏に入り、カンテラを高く掲げた。
 ふと、悪戯心が起き、エミリーが背を向けた時に、私は後ろから抱きしめた。エミリーが悲鳴を上げそうになったので、手で口を覆った。エミリーの胸が上下する。「遅かったじゃないか、エミリー」私は囁いた。手を緩めると、エミリーは喘ぎながら言った。「ドクター ジェイキンス。で、では、旦那様と手紙のやりとりをしていたJは、貴方だったのですね?」「そうだよ。Jは私だ」そう答えた途端、右の太腿に焼けつくような痛みを感じた。エミリーは私の手を振りほどいて飛び退った。その手には鋏が握られ、血が滴り落ちていた。私は何が起きたのか、わからなかった。
「旦那様はJに親しみを覚えていた。Jが女性だと思っていたからよ。だから、インド紅茶の葉をプレゼントされた時も、疑いもせずお飲みになったわ。そして、苦しんで亡くなられた」エミリーが早口でまくしたてた。私は胸ポケットに手を伸ばした。

 パァン! パン、パンッ!
 銃声が轟いた。乞食が立ち上がり銃を構えていた。崩れ落ちるジェイキンスをエミリーは瞬きもせず見ていた。エミリーがよろめいた瞬間、乞食が駆け寄り支えた。「大丈夫ですか? ミス マッケイ」「はい。ストラウス警部」
 表通りから警官達が駆けて来た。乞食、いや、ストラウス警部は次々に指示を与え、遺体を運ばせた。警部は苦々しく言った。「それにしても酷い奴だ。実の叔父を財産目当てに殺したばかりではなく、強請りを装った貴女まで手にかけようとするなんて」
「……私がもっと早くに気がつけばよかったんです。匿名の手紙の主を信用してはいけない、と旦那様をお諌めしていたら…」
「旦那様は、貴女のようにお優しく勇気のあるメイドを、きっと誇りに思ってますよ」警部の言葉に、エミリーはようやく微笑んだ。

 遺言状には追記があった。『甥が遺産受取人として不適格であった場合、全財産をメイドのエミリー・マッケイに委譲する』と。
 エミリーは、ヴィクトリアンシンデレラとして世間の注目を集め、瞬く間に、その美貌と知性で社交界の華となった。


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