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コラボ SIDE-B <1>

6にゃんこ:2004/04/23(金) 11:28
(天井桟敷より転載。投稿日: 2004/04/23(金) 00:22)

星野さん
風杜さんと私のコラボ作品を楽しんでいただけたようでよかったです。オチについては、予定通りです。というのも、このコラボ即興文の企画は風杜さんの努力により作られたところが大きいので、第一回目は風杜さんに登場願おうと思っておりました。それで、私も参加させていただいたわけです。次回からは普通の作品を作りたいと思います。
『桜』作者が変わると、こうなりますか。それにしても、よいお話ですね。よね子もこんなよいお話を作ってもらって喜んでいると思います。そうですか、桜が枯れましたか。そしてよね子も町に行くことになりましたか。それのほうが彼女も幸せかも知れませんね。吉沢との会話も味わい深いもでした。年寄りの雰囲気もよく出ていました。どうも私は描写が弱いようで見習いたいです。

私の作品は、このお題で創ったものです。
「将棋、紅茶、桜」追加:「歴史にまつわる要素」
―― 桜 ――
「よね子さんどうしたのですか」
民生委員の吉沢が大きな屋敷に一人暮らす、九十歳になるよね子の様子を見に来て驚いた。庭で幹回りが一抱え以上あるような、桜の木に、斧を振り上げていたのだった。
「ああっ、吉沢さんでしたか」
よね子は斧を下ろし、曲がった背中を伸ばすようにして、じっと吉沢を見た。桜の木を切り倒して、将棋の盤と駒を作ろうとしていたといった。桜の木を見ると、斧を打ち込んだ小さな傷跡が、無数にあったが、老婆がこんな大きな桜の木を切り倒せるわけがなかった。吉沢はよね子が痴呆症にかかり始めているのかも知れないと思った。よね子は夫を、終戦の年の二月十九日から始まった硫黄島での血戦で亡くし、小学生のひとり息子は、三月十日の東京大空襲で死なせた。その夫と息子がよく将棋をしていたので、この桜の木を切り倒して将棋の盤と駒を作り仏壇にお供えしょうとしていたというのである。
「よね子さん、それは駄目ですよ、この桜の木の下にはあなたの息子さんの死体が埋めてあるのでしょう、だから毎年こんなに桜がきれいに咲くのだとおっしゃっていたじゃあありませんか」
吉沢はよね子が空襲で死んだ息子を、自宅の庭にある桜の木の下に埋葬したという話をしていたのを思い出したのだ。200機におよぶB29が東京を空襲したおり、家屋二十八万戸が焼失し、十二万人あまりが死傷した。それで、当時は正式な手続きをして、納骨するということができない遺族がたくさんいた。よね子もそのうちのひとりで、幼い息子を庭にある桜の木の下に埋葬したというのだ。
しかし吉沢にはそれが本当のことかどうかはわからない。よね子は家族を失ったあとに心の空白を文学に求めたのだが、好きな作家の一人に梶井基次郎の名前をあげていたのを聞いたことがあったからだ。梶井は『桜の樹の下には』と言う作品を書いている。彼は、桜の木が美しいのは、その下に死体が埋めてあるからその養分を吸って、美しいのだといっている。
よね子が紅茶を持ってきた。薄くスライスした檸檬が一切れはいっていた。
「そういえば、梶井の作品で檸檬というのがありましたね」
吉沢が話題を変えると、「その紅茶に入っている檸檬は爆発しませんでした」とよね子は笑った。
このさき、目の前にある桜の巨木は、小さな傷をいくつ付けられるのだろうか。しかし、桜の木はこの老婆にこれからも、傷を付けられのを望んでいるのかもしれない。

―― 了 ――


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