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文章鍛練企画【三語即興文in鍛練場】3/24〜

32海猫:2004/04/07(水) 06:48
○お題:『鳥人間』『サイコロ』『バベルの塔』+『フール』『四月』『召喚』+『世紀末』『最果て』『セラミックス』 
○追加:『感動する話』+『登場人物の性別は統一する』+『現代物はNG』

 運命は変えられる。そうお思いかね、若いの。ああ、若いうちは楽観的な方が幸せだ。何故なら人は、結局自分の物語において自分以外の主役を知らんのだから。
 だが、時とは確実に流れる。その時の長さだけ、人は物事を、世界を知るものだ。如何なるフールとて、長生きすればワイズマンとなる。私? ……ふむ、そういう意味では、私もそうであろうな。
 そう――私は、長く生きてきた。かつてのあの、『暗く輝ける四月』の生き証人も、この島では私だけとなったか。お前の生まれるずっと昔、世界に西暦という時導があり、千年に一度巡ってくる、世紀末と呼ばれる節目の年の事だった。
 全ては、一瞬で消え去った。星と星の間を行き来し、生命の秘密を紐解き、天候や季節の制御すらも可能とした、神の如き業を持った人間の世が、だ。何が起こったのかは、私にも分からない。しかし、私は見た。あの一瞬にして永遠の光は、まるで地獄の底で轟々と燃え盛る、千の太陽が一斉に地上に召喚されたかのようだった。そしてその後のあれは……あれこそが神話にその名を聞く、バベルの塔だったのだろうか。天高く聳える巨大な塔を私は見た。その周りをゴミクズのように舞う人間も見えた。さしずめあれは、蝋の翼を持つ鳥人間、イカロスか。
 ほう、若きフールよ。この二つの名を知っているか。そう、どちらも神に近付きすぎたが為に身を滅ぼした、まさに人の業そのもの。そして人は、神の裁きを受けた。あの眩き光の影響か、空は闇に覆われ、地は緑を失い、水は腐り、風は澱み、……無論、人も狂った。いわゆる、人類の雄化だな。生まれてくる子の数は減り、運良く生まれても人と呼べる形をしていなかった。
 若きフールよ。この島を出て、世界を知りたい。お前はそう言ったな? だが世界とは、ここの事だ。この地上に残された、唯一にして最果てのこの島が、世界の全てなのだ。海の向こうには、絶望と失望しかない。お前のしようとしている事は、このサイコロを振り、七番目の数字を期待するようなもの。それは神の意志に反している。

「長老、貴方がどれだけ生きようと、ワイズマンにはなれやしない」
 僕がそういうと、長老は怪訝そうに僕を見上げた。
「貴方はこの島が世界の全てだと言った。でも、どうしてそう言い切れる? 貴方は海の向こうを見てきたのか? 違う。そうじゃない。貴方は怖かったんだ。海の向こうに絶望と失望があるのが、それを確認する事が怖かったんだ。貴方はワイズマンじゃない。ただのチキンだ」
 何か言いたげに口を開きかけた長老を制し、僕は続けた。
「貴方は無知に徹する事で、可能性から目を背ける事で、希望を守り続けた。シュレディンガーの猫だよ。箱の中の希望の猫は、生きているのか死んでいるのか。貴方はその箱を開ける事を拒み、希望と絶望を一緒にそこに封じ込めて来たんだ」
 長老が、哀しげに目を細める。でも、僕は続ける。
「この島が、世界の全て? 『暗く輝ける四月』の光で焼け爛れ、大地がセラミックス化した、この死の島が? 冗談じゃない! 自分のだけじゃなく、僕の目まで閉ざすな! 僕は見付ける。こんな狭い世界じゃなく、本当の世界を見付けてやる!」
 僕は、長老が転がしたサイコロにナイフを突き立てた。セラミックス製のサイコロは、いとも容易く真っ二つに割れる。
「七が出ないのなら、サイコロそのものを疑う。これが僕の、七番目の解答だ」
 そうだ。もし猫が生きているのなら、箱は自ずと開かれる。猫とはそういう存在だ。


 久々のトリプル。いやあ、長いですね。我ながら呆れてますよ。そもそもレス自体が長い。皆様すみません。最後「感動する」かどうか……あざといのは嫌なんですが。「バベルの塔」と「鳥人間」が何を意味するのか、伝わるか不安です。
 次回は、
○お題:「青林檎、野良犬、酩酊」
○追加:「渋いキャラクターを登場させる」

++2004/04/01(木) 13:53


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