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英国(第二次世界大戦勃発直前)がファンタジー世界召喚されますた。

1名無し:2008/03/08(土) 09:25:39 ID:DguCBHyc0
もし第二次世界大戦勃発直前の英国がファンタジー世界に召喚されたらどうなるでしょう。なお、当時の英国の植民地も一緒に召喚されたという設定です。

281HF/DF ◆e1YVADEXuk:2018/03/24(土) 20:12:10 ID:xcVmLF4g0
遊歩道にベンチ、草むらに花壇、そして巨木と木陰のオブジェ。老いて視力が落ちた私の両目でもはっきりと分かる。
続いて振り向くとこちらに歩み寄るウールトンの肩越しに群衆の姿が見えた。
やはり、動かない。小声で何事かを言い交わしつつこちらの様子をただ窺っているだけだ。

「やっぱり予想通りですね」
「ああ、動かんな」

私同様車を降り、隣へとやってきたウールトン、その言葉に応じつつ目の端で群衆の様子を確かめる。
ウールトンの言っていた通り最前列には屈強そうな男たち、その後ろには普通の住民と思しき人々、男女の比率は半々、いや、六対四といったところか。
小さな子供や老人の姿はやはり無い。

「予想も当たったようですし、それじゃ行くとしますか」

陽気な声、振り向くとブラウンの笑顔があった、無言で頷き返し、先頭に立って歩き出す。
早足で目の前にある石造りの遊歩道へと歩を進め、目指すオブジェへと向かうコースを取る。背後には乱れたものと整ったもの、二種類の足音。慌てて歩調を落とす、昔の切れ味を取り戻しているとはいえ老いた上に怪我の後遺症を抱えているウールトンに無理はさせられないからだ。
そのまま石造りの遊歩道を一列になってゆっくりと進む。
進むにつれて視界の中の木陰のオブジェが徐々に大きくなり、不明瞭だったディティールが明確になってくる。どうやら大きな岩、あるいは岩を模して作られた建造物のようだ。前面にはほとんど平坦な面、刻まれているのは銘文か人の名か、それとも絵画の類がはめ込まれているのか。
そんな思考を巡らしつつ無言のままひたすら歩を進める。後ろの二人も何か考え事をしているのだろうか、私同様無言のまま、ただ足音だけを響かせていた。
程なくして、我々はついに目指す場所へとたどり着いた。

「…………」

無言で目の前のオブジェを注視する。それは大きな岩にはめ込まれた一枚の金属製レリーフだった。縦およそ3フィート、横はおよそ6フィート程の大きなもので所々が青緑色になっているのを見るに恐らくは青銅製だろう。
描かれているのは――――

「ああ、軍曹殿がいますよ」「君もな、ハンク」
「見てください、私だけ何故かスローチハット姿ですよ」「だが似合ってるじゃないか」
「後ろにあるのはシヴォレーですね、所々間違えていますけど上手く描けている」

282HF/DF ◆e1YVADEXuk:2018/03/24(土) 20:13:35 ID:xcVmLF4g0
若かりし頃の我々三人、身なりはあの時身に着けていた熱帯用の野戦服とシュマグ姿だが、何故かブラウンだけシュマグではなくスローチハットを被っている。
その背後にはトラックの車体、ディティールについては少々怪しいが我々がかつて乗っていたシヴォレーであるということは一目で分かった。
丸みを帯びたボンネット、吹きさらしの運転台、直線的なシルエットをした荷台の上にはボーイズ対戦車ライフルの姿が見える。
過ぎ去りし『あの頃』の一部がそこにはあった。

棒のように立ち尽くしたままレリーフを見つめる我々。乾いていた目がゆっくりと潤み始め、胸の奥から何か熱いものがこみ上げて来る。
その時背後で大きなどよめきが上がった、反射的に振り返る。
相変わらず同じ場所からこちらの様子を窺っていた群衆が二つに割れ、その間に出来た空間を数人の供を連れた女性が歩いて来るのが見て取れた。
ここからでも分かる細身の体型、明るい緑色のワンピースを纏い、頭にはつば広の帽子を被っている。それゆえ顔を見ることはかなわないが、その人物が誰であるかは明白だった。
言葉を失ったまま食い入るように彼女を見つめる私、他の二人も同様だ。一方彼女は供回りの女性たち(彼女と似たような身なりだが、服の色はより地味な色合いなものだった)を後ろに引き連れ、早足で近づいてくる。
そして、ついにその時がやってきた。
レリーフを背に立ち尽くす我々の前で足を止め、ゆっくりと帽子を取る彼女。その下から現れたのは、あの頃とほとんど変わらぬ美しさを保っている彼女の顔だった。
ただしその緑の眼差しにはかつてと違い、歳経た者特有の落ち着きと深みがたたえられている。
私たち同様、彼女もあの後様々なことを経験したということか。

しばしの沈黙を経て口を開く彼女。数十年ぶりに聞く彼女の声と平行して言葉が頭の中に響く。
人間同士の会話とは違う独特な感覚、久方ぶりに経験するそれにしばし戸惑うが、同時にそれすらも懐かしく感じている自分に気付く。

「お互い、歳をとりましたね」
「ええ」

胸の中を去来する感情のせいでそれだけしか応えられない私。それに気付いたのだろうか、隣のウールトンが口を開く。

「でも相変わらずお美しいですね、私たちはこんなありさまなのに」

283HF/DF ◆e1YVADEXuk:2018/03/24(土) 20:14:48 ID:xcVmLF4g0
頭髪は薄くなり皮膚はたるんで皺だらけ、目はかすみ耳は遠くなった。筋肉が失われた手足はやせ細り、関節はしきりに痛みを訴える。ウールトンにいたっては事故の後遺症を抱え込んでいる状態。
背後のレリーフに描かれているかつての若々しく元気溌剌とした姿とはまったく違う、老いさらばえた姿を晒している自分たち。その事実に思わず羞恥心がこみ上げた。
だが彼女はそんな感情を一言で吹き飛ばす。

「でも心は違います。そう、昔のまま」
「そうでしょうか?」
「私同様色々なことを経験したせいで変わってしまっていますけど、根っこの部分はあの頃のまま。ええ、間違いありません」
「…………分かるのですか?」「ええ、分かります」

体は老いても心はまだ若い、そうはっきりと言い切る彼女。思わずブラウンが疑問を呈するがさらなる返答、そしてその緑色の、何もかも見通すような眼差しに口をつぐむ。続いて行われたウールトンの新たな問いかけに対しても自信ある態度を崩さない。
かつて名乗ってた肩書き、妖精の国の女王たるにふさわしい態度と物言い。どうやら彼女の内面はあの頃のものとは比べ物にならぬほど成長しているようだ。

「どうやら、様々な経験をなさったようですね、陛下」
「ファウナ、で結構です、あの頃みたいに。見てください」

私の問いかけにそう応えると今度は手にしていた帽子を差し出す。ほぼ同時にブラウンが驚きの声を上げた。

「私のスローチハットじゃありませんか! ……ああ、それでか」

背後のレリーフをちらりと見た後視線を戻し、今度はしきりに頷くブラウン。彼の視線の先にはこの国を去る時に彼女に贈ったスローチハットがある。
長年使われてきたせいですっかり色あせた生地。あちこちに、いや帽子全体に見て取れる丁寧な修繕の痕。ずっとしまい込んだままではこうはならない。たぶんこの帽子を毎日のように被り、どこかが綻ぶと繕うという行為を幾度となく繰り返してきたのだろう。
帽子一つにこうまで手間をかけるとは、どうやら彼女も私たち同様あの時の事、そして私たちのことを一時も忘れることはなかったようだ。そうでなければこうまでするはずがない、そう思うと再び両目がまた潤み始める。

284HF/DF ◆e1YVADEXuk:2018/03/24(土) 20:16:12 ID:xcVmLF4g0
その時、彼女の後ろに控えていた供回りの一人が進み出て彼女に何事かを耳打ちした、頷く彼女。

「この場でいつまでも立ち話を続けるのも大変でしょう、続きは私の所で」
「それはありがたいですな」「宮殿だかお城だかにご招待、ですか」

二人の元部下、そして彼女の視線が私へと向く。もちろん私の返答は決まっていた。

「喜んでお招きにあずかりましょう。話すこと、話したいことが山ほどありますからね」
「私もそうです。話したいことは数え切れないほど、もうどれから話したものやら」

そこで言葉をいったん切り、花のような笑みを浮かべて言葉を継ぐ。

「大丈夫、時間なら幾らでも、そう、幾らでもありますから――――」

そう言って身を翻し、歩き始めた彼女の後に続く我々、どうやら人生最後の時間はこの国で過ごすことになるようだ。
だが私は後悔していなかった、他の二人も恐らく同じだろう。
かつてと違い自ら望んでこの地を踏んだのだ、ならばこの国に骨を埋めるのも承知の上。
そう、二十年後の世界で新たな人生を始めたあの御伽噺の主人公のように。

心の中でそうつぶやき、ふと空を見上げる。
見上げた空はかつてトラックの上から見上げたのと同じ、どこまでも青く、そして美しかった。



                                   砂漠の国のリップ・ヴァン・ウィンクル 完

285HF/DF ◆e1YVADEXuk:2018/03/24(土) 20:17:59 ID:xcVmLF4g0
投下終了
これにて拙作『砂漠の国のリップ・ヴァン・ウィンクル』は完結となります
二年間にわたってお付き合いくださいました読者の皆様、本当にありがとうございました

286名無し三等陸士@F世界:2018/10/02(火) 13:51:00 ID:l7vkDNYo0
おお!?いつの間にか完結してた。おめでとう&お疲れ様です。

287名無し三等陸士@F世界:2019/01/31(木) 14:55:58 ID:R8jDLGVU0
今更一気読みしてしまったわけだが終盤の雰囲気がワンスアポンアタイムインアメリカっぽくてすごく良い!


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