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復活!「むかし昔の天聖界」について語ろう!!

94UQ ◆C.WMPm2y0Q:2005/08/16(火) 20:24:20
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見渡す限りはるか地平線の彼方までひろがる広大な草原に、巨体が仰向けに倒れていた。
短い髪の下には、岩を削って形作ったようないかめしい顔が、安らかな表情をたたえている。
額の中心に、赤い小さな点のようなものがあった。
巌のような顔の下には、大木のような首が、その首にふさわしい、たくましい胸板に続いていた。青い袖の無い上着の下にはなにも付けず、日に焼けた素肌がむき出しになっていた。丸い大きな肩から伸びている、筋肉の盛り上がった両腕を、これも青い手甲が覆っている。
風が吹き、男の前髪を揺らした。
その額に、白い可憐な手が伸ばされた。
熱の有無を確かめるように、そっと額を押さえた手の主は、優しげな瞳の少女であった。長く赤い髪が、穏やかな日差しに艶やかに輝いている。
穏やかな空とは対照的に、少女の顔には心配そうな表情が浮かんでいる。
少し寄せた眉の下の、まつげの長い切れ長の目は、眼前に横たわる巨体に注がれている。
少女は不思議な紋様の刻まれた小瓶を取り出し、そこから男の唇に水を注いだ。
よく見ると、先ほど男の額に伸ばした左手と違い、右手は指先から肘の上までエメラルド色の鱗に覆われていた。肘より上は、ゆったりとした淡い紫の袖に隠されて見えない。
少女は、しばらく待って、もう一度小瓶に手を伸ばした。
その動きを、男のうめき声が止めた。
「うう・・・」
少女の顔に、鮮やかな笑みが広がった。
「気がついた?」
夏の冷風のように爽やかな声だった。
「う・・・。君は?」
男は、ゆっくりと目を開けながら尋ねた。
低い、しっかりとした声であった。
「私は、ノアって言います。えーっと、遠いところから旅してきたばかりです。」
赤い髪の少女、ノアは快活な口調で答えた。
「あとは、えーっと。ごめんなさい、自己紹介下手なんです」
そう言って笑うノアの表情につられて、男の口元にも微かに笑みが浮かんだ。
「あなたは?」
「俺は・・・。俺は・・・。」
男は目を閉じ、眉根を寄せて唸った。
ノアは不思議そうに男を見つめる。
「俺の名は・・・カーン」
搾り出すように、男は名乗った。
「カーン?」
少女が繰り返す。
「俺は・・・」
ノアは首をかしげる。
「俺は、誰だ?」


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