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【新連載】 サードアイ 【ミステリー小説】

1春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/02/27(金) 19:43:56
人間は2つの眼を持っている。
1つは現実を曇りなきままに見据える眼。
もう1つは心の中で過去や未来を懐古したり予測したりする眼。
この2つ眼光が、たえず人間社会を照らし続けている。
現実と理想――――。
人々はこの2つのスクリーンが映し出す葛藤に日々苛まれている。
しかし、その2つの眼が1つになった眼がもし存在したらどうなるか。
過去に起こった全て歴史や、未来に起こる森羅万象の物事を
すべて的確に見ることができる眼。
それを人はサードアイと呼んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
主な登場人物
○主人公(ダグラス)
  身元不明かつ住所不定で名前すら無い謎の男。都内のアパートに潜伏。
  年齢は21〜24歳くらいだが、言動は中学2年生程度。
○春日希代子
  主人公の部屋の隣で一人暮らしをしている高校生。やや暗めで悪趣味。
○渡良瀬菜穂
  主人公の部屋の1つ上で家族と暮らしているごく普通の優しい高校生。
○リリア
  主人公と活動をともにする職場の上司。とても明るい。
○須磨瑞樹
  とある宗教団体に属する大人しいけどしっかりした少女。
○デビル・トムボウイ教祖
  とある宗教団体の代表。その素性は謎に包まれている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

69春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/12(木) 07:42:46
信号待ちをしながら一服する。
囮か。最初からそれが仕事だったんだな…。
リリアは納得しないかも知れないが、俺は安心した気分だった。
最初は好奇心、やがて訪れた不安と危機、そして結末は安心感。
なんだかねぇ。因果教とやらに振り回されるだけ振り回されたってカンジだな。
最初から最後まで仕事として、事務的にやっていれば
とても無難な一日だったんだろうに。
リリア「…まぁいいわ、教祖じゃなくても瑞樹は瑞樹よ。
    今日は楽しかったし、囮でも何でもいいわ」
結果的に騙されていたわけだからリリアの本心では無いだろう。
少女ははい楽しかったですと申し訳なさそうな感じで言った。
色々と因果神理教の事について詮索したかったが
ここへ来て皆どっと疲れがきたのか、帰りの車内は口数少なかった。
まぁ囮役の少女に何を聞いたって、知ってる事は少なそうだしな。
因果教東京支部に到着する少し前になって、瑞樹は黒装束を再び纏いだした。
「施設内ではそれを着ないといけないのか?」
と俺が質問すると、
瑞樹「いえ、別に着なくてもいいんですが…
    . 本当は今日ずっと被ってなきゃいけない約束だったんです、忘れてました」
君には露出狂の気があるなと俺が適当にツッコミをいれると
少女はニハとはにかんだ。
やがて車は東京支部道場に到着した。

70春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/12(木) 07:46:02
「大盛、ネギだく、玉!」
とインターフォン前で叫ぶと、「玉三丁!」という電子音声とともに
地下への鉄格子が開いた。
なんだ随分適当だったんじゃねぇか合言葉。
地下駐車場へ来ると、朝居た2人がそこで待っていた。
黒装束の一人がリリアに報酬を渡し、もう一人が瑞樹を迎える。
リリアは黒装束と書類を交換するなど、事務的な作業を交わしていた。
そして車に再び乗り込み、発進しようとしたとき、
黒装束を纏った瑞樹だけがこちらにやってきた。
「どうした?戻らないのか?」
瑞樹「リリアさん、田倉さん、今日はありがとうございました」
「ああ、お陰で楽しかったよ。数年ぶりにハラハラしたわ」
瑞樹「す…すいません」
「いや、別に囮ってのは仕方ないよ。仕事だし。」
最初から囮ってわかってた方がやり易かったな。
そうすれば、最後ぎこちなくならずにもっと仲良くなれた。
だけど、うちのような初取引先に、あらかじめそんな情報を漏らすのは甘すぎるってもんだ。
だから今回の流れは仕方がないし、その中でも十分楽しめたほうさ。
そして結果的に因果教の策略は、見事に抵抗勢力を欺くことができたんだ。
あっぱれだよ。めでたしめでたしってね。
瑞樹「あ…あの…」
「ん?なんだ?」

71春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/12(木) 07:48:16
瑞樹「わたし、ドライヴとかほとんどした事なかったので
    . 今日は本当に…その…楽しかった…です。」
へぇ。そろそろいいお年頃にもなる女の子だってのにねぇ。
いろいろ因果教の信者ってのも大変なんだな。
リリア「私達でよければ、いつでも遊びましょうよ!ねぇ田倉君?」
「ああ。任せろや。でも次はリリアが運転だからな」
リリア「運転手は男の子の仕事でしょ。あなたの役目は私たちをエスコートすること。
    さしずめカーナビ君2号ってとこね!カーナビ田倉!」
「なんだとう!あーいいさ今日みたいに気楽に助手席に座るがいい。
 発炎筒の位置に隠しカメラをセットしてナビゲーションしたるわ!
 えーこの先のT字路に見えますパンツの色はー」
リリア「黙りなさい変態!ついてるモノは発炎筒未満のくせに!」
「なんと!」
下ネタで申し訳なかったが瑞樹は最後に笑顔を取り戻してくれたようだ。
黒に包まれた頭巾と装束も、なんだか悪い雰囲気はしなかった。
また会おうと別れを告げて、地下駐車場をあとにする。
陽もだいぶ短くなったか、空はだいぶ赤みがかっていた。

72春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/12(木) 07:54:50
リリア「お疲れ様、ダグラス。」
「ああ、長い一日だったよ。」
リリア「これから事務所に戻って、やらなきゃいけないことが山ほどあるわ」
「まだ関わるのか?この宗教に。」
リリア「当然でしょ。この国の政府も動いてるのよ。
    ここでノーフューチャーが何もしないわけないじゃない!」
元気な人だ。俺ぁもう帰ってオナニーしたいよ。
振り回されて疲れた日は、そうするのが一番だ。
また明日になればテンションもかわってくる。
しかしながら、因果教は少々、どころかかなり危険な匂いがする。
別に安全に生きていく事が俺のモットーじゃないんだがね。
いろいろやらねばならんことが他にもあるような気がするんだ。
リリア「そういえばあの子、家族とドライヴって言ってたわね」
「家族…無理があるなwまぁ親族って事を言いたかったんだろう」
リリア「家族ねぇ」
「なんだよ思いつめちゃって。俺らで子供でも作るか?」
リリア「あんたは発炎筒相手に中だししてなさい。」
キツい突っ込みとともに予備の発炎筒を授かりました。
てか今更だけど、さっきの発炎筒未満発言は結構ショックだったのですが。
リリア「彼女ももしかしたら、私たちみたいな身寄りの無い人間なのかもね
    家族があったとしても、その意味を成さないような空間で育ったというか」
そんな話をしてるうちに、見慣れたアパートの前に車は到着していた。
遠くから聞こえる犬の遠吠え。希代子のとこの狂犬かな。
俺は運転席をリリアに譲った。
リリア「また何かあったら来るわ…てか早く携帯持ちなさいダグラス」
俺はあぁと呟いてリリアを見送った。
片手に残った発炎筒。これをどう料理するかは俺次第。
中身を刳り貫いてアレに使おうか。それとも狂犬対策の武器にしようか。
色々考えたが、とりあえず疲れたし、もう寝よう。
追われていたようで、終始何かを追っていたような一日。
なんなんだろうこの感覚は…と考えてはみたものの
瞼の重さに思考は絶たれ、俺は深い眠りについた。
右手に握られた発炎筒は、今日は何も語らなかった。

第4話
「偽りだらけのCAR−CHASE」 完

73名前未入力:2009/03/14(土) 02:01:03
下ネタ重視なのはご愛嬌で
続きは一週間後くらい

74春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:35:18
第5話
「煩悩に果てにSQUEEZE」

俺は天井を見つめていた。
精魂尽き果てて、ただただ天を仰ぐ。
ついさっきの事のように思い起こされるカーチェイスの記憶。
何も無かった平穏な日々に突如現れた謎の宗教の存在。
身体が思うように動かない。
まるで何かに取り付かれたように動かない。
ハァハァハァハァ…
思い出しただけで心臓が高鳴り、呼吸が定まらなかった。
因果神理教という言葉が、自分のsoulを根底から搾り取っていく。

俺は過去も未来も捨てた男だ。今あるのは現実だけ。
もうこちらからあの宗教に関わりにいくことは無いんだ。
同じような日々の繰り返し。
それで良かった。それで幸せだった。
しかし吸い寄せられていくこの感覚は何だ―――――
探究心というよりも、それは恋のような感覚に近い。
自分の建前で拒絶しても、勝手に心が惹かれていくイメージ。
今まで流れ行くままに生きてきた俺にとって
何かに巻き込まれていくことが快感になってしまったその時…
快感…はッ!?俺はあの因果教教徒の瑞樹ちゃんに恋してるのでは!!
まずい…さすがにこれは年の差、犯罪だ!
遺憾遺憾、脳内のHDD画像を入れ替えないと…
瑞樹ちゃんじゃなくて…ええと…俺のアイドルは…上の階に住む菜穂ちゃんだ。
うーん、そうだ、菜穂ちゃんだ!よーし菜穂ちゃんいくよー
いくよー!いくよー!イクーーーーーーーーーーーー!!

日課である一連の作業を終えた俺は
ティッシュを丸めてゴミ箱へ投げやる。
ストライクだった。
「今日はいいことあるかも…」

75春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:37:47
カーテンをあけて外を眺めると、既に太陽は頂点より西の位置にあった。
昨日のカーチェイスの疲労が著しかったために
俺は朝しっかりと起きられず、
いつもの菜穂ちゃんの見送りを怠ってしまっていた。
それでいじけて自慰行為に耽り、今に至るのだったチクショー。
ふぁーっと欠伸をして、台所にやってくる。
疲れがまだ残っているようで、どうも気だるかった。
それでも何とかして残っていた洗い物を一通り済ませ、冷蔵庫をあける。
…食料が無い。
いつもは食料を適当に買いだめして、
毎日残っているもので調理する俺にとっては
今日が月に数度の買出しの日ということになる。
賞味期限の早い既製品などから消費し、
ある程度保つ穀類などを残していく我がライフスタイル。
べ…別に外に出るのが億劫な訳じゃないんだからな!
上着を着てジャンパーを羽織り、玄関を後にする。
向かう先は近所の2階建てのスーパーだった。

76春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:38:28
本来ならタイムサービスを狙って夕方に来るのだが
混雑するとゆっくり落ち着いて買い物ができない。
だから、こういう疲れてる日は、
人の居ない時間帯にマッタリとショッピングするに限る。
「専業主婦っていいものですねぇー。」
誰もいない2階の日用品/調理用具売り場で開放感に浸る。
空調の整った空間。せせらぎのような店内放送が耳に流れる。
俺は近くにあった液体洗剤をボーリングのピンのように床に並べた。
そしてショッピングカートを押して飛び乗り、ピンをはじいていく。
ストライクだった。
「専業主婦っていいものですねぇー。」

77春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:39:08
駆け寄った店員に一通りぶん殴られたあと、俺は調理用具コーナーに来ていた。
ここは自慰行為に必須となるあらゆる器具が揃っている。
例えばこれ、見てくださいよ奥さん、このイヤらしいレモンスクイーザー。
見た感じ完全にオッパイじゃないですか。
しかも製品名が絞り器って…
絞るような感触を味わいつつ、我が性器を絞る。
これを作ったヤツは天才だぜ…。文明の利器とはまさにこれ也。
早速2つ買って帰ろう。
そうして俺は、自分の両胸にレモンスクイーザーを当てて
モミモミしながら1階の食料品売り場に向かった。
しかし。
迂闊にもエスカレーターで昇ってくる制服姿の茶髪の女子高生と
鉢合わせとなり、その光景を目撃されてしまったのだ!

78春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:39:36
「げっ…」
しばし呆然とする。こんな時間帯だから気を抜いていた。
それにさっき家で精力も抜いてしまって…いるのは関係ないか。。。
女子高生は顔をしかめて
女「うわ…変なのいる…」
と、俺の軽蔑の視線を送って、振り向いて後ろにいる同じ制服姿の
女子高生に向かってヒソヒソと話しかけていた。
一人ならまだしも、どうやら多数の女子高生に、
俺の変態っぷりが伝わってしまったようだ。
居たたまれなくなった俺は、その場のエスカレーターを使わずに、
端の階段でそそくさと退散しようとしたら
後ろから聞き覚えのある声に呼び止められた。
声「あ!お兄ちゃん!」
振り返ると、そこには今朝見送れなかったアイドルの姿があった。
「…菜穂ちゃん?」

79春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:41:02
なんという場所で出会ってしまったのだ。
しかもこんな恥ずかしいところを目撃されてしまうとは…。
どうやら相手は二人組だった。
女「え゙ーっ、なっちって兄弟居たの!?」
俺の性癖を目に焼き付けた女が菜穂ちゃんに言った。
なっちというのは菜穂ちゃんの仇名だと思ふ。
菜穂「違うよ春香、うちのアパートの住人さんだよ」
女「そうなんだ…」
菜穂「え…?なんかおかしいかな?」
春香と呼ばれた俺の性癖を目に焼き付けた女は、
後ずさりしながら明らかに俺を警戒…というか不審者扱いしている。
ここはどうにかして誤解を解かねばならぬ。
まぁ誤解…というわけでも無いのだが、我がアイドル菜穂ちゃんと
その友達に変態扱いされては、立つフラグも立たんってもんだ。
って何を考えているんだ俺は。まぁいいや。
俺は再びレモンスクイーザーを胸に当ててこう言った。
「あーえーと…、なんかね、最近テレビで見たんだけどね
 こうやってモノを胸に当てて背筋を伸ばすとね
 背筋の運動になって健康にいいらしいよ!」
先程見られてしまった行為をそのまま再現し
ぐーんと背筋を張って、伸びをする俺。
「ほーら、こんな感じで。健康って素晴らしいね!
 ははは、良かったら皆もやってみなさいな、ぐーん☆」
やってみるとなかなか気持ち良かった。性的な意味じゃなくて。
実は本当にある健康法の一つなのかもしれないとか思っちゃったり。
女「私達もやれって…あの…それセクハラですよ?」
…逆効果だった。

80春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:43:27
菜穂「お兄ちゃん気持ち良さそうだね、私もやってみようかな、ぐーん☆」
女の対応に反して俺のアイドル・菜穂ちゃんは
制服の上から両胸に手を当てて背筋を伸ばし始めた。
手を当てるというよりも、自分の胸を鷲掴みしている。
なんてエロい光景なんだ!ラッキー!と鼻の下垂れ伸ばしで視姦していると
女「ちょっとなっち止めなよー。何か絶対ヘンだよー」
横の女が困ったような表情で菜穂ちゃんを止めて
こちらを睨み返してこう言った。
女「ちょっと、この子冗談通じないんだから、やめていただけませんか!」
あわわわわ。なんという展開に…。
「そ…そんなつもりじゃ…」
女「そんなつもりって、どんなつもりですか!?」
ダメだ。さすがにこの状況はもうどうにもならない…。
ここは架空の用事を思い出して早々に去るしかないと思い、
その場から逃げようとすると、
菜穂ちゃんが何事も無かったように話を続けてきた。

81春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:45:02
菜穂「あーそうそう、お兄ちゃんに紹介するね。
    . この子は私と同じ学校の同級生で大隈春香ちゃんって言うんだよー」
この殺伐とした男女の空気の中でも、俄然馴れ合ってくる菜穂ちゃん。
まさに天使のような存在だった。というかむしろ天然なのか?
紹介された女は菜穂ちゃんの純粋さに観念したのか溜め息をつくと、
不貞腐れた態度で短く自己紹介をした。
大隈春香。セミロングの茶髪、右耳に2つピアス、やや濃いアイシャドウ。
一見ギャルっぽいが、喋り方や雰囲気などから見るに割りと清純系かもしれない。
そして菜穂ちゃんと並んでも負けず劣らずといった顔と容姿。
スカートは期待するほど短くないのが、とても残念だった。
春香「それであのー、こいつ…なっちのお兄ちゃんってのはなんて名前なの」
女は俺に目を合わせようとせず、菜穂ちゃんに向かって俺の名を尋ねた。
菜穂「え、えーと…なんだっけ?」
菜穂ちゃんは考え込んでしまった。無理もない。
俺は人に自分の本当の名前を名乗った事は無いのだから。
でも、この状況では菜穂ちゃんが可哀想だし、この春香という女にも
流れとはいえ名乗らせておいてしまったからには、引き下がれない。
だから俺は仕方なく自分の名前を名乗った。

「鬼井・チャンです。」

82春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:46:00
アジア系のハーフなんで以後、鬼井(オニイ)ちゃんと呼んでください。
苗字を呼び捨てで鬼井(オニイ)でもいいよ。
春香「はァ?」
ナメてんのかばりに眉を顰められてしまった。
菜穂ちゃんは鬼井さんの方がいいのかな?と言っていたが
今まで通りお兄ちゃんでいいよと言っておいた。
春香「うわー。そんな都合のいい名前とか超あり得ないんですけどー。」
女は終始俺の事を蔑み疑っていた。ジョークの通じないヤツめ…。
第一印象が悪いと人間関係なんてこんなもんなんだな。
「まぁなんとでも呼んでくれ給え。俺に固定の名前は無いからな。」
そうハードボイルドにまとめておいた。だって本当の事だもん。
春香という女は俺の台詞を適当に流すと、菜穂ちゃんに
こんなヤツいいからもう行こうよといって、菜穂ちゃんの手を取った。
さすがの菜穂ちゃんも、相棒の機嫌が悪いのにようやく気づいたのか
お兄ちゃんまたね!と俺に別れを告げて、
春香とともに調理用具のコーナーの方へ去っていった。
いろいろと話したいこともあったが、今の流れでは到底無理だろう。
菜穂ちゃん…可愛いかったなぁ。きっとその純粋無垢な人柄に友達も多いのだろう。
いつもは下ネタばかりの俺も、彼女の前ではあまりそれを使うのに
ためらいを感じるくらい、なんかこう、この子だけは守ってあげたいというか、
大切にしておいてあげたいというか。。。
きっと春香という女も俺と同じ気持ちなんだろう。
俺が軽蔑され嫌われても仕方が無いか。うん、これもまた運命…。
俺はふぅ…と溜め息をついて、いつからか手にしていたレモンスクイーザーを握る。
口の中がなんとなく甘酸っぱくなった気がした。

83春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:47:42
◇◇◇◇◇◇◇◇◇

車輪のついたショッピングカートを元に戻した俺は、
買い物かごにレモンスクイーザーを2つ入れて、1階の食料品売り場に向かった。
特価だとか激安だとかいう言葉が誘う陳列棚を中心に食料調達開始。
調味料は揃っているので、とにかく安いモノを買い物かごに次々と放り込んだ。
そして、要冷蔵の加工食品売り場の前で立ち止まる。
「こんにゃく…サイトモ科特有のヌメりと、弾力性のある食物繊維。
 想像しただけで胸が熱くなるぜ…これぞまさに天然のオナ○ール…」
いつも試してみたいと思ってはいたが、食べ物を粗末にしてはいけないという
心が阻んでいたコンニャクへの挑戦。
灰色で加工されたその製品を前に、俺はしばらく煩悩と戦っていた。
「ううう…勇気を出して、ここは買うべきなのか…
 蒟蒻さんゴメンナサイ…でも俺は…俺はッ!」
しかしさらなる葛藤が俺を襲った。
灰色の生こんにゃくの横に陳列された、しらたき名義の糸コンニャク。
「こ…これはッ…よく考えたら糸もいいじゃないか!
 獲物を狙う食虫植物のように絡み付かれて…
 それはもう綺麗な指先のように一物をSQUEEZE…」
ああ、なんということだ。生か糸か、それが疑問だ。
草葉の陰でハムレットも葛藤してるに違いない。
誘惑の加工食品群の前で悶々としていると、突然どこからか声がした。
「何やっての変態」

84春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:51:16
変態。確かに俺は変態だが、いくら変態とはいえ
この妄念の鬩ぎ合いを前にして、どう決断を下せというのだ。
そうか、これは迷える子羊を憂う神の声に違いない。
オフィーリア…お前も天国で俺の事を…
などと思索に耽っていると、ふわっと横に一人の女が現れた。
それはアパートのお隣さんだった。
希代子「肺が何かに満たされない状態の窒息って
      . 縊死なんかとは比べ物にならないほど残酷よね。
      . 喉に詰め込んでみようかしら…」
女は蒟蒻に向かって気持ちの悪い事を言っていた。
おかげで萎えちまったぜ。どうしてくれんだこの野郎。
近所のスーパーとはいえ今日はよくアパートの住人に会うな…。
「なんだ希代子か」
希代子は菜穂ちゃんたちとは違って私服だった。
というかこの女はちゃんと学校に通っているのだろうか…。
見ると希代子も買い物かごを片手に買出し中のようだった。
かごの中をざっと見渡すと、ステーキ肉、アーリーレッド、ベビーキャロット、
ガーリックパウダーなど、雰囲気的にだが豪華な洋食っぽい具材が揃っていた。
へぇ…こないだ庭でお玉を手にしてる姿を見かけたけど
ちゃんと料理とかする奴だったんだな。
ワイングラス片手にディナーを嗜む希代子。
想像してみると割りとマッチする光景が浮かぶ。

85春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:51:36
希代子「なに人のカート見てニヤニヤしてんの」
「べ…別に。お前も料理するんだなと関心をしてだな…あれ?」
俺は希代子の買い物かごに、一つだけ種類の異なる野菜が入ってることに気づいた。
「なんで洋食っぽいメニューに、こんなん混ざってるんだ?」
1つ掴んで希代子に聞いてみる。
それは里芋だった。里芋といえばヌルヌルしてる芋。
サトイモ科…まさかこいつも天然のローションをッ!!
希代子「え…違うの。芋でしょ芋…」
女は予め用意していた小さな書きとめの紙をポケットから出して
それを凝視すると、指を折りながら小さく呟き始めた。
希代子「肉、玉葱、人参、カレールゥ、じゃが…」
あっと小さな悲鳴を上げると、希代子は俺から里芋を取り返して
そそくさと野菜コーナーの方に退散していった。
「なんだったんだ?」
俺はそのままレジに向かい自分の買い物を終えた。

86春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 21:55:27
早々とアパートに帰ってくる。
庭を見ると希代子のところの狂犬がこちらを威嚇していた。
留守番しているのか。とんでもない忠犬だこと。
思えば、今このアパートには菜穂ちゃんも希代子も居ない事に気づく。
ちょっと寂しい気持ちになった。
何でだろうね。
良く分からない感覚に覆われたから、とりあえず俺は
ビニール袋の中から先程購入したレモンスクイーザーを取り出して
いろいろとその場で妄想した。
早く家に入ってオナニーがしたくなった。
でも、その寂しさが紛れなることは無かった。

気がついたらホームレスやってて、気がついたら働いてて
気がついたらこのアパートに住んでる。
まるで誰かに成すがままに生きろと言われてきたように
俺は自分を取り巻く環境に対してとても鈍感だった。
周囲には女の子がたくさんいる。
この状況を利用してオナニーばかりしていたけれど
もう少し違う楽しみ方があったのではないだろうか。
ふとよぎった寂しさ。
今を楽しむ事だけを考えていた男が、
いつしか時の流れと未来を、長いスパンで考えるようになっていた。

87春日部 ◆L0XV/MHIIE:2009/03/17(火) 22:02:29
「家でただバットを振ってるだけじゃダメなのかもな。
 そろそろ俺も打席に立たないと…。」
そう、状況はチャンスなんだ。ランナーはきっと満塁。
今までのオナニーは打席に立つための素振り特訓だったんだ。
俺は歩き出した。
近くで彷徨っていた狂犬が警戒して一歩下がる。
俺は持っていたレモンスクイーザーを裏返して
狂犬の足下に置いた。
「これにエサでも入れて食ってろや」
俺は本日使用予定だった器具を捨てた。
狂犬「血迷ったか小僧…カカカ」
隻眼の小動物が何か喋ったような気もしたが、ここは無視しておこう。

寂しさというものは一時の迷いだったのかもしれない。
だけど、因果神理教の件のように、
勝手に巻き込まれて吸い込まれていくならば
抗うのも一つの手段だろう。
それが俺に芽生えた新たな自我だった。
俺の狙いはいつだって満塁からのスクイズだ。
たとえ監督のサインが違ったとしても
たとえ状況がツーアウトだったとしても。
俺は打席に立たなくてはいけない。

第5話
「煩悩に果てにSQUEEZE」 完

88名前未入力:2009/03/29(日) 01:29:14
どうすればもっと面白くなるのか

89ノンケ:2009/08/18(火) 21:13:17
休載かボツか

90春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:04:50
第6話
「遅れてきたMOBILE」

気分よく爽快に目覚めた俺。
オナニーをしないで迎える朝は元気がいい。
あ、別に下半身の元気じゃなくて体調的な意味でね。
今日は週末の土曜日。いわゆるWEEKEND。
まぁ俺みたいな人間には平日も休日も無いんだけどね。
そんでもって今日は、仕事でもしようかなと
ノーフューチャーに出勤するつもりだ。
理由は先日買出しを終えてお金が無くなったから。
天涯孤独で身寄りが無い俺にとっては
今はただ働くしかないんだ。
すぐにでも仕事ができるような動き易い服に着替えて外に出る。
広がる秋の空気。今日も空は晴天に包まれていた。

さて、ノーフューチャーの会社までは、
ここから歩くとかなりの時間がかかる。
近くに地下鉄も通っているのだが、お金がかかる。
なので、いつもこういう時は、隣の人に原付を借りていた。
隣の人っていっても希代子だけどな。
なんで原付なんか持ってるのか知らんが。
てか、JKに原付は意外と良いものでね。
だっていやらしい格好でハンドルレバーを握るんだぜ?
ニケツしてにゃんにゃんしたいとか、軽く轢かれてみたいとか
そんなん想像したら俺の股間もフルスロットルだっての。
俺は以前していた原付オナニーを思い出して、
朝立ちしたが、ここはストーリーの流れとは関係ないので割愛させていただこう。
さてさて、今日は土曜日で菜穂ちゃんは学校が休みなのだが
希代子は土曜日でも学校がある。ハハッ。ざまぁねーぜ。
つまりこの時間でも奴は起きてるはず。
俺は部屋を出て、隣の一室の前に立ち、扉を叩いた。

91春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:05:27
「おはようございます、集金です」
希代子の家のINTER-PHONEは意図的にぶっ壊されているので
扉を叩くしかないのだ。
コンコンコンコン…ガツ…ガツ…ガツ
なかなか反応がないのでノックをジャブに変更した。
右、左、右右!
目の前にあるネームプレートからの仮想攻撃を回避しながら、
堅い扉に鋭いパンチを打ち込む。
俺は覚えたてのデン○シーロールを使ってドアを翻弄すると
ドアノブに渾身のアッパーを放った。
「愛撫ーアパカッッt!!」
ダメージを受けたドアノブは3回転半すると、
カチャっと音を立てる。
そして勢いで勝手に扉が少し開いた。
「なんだカギは閉まって無かったのか畜生…」
ゆっくり開きだしたドアを一気に引く。
開けただけだから不法侵入じゃないぜ?
するとそこには既に制服姿の希代子がいた。
希代子「朝からうるさいわよ変態」

「お、おうよ。原付借りんぞ」
ここは開けたら裸で、見つめ合っちゃって、
気づいたらキャッ変態!的な流れを期待したんだが、
残念ながら相手はもう登校寸前のようだった。
まぁ希代子の事だから、そんなラブコメ的な状況になっても
期待する反応は返ってこないだろうけど。
希代子「夜までには返して」
そういうと女は玄関の前にある戸棚から
バイクの鍵を取り出して俺に渡した。
「サンクス」
俺は原付が止まっている庭へ向かった。
ドアを開けたときに、微かに感じた女の子の生活臭は
夜まで忘れないでおこう。

92春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:06:43
庭からアパート外の路地まで原付をひいてくる。
隻眼の狂犬は居なかった。
原付に跨った瞬間に、二階の方が声が聞こえてきた。
声「いってきまーす」
外の路地からはアパートの二階通路が確認できるため、
声の主が菜穂ちゃんであることがすぐにわかった。
今日は土曜日なのに制服姿…どうしたんだろう。
降りてくるのを待ってすかさず声をかける。
「菜穂ちゃんおはよー」
菜穂「あっお兄ちゃん!おはよ♪」
やや明るめの紺のブレザーにチェックのスカート。どう見ても制服。
そして肩にかけているのはチャック部分に小さなぬいぐるみの
ストラップがついた学生用カバン。
「今日は土曜日だけど、学校行くの?」
菜穂「ううん、違うの。ええとね、今日は…いつものとこ!」
俺は“いつものとこ”で何となく察した。
彼女には月に数回、“ある場所”へと行かねばならない日課がある。
理由は彼女の家族に所以するもの。
普通の人には無い、彼女だけに突きつけられた使命――
まぁ大したことでは無いので
それはまた次の機会にでも話そう。

93春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:07:06
菜穂「お兄ちゃんもこれからお出かけ??」
「う、うん。まぁ仕事だけど」
菜穂「そーなんだー」
頑張ってねと言われたのでマジで仕事頑張りたくなってきた。
ははは、単純ですね俺。でもまぁアイドルの前だとねぇ。仕方ないんですよ。
話を続けたかったので
「俺もたまにはいつものとこに行ってみたいなぁ」
と、なんとなく喋ってみた。言葉のキャッチボールですよこれ。
菜穂「え、お兄ちゃんあそこ行ったことないの?」
と聞き返してきた。キャッチボールが成立したので嬉しかった。
“いつものとこ”は実は俺は何度も行ったことがある場所なのだ。
そして自分が3年前、ホームレスだった頃の思い出の場所でもある。
だから、行ったことあるし詳しいよって答えた。すると
菜穂「えー本当?一人じゃ寂しいから
    . お兄ちゃん今度一緒に行こうよ☆」
と素晴らしい回答を頂いた。いやー言ってみるもんですね。
野球やってて良かった。夜中の素振りのおかげや。
俺の心の中の審判が手を挙げてプレイボゥr!
菜穂「あーでも、お兄ちゃん忙しいもんね…
    . なんかつき合ってもらっちゃうのも悪いし、やっぱいいや☆」
すぐさま手を交差してゲームセッt!
「そそそそんな事はありません!次は是非連れてってください!」
俺は必死に食い下がった。
だって一緒に行こうって、デートじゃないですかドキドキ。
菜穂「う…うん、ありがとう♪それじゃ私そろそろ行くね〜」
と言って、菜穂ちゃんは急いでいたのか、
近くの地下鉄の駅の方へ足早に去っていってしまった。
ちょっとハリキリ過ぎたかな。。。
もしかしたら適当に流されたのかも知れない。
少しだけ本気のキャッチボールだったんだけどね。
いつものとこ…か。今度仕事に帰りにでも寄ってみようかな。
俺はキーを回してエンジンをかけて、原付を可動させた。

94春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:07:28
街中をバイクで走る。ノーフューチャーの便所…じゃなくて会社までは、
車でおよそ20分。原付でも30分以内には到着できる距離だ。
地下鉄でも行けるが、乗り換えがあって結果遠回りなので雨の日限定。
都心環状線と呼ばれる大通りを颯爽と走り抜ける。
思えばこの原付の所持者は希代子。
その女が乗ってると考えると、なんか股の下が熱を帯びてくる。
腰を上下させ、こすってみたりなんかしちゃって。
変態ですね、ハイ。
ちなみにその子からは変態って呼ばれてます。ハイ。
こんもりと下半身の竿が、上を向いてきちゃいました。high。
…そうこうするうちに、俺は例の公園に到着した。
適当な場所にバイクを止めて敷地内に入る。
公衆便所の前で子供たちがサッカーをしていたので
その集団をかきわけて、トイレ横の用具室っぽいドアを開ける。
地下へと続くコンクリートの階段。久しぶりの出勤だった。

95春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:07:45
昼間だけどやや薄暗く感じるオフィス内。
リリア「あら、よく来たわね」
社長が出迎えてくれた。
どうも他の社員は出払っているようで、社内はリリアだけだった。
「仕事欲しいんだけど」
率直に用件を伝えようとしたが、
お茶でも飲みながらゆっくり話しましょうという事になり、
近くのふかふかなソファーに座るよう命じられる俺。
なんかムラムラするのは気のせいだろうか。
オフィスラヴ、いや、AVでよくあるシーンだな。
デスクだけある閑散とした社内に男女2人…
シチュエーションは万全だ、あとは口説くのみ。
「俺、見ちゃったんだよ。こないだお前が一人ここで自慰行為に耽ってたのを。
 なぁ、こうやって股なんかいやらしく開いちゃってさぁ」
リリア「え…そんな…嘘…私…ダグラスに見られちゃったの…」
え…本当だったのか、冗談だったのに。じゃあ…
「社長がこんなにも淫乱女だったとはねぇ、しかも自分の職場でなぁ」
リリア「や…やめて…誰にも言わないで…」
そ、そんな顔するなよ…俺もうビンビンだよ。
「へへへ。じゃぁ内緒にしといてやるから、ちょっとぐらいいいよなぁ?」
リリア「え、そそんな…待ってダグラス…あ…そんなとこに手入れないで…」
「なんだよ今更ァ、ヤリマン女のクセしてよぉ」
リリア「違うわよ…あの…こ…こう見えても…私…人とするの…初めてなんだから…」
―――みたいな展開がツウだな。

96春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:08:04
いろいろ妄想してるうちにリリアが紅茶を煎れて持ってきた。
紅茶はレディグレイとかいう種類らしいのだが、よくは知らない。
リリア「お・待・た・せ☆」
どうやら上機嫌なようだ。フフフこの女め、
さては本当にさっきまで一人で自慰行為に耽っていたのかも知れんぞ。
ここは早速探りを入れてみようぜ。
「俺見ちゃったんだよ。こないだお前がここで股を開いて…」
リリア「妄想はほどほどにしなさいよ童貞、それより例の件の続き!やるわよ!」
…。俺いつも思うんだよね。AVは二次元よりも非現実的であると。
てか童貞とか言うなーこのヤリマン女め。

「例の件ってなんだよ…もしかしてアレか?オカルト教か?」
リリア「当ったり前田のクラッカー射撃よ。あれから結構調べたんだけど、
    まだまだ情報が少ないのよね…」
はぁ。。。やっぱり例の因果教か。
巻き込まれるならとことん巻き込まれて暴れようとも思ったけど、
今は普通に金が無いんです…。
「そんな事より今すぐにでも稼げる職場は無いのか?」
リリア「もうダグラスったらガッつくわね。
    そうやって焦るのが童貞の証拠よ☆」
何気にヒドイ事を言う人だ。まぁ下ネタを振ったのは俺だけど…。
リリア「とにかく今日残った仕事は無いわ。
    だから因果教の調査が優先なの。貴方も手伝って。」
そういうとリリアはいくつかの資料を俺に渡してきた。
結局今日も俺に主導権は無いんですね。
まぁ仕事ですからね。上下関係ですからね。ははは。

97春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:08:25
◇◇◇◇◇◇◇◇◇

どうやらリリアはここ数日間、因果教の信者や関連団体に直接アポを取って
聞き込みをするなど、どこぞのジャーナリストみたいに頑張ったようだった。
リリアの調べ上げたデータを大きく分けると3つ。
1つ目は因果神理教の事、2つ目は因果教を追う抵抗勢力の事、
3つ目はその追われる“理由”だった。
まず1つ目の事から話し始める。
リリア「因果教は結成からまだ数年しか経っていない新興宗教みたいね。
    道場と呼ばれる教団施設は全国にまだ三箇所。
    ええと、東京と恐山が支部で…もう1つはまだ調査中。
    貴方も行ったからわかるだろうけど、
    東京支部っていってもずいぶんと郊外の住宅地ね。」
「へぇ。」
リリア「それで、創立者はデビルトムボウイ氏なんだけど、その人に関する情報はゼロ。
    信者のリストはある程度調べれば把握できるんだけど、
    誰がトムボウイ氏なのかはよくわからない状態。幹部とか創立メンバーも不明。
    コードネームらしきもので呼び合う事もあるみたい。」
「なるほど。」
リリア「主な活動内容は、礼拝などの儀式を中心に布教活動を行ってるわ。
    社会福祉をした記録も残ってる。」
「ほうほう。」

98春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:08:45
リリア「ちょっと何か突っ込みなさいよ!怪しげな部分はたくさんあるでしょ。」
「し…信者の数はどれぐらいなんだ?」
リリア「正確にはわからないけど、たぶん少ないわ。
    入信者数に制限があるらしいから。」
制限?宗教団体ってのは、俺からしてみれば、
たいていお布施のようなもので運営を賄うイメージで、
信者が多いに越したことは無いと思うのだが…。
リリア「なんか心理テストみたいなのを受けて
    その中でごく一部の人だけが入信を許可されるみたいね」
テスト?許可?
「…わかったぞ。教祖が顔とか身体で信者選んでんだろ。
 そんでもって密室で…ハァハァ…洗脳陵辱…許せん!!!!!」
俺は空気ちゃぶ台返しをして、空気食器を空気中に蹴散らした。
リリア「まったくもって童貞の思いつきそうな発想ね。
    そんな事してたら警察が嗅ぎつけてる時点でニュースになってるわ。」
「ん?あの警察は本物だったのか?!」
話題は2つ目のデータに移行した。

因果教を追う抵抗勢力の事。そのなかの一つである我が国の警察。
リリア「写メで隠し撮りしたんだけど、あのとき現場に居たのは
    間違いなく警察車両だったわ。あとで警察に何度も
    問い合わせたんだけど、知らないの一点張り。」
「へぇ。本当に警察ならば、もっと権力使って適当に証拠でっち挙げて
 教団を追い詰めていけばいいのにな。」
ちょっとやりすぎかもしれないが、こういう事はよくある。
こんな平和な世の中でもね。大人の事情ってヤツだ。
リリア「いいえ、もう既に因果教は色々とやられてるわよ。
    過去に3回、偽りの罪状で家宅捜索されてるわ。信者談だけど。」
「マジか。それで何か出てきたのか?」
リリア「それが、教団からは何一つ不正的なものが見つからず
    極めて健全な団体ってことが逆に証明されちゃったのよ。」
なるほど。それならばカルト教団に茶々入れるのが大好きな
マスコミも騒がないわけだ。
「なんだ、めでたしめでたしじゃん。
  ってか、じゃあなんで警察が追ってるんだよ…」
リリア「法の悪を取り締まるだけの警察は、ただ命令されて追っているだけでしょ。
    私が思うに、この抵抗勢力の正体は恐らく日本政府ね。」
「はは。大きく出たもんだな。じゃぁなんで政府が因果教を追うんだ?」
リリア「瑞樹が言ってたじゃない。因果教の力が欲しいのよ。」

99春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:09:11
話題は最後の3つ目のデータにも触れ始めた。
因果教が追われる“理由”。因果教が持っている秘密。
「力っていうとなんだ。警察や政府の弱みでも握ってるのか?
 今更だが、もう四次元のパワーの話は無しだぞ。」
確かに国家に関する何かの情報を握っているとすれば、
警察が極秘に動いているのもわかる。
リリア「そうね。まず、このサイトを見てちょーだい」

リリアがパソコンのマウスをクリックすると
そこに表示されたのは裏社会と題された匿名掲示板のスレッドだった。
リリア「いわゆる内部からのチクリ情報よ」
リリアがカーソルを上下させると、
そこには匿名ながら数多くの書き込みがあった。
リリア「この部分が凄い気になるの」
「この"動画1本3ドルから”って部分ですか?」
端に表示されているエロ広告サイトを指摘したら無視されました。
そろそろしつこいかな俺…。
リリアの指摘した掲示板の投稿にはこう書かれていた。

100春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:10:08
184 名無しさん sage 2008/10/22(水) 23:15:46
 なぁいつになったら俺らも教祖に会えるんだ?
185 名無しさん sage 2008/10/23(木) 01:04:34
 しらねぇよ。俺だって一度も会ったこと事無い。
 まぁ…あの力さえ手に入るなら、俺は何年でも待つがな。
186 名無しさん sage 2008/10/23(木) 03:22:54
 もう嫌になってきた
187 名無しさん 2008/10/23(木) 09:52:30
 力ってなに
188 名無しさん sage 2008/10/23(木) 14:01:12
 サード愛だろ常考
189 名無しさん 2008/10/23(木) 16:48:39
 サード愛ってなに
191 名無しさん sage 2008/10/23(木) 16:55:48
 ageんな馬鹿
192 名無しさん hage 2008/10/23(木) 17:01:27
 おなに
193 名無しさん sage 2008/10/23(木) 17:07:21
 おまえら内部告発すんぞ。これ以上は慎めよ
194 名無しさん sage 2008/10/23(木) 17:13:03
 サード愛ってそんなに凄いの?
195 名無しさん sage 2008/10/23(木) 17:16:35
 >>187=>>194氏ね
196 名無しさん sage 2008/10/24(金) 14:11:52
 保守

この書き込みを最後に掲示板のレスは途絶えていた。
リリア「私が調べても出てこなかったキーワード。」
「それがこのサード愛ってやつなのか」
リリアが静かに頷く。
――愛っていうと。尊師の慈愛かなんかか。
愛ねぇ…そういえば愛ってなんだろう。
なんかその単語を言葉にすると
どうも危険やミステリーな匂いは
一気にかき消される気がした。
「とんでもないラヴパワーを持ってんだな因果教は。」
リリア「何言ってるの?きっとこれは暗号よ。
     この言葉の裏に教団の何らかの秘密があるのよ!」
「それは考えすぎだよ、こうやって今日も世界は
 愛に満ち溢れているんだ。愛してるよ僕のリリ…」
リリアは俺の言葉が終わらないうちに
用意してあったメモ帳やペンなどを俺に渡してこういった。
リリア「それで今日からダグラス君には
     このサード愛について調べてもらうわ。」

101春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:10:35
「え…」
ダグラスは張り込み刑事セットを手に入れた!
っておい、勘弁してくれ金は出るのかよ。
リリア「聞き込み捜査で一番肝心なのは足よ。
    地図も渡しておくから、いろんなところで調べてきなさい☆」
ダグラスは世界地図を手に入れた!
っておい、勘弁してくれ金は出るのかよ。
社長がなんだかテンション上がっているようだ。
おそらくこの任務を遂行しなければ
金はおろか仕事を貰えないんだろう…。
「あれ、これ携帯じゃないか」
古臭い刑事セットの中に一際目立つ
現代文明の必需品を発見した。
リリア「アンタもそろそろ携帯ぐらい持ちなさいってば。
    経費は会社でもつから、何か情報があったら連絡しなさい。」
おおお、これが今の携帯電話か。
手にするのは何年ぶりだろう。
まだ俺がここに来る前、そうまだ名前が在った頃の
記憶の片隅を辿り、使用方法を確認する。
なかにはリリアの携帯番号だけが入力されていた。
「うおーリリアの番号ゲットだぜ!!」
リリア「イタ電したら殴り殺すわよ。」
「そういや今の携帯ってテレビとか見れるんだよな?」
リリア「そこまでの機能は残念ながら無いわ。
    あるのは写メ機能ぐらいの3世代前の携帯よ。」
写メ…ということは写真が撮れるのか。
うっほーい、盗撮し放題じゃないかー!
さっそくカメラの機能をスタートさせて
正面に座る女社長を激写する。
「はーいパルメザンちーず!」
パシャ!パシャ!
リリア「まるで子供ね…」
呆れた表情の美女の姿がそこにあった。
うむ、素晴らしい。今夜はこの画像でセンズリだ。
思わぬアイテムゲットに浮かれ気分の俺は
社内のあらゆるモノを撮りまくっていた。

102春日部 ◆Rher/TwxII:2009/08/23(日) 03:11:58
携帯の説明書を一通り読み、夕方に帰途につく。
菜穂ちゃんとアドレス交換してメールしたいとか、
噂の携帯エロサイトに飛んでみたいとか、
そんな事ばかりがしばし頭の中を駆け巡っていたが
お腹がすいた頃に、お金が無い事に気づいた。
今日明日はなんとか生活できるが、その先の保障は無かった。
携帯を使って新たなビジネスを探す…などとも考えたが
まぁ折角貰った携帯だし、今の仕事に使いたい。
危険が伴うかもしれないが、俺は抗う事に決めたんだ。
因果神理教という謎の組織に。
それに因果教の情報をゲットできれば
リリアといつでもどこでも電話ができる。
実際会うのと電話では印象が違うとも言うし
リリアとは仕事でしか会った事ないから
プライベート中に電話ができる可能性があるのは嬉しい。
もし電話越しに相手が入浴中だったらどうするよ。
携帯電話にはそんな興奮がある…。
なーんて考えを持つのは俺だけでしょうか。
結局、シモに走ってしまうのは俺の悪い癖だな。

さてさて、聞き込み調査か。
そうだな…明日は久しぶりにあそこに行ってみよう。
俺が以前住んでいたあの場所に。

第6話「遅れてきたMOBILE」 完

103夏侯惇元譲 ◆hq3NbS5s26:2009/12/09(水) 21:37:48
薄暗い帳の中でふと気づいた。
ブォーーーーン ブゥゥゥゥーーーン
はるか遠くに聴こえる機械のような残響音。
首元から背中にかけてガタガタと小さな振動が走った。
重たい瞼をゆっくりと開くと
それほど明るくはないフラッシュライトが
左から右へ駆け抜けていく。
しばらくそのまま天井を眺める。
ここは、どこだろう。
どんよりとした黄色い街灯が
徐々に俺の目元を照らし始める。
「起きていたのか―――」
誰かが近くで俺に話しかける。

ここは車の後部座席…
俺は寝ていたのか。
薄暗い真夜中のハイウェイ。
「今日はお前の誕生日なのか」
前で運転している男が話しかけてくる。

「いや…たぶん違う」
少し間を置いて俺はそう答えたような気がする。

「そうか…」
と、聞き取れないほど低い声で答えられた気もする。
まだ意識がよくわからない状態だった。
ダグラス=W=クリスマス。
俺のコードネームか。

………

気がつくといつものアパート…もとい社宅だった。
夢を見ていたのか、それともぼんやりと回想していたのか
それは定かではないが、
俺は昔の記憶を少し思い出していたみたいだ。
まぁとにかく今日は懐かしい場所にいくんだ。
携帯電話を見ると朝6時40分と表示されていた。
便利な機械だ。
カーテンをあけると、太陽はまだ上がりたてだった。
普段、陽の位置で時間を大まかに判断していた俺にとって
携帯電話というものは、だいぶ生活水準を向上させる。
向上…?本当にそうだろうか。
俺は今日からこのちっぽけな機械に
生活の大部分を束縛されることになるんだぜ。
生活水準の向上じゃない。形式化だ。
時間や社会に縛られ、人は皆同じような枠にはまって
その中のミクロな部分でカテゴライズされていく。
それに一喜一憂しているのがこの平和な世の中である。
うん、それでいいんだ。
幸せはいつも小さな日常の中にあるんだからね。
なんちゃって。
まぁ今日はそんな世の中から外れて生きている
変わった人々のお話である。

第7話「生きゆく術はNON−STYLE」

104夏侯惇元譲 ◆hq3NbS5s26:2009/12/09(水) 22:25:37
薄手のジャンパーを羽織る。
今日の作業内容は…聞き込み調査。
適当にボールペンと紙をポケットの中に突っ込んで外に出た。
秋も深くなって少し寒い朝だった。
いつもより時間が早いので、
菜穂ちゃんの登校風景が見れないのが残念だった。
いちおう希代子に会えないのも残念としておこう。

敷地外へ出るとスゥーっと朝の喧騒に包まれる。
ジャージ姿で大きなバッグを背負った中学生が
自分の横を駆け抜けていった。
希代子から原付を借りようかとも思ったが
最近運動不足だし、歩いていくことにした。
行く場所は、ここから地下鉄で一駅か二駅ほど先の神社。
神社。
名前を高円神社(タカマドノジンジャ)と云う。
神社で聞き込み…といっても神主さんに取材を敢行するわけじゃない。
そこにはホームレスがたくさんいるんだ。
その人たちに聞き込みをするってわけ。
ホームレスというと一般的に悪いイメージが強く
生きるだけで精一杯という感じなのだが
高円神社を拠点にしてるのはプロ市民もびっくりのプロホームレス。
奴らの生活水準はトップレベルなんだ。
無論、諜報能力も半端無い。
なんでそう言いきれるかっていうと
まぁ、昔いろいろあってね。
実を言うと俺はノーフューチャーに拾われる前は
この人達と一緒に生活していたんだ。

ホームレスと生活…ひょっとしてダグラスのイメージダウンですか?
そんな事はないぞ。まぁ話が進んでいけばわかる。
てか極論いえば初めからオナーニばっかりしてる主人公像だから
別にもう今更何も問題ないっしょ…。

さて。。。
この時間なら、朝の炊き出しに間に合いそうだ。
俺は思い出の場所である高円神社へ急いだ。

105夏侯惇元譲 ◆hq3NbS5s26:2009/12/09(水) 23:41:51
いったん大きな通りに出て、道路の脇道をひたすら歩く。
車だと早いけど、神社はこんな街道沿いには無い。
地下鉄一駅ほど歩いたら、脇道から寂れた商店街に入る。
入り組んだ道の先に、ポツンとある神社が高円神社だ。

しばらく歩いてると、だいぶ目が覚めてきたので
今のうちに聞き込み調査の事を整理しておこう。
まずは因果神理教。全国3箇所という規模は
決して多くはないが少なくもない。
インターネットの匿名掲示板で語られるならば
多少なりとも知名度はあるはずだ。
そして、教祖が持っている力であるサード愛。
リリアの前では愛がどうこうとかおちゃらけたが
愛=アイ=眼と考えるのが普通だろう。ベタだけど。
サードアイだから、三つ目の眼。
その三つ目の眼を警察が追う…。
疑問なのが「力」という事だ。
単純に警察が教祖を追うならばわかるが
「力」を追っている?

“あの力さえ手に入るなら”

という書き込みがかなり引っかかる。
教祖に会えれば、「力」が手に入る――
という書き込みの流れだったはず。
教祖はなんらかの力を持っていて、それを
人に分け与える事ができる…?

警察が追っているのは教祖つまりその根源。
力を手に入れた人にまで捜査が及んでいるのかは謎だ。
瑞樹ちゃんを追ってきた捜査員は瑞樹ちゃんを連行しなかった。
仮にその子が能力を持っていたとしても
果たして判別なんてできるだろうか。
つまり、力を与えられた人物と接触する事が
可能なのかもしれない。
“因果神理教”の持つ“サードアイ”
やがて俺は一つ前の自分の故郷に到着した。

古めかしい鳥居と、十五段くらいの石段が目の前に聳える。
鳥居の真ん中にはうっすらと高円神社という名称が朝日に映える。
境内の奥はすっかり秋色に染まった樹木で包まれていた。
石段を数段登ると、脇の茂みから煙が立ち込めているの気付く。
カレーの匂いがした。
朝から贅沢なもんだ。

106TYJ ◆isinn.INGA:2010/02/19(金) 15:16:52
春日部死亡で途中から夏侯惇先生が代筆してるな

107ダグラス:2010/10/11(月) 19:02:13
連載再開マダー

108エビオス ◆pai9VDwzPk:2010/10/11(月) 22:02:21
東京勃起サイト出展作品を聞いてやってまいりました

109TYJ ◆Rher/TwxII:2010/10/12(火) 00:41:45
今最初から見返したけど、かなりの力作だと思う

110夏侯惇元譲 ◆hq3NbS5s26:2010/10/13(水) 05:07:13
ういーす。と声をあげて匂いのする場所に近づく。
そこにはボロきれのような布の服を装備したすっぴんホームレスが数人。
神社の境内の片隅で、勝手に火を起こしてハンゴー炊さんをしている。
いいのかオイ…とツッコミたくなるが、神主がグルなので問題ない。
「久しぶりじゃねぇかダック」
一人のホームレスが話しかけてきた。元建築士の仲畑さん(61)だ。
彼は若い頃、建築現場で鉄筋を日々コツコツ盗み取り
自分の自宅を黒鉄の居城に変貌させた、建築王の異名を持つ猛者である。
その後各地で耐震偽装が発覚し、懲役刑を課せられ、罰金により資産没収。
刑務所を出た後にホームレスとなった。
ちなみにダックというのは、俺のここでの通り名。
なんか勝手に名付けられて、これがのちにダグラスとなる。
まぁどうでもいいが。

「なんじゃ食いっぱぐれてんのか小僧w」
もう一人のホームレスが話しかけてきた。元土木業の河合さん(68)だ。
河合さんは若い頃、地下鉄の延伸工事中に仲間と共謀して
目的地の駅ではなく、近くの場外馬券場へ勝手にトンネルを掘りすすめて
仕事しながら仲間と馬券を買って遊んだ、岩窟王の異名を持つ猛者である。
のちに事が発覚し、首謀者として重い懲役刑にを課せられたのは
当時有名なニュースだったらしい。刑期を終えた頃には
職場も身寄りもなくなっていて、ホームレスになった。

このように彼らは恵まれた技術を持ちながらも
社会的に少し道を間違えて生きてしまったために
敢え無くホームレスになった者ばかりなのだ。
まぁ少し間違えたどころでは無いかもしれんがな。。。

111夏侯惇元譲 ◆hq3NbS5s26:2010/10/13(水) 05:07:34
仲畑「せっかくだし食っていけや」
彼らに促され、俺は出来立てのカレーを頂くとした。
一昨日からほとんど何も食べていなかったので助かる…。
今でもたまに金に困ったときはここでお世話になっている。
しかしながら…カレーがうまい。うまいと声に出してしまうほど。
河合「芳村が作ったカレーだからそりゃ美味えべさ」
奥の手水舎で不謹慎にも洗い物をしているのが元1流シェフの芳村さん(63)だ。
経営していた店が海外のレストランガイドから9つ星評価をもらった事もある伝説の料理人。
某国大統領をフグ中毒で死亡させなければ…まぁその後の成り行きは察してくれ。

河合「近頃仕事さ無ぇだか」
昔の仲間たちがカレーをがつがつ食べる俺を心配して言った。
特に仕事が無いわけでは無いのだが
報酬の入らない仕事をリリアに手伝わされている。と、俺は答えた。
どんな仕事なんだ?というホームレスの問いに対して
いよいよ本題に入ることにした。

「みんな因果神理教っていう宗教は知ってるか?」

するとホームレスたちは、眉間にシワを寄せて
一斉になんだそりゃと、周囲にはてなマークを散らせた。
シェフの芳村さんも戻ってきたが首を横に振る。
どうやらこちらの界隈で因果教の知名度は無いらしい。
「んーじゃあサードアイっていう言葉は聴いたことあるか?」
その質問に対しても、皆の答えはノーだった。
ある程度は何らかの話題はあるのかと思ったがガッカリ。
期待外れに落ち込んでいると
河合「じゃああそこさ行ってみて聴いてみるべぇ」
仲畑「ああそうだなそれがいい」
あそこっていうと何処だろう。
こいつらは基本俺と同じくエロだ。
無料案内所でも連れてかれるのか…と勘ぐったが
仲畑「マーベラスハウスだよ、懐かしいだろ。」
違った。
マーベラスハウス。
それはホームレスたちの集会所。
多奈川の川辺に聳え立つ違法建築家屋。
凝った作りすぎて撤去するのが難しく
行政もそのままスルーし続けている。
彼らそこを拠点にして活動しているため
組織周辺の情報はすべてそこに集う。
いわばホームレス集団の本部であった。
そしてそこは、今の俺が生まれ育った場所でもあった――。

112夏侯惇元譲 ◆hq3NbS5s26:2010/10/13(水) 05:10:50
ガラガラガラ…
神社の境内脇にあるガレージを開けると
中から神輿…ではなくタクシー車両が出てきた。
仲畑「これで移動しよう、俺が連れてってやる」
ホームレスたちは収入源として個人タクシーもやっているのだ。
会社としてきちんと申請しているかまでは知らんが、
彼らの3人に1人は普通車第二種や大型などの免許を余裕で持っている。
資格に関しては彼らが持って無いモノは無いと言えるほどだ。
我々ノーフューチャーにも欲しい人材ばかりなのだが
いかんせんエロオヤジばかりなので
推挙しても残念ながらリリアに即断られて終わっている。
プレートが回送から珍走(おそらく賃走って意味だろう)にかわり
後部座席のドアが開いた。
乗ると足元にはDVDだけ抜かれたエロ雑誌が
無造作に置かれていたがここは無視しとこう。
仲畑「乗ったか?んじゃぁ出発だな」
車は神社の裏手の私有地から外に出て、なだらかな坂を下っていった。

タクシーは都心部とは離れた田舎方向へ向かう。
ここから北に行けば因果教の道場だが、南に行けば多奈川という川に出る。
マーベラスハウスはその多奈川の河川敷にある。
数十分ほど走って、運転手の仲畑さんが話しかけてきた。
仲畑「そいや、最近おめーさんのツレみねぇな。どうしたんじゃ?」
ツレ―――というとリリアの事かと聞き返す。
仲畑「いや、ボインちゃんの方じゃねぇ、体格のいい兄ちゃんだよ」
体格のいい兄ちゃん―――?
ちょっとだけ昔の事を思い起こして脳内で詮索する。
日々生きる事に精一杯だと、どうも現状と関係ない人物は忘れがちだ。
それは彼らホームレスにも言えることだ。でも彼らは普通のホームレスと違って
精一杯というより今を楽しく生き過ぎているだけだが。
まぁ何よりも俺は、昔を放棄し続けてきた男だから…そのクセが大きい。
ああ。やっと思い出した。いたな。今朝の夢にも出てきた―――
仲畑「なんだっけなァ、カイ…」
「あいつはもう会社は辞めたんだ」
仲畑さんがそいつのコードネームを言い切るのを遮って俺は端的に答えた。
カイト=H=ウインドという男が昔ノーフューチャーに居た。
ただそれだけ。それだけの事だ。
仲畑「なんだ、仲良さそうにしてたじゃねぇか。転職したのか?」
したんじゃないと適当に答えて、俺は足元のエロ雑誌を拾って話題を替えた。
近頃のAV女優は、昔に比べてレベルが上がりすぎだ。
いい世の中になってきたじゃない、と。
でもB級だからこそ良かったというのある、と。
最終的に行き着くところは皆素人である、と。
中身のDVDはいったいどこにいったんだ、と。
駅のゴミ箱から拾ったものだから最初から無かった、と。
嘘つけどうせいつものとこで上映会してるんだろ、と。
バレたか、と。
下らない話題を繰り返して、タクシーはやがて
いつものとこ…もといマーベラスハウスに到着した。

113夏侯惇元譲 ◆hq3NbS5s26:2010/10/13(水) 06:45:06
◇◇◇◇◇◇◇◇◇

河川敷に聳える大きな現代風の豪邸。
この辺りのホームレスが一致団結して建てた巨大建造物。
屋根には元発明家の信塚さん(73)が作ったソーラー発電機と
元通信士の尾形さん(66)が作った電波塔が配備され
川べりには元競艇選手の鍬田さん(57)が持ってきたボートがあり、
水力発電としても使える堤防が築かれている。
また、地中には何度も川の氾濫や増水から
建物を守った鉄柱が埋め込まれている。
そして近くの氾濫原では、じゃが芋や人参などの食物が
元農家のホームレスたちによって多数栽培され
まさに自給自足の要塞。
それがマーベラスハウスだった。

「よーダックじゃねぇか!」
「久しぶりだな!」
建物内から昔の仲間たちが俺に声をかけてくる。
どことなく硫黄の匂いがしてきたが
彼らの体臭ではない。
どうやら神社に居た元土木業の河合さん(68)が
最近地下で温泉を掘り当てたらしい。
彼らは以前にも増して清潔で健康になっているようだった。
ちなみにここは便所もちゃんと水洗である。
元配管工の牧原さん(65)が、近くの下水管に下水道を引っ張った。
もちろん違法だが、行政も川に垂れ流されるよりマシということで
見てみぬフリをしているのだ。

リビングに行くと数人のホームレスが集まっていた。
「ここに来たって事は、理由があるんだよな?」
元歯科医師の狛田さん(57)が紅茶を煎れて持ってきてくれた。
紅茶はアールグレイと呼ばれる種類だ。
俺が唯一わかるフレーバーティー。
昔、仲畑さんがミカンと間違えてベルガモットという木を
河川敷で栽培してしまい、元科学者の西東さん(63)がそれに気づき
改良してエキスを抽出し、紅茶の香料として利用したのが始まり。
とても懐かしい味がした。
「もしかしてAV鑑賞に来たのかwむふふ」
数人のホームレスがそう俺を煽りつつ、
どこで手に入れたのかわからない現代風の薄型テレビの電源を入れるが
俺はそれを断って、今日の目的である因果教の話を始めた。
紅茶を見てなんとなく、昨日会社でのリリアとの会話を思い出したから。
ちょっとDVD見たかったけどね。うん、ちょっとだけ。

114TYJ ◆Rher/TwxII:2010/11/28(日) 20:13:38
出会いと別れ、それもまた因果也

115セーフガード:2011/03/06(日) 19:57:11
3Dカメラで撮ったおっぱいエロすぎw
すれ違いおっぱい@ともも
http://oppai.upper.jp

116亡者:2016/07/31(日) 02:03:49
あご

117亡者:2016/07/31(日) 02:04:01
あご

118亡者:2016/08/02(火) 02:04:58
さいこう!


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