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156みかど:2007/03/04(日) 15:24:05
(2)

 不意に、先を進む良介が背中越しに言葉を投げてきた。
「勅使河原、死んでいたな」
 勅使河原摩夜(女子七番)と言えば、由葵を葬った人物である。反撃に狼狽しながらも輝いていた眼光は、とても容易く失われるとは思えなかった。
 いかに強力な武器を携えていても、相手が男子三人と認識した上でなおも食い下がるなど、並の覚悟ではできるはずがない。
 生か負かは問わぬとして、摩夜の全身からはエネルギーが溢れていた。
 勝ち残るという目標に向かい、脇目も振らずまい進する為のエネルギーが。
 摩夜にも何か、並々ならぬ理由があったのだろう。
 その彼女すら命を奪われてしまった現実に、驚きを禁じえずにいた。人間同士の戦いなれば、至極予想の範囲内のはずなのだけれど。
「残りは綾瀬と、向井だな」
「ああ」
 難しい。残された面子に苦悩を隠し切れない。背負う物の違いが血で血を洗う戦いに発展してしまうのだろうか。
 粗暴ではあるが不器用な優しさを持った犬悟と、前向きで爽やかな志を持っていた美春。二人はそのままの二人として、この戦場を歩いているのだろうか。
 それとも既に、黒い誘惑にその身を委ねてしまったのか。
「最悪の場合は……わかってるな、土倉」
 やるしかない、という事だ。振り返った良介に無言で頷く。――自身に刻むようにゆっくりと首を倒して。
 同時に気になる事があった。良介の事だ。
 摩夜の攻撃で由葵が木っ端微塵になった時、釦は気絶してしまった。殺そうと思えば殺せたはずだ。
 そうでなくともこの人数、優勝を目前に悪魔の囁きが不意に訪れないとも限らない。
 けれども良介は釦をしっかりと開放し、未だ共に在る事を望んでいる。だから釦も信用しているのだけれど――
「なあ、畠山。お前、俺が……」
 ――裏切るとか、考えたりしないのか?
 良介が再び振り返り、思わず言いよどむ。空気を悪くしたかと不安を募らせたが、良介は釦の言葉の意味を察したように言葉を連ねだす。
「俺な、お袋を殺した政府の催しなんかに死んでも従えないんだ。これは俺の意地だな。命を懸けた、意地。自己満足と言えばそれまでだけど、」
 良介の真っ直ぐな目に、今はなき由葵のそれを被せて映した。彼の目には、これっぽっちの揺るぎもない。
「それが俺のできる、精一杯の事だからな」
 強い。それが心が放った感想の第一声だった。対比して自分の弱さを痛感する。
 自分がここに残れているのは、彼らの後光に守られたゆえの奇跡ではないのか。
 迫る死を予感し、身動ぎしそうになる。自分は彼らと肩を並べ、この戦場を歩くだけのものを持っているのだろうか。
「畠山、俺は……」
 言いかけた矢先、微かな物音が周囲に緊張の空気を構築する。釦と良介の視線が、揃って右方へと集中した。
 そこには驚天動地を示唆する一つの人影があった。


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