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バトル・ロワイアル〜罪と罰〜【長編】
19
:
咎目千人
:2009/10/31(土) 11:54:23 ID:en4xDozY
「おい、伊谷。そんなとこに座り込んで、どうしたんだ?」
「!!」
ちょうど左横から聞こえたその声に、恭四郎は心臓が跳ねるのを感じながら尻餅をついていた。そして、目を見開いてその声の主の顔を凝視する。
……そこにいたのは、一番最初に教室を出た生徒である愛川礼二(男子一番)だった。
真夜中の闇の中でも、そのオシャレな感じの癖毛とすらりとした体格がよく見える。
しかし恭四郎はそれよりも、礼二のベルトに差し込まれた拳銃から目が離せなかった。
――――拳銃!
礼二のような運動神経抜群の生徒がそんなものを持っている、僕なんか、僕なんか簡単に殺されてしまう――――!
「綾宮にも話しかけようとしたけど逃げられたんだ。アイツ、俺より足速いから追い付けなくて……伊谷、ここで一緒にみんなを待とう。このままバラバラに出て行ったら、みんな不安になって本当に殺し合いを始めてしまう。そうなる前に、これからどうするかをみんなで考えるんだ」
礼二は穏やかな口調で語りかけてきていたが、拳銃への恐怖で頭がいっぱいになっている恭四郎には、ほとんど届かなかった。したがって、この次の瞬間に恭四郎が取った行動は、ほとんど無意識の、衝動的なものである。
「うあああああ」
恭四郎は叫び、デイパックから有刺鉄線を引っ張り出していた。
トゲトゲの部分を素手で掴んでしまったことにより鋭い痛みが走り、出血もしていたが、恭四郎はそれでも怯まず、有刺鉄線を闇雲に振り回した。
「伊谷、やめろ!」
礼二が素早く恭四郎と距離を取り、恐らくは牽制のつもりでベルトに差し込んでいた拳銃……隠し持って使うのに適した小型銃・グロック26を抜き出して撃鉄を起こしたのを見た恭四郎は、今度はうってかわってデイパックも放置したまま逃げ出していた。その手に握られているのは、一本の有刺鉄線とカギだけだ。
「待て、待つんだ伊谷!」
礼二は一瞬、分校を振り向き、恭四郎が放置していった荷物も見やったが、結局、分校の外に逃げて行った恭四郎を追うという道を選んだ。陸上部のエースだった綾宮花音(女子一番)とは違い、運動におおよそ縁の無い恭四郎になら追い付けると判断したのかもしれない。
……その一部始終を、分校の出入り口の陰から、柿本早苗は注意深く観察していた。
「うわー……始まっちゃってるんだ、殺し合い」
早苗は口に手を当てて驚いたようにそう呟いた後でグラウンドに出、恭四郎が放置していったデイパックから、メロンパンと水と合計九本の有刺鉄線だけを取り出し、自分のデイパックに移していた。
彼女は積極的にゲームに乗るつもりもなかったが、かといって大人しく殺される気もなかったのだ。いわば彼女の、このゲームにおける方針はグレーゾーンということになる。
「二分間隔って案外短いよね。ボクももう行ったほうがいいか」
早苗はチラリと自分が来たばかりの道を振り返り、そう呟いてから駆け出していた。
彼女のスカートの腰の部分には、銀色に輝くオートマチック拳銃、ブローニング・ハイパワー9ミリが差し込まれている。
……恭四郎が欲しがっていた拳銃を、礼二も早苗も当たり前のように支給されていることから考えても、やはり伊谷恭四郎というのは、運の無い男なのかもしれなかった。
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