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バトル・ロワイアル〜罪と罰〜【長編】

18咎目千人:2009/10/31(土) 11:53:53 ID:en4xDozY
試合開始


 伊谷恭四郎(男子二番)は、ぶるぶる震えながら分校の廊下を歩いていた。
 どうやらこの校舎には何十人もの兵士がいるようで、たった数十メートルの間に恭四郎は七人もの兵士とすれ違ったのだが、そのたびに彼は、教室で見た和藤忠志と津田深雪の死体を思い出し、心臓が止まりそうなほどの恐怖を覚えていた。
「殺される……僕なんか、簡単に殺される」
 恭四郎は、汗でずり落ちていたメガネを震える指先で直しながらそう呟く。
 ……恭四郎は、白鳥あすか(女子四番)の『ホワイトバード』に所属しているものの、あすかや八木沼透(男子八番)のように運動神経が優れていたり腕っ節が強かったりするわけではない。二人に勝っている点があるとすれば学力と、後は趣味でエアガンに興じているために身に付いた射撃技術だけだ。
 体力も無いし運動神経も無い、ましてやこのような状況で平静を保てるだけの精神力も無い。自分なんかがどう足掻いても、すぐに他のクラスメイトに殺されるであろうことは目に見えていた。
「あすかさん……透君……僕、どうすればいいんだよ……?」
 透はまだまだ全然先だが、あすかは四人の生徒をグラウンドのどこかでやり過ごせば合流できる出発順ではある。しかし、恭四郎には四人もの生徒を息を殺してやり過ごせる自信なんてなかった。どうせ物音を立てて見つかるに決まってる。僕は鈍臭いから。
 ……だけどもし、あすかや透と合流できたならこれほど心強いことはない、と恭四郎は考えていた。特にあすかは、恭四郎にとって親よりも尊敬する人間だ。
 『ホワイトバード』に引き入れてもらって、彼女を間近に見てきたから分かる。
 あの人はこんな状況でも自分の正義を貫ける人だ。そしてきっと、みんなを正しい方向に導ける。先ほどの教室でも、彼女は正義感ゆえの怒りを見せたじゃないか。
「あすかさん……早く来てください……」
 分校の出入り口を一歩出たところで、恭四郎はデイパックを地面に置き、慌てながらジッパーを開いていた。そこには、メロンパン(食料、なのだろう)と一リットル容器入りの水が二本、この島の地図とシンプルな時計、方位磁石が入っていた。
 そして……
「これ、は……」
 デイパックの奥に、透明なビニールのようなもので包まれたトゲトゲの付いたワイヤーがあった。それがいわゆる有刺鉄線であることに気付くには、そう時間はかからなかったが、しかし。
 こんなもので、どうやって戦えっていうんだ?
 確かに刺さると痛いし血も出る。
 だけど、銃やらマシンガンやらを持っている相手が現れたらどうする?
 こんなものを振り回したところで、パンと一発撃たれて終わりだ。
 ハズレ武器にも程がある、自分はあまり運が強いほうではないとはいえあんまりだ。
「! そうだ……!」
 恭四郎は廊下を振り返り、自分の次に名前を呼ばれるであろう柿本早苗(女子二番)がまだ姿を現していないことを確認してから、デイパックに手を突っ込んであるものを探した。まもなく指先に触れた冷たい感触……間違い無い。恭四郎はそれを引き出した。
「J3エリア……」
 地図を開いて確認してみると、どうやら恭四郎に支給されたカギが対応している金庫は、島の南端、海沿いのエリアにあるようだった。四百メートル四方といえばなかなかの広さだが、探せば見つからないことはないだろう。
 もしかしたらそこには、最低限自分の身を守れるだけの武器があるかもしれない。
 幸い、今ならまだ自分を含めて三人しか出発していない、まっすぐそこに向かえぱ、誰とも遭遇せずに武器を獲得できる確率が高かった。それから、あすかさんや透君を探すんだ。あの二人と一緒なら、きっとこんなゲームの中でも、僕は落ち着いていられる――――


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