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バトル・ロワイアル〜罪と罰〜【長編】

10咎目千人:2009/10/26(月) 22:04:00 ID:en4xDozY
「寝んのは勝手だけど人の席取んな。深雪の体のこと、知らないわけじゃないだろ?」
「……それは失礼」
 麗華は透き通った声でそう言ってから気だるげに体を起こし、自分の席の背もたれに体重を預けて再び目を閉じていた。そんな彼女を舌打ちと共に一瞥してから、あすかはすぐ近くにいた深雪に「ほら、席空いたぜ」と座るよう促した。
「ありがとう……あすかさん」
 深雪はそう言って丁寧にお辞儀し、麗華の隣の席に座る。
 ……深雪は生まれつき心臓が弱く、激しい運動を医者から禁じられている身なのだ。
 そしてそれは何気ない日常生活での行動にさえも、時折不都合をきたすほどのものだという。だから深雪は体育の授業に参加したことは一度もないし、毎週のように病院で検査をするため学校を遅刻したり欠席したりする。
 あすかはそんな深雪が麗華によって席を奪われ立ちっぱなしになっているのを見過ごせなかったのだろう。まあ、自分が座りたかったというのもあるだろうが。
「さっすがあすかさん!」
 透が誇らしげにそう言ったのに対し、席に座って腕と足を組んだあすかが、
「アタシを誰だと思ってんのよ。白鳥あすかよ、白鳥あ・す・か」
 ……と、白い歯を見せながら不敵に笑って答えた(ちなみに『あ・す・か』のときには人差し指を立て、チッチッチッ、と振って見せていた)。
 そんなやり取りに立場上、麗華が不快感を露わにしても不思議ではなかったが、彼女は眠たいのかどうでもいいのか面倒臭いのか、ずっと目を閉じたままだった。
 まあ、そのほうがいい。白鳥あすかと詰草麗華のマジゲンカなんて見たくない。
 直樹は、いつ問題が起こってもおかしくなかったこの三年一組が、なんだかんだで無事に卒業式を迎えられるであろうことを本当にありがたく思っていた。
 ……卒業。
 そう、このクラスのメンバーの何人かとは離れ離れになるのだ。
 別にそのことでセンチメンタルに浸るつもりはなかったが、それでも、さすがに少し名残惜しいような気持ちはあった。
 ――――なんてことを言ったら、透には笑われてしまうだろうな。
 直樹は含み笑いを浮かべながら、透のほうに視線を向けた。
 しかし。
「と……透?」
 ほんのついさっき、あすかに話しかけていた透がパイプ椅子にもたれ、微かな寝息を立てながら熟睡している。それこそ、ちょっとやそっと揺さぶったくらいでは目覚めそうにないくらいに思われた。
 どうしたんだろう、卒業式が近付いてきたってことで、夜寝れなかったとか?
 それこそ透らしくない……ていうか、なんだ? 俺まで、眠くなってきたぞ。
「マジ……何だよ……」
 睡眠不足や疲労で睡魔に襲われたときに感じるのとは、少し違った感覚がある。
 たとえるならそれは、優しくも強引に、何十本もの腕によって眠りの世界に引き摺りこまれていくかのような感覚だ。
 瞼が落ちそうになるのを気力で堪えながら振り返ると(首も肩も異様に重たくなっていて、そのただ『振り返る』というだけの動作に数秒を費やした)、麗華はもちろんのこと、深雪やあすかも眠りに落ちていた。
 立ち話をしていた翔子たちも、床に折り重なるように倒れて眠っている。
 おいおい、いくら眠くてもそれはダメだろ……体育館の床で熟睡とか男子でもしないぞ……?
 そんなことを考えていた矢先、直樹は瞼がストン、と落ちるのを感じていた。
 視界が真っ暗になる。
 しかしそれを、直樹の頭はすでに理解してすらいなかった。
 もう何も考えることもできず、抵抗をやめて眠りという名の海にその身を沈めていく。
 意識が途切れる寸前にほんの一瞬、脳裏をよぎったのは、何故か忘れもしない引退試合のワンシーンだった。
 泥まみれのユニフォームを着て、滝のような雨に打たれながら、バット片手に愕然としていたあの夏の記憶。そう……どんな球でもスタンドに運んできた直樹にとってまるで予想外の、最終回での疑いようのない三振KOだ。そして直樹たちの夏は、そこで終わった。
 ……行きたかったなあ、全国大会。
 なあんて、最初から無理だって分かってたけどさ……。
 でも、夢見たっていいよなあ……だって、野球、大好きだもん、俺……。
 ――――直樹の意識は、そこで途切れた。
【残り20人】


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