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仮面ライダー総合@エロパロ避難所

1名無しさんが妄想します:2010/09/05(日) 23:57:15
エロパロ板 仮面ライダー総合エロパロスレ
の避難所です。エロパロ板に書き込めないときなどに。

*煽り・荒らしはスルーしましょう。あくまでも大人の為のスレです
*作品投下後、数レスまたは半日待ってからの作品投下にご協力お願いします
 (作品が流れるのを防止するためetc.)
*保管庫についてはエロパロ板のスレ参照
*次スレは>980が立ててください(不可能な場合は代理を頼んでください)
*ネタバレを含む雑談は警告+改行を入れる
*ネタバレを含む作品は名前欄に明記するか前書きで説明する
*エロパロ板へ転載希望あれば投下時に書き添える

160158:2010/11/28(日) 00:56:47
>>159

転載開始しようと思ったのですが、どうもこちらのスレに投下された分の
1レスの行数が多すぎるようです
本スレ(エロパロ板)は1レスMAX60行らしく、>134の「海夏2」で
100行あり、その他も70行を超過しているレスがあります

60行を超過しても投下できるのか練習用スレッド等で試してはいませんが、
いかがいたしましょうか。
こちらで勝手に分割するのも何なので、「こうして欲しい」等の希望があれば
教えてください

161159:2010/11/28(日) 04:40:26
>>160

それでは、海夏1は「そんなことを考えていた傍から大樹さんが現れた」2は「あ、もう………泣きそう」で、半分にわけて、3は「いい子だね」から分けて残りは4に、4は「やっ!!やだ!!」から半分に、5は「泣きたくないのに涙が滲んで来る」から残りは6に、6は「わかった」から半分にしていただいて、9スレにしていただいてよろしいでしょうか?
これで、行数も大丈夫だと思います。
もし、それでもオーバーした時はキリのいいところで分割をお願いしてもよろしいでしょうか?


なんだか色々とお手数かけてしまい、申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

162158&160:2010/11/30(火) 00:46:06
転載を開始します
指定の通りだと行数を超過するレスがあるようなので、すみませんが
こちらの判断にて分割し、全11レスとさせていただきます
※1レスの行数を揃えたりすれば9レス程度にはなるかもしれませんが
 あまり手を加えすぎるのも失礼かと思うので

163158&160:2010/11/30(火) 01:02:27
転載終了しました
一応確認はしたつもりですが、ミスなどあったらすいません

さて自分はエロ店長とヘタレアンクの話を書く作業に戻ります

164161:2010/11/30(火) 12:41:20
>>163

色々お手数かけましたが、転載ありがとうございました。


エロ店長×ヘタレアンクをwktkしながら待ってます。

165アンク+比奈 0/2:2010/12/06(月) 21:28:00
規制中なのでお世話になります。

アンクと比奈でエロなし小ネタ。
いちゃつく二人が無性に書きたくなったので。

166アンク+比奈 1/2:2010/12/06(月) 21:29:44
 大きな木の上の枝に腰掛け、アンクはぼんやりと視界に映る景色を眺めていた。
 間近には住宅街、少し離れたところには空を貫かんとそびえる高層ビルが立ち並ぶ。
 封印されている間に世界はその姿を大きく変えた。
 昔の面影を残す空と海でさえ、記憶にある風景よりくすみ澱んで見える。
 進化と引き換えに人間が奪い、壊したもの。
 欲望に満たされた世界――目の前に広がる光景がすべてメダルの源だと思えば、
それは少なからずアンクの心を湧き躍らせた。
「ねぇ」
 澄んだ声が、下からアンクに話しかける。
「そんなところで何してるの?」
「別に。人間の世界を見物してるだけだ」
「悪巧みしてるんじゃないでしょうね?」
 アンクを見上げながら、比奈が軽く幹に手をついた。
「考えるくらいいいだろうが! おい、揺らすなよ?」
 万が一に備え、アンクは枝をしっかりと掴む。
 今のところ、比奈が木を揺らす気配はない。
「高いところが好きなの?」
「まぁな」
「……煙となんとか」
 比奈がぼそりと、暗号のような言葉を呟く。
「なんだ? それは」
「なんでも」
 そう言って、比奈はアンクを見上げて小さく笑った。
 よく判らないまま、アンクも同じような笑みを比奈に返す。
「何かいいものが見える?」
「さぁな。知りたいなら、おまえも上がってくるか?」
 アンクは戯れに右手を差し出し、比奈を誘った。
 スカート姿の比奈が木登りなど出来ないことは百も承知の上だ。
 拗ねて頬を膨らませる比奈を見て笑ってやろうと思ったのに、比奈はアンクの予想を裏切って嬉しそうに笑った。
「いいの?」
「ん?」
 比奈は両手で木の幹を抱くように掴み、くぼみに足を掛けて木を上り始める。
「おい、寄せ! 危ないだろうがっ」
「へい、き……っ」
 一飛びで枝に降り立つアンクと比べ、比奈の木登りは見ていて危なっかしいことこの上ない。
 今更やめろと言っても聞く筈のない比奈を見下ろし、アンクはいつでも右腕だけで動けるようにと構える。
 やがて比奈の手がアンクがいる枝に辿り着くと、アンクは比奈の腕を掴んで一息に枝の上まで引き上げた。
 比奈の躯を腕の中にしっかりと抱え込み、アンクは盛大にため息を吐く。
「この馬鹿……!」
 背中から抱きしめた比奈の肩に額をぶつけ、アンクは唸るように怒鳴った。
「少しは考えて行動しろ! 怪我でもしたらどうするつもりだ」
「あなたが来いって言ったんじゃないの」
 ゆったりとアンクの胸許に背中を預けた比奈が、拗ねたように頬を膨らませてアンクを顧みる。
 その顔を見ても笑うだけの余裕がアンクにはなかった。

167アンク+比奈 2/2:2010/12/06(月) 21:32:03
 人間の娘に振り回される自分に腹が立ち、強烈な自己嫌悪に襲われる。
「それに」
 恨めしげに顔を上げるアンクの右腕を、比奈が両手でそっと抱いた。
「もし私が落ちたら、ちゃんと助けてくれるでしょ?」
「おまえは……」
 はにかむように微笑む比奈に、アンクは仕方なく苦笑いを浮かべる。
 その通りなのだからどうしようもない。
 アンクは比奈の頬に軽くキスをし、反対側の頬に手を添えて振り向かせた比奈の口唇にもくちづけた。
 比奈が落ちないよう、広げた足の間に座らせ、両腕を腰に回して比奈の躯を支える。
「何かいいものが見えるか?」
 アンクの腕の中で安心したようにくつろぐ比奈に問いかける。
「んー……家とか、ビルとか……空とか海とか」
「大していいものなんか何もないだろう」
「でも、楽しいよ。こんな場所から見たことないもの。なんだか、違う街を見てるみたい」
「そんなものか」
 アンクには判らない。
 何処から見ようが、世界は皆同じだ。
「嬉しい」
 比奈が呟く。
「ん?」
「あなたと同じ場所で、同じ景色を見てるのが……嬉しい」
 さらりとそんなことを言われて、アンクは返す言葉に詰まった。
 好きだとストレートに告げられるよりも気恥ずかしく、ぐっと腹の底を掴まれるような、喉の奥を締めつけられるような、
不思議な感覚がせり上げる。
 アンクは右腕を持ち上げ、比奈の頬にそろりと触れた。
 指先で軽く摘んでむに、と引っ張る。
「やだ、何するの」
 痛くはないからか、比奈はくすくすと笑いながら首を振ってアンクの指から逃げた。
 アンクの肩にこつんと頭を預け、比奈が上目遣いでアンクを見上げる。
「照れてるの?」
「うるさい」
「照れてる」
「うるさい。黙れ」
 アンクは楽しげに笑う比奈の頬をもう一度摘んだ。
 そしてその手を広げ、小さな頭を抱きしめるようにして比奈の頬にぺったりと押し当てる。
 そのやわらかなぬくもりが心地よい。
 比奈の首筋に顔を埋め、アンクは静かに眼を閉じる。
 同じ場所から同じ景色を見ていても、グリードであるアンクと人間である比奈の目に映る世界が同じである筈がない。
 それは恐らく比奈も知っているだろう。
 この穏やかな時間が永遠に続くものではないことも。
 それでも今は二人、こうして誰よりも近くにいる。
 それが嬉しいと比奈が言うのなら、この世界が比奈の生きる場所であり、彼女の目に少しでも美しく映ると言うのなら、
メダルを集めるそのついでにもうしばらくはこのまま、映司が平和とやらを守るのに力を貸してやろうと――
誓うように密やかに、アンクは思った。

168アンク+比奈 3/2:2010/12/06(月) 21:35:18
帰りはアンクが比奈を姫抱っこして飛び降りればいい。
更にアンクがスカートの裾を気遣ってやったりしたら個人的に超萌える。


転載してくださる方がいらしたらよろしくお願いします。
投下ありのアナウンスだけでも構いません。

169名無しさんが妄想します:2010/12/06(月) 21:40:08
GJ!!!
物理的にも近い二人の距離に萌えた!
ちょっと今から転載ちゃれんじしてきます。

170165:2010/12/06(月) 22:12:50
>>169
転載ありがとうございます。
お手数をお掛けしました。

レスもありがとうございます。
嬉しいです。励みになります。

171名無しさんが妄想します:2010/12/08(水) 12:50:58
まだまだ規制中なんでオーズの流れを逆に突っ走って呟いてみる。

海東×ネガみかんとか思い付いたんだが、需要あるのか……?

まあ、あってもなくてもいつか書くんだろうがww

172名無しさんが妄想します:2010/12/08(水) 12:51:48
まだまだ規制中なんでオーズの流れを逆に突っ走って呟いてみる。

海東×ネガみかんとか思い付いたんだが、需要あるのか……?

まあ、あってもなくてもいつか書くんだろうがww

173名無しさんが妄想します:2010/12/08(水) 17:43:19
悩むより行動じゃないかな。スレの為に何ができるかを考えなさい

174名無しさんが妄想します:2010/12/09(木) 18:55:33
パスワードは聞いちゃいけない・聞かれても答えちゃいけない
って大前提があるけどさー、

「保管庫は2010/06/09から更新休止している」
「入力するのはテンプレ参照+保管庫参照で計8文字」
ってことがノーヒントで
現スレ読んだくらいじゃ解読困難なのは問題だよな

175兄妹中毒 0/4:2010/12/12(日) 17:14:52
またまたお世話になります。
規制解除はいつですかorz


バカップル兄妹と、気の毒なメダル怪人の話。
軽い小ネタギャグのつもりが4レス程度の長さになっちゃいました。
エロと程遠い内容ですみません。

176兄妹中毒 1/4:2010/12/12(日) 17:17:24
「助けろっ!!」
「は?」
 比奈の両肩を掴み必死の形相で迫るアンクを、比奈は怪訝な顔で見返す。
 一体どうしたと言うのか。
 いつもは比奈を避けるようにしているアンクが、比奈の休憩時間を待ちかねたように声を掛け、この屋根裏部屋まで
引っ張るようにして連れてきたのだ。
 お互いにいい感情を持っていない比奈に助けを求めるくらいだから、余程切羽詰っているのだろう。
 アンクの肉体は大事な兄のものである以上、自分が力になれるならと比奈はアンクを見上げて訊ねる。
「助けるって、どうやって?」
「触らせ」
 比奈は皆まで言わせず、アンクの両の頬を掴むと渾身の力で捻り上げた。
「このセクハラ怪人……!!」
「いでぇ!! 離せ、痛い痛い痛い!!」
「お兄ちゃんの躯で痴漢なんてやめてよね! 前科がついたらどうしてくれるの!?」
「違う!! 俺じゃない、こいつだ!」
 比奈の手をはがそうともがきながらアンクが叫ぶ。
 立てた親指で自らを指し示し、 
「こいつがおまえに触りたがってるんだよ!!」
 悲痛な、それでいて何処か滑稽なアンクの絶叫が屋根裏部屋に響いた。
 思い掛けないアンクの告白に比奈は絶句し、その両手から力が抜ける。
「……お兄ちゃんが……?」
「おかしいぞ、おまえら兄妹!」
 赤く腫れた頬を押さえ、涙目のアンクが比奈を睨みつけた。
「何がよ」
「自覚がないのか。サイアクだな!!」
 アンクは信吾の顔を不快げに歪ませ、赤い腕を振りかざしながらうろうろと落ち着かなく歩き回る。
 ちらちらと比奈に視線を向けては、嫌なものを見るように目を逸らすということを数回繰り返し、やがて
堪えきれなくなった様子で比奈に向き直った。
「いいから、とにかく触らせろ!」
「きゃあっ!」
 素早い動きで伸びてきた腕が比奈を捉える。
 次の瞬間にはアンクの胸の中にしっかりと抱きしめられ、比奈は悲鳴を上げた。
「離して! ほんとに締めるよ、その腕!!」
「こっちも好きでやってるわけじゃない! あとで好きなだけ殴らせてやるから、大人しくしてろ」
 比奈を抱きしめ、アンクがぜぇぜぇと苦しそうな息を吐く。
「ちょっと……大丈夫?」
 どうやら本当に具合が悪そうで、比奈はアンクの背中に手を回してその背をさすった。
 しばらくして、アンクがぼそりと吐き捨てる。
「……禁断症状だ」

177兄妹中毒 1/4:2010/12/12(日) 17:20:17
「なんの?」
「言っただろ、こいつがおまえに触りたがってるって」
「うん。……って、あなたが私に触らないから、そんなになってるって……こと?」
「そうだ! 眠れないし、イライラするし、動悸息切れ目眩諸々って、おかしいだろ、こいつ! 
どれだけ妹が好きなんだよ!」
 アンクに低く怒鳴られ、比奈は赤面した。
 確かに兄妹でのスキンシップは多い方だと思う。
 しかし、触れ合いが減ったからといって体調に異変を起こすなんて聞いたこともない。
 アンクの言うことが本当だとして、逆に言えば今までは禁断症状が出る暇もない程触れ合っていたと
言うことかもしれないが。
「兄妹なんだからいいじゃない。お兄ちゃんが私を好きだって。私だってお兄ちゃんが好きだもの。
あなたに文句言われるようなことじゃないわよ!」
「限度ってものがあるだろう。自覚がないようだから教えてやるが、おまえら本当に変だぞ!?」
 比奈を抱きしめたことで禁断症状とやらか薄れたのか、アンクが憎々しげに声を荒げる。
 アンクの背に両手を回したまま、比奈も負けじと怒鳴り返した。
「さっきからおかしいとか変とか! 何がよ!」
「大体べたべたとくっつき過ぎなんだよ。何かと言えば抱き合うわ、出掛けるとなればしっかり腕は組むわ! 
変だろう、兄妹で!」
「別に普通でしょ、兄妹なんだから。それくらい誰だって」
「普通!? 普通で、『あーん』とか言いながら餌を食わせ合ったりするか!?」
「それは半分こしたりする時で、それにその方が美味しいし」
「おはようのキスに、いってらっしゃいのキスに、おかえりなさいのキスに、おやすみなさいのキスが普通か!?」
「誤解招くような言い方しないでよ! ほっぺたとおでこだけよ! あいさつじゃないの!」
「ガキじゃあるまいし、一緒のベッドで寝る兄妹の何処が普通だ!?」
「あれはお兄ちゃんが酔った時とか、しばらく帰れない日が続いた時とか……ってどうしてあなたが
そんなこと知ってるのよ!?」
「見えるんだよ、こいつの記憶は全部お見通しだ!」
 自慢げに唸るアンクに、比奈の躯が怒りと羞恥でかっと熱くなる。
「……プライバシーの侵害よ! 勝手に人の躯間借りしてる上に覗きまでするなんて最低!!」
「うるさい! 勝手に流れて来るんだよ! こいつのシスコンに俺がどれだけ迷惑してると思ってる!」
「見ないでよ! 目も耳も塞いでて!」
 抱き合いながら激しく怒鳴りあう二人の姿は他人の目にどう映ることだろう。
 幸い、屋根裏部屋のこの騒動は階下にまでは届いてないらしく、ギャラリーが現れる気配はない。
 いい加減喉と耳の両方が痛くなってきて、二人はどちらからともなく言葉を切った。
 なんだか酷くくだらないことで言い争っているようで、黙り込んだ途端どっと疲れが押し寄せて来る。
 比奈とアンクはお互いに睨みあったまま、大きくため息をついて肩を落とした。
 そうして落ち着いてみれば、密着した男の躯からふと兄の匂いがする。
 比奈はアンクの顔を見つめ、赤く腫れた頬にそっと手を伸ばした。

178兄妹中毒 3/4:2010/12/12(日) 17:23:19
 躯は兄だと判っているが、アンクが相手だと思うとどうしても手加減が出来ない。
 痛みに顔をしかめるアンクの頬を指先で撫で、口唇で触れる。
 宥めるようにもう一方の頬にもキスをして、比奈はアンクの胸許に顔を摺り寄せた。
 比奈にとってもずっと触れたくて我慢していた兄のぬくもりに、ほっとして目を閉じる。
「……おまえら、絶対におかしいからな」
 声のトーンを落としながら、アンクは自分の主張をまだ曲げない。
「そうかなぁ……」
「こいつの頭の中、おまえのことばっかりだぞ。メシは取ってるかとかちゃんと寝てるかとか学校の成績はどうだの、
変な虫がついてないかだの、躯の具合は大丈夫かとか泣いてないかとか」
「ちょっと黙って」
 比奈はアンクの口を手のひらで塞いだ。
 兄が自分を大事に思っていてくれることは知っているが、それを他人から赤裸々に暴露されるのは
気恥ずかしくて聞くに堪えない。
 出来ればアンクの記憶からも消し去ってしまいたい程だ。
 頬に朱を昇らせながら、比奈は兄との穏やかでやさしい日々を想う。
 自然と言葉がこぼれた。
「ずっと、二人きりだったの。お父さんとお母さんが突然いなくなってからずっと」
 その分、お互いの中で相手の存在が占める割合が大きいのは確かだ。
 大好きで、大切で、ぬくもりを確かめずにはいられないのだと、アンクに理解して貰えるとは思えないまま、
比奈は自分達兄妹の過去を言葉で辿る。
 信吾の記憶が見えるというアンクには今更の話かもしれない。
「お兄ちゃんもまだ若くて大変だろうからって、私だけ親戚の家にお世話になる話もあったの。でもお兄ちゃん、
私の面倒は自分が見るからって。大丈夫だって、頑張ってくれて、すごくすごく頑張ってくれて……それで、
ずっと二人で暮らしてこれたの。お兄ちゃんがいてくれるから、私、二人だけでも淋しくなくて……」
 兄のぬくもりに包まれて、何も憂うことなく過ごしていたあの幸福が、もう随分昔のことのように思えた。
 兄に甘え、頼るだけの無力な子供だった自分は、どれだけ兄の負担になっていたのだろう。
 縋るばかりでは駄目だと決意したあの時から、今まで見ない振りをしてきたその事実が比奈に重くのしかかる。
 比奈の前ではいつも笑っていた兄への申し訳なさで胸が痛い。
「でも、もし私がいなかったら、そしたらお兄ちゃん、もっと自由で、もっと楽でいられたのかなって……」
 ごめんなさい。
 お兄ちゃん、ごめんなさい。
 声にならない想いが心にあふれる。
 どうしてアンクにこんなことを話しているのだろう。
 まるで懺悔のようだ。
 どうせ、この男には何も届きはしないのに。
「違う」
 不意にやさしい声が比奈の耳に落ちた。
 アンクの口調とは違う、穏やかで甘い、懐かしい声が。
「俺だって、比奈がいるから、頑張れるんだよ」
 いつもの笑顔が目に浮かぶ、そんな兄の声だった。

179兄妹中毒 4/4:2010/12/12(日) 17:25:27
 比奈は驚いて顔を上げる。
「お兄ちゃん……?」
「あぁ?」
 だが、そこにあるのはやはり冷たい眼差しをしたアンクの姿だった。
 それでも確かに、今聞こえた声は信吾のものに間違いない。
 比奈は大きく目を見開いてアンクを見つめる。
 そこにいるの?
 私のそばに、今もずっといてくれるの?
「お兄ちゃ……」
 呼びかける比奈をアンクが不思議そうに見返す。
 その首が突然がくんとうなだれ、アンクの躯は比奈にもたれかかるようにしてずるずると沈み始めた。
 アンクの躯を抱えながら比奈は膝を折って一緒に座り込む。
「ちょっと、アンク!? 何よ、どうしたの?」
「……むい」
「え?」
「眠らせろ。しばらく、ろくに寝、て……な……い」
 呂律が怪しくなったかと思うと、アンクは電池が切れたように動かなくなってしまった。
「やだ、ほんとに寝ちゃったの? ねぇ?」
 軽く揺すってみるがアンクの答えはない。
 無防備に比奈に躯を預け、規則正しい寝息を立てている。
「……子供みたい」
 比奈は小さく笑いながら呟いた。
「普段はあーんなに威張ってるのにね」
 アンクの髪に指を絡ませ、頭を撫でていると安らいだ気持ちが広がる。
 比奈はアンクを抱えてゆったりと座り直した。
 アンクをベッドに移すのは簡単だが、そうしようとは思わない。
 比奈は膝の上のアンクの顔をいとおしげに見つめた。
 アンクの鋭い瞳が隠れると、その顔には兄の面影が色濃く表れる。
「兄離れしようと思ってたんだけどなぁ……」
 いいのかな。
 もう少しの間はこのまま、甘えていていいのかな。
 愛されていて、いいのかな。
 いつか、兄が目を覚ました時には甘えるだけじゃない、ちゃんと兄を支えられる一人前の人間になっていたい。
 兄を守れるくらい強くなって、兄を驚かせたい。
 でも今は。
 比奈が比奈でいるだけで、兄の支えになっているというのなら、もう少しだけ小さな子供の比奈でいても
いいのかもしれない。
「お兄ちゃん」
 あどけない笑みを浮かべ、身をかがめて信吾の顔を覗き込む。
「お兄ちゃん。大好き」
 甘えるように囁いて、比奈は眠る男の額にくちづけを落とした。

180名無しさんが妄想します:2010/12/12(日) 17:27:14
ナンバリング間違えました。
177は「2/4」です。

181名無しさんが妄想します:2010/12/14(火) 23:09:15
>>180
乙!素晴らしいィー!

182名無しさんが妄想します:2010/12/15(水) 10:38:42
>>175GJ!いい話なのに
振り回されたり痛い目に合うアンクさんで笑っちまうw

183名無しさんが妄想します:2010/12/15(水) 20:50:11
>>175
アンクに流れるお兄ちゃんの記憶がバカップルどころかアツアツな新婚のレベルとしか思えないw
二人がハグりながら喧嘩してる映像は脳内でしっかり再生された
特にアンクのお前らおかしいと喚いてるあたりなんかは声まではっきりとw
転載できないのがもどかしい
GJ

184名無しさんが妄想します:2010/12/15(水) 21:12:46
>>175
GJ!

本スレのほうもまたーりしてるし
燃料補給のためにもいっちょ転載に挑んでくる

185184:2010/12/15(水) 21:17:48
転載完了しますた
それにしてもこの規制の嵐はどうにかならないのか……

186175:2010/12/15(水) 22:07:01
>>185
転載ありがとうございます。
お手数お掛けしました。

>>181-183
ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

187アンク×比奈 0/2:2010/12/19(日) 19:27:58
甘さ控えめエロ薄め。

「……ありがと」に激しく萌えて、可愛い話を書いてたつもりなのにおかしいなorz
今日は二度もアンクが比奈を庇ってて非常に幸せでございました。

188アンク×比奈 1/2:2010/12/19(日) 19:30:10
 悲鳴に似た嬌声が男の耳を打つ。
 何処かにあどけなさを残したその声は悲痛としか言いようがなく、アンクは声を立てて笑い出したくなるのを堪えた。
 傲慢で冷酷な笑みを浮かべ、組み敷き貫いた娘を見下ろす。
 乱れて顔に貼りついた黒い髪、そこから覗く紅潮した頬、そして涙に濡れた大きな瞳。
 日頃の生意気な態度からは想像もつかない、耐えるようにただ弱々しくその身を投げ出した比奈の姿は、
アンクの鬱憤を晴らし、その欲望だけが渦巻く心を満足させるのに充分だった。
 比奈の気の強さも、人並みはずれた腕力も、信吾という盾の前では恐れるに足りない。
 そうやってアンクは比奈の躯を手に入れた。
 別に比奈が欲しかったわけではなく、比奈にとって最も屈辱と苦痛を覚えるだろう行為として選んだだけだ。
 殺してはいないし、肉体も最初を除いて傷つけてはいないのだから、映司に文句を言われる筋合いもない。
 卑怯者と力ない声で罵る比奈の言葉さえ心地よく、昼間の比奈の暴力すら可愛いものだと思える。
 なんて楽しい。
 なんて愉快なのだろう。
 速い呼吸に合わせて上下する乳房にくちづけて、その頂点を口に含んでもてあそぶと、紅を刷いた白い躯が
震えるようにびくりと跳ねる。
 すらりと伸びた足がもどかしげにベッドを蹴り、シーツの上に艶やかな波を描いた。
 赤く濡れた口唇からは切なげな喘ぎと吐息がとめどなくこぼれている。
「比奈」
 アンクは努めて低い声で名を呼び、比奈の注意を自分に向けさせてその顔を覗き込んだ。
 潤んだ双眸にアンクの姿が映る。
 アンクの目に映る比奈の姿は、彼女の瞳に、そして心にどう見えることだろう。
 兄の仇と憎む怪物に抱かれ、乱され、快楽に溺れる比奈自身の姿は。
 大切な兄を守る為に、比奈は怪物にその身を差し出しただけでなく、兄妹で愛し合うという罪を犯し、
自らがアンクに加担する恰好で信吾にも同じ罪を背負わせた。
 その苦悩と葛藤がどれ程のものか、人ならぬアンクは知る由もない。
 ただ、自らの行為に苛まれ苦しむ比奈の姿はそれだけで酷くアンクを酔わせた。
 絶望と希望の間を揺れ動くその心が、傷ついて涙に濡れるその顔が、世界に見捨てられたように頼りなく、
兄の躯を持つアンクに縋りつくしかないその姿こそがアンクの快楽だった。

189アンク×比奈 2/2:2010/12/19(日) 19:32:01
 だからアンクは、時に比奈を手酷く扱い、時に信吾を真似てやさしく振舞ってみせる。
 穏やかな声で比奈の名を呼び、大きな手のひらで頭を撫で、羽根のような愛撫で快楽を与える。
 比奈にとってはアンクから与えられる快感が同時に苦痛であることを知って尚、比奈の心を惑わせ、
その躯がアンクから離れられなくなるように。
 アンクは、何かから逃れるようにシーツを固く掴んだ比奈の手を取り、自分の首にしっかりと絡ませてから
激しく腰を揺すった。
 耳許で比奈が声を上げる。
 熱い吐息が掛かる。
 もっと啼いてみせろと心の中で命じながら、何度も腰を打ちつけて比奈の中の欲望を煽った。
「あ……アン、ク……っ」
 比奈がアンクの名を呼ぶ。
 そうするようにとアンクが言い聞かせたからだ。
 比奈の口から他の男の名は聞きたくない。
 比奈に他の男の名を呼ばせたくない。
 信吾は勿論、例えばそう、映司の名も。
 アンクの脳裏を、映司のまっすぐな眼差しがよぎる。
 比奈と信吾を守る、と映司は言う。
 その言葉と想いが本気で、本物だということは知っている。
 だからこそ面倒で厄介なのだ。
 だが――と、アンクは映司の必死な表情を思い出し、鼻で嗤った。
 だが、どうやって守る?
 既に比奈はこの手に堕ちているというのに。
 俺の勝ちだとほくそ笑むアンクだが、しかしその端から或いはという疑念が湧き上がる。
 或いは映司なら、アンクから比奈を救い出し、宣言通りに守り抜くこともやってのけるのではないかと――。
「比奈……」
 奇妙な焦燥感に駆られ、アンクは比奈を抱く腕に力を込めた。
 声には出さず呟く。
 映司などに守らせるものか。
 比奈は俺のものだ。
 俺だけのものだ――。
「アンク……っ、ア……ン、ク……アン……」
 譫言のように繰り返される比奈の声がアンクの興奮を加速させる。
 流れる涙ごと比奈の頬に喰いつくようなキスをして、アンクは自らの欲望を解き放った。

190名無しさんが妄想します:2010/12/19(日) 21:34:00
>>187 おつ!転載いってくる

191190:2010/12/19(日) 21:37:56
>>187転載終了!>>188の6行目が好きです

192187:2010/12/19(日) 22:06:21
>>191
早々の転載ありがとうございます。
お手数お掛けしました。

好きと言って頂けて嬉しいです。
照れますな。

193名無しさんが妄想します:2010/12/24(金) 23:36:23
メリクリ。
今だ規制中の俺です。
本スレのクリスマスネタに便乗してしつこくDCD海夏で即興で書いてみました。

まあ、長編海夏の延長な感じで読んでくださると嬉しいです。
いつもの如く海夏嫌いな方はスルーでよろ。
では、次から。

194クリスマス(海夏)2/1:2010/12/24(金) 23:38:14
今日はクリスマスイブ。
最近、顔を出してない彼は、来てくれるのかな………?
聖夜なんだから、今日くらいは来てくれますよね……?





はぁ…………

12月24日。聖夜の光写真館。
いつものメンバーで開いたクリスマスパーティーが終わり、片付けをしながら彼女は一人、溜息をついた。
「やっぱり………来ませんでした……」
ソファーで酔い潰れている士とユウスケに毛布をかけて、また溜息。

「ごめん、今回はしばらく帰れそうにないんだ。でも、イブにパーティーするんだよね?それまでには帰ってくるよ」
一ヶ月前そう言って、家を出たのに。
「パーティー、終わってしまいました……大樹さん……」
カチャ………
静まり返った部屋に、食器を重ねる音が響く。
「大樹さんの馬鹿………」
そんなに放っておいたら、私、浮気しちゃいますよ……
むぅ……と、口を尖らせて呟いたその時。

「それは、困るな」

空間が歪んで、聞き間違えるはずのない男の声が聞こえた。

ドキンッ……!

「夏海は僕の大事なお宝なんだから、他の誰にも渡さないよ」
「大樹さん!」
「間に合っては………ないみたいだね……ごめん、遅くなって」
オーロラから姿を見せた海東が、バツが悪そうに苦笑しながら言った。
「遅すぎです。ケーキも御馳走も、ぜーんぶなくなりました!」
ぷいっ……と、そっぽを向いて冷たく言い放つ夏海。
「ごめんね。許してよ、なーつーみ」
「知りません!」
ツーン!!
すっかり機嫌を損ねてしまったお姫様を、どうすれば笑顔に出来るか。


王子様なら知ってますよね……?


「夏海、ごめん。今まで帰って来れなかった訳を話すから、ついて来てくれないかい?」
「………………」
「お願いだよ」
ね?
と、必死に言ってくる海東に、「べつに……良いですけど……」と、仕方がないふうに夏海が折れた。

195クリスマス(海夏)2/2:2010/12/24(金) 23:39:38
「はい、もう良いよ夏海。目、開けて……?」
海東に頼み込まれて、違う世界にきた夏海。
「僕が良いって言うまでは、目を開けたらダメだよ?」
と、言われて素直に瞳を閉じたまま、海東に連れてこられた場所は……

「凄い………綺麗です……!!」
夏海は綺麗に飾られた部屋に連れてこられていた。いや、それにも驚いたがそれより。
「凄いだろう?どうしてもクリスマスイブに、この景色を夏海に見せたかったんだ」
その、部屋の大きな窓から覗く夜景が声も出ないくらいに美しかった。
夜空に煌めく星と、街灯。そして、一際輝いているクリスマスツリー。
「じゃあ、ここって……?」
「そう、僕の世界」
夏海の言葉に、海東が笑顔を見せた。
「ここ、兄さんの家なんだ」
「えっ……?」
「前にここに来た時、この部屋使わせてもらったんだけどさ、夜景がすごく綺麗だったんだ。だから……」
「そうなんですか」

でも

「だからって、どうしてこんなに……?」
帰って来れなかったのか。まだその答えが結び付かなくて不思議な顔を見せた。
「………に…………兄さんの仕事を手伝ってた」
「えっ……?」
「兄さんに一日この部屋を使いたいって頼んだらさ、俺の仕事を手伝ったら部屋を好きなように使わせてやる……って」
どうにも言いにくそうに伝える海東。
以前、この世界で平和を守るために14に仕えていた事が災いした。
純一の仕事の補佐や、海東が昔作った教育プログラムの改善。揚句に新人の指導まで。
ここぞとばかりに海東に仕事を言い付ける純一。おかげで、やることは次から次にあった。
「まったく……教育プログラムなんて今確認してみると、理想ばかりでさ………」
頭を掻きながら、少し愚痴を零している海東に、夏海が尋ねる。
「だから、帰ってこられなかったんですね」
「うん……まぁ……」
「なんだか意外です。大樹さんがお仕事なんて」
「酷いな」
海東はそう言うが、嫌な気はしていなかった。何故なら、夏海が振り返って海東に見せたその顔が、零れんばかりの幸せそうな笑顔だったから。
「ありがとうございます。大樹さん。こんな素敵なクリスマスプレゼント貰えるなんて……」
よかった。機嫌がなおって………
その笑顔を見て胸を撫で下ろす海東。どうやら王子様の魔法はちゃんとお姫様を幸せに出来たらしい。
「喜んでもらってよかったよ。じゃあ……僕も、クリスマスプレゼント……貰うよ……?」
窓に手を添え、夜景を見つめてる夏海の髪を撫でる。
「えっ?でも、私、プレゼントなんて……」
「僕にとって最高のプレゼントは―――」
綺麗な髪を耳にかけて、そのまま頬に手を添えて。
「君だよ……夏海……」
その唇が、ゆっくりと静かに重なった。



※※※※※※※※※※※
即興で書いたんで山無し意味なしオチ無し……

しかも、エロくもなくてごめんなさい。

転載は遠慮します。ではでは!

196名無しさんが妄想します:2010/12/25(土) 11:41:19
>>193さんは最高です!もう長編海東は
自分の世界に定住して夏海を嫁にすればいいのに…
…お宝大好きだから無理か……

あと>>194の名前欄は2/1じゃなくて1/2な!

197名無しさんが妄想します:2010/12/25(土) 21:15:44
>>196
よく聞こえないな。もっとはっきり言いなさい(753か)


夏海を嫁に〜
のとこを読んでいたら、海東はきっと夏海が妊娠でもしないかぎりケコーンはしないだろうなぁとか思ったww
と、言うか、そんなのが書きたくなったじゃないか、どうしてくれるww

198名無しさんが妄想します:2010/12/25(土) 23:10:27
>>197さんは最高です!妊娠結婚編を全裸待機してます!!」

199名無しさんが妄想します:2010/12/29(水) 11:46:10
ども、規制どころか、ネット環境が携帯しかなくなった、通りすがりの海夏書きです(言い切った!!)

海夏妊娠話に萌えて書いてみました。
相変わらずエロ無しでダラダラ長いです。
流石に即興では書けませんでした。

では、相変わらず海夏嫌いな方はスルーでお願いします。

200海夏妊娠話1:2010/12/29(水) 11:48:59
どうしよう……………

洗面所の前で、夏海が何かを手に不安げな表情を浮かべて呟く。

大樹さんには言えない……こんなこと……
でも、どうすればいいの……私……

いくら考えても答えは出ない。
夏海はため息をついて、それをごみ箱に捨てる。
彼女が持っていたそれは妊娠検査薬。
それに示されていた結果は―――

陽性。







それから数日経ったある日。
「夏海ちゃん、最近元気ないね?どうしたの?」
「えっ?そんなことありませんよ?」
士も栄二郎もいない時、夏海の様子がおかしいと感じたユウスケが、夏海に尋ねる。夏海は、内心ドキンとしたが、笑顔で答えた。
「最近あいつ来ないもんね。やっぱり海東がいないと寂しい?」
少し、からかうつもりで言ったのに、その夏海は海東の名を出した途端、泣きそうな顔になった。
やはり、海東の名前を出されると弱ってしまう。
「………夏海ちゃん……?」
いつもなら、「そんなことありません!」とムキになるのに。いつもと違う夏海の様子に、ユウスケは怪訝な顔をした。
「おい、夏みかん。お前が元気がない原因はこれか?」
と、そこに士がやって来て、夏海が使った検査薬を取り出した。
「士くん!!どうしてそれを!!」
「知られたくないなら、こんなモン普通に捨ててんじゃねぇよ」
呆れたように溜息をつきそう言う士に、夏海は黙ってしまった。





「妊娠四ヶ月?」
「はい……」
ユウスケの言葉に返事をして、視線を落とす夏海。
先日、自分で検査をしたが、やはりそれだけでは不安で、病院で調べてもらおうと思った夏海。でも、祖父に一緒に来てほしいなんて言えるはずがない。いや、妊娠したかもなんて事が言えるはずかない。色々考えた末、すごく勇気がいったが一人で病院に行った。
「おかしいな……って、思ってたんです……その………ずっと………なかったし………」
自分のそういうことを話すのは、やはり恥ずかしいのだろう。俯き、耳まで赤くして言う夏海。流石に二人とも、何が?と、そんな野暮なことは聞かなかった。
「夏海ちゃん。それ、海東に言わなきゃ……!」
夏海は首を振る。
「どうして?だって、その子は海東の……!」
「駄目です!!絶対に駄目!!赤ちゃんができた……なんて……」
そんなことを伝えたら、きっと海東を困らせてしまう。それに、こんなことで自由な彼を縛り付けたくはないから。
だから。
「大樹さんには何も言わないでください」
「言わないで……って、夏海ちゃん!!どうするの!!」
ユウスケが眉を寄せて夏海に尋ねるが、彼女は何も答えずに立ち上がった。
「病院……行ってきます……」
「病院って………まさか……夏海ちゃん!!!」
嫌な予感がしてユウスケは夏海の後を追う。
「夏海ちゃん!!待って!!夏海ちゃん!!」
次第にユウスケの声が小さくなり、そこには士が一人残された。
夏海は海東には秘密にしておいてくれと言っているが、そのまま放っておけば、否応なしに海東にわかってしまう。
と、言う事は。

きっと、夏海は………

「納得いかねぇ………!!」
一人考え、苛立ちを含み呟く。その床には、夏海が今向かっているだろう産婦人科の診察券が落ちていた。

201海夏妊娠話2:2010/12/29(水) 11:49:36
二人が出てからしばらくして。

「やあ、こんにちは」
何も知らない海東が、笑顔でやってきた。
「あれ?士だけ……?」
きょろきょろと、部屋を見渡して言う。
「あぁ……」
ぶっきらぼうに答える士。
「またお宝か……?」
「あぁ、今回も素晴らしいお宝が手に入ったよ」
士の問いに笑顔で言う海東。
「………………」
海東は知らないから仕方ないのだが、その笑顔に次第に腹が立ってきて、士はガタンと立ち上がった。


夏海があんなに悩んでいるのに、いつもこいつはお宝、お宝。一体何をしてんだ!!


「おい、海東!ちょっと来い!!」
乱暴に海東の腕を掴み、引っ張る士。いきなりの事に海東は怪訝な顔をした。
「ちょっと、なんだい士!離したまえ!!」
「るせえ!!いいから来い!!」
海東の抗議を無視して、彼を外まで引っ張り出す士。
「……っの、馬鹿野郎が!!」
バキィッ!!!と、派手な音が響き、海東が勢いよく倒れる。
手加減無しの本気のパンチだ。
「いきなり……何を!!」
海東の口の端から血が流れていた。いきなり殴られて訳がわからないふうだ。
「るせえ!!夏みかんの事、いつまでもフラフラしてんな!!」
「夏海の……?」
流れた血を拭い、首を傾げる。
「おまえ、あいつが今どんな思いでいるか、一人でどれだけ悩んでるか、わからねぇだろ」
「……?何の事だ…………?」
「自分で夏海に聞いてみろ。これ以上、あいつ放っておいたらお前がしたみたいに掻っ攫うぞ」
士はポイと、海東に何かを投げつけた。
「…………?」
眉を寄せて、士が投げたそれを不思議そうな顔で手に取って見る。それが何か、認識できた途端、ガバリと身体を起こした。
「今、夏海はっ?」
「病院だ。随分思い詰めた顔してたぞ」
「有難う、士!行ってくる!!」
立ち上がり、走り出す。
「お前っ!どこの病院か知ってんのか?」
「産院片っ端から叩く!!」
くるりと振り返りいつものように指鉄砲を撃つ仕種を見せて、走っていった。
途中、足をもつれさせ、倒れそうになっている。
「ったく、馬ー鹿……」
夏海が忘れていった診察券をヒラヒラさせて、海東の背中を見送る。
まあ、尋ねられても元から教える気なんかなかったが。

あいつ、あんな焦るくらいは想っているのか……

「喜べよ、夏みかん……」
海東はお前が思ってるより、ちゃんとお前の事愛してるよ。
「あーあ……何やってんだかな、俺……」
士は嘲笑を浮かべて呟いた。

202海夏妊娠話3:2010/12/29(水) 11:51:37
ユウスケは夏海の後を追い、そのまま産婦人科まで来ていた。
ここに来る途中も、ユウスケは何度も夏海を説得したが、彼女は黙ったままだった。結局は、受付を済ませてそのまま診察を待っている。
それにしても、男の身で産婦人科に来るのはかなり肩身が狭い。お腹の子の父親でもないから余計に。
それでも、夏海を放っておくわけにはいかない。
「ねえ、夏海ちゃん。赤ちゃん、どうすりつもりなんだ?」
「………………」
「ねぇ、夏海ちゃん……もしかしてさ………」
ユウスケが言わんとする事を察したのか、夏海はスカートをギュッと握りしめた。
「今日……予約しようと思います」
「駄目だよ!!!!!」
ユウスケはガタンッと立ち上がり声をあげる。しかし、周りから一斉に睨みつけられて、慌てて座った。
「駄目だよ、夏海ちゃん。これは夏海ちゃんだけの問題じゃないよ?一度で良いから海東に話さないと」
相変わらず首を横にする夏海。
「大樹さんに……迷惑がかかるから………」
そして、震えた声で言う。
「大樹さん……自由な人だから……私に赤ちゃんが出来たなんて知ったら……邪魔になるじゃないですか……」
「夏海ちゃん………」
「そんなの……駄目……大樹さんの重荷になるの……嫌だから………だから、こうするのが……一番良いんです……」
だから、堕胎する………と、そう言う夏海の表情は、今にも泣きそうで。本心ではない事が伺える。
確かに、海東は今でも自由奔放で、相変わらずイマイチ掴み所がない。いつもの表情の裏側にある、その本心は滅多に見せない。
だけど。
夏海の前だとそのスタイルは全部崩れ去る。
と、言うことは、それくらい夏海の事を想っていると言うことで、赤ちゃんが出来たからって迷惑がることなんてない。と、そう思うのに。
「そんなことないと思うよ?夏海ちゃんが思うより海東は………」
「光さん、光夏海さん」
その時、看護士が夏海の名前を呼ぶ。
「はい」
「夏海ちゃん待って」
ユウスケの声を無視して、夏海は診察室に入った。





「夏海ちゃん……」
待合室でユウスケは一人、そわそわしながら夏海を待っていた。本当なら、無理やり夏海を家まで連れて帰りたいくらいだ。しかし、仲間ではあるが、夏海の妊娠とは無関係な自分が口を出す問題ではない。
いっそ、漫画みたいに海東が駆け付けてくればいいのに……と、都合のよい考えがよぎったその時。
男が一人、病院に駆け込んできた。
「……………?」
必死な形相で入ってきたのは海東だった。彼は、息を整える隙もなく、受付に尋ねる。
「すみませ……こちらに光なつみ……」
漫画みたいなことが起こった!!
一体どれだけ走ったのか、息を切りながら尋ねている海東にユウスケが呼び掛けた。
「海東!!」
その声に海東が振り返る。
「小野寺くん!じゃ、ここに夏海も?」
「ああ!今、ちょうど診察受けてるけど、夏海ちゃん、とんでもないこと考えてる!」
「まさか……!」
ユウスケの言葉の意味を察して、険しい表情を見せる海東。「うん」と頷くユウスケ。
「お前が止めてくれ!!」
「うん」
海東は慌てて診察室に向かった。

203海夏妊娠話4:2010/12/29(水) 11:54:43
「どう?悪阻とか始まった……?」
診察室では、先生が見ていたカルテを置いて夏海に尋ねていた。優しそうな、雰囲気の良い女医だった。
「いいえ、まだ……」
「そう。じゃ、エコー見てみましょうか?そっちに寝てくれる?」
「はい」
夏海は、言われたとおりにベッドに横になる。
「失礼します」
看護士が夏海のお腹を出すと、女医はエコーを当てて、赤ちゃんの様子を見る。夏海も一緒に、ふよふよと浮き動いている赤ちゃんを見て、心音も聞いた。
「………うん、赤ちゃんは元気に育っているわ」
「そうですか……」
「……で、この前は迷っていたけど、結局どうするの?」
「………………」
自分の中で懸命に動く小さな姿を見て、正直、涙が出るほど愛おしさが込み上げた。
愛する海東との子供だ、産みたくないはずがない。
でも、考えを変えるわけにもいかないのだ。
「まだ、結婚はしてないのよね……子供のお父さんには相談したの……?」
「……………いいえ……」
「言えないような人なの……?」
また、俯き黙ってしまう。溜息をつく女医。
夏海は、一度深呼吸して顔をあげた。
「あの……先生……!私…………堕ろそ……」
「ちょっと待って!夏海!!」
ガラッと勢いよくドアが開き、海東が夏海の言葉を遮った。
「大樹さん!!」
「もしかして、あなたが赤ちゃんのお父さん?」
「そうです!僕が、赤ちゃんの……父親……です!」
「………!!」
突然の、海東の出現に言葉が出ない夏海。いや、それだけではなく、自分が父親だと女医にはっきりと告げたことにも驚いた。
海東は、ハァハァと肩で大きく息をしていて、走ってきたのだとわかる。彼は病院を知らないから、きっと、いろいろ探し回ったのだろう。
「夏海っ!!ど……どうして、僕にっ……何も言わないんだ!!」
夏海の肩を掴んで言う。まだ、息が乱れていてしっかり話すことが出来ない。
「大樹さん……だって……」
「だってじゃない!!僕に……内緒で……赤ちゃん堕ろすなんて、絶対……許さないからな!!!」
「大樹さん……」
海東は女医に向かい、まっすぐ見つめた。
「先生!!赤ちゃん……産みます!ぜっ……絶対産みますから!!いいよね、夏海!」
「だい……き……さん……」
思いがけない海東の言葉に、夏海は涙ぐんで、こくんと頷いた。



※※※※※※※※※※

ごめんなさい、また続きます。
次の投下で終わりますのでしばしお待ちを。

204海夏妊娠話5:2010/12/31(金) 22:16:23
大晦日にこんばんは。
夏海妊娠話しが書き終えたので投下します。
海夏エロ無しです。嫌いな方はスルーで。


※※※※※※※※※※※※



「夏海……」
「……はい……」
「僕、まだ怒ってるからね……?」
「…………」
産院から三人で帰ってきてから、海東と夏海は二人きりで部屋にいた。
夏海はソファーに座り、その向かい合わせに海東が跪いた恰好で彼女を見つめている。
「夏海……?どうして僕に何も言ってくれなかったんだい?」
そのまま尋ねる海東に、夏海は黙ってしまった。
「……………」
今まで夏海を抱くときは、避妊をしたことがなかったから、いつかはできるだろうと思っていた。
それくらいは覚悟していたのに、夏海は違ったのだろうか……?
「赤ちゃん、いらなかったの……?僕との赤ちゃんは迷惑だった……?」
夏海は首を横に振る。
折角できた、一番好きな人との赤ちゃんを、産みたくないはずがない。
「じゃあ……どうして?」
「……………」
「夏海……?」
海東は夏海の手を握り、まっすぐ見つめてくる。
「……………だって…………」
夏海は、重々しく口を開いた。





あの後、夏海を連れて診察室を出ようとした海東だったが、「折角来たんだから」と、女医が海東にエコーで赤ちゃんを見せてくれた。
「……………っ…!!」
まだ全然目立たないお腹の中で、懸命に動いている小さな赤ちゃん。夏海の胎内に確実に息づいている小さな命を見て、海東は感動して思わず涙を流した。
「じゃあ今度は、何もなかったら一ヶ月後に来て?あ、もう母子手帳も貰える時期だから貰いに行ってね」
「はい。ありがとうございました」
どこか嬉しそうにそう言う女医に海東は頭を下げて、夏海を連れて診察室から出た。
「夏海ちゃん、海東!」
相変わらずそわそわしながら二人を待っていたユウスケだったが、診察室から出てきた夏海はとても幸せそうで、良い方向に落ち着いたのだ胸を撫で下ろした。だが、反対に、目が赤くなっている海東を見て、不思議な顔をした。
暫くの間海東は、それをネタにされ笑われる羽目になる。





「大樹さんに……迷惑がかかるから……」
「…………?」
「初めてわかった時は……嬉しかったの……」
そうだ。嫌なはずがない。
士との時もそうだったが、できても良いと思って海東に抱かれていた。
好きな人との子供だから、困る事はない、と。
だけど、良く考えたら。
「でも……私、どうしようって……大樹さんには言わないほうが良い……って……」
「どうして……?」
「大樹さん、いつも言ってるじゃないですか……自由を奪われるのが一番嫌だ……って……」
「……っ!!」
目を見開く海東。
「赤ちゃんができたなんて言ったら……大樹さんを縛ることになるから……きっと……私の事、重荷になる……」
夏海の言葉に、何も言えなくなる。重荷だなんて、そんな風に思ったことなどない。例え夏海に赤ちゃんができたとしても。
「そんなの嫌だから……」
「………………」
「だから……わた……し……」
そう言う声が、涙で震える。
「夏海………」
「わた……し………あかちゃんを………」
堕ろそうとした。そう言う前に、耐え切れなくなったのか、涙がポロポロと零れ落ちた。

205海夏妊娠話6:2010/12/31(金) 22:17:03
「……………」
そんな姿を見ていたら、怒っていた自分が情けなくなってきた。以前、夏海から自分はダメな男を好きになる、と、言われたが、そこまでダメな男だと思われていたとは……
しかし、夏海を責めるわけにはいかない。いや、そう思われても仕方ないことばかりしてきた。
士の言う通りに、いつもフラフラして夏海を一人放っているのは事実。でも、離れていても心は強く結ばれていると思っていた。だが、それは、自分勝手な思い込みで、本当は夏海をこんなにも不安にさせていたのだ。
赤ちゃんが出来たのに、誰にも相談できずに一人で悲しい決断をして、どれだけ辛かったか……
「なつみ………」
海東は立ち上がり、泣いている夏海の頬をその手で包み、胸に抱き寄せた。
「ごめんね……夏海……」
「だい……き……さん……」
夏海は震える手で大樹にしがみついて、嗚咽を漏らした。
夏海の背中を宥めるように撫でながら、今までの事を思い返す海東。
宝を捜し当て、写真館に戻るといつも笑顔を見せてくれていた夏海。今まで、少し拗ねられたことはあったが、宝を探しに旅に出るのを引き止められた事も、本気で責められた事もなかったから。
だから。
「夏海は、僕がどんなに長い間いなくなってもいつも優しかったから、僕の事わかってくれてるって、思ってたんだ……僕、ずっと夏海の優しさに甘えてた。寂しかったね……ごめんね……」
「だいき……さ………」
「馬鹿だ……僕。そんなふうに夏海を苦しませて、本当に……ごめんね。夏海」
申し訳ない、と切に思った。
「僕達の赤ちゃん……産んで……くれるよね……?」
細いの肩に手を置き身体を離して、今だ涙を流している夏海に尋ねる。産院でも夏海に聞いたけど、もう一度、確認。
「はい……」
「ありがとう、夏海」
海東は、夏海の涙を拭いキスをして、強く抱きしめた。
その時、海東にある決意が浮かび上がる。それは、今までも考えたことはあるが、まだずっと先の事だと思っていた。
でも、僕達の子供なんて、これ以上ないお宝が手に入る今、迷うことはない。
今度こそ、トレジャーハンターは廃業だ。
「夏海」
「はい……」
次に発する海東の言葉に、やっと落ち着いた夏海は号泣することになる。




「結婚しよう……結婚、してください。夏海」

206海夏妊娠話7:2010/12/31(金) 22:18:49
夏海が海東の求婚を受けて一ヶ月が経った。
「夏海、大丈夫?ゼリー作ったけど、食べられるかい?」
「平気……ありがとう……」
海東は、ベッドに横になっている夏海の身体を起こして器を渡す。夏海は悪阻が始まり、食べたらすぐに吐いてしまいほぼ一日中気分が悪くなっているため、殆どの物が食べられなくなっていた。
「どう……?」
「美味しいです。これなら食べれそう」
ゼリーを一口食べてから、ありがとう。と、青白い顔で微笑む。
この時夏海は、妊娠五ヶ月に入っていた。
あの時、結婚を決めた二人だったが、実はまだ結婚式を挙げてはいなかった。本当は、夏海のお腹が目立つ前に、式を挙げようと思っていたのだが、先の騒動から数日して夏海の悪阻が始まり、それどころではなくなった。
結局は、入籍だけ済ませて、赤ちゃんを産み、落ち着いてから式を挙げようと言うことになった。
違う世界に住む二人が、本来入籍できるはずがないのだが、海東が結婚を決め、兄純一に二人で報告に行った所、純一の方から話しを持ちかけてきたのだ。夏海の戸籍を手に入れる、その条件として純一が言ったのが、海東が自分の世界に定住し、純一の補佐になることだった。
それを聞いていた夏海も、良い話しだとは思った。しかし、それは栄次郎と離れることになる。だから、夏海は少し迷い、すぐに答えを出せなかった。だが、住む世界は別になるけど永遠に逢えなくなるわけじゃないから、と、栄次郎に背中を押されて純一の話しを受け入れた。
だから、今、夏海は海東の世界の人間となっている。
あれから海東はと言うと、本当にぱったりと他の世界に行くことはなくなった。夏海は、一度だけ海東に聞いたことがある。本当に旅に出なくていいのか?と。
すると海東は、「ここに夏海っていう大事なお宝があって、あともう一つ、どこに行っても手に入らないお宝が手に入るのに、どうして旅に出なくちゃいけないんだい?」と不思議な顔をして、反対に尋ねてきた。それからは、一度もその質問をしたことはない。
今、海東は、光写真館に夏海を残し、兄の仕事を覚えるべく純一の手伝いをしている。
そう、二人はまだ光写真館で生活をしている。だが、子供を産み、落ち着いたら海東の世界に移り住む予定だ。






そして、出産予定日より三日が過ぎた日。とうとう、夏海に陣痛が始まった。
産院に着き、分娩室で陣痛の間隔が縮まるのを待つ夏海。最初は弱かった痛みも時間が進むにつれ次第に強くなってくる。今まで体験したことのない痛みに、苦しい、早く抜け出したい。そんな思いばかり頭に浮かんでいた。
「頑張って!夏海」
そんな夏海の手を、海東は強く握り締めた。



その瞬間は、海東と夏海、若い夫婦にとっては待ち遠しい事だっただろう。悪阻は酷かったが、出産自体は特に問題無く、夏海は元気な赤ちゃんが産んだ。それはそれは、夏海によく似た可愛らしい女の子だった。
名前は、生まれる前から決めていた。二人の名前から取って「夏樹」と。
二人は、手探りながらも精一杯の愛情を注いで夏樹を育てた。
特に、海東が夏樹を可愛がりすぎな感があり、それはもう夏海が妬くのではないかと言うほどの溺愛ぶりで、正直、周りは少し引いていた。

207海夏妊娠話8:2010/12/31(金) 22:25:19
そして、夏海の出産から一年後―――


ある晴れた日。街中の小さなチャペルで、一組のカップルが結婚式を挙げる。
そこには、もう数人の招待された人達が座っていた。その中には、懐かしい顔も見られた。

その、控室。

今日の主役である新婦が既に着替えを終えて、椅子に座っている。上品なレースがあしらわれたシンプルなデザインのウェディングドレスとベール。
それは、美しい花嫁姿の夏海だった。
コンコンと、控室のドアがノックされる。
「夏海、海東くんとユウスケくんが来たよ」
「はい、おじいちゃん」
返事をすると、まず栄次郎が入ってきた。
これより前に、栄次郎と二人きりの時、挨拶をした夏海。栄次郎は今さら、と笑ったが、本当は今までの事が思い出されて、二人とも少し泣きそうになっていた。
「夏海……」
そして海東とユウスケが入ってくる。
「大樹さん……」
「綺麗だよ、夏海」
「……ありがとう」
少し恥ずかしげに頬を染めながら言う夏海。彼女も、初めて見る海東の正装に、実はときめいていた。
「ホントに綺麗だよ、夏海ちゃん」
「……ありがとうございます。ユウスケ」
「夏樹ちゃんも可愛いね」
夏海の傍で立っている、可愛らしいピンク色のドレスに身を包んだ夏樹を見て、ユウスケが頭を撫でる。夏樹は嬉しそうに笑っていたが。
「小野寺くん!僕達のお宝に気安く触らないでくれないか」
海東がユウスケの腕を掴んで言った。いまだ溺愛ぶりは健在である。
「大樹さん、止めてください!」
「夏海、だって小野寺くんが」
「だって、じゃありません!いい加減に、そんなみっともない事するの止めてください!」
「………………」
夏海に言われては何も言えなくなり、海東はふて腐れた。そんな海東に、ユウスケが耳打ちする。
「お前、意外と尻に敷かれてんのな」
「煩いよ、小野寺くん」
吐き捨てるように言い、ふい、そっぽを向いた。
その時。
「馬子にも衣装ってホントだな」
控室のドアが開き、男の声が聞こえた。
「士くん!!」
「よう」
それは、士だった。
彼の姿を見て、そこにいる四人はホッとした。士に招待状を渡した時、「俺は絶対行かねえ!」と、言っていたからだ。
「士くん、ありがとう」
「勘違いするなよ。俺はただ、緊張してガチガチになってるあの馬鹿を、笑ってやりに来ただけだ」
海東を指差しぶっきらぼうにそう言う姿を見て、照れ屋な士らしいと夏海は微笑む。
純白のウェディングドレスを身に纏った夏海を見つめ、士は素直に綺麗だ、と思った。
正直、自分ではない男の隣に、その姿で夏海が立つとは思ってもいなかったが。
「まぁ……あれだ……」

おめでとう

士が小さく呟き、少しだけ、二人の時間が止まる。
見つめ合う二人を、ユウスケと海東はただ黙って見ていた。
「おい、海東」
「何かな?士」
「テメェ、一発殴らせろ」
士が海東に向かい合い、乱暴に胸倉を掴んで言う。周りの空気が一瞬固まった。
「ベタ過ぎるね。だが断る」
しかし海東は、笑顔で士の腕を掴んで振り払った。
「それは普通父親の台詞だ。それに、君にはもう、二年前に思いっきり殴られたからね」
「馬鹿か、あれはあれだ」
「でも、あれで目が覚めたよ。ありがとう、士」
「別に、お前のためにしたんじゃねぇよ」
やはり、ぶっきらぼうに言う。そして、夏海を見た。
「おい、夏みかん」
「はい……?」
「海東に飽きたらいつでも戻ってこいよ。夏樹も一緒に面倒見てやる」
「なっ……!何を馬鹿な……」
「わかりました」
「えぇっ!!ちょっと、夏海!!」
思ってもいなかった夏海の言葉に、海東が夏海に詰め寄る。
「大樹さんに飽きたら……ですよ」
クスクス笑いながら、海東に言う夏海。
「飽きさせないようにしないとなぁ、海東」
「あ……当たり前だ!おかしなことを言わないでくれたまえ!」
ポンとその肩を叩いて言うユウスケの手を振り払い、ムキになって言い返す海東。その様子が可笑しくて、皆が笑っている中、栄次郎に抱かれていた夏樹も一緒になって笑っていた。

コンコン

「海東さん、そろそろはじまります」
「はい」


さあ、そろそろ式が始まる。

208海夏妊娠話9:2010/12/31(金) 22:27:20
教会のドアの前。入場を待つ夏海と栄次郎。夏海は栄次郎の腕に、自分の腕を絡める。
「おじいちゃん………」
「ん……?なんだい、夏海……?」
もう、こんなふうに栄次郎と一緒にいることはできない。少し寂しいけど、これからは新しい世界で、新しい家族との、新しい生活が始まるのだ。
「んーん、なんでもありません」
夏海は首を振った。
「では、入場してください」
大きく教会のドアが開いた。
「さぁ、いくよ、夏海」
「はい。おじいちゃん」
パイプオルガンの曲が響く中、二人は一歩を踏み出した。
その曲に合わせて二人がゆっくりと歩く。祝福してくれるのは、古い友達と、今まで旅をした、色んな世界で知り合った人達。

そして。

一歩一歩、中央通路を二人で歩を進ませ、夏海が見つめるその先には――――


「夏海」
祭壇の前で、正装した海東が夏海を見つめている。
海東との距離が縮まり、二人は海東と向かい合う。
「じゃあ、夏海を頼みましたよ海東くん」
「はい」
海東は、栄次郎に深く頭を下げて夏海の傍に寄り添った。そして、祭壇の前に立つ二人。
賛美歌の後、誓いの言葉を交わし、指輪を交換する。
「それでは、誓いのキスを」
神父の言葉に、海東がベールを上げると夏海は瞳を閉じる。その肩に手を添えて、静かにゆっくりと唇を重ねた。
それはとても神聖で、美しい口付けだった。
式が滞りなく終わり、皆から祝福の言葉を受けながら退場する二人。その間、二人はずっと手を繋いでいた。





最初は、理解不可能な人だと思ってた。周りを掻き回して、結局はその笑顔で何でも煙に巻いて。
しかも、一番最低な方法で、私を愛していた人から無理矢理引き剥がした貴方。一時期は憎んでいたときもあった。
でも本当は、凄く寂しがり屋で優しい人。その心に触れた時、愛しさが込み上げた。
だけど貴方は、私が思っていたよりも、ずっとずっと私を愛してくれていた。

だから。

貴方に誓います。




お宝以外、何もなかった僕が初めて愛した君。
でも、愛し方がわからない僕は、散々君を傷付けて、許し難い罪を犯した。
それでも君は、僕を選んでくれた。こんな最低な僕を。
それなのに、想いが繋がっても尚、好き勝手してきた僕を、見捨てもせずにずっと愛してくれていた。

だから。

僕は誓おう、君と夏樹に。





変わらない、永遠の愛を。




※※※※※※※※※※※※※
これで終わりです。
年を越す前に書き終えてよかったです。
それでは、よいお年を。

209名無しさんが妄想します:2011/01/01(土) 11:50:16
>>199&>204
完結おつかれ!良いお年玉だ、感動的だな
純一兄さんも平穏そうでなにより

210名無しさんが妄想します:2011/01/01(土) 23:39:06
>>208 乙〜完結待ってたよ!

211名無しさんが妄想します:2011/01/14(金) 22:21:30
エロパロ板の694さん乙!

212名無しさんが妄想します:2011/01/16(日) 08:29:36
本スレが書き込めんかった
容量オーバーか
次スレはテンプレどうすっかね

213名無しさんが妄想します:2011/01/16(日) 09:28:20
自分も気づいて今立てようかとしてたとこ。
オーズで考えてみたけど、話し合ってからの方がいいかな?

214名無しさんが妄想します:2011/01/16(日) 10:23:23
現行だしオーズでいいんじじゃないの?

215名無しさんが妄想します:2011/01/16(日) 13:07:31
んじゃスレ立て行ってくる。
不備があったらフォローよろしく。

216名無しさんが妄想します:2011/01/16(日) 13:30:47
立ててきた。

仮面ライダー総合エロパロスレ13
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1295151571/

217名無しさんが妄想します:2011/01/16(日) 13:37:03
>>216 乙!!
しかし、容量オーバーはやいな。
まあ、それだけ投下が多いということで、喜ばしいことだな。うん。

218名無しさんが妄想します:2011/01/16(日) 13:42:26
>>216乙!クスクシエの破廉恥なフェア自重w
規制中なのでこっちで、以下補足と訂正


*ねたバレは前書き警告+空白改行を入れる
*カップリング説明や注意書きは前書きか名前欄に明記推奨

保管庫のパスはsage、プラス保管庫参照。
「現行」とは2010年6月当時の現行TV作品のこと。
環境により閲覧できないことがあります。

219名無しさんが妄想します:2011/01/16(日) 21:12:34
>>218
補足ありがとうございます。
本スレに転記しました。

220名無しさんが妄想します:2011/01/16(日) 21:14:10
>>218
補足乙!
転載してきた

221220:2011/01/16(日) 21:16:23
二重転載しちまった orz
5103に一発バズーカでも打ち込んでもらってくる

222名無しさんが妄想します:2011/01/18(火) 11:33:47
以下エロパロ板の>24宛て


エロパロ板>16と、(年月日じゃなく)月日を合計した『半角8文字がパス』。

パソコン推奨だが、2chDAT落ちスレミラー変換機ver.12
ttp://mirrorhenkan.g.ribbon.to/
とかに過去スレURLを入力して直接読む方法もあるよ。

223規制中なので:2011/01/21(金) 19:04:19
ダブルファイナルステージ&トークショーDVD
個人的見どころ(要約)



・冴子と3人の男達による修羅場!!俺が得した!
 冴子さんエロいよ冴子さん流石です。
・冴子と若菜がムキになってキャットファイト。
・「橋で電話越しに会話するフィリ若」を切なく再現コーナー。
・「橋で電話越しに会話するフィリ若」をなぜか照亜樹で甘酸っぱく再現、
 駆け落ちの相談がプロポーズみたいで燃える。
・「ジーン編ラストで振り切りすぎるキス魔照井」再現でてんやわんや。
・ライアー編で照井が「所長には無理だ」と男役変装させた件、
 所長の安全の為だった旨を説明し和解。
・照井の中の人の撮影思い出話「女性との絡みもありましたし〜etc.」
 亜樹子の中の人「わたしのことですか?!」
 「リリィです」「(´・ω・`)ショボーン」

だめだ、照亜樹の熱愛にばかり注目してしまう

224携帯でエロパロスレに書き込めないのでこちらで:2011/02/08(火) 12:51:16
バレンタインネタに海夏で便乗しようかと思ったら


「〜〜♪」(←チョコ作り中)

「なーつみ、なにしてんだい?」
「あ、大樹さん。チョコ作ってるんです」

「僕の……?」

「はい(真っ赤)」

「嬉しいな…あっ!!」

「え?何ですか?」

「そんな温度上げちゃ駄目だよ!テンパリングは60度くらいか………あー!!いきなり冷やしたら駄目だ!!チョコが分離する!!だからね、夏海。チョコは…………云々」

と、背中からわんわん文句を言ってきて、挙げ句キレた夏海から笑いのツボをくらい笑い倒れる海東が浮かんだ俺………
でも、ちゃんとと完食して夏メロンもいただきます。

よし、後で海夏VDネタでエロ書く!!!

225名無しさんが妄想します:2011/02/08(火) 15:14:49
>>224 海東空気読めwだがそれがいい


海夏DVネタ、と空目して
ヤンデレかと勘違いしたのは俺だけでいい

226名無しさんが妄想します:2011/02/08(火) 20:35:13
>>225
多分、勘違いする人がいると思ったw>DV


まぁ、士→←夏前提で海夏凌辱もネタだけは浮かんでいるがw

227名無しさんが妄想します:2011/02/23(水) 23:10:49
む………なんか、カキコミ出来ないっぽい……

だ……誰か……新しくスレを……!!

228名無しさんが妄想します:2011/02/24(木) 00:41:20
>>227
本スレの話だよね?
板全体が移転したんだよ。

229名無しさんが妄想します:2011/03/01(火) 18:41:54
オンリーで亜樹子本買えてウハウハですよー

そういやエロパロ板>1&>16のテンプレに
「投下終了したら『おわり』だと分かるようにする」旨が書いてないな。
ここで終わりなのか・まだ投下中なのか、状況が分からなくて
感想レス付けられないことあるし、次スレで書き足すか

230名無しさんが妄想します:2011/03/08(火) 23:53:37
また規制くらった……前回は半年だったけど今度はどれくらいだろう orz

>>199
別スレに解凍蜜柑を投げてるのはお前でいいんだよな?
頼む、供養なら本スレかここでしてくれ
あそこじゃレスが入れにくすぎる……

231名無しさんが妄想します:2011/03/09(水) 19:44:12
>>230のおかげで作品投下に気付いた、トンクス

232名無しさんが妄想します:2011/03/10(木) 05:23:37
解凍蜜柑て、上手いこと言うな。てか、美味そうだなww

233名無しさんが妄想します:2011/03/10(木) 23:05:24
結局あっちに投げたみたいだな<海夏

234名無しさんが妄想します:2011/03/11(金) 04:05:27
本スレに投下しない理由がよくわからんな

235名無しさんが妄想します:2011/03/11(金) 12:49:36
未完だからじゃねーの?

236名無しさんが妄想します:2011/03/11(金) 19:46:15
未完にする理由もわからん。
終わりまで考えてるって、書きたいなら書けばいいのに。

237名無しさんが妄想します:2011/03/11(金) 20:55:42
自分もしがない二次SS書きだが、お蔵入りの書きかけブツなら山ほど持ってる
頭の中、もしくはメモ帳にプロットが完全に出来上がっていても
文章力がついていかなかったりして最後まで書き上げられないことは多々あるものなんだよ…… orz


だが、>>199
見ているならせめてあの後のあらすじだけでも教えてくれ!!

238名無しさんが妄想します:2011/03/11(金) 21:32:27
愚痴スレ、裏話スレであれこれ叫んでたよ
住人のアドバイスも要望も無視だし、ひたすら痛いとしか思わんけど

>>237みたいに書けない、書き上げられないってのは判る。お蔵入りさせて一番悔しいのは本人だろうし
でも投げるつもりで他スレ投下は勝手だけど、その前に本スレで需要がマイナーがと誘い受け、
折角興味持ってくれた人がいるのに他スレ投下報告もなしってのはマナーとしてどうかと思う

239名無しさんが妄想します:2011/03/11(金) 21:38:05
投げに投下したのは>>199氏じゃないと思われ(推理)。
根拠はメール欄、199氏は普段なにも書かない

240名無しさんが妄想します:2011/03/11(金) 21:52:20
いや、多分同じ人物だと思う…
文体がまるっきり同じだし

241名無しさんが妄想します:2011/03/12(土) 00:55:13
もうそっとしといたれ

242名無しさんが妄想します:2011/03/12(土) 02:24:01
いくら匿名掲示板でもマナーは大切だよね・・・

243199:2011/03/12(土) 06:19:33
色んな所で騒ぎ立ててしまいすみません。

>>230さん
あの話しの続きの粗筋のほう、別スレに落としてきました。
あれで粗筋と言えるのかどうか、わかりませんが…

今さらですが、230さんのコメ見たとき嬉しかったです。でも、レスしていいのか、書きかけのあれを落としてもいいものか、バカみたいにあちこち書き込んだ揚句、結局どうしたら良いのかわからなくて「あーーーーっ!」ってなってました
正直な所、今書いているこれですら、書いても良いのか駄目なのかわからない有様です
いつまで経ってもこんな調子なら、ここ離れたほうが良いかな思った次第です

最後まで板の皆様に迷惑かけてしまい、どうもすみませんでした

244230:2011/03/13(日) 08:11:42
>>199
トン
細かいレスはそっちに入れとく

245名無しさんが妄想します:2011/03/13(日) 19:46:56
別スレがどこかわかんないよ…

246名無しさんが妄想します:2011/03/13(日) 20:25:48
裏話だ

247名無しさんが妄想します:2011/04/03(日) 20:38:30
とらのあなでメズールとガメル(人間体)の同人誌見つけた

248名無しさんが妄想します:2011/04/07(木) 01:26:34
本スレが士夏祭りで賑わってるうちに自分は規制中なのでここに投げます。
ひじょーにくだらない映司と比奈です。エロなしキスまで。
転載はどっちでも良いです。つまんないと思ったらスルーしといてください。
6スレほど消費。

249映司と比奈:"Love Scene" 1/6:2011/04/07(木) 01:29:05
ショッカーに改造されるシーンの撮影を終えた映司がパンツ一枚の姿でやれやれと伸びを
していると、大幹部役の奇怪なメイクと衣装に着替えた店長が声をかけてきた。

「映司くーん、比奈ちゃん呼んできてくれる?奥の部屋でDVD観てるから」
「DVD、ですか?」
「比奈ちゃんったらライダーのDVDをいっぱい借りてきたのよー、もう何枚も」
クスクスと意味ありげに笑う店長が肘で彼をつつく。
「ライダーの恋人役の勉強したいんだって。映司君もちゃんとラブシーンの練習しなきゃダメよ。
比奈ちゃんも張り切ってるんだから」
「え!?ラブシーン!!??」
驚愕する映司の肩を、後ろから近づいてきた伊達がバシン、と叩いた。
「頼んだぞ火野っ!シーン18!主人公とヒロインのラァーブ・シィーン!」
「なっ!?」
「子供を映画に連れてきたお父さんお母さん達、そして大きなお友達のハートをがっちり掴む
重要なシーンだ!改造される前の主人公とヒロインが熱烈に愛し合うシーンを入れることで
洗脳が解けるシーンが盛り上がる!それにこのシーンが有ると無いとじゃ観客の食いつきが
まるで違うからな!萌えだ、萌えだよ火野!」
伊達はぽかんとしている映司の頭を丸めた台本でポコポコ叩きながら大興奮している。
「しっかり気合入れてけよ!パパとママ達を悶えさせろ!大きなお友達をハァハァさせてやれ!
ハァハァだ!判るか?ハァハァ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!ラブシーンなんてそんな俺、無理ですっ!」
「伊達さーん。お父さんへのサービスなら私の衣装、もうちょっと露出を増やしましょ。ほらこの
胸の谷間んとことか脚とか!何なら私がラブシーンやってもいいわよ〜。私、芸術のためなら
脱ぐわ!すごいのぜんぶ見せちゃうわ!ね?」
「え。いや〜それは。良い子のお友達のライダー映画が18才未満おことわりってのはちょっと」
「それは非常に興味深いお話ですね。相手役はお決まりですか?」
いきなりずい、と顔を出してきた真木が二人の会話に割り込んでくる。

映司にはかまわず三人は何だかんだと議論しながら離れていく。青ざめた顔の映司はそんな
彼らの背中を呆然としながら見送った。

「なによ。ライダーにラブシーンなんか無いじゃない」
ショッカー戦闘員姿の比奈は口を尖らせながらリモコンの停止ボタンを押した。
いくつものDVDを早送りしながら観たが、参考になりそうな場面はまるで無かった。
唯一、数字の名前が付いた黄色い目のライダー映画で仮面舞踏会のような場面がありそこは
うっとりと気に入った。だが求めるラブシーンは見当たらない。
子供番組だから当然と言えば当然だが。しかし子供番組ならではの男女の恋愛の見せ方や
演技の範囲が知りたいのだ。普通のラブシーンなら大人向けのドラマを観れば済む。
「困っちゃったなぁ」
まだ借りてないDVDが山ほどあったはず。誰かどのライダーが恋愛描写が多いのか教えて
くれないかな、などと考えていた時。部屋のドアを誰かが遠慮がちにトントン、とノックした。

「はい?」
「あ、あー。比奈ちゃん、いい、かな?」
「あ、映司君。どうぞ」
恐る恐る、といった様子で映司が覗き込んでくる。
「どうしたの映司君。って、やぁん!映司君っ!服くらい着てください!何でパンツのままなの!」
「あの、知世子さんが比奈ちゃん呼んでて。休憩終わったら次のシーンみたいで」
「はーい……あ、映司君」
「えっ、何?」
「どうしよう、あのシーン。わたし、わかんなくて。どんな感じでやればいいのかな」

250映司と比奈:"Love Scene" 2/6:2011/04/07(木) 01:29:52
「あ、あのシーンって、あ、まさか」
「ラブシーン。DVD観たけどぜんぜん参考にならないんです」
ふぅ、と溜め息をつく比奈。
だが照れたり恥ずかしがっている様子はない。映司よりもまるで落ち着いている。
「あ、あの。俺、俺まだ台本読んでなくて。あ、その」
「もー、映司君っ。大事なシーンなんだからっ。ちゃんと準備しましょうよ!」
むくれ顔でテレビの電源を切り、比奈は立ち上がる。
「じゃ、今からちょっと練習しましょ?」

え!?練習!?いま?ここで?えぇぇっ!と映司はパニックになる。
「あー、比奈ちゃんっ、その」
「なに?」
「その、比奈ちゃんは……平気、なの?」
「何がですか?」
「え、だって。その。ラブシーン、だし」
「やだぁ、映司君。ラブシーンって言ってもキスだけじゃないですか」
「えっ!?」
「もう映司君、エッチ。仮面ライダーでそんな。ベッドシーンとかじゃないんですよ。敵と戦いに行く
映司君をわたしが引き止めるシーンで、キスするだけです!」
「え。あぁー。キス、ね。キスか。そっか」
「やだもう映司君ったら」
クスクス笑う比奈に映司は力が抜けた。そうかキスか。キスだけか、良かった。
って、良かったのか?キスはキスだよなぁ。それにしても比奈ちゃん冷静だなぁ。

「確か、カメラはこっちの角度から撮るはずなんですよね。私達の後ろ」
そう言いながら比奈はいきなり映司の側に近寄り、その腰に腕をまわしてきた。
映司はパンツ姿だが見慣れたのか、今はそれよりキスシーンのことで頭がいっぱいのようだ。
「真横からじゃなくて私か映司君の後ろからカメラが、キスしてるとこ撮る感じ。あ、じゃぁ映司君、
わたしが胸にすがって顔を上げますから。わたしが目を閉じたタイミングで来てくれますか」
「来て?」
「だからキスですってば!」
「はっ、はいっ!」

比奈は映司の胸にすがりいやいやと首を振り「行かないで!」と泣き真似をした。
「で、ここでわたしが顔を上げます。二人が見つめ合うんです」
「はぁ」
「5秒くらい見つめ合って、それでわたしが目を閉じますから来てください」
比奈は目を閉じ、「ん」とあごを上げた。
うわ。ほんとに?ど、どうしよう。いいのかなぁ。あぁでも比奈ちゃん来いって言ってるしなぁ。
うわうわうわ。あーっ!俺どうしよう!
迷いつつも覚悟を決め、ゴクリ、と喉を鳴らし。
破裂せんばかりに高鳴る心臓と共に、彼は言われるがままに比奈にキスをした。

「きゃぁぁぁぁっ!!」
どごんっ!と映司は突き飛ばされた。その勢いでドア近くまで数メートル吹っ飛ばされる。
「だぁぁっ!いたたたっ!」
「ほほほほほ、ほんとにっ、したぁ!!えええぇぇぇぇ!?」
「えっ!なに!?何かマズかった!!??」
「映司君っ!ち、ちがう!キスじゃないっ!これはキスじゃなくてキス・シーン!!」
「え?えっ!?なに、違うの?なにっ!?」
「ほんとにしなくていいのー!真似だけっ!真似だけだよぅ!あぁぁぁ」
「真似?え、真似?」
「カメラ後ろだからっ!映らないから!ほっぺくっつけるくらいでいいのっ!!」
「え、あ。あーーーーーっ!!!」

251映司と比奈:"Love Scene" 3/6:2011/04/07(木) 01:30:29
ようやく理解した映司と、その場にぺたんと座り込み真っ赤になっている比奈。
「ひっ、比奈ちゃんっ!ごめん!」
「ほんとにした。映司君キスした。わたしキスされた。あぁ。映司君とキス。あぁぁ」
しばらく遠い目で呆然と、あるいはうっとりとした陶然とした表情を浮かべていた比奈だったが
急に意識が戻ったようにぶる、と頭を振った。
「映司君っ!!」
「すすす、すいませんっ!」
んーっ!と真っ赤な顔でぷるぷる震えていた比奈の肩が、溜め息と共にすとんと落ちた。
「不意打ちなんて、ずるいです」
「え?」
「なっ!なんでもありませんっ!」

再び立ち上がり、ふくれっつらで比奈は映司を睨む。
「今のは無しです。もう一回、いきますよ。今度はちゃんと。ちゃんとお願いします!」
「はい……」
「こほん。えーっと、わたしが映司君の胸にすがって行かないでって言ってー、顔あげてー、
見つめあってー、はい、ここから」
比奈はまたあごを上げて目を閉じる。だが今度は用心のためか薄目だ。
今度は映司も間違わず、比奈の口元に自分のあごを添えた。
「ん。そんな感じです」

そのまま二人は抱き合い、寄り添う。
「あの、比奈ちゃん。どれくらいこうしてればいいのかな」
「伊達さんがカットって言ってくれるまでだけど、10秒……20秒くらいかな?」
「あぁ、俺、緊張するなぁ!ちゃんとできるかなぁ」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「だってさっき伊達さんがさ、このシーンはお父さんお母さん達のための重要なシーンだから
気合入れろとかって、プレッシャーかけるし!」
「んー、そうなんですか。じゃ、子供だましじゃダメ、ですね」
「え?」
「映司君、もうちょっと、強く抱いてくれますか?ほら、ちゃんとしないと。大人が見てもちゃんと
主人公とヒロインが愛し合ってるってわかるように」
「え。あぁ……こんな感じ?」
「あん」
「比奈ちゃん?」
「……それでいいです。うん。ぎゅ、って。これ、いい」

きつく抱きしめたことで比奈の身体が押しつけられる。
しかも今の彼女は身体にぴったりとした戦闘員のタイツ姿だ。そのやわらかく盛り上がる胸が
映司の裸の体と挟まれてむにゅ、と潰れる。
その感触。すべすべしたタイツの手触り。甘い吐息。伝わる彼女のぬくもり。
腰と背中にまわされ、ぴと、と肌に直接触れてくる比奈の手のひら。
いくら映司と言えどもこれで反応するなというのは酷と言うものだ。

「うっ」
「……どうしたんですか」
「い、いや。何でもないっ!あ、そろそろ。いやもうとっくに!20秒くらい経ったよね!」
「だめ。まだ離れちゃだめ。もっと。練習。れんしゅう……」
比奈は何故かとろんとした瞳と口調で、強く映司の体を抱き返してくる。
極薄のタイツ一枚。彼女にとっては彼にほぼ裸で抱かれているに等しい。
先程の彼との初めてのキス。事故のようなものだったがキスはキスだ。唇に残るそのキスの
感触と薄布一枚だけの身体を、裸の彼に優しく強く抱きしめられているこの状況。
いくら比奈と言えどもこれでとろけるなというのは酷と言うものだ。

252映司と比奈:"Love Scene" 4/6:2011/04/07(木) 01:31:50
「あふ……ん」
「あぁ比奈ちゃんっ!そんな声だしたらっ!お、俺っ!まずいって!」
「何が?」
妙にぎこちなく腰を引いている映司の様子に、比奈も何がまずいのか気づいた。
「……あぁ!や、やだ。映司君ったら。まさか!?」
「いや、いやいやいや!あの!」
わっわっ!やぁん!などと言いながら。だが比奈は彼を抱きしめたまま離さない。

「も、もうもうもう映司君!ベッドシーンは無いって言ったじゃないですかっ!」
「わ、判ってるけど、比奈ちゃんがこんなそばにいたら俺だって!」
「わたしのせい?」
「いや比奈ちゃんのせいって言うかおかげって言うか!あれ?違うな。い、いやだから、俺だって
比奈ちゃんをこんなふうに抱きしめてたら、そりゃ!」
「わたしのせい……」
彼が。あの映司君が。こんなふうになってる。
興奮、してる。そうしたのはわたし。彼をそうさせちゃったのは、わたし。
あぁん。

「ねぇ、映司君」
「はいっ!?」
「やっぱり、その。お父さんお母さん達は、大人の目は。こんな嘘の演技とかただの真似だけじゃ
誤魔化せないと思うんです」
「へ?」
「だからその。もっとキスシーンも、リアルにした方が」

比奈は彼から顔を離し、もう一度その顔を見上げ、また照れくさそうに目を伏せた。
「あの。……最初のキスの方が、リアルでした」
「いやあれは!俺、ほんとに勘違いしてて!」
「もう映司君!大事なシーンだから気合入れなきゃ!伊達さんに怒られちゃいます!」
「そりゃそうだけど!そうなんだけど、でも!」
「映司君」

囁くようにそう彼の名を呼ぶと、比奈は再び顔を上げ、彼を見つめた。
「すてきなキスシーンに、してください」
そして目を閉じる。あごを上げ、微かな期待に震えるその唇を薄く開いて。
「ね?」

映司、ラブラブコンボ発動。
ヒナ!キス!クチビル!などとメダルスキャン時のような絶叫がファンファーレと共に彼の頭の
中に響き渡る。久しぶりのラブラブコンボに彼はあっと言う間に我を失う。こうなった時の彼を
止める手段は皆無だ。彼は人類史上最も危険なコンボ、幾多の人々の道を踏み外させ判断を
誤らせ歴史の転換の原因ともなっためくるめく愛と陶酔の荒れ狂う嵐の中に、命綱なしで自ら
全速力でダイブした。
「ひ、比奈ちゃぁんっ!!」
彼は比奈の体をさらに強く抱き、先程までは引いていた腰を今度はぐりぐりと押しつけまくった。
「あぁ……映司君の……当たってる。あん、映司君、ちがう、ベッド・シーンじゃ、ない……」
「あぁ比奈ちゃんっ!比奈ちゃん比奈ちゃん比奈ちゃんっ!」
「映司君、だめ。キス・シーンだから。キスだけ、ね?いい子だから我慢して。キス、だけ……」

がふう、などと獣じみた息を吐き出しながら彼は比奈のタイツをビリビリ破りたい毟り取りたい、
という欲望を死に物狂いで抑えつけ耐える。そして目の前にあるかわいらしい唇を凝視した。
「い、いくよ。比奈ちゃん!」
「ん。映司、くん……」

253映司と比奈:"Love Scene" 5/6:2011/04/07(木) 01:32:37
「ちょっと比奈ちゃんもうそろそろ撮影始まるわよっ……って。わぁ」
いきなりドアが開き店長が入ってきた。彼女は目の前で抱き合って今まさに唇を重ね合おうと
している二人を見て、嬉しそうに声を上げた。
「あら練習してたの。えらいわね二人とも。でももう次のショッカー大集合のシーンが始まるから、
続きはリハーサルの時になさいね」
「えぁ!ち、知世子さんっ!ちょ、ちょっと待ってください!!」
「やぁん!だって、だってまだ!あぁ映司君、映司くんっ!!」
店長に腕を掴まれて引きずられていく比奈を眺めながら、映司は行き場を失った愛と欲望と
共にその場にへなへなと座り込んだ。

「それじゃリハーサルッ!!いってみよーっ!シーン18主人公とヒロインのラブシーン!」
頼んだぞヒノヒナコンビ!と叫びながら伊達が「スタート!」の声をかけた。

だが今の映司と比奈の二人にはその伊達の声すら聞こえていない。
二人の目に映るのは先程あと少しで届かなかった互いの唇だけだ。
映司はいまだラブラブコンボの中にある。比奈も同様である。二人の激しい愛とキスへの想いは
途中で邪魔が入って寸断されたため、既に暴発寸前にまで高まっている。
二人の間に流れる凄まじい緊張感に、現場はしん、と静まり返った。
本来は比奈が映司に駆け寄って「行かないで!」と抱きつく場面だ。だがぴくりとも動こうとしない
二人に「こらっ!」と叫ぼうとしたが、伊達は今のこの二人を止めるのが惜しくなった。
おぉ!二人ともすげぇ気合いだ。これは屈指の名シーンになる!萌えだ。萌えだっ!ハァハァだ!

映司が声は出さず唇の動きだけで「比奈ちゃん」と呟いた。
比奈も声もなく「映司君」と応える。
二人は動いた。ゆらり、と動き。そして。文字通り互いに相手に、飛びかかった。
ガバ!と抱き合った二人は、互いの唇をぶつけ合うようにそれはそれは激しいキスを開始した。
演技でも真似でもなく、子供番組どころか深夜だろうがテレビの電波に乗ることはまずあり得ない
放送禁止確実の濃厚極まりない熱いキス。いやもうこれは既にキスではない。前戯だ。
二人の口からは「んぐ」「あふぅ」などと生々しい声が漏れ、その手は互いの体を弄りあっている。
比奈は映司を「絶対離さないもん!」とばかりにふんにゅうと抱きしめ、映司は比奈のお尻を撫でる
どころか掴んで揉んで揉んで揉みまくっている。
ここに至ってようやく、見物していた他のメンバーは二人のただならぬ気配を感じ始めた。

「チッ!……まったくあいつら!いったいどういうつもりだ!」
「火野め。演技とは言え、やりたい放題だな」
「舌が入ってますね。演技指導をされたのは姉さ……いやゴホン、店長ですか?」
「あたしじゃないわよー。あーん、でもうらやましい。伊達さーん、あたしにもあんなシーン、追加で
入れてくれないかしら。相手は真木さんでもいいわよ!」
その言葉に失神した真木の横で二人の壮絶な様子に呆気に取られていた伊達が、いくら何でも
これ以上は危険と判断し「カット!カットカット!カットぉ!!」の声をかけるまで。
それでも比奈の唇に食らいつき一向に離れようとしない映司を右から後藤がハリセンで、左から
アンクが飛び蹴りで「いい加減にしろ!」とどつき倒すまで。
映司と比奈は実に6分42秒にわたって熱烈なキスシーンを演じ続けた。

254映司と比奈:"Love Scene" 6/6:2011/04/07(木) 01:33:35
結局、そのライダー映画にあるまじき濃厚なキスシーンは全面カットとなった。
「映司君、ごめんね。わたしの演技がいけなかったのかな……」
「そんなことないって!俺だよ。俺がもうちょっとちゃんとできてたら!」
撮影が終わり誰もいなくなった店の中で二人は並んでしょんぼりと肩を落とす。
だがしばらくすると比奈が映司の服の袖をきゅっとつまみ、うつむいたまま恥ずかしそうに呟いた。
「ねぇ、映司君」
「ん?」
「わたし達、もっと、その。練習が……必要ですよね?」
「え?だってもう、あのシーン無くなったし」
きょとんとしている映司の顔を、顔を上げた比奈はじっと見つめる。
そしてかわいらしく小首を傾げて、その唇に悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「ね?」

映司、ラブラブコンボ再始動。
リハーサル時を遥かに超える熱いそのキスシーンはやがて、台本にはまったくないさらに熱烈な
ラブシーンへと変わる。濃厚にして甘ったるくて見てられないそのシナリオの無い即興劇を誰に
頼まれたわけでもないのに狂乱と共に繰り広げ始めた二人を、残念ながら、そして幸いなことに。
不粋な「カット!」の声で引き離す者は誰もいなかった。


映司と比奈:"Love Scene" ─終


以上です。いろいろお世話になりました。

255名無しさんが妄想します:2011/04/07(木) 21:14:12
>>248いってくる

256255:2011/04/07(木) 21:32:14
終了!

スラップスティックで笑いつつ萌えた
伊達さんのセリフがフルボイスで聞こえてきそうだw

257名無しさんが妄想します:2011/04/07(木) 22:40:54
規制で本スレ書き込めないのでこっちに

職人さんも転載さんもGJ!!

欲望に流されちゃってる映比奈いいよ〜
伊達さんと知世子さんのはっちゃけぶりがたまらんw
ドクターと知世子さんも何気にいい感じ
ホントに台詞が聞こえてくるw

ごちそうさまでした!

258248:2011/04/08(金) 01:16:26
>>255さん代理投下ありがとうございました
読んでいただいた方もありがとうございました
お世話になりました では

259名無しさんが妄想します:2011/04/14(木) 20:54:38
本スレの容量って、何KBまでおk?


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