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新人賞スレッド@避難所

357:2005/11/16(水) 03:48:48
 兄は最近インターネットでこの小説を公開したらしい。兄がトイレに行っている隙にちらりと覗いて見た。案の定、感想は非道い物ばかりだった。口調は優しい物から厳しい物まで、中には面白がっているようにしか見えない発言もあった。それでも、彼らが作品に対しての感想は私の感想と一緒だった。そしてそれに対する兄の応えも一緒だった。まるで噛み合わないのだ。兄にとって自分に都合の悪い意見は一切聞こうとはせず、そして的確なアドバイスでも焦点をずらしてわけのわからない話をする。
 鬱病に限らず精神的障害を持つ者がよく行う、ある種の自己防衛なのだ。ただ兄はちょっと特別で、批判に対してならともかく、参考にするべき意見にも同様に聞こうとはしないのだ。
「あ、おい、何やってんだよ」
 トイレから戻ってきた兄の声に、私はすぐさまインターネットエクスプローラーを閉じ、兄が書いている小説のワードを展開。
「ご、ごめん。お兄ちゃんの作品ちょっと読みたくなったの」
 私は慌てて嘘をついた。兄はモニターを体で隠しつつも、パッと花が咲いたように笑顔になった。
「最近は真理亜もライトノベル読むようになったもんな、オレの作品の面白さがわかるようになってきたんだ」
「……う、うん」
「でも今はダメだ。読みたいっていってくるのは嬉しいけど、今手直している最中だから。ネットでさ、公開して感想もらってここをこうしたらいいっていうアドバイスをもらってさ、それで今直してるんだ。終わったら一番に見せてやるからもう少し待ってくれよ」
「うん、待ってるよ……お兄ちゃん」
 兄は椅子に座るとさぁやるぞ、とわざとらしい声を上げてキーボードを打ち始める。その背中を見ていて私はどうしようもなく悲しくなり、思わず涙が出そうになった。
 兄は、神のように高貴ではなかった。家から出ない兄の肌は病的に白く、そして鬱病の薬の中に食欲増進薬が含まれているため年々太っている。その様はまるで養豚場の豚だ。……それが、そんな人が私の兄だ。毎日手を繋いで小学校に通っていたお兄ちゃんだ。私の嫌いなブロッコリーを母が目をそらした隙に変わりに食べてくれた大好きなお兄ちゃんなのだ。
 どんなにわけのわからない事を言っても、どんなに無様な醜態を晒していても、神貴は私の兄。
 私はパソコンに向かう兄の背に思わずそっと寄りかかった。
「な、なんだよぅ?」
「ごめんなさい。少しの間だけ、こうさせて」
 私は兄に腕を回しそっと抱きしめた。男の独特の体臭と汗の臭いがした。それでも私は抱きしめた。
「どうしたんだよ、真理亜。何か悩みでもあるんなら……う〜ん、この作品が一段落したらオレが聞いてやるよ。だから元気だせよ」
「ありがとう、お兄ちゃん。……大好きだよ。ずっとずっと大好きだよ」




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