したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

新人賞スレッド@避難所

355:2005/11/16(水) 03:47:47
 私には神貴(ジンキ)という名の双子の兄がいる。
 神のように高貴であって欲しい、と願いを込められた名を持つ兄は一日中家に引き籠もり、ずっとパソコンの前にでっぷりと座り、用事がないとまず動こうとしない。髭も剃らない、服も着替えない。部屋はすえた臭いで満ちている。母が注意しても、
「だって人に会わないしさ、問題ないじゃん。家族で他人行事にするのはオレ嫌だからさ、そうだろ、な?」
 そんなわけのわからない理由を口にして、普通なら一日だって耐えられないようなそんな毎日を送り続けているのだ。昔は楽譜も読めないのに音楽がどうのといって、CDを出したらしい。その次はゲームを作るんだと言い出した。結果はどうなのかはわからない。ただ神貴我言うにはオリコン120位に入ったと言い、ゲームはイラストレーターがやる気をなくしたからお流れになったと言った。しかしオリコンは100位以下の曲は関係者でもない限りは知る事はできず、曲も恥ずかしいからと聴かせてもらった事はない。そして私は兄と一緒にゲームを作っているという“友人”とやらに会った事もなければ友人に会いに出かけていく兄の姿を見た事もない。
 近頃はまた方向性を変えた。
「小説家になってみんなを見返すんだ。大丈夫、もう作品送ったしさ、それ凄く自信作なんだ。今月には一次予選の発表だから。もうすぐ真理亜や母ちゃんに楽させれるようになるよ」
 すでに成年を向かえている神貴はまるで鼻水を垂らす小学生のように目を輝かせて私達に言うのだ。音楽もゲームも、最初は『今の自分に対する言い訳』をしているのだと思っていたのだけれど、本当に、彼は信じているのだ。自分は作家になれるものだと。だから音楽もゲームも当人にとっては恐らく本気だったのだ。
 兄は今書いている作品を見せてくれた。自信ありげに、これこそ名作だと自負してモニターを見せてくれた。まだ二章までしかできてないそれは私には理解できない文章の乱列にしか見えない。兄が目指しているのはライトノベルという、いわゆる漫画やアニメなどの小説版みたいなものらしい。少なくとも通常私達が小説と聞いて連想される作品とは形式こそ同じでも、まるで違う内容なのだそうだ。いわゆるヲタク向け、というやつらしい。
「真理亜にはわからないか。そうだよな、普段本を読まないお前にはちょっとわかりづらいよな。うん、ごめんな。これが終わったら真理亜にもわかる作品作ってやるよ」
 兄はどこか得意げに、高鳴る鼓動を押さえきれないように興奮してそう言っていた。きっとまた薬の飲み過ぎだ。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板