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●◎短編小説・曝し場◎●

61イラストで騙す予定の名無しさん:2003/05/25(日) 01:07
 一章

 ――高く囀る鳥の鳴き声で楠田來未は來未は目を覚ました。
 まだ、瞼が重く、眠気が去っていない。ぼんやりとした手つきで枕元にある時計を引き寄せてみれば、まだ四時を少し過ぎた頃合いだった。
 はあ、と一度嘆息してから來未は布団の中に潜り込む。もう一度寝ようと、瞼をゆっくりと落としたが夢の中に入り込む事は出来なかった。
 眠気に襲われてはいたが、何分たっても眠りにつくことはできない。仕方がなく、布団を掻き上げて一度身体を伸ばした。
「またか……」
 声に出して言ったのはもううんざりとしていたからだった。近頃になって随分と早く目が覚めており、眠気に襲われはいたが長い睡眠を取ることはできなかった。当初はそのまま起きており、雑誌を見入ったり、ビデオを鑑賞していたりしたがそれも長く続けば段々と苛立ちに変わってくる。この頃は、精神病にかかっているのではないかと不安にさえ犯されていた。
 來未は一度舌打ちしてから、寝台の横にある窓を開けた。
 冷たい風が吹き付けてくる。呼吸をするたびに白い息が風に遊ばれるようにはいては去っていった。もう春も終わりに近づいたというのに、肌寒さは去ろうとはしない。見上げれば薄紫色の空が辺りを覆い尽くしていた。
 ぱちん、と來未は窓を閉めた。おもむろに近くに掛けられていた制服を取り、それに着替える。はあ、ともう一度嘆息してから部屋を出て階段を下っていった。
 リビングに入れば、母親が録画した調理番組を見ていた。ドアを開ける音でこちらを振り向き來未を見上げていた。
「おはよ……」
「もう起きたの? 近頃随分と早く目が覚めるわね」
 來未の返答を待たずに母親は調理番組に目を戻した。來未もそれには答えずに近くにあった椅子に座り込む。
「ああ、昨日頼まれたノートね。忘れてきちゃった。今ならコンビニも開いてると思うから自分で行ってきて?」
 ぱっと、テレビから目を移し思い出したように母親が言うと、來未は顔を苦くした。
「ええ、めんどくさい。お母さん行ってきてよ」
「自分が必要なものでしょ。自分で行ってきなさい」
 母親は近くにある鞄の中から財布を抜き取る。そこからお札を一枚だして、來未に手渡そうとこちらに手を伸ばしてきた。
「めんどくさいなあ……」
 そう言って、椅子から立ち上がり母親の手からお札を取った。
「気をつけてね――」
「……馬鹿じゃないの。何歳だと思ってんのさ」
 頭ごなしに母親にいいつけて、來未はリビングを出て行き、玄関へ向かった。外に出てみれば、肌寒さが全身に押し寄せてくるほどの冷気だった。
 來未は小走りにかけ始め、家を遠ざかって行く。朝独特の冷たく、静かな空気が辺りにたちこめていた。
 数分、歩き続けもう目の前にコンビニが見え始めた頃、一人の男が目についた。電柱に背中を押し当てながら、じっと誰かを待っているようだ。白色の髪のせいか、顔立ちよりも何処か、年老いて見える。
 周りには男以外は誰もいない。來未はその男に何処か不安感を抱きながら横を通り過ぎようと、足を速めた。


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