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●◎短編小説・曝し場◎●

319アッド・マウンテン 9/10:2005/11/22(火) 02:44:43
「わかりました、君があれで満足できるかもしれないと言うのなら、そうしましょう。し
かし、残念ながら私にはできない。だってそうでしょう、私はあの木の実のところまで手
\が届かない。これは仕方のないこと、約束を破ることにはならないでしょう」
 それを聞いたモモゾウは納得した。
「そうですか、わかりました」
 それを聞いた悪魔はうっすらと笑みを浮かべ、ほっとした。
「じゃあ、僕、自分で取ります。これは目の前に用意されたお皿から料理を取ることと同
じ、当然ですよね」
「そんな、まさか……」
 悪魔はモモゾウを見くびっていた。確かにそのままでは実の所までは届かない。ならば
足を伸ばせばいい、手を伸ばせばいい。そして、もう少し……。
 モモゾウは木の実をつかむと、口に運び、一口、二口……。甘い香りと、とろけるよう
な味。実はなぜか、モモゾウの知っているいつもと変わらないものだった。その瞬間どこ
からともなく日が昇り、モモゾウの知らない夜が明け始めた。
 黒い実は決してその色をしているわけではなかった。染められた色は次第に元に戻って
いく。そうしてモモゾウは気付いた。この実こそが自分の心だということに。
 悪魔は日を受けて次第に消えていく。彼の真っ黒な腹の中にはたくさんの、満足できな
い贅沢が鎖のように連なっていた。それはモモゾウが満足を知ることで、断ち切られた。
悪夢がさめた瞬間である。


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