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●◎短編小説・曝し場◎●

306「カニバリズム」というお題で書かされたもの3/8:2005/03/12(土) 23:14:29
「えーと、人肉が食べられる事例と言うのは世界中どの時代でもありました。一番多いものとして挙げられるのは飢餓時の緊急避難ですね。これは近代に限ってもぞろぞろ出てきます。
アメリカのドナー・パーティ事件は西部移民がシエラネバダ山脈で遭難した奴ですけど、手持ちの食料がそこをつき、空腹から死体を食べることが提案されて、それがなくなると生きている人間まで殺して食べて、二ヵ月後発見されたときには最初の人数の半分しか生き残っていませんでした。
ひかりごけ事件は戦争中の話で、北海道で船が難破して、船員二人生き残って知床岬までたどり着いたけど、寒さでそこの小屋から離れられなくなって遭難、一人が栄養失調で死にもう一人がその船員を食べて二ヵ月後まで生き残ったとされてますし、アンデス上空で旅客機が墜落して、その乗客が死者の肉を食べて生き延びた「アンデスの奇跡」なんてのもあります。これはドナー・パーティとは違って食べるのを拒否して亡くなった人もいたそうですけど」
ここまで言ってからすらすら言える自分にちょっと嫌気がさした。しかしおじいさんは感心した顔で聞いている。
サブカルチャーに明るいパンク漫研部員が補足した。
「ひかりごけはモロ小説名が事件名として定着してるよね。アンデスの奇跡も映画化されてたっけ?」
「うん、確か『生きてこそ』って言うのだったと思う。
で、こういうのは極限状態における人間の葛藤と、人食いという行為自体が衝撃的なんで、ニュースで取り上げられたり、映画化されたり小説化されやすいんで、一般で有名ですね。
だけどこれは厳密に言えば食人嗜好の範疇に入らないものなんですよ」
「ほう、なぜですか、それは?」
「人肉である必要性がないからです。今挙げた例は、飢餓状態に追い込まれたとき最後にあった食料がたまたま人間の肉だったと言うだけで、人が人の肉を味わうという要素がないんですよ。
だけど、人が人を食う事例は食欲を満たすための物だけじゃない。中世ヨーロッパ、古代中国、世界中ありとあらゆるところで文化的風習として、儀式として、あるいは一個人の犯罪行為という場合もありますが、確かに行われているんです。
これはいったいなぜなのか? 重大なタブーとされるにもかかわらず、そこまで人をひきつける理由と言うのはいったい何なのか? 」
「でも、そもそもあんまりタブーとされてなかった事もあるんじゃないかなあ」
そう言い出したのが見た目は清純文学少女、ただし知識とそれを淡々と話せる性格でたいていの人間を圧倒できる歴史研部長である。
「あ、さっき言ってたこと、部長?話して話して」
「あ、うん……」
 部長ははにかみながら話し出した。花びらがその顔の横を舞い落ちていく。


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