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●◎短編小説・曝し場◎●

286空飛ぶ蛸の話 14/14:2004/10/14(木) 22:50
の凧を作成している彼女の姿を。
 それを胸に抱き、公園で飛ばしている彼女の姿を。
 なんとも微笑ましい気持ちになる。
 リスが口一杯に木の実を頬張っている姿を見た時と同じ気持ちだろうか。
 ただ、引っ掛かる部分が多々あった。

「ってぇか、おい、まず警察に通報しようという気にはならなかったのか?」
 尤もな質問に、南田は首を振る。
「喋るのが嫌」
 これもまた、尤もな言い分だった。何しろ彼女は、放送委員にも拘らず、無言で仕事を果たしたのだ。
 それに、警察に通報するというのは億劫であるという気持ちは、僕にも理解できた。
「ならさ、俺らに言えばよかったじゃん。いやいや、いやいやいやいや、それが駄目でも家族にでも言えばよかったじゃんか」
「・・・・・・・・・・」
 沈黙の後、あ、と彼女が手を合わせた。
「おい!」
 良太がつっこんだが、これは南田なりの冗談なのだろう。
きっと彼女は、本当のところ下着泥棒などどうでもよかったんだろう。そうでなければ凧を飛ばしたりといった面倒な方法は選ばない。喋るのが嫌ならメールで良太に知らせればいいだけだ。
 彼女にしてみれば暇潰しだったんだろう。
「・・・・ん? あれ、ちょい待て、ならさ、あの病院の方で飛んでた蛸はなんなんだ?」
 こめかみに指を当てている良太の疑問に答えることはできなかった。
 僕は無論、南田も。
「ん? あれ、南田、知らないのか?」
「知らない」
 良太の期待も無下に裏切る。
「・・そうか。やっぱりあれは、宇宙怪物か」
 僕は窓の外を眺めて、南田は文庫本の栞を取った。
 こうして時間は過ぎていく。

 本来なら表彰状が出るはずだったんだけど、僕と南田は首を振り、良太も僕らが辞退するならという理由で受け取らなかった。

 空飛ぶ蛸の話。
 それに付随した下着泥棒の話。
 結局、僕ら三人しか知らないし、僕ら三人も詳しくは知らない。


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