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●◎短編小説・曝し場◎●

285空飛ぶ蛸の話 13/14:2004/10/14(木) 22:49
したまま小さく頷いた。
 中年男性との距離は三メートル。
 このままでは体当たりを食らう。
 僕は一歩前に出て、南田の位置を意識し、過程と結果を脳裏でシミュレートしてから小さく息を吐く。
 全てが終われば中年男性は目の前にいて、凄まじい形相と迫力でぶつかってきた。
 僕は中腰になって足を前に出す。中年男性はきょとんとした目を一瞬だけ見せ、次の瞬間には脛を蹴られ、前のめりになった。反射的に前に出した腕を僕が掴み、後は身体を横にずらすと同時に腕を掴んだ手を中年男性の足先に触れさせるように下げる。
 結果は思い描いた通りだった。
 彼は半回転して背中からアスファルトに打ち付けられた。位置も思った通り。南田の脇で呻く彼にスカートの中を警戒したのか、南田は三歩だけ下がった。
「ナイス!」
 滑り込みで到着した良太が拳を握り親指を立てた。
 僕は高鳴った鼓動を抑えるのに精一杯で、何も言うことができなかった。

 翌日に至るまでの苦難。
 良太がすかさず警察に通報したおかげで、僕らは下着泥棒と一緒に小さな警察署まで連れて行かれて話を聞かれた。
 初老の警察官と青年の警察官、二人に話をして家に帰り着いたのは午後十時過ぎだった。
 帰り道、僕も良太も南田も無言だった。
 よっぽど疲れていたんだろう。

 翌日。
 授業中、外を眺めていると猛烈な眠気に襲われ、教室内を見回した。良太は机に突っ伏して盛大に眠りこけており、南田は肘をついて手に頭を置き、目を閉じていた。まず間違いなく彼女も寝ている。
「ねえ、どうかしたのう?」
 宮下がいきなり話しかけてきた。
 国語の授業は老婆で、若干の話し声なら黙殺する余裕を持っている。やはり年齢を重ねると寛大さが出るのだろう。
「なぁんか、すごい疲れた顔してる」
「ん? ああ、下着泥棒を捕まえるために奮闘してさ」
 宮下が目を細めて柔らかく笑んだ。
「景品は私の下着だよぉ」
「ああ、頑張るよ」
 そこで宮下がけらけらと笑って、寛大な国語教師に叱責された。
 宮下の頬が少し赤くなった。

 放課後、僕はいつものように帰りのホームルームが終わっても席から離れることなく、外を眺めていた。
 雲は分厚く、今にも泣き出しそうだ。
「にしてもさぁ、昨日はびびったよなあ。いや、いきなり蛸が二体も現れやがってさ、俺は、取り敢えず近い方に行こうと思ってさ、向かったんだよ。そしたらマンションの手前で釣竿を折り畳んでる奴がいてさ、そいつポケットに下着とか突っ込んでて、慌てて追っかけたんだよ。そしたらお前らがいて・・・・そういや、お前らは何してたんだ?」
 昨日、警察署では一人ずつ話をした。しかも帰りがけは話をしなかったのでお互いのことはまるで分からない。
 僕は今の良太の告白で、昨日、彼が中年男性を追っかけていた理由を知った。
 僕はちらと南田を見る。彼女は文庫本を開いて目を落としている。自ら何かを語るつもりはないらしい。
「僕も、良太と変わらないな。凧を見て、駆けつけて、そこに南田がいて、そうしていたら下着泥棒と良太が現れた」
 良太が、ふうん、と気のない返答をした。
 まあ、僕の話では何も分からないのだから仕方がない。僕が南田に目をやると、良太も同じように南田を見た。
 二人に見つめられて南田が本に栞を挟む。
 閉じられた本の代わりに開かれた口が、全てを明らかにした。

「まず蛸の話を聞いた。翌日、マンションの前で釣竿を伸ばしている不審人物を見つけた。部屋に戻ってベランダを覗けば干していた下着がなくなっていて、犯人と方法が明らかになった。あなたたちが蛸を探すために屋上から見張るという話を聞いていた。急いで蛸の凧を作って、公園で飛ばした。うまくいけば犯人と鉢合わせて捕まえてくれるかもと思った。翌日も犯人を見かけて同じことをした。結果、犯人は捕まった。めでたしめでたし」

 僕は想像する。
 部屋に帰り、ベランダを覗いて下着がなくなっているのに気付いて、いそいそと蛸の形


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