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●◎短編小説・曝し場◎●

284空飛ぶ蛸の話 12/14:2004/10/14(木) 22:48
から同じ景色を見てどれに向かうか悩んでいるだろう、だから僕も。
「ん?」
 そこで、ふと思いつく。
 学校から最も近いのは公園だ。でも昨日、学校から全速力で公園に駆けつけても誰もいなかった。そうなると犯人、というか凧を上げた人間は、逆方向に逃げたんじゃないか?学校の逆方向なら、マンションから向かえば鉢合わせる可能性がある。あんな大きな凧を抱える人間だ、一目でそれと分かる。
 僕は選択する。
 目指すべきは公園だ。良太も最も近い公園を選択してくれていると踏んで公園を目指すのが、最も効率がいいように思える。
 正面のマンションを滑り落ちた影はなんなのか判然としない。背後の影は病院付近で道は入り組み、飛ばしている場所も判然としない。消去法でも残るのは公園だ。
 僕は脱兎のごとく階段を駆け下り、叫ぶ喉、痛む肺、引きつる足、それら全て、肉体の上げる悲鳴を悉く無視した。
 マンションを出れば三十分ほども眺めていた甲斐あって最短距離を選択できる。車の往来激しい大通りを駆け抜けて途中から細道に入り、路地を横切れば公園に出る。
 大通りでは自転車に乗ったおばさんとぶつかりそうになった。細道では並んで歩く小学生とぶつかりそうになった。路地を横切る時、段差に気付かず前のめりになった。
それでも五体満足に公園まで辿り着けたと思ったら、最後で失敗した。
「きゃっ」
 聞こえたのは小さな悲鳴だった。
 フラッシュバックを体験した。また誰かにぶつかったのだ。まともに。正面から。でも今度は体重の差か、吹っ飛ぶことはなかった。吹っ飛んだのはぶつかった相手の方だった。
 つまり、悲鳴を上げた誰かさん。
「あ、あ、す、すいませんっ」
 息も切れ切れ、必死の思いで言葉を吐き出して差し伸べた手の先には、南田がいた。
「あ、は? え?」
 南田は体育座りみたいな格好をしている。五センチほど背中を上げてかろうじてアスファルトにつかないようにしているけど、両手はしっかりとアスファルトについていた。
 その脇に落ちている蛸の形をした凧。
「あ、あ? ん?」
 理解が追いつかない。認識がままならない。
 南田がスカートで太腿を隠してから僕の手を握った。
 状況に流されて引っ張る。
 立ち上がった南田はスカートを払い、髪を整え、凧を拾い上げて両手で抱えた。
「痛かった」
 南田の目が僕の疲れ果てた目を射抜く。
 一瞬で疲労が吹っ飛んだ。南田の冷静さが僕に憑いたかのようだった。
「南田、なにしてるの?」
 口をついて出た言葉は返答を期待したものではなかった。ただ聞いただけ。だから答えがなくても気にならなかった。
「痛かった」
 南田はその一言を繰り返した。
 なるほど、僕は彼女に言うべき言葉を見つけて頭を下げる。
「ごめん、悪かった」
「うん」
 南田が微かに笑んだ気がしたけど、余韻に浸ることは不可能だった。
「だぁ! おい、おいおい! 下着泥棒だ、捕まえろ!」
「はぁ?」
 聞こえた声に怪訝としていると、公園の中、出入り口を良太が駆け込んできた。その先、五メートルくらいの位置を黒っぽいコートの中年男性が走っている。
「あ、昨日の人だ」
「あ、下着泥棒だ」
 僕の言葉と南田の言葉が重なった。
「へ?」
 聞き返す僕に、南田は答えない。代わりとばかりに中年男性を指差した。
 中年男性は必死の形相で走っている。低い植木を飛び越えて僕らの方に向かってくる。といっても、向かう先が僕らの背後の路地しかないのだ。
「おうい! おい、おいおいおい! 捕まえろってマジで! 下着泥棒なんだよ!」
 低い植木を飛び越えた良太が叫ぶ。彼の髪は乱れ、汗が散っている。いくら寒くても学校からここまで走ればそうなるだろう。
 中年男性は帽子のせいで髪は乱れていないが、公園の証明に照らされ、皺だらけの顔を覗かせている。垂れた目と厚ぼったい唇も見ようによっては愛嬌があるが、下着泥棒というレッテルを与えられれば醜悪でしかない。
「えっと、本当に下着泥棒?」
 隣の南田に訊ねると、彼女は中年男性を指


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