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●◎短編小説・曝し場◎●

282空飛ぶ蛸の話 10/14:2004/10/14(木) 22:47
ずの顔で良太を見ている。
「だからだな、昨日のあれだよ!」
 僕には良太の言葉の意味が分からない。素直に首を捻ると、良太は大きく息を吐いた。
「だからだなぁ、まず犯人は、どっか高いビルにでも上るんだよ、そんでだな、釣竿、釣竿でどっか高い、普通なら狙われない下着を引っ掛けて、後はフックを引いて奪いとりゃいいんだよ」
「? ふん」
 それがどう凧に繋がるのか理解できずにいると、またも良太が溜息を吐く。
「だからぁ、下着を引っ掛けて、しなった竿が慣性の法則に従って弧を描くだろ。つまり、下着が高いとこを飛ぶんだよ。その様が夜の闇に紛れて、蛸みたいな形に見えたんだよ」
「・・・・うぅん?」
 頭にその様を思い描くが、どうも不明瞭であやふやだ。しかも説明しているのが良太ということで更に鮮明さを帯びない。
 不意に南田が立ち上がった。
「あん? なんだどうした?」
 話の腰を折られた良太が怪訝そうにするが、南田は取り合う隙を見せない。伸ばした背筋をそのままに黒板へ向かうと、白の短いチョークを持ち、なにやら描き始めた。
「ふい? なんじゃ?」
 僕も良太も黒板を見つめる。
 南田の白に近い色の手は、まずパンツを書いた。そのパンツの両端にブラジャーの紐を四本ずつ付けた。更にパンツの両端からは線が伸び、その線は黒板の端まで行き、その線は釣竿に繋がっていた。二又の糸を伸ばしている釣竿。
 それで終わりのようで、南田はぱたぱたと上履きを鳴らして椅子に戻った。
「・・ああ、なるほど」
 その絵を見て、僕は頷く。確かに、見ようによっては蛸のように見えるかもしれないという気になった。
「そう、そう、それを言いたかった」
 良太も絵を称えている。
 僕らの反応に南田が小さくガッツポーズをとったが、その件に関しては触れずにおいた。
 やはり南田、侮れない。
「でも、双眼鏡で確認したんだろ?」
 僕が昨日のことを思い出して言うと、良太は乱暴に頭を掻く。
「まあ、そうだが、暗かったからな。白い糸は見えたんだが、凧は暗い塊にしか見えんかった。ってことで、盗まれた下着は黒、お姉さん系の人のものだな」
「・・・・・・そうか」
 駄目だ、本当に良太が可哀相に思えてきた。
 それからしばらく、僕と良太の間で雑談がなされ、そうこうしていると空が真っ赤に染まり、南田が無言のまま教室を出て行った。
 南田に遅れること十分、僕らも教室を出て職員室に寄って学校を出た。
「いや、ふと思ったんだが」
 それは緩やかな坂道を下っている時だった。
「その下着ドロ、どうする?」
 良太は何気ない調子で聞いてきた。
「どうするって・・何が?」
「何がって、だってよ、その下着泥棒の手口を知ってんだぞ、俺ら。そうなるとやっぱ、なんかせにゃならんだろ?」
「ん? ううん」
 そういうことになるんだろうか。
「でも、本当にそうなのかっていうのは分からないんだろ? それじゃあ、警察にも通報できないだろ」
 とは言ったものの、実際は警察に話をするのが億劫というか、面倒臭いという思いの方が強かった。
 むう、と良太が唸っている。
 僕はそろそろ良太と別れる道が近づいているのを悟り、どの辺で話を切り上げるべきかに思いを巡らせていた。
「そうなるとやっぱ、自力かぁ」
 途方もなく嫌な予感がしてさり気なく歩を速めたが、無駄に終わった。
「よし!」
 いよいよ訪れた分かれ道、そこで『じゃあな』という言葉を自然に吐こうとしたその瞬間に、良太が決意を迸らせた。
「南田や宮下まで被害に遭ってんだ、いっちょ俺らが捕まえるか!」
 顔に笑みこそあるものの、本気であることは明白だった。良太はそういう奴なのだ。頭の螺子が弛んでいるのではなく、螺子の構造からして違っている。きっと彼の螺子は螺旋ではなく十字を描いているんだ。
 無論、退屈を持て余す僕に、断りを入れる手段などなかった。

「方法はこうだ。俺は学校、お前はその辺の屋上から凧を探す。その凧が現れたら俺はお前に、お前は俺に連絡を入れる。と同時にその凧の場所を探し出して駆けつける、犯人を


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