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●◎短編小説・曝し場◎●
281
:
空飛ぶ蛸の話 9/14
:2004/10/14(木) 22:44
錯覚した。
「形は蛸だった。しかし妙だった。あれは明らかに、先日に見たものと形が違っていた。だからぴんときた、あれは偽者だ、と。きっと蛸を見た奴が模倣したんだろう。そう思うと怒りが込み上げ、犯人を見つけてやろうという気になった」
なるほど、突如として走り出した理由はそれだったのか。ならば僕は怒りに付き合わされたということか。
やっぱり人の気持ちなんて分からない。
「ま、結局、犯人を見つけることなんてできなかったけどな」
語り終えた良太に対して南田の感想は、そう、という一言だけだった。
てっきり良太が激昂するかと思ったが、もう慣れたものなのか、肩を竦めるに留まった。
僕は窓の外に目を向けた。
夕焼けにはまだ早い。青空は白い雲のせいで切れ切れになり、太陽の姿も今は見えない。陽光が差し込まない教室は蛍光灯の白々とした光に照らされ、運動部の掛け声だけを招き入れている。
「そういえば」
別に言うようなことでもないけどと思いながら言ってしまうというのは、結局のところ言いたいだけなんだろう。
「宮下が下着泥棒に遭ったらしいよ」
「うぇ?」
奇妙な声を上げたのは良太で、教室を振り返れば良太は僕を凝視し、南田も文庫本を閉じて僕を見ている。
どうやら興味深い話題らしい。
「いや、詳しい話は知らないけどね」
僕が前置きとして言うと、良太は露骨に大仰な溜息を吐き、椅子の背凭れを最大限に利用した。
まあ、良太らしい反応だから怒りもない。
南田は真摯な目で僕を見ている。
「十五階建てマンションの八階のベランダに干してあったらしいけど、盗まれたらしいよ」
「犯人はスパイダーマンか」
良太がさも興味もなさそうに答えた。僕は溜息を吐き、南田は完璧に無視する。
「宮下さんの家ってどこなの?」
「さあ、分からない」
「なんだよ分かんねーのかよ」
はぶてている良太が揶揄したが、南田はどこまでもマイペースだ。
「私も盗まれた」
良太が盛大に噎せた。
突拍子のない告白に僕も少なからず驚いた。目を見張って、飄々としている南田を注視してしまった。
やけに長い間の後、かろうじて平静を取り戻した良太が笑い出す。
「はは、ならお前、今はどうしてるんだ?」
「ノーパン」
世界が止まるかのような衝撃を受けた。
多分、良太にしてみれば場を和ますための、どうということのない野次か揶揄のつもりだったんだろうけど、それも全て南田の一言によって崩壊した。
僕は外を見たい欲求に駆られたけど、動くことができない。良太は目を丸くして、口をぱくぱくとさせている。
「うっそーん」
長い沈黙を破ったのは南田の一言だった。
僕は漸く外を見て、良太が盛大に溜息を吐く。南田に変化はない。
「お前なぁ、いやいや、いやいやいや、そういう対応に困る冗談はよせ、マジで、なあ、すっげー困るから」
それでも南田に変化がないということは、止めるつもりはないということだろう。
僕は少し赤みが差してきた空を見つめた。
まさか僕の気紛れの話題提供がこんな形で帰結するとは思いもしなかった。
侮りがたし、南田。
「はぁ、ったく、やれやれ」
良太の呆れ混じりの溜息が聞こえる。
「んで、お前が下着を盗まれたってのはマジなのか?」
南田は答えなかったが頷いたのが分かった。
「ふぅん、んで、お前ん家もマンションか?」
「七階建ての五階」
「? ベランダに干してんのか」
ちらりと振り向けば南田が頷くのが見えた。
「ふぅん。っつーか、んな場所に干してんのにどうやって盗むんだ? ベランダを這い上がって盗んでんのか?」
「さあ」
さあ。素晴らしい言葉だ。僕が感動していると、良太が手を打った。
「分かった!」
取り敢えずという気持ちで目を向ける。良太は会心の笑みを披露していた。
「凧は、下着だったんだ!」
「? どういう意味だよ」
良太が僕に身体を向ける。南田は相変わら
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