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●◎短編小説・曝し場◎●

279空飛ぶ蛸の話 7/14:2004/10/14(木) 22:40
まで厭わないわけじゃない。
 いくら頑張っても、良太と南田のいる教室で時を過ごすどまりだ。
 それなのに今、僕は走っている。
 顔を赤くさせ、獣のように息を吐き、鉛と化していく身体を疾走させて良太の背中を追っている。
 何でこんなことになったのやら、という疑問を堂々巡りにして十字路を曲がった瞬間、衝撃に襲われた。
 時が停止しているのに僕だけが動いているような錯覚。僕は後ろに倒れた。スローモーションの世界で倒れ、尻餅をついた。
 その刹那、時が動き始める。
「うわ、おい、なにやってんだよ!」
 先を走っていた良太が立ち止まり、振り返った。それは僕が聞きたい。
「大丈夫ですかっ?」
 良太が何かを支えている。
 黒色のコートを着込んでいる中年男性の姿に、僕は全てを理解した。全てといっても、僕が男性にぶつかってしまったという、それだけだ。僕は慌てて立ち上がり、腰を曲げている男性に駆け寄る。
「すいません、大丈夫ですか?」
 やや横に太い男性は、ああ、ああ、と煩わしそうに頷いた。僕は頭を下げる。すいません、すいません。男性は、ああ、ああ、と面倒そうに言いながら早々と歩き出した。
 その背中を見ていると、良太が、おい、と荒々しく呼びかけてきた。
「ん?」
「急げ!」
 そう言って良太は再び走り出す。というか、彼も僕のことを重んじてはくれていたらしい。そのわりに軽々と僕を置いていくけど。
 僕は仕方なく駆け出す。止まったせいで身体が非常に重く感じたけど、ここまで来て置いていかれるわけにもいかない。僕は半ば自棄になっているのだ。
 またも流れ去る景色。
良太が足を止めたのは、公園だった。
「ここだ、間違いない」
 どう間違いないのか定かではないが、僕はおとなしく良太の隣に並んだ。
 滑り台とブランコが暗闇に溶ける正方形の公園、そこは狭く、四角形の一辺に背の高い木が植えられている。多分、砂場もあるんだろうけど、今は見ることができない。
 僕は痙攣している胃を感じながら現場らしい公園を観察した。
「・・なあ」
「なんだ」
「・・ここ、何があるんだ?」
 それこそが僕の聞きたいことで、最も気になるところだった。
 良太は公園を直視したまま答える。
「糸がついてたんだ、あれ」
 やっぱり、という言葉を吐こうとしたけど、咳き込んで失敗した。
「見たとこ、ここだったんだが・・・・くそ、いねえな」
 確かにいない。
 公園には人の気配などないし、それ以前に周囲に人の気配がない。もう空は暗く、呑気に出歩く時間帯ではない。それに気温がプラスされたんだろう。
 普段なら僕も出歩かない。
 大きく深呼吸をする。漸く呼吸が落ち着いてきた。まだ苦しいけど。
「随分と早いな、畜生、追われてるのが分かってるみたいだ」
 相手が本当に飛来してきた火星人ならば納得するが、糸のついた凧を飛ばしているとなると話も変わってくる。
 なんと答えたものか、僕は黙りこくった。
 空を見ればいつの間にか、当然といえば当然だが凧の姿はない。いつ消えたのか、今となっては分からないことだった。
「しゃーない、帰るか」
「妥当だな」
 その日、僕らは結局、火星人なのか凧なのかも明確に判別できないまま家路についた。
 どうやらこの件は尾を引きそうだった。

 翌日、学校にて。
 僕はいつも通りに過ごすつもりだったけど、二時限目の数学が教師の風邪で自習となり、眼鏡で髪の薄い痩躯を見ずに済んだことによっていつも通りとはいかなくなった。
「もう、最悪だよう」
 隣の席の宮下が唐突に愚痴った。
 良太は男子グループの中で騒いでいるし、南田は文庫本に目を落としている。周りの席の男子女子はそれぞれ前後ろ又は隣と話していることから予測するに、彼女は僕に対して話しかけているらしい。
「どうしたんだ?」
 長い黒髪という印象しかなかった宮下に、リップを塗った唇という印象が加わった。


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