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●◎短編小説・曝し場◎●

277空飛ぶ蛸の話 5/14:2004/10/14(木) 22:34
 僅かな動揺を押し殺して頷く。
「昨日、良太に連れられて、その問題の細道に行ったんだよ。そうしたら、本当に八本足の影が現れたんだ」
 一度目、確認のために空を見た時、凧の姿はなかった。しかし二度目、なんとなく空を見上げれば、そこには凧の姿があった。短時間で出現した時には流石に驚いたけど、でも凧なら簡単に飛ばせる。
 僕の説明に、南田は微かに頷いた。
「おい、まさか南田まで凧だと思ってるのか? 違う、違うぞ、あれはそんなもんじゃない。大体、凧糸なんて見えなかっただろ」
 良太が必死に反論した。
「いや、あれだけ暗ければそりゃ見えないよ」
 良太の反論を潰すと、南田が閉じた文庫本を机に置いた。口を開きかけた良太がすかさず黙り込む。良太もまた、南田に圧倒的な迫力を感じているんだろう。
「その凧、八本足だったの?」
 南田の発言は、妙な点に着目していた。
 思わず顔を見合わせる僕と良太をよそに、南田はどこまでも無表情を崩さず、返答を待ち侘びている。
 ああ、と良太が頷いた。
「確かに八本足だった。一回目も二回目も、間違いない。そうじゃなきゃ蛸なんて言わねえよ」
 そう、と南田が頷く。
 その後に何か言うのかと思ったら、南田は文庫本を手に取り、広げ、栞を取った。
「って、そんだけかよ!」
 良太のつっこみも理解できた。実際、僕も同じ言葉を胸中に抱いたのだ。
 それでも反応のない南田に見切りをつけた良太の顔がこちらを向く。僕は激しく外を見たい欲求に駆られたが、溜息で欲望という名の逃避を薙ぎ払った。
「よし、今日も行くぞ」
「今日も? どこへ?」
 敢えて忘れたふりをして否定的な意思を主張してみたけど、無駄だった。
「どこって決まってんだろ! あの蛸の細道! 今日こそ正体を見極めるぞ!」
「・・・・ううん」
 蛸の細道って名称はいかがなものか、という非常に物議を醸しそうな難題はさて置き、僕は心持ち首を捻る。
「それなら、どこか高いところの方がいいんじゃないか? あそこだと、昨日みたいに見失う可能性が高いと思うけど」
「む?」
 それもそうだな、と良太が腕を組む。
 南田を見れば、文庫本に目を落とし、活字が浮かび上がらせる世界を読み取ろうと熱心になっている。否、見た目はいつもと同じだけど。
 さっきの発言は、もしかしたら彼女なりの気遣いだったのかもしれない。こんなに熱心になっている良太への、些細な興味を覚えている、ということを伝える気遣い。そうすることで良太の気持ちを白けさせることを避けたのかもしれない。
 なんて、完全に僕の想像か。
 ただの気紛れだったんだろう、きっと。
「よし」
 数学の点だけがやけに高いと噂の良太が、熟慮を据えた末、結論を出したらしい。腕を解き僕を見て、頷く。
「ここに残るぞ」
 それは名案、とは言わない。
「この学校の部活は遅くまでやってるからな。特にバレー部は何を頑張ってんのか、八時ぐらいまでやってるらしい。学校が閉まるまで屋上にいたって問題ないだろう」
 いや、ある。僕は溜息を吐く。
「屋上って、開放されてたっけ?」
 良太は中空を仰ぎ、思案する。
「・・さあ、どうだったか」
「駄目じゃん」
 言ったのは南田だった。唖然とする僕と良太を置いて、南田は教室を出て行った。
「・・・・あいつのキャラクター性がまるで分からん」
「同感」
 僕が頷くと、教室に静けさが満ちた。
 窓の向こうから運動部の掛け声が聞こえてくる。小さく車の走る音も聞こえた。耳を澄ませば南田の呼吸音も聞こえそうだと思ったけど、信じてはいない。思っただけだ。
「さて、屋上に行くか」
「諦めてなかったんだ」
「ん?」
「行くか」
「おう」
 僕らは教室を出て、良太が教室の戸締りを確認して出入り口の鍵を閉め、その鍵を職員室に届けてから屋上に向かった。
 暇なのは確かだけど、だからといって寒空の下、凧に違いない、なのに良太が蛸と主張


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