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放課後の吸血鬼

90妖怪に化かされた名無しさん:2020/03/20(金) 22:03:45
「真紀ちゃんはまだマシよ。その直後に理性を持ったんだから。でも、だから、真紀ちゃんは苦しんだのよ、後悔したのよ、悲しんだのよ、自分が人を殺してしまったって。そしてあたしは、真紀ちゃんに償いの方法を教えたわ」
魅子は軽く顔を伏せ、視線をキョロキョロと彷徨わせる。
「妖怪ネットワークってのはね、妖怪が人間社会で暮らす為の互助組織よ。決して正義の味方だの警察だのじゃないわ。
 そりゃ、あたし達『暁学園』には『黄昏学園』なんてロクデナシの敵がいるから、無辜の人々を守る為に戦う事だってあるわ。
 でも、ねえ美樹ちゃん、不思議に思わない? あたしたち『転校生』が引っ越すのは、正体がばれたり戸籍を変えるときだけでしょ? 実際、美樹ちゃんだって、引っ越すのは正体がばれたときだけだったでしょ? でも、真紀ちゃんは頻繁に引っ越している。
 それに今回みたいな”捕り物”への参加って、近くで起きた場合だけで、しかも普通は出張るだけでしょ? 今回みたいに。
 でも、真紀ちゃんは違う。真紀ちゃんはね、もっと積極的に狩りに行くのよ、遠方だったら引っ越しまでして」
目だけで周囲をぐるりと見回し、魅子は問うように美姫を見る。
「え、それって、まさか」
「ええ、そうよ。真紀ちゃんはね、暁学園でも妖怪退治を専門にしているのよ。
 あたしが真紀ちゃんに教えた贖罪の方法がそれよ。人を殺めたのなら、その分人を救いなさいって。
 あの娘はね、必死になって償いを続けたわ。何度も転校してその度に友達を失って、度重なる戦いで何度も死にかけて、正体がばれて迫害されたことだって数え切れない程あるわ。それでも必死になって、妖怪退治を繰り返したわ、人間を救う為に。
 あたしはね、苦しんでいる真紀ちゃんを救う為に、別の地獄に叩き落としたのよ」
魅子は悲痛な面持ちになり、スウッと息を吸い込む。
「あの娘は、もう何百人も救ってる。充分償いはしたじゃない! もう、許されたっていいじゃない!」
顔を上げて叫ぶ彼女の目の端に、ジワリと涙が浮かぶ。
「17年経って、逃げた妖怪が生まれ故郷の近くに来たから、ひょっとしたらこの学校に来たら真紀ちゃんは罪の呪縛から解放されるかもしれない、そう考えたわ」
今度は哲晴に向き、次いで視線をふらふらと彷徨わせる。
「中沢君、真紀ちゃんが君に出会えたとき、本当にチャンスだと思った。正体を知っても好意を持ってくれる人間、無理矢理血を吸われても仲直りしようとする人間。きっとそれが真紀ちゃんを救ってくれるって思った。
 でも、貴方は真紀ちゃんの秘密を知って、拒絶した」
グッと苦しげな表情を浮かべ、サッと視線を逸らす哲晴。
「魅子先輩。こんな奴ほっといて、早く真紀先輩を助けに行きましょう」
美姫はいつもの微笑みで固まった表情を捨て、真剣な面持ちで、辺りをキョロキョロする魅子を見る。
「そうは、いかないのよ。その辺にアイツが潜んでいるからねっ!」
魅子が不意に腕をサッと振ると、ポウっと輝く障壁が三人を包む。と、ガキィンと何かが弾かれて障壁と相殺される。弾かれてバラバラに砕け散ったのは、三日月型の透き通った材質の刃だった。
「なっ!」
美姫がサッと険しい顔をして、パッと刃の飛んで来た方に向き直る。その動きで揺れた長い髪が、下からの風を受けたかのように不自然にフワッと浮かび上がる。
「あーら気付かれちゃった。その子の首も、もらいたかったのにな」
廊下の暗がりの中からスウッと一歩踏み出したのは、一人の女子児童だった。白いブラウスに赤いスカート、その左手には緋色のゴム鞠、右手には水の入ったペットボトル、そして首から上は闇に消えている。
「う、うわああああぁぁぁぁっ!」
クスクスと笑う首無しの少女を見て、哲晴が魂消た悲鳴を上げ、ドッと尻餅をつく。
「真理華ぁっ」
怒気を殺気を凶気を孕んだ声で、魅子は首無し少女をギンと睨み付ける。美姫は、人の顔とは表情のみで悪鬼羅刹のそれに変わり得るのだと知った。


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